第 23回APEC 財務大臣会合について 1.はじめに 泰夫 APEC 財務大臣 APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation: 会 合 は、1993 年 アジア太平洋経済協力)は、アジア太平洋地域の に米国シアトルで 21 の国と地域(エコノミー)が参加する経済協 開催された APEC 力の枠組みである。APEC には、日本のほか、中 非公式首脳会議に 国、韓国、インドネシア、タイ等のアジア諸国、 1.はじめに おいて、マクロ経 米国、カナダ、豪州、ロシア等が参加しており、 済や資本フロー等 APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation:アジア太平洋経済協力)は、アジア太平洋 経済規模で世界全体の GDP の約 60%、世界全体 の幅広い経済問題 の貿易量の約 50%を占めるエコノミーが一同に を討議するため、 地域の 21 の国と地域(エコノミー)が参加する経済協力の枠組みである。APEC には、日 本のほか、中国、韓国、インドネシア、タイ等のアジア諸国、米国、カナダ、豪州、ロシ 介し、アジア太平洋地域の持続可能な成長と繁栄 創設されたことに始まる。第 1 回財務大臣会合が ア等が参加しており、経済規模で世界全体の の約年60%、世界全体の貿易量の約 50% に向けて、貿易や投資の自由化、ビジネスの円滑 GDP1994 3 月に米国ホノルルで開催されて以来、 化、経済・技術協力等の活動を行っている(図表 これまでに 22 回にわたって開催されている。 を占めるエコノミーが一同に介し、アジア太平洋地域の持続可能な成長と繁栄に向けて、 1 参照) 。 本年はペルーが APEC の議長を務めており、第 貿易や投資の自由化、ビジネスの円滑化、経済・技術協力等の活動を行っている(図1参 照) 。 図表 1 APEC メンバー(全 21 エコノミー) APEC 財務大臣会合は、1993 年に米国シアトルで開催された APEC ファイナンス 2016.12 非公式首脳会議にお13 SPOT 国際局調査課長 高村 23 回 APEC 財務大臣会合は、10 月 15 日、アルフ うな環境下において、強固で、持続可能で、均衡 レド・トルネ経済・財政大臣を議長としてリマの ある、かつ包摂的な成長を達成するためには、全 リマ・コンベンション・センターで開催され、我 ての政策手段―金融、財政及び構造政策―を個別 が国からは木原財務副大臣が出席した。21 のエ にまた総合的に用いる必要があるとの認識も共有 コノミーの財務大臣等のほか、IMF の古澤副専務 。 された(共同声明パラ 3 参照*2) SPOT 理事、世界銀行のホルヘ・ファミリア・カルデロ 為替政策については、通貨の競争的な切り下げ ン副総裁、OECD のアンヘル・グリア事務総長、 を回避し、あらゆる形態の保護主義に対抗し、競 ABAC のフアン・フランシスコ・ラフォー議長 争力のために為替レートを目標としないことと、 等が出席し、活発な議論が行われた(参考参照) 。 為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済 以下、会合の概要を紹介することとしたい。 及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることが *1 2.会合の概要 (1)世界経済及び地域経済、金融市場の 見通し 再確認された(共同声明パラ 4 参照)。 また、会議に先立って前日に行われたリトリー ト(各エコノミーの財務大臣等と国際機関の代表 のみが出席)では、 「構造改革の経済成長に対す 会議の冒頭のセッションでは、APEC 地域が、 る効果と重要性」をテーマに、各国における過去 商品価格の低迷、変動の大きい金融市場環境、保 の構造改革の取組みや、現在必要な構造改革につ 護主義的な考え方の台頭に伴う貿易の減速といっ いて率直な意見交換が行われた。木原副大臣から た複雑な課題に直面しており、地域の経済成長は は、日本の構造改革の取組みとして、少子高齢化、 減速しているとの認識を共有した。また、このよ とりわけ、最近の働き方改革について紹介した。 会議場での木原副大臣 右から株丹駐ペルー大使、トルネ・ペルー経済財政大臣 *1)ABAC(APEC ビジネス諮問委員会)は、1995 年の APEC 首脳会議(大阪)において、首脳の指示により設 立された APEC の民間諮問委員会であり、域内の貿易・投資の自由化・円滑化を達成するために必要な政策につ いて、域内のビジネス界の意見をとりまとめ、民間の立場から提言を行っている。 *2)APEC 財務大臣会合共同声明については、財務省ホームページに掲載。 14 ファイナンス 2016.12 第 23 回 APEC 財務大臣会合について (2)2016 年 APECの優先議題 利益移転)に関するG 20/OECD の包摂的枠組み 昨年取りまとめられたセブ行動計画の中で、 の設立を歓迎するとともに、クロスボーダーでの 2016 年の優先議題とされた①インフラ投資の促進 投資信託等の販売を促進するアジア地域ファンド (PPP ナレッジポータルの開発促進) 、②金融包摂 パスポートに関する今年の進捗を歓迎した。木原 政策の強化、③災害に対する金融強靭性の向上の 副大臣からは、BEPS に関して、まだ参加してい 3 議題について議論するセッションが行われた。 ない APEC エコノミーに対して前向きな検討を呼 地域において、持続可能で、強靭なインフラに対 する投資を引き続き促進していくことが確認され た。これに関する具体的な取り組みとして、PPP に関するナレッジの共有プラットフォームを構築 びかけたところ、OECD のグリア議長から感謝 の“グーサイン”を示される場面も見られた。 3.次回会合について 来年の APEC の議長はベトナムが務めることと し、グローバル・インフラストラクチャ―・ハブ な っ て お り、 次 回 の 財 務 大 臣 会 合( 第 24 回 (GIH) との間で協力行動計画を取り交わすこと APEC 財務大臣会合)は来年 10 月にクアンナム *3 とされた。 省・ダナン市において開催される予定となってい また、金融包摂*4 政策の強化に関する議論で る。議長であるベトナムのリーダーシップの下、 は、同政策の実施が経済成長と所得分配に良い影 本年に引き続き各分野で活発な取組みが進められ 響をもたらすことを確認するとともに、具体的な ることが期待される。 取り組みとして、フィンテックの活用や金融リテ ラシーの向上に資する教育等の政策を策定し、実 施していくことが表明された。 参考 第 23 回 APEC 財務大臣会合 参加エコノミー、国際機関一覧 さらに、災害に対する金融強靭性の向上に関す 日本、ロシア、オーストラリア、ブルネイ、 る議論では、災害リスクファイナンス・災害保険 カナダ、チリ、中国、香港、インドネシア、 の重要性を確認するとともに、保険普及率の引上 韓国、マレーシア、メキシコ、ニュージーラ げや災害リスク費用の効果的な削減に向けた取り ンド、パプアニューギニア、ペルー、フィリ 組みの初期段階として、リスク構成部分(危険、 ピン、シンガポール、チャイニーズタイペ 露出度、脆弱性)のデータ収集の重要性を確認し イ、タイ、アメリカ、ベトナム た。木原副大臣からは、ABAC も交えたワーキン アジア開発銀行、国際通貨基金、OECD、世 グ・ランチの場にて、自然災害に対する強靭性を 界銀行、ABAC 備えた「質の高いインフラ投資」の重要性に加え、 先般の熊本地震での経験や日本の地震保険制度に も触れながら災害保険制度の有用性を指摘した。 (3)2016 年 APECのその他の議題 また、上記 2016 年の優先議題以外にも、租税 回避や脱税に対処するための BEPS(税源浸食と *3)GIH は、質の高い官民インフラ投資を増やすことについての G20 首脳の合意に従い、2014 年 11 月に設立さ れた豪州法に基づく非営利法人(本拠:シドニー)。 *4)金融包摂(financial inclusion)とは、経済成長から取り残されがちな零細企業や家計に金融サービスを広く提 供するため、誰もが持つ携帯電話(モバイル・バンキング)や、街角にある雑貨屋のネットワークを銀行窓口と して活用することで、送金・小口貸付などの金融サービスの提供コストを大幅に削減すること等を通じ、金融 サービスの広範な普及を図ろうとする取組み。 15 ファイナンス 2016.12 SPOT インフラ投資の促進に関する議論では、APEC
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