ヤンデレな彼女達 ID:106323

ヤンデレな彼女達
ネム男
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じます。
︻あらすじ︼
ヤンデレ。それは好意が強すぎるあまりに精神的に病んだ状態の
こと。これはそんな精神的に病んでる彼女達と過ごしている男達の
物語である。
目 次 春が来たと思ったら │││││││││││││││││││
│││││││││││││││││││
俺の姉 │││││││││││││││││││││││││
絶対離さないから
私はずっとあなたの味方です │││││││││││││││
指切りげんまん︵前編︶ │││││││││││││││││
1
19
45
104 71
!
春が来たと思ったら
﹁あの⋮⋮ずっと、あなたの事が好きでした
﹂
ださい
私と⋮⋮付き合ってく
!
﹁えっと⋮⋮告白相手を間違ってませんか
﹂
に何か裏がありそうな気がして警戒していた。
そんな完璧美少女がこんな平凡な俺に告白してきたのだ。喜ぶ前
委員も務めており、皆の憧れの存在だ。
徒だ。フランス人であり成績優秀、運動神経も抜群で、クラスの学級
告白した彼女の名は││サリア・ローザ││。隣のクラスの女子生
告白された。
そんな平凡な俺がこの日の放課後、綺麗で長い金髪の女子生徒から
運動もそこそこできる普通の男子高校生だ。
俺の名は││佐藤 拓也││。成績は良くもなければ悪くもなく、
⋮⋮
高校1年生の6月のある日。俺にも春がやってきた瞬間であった
﹂
﹁⋮⋮へ
!
﹂
と口で驚きつつ内心でめちゃくちゃはしゃいだ。
遂に俺にも春がやってきたぁぁぁぁぁあ
﹁⋮⋮えええええええええ
⋮⋮普通に痛い。どうやら夢ではないようだ。ということは⋮⋮
俺は思いっきり右の頬を抓ってみる。
いらしい。
彼女の瞳は真っ直ぐに俺を見つめている。どうやら嘘はついてな
﹁⋮⋮⋮﹂
います﹂
﹁そんなことは断じてありえません。私は自分の想いを正直に伝えて
﹁誰かに罰ゲームとかで命令されたとか⋮⋮﹂
﹁いえ、何も間違っていません。私は拓也さんに告白しています﹂
?
!!
!?
1
?
﹂
?
現実です﹂
むしろ夢ではないかと思ってめっちゃパニ
﹁あの⋮⋮ご迷惑だったでしょうか
全然
﹁い や い や い や
!
﹂
﹁こんな、平凡で何の魅力もない俺ですが⋮⋮よろしくお願いします
ないか。
不安そうに俺に返事を求めてくる。答えはもう決まっているでは
﹁えっと、それで、お返事は⋮⋮﹂
か。
サリアはニコッと笑顔でそう言った。あぁ、天使はここにいたの
﹁ふふふ♪夢じゃありませんよ
﹂
クってるところ
!
ありがとうございます
﹂
そう言って俺は頭を下げた。
﹁ッ
!!
﹂
?
﹁えっ
図書委員長が休み
まうとはこの時は思いもしなかった⋮⋮
そんなある日。ちょっとした出来事が彼女をあんな風に変えてし
ていた。
は朝から夕方までデートをして、お互いにとても幸せな時間を過ごし
登校し、一緒に弁当を食べ、一緒に下校する。そして土、日の2日間
サリアと付き合い始めて一ヶ月が経った。平日の学校では一緒に
││││││
こうして俺はめでたく非リア充からリア充になった。
﹁これからよろしくお願いしますね、拓也君♪﹂
サリアは明るい笑顔で俺の手を掴んできた。
!
﹂
?
俺は二つ返事で快く引き受けた。どうせ帰っても暇だしな。
と同じ図書委員である彼女││河原 梅子││はそう言ってきて、
な⋮⋮
﹁そうなの。だから委員長の変わりに、佐藤君が当番してくれないか
である委員長が風邪で休みという知らせを聞き、
俺は委員会には図書委員に所属している。休み時間に今日の当番
!?
2
?
!
!
﹁ありがとう。今日、私も当番だから⋮⋮よろしくね
取った。
放課後││
﹂
﹂
少しでも、あなたと一緒に居たいから⋮⋮///﹂
ちゃっちゃと終わらしてくる
図書室││
﹁仕事はどこじゃゴラァ
﹂
そして俺は図書室へと急いで向かった。
﹁はい、いってらっしゃい♪﹂
﹁わかった
可愛すぎんだろサリアぁぁぁぁぁ
少し照れた顔でそう言った。
くださいね
﹁私は教室で勉強してますから拓也君は仕事をはやく終わらせて来て
﹁いや、でもなぁ∼⋮⋮﹂
待てますよ﹂
﹁大丈夫ですよ。私は拓也君と一緒に帰りたいんです。1時間くらい
ちゃ悪いよ﹂
﹁いやいいよそんな。1時間くらい仕事あるんだし、そんなに待たせ
るつもりみたいだ。
しかし1時間くらい仕事しなければいけないのに、彼女は待ってい
﹁大丈夫ですよ。拓也君の仕事が終わるまで待ってますから﹂
俺は今から図書委員の仕事がある事をサリアに伝えた。
ど先に帰っててくれ。遅くなるといけないからさ﹂
﹁そうなんだよ∼。今日急に委員会の仕事が入っちゃってさ。悪いけ
﹁えっ⋮⋮今日は一緒に帰れないんですか
﹂
漫 画 で も 読 ん で 時 間 を 潰 そ う。そ う 思 っ て 俺 は 机 に 伏 せ て 仮 眠 を
そう言って彼女は自分の席へと戻っていった。その時間は小説か
?
き戸を開ける。カウンターには河原さんだけが座っていた。
﹁あっ、ちゃんと来てくれたね、佐藤君﹂
3
?
俺は彼女の為にもはやく仕事を終わらせようと思いつつ力強く引
!
!
!
?
!
﹁おうよ
頑張ろう
﹂
ちゃっちゃと終わらせて、はやく帰ろうぜ
﹁うん⋮⋮
﹁つ、疲れた⋮⋮﹂
﹂
!
﹂
?
どうした
﹂
?
﹂
?
︵マジかよ⋮⋮俺、告白されちまった⋮⋮さっきの河原さん、可愛かっ
言いたいことだけ言って河原さんは図書室を出て行った。
﹁返事、待ってるね⋮⋮///﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁私⋮⋮優しくて、一生懸命で、明るい佐藤君が⋮⋮好きです﹂
聞き間違いだろうか、﹃好き﹄と、そう聞こえた気がする。
﹁⋮⋮はい
﹂
﹁⋮⋮好きです⋮⋮﹂
ちらを見て
河原さんは深呼吸をして落ち着きを取り戻すと、真っ直ぐな瞳でこ
﹁⋮⋮その⋮⋮﹂
﹁なにか聞きたいことがあるの
河原さんはもじもじしながら何かを伝えようとしているようだ。
﹁⋮⋮えっと⋮⋮その⋮⋮﹂
﹁ん
俺が本の整理をしていると河原さんに声をかけられた。
﹁⋮⋮あの⋮⋮﹂
﹁これがここで⋮⋮おっとこれはここじゃないな⋮⋮﹂
そして俺達は本を整理しようと本棚へ向かった。
﹁お、おぅ∼﹂
﹁最後は、本の整理だね。がんばろっ
に多くて、予想以上に時間がかかってしまった。
今日が委員長の当番だからだろうか。何時もよりも仕事が倍以上
!
!
1時間後⋮⋮
!
?
4
?
たなぁ⋮⋮︶
しばらく俺はその場でボーッとしていた。
数分前││
︵そろそろ委員会が終わる頃ですね⋮⋮︶
拓也君と別れて、1時間くらい教室で勉強していました。そろそろ
委員会も終わってる頃だろうと思い、私は荷物をまとめ図書室へ向か
いました。
︵はやく拓也君に会いたいです⋮⋮ふふふっ♪︶
気分が高まりながら目的地へ到着。すると図書室の窓が開いてお
り、そこから拓也君と知らない女子の姿がありました。
︵拓 也 君 が 知 ら な い 女 子 と 話 し て い ま す ね ⋮⋮ な ん な ん で し ょ う か
⋮⋮︶
その光景に少し心がズキッとしましたが、大丈夫。拓也君は私の大
なんで
な
5
事な彼氏なんですから。
そう思っていると、女子の口から放たれた言葉で私は激しく動揺す
ることになるのです。
﹁⋮⋮好きです﹂
︵⋮⋮えっ⋮⋮︶
その女子は拓也君に告白をしたのです。
なんで
なんで
その表情は嘘をついているようには見えず、好きな男の子の前で見
せる女の顔でした。
なんで
なんで私の拓也君に告白してるんですか
なんで
なんで
?
なんで私の拓也君を奪おうとしているのですか
なんで
なんで
なんで
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
なんで
なんで
なんで
なんで
なんで
なんで
なんで
なんで
なんで
なんで
なんで
んで
なんで
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
?
︵はっ、しまった
サリアが待ってるのに
︶
!
待たせちまって。怒ってるか
情で今まで見たことのない表情であった。
﹁ごめんサリア
俺はサリアの機嫌を伺う。
大丈夫です﹂
﹁ほっ⋮⋮ごめんな。さて、じゃあかえ││
﹁⋮⋮いえ、怒ってなどいませんよ
﹂
そこにはサリアがその場に立っていた。しかし彼女の表情は無表
﹁あっ⋮⋮﹂
ンを持って急いで図書室を出ると
俺はその場で一分くらいボーッとしてしまったようだ。俺はカバ
!
﹂
?
リアの言葉を黙って聞くことにする。
?
﹂
﹁なんであの女は拓也君に告白してきたんですか
﹁ッ
﹂
まだなにか気になることがあるみたいだ。何なんだろうと俺はサ
﹁⋮⋮そうですか。では⋮⋮﹂
たんだ﹂
﹁あぁ。同じクラスの河原さんだよ。委員会の仕事を手伝って貰って
から河原さんのことを知らないのか。
と河原さんのことについて聞いてきた。そういえば違うクラスだ
﹁さっき一緒にいたあの方は誰なんですか
サリアは冷たい声を放つ。やっぱり怒ってんのかな⋮⋮
﹁それよりも、拓也君﹂
?
らしい。
﹁ねぇ、なんでですか
それなのになん
あなた
なんで黙っていたんですか
あなたの彼女は私ですよね
ですぐ断らなかったのですか
﹂
そうですよね
サリアがグイグイ迫ってくる。その瞳には光を宿していなかった。
の彼女は私です。あなたも私が好きですよね
?
?
?
?
?
?
6
?
!
どうやら、さっきの河原さんとのやりとりをサリアに見られていた
!
﹁ちょ、落ち着いてサリア
﹁そうですよね
﹂
﹂
そう言ってくれるって信じてました
﹂
あの女のこと、
﹂
するとサリアから放たれた気迫がどんどん薄くなっていく。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁断るよ。元からそのつもりだから。とりあえず落ち着いて
ちゃんと断ってくれるんですか
﹁これが落ち着いていられません。どうなんですか
!
だったんだ、さっきのサリアは⋮⋮
﹂
﹁でも⋮⋮﹂
﹁ん
﹁これからはなるべく、私を優先的に見てくださいね
恐怖感を感じたのであった。
││││││
お前あのサリアさんと付き合ってるって本当か
数日後││
﹁おい佐藤
﹁はあ
なんでだよ
﹂
?
てるって思うしかないだろ
﹁あ∼⋮⋮﹂
リア充死ね
﹂
!
リアからは考えられない行動であったのだ。
﹂
登校したりや、人前で抱きついたりなど、前の恥ずかしがっていたサ
朝なんか会った瞬間に力強く抱きつかれたり、恋人つなぎで学校に
がする⋮⋮
そういえばあの一件以来、サリアからのアプローチが酷くなった気
!
べさせあいっこなんかしたり、皆の前で抱きつかれるとか、付き合っ
﹁だっておま、登校時や帰る時だっていっつも一緒にいるし、昼飯を食
!?
笑顔だがさっきの暗い瞳でそう言ってきた。その表情に俺は謎の
﹂
すっかり機嫌がよくなって、いつもの笑顔に戻った。一体なんなん
!
クラスの男子が俺に問いかけてくる。
!
7
!
?
?
!
?
?
それは事実だが、とりあえず知らない振りをしておこう。
?
おまけに俺のために弁当まで作ってくれているのだ。流石に悪い
と思ったけどサリアが
﹁私 が 作 り た い か ら 作 る ん で す。私 の 料 理 ⋮⋮ タ ベ テ ク レ マ ス ヨ ネ
﹂
とこの前見せたあの光のない瞳をした表情で言われるのだ。食べ
﹂
﹂
るしかないじゃないか⋮⋮だって怖いんだもん。でも美味しかった
﹂
付き合っているのか
﹂
チャイムが鳴ったのが聞こえなかったのか
!?
からこれでいいやと思っている自分がいる。
﹂
﹁それでどうなんだ佐藤
﹁そうなの佐藤君
﹁リア充爆発しろぉぉ
﹁え、気になる気になる∼
!
クラスの半分以上の生徒が押しかけてくる。
﹁騒がしいぞお前達
!
室に入ってきた。
﹂
﹁先生聞いてくださいよ
すよ
!
﹂
?
合ってること⋮⋮バカだよね⋮⋮私﹂
﹁え へ へ へ ⋮⋮ わ か っ て た ん だ け ど ね。佐 藤 君 が サ リ ア さ ん と 付 き
俺は図書室から河原さんを呼び出して、昨日の告白を断っていた。
﹁⋮⋮はい﹂
る人がいるから⋮⋮君の気持ちは受け取れない﹂
﹁ごめん、河原さん。君の気持ちは嬉しいけど、俺にはもう付き合って
放課後││
俺は力無くため息をついた。
﹁彼女を大事にしろよ、佐藤
先生にも知られてしまったのか⋮⋮
それを聞いた英語の先生はニコニコとしていた。あぁ∼⋮⋮遂に
﹁⋮⋮⋮﹂
こいつあのサリアさんと付き合ってるんで
騒いでいるといつの間にか授業時間になっていて、英語の先生が教
!?
!
!
!?
﹁ちょっ、おまっ﹂
!?
8
?
⋮⋮ 彼 女 と 幸 せ に ね。応 援 し て る か ら
河原さんは涙を流して色々言っていたのを、俺は黙って見ているし
かできなかった。
﹁⋮⋮ じ ゃ あ、私、行 く ね
⋮⋮﹂
俺も帰ろうとすると
れるんすか∼
﹂
﹁先生ぇ。こいつをボコボコにすれば、本当に俺らの内申点上げてく
この学校のヤンキーがゾロゾロと来て、囲まれてしまう。
そこは人が来る事はあまりない体育館裏であった。そしてそこに
﹁先生、ここは⋮⋮﹂
俺は先生の後をつけた。
か俺に用事があるみたいで付いてきて欲しいということだったので、
俺らのクラスを担当している英語の先生から呼び止められる。何
﹁佐藤。ちょっといいか
﹂
︵ごめんな⋮⋮河原さん︶
そう言い残して河原さんは去っていった。
?
あんた最低だな
ひゃははは
﹂
﹁ああ。こいつを再起不能になるまで潰したら、僕はお前達に特別に
さっすが先生
!
内申点をあげよう﹂
﹁ひゃははは
!
﹁先生
これはどういう事ですか
﹂
⋮⋮どうやら、嵌められたらしい。面倒ごとになってきたなぁ⋮⋮
!
!?
あったもんじゃない。サリアは僕の物だ。僕の物を盗ろうとする愚
か者には、例えそれが教師だろうが生徒だろうが潰すだけさ﹂
いかれてやがる。このクソ教師はそんな事のために俺を潰そうと
しているのか⋮⋮
呆れて怒る気力が出なかった。
全く⋮⋮呆
﹁はっ⋮⋮なんだよそれ。本当にそんなんでよく教師やれてるな。お
前みたいなクズをサリアが好きになると思ってんのか
れたもんだぜ、このクソ教師が﹂
?
9
?
⋮⋮どういうことだ⋮⋮
?
!
﹁黙 れ。お 前 み た い な 何 も 出 来 な い カ ス が サ リ ア と 付 き 合 う な ん て
!
俺はとりあえず思ったことを率直に言ってやった。
﹂
﹁フン⋮⋮何言っても構わんさ。お前はここで死ぬんだからな⋮⋮や
れ﹂
﹁はいよぉ
そしてヤンキーの1人が殴りにかかってくる。俺はそれをギリギ
リで避けた。次々に襲いかかってくるヤンキーの攻撃をなんとか躱
﹂
しながら逃げようと試みるが
﹁貰った
﹂
ひゃははは
﹂
!
﹂
!
﹂
!
﹁おい立てやコラ﹂
﹁ふぃー。久々にストレス解消したぜぇ﹂
││││││
そして1人のヤンキーの力強い拳をくらい、俺は意識を手放した。
んだっけ⋮⋮やばい⋮⋮意識が⋮⋮
確か最初は、誰かが苛められてたからそれを助けようとケンカした
意識が朦朧としてる中そんな事を思い出していた。
将とその部下達とよく殴りあってたなぁ⋮⋮
ケンカをしたのはいつぶりだろうか⋮⋮小学校の頃はよくガキ大
ヤンキー達の攻撃は止む事は無く続いていた。
られて、蹴られて││
殴られて、蹴られて、殴られて、蹴られて、殴られて、蹴られて、殴
﹁楽しい∼
﹁調子乗ってんじゃねぇぞ
﹁ちょこまかと避けやがって⋮⋮オラッ
ヤンキーは見逃さず、顔面に拳を叩き込まれ、倒れてしまう。
俺は後ろから木刀で殴られてしまい、よろめいてしまう。その隙を
﹁ぐっ⋮⋮
!
ヤンキーの1人がボロボロになった拓也の胸座を掴み、持ち上げ
10
!
!
!
る。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁はははっ
こいつ意識失ってますぜ
オラ、目ェ覚ませ
﹂
!
ひゃははは
﹂
!
也。
﹁おいおい、それ以上やるとほんとに死んじまうぜ
﹁へっ、いいザマだ﹂
!
男は掴んでいた胸座を離し、拓也を殴る。ドサッと力無く倒れる拓
!
ひゃははは
﹂
﹁全くだよ⋮⋮僕の物を汚すからこういうことになるんだよ⋮⋮クク
ク﹂
ほんと容赦ないな
!
倒れた拓也を男教師は踏みつける。
﹁さっすが先生
!
ていると
﹁⋮⋮拓也⋮⋮君
﹂
サリアがその現場に現れた。
﹁やぁ、サリアさんじゃないか。見てくれ
あの哀れなカスの姿を
﹂
!
?
みあげる。
﹁君もこいつに汚されて嫌だっただろう
苦しかっただろう
﹂
でもも
!
﹂
嬉しすぎて震えて
う安心だ。この僕がきちんと駆除してやったからね
男教師は拓也を指さして、笑顔でそう言った。
﹁そんな⋮⋮拓也君⋮⋮﹂
あっ、そうか
全く困った娘だなぁ∼。あっはっはっは
﹁何をそんなに震えているんだい
いるんだね
!
!
そう言いながら男教師はサリアに近づいていく。
﹁さぁ、はやく帰ろうじゃないか﹂
そして男教師はサリアの肩に手を落とすと
﹂
﹁⋮⋮許さない﹂
﹁⋮⋮へっ
!
!
男教師がそう言うと、ヤンキーの1人がボロボロになった拓也を掴
!
1人の男教師とヤンキー達が大笑いしていた。全員が愉悦に浸っ
!
?
11
!
!
?
男教師の腹に包丁が突き刺さっていた。
サリアが包丁を抜くと、男教師は腹を抱えて跪く。
﹁一体⋮⋮何を⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹂
﹁⋮⋮許さない⋮⋮許さない⋮⋮許さない許さない許さない許さない
﹁や、野郎
突く。
﹁ぐえっ﹂
!
﹂
ぐあっ⋮⋮ぎえええ
殴って、突き刺す
﹁ひっ⋮⋮がああああっ
殴って、突き刺す。
﹁もう許して⋮⋮ぎゃああああ
殴って、突き刺す。
殴って、突き刺す。
﹂
﹂
!
!
﹁このっ
木刀で殴って、包丁で突き刺す。
﹁や、やめろ⋮⋮ぎゃああっ
﹂
男が持っていた木刀を奪い、襲いかかってきた男の腹に木刀で力強く
さらにもう1人が襲いかかってくる。サリアはさっき突き刺した
!
!!
ここにいる全員殺してや
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない
﹂
﹁私の拓也君によくも手を出してくれたな
る
!!
サリアは発狂してヤンキー達に襲いかかる。
﹁へっ、なめんじゃねぇ
﹂
!
最小限の動きでよけられて、脇腹に包丁を刺されてしまう。
﹁がぁっ、あっ⋮⋮﹂
﹁なっ、はやっ⋮⋮ぐっ⋮⋮
男1人が木刀を振りかざすが、
!
!
!
12
!!
殴って、突き刺す。
殴って、突き刺す。
殴って、突き刺す。
ヤメロオオオオ
けで生臭い匂いがすでに充満していた。
数分後、男教師が集めていた10人のヤンキー集団は全滅。血だら
﹁ひっ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
一方的な虐殺がそこで行われていた。
して、突き刺して、突き刺して、突き刺して、突き刺して│││
て、殴って、殴って、突き刺して、突き刺して、突き刺して、突き刺
殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴っ
タスケ⋮ガアアアア
ギャアアアア
!
僕は教師だぞ
子供が大人に手を出していいと思って
!
﹁そんな事どうでもいいです。私は大切な人を傷つけられるのが一番
﹂
許せない⋮⋮私の幸せな時間を壊そうとする輩が許せない⋮⋮だか
﹂
お前みたいなクズが、私の拓也君に触れるな
ふざけるな
僕は君の事を想って、あのゴミを片付けたんだぞ
ら、あなたを殺します﹂
﹁ふざけるな
﹂
﹁ゴミ⋮⋮ですって
﹂
﹁ぎゃああああああ
男教師の傷口に木刀が突き刺さった。
﹁私のかけがえのない大切な人をゴミだと
死ね
再び木刀で傷口を突き刺す。
﹂
死ね
!!!
﹂
!!
!!
﹁ぎえっ
﹁死ね
﹁があっ⋮⋮﹂
!
?
?
!
!
!
13
!
!
﹁後は⋮⋮あなただけですね⋮⋮﹂
﹂
﹁や、やめろ
いるのか
!
男教師は呼吸を荒らげながらサリアを説得しようとする。
!?
!
!
﹁拓也君は私の物だ
誰にも触れさせない
﹂
!
何度も、刺した。
││││││
﹁うええええん﹂
﹁ぎゃはははは
なきむしだー
﹁おい、やめろ
やるのかぁー
﹂
﹂
﹂
﹂
﹂
﹂
﹁女の子を泣かせやがって⋮⋮ゆるさねぇ
ドカッ
﹂
﹂
﹂
おまえぇ⋮⋮
﹁いてぇ
﹁大将
﹁よくもぉ
﹁うおりゃあああ
⋮⋮⋮⋮
﹁くそっ
覚えてろぉ∼
﹁ひぃ∼
ざまぁみやがれ
﹁ひぐっ⋮⋮ぐすっ⋮⋮﹂
﹂
﹁うん⋮⋮ぐすっ⋮⋮ありがとう﹂
﹁おう
﹂
!
!
?
﹁もうだいじょうぶだよ。けがはない
!
﹂
﹁へへっ
!
!
!
園でガキ大将達が女の子を虐めていたから助けに行ったんだ。
││そういえば小学校の頃⋮⋮ちょうど10年前か。確か俺は公
?
!
﹂
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
そしてサリアは男教師を包丁で何度も何度も何度も何度も何度も
﹁ひゅっ⋮⋮ひゅっ⋮⋮﹂
!
おまえたち何してるんだ
﹁なんだァお前
!
!
14
!
!
!
!
?
!
!
!
!
﹁どうして、いじめられてたの
﹂
?
君、外国からきたの
﹂
﹂
﹂
フランスの事いっ
おれもにっぽんの事いっぱい君に教えるからさ
ねぇねぇ
﹁わたしが⋮⋮外国からきたってだけで⋮⋮﹂
﹁えっ
どこから来たの
﹁うん⋮⋮﹂
﹁すげぇ
﹁フランス⋮⋮﹂
!?
﹁フランス⋮⋮ぜんぜんわかんねぇや
﹂
ぱいおしえてよ
﹁⋮⋮うん
!
!
!
⋮⋮
﹁ッ
なんだこれ
﹂
しかしここはどこだろう。確か俺はあの時、ヤンキー達に襲われて
当をしてくれたみたいだ。
どうやら俺はこのベッドで寝ていたらしい。誰かが親切に傷の手
目を覚ますと見知らぬ天井がそこにあった。
﹁う∼ん⋮⋮﹂
け⋮⋮でも今思い出した。彼女の名は│││
││そして、年月が過ぎて彼女の事を少しずつ忘れていったんだっ
ショックだったなぁ⋮⋮
所の人に聞いてみると、家の都合でフランスに帰ったんだっけ。結構
││そんなある日、彼女は来なくなった。長い間来なかったから近
笑った。
俺達はいっつも公園で会って話をして、いっぱい遊んで、いっぱい
││そう。助けた彼女はフランスから来たんだったけ。あれから
!
!?
和感がした手首をよく見てみると、手錠をかけられており、ベッドの
15
!
!
?
!?
体を起こしてベッドから出ようとすると、ある違和感を感じた。違
!
柱に拘束されていた。しかも両手。
俺は必死に足掻くが、手錠が外れることは無く、足の方も足枷をか
目が覚めたんですね
拓也君
﹂
けられていた事に気づく。どおりで上半身しか起き上がれないわけ
だ。
﹁あっ
!
﹁⋮⋮サリー﹂
﹁その呼び方は⋮⋮思い出してくれたんですね
拓也君
﹂
!
﹂
﹂
﹁あぁ、そうだ。なんで俺はこんな事になってるんだ
﹁手錠ですね﹂
彼女が離れると、俺はサリーに手錠を見せつける。
?
まさか⋮⋮そんな事で俺を拘束したのか
﹁だって⋮⋮こうすれば、あなたとずっと一緒にいられるからです﹂
俺はサリーになんでこうなっているのかを問いかける。
?
﹁ああ⋮⋮それより、サリー。これはどういう事だ
﹁嬉しいです⋮⋮やっと思い出してくれたんですね⋮⋮﹂
サリーは感動して俺に抱きついてくる。
ア・ローズで、俺はその子の事をサリーと呼んでいたのだ。
サリーという呼び名は俺が小学生の頃、助けた友達の名前がサリ
!
すると部屋のドアが開かれ、そこからサリアが姿を現す。
!
まさか、サリーがそんな事を思っていただなんて⋮⋮
ましたが⋮⋮﹂
なたを奪おうとする輩やあなたを傷つけるゴミまで出てきてしまい
ら、どれだけ幸せだろうかと思ってきました。実際にその優しさであ
しさが私だけに向けられたなら、その笑顔が私だけに向けられたな
の良いところなんですけど⋮⋮私はそれが苦痛でした⋮⋮。その優
﹁あなたは私だけじゃなく、ほかの人にも優しい。まぁそこがあなた
﹁⋮⋮⋮﹂
けを求めて、私だけを愛して欲しい⋮⋮そう思っていました﹂
た⋮⋮あなたには、私だけを見て欲しいんです。私だけを見て、私だ
ごく辛かった⋮⋮あなたが他の女と楽しそうにしているのが嫌だっ
﹁私はずっと我慢してきました。あなたと2人きりになれないのがす
!?
16
!
﹁でも、もうそんな心配はありません。ここは私とあなたの2人だけ
の場所。これからはずっとあなたと2人きりで暮らせるんですから
ね♪﹂
彼女は微笑みながらそう言った。彼女の微笑みはいつも以上に綺
麗で、怖かった。
﹁お前、その血は⋮⋮﹂
俺がサリーから血の匂いがすることに気がつく。よく見たら顔や
服に細かく血がついているのがわかる。
﹁あぁ、これですか。ちょっとゴミ掃除をしていたら浴びてしまった
ん で す よ。綺 麗 に 落 と し た つ も り だ け ど、取 れ て ま せ ん で し た か
⋮⋮﹂
﹁ゴミ掃除ってまさか⋮⋮﹂
俺はだいたい嫌な予想はついていたが、一応彼女に問いかける。
﹁拓也君を虐めたり、傷つける人はゴミ同然です。生きている価値な
ません⋮⋮♡﹂
﹁ひっ⋮⋮﹂
﹂
彼女は完全に好きな男にしか見せることのない女の顔になってい
た。しかしその瞳は光を宿していなかった。
﹁拓也君⋮⋮拓也君⋮⋮ふふふっ♪﹂
﹂
すると彼女は何かの薬を口にくわえた。
﹁や、やめ⋮⋮んぐっ
そしてサリーは俺にキスをしてきた。
⋮⋮
﹂
薬も入れられる。
17
んてありませんよ。そんなゴミ達も死ぬ時は酷い声を出して死にま
したよ。ふふふっ、あはははははっ
てしまったんだ⋮⋮
⋮⋮ 悪 魔 だ。こ い つ は 悪 魔 だ。サ リ ー は い つ か ら こ ん な 風 に な っ
!
﹁拓也君⋮⋮好き。大好きです。大好きすぎてもう気持ちを抑えられ
?
!
﹁んっ⋮⋮ちゅっ⋮⋮れろ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮
!
舌を俺の口の中に滑り込ませてきたと同時にくわえていた何かの
!
﹁はあっ⋮⋮んっ⋮⋮ちゅるっ⋮⋮﹂
そしてサリーは舌を無理やり絡ませて、激しくて深いキスをした。
その時に口の中にあった薬も飲み込んでしまう。
﹁んっ⋮⋮ぷはあっ﹂
﹁はあっ⋮⋮はあっ⋮⋮おま、一体何を⋮⋮﹂
﹁えへへ///拓也君とのキスは何回もしたのに、こんな深いのは初
めでしたね♡﹂
今何を口に入れ⋮⋮﹂
サリーは頬を赤くして微笑みながら言う。
﹁そうじゃなくて
⋮⋮あれ、何か⋮⋮凄く眠い⋮⋮
﹁ちょっとした睡眠薬を飲ませました。まだ私は色々と準備がありま
すので、拓也君はもう少し寝ていてください﹂
⋮⋮やばい、まぶたが重い⋮⋮眠気が⋮⋮
﹁そ し て そ れ が 終 わ っ た ら ⋮⋮ ず っ と 愛 し 合 い ま し ょ う ♪ 2 人 き り
で、永遠に⋮⋮﹂
⋮⋮サ⋮⋮リー⋮⋮
﹁おやすみなさい。拓也君⋮⋮﹂
そして俺は再び意識を手放した。
18
!
俺の姉
見てみて
生徒会長様だよ
﹂
!
とある高校にて││
﹁あっ
!
おはようございます
時ものように思った。
﹁美咲先輩
///﹂
!
スタイルめちゃくちゃいいし、羨ましいわ∼﹂
!
﹁⋮⋮なに
あの男子。また今日も美咲様に話しかけられて⋮⋮﹂
しできたらなと思っている。
家が天涯孤独の俺を引き取ってここまで育ててくれた。いつか恩返
俺の両親は小さい時に交通事故で亡くし、両親と仲の良かった天野
の姉である。
1位を取るレベルで、運動能力も高い。まさに完璧な美女が俺の義理
色の長い髪、168cmの高身長でスタイルは抜群、成績は全国模試
天 野 美 咲。こ の 学 校 の 生 徒 会 長 を 務 め て い る。サ ラ サ ラ な 紫 紺
そう。ここの生徒会長様は俺の一個上の姉なのだ。
﹁あぁ。おはよう﹂
﹁おはよう、姉ちゃん﹂
するとその生徒会長と目が合ってしまい、自分の名前を呼ばれる。
﹁あっ、涼介﹂
当に人気者だな⋮⋮
生徒会長が通る度に女子生徒達がざわめく。ここの生徒会長は本
﹁ほんとそれ
﹁今日もかっこいいよね、美咲先輩﹂
の場から立ち去った。
た顔で挨拶を返すと、その女子生徒は顔を赤らめて興奮し、急いでそ
1人の女子生徒が生徒会長に挨拶をする。生徒会長はキリッとし
﹁ッ
﹂
廊下を歩いている美人生徒会長の姿を見ながら俺、天野 涼介は何
︵さすが、人気者だな∼︶
﹁わぁ∼⋮⋮やっぱ綺麗だね∼⋮⋮﹂
!
﹁あぁ。おはよう﹂
!
?
19
!
﹁⋮⋮あの人、ちょっと調子乗ってない
﹁美咲様
俺を罵ってくれー
﹂
﹂
﹁あぁ⋮⋮美咲様のその鋭い眼差しも素敵です⋮⋮﹂
姉ちゃんは不機嫌そうに周りに集まっていた生徒を睨みつける。
﹁⋮⋮あいつら⋮⋮﹂
飽きたくらいだ。
少し会話するだけで周りの生徒から俺の悪口を言うのだ。もう聞き
周りからヒソヒソと俺に対する愚痴が聞こえてくる。姉ちゃんと
?
あな
﹂
﹁こんなのもう聞き慣れたよ。俺はなんとも思ってないから。じゃ
﹁しかし⋮⋮﹂
俺は姉ちゃんを落ち着かせようとする。
﹁姉ちゃん。俺は大丈夫だから落ち着いて﹂
﹁貴様ら⋮⋮いい加減に││
にしていた。その生徒達の態度に姉ちゃんはさらに不機嫌になる。
しかし、睨みつけられた生徒達は怖がることなく、むしろ嬉しそう
!
授業中││
﹁はぁ⋮⋮﹂
とにかくそういうのは
私は周りからチヤホヤされるのはあまり好きではない。結構女子
﹄
の中で背は高めな方で目立つからだろうか
かっこいいよ
あまり好ましくない。私は⋮⋮
﹃姉ちゃんすげぇ
!
?
そんな涼介とこれまで一緒に暮らしてきて、私の心は徐々に惹かれ
なければな。
他人を優先してしまうのが心配だがそこは姉である私が支えてやら
たのだ。涼介はとても優しい男だ。周りへの気遣いがよく、自分より
親が交通事故で亡くなり、行き場を失ったところを私の家が引き取っ
涼介は私の一個下の義理の弟である。10年前くらいに涼介の両
涼介にだけ褒められたらそれだけで満足だ///
!
20
!
そして俺は自分の教室へと急いで行った。
!
ていった。
︵涼介⋮⋮︶
﹂
私が慕うようになったのは、小学生の頃のあのときからだったかな
⋮⋮
││││││
バチン
﹁ッ⋮⋮﹂
﹁美咲⋮⋮またこんな点数取って⋮⋮
私だって、最初からなんでも出来てたわけじゃない。むしろ小学生
の 頃 は 酷 か っ た。運 動 は そ こ そ こ だ っ た が 勉 強 の 方 は 全 く 出 来 な
かった。
次いい点取らなかったら許しませんから﹂
﹂
﹁全く⋮⋮涼介を見習いさなさい。ちゃんと真面目に勉強してるの
よ
﹁はい⋮⋮﹂
⋮⋮⋮⋮
﹂
今日もおれ、テストでいいん点とったんだぜ
﹁あっ、姉ちゃん
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁なぁなぁ
﹁⋮⋮姉ちゃん、大丈夫か
﹁⋮⋮⋮﹂
なんか元気ないような﹂
負の感情を出さずに涼介と接していた。
その時の私は涼介を前ではしっかりとした姉でいようと、なるべく
!
は見破ったのだ。
﹁また⋮⋮かあさんに、怒られたの
﹂
姉ちゃんががんばってるのが俺が一
?
次はちゃんといい点取れるって
!
!
﹁⋮⋮まぁね﹂
﹂
涼介がいるのだろう。そしてこの時の私が落ち込んでいるのを涼介
この頃の涼介は人の変化に敏感だった。だから今の気遣いの良い
?
﹁そんなに落ち込まないでよ
番よく知ってるんだから
!
21
!
!
﹁⋮⋮そうか。偉いな⋮⋮﹂
!
!
?
﹁⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁だから姉ちゃんもがんばれよ
るようにがんばるから
俺も、いつか姉ちゃんを支えられ
!
全部満点じゃん
!
母親からはそれだけだったが
﹂
﹁姉ちゃんすげぇ
いい
さすが姉ちゃんだよ、かっこ
﹁なんだ、やればできるじゃない。次もこの調子でやるのよ﹂
そして私は努力をして、次のテストでは全て満点をとった。
と。
ことは無く、命令されていた。いい点数をとれ、世間の目があるから
私はその時、初めて頑張れと言われた。父親や母親からは言われた
︵子供だっていうのに、無責任なことを言う⋮⋮︶
﹁⋮⋮うん。がんばるよ﹂
!
な。うんうん。さすが、自慢の姉ちゃんだぜ
﹂
﹁や っ ぱ 姉 ち ゃ ん は す っ げ ぇ な。生 徒 会 長 に ま で も な る ん だ か ら
世間からいい目で見られたいだけ。それだけなのだ。
﹁私の娘だからこんなの当然ですよ。おほほほ﹂
母親はそれを表面上では喜んではいたが、そこに善意はなかった。
そして現在。私は全国模試1位のレベルまで到達する事ができた。
⋮⋮⋮⋮
でもらいたいと思い、私は努力を続けた。
れることの喜びを知り、もっと褒めてもらいたい、涼介にもっと喜ん
涼介は大げさなくらいに褒めてくれた。そしてこの時から褒めら
!
⋮⋮2人で一緒に⋮⋮
今 度 は 私 が 支 え る ん だ。昔、私 が 助 け ら れ た み た い に ⋮⋮ ず っ と
色々と進路のことなどで忙しくなるだろう。
今では涼介はすっかり背が高くなって男らしく育った。これから
してくれたりしてくれてとても嬉しかった。
ばしい事があると一緒に喜んでくれて、私に悲しいことがあると励ま
涼介は違った。涼介だけはちゃんと私の事を見てくれた。私に喜
!
22
!
﹂
﹁⋮⋮まの⋮⋮天野
﹁
﹁お前大丈夫か
﹂
珍しくボーッとして﹂
たのにボーッとしてたらしい。
私を呼ぶ声がして、はっと我に返る。どうやら授業中に指名されて
!
広げると
﹃美咲様と気安く話すな﹄
﹃美咲様に近づくな。汚れる。﹄
﹃美咲様と仲良くしやがって。死ね
﹃お前の存在自体ゴミ。死ね﹄
﹄
靴箱の中かからグチャグチャになった紙が溢れる。俺はその紙を
﹁はぁ⋮⋮またか﹂
放課後││
││││││
もっと頑張らないと⋮⋮涼介を支えるためにも⋮⋮
﹁はい﹂
﹁まぁいい。ここの問題を解いてくれ﹂
﹁い、いえ、なんとも。すみません⋮⋮﹂
?
俺はその紙をビリっと破いて、バッグの中に入れる。
﹁あはは⋮⋮もう慣れた事だし、心配ないよ﹂
近くにいた友人の1人がそれを見て、愚痴をこぼす。
﹁おいおいまたかよ。あのブス共ふざけやがって⋮⋮﹂
もう何回もやられたことでさすがに慣れてしまった。
聞いてくれなかった。面倒ごとが嫌いなのだろう。
にも1度言ってみたが﹁それくらい、自分で対処しなさい﹂と言って
最初やられた時は驚いて先生に相談したが軽く流される始末。親
の靴箱の中に嫌がらせをされるようになっている。
と数々の暴言が書かれてあった。こんな風に登校時と下校時に、俺
!!
23
!
﹁ホントかよ⋮⋮お前、人良すぎじゃね
﹁ははっ
俺も行くぜ
望むところよ
﹂
﹂
涼介は
!
﹂
?
ちょっと友達と遊んでてね。気づいたら結構な時間遊んで
姉ちゃんは納得してくれたみたいだ。
﹁そうか。ならいいんだ﹂
た﹂
﹁ん∼
と姉ちゃんは問いかけてくる。
じゃないか﹂
﹁ふふふっ。なんだ涼介、そんなに疲れて。帰りが随分と遅かった
を癒してくれるような感覚⋮⋮あぁ、これが人をダメするやつか⋮⋮
俺はバッグを置いて、ソファーに寝転がる。フカフカの生地が疲れ
﹁おう。はぁ∼⋮⋮疲れた﹂
くれた。
リビングに向かうと、エプロン姿の姉ちゃんは微笑みながら迎えて
﹁おかえり、涼介﹂
てしまい、夕飯の時間に帰宅した。
俺が得意とするリズムゲーでスコア競ってたらすっかり遅くなっ
﹁ただいま∼﹂
数時間後││
そして俺は複数の友人とゲーセンへ遊びに行った。
!
﹂
を慕っている男子には良くは思われないがな⋮⋮
をされている俺を心配してくれる人がいる。もちろん、姉ちゃんの事
存在なんだろう。男子達はそうでもないみたいで、女子から嫌がらせ
姉ちゃんは主に女子生徒に慕われている。女子からしたら憧れの
じゃないさ﹂
﹁そんな事はないさ。慣れてるって言ってもなんとも思わないわけ
?
﹁じゃあ、ストレス解消にゲーセン行こうぜ
﹁おっ、いいねそれ
!
﹁もちろん行くよ。今日は勝つからな﹂
!
俺達が高校生になると両親は仕事が忙しくなったため、あまり家に
24
!
?
は帰ってこなくなった。月に一度帰ってくる程度だ。だから家事は
俺と姉ちゃんで協力して生活している。両親から生活費が送られて
くるため、お金の事は心配なかった。
﹁夕飯はもうすぐ出来そうだから先に風呂に入ってくるといい。疲
じゃあお先入るね∼﹂
れたならゆっくり浸かってくるといいぞ﹂
﹁マジ
それじゃあ、お言葉に甘えてゆっくり入らせてもらおう。そう思っ
て俺は風呂場へ向かった。
︵やっぱり、涼介と一緒にいると落ち着くな⋮⋮︶
︵何か嫌なことがあっても、涼介が隣にいてくれるだけでそんな事ど
うでもよくなってしまう⋮⋮︶
︶
︵私は⋮⋮自分が思った以上に、あいつに依存しているのかもな⋮⋮︶
︵これが⋮⋮好き。という感情なのか⋮⋮
︵⋮⋮悪くないな///︶
︵将来は今以上の関係に⋮⋮ふふふっ///︶
︵ずっと⋮⋮この関係が続くと良いな⋮⋮︶
⋮⋮︶
︵むしろ、あいつじゃなきゃ駄目だ///。ほかの男など目に入らん
?
︶
︶
︵⋮⋮おっと、あいつバッグを置きっぱなしじゃないか。しかも開い
たままだし⋮⋮ん
﹄
︵なんだ、この紙切れ⋮⋮ッ
﹃死ね
﹃美咲様が汚││﹄
︵⋮⋮⋮⋮⋮⋮︶
││││││
﹁はぁ∼⋮⋮さっぱりした♪﹂
!
?
25
?
﹃ゴミ。死ね﹄
!!
﹂
風呂はいい文明。すっかり癒された気分だ。
姉ちゃん
﹁上がったぞ∼。⋮⋮ん
いはず⋮⋮
﹂
﹂
?
﹁⋮⋮最近、嫌がらせを受けてないか
俺はその言葉にドキッとした。
﹂
なんで姉ちゃんが知ってるんだ
﹁な、何のこと
!?
あったんじゃないかと思ってな⋮⋮﹂
﹁い や、最 近 お 前 が す ご く 疲 れ て い る よ う に 見 え た か ら な。何 か
?
﹂
が遅くなることは何回かあったけど、それだけで怒るような人じゃな
姉ちゃんの様子がおかしい⋮⋮俺なんかしたっけなぁ∼⋮⋮帰り
﹁な、なに
夕食を半分以上食べ終わると、姉ちゃんが口を開いた。
﹁⋮⋮涼介﹂
流れているだけだ。
さっきから一言も喋っていない。TVから出ている音声が虚しく
き、気まずい⋮⋮どうしてこうなった⋮⋮
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
ながらとりあえず俺は夕飯の準備をした。
なんだろう⋮⋮さっきとはなんか様子が変だ⋮⋮そんな事を思い
﹁⋮⋮お、おう﹂
⋮⋮﹂
﹁あ ぁ。部 屋 に 戻 し て お い た ぞ。そ れ よ り 夕 飯 の 準 備 し て く れ
問う。
俺はソファーに置いてあったバッグが無いことを知り、姉ちゃんに
﹁そこに置いてあった俺のバッグは
﹂
どうした涼介
?
﹁⋮⋮ん
?
?
26
?
?
?
姉ちゃんには心配かけたくないから、バレないようになるべくポー
最近授業が難しくなってきたからそのせいじゃない
カーフェイスを意識しよう。
﹁そ、そう
あははは﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
姉ちゃんは黙ったまま俺をジッと見つめる。平常心、平常心⋮⋮
﹁うむ。任せとけ﹂
﹂
校よりもわかりやすく教える自信はあるぞ
﹁⋮⋮それならば私がいつも以上に私が勉強を教えよう。さらに学
?
枚も入っていなかった。
涼介の靴箱に何かを詰めている女子生徒を隠れた場所で見ていた。
︵やはりな⋮⋮︶
数十分前││
向かった。
まぁ、なにしろ平和なのはいいもの。俺はあまり気にせずに教室へ
︵どいうことだ⋮⋮相手も飽きたのか
︶
翌日。靴箱を開けたらあら不思議。あの嫌がらせの大量の紙は1
﹁なん⋮⋮だと﹂
││││││
︵安心しろ⋮⋮私が、必ず守るからな⋮⋮︶
俺は食べ終わった食器を片付けて部屋へと向かった。
﹁うむ。私もすぐそちらへ向かおう﹂
﹁ご馳走様。先に部屋戻ってるからね﹂
紙は処分しておこう。
危うくバレる所だった。なんとかなったみたいだな⋮⋮後であの
﹂
ならお願いしよっかなぁ∼
?
﹁そ、そう
!
?
27
?
!?
女子生徒がそこから立ち去ると私は涼介の靴箱の中を確認する。そ
こにはグシャグシャに詰められた大量の紙が入っており、紙には涼介
への暴言が書かれてあった。
︵⋮⋮⋮︶
私はそれを取り出し、ビリビリに引き裂いた。
︵愚か者めが⋮⋮私の涼介に手を出すとどんな目にあうか⋮⋮思い知
らせてやる︶
放課後、三階の
そう決心して、引き裂いた紙くずをゴミ箱に捨てた。
⋮⋮⋮
1ー4
︵ここだな︶
﹂﹂
﹁失礼する﹂
﹁﹁
﹂
私は一年生のクラスの引き戸を開ける。
私でしょうか
﹂
﹁ああ⋮⋮ちょっとお前に大事な話があってだな
学習室まで来てくれないか
﹁そ、それって⋮⋮///﹂
彼女に近づきそして耳元で
﹁イイことをしてやるからな⋮⋮﹂
と囁いた。こんな誘ってる感じの行為は涼介以外としたくないん
だが我慢。
﹁はぅあ///﹂
﹂
﹂
彼女は赤面して、パタッと倒れる。用は済んだので私はこの教室か
ら立ち去った。
この子と何かあったのですか
!?
美咲様に誘われるってどいうことよ
﹁ちょっと美咲様
﹁ちょっと田中
!?
!
﹁ふぇ∼///⋮⋮美咲さまぁ∼///﹂
!
28
﹁⋮⋮ん、そこの君﹂
﹁は、はいっ
!?
そしてある女子生徒1人を指名した。
!
三階にある学習室はあまり人が通らず、使われていない教室だ。
?
?
!?!?
出ていった教室が女子達によって騒がしくなる。全く、何を騒いで
いるやらか⋮⋮しかし、あんなことをするのは二度とゴメンだ。
﹂
だが、涼介に耳元で愛を囁いてその気にさせるのも悪くない⋮⋮ふ
ふふっ♪
1ー2
﹁ぶえっくし
﹂
﹁おいおいどうした涼介。そんな盛大なくしゃみして﹂
﹂
﹂
﹁いや、なんか急にゾクッと寒気がしたような⋮⋮
﹁風邪か
﹁そうじゃないっぽい⋮⋮何だったんだ今の
︵まぁいいや︶
││││││
放課後││
三階 学習室
?
朝誘った女子生徒がいた。
﹁ちゃんと来たな﹂
﹁あっ、美咲様⋮⋮///﹂
そんなメスの顔してこっちを見るな、汚らわしい⋮⋮
﹁まぁこの椅子に座ってくれ﹂
私は机に上げられていた椅子を取って、彼女の前に置く。
﹁はい、ありがとうございます﹂
﹂
彼女はすんなりと座ってくれた。ちなみに私が彼女の背後にいる
形だ。
﹁それで⋮⋮なんで呼び出したんですか
と彼女は期待の眼差しを向けてくる。
だ﹂
﹁まぁまぁ。とりあえずこれを飲んでくれ。私が直々に作ったお茶
?
29
!
机が全て後ろに下げられていて、半分はスペースがあり、そこに今
?
?
いただきます﹂
そう言って私はお茶の入った水筒差し出す。
﹁はいっ
﹂
彼女はそれを取って、蓋を開けて中に入っているお茶を飲む。
﹁⋮⋮ふぅ、美味しいです
﹂
なんでしょう
﹁⋮⋮⋮﹂
﹄
美咲様のためならどんなことでもお答えし
﹃私の涼介に嫌がらせをしていたのは君か
﹁そうか⋮⋮ならば聞こう⋮⋮﹂
てみせます
﹁はい
﹁実は、君に聞きたいことがあってだな⋮⋮﹂
いい感じに彼女は飲んでくれた。これならば⋮⋮
﹁そうか、それは良かった﹂
!
のだ。
﹁⋮⋮なにを言ってるんですか
ないですか⋮⋮って、えっ⋮⋮
﹂
﹂
!
!?
今のは違うんです ︶ち、違いません
﹂
今の
﹁︵虐めてるわけがないじゃないですか∼︶虐めたに決まってるじゃ
﹁アハハハッ。何を言ってるんですか∼﹂
君かと聞いたんだ﹂
﹁なにって、その言葉通りさ。天野涼介を嫌がらせをしていたのは
?
一瞬。ほんの一瞬だけ、彼女の眉がピクッと動いた。反応を見せた
?
!
!? !
!
どうやら、薬の効果はバッチリみたいだ。
⋮⋮
﹁︵ち、違うんですよ
﹂
は全部事実です
﹁ほう⋮⋮
!
あの水筒の中に﹃自白剤﹄を混ぜておいたのだ。彼女は今、嘘をつ
?
30
!
!
!
けない状態である。
﹁うそっ⋮⋮なんで
﹁︵だから
どうして
﹂
﹂
︶だから
﹂
私はそんなこ
だっけ。君はなんでそんなことをしたんだ
⋮⋮ってなんでっ
私はそんなことしていません
とをしました
!
﹁さて、田中さん
彼女も自分が嘘をつけないことに混乱している。いいザマだ。
!?
!?
!
?
﹂
?
﹂
!
﹁無駄だ﹂
ガシッ
﹂
﹁きゃっ
!
﹁やめて
放してっ
﹂
彼女は必死に足掻くが無意味だった。
﹁いいから、私に全てを教えてくれないか⋮⋮
?
の笑顔を、あの方は見られることができる⋮⋮美咲様と話をしている
﹁美咲様と気軽に話ができる殿方。私達には向けてくれない美咲様
実を語った。
自白剤の効果がさらに効いてきたみたいだ。彼女はペラペラと事
﹁⋮⋮だって、妬ましかったですもの⋮⋮﹂
私が彼女の耳元で優しく囁くと、彼女の動きはピタリと止まった。
﹁あっ⋮⋮﹂
﹂
﹁私から逃げようとは⋮⋮全く愚かな奴だ⋮⋮﹂
私は彼女の腕を掴んで背負い投げをし、彼女を拘束する。
ドサッ
﹁ふんっ⋮⋮
やめて
﹁いや
!
!
﹂
彼女は椅子から立って逃げようと図るが⋮⋮
﹁ひっ⋮⋮﹂
れないか⋮⋮
﹁君はもう嘘をつけない状態にあるんだ。大人しく真実を教えてく
!
!
?
?
!
31
!
!
!
妬ましかった
あの方の幸せそうな雰囲気⋮⋮﹂
﹁私がそれが羨ましかった
﹂
あれをこの学校から静かに消してしまえば
向けてくれると思ったから
くだらない⋮⋮実にくだらない
﹁⋮⋮ふん。くだらんな﹂
﹂
だから消そうとした
私達に美咲様が笑顔を
!
い世界に興味はないからな⋮⋮﹂
﹁なんでっ⋮⋮なんでそんなにあれのどこがいいんですか
﹁なんでって⋮⋮
﹂
あいつは私の全てだからだ。
プスッ⋮⋮
﹁いっ⋮⋮
!?
けまい。
先程私が打ったのは媚薬効果のある催眠薬だ。しばらく身体は動
﹁みさき⋮⋮さまっ⋮⋮はぁっ⋮⋮体が⋮⋮あついっ⋮⋮﹂
る。
んと成功するかを確かめたいから学習室から少し離れた場所に隠れ
そして彼女の拘束を解き、私は教室から出ていった。次の罰もちゃ
﹁ちゃんと話してくれた褒美だ。ゆっくりと楽しむが良い﹂
﹁なにをっ⋮⋮﹂
﹂
するし、どんな手段を使ってでもあいつと一緒に居たい。涼介がいな
に行こうとしたら私も付いて行く。あいつが望むことならなんでも
﹁もし涼介が学校辞めたら、私も辞めるつもりだ。あいつがどこか
﹁そのような理由で涼介を消そうなど⋮⋮くだらない⋮⋮﹂
﹁ッ⋮⋮
!
!
!
!
私は彼女の腕に注射器を刺して、薬を流し込む。
!
32
!
数分後││
﹁全く⋮⋮一体どういうことだ⋮⋮
﹁おっと⋮⋮ここか
﹂
﹂
﹁なんで、ぼくにこんな手紙が⋮⋮﹂
﹃今日の放課後、17:45に学習室に来てください。﹄
?
﹂
﹂
ければ、あなたの体で鎮めてくれませんかぁ
﹁なっ⋮⋮
﹂
?
﹁⋮⋮ふひひっ。今日で、童貞卒業だ
やったぜ
﹂
ふひひひっ
!
﹂
!
﹂
﹁涼介⋮⋮涼介っ
!
︶
︵涼介が危ない⋮⋮
!
り、全速力で家に向かって走った。
そこには信じられない光景が映っていた。私はスマホの電源を切
﹁なっ⋮⋮これは⋮⋮﹂
像をスマホで流す。
心配になった私はリビングに予め仕掛けてある小型監視カメラの映
すっかり帰りが遅くなってしまった。涼介はもう帰っただろうか。
私は安心してその場から立ち去った。
どうやら成功したみたいだ。ゆっくりと快楽に堕ちるがいいさ。
﹁きゃっ♡美咲様ぁ∼♡んっ⋮⋮あんっ⋮⋮﹂
!
?
﹁美咲様ぁ⋮⋮私、身体が熱くなっちゃって、変なんですぅ∼⋮⋮よ
いるみたいだ。
る。どうやら薬の効果は抜群らしく、あの男のことを私と勘違いして
私は聞き耳を立てて、学習室の状況を2人の会話で理解しようとす
﹁⋮⋮は
﹁あっ⋮⋮♡美咲様⋮⋮♡﹂
﹁失礼します﹂
ちゃんと守ってくれたみたいだな。
習 室 に 来 る よ う に 書 い た 手 紙 を 直 接 渡 し た の だ。時 間 ピ ッ タ リ。
ここの生徒であるキモデブ男子が学習室に入る。私はそいつに学
?
﹁私もう我慢できません⋮⋮ねぇ⋮⋮私を⋮⋮抱いて
!
33
?
││││││
﹁ただいま∼﹂
今日は珍しく靴箱での嫌がらせはなかった。もう犯人も俺が反応
みせないから飽きたのだろう。こういうのはほっとくのが一番だ。
﹁あら、帰ったのね﹂
﹁なっ、母さん⋮⋮それに⋮⋮﹂
リビングに入ると珍しく母が台所で料理をしていて、
﹁⋮⋮父さんも﹂
﹁⋮⋮何だ、お前か⋮⋮ヒック﹂
まだ5時過ぎだというのに酒を飲んでいる父親がいた。
﹂
正直、俺はこの2人が苦手だ。もちろん育ててくれたことには感謝
ガキは引っ込んでろ
34
しているが何故だろう⋮⋮俺はこの2人が苦手だ。
俺の勝手だろうが
﹂
﹁ごめんなさいね。あの人、今不機嫌なの﹂
﹁なんで
﹁これよ﹂
母親はある用紙を取って、それを俺に渡した。
﹁これは⋮⋮姉ちゃんの全国模試の結果表﹂
︵しかも最近のだ⋮⋮︶
﹁なんだと⋮⋮﹂
俺は小さな声でそう呟いたつもりが⋮⋮
⋮⋮﹂
﹁確 か に ⋮⋮ 俺 が い つ も 姉 ち ゃ ん に 勉 強 教 え て 貰 っ て る か ら か な
⋮⋮それで今とっても不機嫌なのよ⋮⋮もちろん、私もね﹂
﹁そう。あの娘、いつもは1位とってくるのに、今回は10位なのよ
!
﹁こんな時間から酒飲んじゃって⋮⋮﹂
﹁うるせぇ
﹁⋮⋮⋮﹂
!
父親の態度にイラッとするが耐える。
!
俺は母親に問いかける。
?
この糞ガキ
なぜか父親にはしっかり聞こえてたみたいだ。
﹂
﹁美咲の成績が下がったのは、お前の所為か
﹁うわっ
﹂
!
﹁ぐあっ⋮⋮
﹂
咄嗟に腕で防ぐが、父親はすでに目の前に近づいていて
の瓶を俺に投げつけた。
父親は表情を怒りに変え、テーブルに置いていた酒が入っていた空
!
お前の所為か
やめてください
﹂
!
か
こんな馬鹿な事はやめなさい
﹂
﹁そんなことをしてたら、世間に悪く思われてしまうじゃないです
母親は血相を変えて、父親を止めようとする。
﹁あなた
うまく体を動かすことができず、俺は一方的に殴られるだけだった。
倒れている俺にさらに追撃をかける父親。頭を打ち付けられた為、
!
片で頭を傷つけられてしまう。
﹁お前の所為か
!
﹁がっ⋮⋮あっ⋮⋮﹂
﹂
空の瓶で俺の頭を殴りつける。殴った時にバリンと割れて、瓶の破
!
酒をもってこい
﹂
んなんだ⋮⋮この2人は⋮⋮
﹁ちっ
!
!
﹂
!
││││││
俺の腹に母親の蹴りが入った所で、俺は意識を失った。
﹁うぐぁっ⋮⋮││﹂
するんじゃないよ⋮⋮
﹁一応、救急車は呼んであげる⋮⋮もう二度と、こんな馬鹿なことを
母親は俺の身を心配するどころか、恨んでいた。
﹁全く⋮⋮ほんとうにやってくれたわね⋮⋮﹂
頭がグラグラする。徐々に意識が薄くなっていくのがわかった。
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
父親はそう叫んでテーブルの所まで戻って行った。
!
35
!
!
もちろん、俺の心配ではなく世間、周りの目の心配をしていた。な
!
│││⋮⋮
誰だ⋮⋮
│││⋮⋮
誰かが⋮⋮呼んでる⋮⋮
│││⋮⋮
そんな悲しそうな声で呼ばないでくれよ⋮⋮
│││⋮⋮すけ
この声は⋮⋮
﹁⋮⋮ん﹂
│││涼介
姉ちゃん⋮⋮
│││りょうすけ
!
そ こ に は 今 に も 泣 き そ う な 表 情 を し て い る 姉 ち ゃ ん が い た。姉
﹁姉ちゃん⋮⋮﹂
﹁涼介⋮⋮﹂
目を開けるとそこは見知らぬ天井。ここは一体⋮⋮
!
ちゃんのそんな顔は初めて見る。
﹁良かった⋮⋮﹂
36
!
!
!
!!
姉ちゃんは安心したように、俺に微笑んでくれた。あぁ⋮⋮姉ちゃ
んの笑顔⋮⋮綺麗だな⋮⋮
﹁ここは⋮⋮﹂
涼介⋮⋮
﹂
﹄
﹄
周りを見渡してとりあえず状況を整理する。どうやらここは市立
お前の所為で
の病院みたいだ。俺は運ばれて来たのか⋮⋮
﹃お前の所為で
﹁大丈夫か
頭に痛みを感じ、俺は頭を抑える。
﹁うっ⋮⋮﹂
﹃もう二度と、こんな馬鹿なことするんじゃないよ⋮⋮
!
姉ちゃんは冷静な顔でそう言った。あくまで自分達がやったとは
た。という事になっている⋮⋮﹂
﹁階段から落ちて、その衝撃で棚に置いてあった花瓶が頭上に落ち
﹁⋮⋮俺の怪我の原因は⋮⋮﹂
姉ちゃんは深々と頭を下げ、先生は病室から出て行った。
﹁ありがとうございました﹂
帰宅なさってください。お大事に﹂
﹁いえいえ。ではあと2時間で消灯時間なのでお姉さんもはやくご
﹁わかりました。お世話になります﹂
3日入院してもらうことになりますが⋮⋮﹂
はしたのですが、頭からの出血で脳に異常がないか検査するため、2、
﹁頭に擦り傷と何か打ち付けたような傷跡がありました。一応治療
﹁先生⋮⋮俺は⋮⋮﹂
すると病室のドアが開き、病院の先生が入ってきた
﹁目が覚めたようですね﹂
るのか⋮⋮
嫌な記憶を思い出す。俺はあいつらの所為でこんな事になってい
﹁あ、ああ。大丈夫だよ﹂
!
﹂
言わないんだな⋮⋮世間の目があるから⋮⋮
﹁くそっ⋮⋮
!
37
!?
!
!
!
俺は怒りで拳を握って自分の太ももを殴る。
﹁涼介⋮⋮﹂
﹁なんなんだよ⋮⋮なんなんだよあいつら⋮⋮世間、世間、世間、世
そんなに俺らの事より自分の価値が大切なのかよ⋮⋮
間って⋮⋮
││││││
由もなかった。
その時の姉ちゃんの顔が物凄く冷徹な表情であったのを俺は知る
︵あの2人を⋮⋮殺す⋮⋮︶
俺はしばらく姉ちゃんの傍で、泣いた⋮⋮
﹁姉ちゃん⋮⋮﹂
そして頭を優しく撫でてくれた。
ぞ⋮⋮﹂
﹁大丈夫だ。心配しなくてもお前には私がいる。私が⋮⋮傍にいる
俺は姉ちゃんにギュッと優しく包んでくれた。
﹁涼介⋮⋮﹂
道具として使われていたのが⋮⋮悔しかった。
ない。だが実の娘を愛すことをせず、姉ちゃんが優秀な家である為の
気づけば俺は悔しさで涙を流していた。俺がどう使われても構わ
﹁くそっ⋮⋮くそっ⋮⋮﹂
ない。そう思う事しかできなかった。
よっていうのをアピールして、輝きたいから。俺達はその道具にすぎ
全 部 世 間 に い い よ う に 見 ら れ た い か ら。周 り に 優 秀 な 家 庭 で す
天涯孤独な俺を引き取って、育ててくれたのも⋮⋮
姉ちゃんに成績を無理に上げさせようとしたのも⋮⋮
とが理解した。
再び太ももを殴る。俺はこの時、ようやくあの2人の考えているこ
﹂
くそがっ
!
38
!
!
翌日⋮⋮
﹁⋮⋮⋮﹂
﹂
涼介の居ない、朝食の時間。それはとてもつまらないものだった。
﹁あなた、本当にいいのですね
﹁む
これは⋮⋮﹂
﹂
これでお前はまた一人っ子になってし
﹁父さん、母さん。これ⋮⋮﹂
父が少し機嫌が良くなる。そろそろいいだろう。
﹁うむ。流石、私の娘だ﹂
いいわけないだろうが。
﹁⋮⋮はい。私もそれでいいです﹂
まうが、お前のためだ。わかったな
﹁美咲もそれでいいだろう
2人の会話を私は怒りを沈めてただ黙って聞いていた。
﹁⋮⋮わかりました。そうしましょう﹂
ては正直邪魔だ﹂
確保してある。そろそろもう1人で暮らせる年だろう。あいつがい
﹁あぁ。あいつをここから追い出す。もうあいつが住むアパートも
?
せっかくだから用意してみました﹂
﹁それは温泉のチケットです。2人ともここ最近仕事詰めで疲れて
いるでしょう
﹁美咲⋮⋮﹂
2人は荷物を持って家を出る。そして車に乗り込んで、車を発進さ
﹁行ってらしゃい⋮⋮﹂
﹁行ってくるね、美咲﹂
﹁じゃあ、留守番よろしく頼むよ﹂
││数時間後
⋮⋮
父 と 母 は 感 動 し て お 礼 を 言 う。ど う や ら す ん な り と い き そ う だ
﹁ありがとう⋮⋮美咲⋮⋮﹂
﹁⋮⋮わかった。すまないな美咲﹂
﹁私は家で勉強していますから⋮⋮2人で楽しんできてください﹂
?
39
?
?
私は父に2枚の紙切れを渡す。
?
せた。
﹁ふふふっ⋮⋮﹂
さよなら
⋮⋮⋮⋮
高速道路│││
﹁まさか美咲がこんなの用意してくれるなんて⋮⋮いい娘になりま
したね⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹂
﹁そうだな⋮⋮おっと、そろそろ下りだな⋮⋮ってあれっ⋮⋮﹂
﹁どうしました
なぜ効かない
﹂
それどころか制動距離が伸びてきている
ちょっと、それってどういうことですか
﹁なっ⋮⋮ブレーキが効かない
﹁えっ
﹂
﹁くそっ
⋮⋮
﹂
くそっ
﹂
どうにかしなさいよ
なぜなんだ
﹁ちょっと
﹁くそっ
止まれぇぇぇ
﹁あっ⋮⋮あっ⋮⋮﹂
﹁止まれぇ
うわああああああああああっ
⋮⋮⋮⋮
!?
!
?
﹃ニュースです。先程、高速道路で大規模な事故が起き、現在渋滞中で
す。事故に会った、天野成さんと天野美香さんの2人の死亡が確認さ
れました。今の状況を現場からお伝えします││﹄
40
!?
市立病院││
!
!
!
!
!!
!
!
!
!
!
!
病院のTVのニュースでそれを聞いた俺はなんとも表現しにくい
複雑な感情になった。
﹁⋮⋮ははっ⋮⋮ざまぁみろ⋮⋮日頃の行いが悪いからこうなるん
だ⋮⋮﹂
2人の死を嘆くべきか、喜ぶべきか、わからなかったが、何故か俺
の目から涙が出ていた。いくら最低な奴らだけども、天涯孤独だった
俺を引き取ってくれてここまで育ててくれたんだ。なんとも思わな
いわけがない。だから余計に複雑な気分になった。
2日後││
﹁ただいま﹂
﹁おかえりだ。涼介﹂
あれから2日後の夕方。俺は無事退院する事ができた。
﹂
﹁いやぁ∼久しぶりに、帰ってきたなぁ∼⋮⋮﹂
﹂
﹁ふっ。今日の夕飯は退院祝いでご馳走だぞ
﹁やったぜ
姉ちゃんの作ってくれたご飯はめちゃくちゃ美味かった。
お互い風呂も済ませて、2人で静かにTVを見ていると時刻は深夜
を過ぎていた。
﹁ふあ∼⋮⋮そろそろ寝るかな﹂
﹁そうだな⋮⋮﹂
﹂
そしてTVを消して寝る準備をすると、ふと目にこの前父親が飲ん
でいた酒の空瓶が目に入る。
﹂
﹁⋮⋮なぁ、姉ちゃん﹂
﹁なんだ
俺はふと思った事を姉ちゃんに聞いてみる。
﹁父さんと母さんが死んだ時、姉ちゃんはどう思った
﹁⋮⋮⋮﹂
41
!
そして俺達は姉ちゃんの作ってくれたご馳走を頬張った。久々の
!
自分でもちょっと嫌な質問しちゃったなと思う。
?
?
﹁ごめん。今のはわすれ││
﹁わからない﹂
俺が謝ろうとすると姉ちゃんは口を開いてそう言った。
﹁確かに、私はあの二人のことを好ましくは思っていなかったし、
いっそ消えればいいと思ったこともある。だが、いざ本当に消えてみ
ると複雑な気分になるよ⋮⋮一応あれでも、私の親なんだからな⋮⋮
おかげで、私も天涯孤独の身だ﹂
﹁姉ちゃん⋮⋮﹂
﹁だがな、私はあの2人よりもお前がいなくなる方がもっと嫌だ﹂
﹂
そう言って姉ちゃんは俺に抱きついてくる。
﹁ちょ、姉ちゃん
﹁涼 介。お 前 が 何 を 思 っ て ど こ に 行 こ う が 私 は 付 い て い く つ も り
だ。両 親 に 続 い て お 前 も 失 っ て し ま っ た ら 私 は 耐 え ら れ な い ⋮⋮。
お前が望むことならなんでもするし、なんでもさせてあげよう﹂
﹁だ か ら ⋮⋮ 私 の 傍 を 離 れ な い で く れ ⋮⋮ ず っ と 一 緒 に い て く れ
⋮⋮もう1人は⋮⋮嫌だ⋮⋮﹂
姉ちゃんの抱きつく力が強くなり、声を出さずに静かに泣いてい
た。
﹁姉ちゃん⋮⋮﹂
﹂
俺は姉ちゃんを抱き返した。
﹁りょう⋮⋮すけ
﹁俺でよければ、ずっと一緒に居るよ。もう姉ちゃんに悲しい思い
﹂
はさせない⋮⋮﹂
﹁⋮⋮
ないのに⋮⋮
42
?
?
あぁ⋮⋮チョロイなぁ俺。義理の姉にこんな感情を抱くのはいけ
!
﹁好きだよ⋮⋮姉ちゃん﹂
﹁私も⋮⋮お前が大好きだ、涼介﹂
そしてお互いに見つめ合う。姉ちゃんの泣き顔を見るのはこれで
2度目だが、その顔は悲しいのではなく、嬉しそうだった。
徐々にお互い顔の距離が近づき⋮⋮
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁んっ⋮⋮﹂
唇と唇が触れ合った。
﹁んぅぅ⋮⋮ん⋮⋮ちゅ⋮⋮んっ﹂
姉ちゃんがそこから舌を絡ませてくる。それに応えて、俺も舌を入
れた。
﹁っちゅ⋮⋮んっ⋮⋮はあっ﹂
息が苦しくなって唇を離す。口から1本の唾液の糸が垂れた。 そして姉ちゃんが1歩離れると、服を脱いだ。女性の綺麗な肌が顕
43
になる。
﹂
﹁涼介⋮⋮私を⋮⋮お前の女にしてくれ⋮⋮﹂
﹁ッ
そしてこの夜、俺はめでたく童貞を卒業した。
それを聞いて俺の理性はぶっ飛んだ。
﹁⋮⋮好きにしていいぞ、涼介♡﹂
そして姉ちゃんが俺の顔をぐいっと寄せて耳元で囁かれた。
初めてを⋮⋮﹂
﹁遠慮する必要は無い⋮⋮私はお前にもらって欲しいんだ⋮⋮私の
て、少し躊躇っていたが⋮⋮
俺はその場で姉ちゃんを押し倒す。しかしまだ俺には迷いがあっ
!!
翌日││
﹁すまんな、遅くなった﹂
ジロジロと見て
﹁あぁ。って、おお⋮⋮﹂
﹁な、なんだ
﹁ごほん⋮⋮﹂
﹂
﹁あ、えっと⋮⋮可愛いよ、美咲﹂
!
﹁うん。よろしい♪﹂
!
︵姉ちゃんを改めて名前で呼ぶのは慣れねぇなぁ⋮⋮︶
﹂
﹁いや、気合の入った私服姿の姉ちゃんも綺麗だなって⋮⋮﹂
?
私達の初デートだぞ
﹂
!
﹁さぁ、早く行こうじゃないか
﹂
!
﹁そうだな。今日は思いっきり楽しもうぜ
﹁ふふふっ♪﹂
愛しているぞ、涼介
44
?
行こう、涼介﹂
﹁うむ
!
ねぇちゃ⋮⋮美咲
﹁あぁ
!
絶対離さないから
﹁⋮⋮⋮﹂
残って勉強をしている。
今日も残ってるんだね
?
﹂
?
∼♪∼
れ始めた。
﹁じゃあそろそろ帰るかな。じゃあね
﹁うん。じゃ﹂
﹂
気づけば夜の19時になっており、完全下校時刻時に流れる曲が流
﹁あっ⋮⋮もうこんな時間﹂
♪∼
﹁うん。ありがと﹂
送っとくからさ﹂
﹁あ い つ の こ と だ か ら 大 丈 夫 だ よ。心 配 な ら 今 日 あ い つ に メ ー ル
だ。病気で寝込んでいるだけだといいけど⋮⋮
そういえば3日前にメールを送ったが、未だに既読がつかないまま
ね。何かあったのかな⋮⋮
﹁あ の 元 気 で 真 面 目 な 佐 藤 君 が こ ん な に 長 く 休 む な ん て 珍 し い よ
くらい前に病気ということで休んでいる。
佐藤 拓也。同じクラスの男子で僕の友人の1人であるが、1週間
事がこっちにまわってきちゃってね∼⋮⋮﹂
﹁ほんと疲れたよ∼。まったく⋮⋮ここ1週間、佐藤君が休みで仕
﹁河原さんか。お仕事お疲れ様﹂
図書室で仕事をしている河原 梅子さんに声をかけられる。
﹁あれ
﹂
6月の下旬。そろそろ期末試験の時期なので僕は学校の図書室に
!
どうして僕が家に帰りたくないって
別に家が貧乏なわけでもな
いる。今回は期末試験が近いため、学校に残っていた。
たくない。だからこうやってギリギリまで時間をできるだけ潰して
普通の眼鏡男子高校生である僕こと原口 護はあまり家には帰り
バッグに入れて図書室を退室し、学校を出た。
河 原 さ ん が バ ッ グ を 持 っ て 図 書 室 を 出 る。僕 も 勉 強 道 具 一 式 を
!
?
45
?
いし、親が暴力ばっかり振るう悪い人達でもない。むしろ優しくてと
てもいい両親だ。
ただ⋮⋮ある1人の人物のせいで、家に帰りたくないと思ってしま
うのだ⋮⋮
﹁ただいま∼⋮⋮﹂
自宅の玄関の扉を開けて、家に入る。
﹂
するとドタドタと誰かが走って来た。
﹁おっかえりー
そして走った勢いでギュッと僕に抱きついてくる。
お兄ちゃん
﹂
﹁はぁ⋮⋮ただいま。優里香﹂
﹁お帰り
!
香だ。
﹁ん∼っ
お兄ちゃんの匂い⋮⋮///﹂
そろそろ離れてくれない
﹂
優里香は僕の体に密着して匂いを嗅いでいる。僕はため息を吐い
て
﹁もういいだろ
?
﹁お兄ちゃんは相変わらず真面目だね∼﹂
﹁それしか取り柄が無いだけだよ。あとそろそろ離れて
?
﹁あん⋮⋮もうお兄ちゃんったら⋮⋮意外と強引なんだから♪﹂
そう言いつつ僕は無理矢理密着していた優里香を引き剥がした。
けない﹂
部屋に行
﹁それは、テストが近いから学校に残って勉強してるんだよ﹂
﹁いや。だって今日もお兄ちゃん帰り遅かったじゃん﹂
と優里香に言った。
?
46
!
そう。帰りたくないと思う原因は、僕のいっこ下の妹。原口 優里
!
!
﹁五月蝿い﹂
﹁ぶー⋮⋮﹂
覚えてるわけがない。気づいたら
そんな可愛い顔でぶすくれてもダメだからな⋮⋮。いつからこん
なにデレデレになったんだっけ
﹁ふーん⋮⋮﹂
CかDくらいは⋮⋮もしやそれ以上はあ
﹂
そんなエロい体してる優里香は巨乳好きの中学男
今卑猥なこと考えてなかった
﹁滅相もございません﹂
﹁ちょっとお兄ちゃん
子からしたらいいオカズであろう⋮⋮
るんじゃないか
は思えないその豊富な胸
155cmくらいの身長に飴色のショートヘアー、そして中学生と
ツでもコツをつかんでしまえば、やりこなせる感じだ。
な人気者らしい。特に優里香は運動神経が抜群に良く、どんなスポー
優里香は中学三年生で明るい性格の持ち主であり、中学校では結構
│││││
原因が知りたいよまったく⋮⋮
優里香が異常なほどに僕に執着していたのだ。なんでこうなったか
?
そんなことを考えながら僕達は今家族で夕食をとっている。
﹁あらまぁ。護ちゃんもそんな年頃なのねぇ∼﹂
母さんはいつもののほほんとした雰囲気で言う。
﹁お前の年齢の時はちょうど思春期真っ盛りだからな。その事に興
味があるのは普通のことさ。うんうん﹂
今度俺と一緒に巨乳もののエロ
そして父さんも納得したようにそう言った。
そうだ
!
﹁だから考えてないってば⋮⋮﹂
﹂
﹁隠さなくていいんだぞ
本を││
﹁あ な た ?
母さんは笑顔だが、その目は笑ってはいない。
?
47
!
?
まあそんな妹に欲情してしまうような愚か者ではないぞ僕は。
?
?
﹁ひっ⋮⋮じ、冗談だよ
あっはっはっはっは﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
全く母さんったら本気にしちゃってー
父さんに母さんと優里香のジトーっとした痛い目が突き刺さる。
﹁⋮⋮⋮﹂
景だ。僕はそれを華麗にスルーしながら箸を進める。
そして勝手に和解して、2人でイチャイチャし始める。いつもの光
﹁あなた⋮⋮///﹂
るのは君だけだよ、母さん⋮⋮﹂
﹁ごほん⋮⋮安心しろ。俺はどんなにエロい子が来ようが、愛して
!
断じて
と優里香に目で訴
そして隣にいる優里香はチラチラと俺の方を伺う。断じてあの2
人のようにイチャイチャしないからな
える。
﹁ぶー⋮⋮﹂
!
どうやら伝わったみたいだな。優里香がぶすくれている。
!
ご馳走様
﹂
﹁ねぇ∼。私達もお母さん達みたいにイチャイチャ││
﹁だからしないからね
!?
﹁そうかな⋮⋮
﹂
﹂
﹂
がんばるよ私
﹂
﹁きっとそうよ。だから優里香も頑張って
届くわ
﹁⋮⋮うん
﹁へっくしょん
た。僕はスマホの電源を入れ、あの某メールアプリを開く。
あ、そういえば今日は拓也にメールを送らなきゃいけないんだっ
なんだ⋮⋮急に寒気が⋮⋮気のせいかな。
あなたの想いはきっと
﹁うふふ。あれはあれで結構恥ずかしがってんのよ、あの子は﹂
﹁もぅ⋮⋮最近お兄ちゃん冷たいなぁ∼﹂
いそいそと部屋へ戻った。
一刻も早くここから逃げ出そうと俺は食べ終わった食器を片付け、
!
48
!
!
!
?
!
!
!
<拓也∼。生きてますか∼
︿⋮⋮護ぅぅぅぅう
拓也の個人チャットに送る。すると今日は直ぐに既読が付いた。
?
<どうしたんだ
あえず何があったのか様子を見よう。
すると拓也からの返信は助けを求めるような内容であった。とり
︿・゜・︵つД`︶ノタスケテー
!
︵
ω
︶
俺はバリバリ元気だよ
<病気で休んでたんじゃないのか
︿違うよ
︵ ω` ︶
?
︿い や ね ⋮⋮ わ た く し ち ょ っ と 非 常 に 危 険 な 状 況 に な っ て て ね ⋮⋮
?
<ならなんで、2週間も休んでるんだよ。河原さん怒ってたぞ
!
<おう。言ってみ。
´
︵ 。`│ ω │
。︶ノシ
俺はバリバリ元気で、もうすぐ脱出できるよう頑張るか
︿あ、やばい帰ってきた
<ん
じゃ
︿とにかく
ら
危険な状況
脱出
あいつは一体どんな目にあってるんだ⋮⋮と
?
︵その前にトイレ行こうっと⋮⋮︶
深夜0時を過ぎ、そろそろ眠気がさしてきた頃なので寝るとする。
﹁ふぅ⋮⋮そろそろ寝ようかな﹂
2時間後││
││││││
続きをしよう⋮⋮
りあえず元気そうだったし、心配はないだろう。さて、テスト勉強の
?
そこから先は既読が付かなくなった。
<お、おい
!
!
!
´
︿実はな⋮⋮
︿うわ、マジか∼。仕事のことだろうなぁ⋮⋮申し訳ない︵ ・ω・`︶
?
´
º
?
49
!
!? ?
º
!
そう思って僕は部屋を出る。
││数分後
再び部屋に戻ると、僕がベッドの上に掛け布団を綺麗に畳んでいた
はずなのに、それが綺麗に広げられている。
︵はぁ⋮⋮またか⋮⋮︶
僕は呆れながら掛け布団をめくると、
﹁温めておいたよ、お兄ちゃん♪﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹂
妹の優里香が僕のベッドに入っていた。これもいつものことであ
る。
﹁はぁ⋮⋮優里香、お前毎日こんなことして飽きないのか
そこにお兄ちゃんの匂いがあるからいいんだよ
﹂
むしろお兄ちゃんのベッドはフカフカでいい匂いするから
﹁違うもん
﹁優里香のベッドと僕のベッドは同じやつだろ⋮⋮﹂
こっちが寝心地いいの∼﹂
﹁全然
?
﹂
﹂
!
学校だからさっさと寝よう⋮⋮
僕は安堵したようにふぅ⋮⋮とひと息ついてベッドに入る。明日も
そ し て ス タ ス タ と 優 里 香 が 自 分 の 部 屋 に 帰 っ て い く 足 音 が す る。
﹁もぅ⋮⋮﹂
そして僕は部屋のドアを力強く閉めて、鍵をかけた。
﹁僕にとっては充分恥ずかしいっての。はいお休み
﹁お兄ちゃんったら⋮⋮そんな恥ずかしがらなくてもいいのに﹂
る。
僕は無理矢理に妹をベッドから引きずり出し、部屋を出ていかせ
!
けられる。
﹁さぁ、お兄ちゃん
私の胸に飛び込んでおいで
になる。そして何かを待っているかのような期待の眼差しが僕に向
優里香は両腕を僕の方にバッと広げ、何かを受け入れるような体勢
﹁訳わからん⋮⋮﹂
!
﹁はい帰った帰った∼﹂
!
50
!
!
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮
⋮⋮
⋮
⋮ガチャ
⋮⋮
⋮モゾモゾ
﹁うふふ♪﹂
︶
こっちは安
と安心して寝られると思ったのだが、そうはいかなかった。
︵なんで入ってきてるんすか
なんで優里香が僕のベッドにまた入ってくるんだよ
眠したいのに
﹁お兄ちゃん⋮⋮﹂
﹁zzz⋮⋮﹂
﹁⋮⋮寝てる⋮⋮よね
﹁zzz⋮⋮﹂
﹂
無視してとっとと眠りにつこう⋮⋮
理矢理にでも出ていかせるが、そんな気力は起こらなかった。今回は
こんな事になるのは今日が初めてだ。普通ならさっきのように無
!?
!?
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁zzz⋮⋮ッ
﹂
まだ眠ってはいないが、とりあえず眠っている振りをする。
?
ほんとに寝れない。色んな意味で。
!
﹁⋮⋮⋮﹂
⋮⋮なって⋮⋮│││
を考えず早く眠りにつけばどうとでもなるだろう⋮⋮ほら、もう眠く
でも僕はもう色々と面倒だし、放っておくことにした。無駄なこと
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁えへへ⋮⋮あったかいなぁ⋮⋮﹂
お願いだからやめてくれ
が回され、優しく優里香の方へ抱き寄せられる。
すると背中に2つの柔らかい感触が走る。さらに僕の腹回りに腕
!
51
!
﹁お兄ちゃん⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮んっ⋮⋮﹂
﹁んっ⋮⋮あっ⋮⋮おにぃ⋮⋮ちゃん⋮⋮﹂
﹁好き⋮⋮大好きだよ⋮⋮おにぃちゃん⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁可愛い寝顔⋮⋮うふふっ﹂
チュ⋮⋮
﹁今度は⋮⋮起きてる時に、キスしたいな⋮⋮お兄ちゃん♡﹂
ピピピッ
僕は目覚まし時計を止めて、それの隣に置いてある眼鏡をかけて起き
上がる。
隣にいたはずの優里香の姿は見当たらない。どうやら僕より先に
起きたみたいだ。
52
⋮⋮寝れるかよコンチキショーが
そして優里香の甘い攻撃を耐え続け、遂に彼女が力尽きて寝てしま
!!
うまで僕は寝れることができなかった。
翌朝││
ピピピッ
!
五 月 蝿 く 目 覚 ま し 時 計 が 鳴 る。ど う や ら も う 朝 が 来 た み た い だ。
﹁んあ⋮⋮﹂
!
昨日は優里香のせいであまり眠れていない。口の周りがベトベト
する⋮⋮今度からは寝る際に絶対優里香を入れないように厳重に閉
お兄ちゃん﹂
めておこう。そして僕は顔を洗いに寝ぼけた状態で洗面所に向かっ
た。
⋮⋮⋮⋮
﹁あっ、おはよう
﹁おう⋮⋮﹂
昨日は寝れなかった
?
る。
﹂
﹁あれ
の
お兄ちゃん、目にクマが出来てるよ
僕の元気のないことに対し、優里香は朝から元気よく挨拶してく
!
﹂
﹁ふーん⋮⋮まぁ根詰めすぎんなよ∼﹂
﹁まぁ⋮⋮ちょっとね⋮⋮﹂
クラスの男子から声をかけられる。
﹁おいおい珍しいな。お前がそんなに疲れてるなんて﹂
ていた。僕は机でぐて∼っとだらけていた。
昨日の寝不足が響いているのか、3時間目を終えた頃から疲れがき
︵疲れた⋮⋮︶
﹁はぁ⋮⋮﹂
1│1
a.m.11:20
そして高校にて││
忘れていようが、俺はちゃんと覚えてるからなこの野郎⋮⋮。
優里香はよく分からないと首をかしげる。例えお前が昨日の事を
﹁
で訴える。
誰のせいで寝れなかったと思ってるんだ。誰のせいで。とジト目
﹁⋮⋮⋮﹂
?
﹁うん⋮⋮﹂
53
?
?
︶
そう言ってクラスの男子は去って行った。僕も机に伏せて次の授
業が始まるまで仮眠をとった。
中学校にて││
﹁♪∼♪∼﹂
今日ずいぶん機嫌いいじゃん﹂
﹁どうしたの優里香
﹂
そう見える
﹂
もしかして彼氏でもできたのかな⋮⋮
﹁⋮⋮あ、そういえばノートなくなったんだった⋮⋮﹂
今日は一段と疲れた。今回は普通に家に帰って寝よう⋮⋮
﹁はぁ⋮⋮﹂
││││││
﹁♪∼♪∼﹂
︵んー、何があった
﹁まぁ⋮⋮ね⋮⋮うふふっ♪﹂
﹁うん。何かいい事あった
﹁え∼
?
本屋によって用を済ましたらすぐ帰ろう。
商店街の本屋││
﹁ノートと⋮⋮おっ、あったあった﹂
護
﹂
僕は今日発売の小説本を手に取ると、
﹁あれ
近いため、よく朝の通学で会ったりする。
していた。今は僕と違って奏は別の私立の高校に通っているが家が
に仲良くなり、よく優里香と奏で一緒に外で遊んだり、本を読んだり
奏とは小学校からの友達で、趣味が読書ということから僕達はすぐ
木原 奏に声をかけられた。
たまたまそこにいた黒髪セミロングヘアーで眼鏡少女の幼馴染み、
﹁おっ、奏﹂
?
54
?
?
そして僕が読んでいる小説の新刊も今日発売だ。仕方ない、今日は
?
?
?
?
﹁あっ、それ私まだ読んでないんだ∼。面白いんでしょ
﹁凄く面白いよ。なんたってこの本の魅力は││
帰っているのを目撃していた。
︵なんで、そんなに楽しそうに話してるの
﹂
私の時は冷たいのに⋮⋮︶
商店街の通り、たまたま買い物をしていた優里香は護と奏が一緒に
︵⋮⋮お兄ちゃん⋮⋮︶
一緒に帰った。
それから僕は奏と本のことや世間話など色々なことを話しながら
?
︶
なんでお兄ちゃんもあんなに笑顔な
ふざけないでよ。お兄ちゃんは私のものなんだよ
︵なんであの女は嬉しそうなの
の
?
︵お兄ちゃん⋮⋮
││││││
︶
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
︶
︵なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
?
?
?
﹂
?
別れ道で奏と別れ、僕はすぐそこの自宅に到着する。
﹁うん。じゃあね﹂
図書館にでも行きましょ
﹁じゃあね護。さっきは楽しかった♪時間があったら今度は一緒に
?
⋮⋮
﹂
﹁ただいま∼⋮⋮﹂
﹁⋮⋮
!
早いんだなと思いつつリビングへ入る。
く見ると父さんと母さんの靴が置いてあった。今日は仕事終わるの
玄関の扉を開けて家に入ると、何故かリビングが騒がしかった。よ
!
55
?
﹂
護ちゃん
﹁ただいま﹂
﹁あっ
﹁おかえり護
のだろうか
﹂
﹁何かあったの
﹁見てみて
﹂
﹂
父さんと母さんが嬉しさで興奮している。何かいい事でもあった
!
﹂
﹂
﹂
!
﹂
家事は優里香と2人で協力して
﹁だから今から俺達は母さんと2人で温泉旅行に行くんだ
急ですまないが留守番頼めるか
﹁え
﹁おう
今から
⋮⋮なん⋮⋮だと⋮⋮
やってくれ。お土産はちゃんといいもん買ってくるからよ
?
り⋮⋮
﹁うん
じゃあよろしく頼むよ
﹂
﹂
家のことやお兄ちゃんの事は私に任せて
いってらっしゃい﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
!
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁大丈夫だよ
﹁お∼。優里香は頼もしいな
!
﹁じゃあ2人とも、後は宜しくね。いってきま∼す♪﹂
!
!
1週間の間両親は家を空ける⋮⋮家に残るのは僕と優里香⋮⋮つま
⋮⋮まてまてまてまて。今から父さんと母さんは旅行に行く⋮⋮
?
だから
たりしちゃって、2人分の1週間分の温泉旅行券が当たっちゃったの
﹁今日買い物してて、気まぐれで商店街にあるくじ引きしたら大当
そうして母さんは2枚のチケットを取り出した。
?
?
!
そうして2人は大きなバッグを持って家を出た。
!
56
!
!
!
?
!
!
﹁⋮⋮うふふ♪﹂
﹁今日から2人っきりだね
お兄ちゃん♡﹂
﹂
!
数時間後││
﹁はい、お兄ちゃん
優里香特製オムライスだよ
こいつと2人っきりってことかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
!
﹁⋮⋮
﹂
﹂
﹁⋮⋮うん。美味しい﹂
そしてスプーンでオムライスをスプーンで掬って口に入れる。
﹁はい、召し上がれ♪﹂
﹁そっか⋮⋮いただきます﹂
分出来るよ
﹁毎日お母さんに教わりながら手伝いしてるからね。もう料理も充
﹁優里香、料理できるんだな﹂
の前に置いた。
堂々とハートマークが書かれてあるオムライスが乗っている皿を僕
そう言って優里香は、美味しく出来上がっており、ケチャップで
!
!!
﹁えへへ⋮⋮お兄ちゃん
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁今は食事中でしょ
﹂
褒めて褒めて
﹁それだけじゃ嫌。なでなでして﹂
﹁はいはい。優里香は凄いよ﹂
!
﹂
!
夫なのか⋮⋮
そう思いつつ僕はせっせと食事を進める。
﹁⋮⋮ねぇお兄ちゃん⋮⋮最近、私に対して冷たくない
﹂
まったく⋮⋮来年は高校生になるってのにそんな精神年齢で大丈
?
う言った。
するとさっきまで明るかった優里香がいきなり静かな雰囲気でそ
?
?
57
!
それを聞いた優里香はパアっと今までよりも明るい笑顔になった。
!!
﹁そうか
いつも通りだぞ﹂
僕はそんなこと気にせずに食事を進める。
嫌いなの
それとも
﹁昔みたいに一緒に遊んでくれないし⋮⋮褒めてくれないし⋮⋮私
何が言いたいんだ優里香は
の話を真剣に聞こうともしない⋮⋮﹂
なんだ
﹄
﹁ねぇお兄ちゃん⋮⋮私のこと、避けてるの
⋮⋮﹂
﹃私が本当の妹じゃないから
?
実は結構前から知ってたんだよ。私と
?
﹁⋮⋮いつから⋮⋮気づいてた⋮⋮
﹂
﹁そうだなぁ∼⋮⋮私が中1の頃かな﹂
﹁⋮⋮どうやって、その事を知った⋮⋮
?
﹁その時はショックだったなぁ⋮⋮いつも優しかったお兄ちゃんが
⋮⋮︶
︵父さん⋮⋮優里香には高校生になってから話すんじゃなかったのか
し訳なさそうな顔をして全部話してくれたよ﹂
知らない女の人が写ってたんだ。それをお父さんに問い詰めたら申
﹁えっとね、たまたま親のアルバム見てたらさ、1枚だけお父さんと
﹂
お兄ちゃんが血の繋がってない兄妹ってこと﹂
﹁私が知らないと思ってた
あまりにも驚いて僕は持っていたスプーンを落としてしまう。
﹁なんで⋮⋮お前が⋮⋮﹂
その言葉を聞いて、僕は絶句した。
?
?
?
?
58
?
?
本当のお兄ちゃんじゃないって知って大泣きしたなぁ⋮⋮﹂
﹁私ね、小学校ではずっと1人だったんだ。その頃は暗い性格で、上
手く友達も作れなくて、ひとりで過ごしてた。だけどお兄ちゃんはそ
んな私の手を取って、一緒に居てくれたよね。お兄ちゃんはいつでも
優しくて、かっこよくて、お兄ちゃんみたいな人が彼氏だったらいい
なって思ってたんだ﹂
そういえば、小学校の頃は優里香は暗い性格であった。あの頃の僕
は1人でいるあいつが見過ごせなくてよく一緒にあそんでやったっ
け⋮⋮
﹁でもね、よくよく考えたら私達は兄妹だけど、血は繋がってない。
だからお兄ちゃんと兄妹の関係じゃなくて、本当に彼氏彼女の、それ
以上の関係になれるんじゃないかって⋮⋮そう思ったの﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
⋮⋮
︶
﹂
僕は優里香から放たれる得体の知れない恐怖で体が震えて、嫌な冷
?
59
﹁だから私はお兄ちゃんに振り向いてもらえるようにいっぱい努力
して、いっぱいアピールしたけど、お兄ちゃんはどんどん離れていく
お兄ちゃんの
だけ⋮⋮私の事なんか見てくれてない⋮⋮むしろ他の女と楽しそう
に笑ってる⋮⋮﹂
お兄ちゃんの笑顔は私だけのもの
お兄ちゃんを私から奪おうとする雌豚はみんな殺
!
﹁そんなの嫌だ
絶対に殺す
幸せは私の幸せ
す
!
!! !
︵な ん か 今 日 の 優 里 香 は 怖 い ぞ ⋮⋮ さ っ き か ら 何 を 言 っ て い る ん だ
﹁ひっ⋮⋮﹂
!
や汗を流す。
﹁私 は 好 き な の は お 兄 ち ゃ ん た だ 1 人。ほ か の 男 な ん か 興 味 な い
し、死んだってどうでもいい。私にはお兄ちゃんしか見ないし、お兄
ちゃんが求めることならなんだってする⋮⋮お兄ちゃんさえ居てく
れれば何もいらない⋮⋮だから⋮⋮﹂
﹂
﹂
そう言って優里香はどこから取り出しのか、肉切り包丁を持った。
﹁なっ⋮⋮
そんな危ないもの早くしまえ
僕は席を立ち上がって、少しずつ後ずさりする。
﹁何をしてるんだ優里香
﹂
?
だって、全部するから
﹂
食事だって、お風呂だって、トイレだって⋮⋮性処理
﹁大丈夫だよ
お兄ちゃんの手足が無くなったって、私が全部お世
少しずつ優里香は僕との距離を詰める。
その手も、全部要らないよね
﹁お兄ちゃんが私以外の場所に行くその足も、私以外のものを触る
!
﹁あっ⋮⋮あっ⋮⋮﹂
?
﹁私とずっと一緒にいてね
だから⋮⋮﹂
?
お兄ちゃん⋮⋮♡﹂
お兄ちゃんの為ならなんだってするよ
﹁前はお兄ちゃんが私に優しくしてくれたから今度は私の番。私は
!
話するから
!
60
!
!
!
﹁うわあああああああああああっ
﹁まっててね
﹂
久々にお兄ちゃんと遊べる⋮⋮﹂
何処に行こうが、私はお兄ちゃんのこと、絶対離さな
﹁ふふふっ、鬼ごっこかな
﹁⋮⋮へぇ⋮⋮逃げるんだぁ⋮⋮﹂
を走った。
僕は必死になって家を飛び出し、無我夢中で人通りの少ない夜の道
される殺される殺される殺される
殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺
!!
!
││││││
﹁はあっ⋮⋮
必死に走る。
﹁うわっ
﹂
﹂
僕はただ必死に、足を動かした。
殺されないために。
捕まらないために。
ただ無我夢中に走る。
ただ必死に走る。
はあっ⋮⋮
﹁今捕まえるよ、お兄ちゃん♪﹂
いから⋮⋮♪﹂
?
!
﹁いてて⋮⋮くそっ﹂
さすがに運動は苦手だからそこまで体力は持たないどこかで休憩
しないと⋮⋮
そう思って僕は近くの公園に避難した。
﹁ふぅ⋮⋮﹂
61
?
!
不意に足がもつれて、思いっきりこけてしまう。
!
小さい子が入って遊ぶ砂場にあるホールに僕は隠れた。ここに入
るのはいつぶりだろう⋮⋮
︵どうして⋮⋮こんな事に⋮⋮︶
僕と優里香は実の妹ではない。僕が生まれてからすぐに実の母親
は不倫をしていた。僕が1歳の頃に2人は離婚し、僕は父さんに引き
取られた。
しかしその1年後、今までDVを受けていて、その夫と離婚してシ
ングルマザーだった女性と再婚する。その女性には1歳の娘がいた。
その娘が優里香である。
その事を父さんと母さんに言われたのは僕が中学2年生の頃だっ
た。理由はたまたま僕がビデオを探っていると、古いビデオテープを
発見し、それを見ると、父さんと知らない女性が映っている動画だっ
と。
僕と優里香は血の繋がってない、赤
けくっつこうとしてきた。あれは何も知らなかったからじゃなくて、
分かっててやっていたのか⋮⋮
こんな何
この暗い空間で、僕は落ち着いた頭で色々と考えていた。
僕以外にも他にいい男がいるだろう
僕の何処がいいって言うんだ
?
[私が好きなのはお兄ちゃんただ1人。]
なんで僕なんだ
も魅力もない僕の何処がいいんだ
?
⋮⋮
の他人と今まで暮らしてきたのに、優里香は嫌とは思わなかったのか
?
考えれば考えるほど、分からなくなった。
?
?
62
た。それを僕が見つけてしまい、もう隠すことはできないと思って父
さんと母さんは僕に全てを教えてくれた。
それはもう本当にショックだった。泣きはしなかったが、家族と距
離をとるようになった。主に優里香との距離を離そうとした。
だがそれから1年、あいつは僕から離れるどころか距離を縮めてき
どうして兄妹じゃないのに仲良くしようとする
たのだ。不思議でたまらなかった。どうしてそんなにくっつこうと
する
?
しかしその頃には優里香は真実を知っていた。それなのにあれだ
?
?
﹂
﹁お兄ちゃん∼﹂
﹁ッ
唐突に優里香の声がし、僕は驚いてホールに空いてる小さな穴から
外の様子を見る。
そこには、ケースに入れた包丁を持ってキョロキョロと僕を探す優
里香の姿があった。
さてこれからどうする⋮⋮ここが見つかるのも時間の問題だ⋮⋮
あいつに身体能力で勝負しようとすれば絶対に勝てない。裏から逃
げるのもいいが、バレてしまったらそこで終わりだ。どうする⋮⋮ど
﹂
優里香ちゃんじゃない﹂
うする⋮⋮どうすれば⋮⋮
﹁あれ
﹁ッ⋮⋮
?
今あいつに近づいたら⋮⋮
日のこの時間は塾帰りだったっけ⋮⋮
ってまずい
の
﹂
﹁優里香ちゃんがこんな時間に外出るなんて珍しいわね。何してる
!
香は右手に持っていた包丁をサッと後ろに隠す。そういえば奏は今
するとそこに自転車に乗っている奏が優里香の前に現れた。優里
!
﹁奏さん⋮⋮﹂
!
﹂
包丁の刃部分のケースを取り出そうとする。
やめろ⋮⋮
誰かと待ち合わせ
﹁まぁ⋮⋮すこし用事がね⋮⋮﹂
﹁へぇ、そうなの
?
優 里 香 の 顔 が 徐 々 に ニ ヤ け た も の に 変 わ っ て い く。既 に 包 丁 は
?
ケースから取り出していて、鋭い刃が街灯の光で輝いている。
やめろ⋮⋮
!
63
!
奏は自転車から降りて、優里香に近づいて行く。優里香はそ∼っと
?
﹁いや、待ち合わせというより⋮⋮﹂
やめろ
﹂
﹁⋮⋮雌豚駆除だね♪﹂
﹁えっ
﹁やめろぉぉぉぉぉ
﹂
気づけば俺の足は、2人の所へ向かって走っていた。
優里香は右手で包丁を振り上げていた。
くそおぉぉぉぉぉぉっ
?
﹂
﹁優里香⋮⋮﹂
﹂
﹁いたた⋮⋮ちょっと護
が包丁持ってんのよ
﹂
これはどういう事
﹁とりあえず落ち着いてくれ
なんで優里香ちゃん
!?
﹂
なんで私が優里香ちゃんに殺
説明してよ
﹁これが落ち着いていられるもんか
されなければならないのよ
!
いでしょ
一体何なのよ
﹂
﹂
私あんたに何か殺されるようなことしてな
!
﹁私のお兄ちゃんを奪ったから奪い返しにきたのよ
!
﹁はぁ
﹁また⋮⋮お兄ちゃんと話してる⋮⋮﹂
幼馴染みの妹に殺されかけているのだから。
奏は予想以上に取り乱している。それはそうだろう。なんたって
﹁だから落ち着けって⋮⋮﹂
!
!
!
!
﹁ちっ⋮⋮あっ⋮⋮お兄ちゃん、みーつけた♪﹂
﹁きゃっ
丁はギリギリで僕の足を掠めた。
そして僕は飛び出して奏を突き飛ばしていた。振り下ろされた包
!!
!?
64
!
!
!
!? !?
﹁何を言ってるの
私は何もしてないし、何も奪っていない
﹂
!
だからここで殺してやる
﹂
お前みたいなやつがいるからお兄ちゃんは私を見てく
﹂
は宿していなかった。
﹁優里香⋮⋮﹂
私達の家に﹂
﹁えへへ。さっ、帰ろう
﹂
﹁その前に、一ついいか
お兄ちゃん﹂
﹄
今ここで、僕が優里香の暴走を止めないと⋮⋮
﹁なぁに
﹁優里香⋮⋮﹂
﹃どうしてそんなに僕がいいんだ
?
﹁どうしてって、それは私がお兄ちゃんが好きだからだよ
﹂
で1番大好きなお兄ちゃんだから
!
?
﹂
﹁そんな事、他のやつでもできるだろ
なんで僕にこだわるんだ。
てくれたこと。私に色んな本を教えてくれたりとか、いっぱいあるよ
﹁ううん。してるよ。私に優しくしてくれたこと。私に勉強を教え
ど好かれるような事はしていない﹂
僕は優里香に何一つその異常なほ
﹁何を根拠にそう言ってるんだ
!
この世
僕は今さっきまで疑問に思っていたことを本人に問いかける。
!
優里香は目を細めてとろんとした顔で僕を見つめる。その目に光
!
﹁黙れ雌豚
私を愛してくれない
﹂
﹁ちょっと護
そして僕は黙って優里香に近づく。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁ひっ⋮⋮
れない
!?
﹁あっ、お兄ちゃん♪﹂
!
?
?
?
65
!
!!
!
!
?
!
﹂
﹂
こんな何も無いような僕に、どうしてそこまでの好意を向けられるん
だ
﹁お兄ちゃん⋮⋮
﹁僕以上にいい男なんていっぱいいる。今の優里香だったら、そこ
﹂
なんで優里香は僕
らへんのイケメンを捕まえることくらい容易いだろう
﹁⋮⋮⋮﹂
﹂
﹁なぁ、本気で教えてくれ。どうして僕なんだ
をそうまでして手に入れたいんだ
僕はありったけの疑問を優里香にぶつけた。
﹁⋮⋮ねぇ、お兄ちゃん﹂
﹁⋮⋮なんだ﹂
優里香は構えていた包丁を下ろす。
?
﹁私ね、小学生のあの時から私はお兄ちゃんの事大好きだったよ
?
ずっとね﹂
﹁私はお兄ちゃんのこと、兄としてじゃなく男として見てたんだよ
そんなことを⋮⋮
ちゃんと結構できるんだって。ずっと一緒にいられる⋮⋮って﹂
けど心の隅では、本当の兄妹じゃないなら他の男結婚しなくてもお兄
﹁でも、お父さんから本当の事を聞いて、ショックの方が大きかった
いてくれたよね。私にとってそれがたまらなく嬉しかった。﹂
かったんだ。私が嬉しい時も、悲しい時も、寂しい時も、ずっと隣に
﹁私 は 他 の 男 の 優 し さ よ り も、お 兄 ち ゃ ん の 優 し さ の 方 が 心 地 よ
﹁⋮⋮⋮﹂
たあの時から﹂
1人でいた私を強引に引っ張って、色々遊んだり、教えてくれたりし
?
?
力して、少しでも褒めてもらいたかった⋮⋮お兄ちゃんにいい方向に
変わっていく私を見て欲しかったんた⋮⋮避けて欲しくなかったん
だ⋮⋮大好きなお兄ちゃんに﹂
66
?
?
﹁だからこの暗い性格や悪いところを直そうと必死に頑張って、努
?
まさか⋮⋮そこまで思い詰めていたとはな⋮⋮
ただ僕に見て欲しいだけ、ただ僕に避けられたくないだけ、そんな
優里香の気持ちを分かろうともせず、僕はただ優里香を知らぬ間に傷
つけていたのか⋮⋮
﹁でも、お兄ちゃんが迷惑してるなら⋮⋮仕方ないよね⋮⋮﹂
﹂
すると優里香は肉切り包丁を今度は自分の首に向けた。
﹁優里香⋮⋮
迷惑だなんて思っていない
お兄ちゃんのためだもん﹂
﹁そんな
だから包丁をはなせ
﹂
!
おにぃ⋮⋮ちゃん
﹂
はぁ⋮⋮まったく、僕の妹は⋮⋮
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮えっ
?
﹂
﹁優里香⋮⋮ごめん﹂
﹁
!
そして優里香は包丁を振り上げる。
とう⋮⋮﹂
て、こんな私を少しでも気にかけてくれて⋮⋮愛してくれて、ありが
﹁じゃあね、お兄ちゃん。今まで迷惑かけてごめんなさい⋮⋮そし
優里香が涙を流しながら微笑む。
﹁ふふふっ。今更そう言っても、説得力がないよ⋮⋮﹂
!
﹁お兄ちゃんが私のことを迷惑だって思ってるなら、私は消えるよ。
?
僕は優里香を優しく抱きしめた。
?
づいてあげれなかったせいで優里香をここまで追い詰めてしまった
67
!
謝らなければならないのは僕だ。優里香の頑張りを僕は今まで気
!!
⋮⋮僕の責任だ。
﹁今まで、ずっと頑張ってきたんだな⋮⋮こんな僕のために⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そうだよ⋮⋮あれだけアピールしてもお兄ちゃん、ちっとも
反応してくれないから⋮⋮嫌われてるのかなって⋮⋮不安に⋮⋮﹂
﹁嫌ってなんかないよ。でも色々と思うところがあって、無意識に
﹂
優里香のこと避けてた。本当にごめんな⋮⋮﹂
﹂
﹁ひぐっ⋮⋮ぐすっ⋮⋮おにぃちゃん﹂
﹁ん
﹁⋮⋮もっとギュッてして⋮⋮﹂
僕はさっきよりも力強く抱きしめる。
﹁うぅ⋮⋮ぐすっ⋮⋮おにぃちゃん⋮⋮
﹁よしよし﹂
僕は泣いている優里香の頭を優しく撫でる。
﹁ごめんなさい⋮⋮お兄ちゃんに包丁振っちゃって⋮⋮ごめんなさ
い⋮⋮お兄ちゃんの事考えずに迷惑ばっかりかけて⋮⋮﹂
﹁こっちこそごめんな⋮⋮気づいてあげれなくて⋮⋮﹂
﹂
この責任は⋮⋮僕がとらないとな⋮⋮
﹁好きだよ。優里香﹂
﹁うぅ⋮⋮うわぁぁぁぁぁぁん
そう言い残して奏は自転車に乗り、その場を去った。
﹁じゃあね。しっかり責任とんなさいよ﹂
奏はわかっているという感じで僕にそう言った。
﹁⋮⋮あぁ﹂
﹁分かってるわよ。私は何も見ていない﹂
﹁奏、このことは⋮⋮﹂
﹁はぁ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
優里香は今までの不安をかき消すように大声で泣いた。
!
68
!
?
﹂
﹁お兄ちゃん⋮⋮﹂
﹁ん
﹁好き⋮⋮大好き⋮⋮もう絶対離さないからね
﹁⋮⋮あぁ。望むところだ﹂
﹁えへへ///﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁お兄ちゃん⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ん﹂
﹁んっ⋮⋮﹂
﹂
﹂
そして、僕のファーストキスの相手は優里香になった。
││││││
翌朝││
﹁zzz⋮⋮﹂
﹂
﹁おにぃちゃああん
ボスッ
﹁ぐええっ
!
﹂
!
﹁いやー
離さないもんねー
﹁ぢょ⋮⋮やめで⋮⋮くるじい⋮⋮﹂
﹁えへへ∼♪お兄ちゃん、お兄ちゃん♪﹂
翌朝、俺が寝ているところに優里香はダイビングしてくる。
!
!
!
69
!
?
﹁ぬおおお⋮⋮﹂
﹂
﹁あっ、そうだ﹂
﹁なに⋮⋮
チュー⋮⋮﹂
!
はいお兄ちゃん
ちょ、まず離して⋮⋮﹂
﹁おはようのキスがまだだったね
﹁朝からって⋮⋮
!!
﹁もう⋮⋮勘弁してくれ∼
﹂
﹁いいからはやく♪ほらほら♪﹂
!
今日も僕と優里香の1日が始まる。
70
!
?
私はずっとあなたの味方です
♪∼♪∼♪
﹁⋮⋮ん﹂
スマホのアラームが五月蝿く鳴り響く。俺はけだるい体を起こし
て、スマホのアラームを止めた。
﹁はぁ⋮⋮飯の準備しよ﹂
俺は柿原 雅人、高校2年生だ。両親はすでに他界していて今は1
人で生活している。食事から家事全般、学費を払うためにアルバイト
﹂
をしたりなど色々と忙しい日々だ。だかそんな忙しい俺にも⋮⋮
おはようございます
ピーンポーン
﹁先輩
1個下の彼女がいる。
﹁真央⋮⋮ありがとな﹂
﹂
私が好きでやってることなんですし、大好
きな先輩のためなら私頑張ります
﹁何言ってるんですか
﹁何時もすまないな。真央﹂
村 真央。俺の後輩であり、いつも家事を手伝ってくれている。
黒髪のショートヘアーに150cmの小柄な身長。彼女の名は杉
!
﹂
ことも考えた方がいいかと﹂
私と先輩の仲なんですよ
!?
﹁いや⋮⋮さすがにそれはできねぇよ﹂
﹁なんでですか
﹂
﹁それでですね先輩。やっぱり先輩の生活を手伝う以上、同居する
通学路││
﹁はい
﹁よし、じゃあ準備しますか﹂
﹁えへへ⋮⋮やっぱり先輩のなでなではいいです⋮⋮///﹂
俺はお礼を言って、真央の頭を優しく撫でた。
!
!
﹁⋮⋮先輩、そこの所真面目ですよね∼﹂
﹁アホか。そしたらお前とお前の親に迷惑がかかるだろうが﹂
!
71
!
!
﹂
﹁真面目も何も、ちゃんとしないといけないことだろうが﹂
﹁むぅ⋮⋮私はいつでも準備できてますよ
﹁はいはい﹂
いつも俺は真央と2人で学校へ登校している。去年までは色々と
ひとりで全部やっていたため、疲れが溜まった状態で登校していた。
しかし彼女が家事のことを手伝ってくれているおかげで前よりも健
康な状態で学校に行く事が出来ている。
そして学校の目の前まで来ると急に黒色のリムジンカーが校門の
目の前で止まった。
﹁おぉ、見ろ。あの人だぞ﹂
﹁わぁ⋮⋮お嬢様だ⋮⋮﹂
ちょうどそこにいた何人かの生徒がざわつき始める。黒色のリム
ジンカーから出てきた長い銀髪を靡かせているその少女に周りの者
は惹かれていた。ちょうど俺はその少女と目が合ってしまう。
﹁あら、おはよう。雅人君﹂
﹁あぁ。おはよう﹂
名前で呼ばれてましたけど
んだ。まぁ要するにお嬢様ってこと﹂
﹁ふぇ∼⋮⋮先輩のクラスにあんな美人が⋮⋮﹂
真央は目を丸くして驚いていた。
﹂
スラリとした背丈に綺麗な銀髪のロングヘアー、彼女は佐原 アリ
サ。俺と同年代にして佐原財閥のお嬢様。勉学はもちろんのこと、運
動や料理、何から何まで完璧にこなしてしまう人だ。
どうした、真央﹂
﹂
﹁⋮⋮先輩を、取られないようにしないと⋮⋮﹂
﹁ん
はやくいきましょ
?
72
?
お互いに挨拶を交わし、彼女は微笑みながら校舎へと歩いていっ
誰ですかあの人
?
た。
﹁ちょっと先輩
?
﹁あぁ。同じクラスの佐原さんだよ。あの人はあの佐原財閥の娘な
?
﹁何でもないです
﹁そうだな﹂
!
?
││││││
放課後││
﹁先輩、本当に大丈夫ですか
私が行かなくても平気ですか
﹂
?
なんか困った時とか、寂しくなったら遠慮なく
﹂
しないでくださいね
﹁先輩⋮⋮わかりました。じゃあ部活に行ってきます。絶対に無理
前が手伝ってくれるだけで俺は本当に嬉しいからさ﹂
﹁心配すんな。前までは俺が全部やってたんだから。朝だけでもお
事で心配してくれている。
真央はテニス部に所属しており、夜に俺の手伝いができないという
﹁でも⋮⋮﹂
﹁大丈夫だよ。真央は部活頑張ってきな﹂
今日も1日が終わり、帰宅するところを真央に止められている。
?
すると、とある光景に目がいった。
﹁なぁ嬢ちゃん、俺達と今から楽しいことしない
﹂
﹂
?
?
﹁俺達がおごるからよ。一緒に付いて来てくれないか
﹁あら、楽しいこととは
﹂
俺はスーパーで食品や日常用品など色々と買って、帰宅している。
﹁ふぅ⋮⋮買った買った﹂
商店街にて││
1時間後
う。
さて、今日は商店街で買出しの日だったな⋮⋮早速向かうとしよ
走って行った。
そ う 言 い 残 し て 真 央 は 活 動 場 所 で あ る テ ニ ス コ ー ト に 向 か っ て
言ってくださいね
!
今時こんな馬鹿なことするやつもいるんだな⋮⋮
人通りの少ない所で女の子が3人のヤンキー集団に絡まれていた。
?
﹂
73
!
﹁まぁまぁ。それは後でのお楽しみってことで⋮⋮﹂
﹁キャッ
!
﹂
女の子が1人のヤンキーに腕を掴まれ、強引に連れていこうとす
る。
﹂
さすがに見て見ぬ振りはできないな⋮⋮
﹁おい﹂
﹁あぁん
ちょーウケるんだけど
ギャハハハハ
﹂
やめたらどうだ﹂
俺は女の子を助けようと、ヤンキー達に声をかけた。
﹁彼女嫌がってるだろ
マジで
﹁ほうー、今の時代にヒーロー気取りか
﹁ぶっは
!
?
?
か﹂
﹁よほど怪我したいっぽい
﹂
﹂
﹁⋮⋮へぇー、いいんだ。じゃあ⋮⋮﹂
﹁あ
﹁骨の1、2本くらい、折れても文句言わねぇよな⋮⋮
と俺はヤンキー達を睨みつける。
﹂
﹁ちっ⋮⋮いくぞ
﹂
拳の骨をパキパキっと鳴らす。
﹁おいどうした、かかって来いよ。来ないなら⋮⋮俺から行くぞ
﹁ひっ⋮⋮﹂
﹂
ギャハハハハ
!
ヤンキー達は拳をゴキゴキ鳴らしながら俺を挑発する。
﹁じゃあ正義の味方らしく、俺達を倒してみろよ
?
﹂
﹂
!
﹁ちっ、うるせぇな。てめぇ、俺達に喧嘩売るとはいい度胸じゃねぇ
﹁はぁ⋮⋮いいから、さっさとその子を離せよ﹂
ろうな。
ヤンキー達は大笑いして、俺をバカにしてくる。まぁ、そうなるだ
てな﹂
﹁お前みたいなガキはさっさと帰って、お子様が見るアニメでも見
!?
!
74
!
?
!
﹁お、おう
!
?
?
?
﹂
ヤンキー達は何もせずにその場を立ち去った。ヘタレな野郎達だ
⋮⋮
﹁ふぅ⋮⋮大丈夫
佐原さん
﹂
!?
﹂
?
こにはないぜ
﹂
?
﹂
!
なのか
﹁お嬢様
探しましたよお嬢様
財閥のお嬢様なのに、佐原さん自身は意外とこういう所の方が好き
﹁な、なるほどなぁ⋮⋮﹂
ういうちょっと落ち着いた感じの所が好きなので⋮⋮﹂
﹁そうでもありませんよ
私はキラキラした高級感がある所よりこ
﹁こんな所で暇潰すなんて⋮⋮佐原さんに似合うような店なんてこ
﹁ちょっと暇だったから色々と店を回ろうと﹂
﹁なんでこんな所に
たが絡まれていたのは佐原さんだったのか。
驚いた。さっきはヤンキー達に囲まれていてよく姿は見えなかっ
﹁はい、佐原です。雅人君﹂
﹁って、あれ
﹁ええ、ありがとうございます﹂
?
﹂
勝手に外へ出かけられるなど
﹁困りますお嬢様
﹁あら、もうそんな時間
﹂
30分過ぎています
!
もう帰宅時間を
!
翌日││
││││││
そして佐原さんは執事の人と一緒に去っていった。
﹁ええ。今日はありがとう雅人くん。また明日ね﹂
﹁そうですか⋮⋮では行きますよ。お嬢様﹂
﹁い、いえ。大丈夫ですよ﹂
執事の爺さんは深々と頭を下げる。
﹁まったく⋮⋮申しわけない。お嬢様がご迷惑をおかけして﹂
?
!
75
?
?
すると執事姿のガタイのいい爺さんが走ってきた。
!
?
﹂
四時間目の授業が終わり昼休みに突入。俺はバックから弁当を取
り出して友人の元へ行こうとすると、
﹁雅人くん。たまには私と一緒にお昼を過ごしませんか
佐原さんから誘われてしまう。
食べてくれませんか
﹂
﹁昨日のお礼も兼ねてあなたのためにお弁当を作ってきたのです。
?
弁当忘れた
あっ、金もねぇ⋮⋮昼飯どうしよう⋮⋮﹂
﹂
﹁俺の弁当いるか
弁当をちょっと強引に友人に渡す。
﹁おぉ⋮⋮心の友よぉぉ⋮⋮ありがとな
雅人
﹂
!
﹁さぁ、行きましょうか﹂
ここで食べないの
?
さすが学年トップの優等生。ほかの生徒達はそんな事を頼んでも
過ごせますよ﹂
﹁先生にお願いして、貸切にしてもらいました。安心してゆっくり
今日は生徒達は使えない日のはずだが⋮⋮
生徒は学年ごとに使える日が分かれており、週に一回しか使えない。
所がある。静かな音楽が流れており、とても落ち着ける場所だ。ただ
ここで食事をとったり遊んだりなど名前の通り自由に使っていい場
書室は交流を深める目的で作られたフリールームという場所があり、
向かった先は図書室にあるフリールームだった。ここの学校の図
とりあえず俺は佐原さんについて行くことにし、教室を出る。
﹁いい場所があるのです。ついてきてください﹂
﹁えっ
﹂
し、これで安心して佐原さんの弁当が食べれるぞ。
友人は俺の弁当を持って教室を出て行った。さて、問題は解決した
!
﹁俺は大丈夫だよ。佐原さんからご馳走になるから。ほら﹂
でもお前は⋮⋮﹂
﹁えっ、いいのか
?
どいい。俺の弁当をあいつにあげよう。
どうやら1人の友人が弁当を家に忘れて落ち込んでいる。ちょう
﹁げ
分の分は用意してあるし、どうしようか⋮⋮
と言って、佐原さんは三段に重なった弁当箱を持ってくる。既に自
?
!
!
?
76
!
許してはもらえないだろう。優等生である佐原さんの頼みだから許
可してもらえたのだろう。
﹁なんかすまねぇな。わざわざ昼飯や場所までとってもらえて﹂
﹁いえいえ。あなたが満足してくれれば、私はそれで充分ですよ﹂
さぁ、どうぞ。存分にお食べくださ
さすがお嬢様。感謝の気持ちしかございません。
﹁お腹がすいているでしょう
い﹂
﹂
?
﹁おおっ、美味しそうだなぁ﹂
マジでか
﹁ふふっ♪これ全部、私が作ったのですよ
﹁えっ
﹂
を開ける。中身は高級感満載のおかずが入っていた。
三段に重なっている弁当箱をテーブルにそれぞれ分けて置いて蓋
?
﹂
さん。本当にひとりで何でもできるんだなぁと思った。
﹁これ、全部俺のために
⋮⋮これも
良かった⋮⋮﹂
﹁⋮⋮うめぇ﹂
﹁⋮⋮
﹁すげぇうまいよ
⋮⋮あっ、これもうめぇ
!
俺は箸をとって一番の好物、唐揚げを口に入れる。
﹁ありがとな。じゃあ、いただきます﹂
昨日ちょっと助けただけでここまでしてくれるとは⋮⋮
﹁はい♪一生懸命作りました﹂
?
そうに見つめていた。
﹂
﹁佐原さんも食べなよ。こんな量俺1人じゃ食いきれないよ
?
の高貴な雰囲気からほかの人たちからは近寄り難く、無意識に避けら
佐原さんは友達が居なかった。財閥のお嬢様だからだろうか。そ
まで、2人で色々な話をして過ごした。
そして3箱あった弁当箱を2人で完食し、その後は昼休みが終わる
﹁えぇ。いただきます﹂
﹂
出来ており、どれも美味しい。バクバクと食べる俺を佐原さんは満足
佐原さんの料理の腕は完全に俺を越していた。どのおかずもよく
!
なんということだ。こんな量をひとりで作ったのか。さすが佐原
!
!
77
!?
!
れていた。昼休みはいつもひとりで読書していたのをよく見かけた。
その本、佐原さんも読んでるのか﹂
でも俺はそんな近寄り難いことなど気にしなかった。
﹁おっ
﹂
﹁家まで送っていきますよ
﹂
放課後。俺は帰宅しようとするところを佐原さんに止められ、
︵どうすれば⋮⋮︶
と2人っきりで幸せに過ごしたい⋮⋮︶
︵雅人くんの全てが欲しい⋮⋮大好きなあなたを独占したい⋮⋮ずっ
︵⋮⋮どうしたら、あなたは私の物になるんでしょうか⋮⋮︶
めてくれる⋮⋮︶
︵もっと頑張れば、雅人くんに振り向いてもらえる⋮⋮もっと私を求
︵あぁ⋮⋮雅人くんが喜んでいる⋮⋮頑張ったかいがありました︶
とって大切な友人だ。
けていった。佐原さんも前より笑顔になることが増えて、今では俺に
それ以来、俺と佐原さんは本の話や世間話などをして次第に打ち解
いる。
だ。話しかけられた佐原さんは驚いた顔をしていたのをよく覚えて
士だったため、交流を深めようと佐原さんに話しかけたのがきっかけ
これが俺と佐原さんの最初の会話だった。その時は席替えで隣同
﹁⋮⋮え
!
?
に断った。
﹁そんな遠慮しなくてもいいのですよ
﹂
と言われた。さすがにそこまでしてもらうのは悪いので俺は丁重
?
78
?
﹁いや、本当に大丈夫だよ。今日は色々とありがとうな﹂
﹂
そう言って、この場から立ち去ろうとする。
﹁せーんぱいっ
﹁あれ
﹂
だから先輩と一緒に帰れますよ
お前今日部活は
﹂
﹁今日は休みです
しょう
と強引に手を繋いでくる真央。
﹁わかったから、そんなに慌てるんじゃない﹂
﹁えへへ∼♪﹂
!
?
││││││
﹃ごめんなさい
﹀
︿今日は私が朝練の当番なので家に来ることができ
かは知る由もない。
その光景を後ろでまじかに見ていた佐原さんは何を思っていたの
したね⋮⋮︶
︵誰なんでしょう、あの女⋮⋮そういえば、今朝も一緒に登校していま
﹁⋮⋮⋮﹂
ささ、行きま
すると背後から声がして、振り返るとそこには真央の姿があった。
!
ね
先輩、大好き︵*
ません。本当にごめんなさい︵ ;ω;`︶夜はちゃんと来ますから
!
´
ω`*︶﹄
´
真央からのメールで今朝は来れないという内容だった。仕方が無い。
今日の朝食は食パン2枚でやり過ごそう。
学校へ行くと、周りの生徒達が俺を見てなにやらヒソヒソと話して
﹂
﹂
いる。まるで汚物を見ているような痛い視線が周りから突き刺さる。
雅人
俺、何かしたっけな⋮⋮
﹁あ、おい
!
﹁おう。おはよう⋮⋮ってどうしたんだよ
﹁どうしたって
お前あれ本当なのか
!
﹂
校舎内に入ると1人の友人が血相を変えてこちらに来る。
?
!
!?
79
!
?
!
翌日。朝起きるとケータイに1着の着信メールがあった。それは
!
﹂
﹂
﹁あれってなにが
﹁いいから来い
﹁なっ⋮⋮
﹂
生の教室がある2階に辿り着くと、掲示板に生徒が集まっていた。
友人は俺の腕を力強くつかんで引っ張りながら階段を登る。2年
!
﹁な、なんだよこれ
﹂
そしてその男の顔は、俺の顔であった。
をかませられ腕を縄で縛られた状態で男に犯されている。
セーラー服を着ている女子中学生が目隠しをされており、口には猿轡
掲示板に貼られていたのは大きな1枚の写真。その写真の内容は、
!
﹁違う
俺はこんなことやっていない
本当だ
﹂
!
だったらこの写真はなんなのよ
誰だよ
﹂
こんなイタズラしたやつ
出て
!
﹁嘘つかないでよ
﹂
!?
俺が否定すると、1人の女子がそう言ってくる。
ぶっ殺してやる
﹁合成に決まってるだろ
こい
!
!?
!
周りからはザワザワと俺を軽蔑するような感じの声が聞こえる。
﹁中学生を犯すなんて、変態だな⋮⋮﹂
﹁マジキモイんですけど⋮⋮﹂
﹁見て⋮⋮あの人よ。まさかあんな趣味があったなんて⋮⋮﹂
る。当たり前だ。俺はこんな事をした覚えはない。
俺はその写真を剥がした。よく見ると顔の部分だけ合成されてい
!
!!
ない怒りを周りにぶつけていた。
﹁うわ、殺すだって⋮⋮やっぱり犯罪者は違うねぇ⋮⋮﹂
﹁絶対あいつが犯人だよ⋮⋮﹂
﹂
しかし周りからはさらに軽蔑の声が上がり、説得するのがさらに難
しくなった。
﹁さっさと刑務所に行けよ犯罪者
﹁なんだと⋮⋮﹂
む。
1人の男子生徒がそう声を上げると、その声の主の胸ぐらをつか
!
80
?
!
!
俺は完全に頭に血が上っていた。冷静さを失い、このどうしようも
!
﹂
﹁ひ っ ⋮⋮ つ い に 本 性 を 出 し や が っ た な
﹂
﹁てめぇ⋮⋮っ
でいた相手の胸ぐらを離す。
やっぱりお前が犯人だ
俺はこんなことしていません
!
﹁柿原。お前、これはどういう事だ﹂
﹁違うんです
﹂
生徒指導部の先生に右肩を掴まれる。俺はハッと我に返って、掴ん
﹁やめんか﹂
そしてそいつを殴ろうと右拳を振りかざそうとすると⋮⋮
!
﹂
俺は3時間目から授業を受けるため、教室に戻る。
取 り 調 べ が 終 わ っ た の は 2 時 間 目 が ち ょ う ど 終 わ っ た と こ ろ だ。
いだろう。
だが、あんな事が起きた後だ。いつも通りの生活が戻ることなどな
になった。
べると合成だと発覚し、柿原雅人へのたちの悪いイタズラだという事
したが先生達からはあまり信じてもらえなかったが、写真を詳しく調
結局今朝の出来事は俺の無実で終わった。俺は何度も何度も否定
別におかしいことじゃない。だけど俺は結構悲しくなった。
ん な 写 真 が 出 た 後 じ ゃ 関 わ り た く は な い だ ろ う。誰 も が そ う 思 う。
一番信頼していた真央に見捨てられてしまった。考えてみればあ
﹁そんな⋮⋮真央⋮⋮﹂
﹁はやくしろ
しかし真央は目をそらして走り去っていってしまった。
﹁⋮⋮っ﹂
﹁違うんだ⋮⋮本当に俺じゃない⋮⋮﹂
するとその集団にいた真央と目が合ってしまう。
﹁あっ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
まった生徒達は相変わらず蔑んだ目や軽蔑の目で見られている。
先生に肩をグイっと力強く寄せられる。後ろをチラッと見ると、集
﹁詳しくは指導室で話を聞こうじゃないか。ほら来い﹂
!
!
81
!
!
﹁おっ
来ました
変態犯罪者、柿原君
﹂
!
だ。まだ他のみんなが知る訳がないだろうし、俺の口から無実だと訴
を言う者や、警戒している者もいる。無実が証明されたのはつい先程
人の男子がそう言った。俺が戻ってきたことにより、ヒソヒソと陰口
自分のクラスの教室の引き戸を開けるとクラスのやんちゃ者の1
!
無視っすか
やっぱ格が違いますねぇ∼﹂
えても信じてもらえないだろう。何言われようと我慢することにし
た。
﹁あれれ∼
?
﹁ッ
手が滑ったぁ∼﹂
﹂
﹁あっ
と呆れながら椅子の上に乗っている画鋲を回収しようとすると
ぎっしりと針を上にして乗せられている。小学生のいじめかよ⋮⋮
自 分 の 机 の 上 に は マ ジ ッ ク で 書 か れ た 落 書 き。椅 子 に は 画 鋲 が
﹁⋮⋮チッ﹂
は気にする必要は無い。
ケラケラとやんちゃ者の男子集団は笑う。無視だ無視。あんなの
?
ありゃあ血が出ちゃってるよぉ。
守ろうと片腕を椅子の上に置く形になった。画鋲が何本か片腕に突
き刺さる。
﹁ごめんごめん∼、大丈夫かい
こりゃ大変だぁ∼﹂
とりあえず腕に刺さっている画鋲を取る。
﹂
?
﹁⋮⋮チッ、つまんねぇ⋮⋮﹂
ガッと
﹁面白くないぞ犯罪者∼。今朝みたいに怒らないのかぁ∼
ら、胸ぐら掴んでみろよ
ほらほ
そ れ こ そ あ い つ ら の 思 う つ ぼ。下 手 に 反 応 し な い よ う に 我 慢 す る。
員再起不能になるまで叩きのめすことはできるが、感情的になったら
周りの者はケラケラと笑う。⋮⋮ぶっちゃけ俺1人でこいつら全
?
!
﹁ひ っ ⋮⋮ お、お お う
やる気かぁ
かかってこいよぉ
!?
ほらほ
らが上なのだから。試しにやんちゃ共を睨みつけて威嚇してみる。
野次馬共の五月蝿い声がするが気にしない。実力は圧倒的にこち
!
!?
!?
82
!
!
1人の男子が俺の背中を力強く押す。咄嗟に反応し、俺は上半身を
!
らぁ
﹂
手 と 足 が 震 え て い る の が 分 か る。や は り た だ の ヘ タ レ み た い だ。
俺はそいつらを無視して回収した画鋲を元々あった箱に戻す。教室
これはこれは⋮⋮みんな見てくれ
﹂
を出て傷口を軽く洗い、濡らした雑巾で落書きを消す作業を行う。
﹁む
見せびらかしている。
﹁てめぇ⋮⋮なんでそれを⋮⋮
﹂
メガネ男子が声を上げる。俺は声の主の方を向くと1枚の写真を
!
弟を増やしていった。
﹁元はお前番長だろ
れが出回れば先生達がだまってないな
﹂
何がきっかけで更生したのかは知らんが、こ
なってでも先陣を切って数々のヤンキー集団をぶちのめし、さらに舎
団 体 を 作 り な が ら 別 の ヤ ン キ ー 集 団 を ぶ ち の め す。遂 に は 番 長 に
る日々で片っ端から1人でヤンキー団体をぶちのめし、舎弟を作って
中学の頃に両親を失った俺は見事にグレてしまい、喧嘩に明け暮れ
写真だった。
書かれた白い上着を着ている俺の姿⋮⋮当時ヤンチャしていた時の
その写真は学ラン姿に、その上から﹃絶対王者﹄赤い文字で大きく
!
やつがそんな写真持ってるんだ
一体どうやって手に入れた
?
﹂
!
﹁授業だぞ
席につけー
また、1人になってしまった。
このクラスでの立場がない。味方してくれる奴もいないだろう⋮⋮
写真をポケットにしまい、ゲスな顔で微笑むメガネ男子。もう俺は
制限されるからね。大切に保管しておくよ。ふふふ﹂
﹁なぁに、僕もそこまでゲスじゃない。この写真1枚で君の行動は
?
ガネ野郎は俺と同じ出身の中学校ではないはず。なんで他校出身の
クソが⋮⋮俺の過去まで引っ張ってくるとは⋮⋮そもそもあのメ
?
?
﹁授業の前に、今朝のことだがあの写真は合成であることがわかり、
授業開始のチャイムが鳴り、生徒達は自分の席に座る。
!
83
!!
?
柿原は無実だ。誰の仕業かは知らないがこれは悪質なイジメだ。イ
ジメは絶対に許してはならない││││﹂
その後、先生は4時間目の授業が緊急全校集会になることと、これ
からの事を厳重注意して授業が始まった。無実と知ったやんちゃ者
の男子達や例の写真を見せびらかしたメガネ男子は表情に焦りが出
て い た。俺 が そ い つ ら を 睨 み つ け る と、ビ ク ッ と 怯 え る。ど う や ら
さっきみたいな事はもう起きる事はないと思った。完全に俺に怯え
てしまっているからである。
授業が終わり、生徒達が集会場所である体育館へ移動する。先生に
集会が終わるまで指導室で待機していてくれと言われたが体調が優
れないことと、精神的なダメージを訴えて早退しても良いかと訪ね
た。先生は渋々了承し、俺は学校から自宅へ帰宅した。
││││││
帰宅後、着替えもせずに自分の部屋のベッドに寝転がった。
﹂
﹁おお
ぜ
先輩
これ面白いですよ
と爆笑する真央。
!
なんだ嬢ちゃん。いいじゃないか俺達と楽しいことしよう
やめて
離して
!
﹂
!
らまれていた。
﹁きゃっ
!
84
︵どうして⋮⋮こうなっちまったんだろうな⋮⋮︶
何も無い天井を見つめて、そう思った。いくら無実が証明されたか
らって、俺の人間関係は完全に壊れてしまっただろう。また孤独に
戻ってしまった。
ふと真央の顔を思い浮かべてしまう。すると何故か色々と昔のこ
と笑顔で呼びかけてくれる真央。
とを徐々に思い出していった。
先輩
あはははっ
そして⋮⋮
!
﹁やめてください⋮⋮﹂
!
ケチですね。とちょっとムスッとした顔で言う真央。
!
?
夜の暗い通路。ある1人の女子中学生が5人組のヤンキー達にか
?
﹁へへへへっ﹂
そしてその長である1人の大男が女子の腕をつかみ、連れていこう
とする。
﹁おい﹂
すると大男の背後からまた別の男の声がする。
なんだてめ││﹂
﹁あぁん
殴る。
﹁ひぎゃっ
⋮⋮⋮⋮
﹂
﹂
﹂
!!
﹁こ、こいつ⋮⋮やっちまえぇぇ
ほかの4人が喧嘩の構えに入る。
﹁お、親方ぁ
!
ていった。
﹁ふぅ⋮⋮大丈夫か
﹂
コテンパンにやられたヤンキー達はその場から逃げるように去っ
!
!
﹁す、すいませんしたぁー
﹂
大男の背後にいた学ラン姿の男は右拳で振り向いた大男の顔面を
﹂
﹁ふんっ
?
から約7時間程寝ていたことになる。こりゃ夜は寝れないな⋮⋮
ていた。帰ってきたのが確か12:10分くらいですぐ寝てしまった
ふと目が覚める。体を起こして時計を見ると既に19:00を過ぎ
﹁⋮⋮ん﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮
時には、俺はいつの間にか眠っていたのであった。
これは俺が真央と最初に出会ったことである。これを思い出した
﹁はい⋮⋮ありがとう、ございます﹂
?
85
!
と り あ え ず 夕 飯 の 準 備 を し よ う と 部 屋 か ら 出 て リ ビ ン グ に あ る
キッチンへ向かう。するとインターホンが鳴った。この時間帯に俺
の家に来る奴はあいつしかいないだろう。俺は玄関の扉を開けた。
﹁こんばんは、先輩﹂
﹁真央⋮⋮﹂
﹂
さっさと
もう今日は誰にも会いたくない気分であった。2人の間に気まず
い空気が流れる。
﹁夕食、作りに来ましたよ
﹁悪い。もう済ませたから、帰ってくれ﹂
真央に帰宅するよう要求する。
﹁先輩⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ごめん。しばらくひとりでいたいんだ。じゃあな﹂
そう言って俺は玄関の扉を閉めようとすると
﹁⋮⋮嫌です﹂
﹂
真央は目に涙を浮かべた表情でそう言ってきた。
﹁な⋮⋮﹂
﹁先輩の思ってる事はだいたいわかります。何年先輩の隣にいたと
﹂
思ってるんですか。先輩は優しいから今朝の事件のことで私に迷惑
がかからないようにわざと避けているんですよね
﹁⋮⋮⋮﹂
?
86
真央は扉を掴んで閉めようとするのを阻止する。
帰りません
﹁なにしてるんだよ。いいからさっさと帰れよ﹂
﹁嫌です
﹁なっ⋮⋮﹂
なんでたよ﹂
﹂
ひとりにさせてくれって言ってるだろうが
﹁なんだよ
﹁はあ
!
?
どうやら帰るつもりは毛頭ないみたいだ。
!
﹁今の先輩はそんな事言っても説得力ありません
﹂
帰ってくれよ
!
﹁だって先輩⋮⋮今にも泣きそうな顔してるじゃないですか⋮⋮﹂
!
!
!
!?
何か言い返そうとするが言葉が浮かばない。
先輩の隣にいます
﹂
﹁今の先輩は初めてあった時と同じ、寂しい顔をしてますよ。そん
な顔で帰れって言われても私は帰りません
真央は真面目な表情でそう言ってきた。
﹁⋮⋮⋮﹂
り、いつもの心地よい雰囲気に戻っていた。
いつもの可愛い笑顔になる真央。そして気まずい雰囲気は無くな
﹁えへへ///﹂
真央の頭を撫でる。
ありがとう。とそれしか言葉が見つからなかった。そして優しく
﹁⋮⋮ありがとな。真央﹂
涙が出そうになるがググッと堪える。
真央のしつこさは4年間一緒にいたから嫌というほど分かっていた。
何回避けてもそれと同じ、いや、それ以上の回数で付いて来てくる。
初めて会った時と同じように、俺が離れようとすると付いて来る。
たみたいだ。真央はちゃんと俺の所に来てくれた。
完全に嫌われたと思っていた。だけどそれはただの思い込みだっ
﹁⋮⋮真央﹂
⋮⋮﹂
私 は 先 輩 の 傍 に 居 ま す。だ か ら、そ ん な 顔 を し な い で く だ さ い よ
﹁例え先輩の周りの人達が先輩の事を否定したり、避けたりしても
!
そうです⋮⋮ね⋮⋮
﹂
と見つめていた。
﹁どうした
﹂
俺は真央が気になっている電柱に近
?
らず、野良犬や野良猫の気配もない。
当然そこには誰もいない。付近を見回してみるが歩行者は見当た
づいた。
覗きかストーカーだろうか
﹁⋮⋮いえ、何か誰かに見られていたような気がして⋮⋮﹂
?
87
!
﹁とりあえず上がれよ。一緒に飯食おうぜ﹂
﹁はい
?
真央はなんとなく西側の方向を向くと、すぐ近くにある電柱をじっ
!
﹁気のせいじゃないのか
戻った。
││││││
翌日││
﹂
部活行ってきますね
p.m.16:20
﹁じゃあ先輩
!
事件から一晩経ち、今日は無事学校生活を送ることが出来るのだろ
﹁おう。行ってらしゃい﹂
﹂
心しなければならないなと思いながら、俺は真央と一緒に自宅へと
最近この市内で殺人事件やストーカー事件が起こり始めたから用
﹁はい。ありがとうございます♪﹂
﹁心配ならお前が帰るときに家まで送って行くよ﹂
みたいですね﹂
﹁うーん⋮⋮なにか視線を感じてたんですけどねぇ∼⋮⋮気のせい
?
雅人
お前昨日の宿題出してないだろ
﹂
!
うかと不安であったが、特に何事も起こることなく過ごすことができ
⋮⋮
﹁コラァ
!
る。そういえば昨日提出の宿題があったのだが、俺は早退していたた
め提出することが出来なかった。しかも2年生担当の国語の先生は
宿題に関しては本当に五月蝿い。提出しないとその日の放課後まで
に提出するまで居残りさせられてしまう。
そして、俺は昨日やっておいたはずの宿題を家に忘れてしまってい
た⋮⋮
﹁はぁ⋮⋮﹂
もちろん居残り☆
嫌々ながらなんとか宿題を終わらせて、国語の先生に提出し、時刻
は既に17時を過ぎていた。
そうだ。ついでに頑張っている真央の姿を見に行くとしよう。俺
は手ぶらで昇降口にある靴箱に向かい、靴を履いてテニスコートへと
向かった。
88
!
なかったみたいだ。何故か機嫌が悪い国語の先生に呼び止められ
!
そして俺は、人生でいちばん最悪な出来事を目の当たりにしてしま
うなど、この時は思いもしなかった。
89
﹁確かこれが好きだったよな⋮⋮﹂
俺はテニスコートへと向かう前に自動販売機へと足を運んだ。い
つも頑張ってる真央にジュースでも奢ってやろうと思ったからであ
る。
真央が飲み物の中で一番好きな炭酸飲料を買った。そしていざ真
﹂
央の元へ向かおうとすると⋮⋮
﹁キャーーー
いた。
た表情で見ている。俺は倉庫の中に何があるのかが気になり、中を覗
いる1人の女子生徒がいた。倉庫の扉が開いており、その中を青ざめ
悲鳴がした場所に到着すると、体育倉庫の前に腰を抜かして座って
て走った。
きた。まさか何かあったんじゃないかと俺は片手にジュースを持っ
女子生徒の悲鳴があがる。それはテニスコートの方から聞こえて
!!
﹁⋮⋮⋮は
⋮⋮嘘⋮⋮だろ⋮⋮
﹂
されて壁に貼り付けられていた、真央の姿であった。
﹁あっ⋮⋮あ⋮⋮﹂
目の前の光景が信じられなかった
なんでこうなったんだ
どうしんて殺されたんだ
変わり果てた真央の姿
?
だがその少女は内蔵が抉られており、五寸釘で両手両足を串刺しに
中にいたのは1人のユニフォーム姿の少女。
それは信じられない光景であった。
?
心臓の鼓動ガだんだんとはやくなる
だんだんと思考が崩レテイク
生臭い匂いが充満した倉庫
?
どうして真央がこんな目に会わなきゃいけないんだ
?
90
?
いきがだんだんとあらくなる
あたまがくらくらする
きぶんがわるくなって⋮⋮
﹁う わ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ
﹂
俺は全力で走った。
その場から一刻も早く立ち去りたかった。
あの光景は夢だ。
真央が死ぬはずがない。
あいつが死ぬなんてありえない。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
﹂
これは夢。全部夢││
﹁あがっ⋮⋮
履かず、靴下のままで校舎内を上がりる。
ずりながら歩いて靴箱へと戻った。学校内を歩くためのスリッパは
で左足があまりいうことを聞いてくれない。ズルズルと左足を引き
を気にせずに立ち上がる。歩こうとするが嫌な感じに捻ったみたい
最愛の人を突然失った痛みの方が大きいからだ。俺は足首の痛み
﹁まお⋮⋮まおぉ⋮⋮﹂
捻った左足首がズキズキ痛むがあまり痛みは感じなかった。
う。
足首を捻ってバランスが取れなくなり、物凄い勢いでこけてしま
!
91
!!
そこでまたとんでもない光景を目にしてしまう。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹄
それを見た時、俺は真央を失った悲しみと同時に怒りがこみ上げて
きた。
﹃犯人は柿原雅人
﹂
赤い文字でそう書かれた紙が一階の掲示板にぎっしりと貼られて
あった。
﹁俺が⋮⋮俺がなにをしたっていうんだよ
﹁
﹂
﹁柿原⋮⋮お前⋮⋮﹂
た瞬間であっただろう。その叫びには怒りと憎しみしかなかった。
大声でそう叫んでしまう。今までの人生の中で一番大きく声が出
!!!
﹁お前、本当に杉原を⋮⋮﹂
違う。俺が真央を殺すわけがない。
﹁柿原君。あなたには失望したわ﹂
だまれ。なんでそんな紙のことを簡単に信じるんだ。
﹁覚悟しろよ殺人者⋮⋮﹂
﹂
もう何を言っても、全力で否定しても信じてもらえないだろう。
﹁抵抗するなよ
信じてくれない。唯一信じてくれた真央はもう⋮⋮いない。
完全に周りは俺がやったと思っている。俺の言うことなんて誰も
﹁⋮⋮⋮﹂
誰なんだよ。俺を追い詰めて何が楽しいんだよ。
なんでこんな目に遭わなくちゃいけない。
ジリジリと先生達が距離を詰めてくる。
?
92
!!
気が付くと俺は先生達や、少数の部活動生に囲まれていた。
!
﹁⋮⋮﹂
捕らえろ
﹂
また、ひとりになった。
﹁今だ
﹂
力疾走する。
﹁おい、逃げたぞ
﹂
!
﹁やばい⋮⋮眠い⋮⋮いしき⋮⋮が⋮⋮│││﹂
か立つ力すら失われていき、俺はその場に倒れてしまう。
体の力がだんだんと抜けていく。徐々に走れなくなり、歩くどころ
﹁なんだ⋮⋮いきなり⋮⋮からだが⋮⋮﹂
その時、横腹に激しい痛みを感じた。
﹁がっ⋮⋮﹂
した。
走った。何も考えずに、何かから逃げるように、ただ必死に足を動か
もう何もかも嫌になった。何も考えたくなかった。ただひたすら
捻った左足首の痛みなど気にせずに走る。
走る、走る、走る、走る、走る、走る。
追いかけろぉ
は約10メートルくらい吹っ飛んだ。それでできた隙間を通って全
襲いかかってきた1人の生徒の顔面を全力で殴る。殴られた生徒
゛ア゛
﹁ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア
先生、生徒達が一斉に襲いかかってくる。
!
!
そして俺は意識を手放した。
││││││
93
!
!!
﹄
﹃お前の言うことなんて誰も信じない﹄
とっとと消えちまえよ
││だまれ⋮⋮⋮
﹃犯罪者め
││だまれ⋮⋮
﹃ほんと、趣味が悪い。早く死ねよ﹄
││だまれ⋮
﹃雅人⋮⋮失望したぜ﹄
││黙れ
﹃先輩⋮⋮最低ですね﹄
││黙れぇぇぇぇ
本当なんだ
本当になにもやってないんだ
誰か信じてくれ
││なんで⋮⋮なんでたよ⋮⋮
﹃あなたの事なんて、誰も信じません﹄
││
﹃⋮⋮嘘つき⋮⋮﹄
││頼む
││俺は何もしてない
!!
ああああああああああああああああああ
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮
⋮⋮
⋮
!!!
94
!
!
!
││俺は何もしてないって言ってるだろうが
!
!
!
!!
!
!
!
││あああああああああああああああああああああああああああ
!!
!
﹁雅人くん
﹁⋮⋮ん﹂
雅人くん
﹁大丈夫ですか
﹂
凄くうなされたみたいですが⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あれ、どうして⋮⋮﹂
にしていた佐原アリサの姿であった。
目が覚めると、最初に映ったのは見知らぬ天井と、物凄く心配そう
!
頭痛がする。
?
に
﹂
﹁ちょっと
﹂
なにしてるんですか
まだ回復しきってないというの
無理したら酷くなるのは当たり前か⋮⋮
我はひどくなってしまっているみたいだ。まぁ、怪我した足であんな
左足を床につけた瞬間鋭い痛みが走る。どうやら思った以上に怪
﹁いっ⋮⋮
した体で無理にでも起き上がろうとする。
とはいえ、いつでもここに長居してるわけには行かない。俺は負傷
﹁いえいえ。貴方のためならこれくらいのこと⋮⋮///﹂
﹁そうか⋮⋮ありがとな﹂
たので私の家まで運んで今に至るわけです﹂
うどあなたが倒れているのを見かけました。凄く気分が悪そうだっ
﹁ここは私の家ですわ。ちょっとした用事で車に乗っていたらちょ
けだった。
か。なんで佐原さんがここにいるのか。色々と分からないことだら
とりあえず状況を整理しよう。ここは何処なのか。今は何時なの
﹁どうして⋮⋮佐原さんがここに
﹂
確かに目覚めの気分としては最悪だ。汗をひどくかいていて、少し
?
!?
た。
そんな体じゃ歩くことすらできない
﹁すまねぇ⋮⋮でももう俺は、行かなくちゃ⋮⋮﹂
﹁行 く っ て、ど こ に で す か
じゃないですか﹂
?
95
!
!
!
バランスを崩し、倒れそうになる俺を佐原さんが受け止めてくれ
!
﹁でもっ⋮⋮くっ⋮⋮
﹂
﹂
か立つが、歩こうとするとさらに痛みが増す。
﹁⋮⋮なにか、あったんですか
佐原さんは心配そうに問いかける。
﹁なにも⋮⋮ないよ﹂
﹂
﹁じゃあなんで無理してでも急ごうとしているのですか
かありましたね
?
?
﹁待ってください
﹂
俺はそう言ってこの部屋から出ようとする。
﹁⋮⋮治療、ありがとな。とにかく、俺はもう行くから﹂
﹁確かに関係ないかもしれませんが、私はあなたの身が心配で⋮⋮﹂
﹁⋮⋮お前には関係ないだろ﹂
やはり何
やつなんているわけない。左足首の痛みに苦しめられながらなんと
言っても、やっていないと何度否定しても、それを受け止めてくれる
言 え な い。言 え る わ け が な い。ど う せ 誰 も 信 じ て く れ な い。何 を
!
﹁⋮⋮離してくれ﹂
﹁⋮⋮何があったんですか
﹂
しかし佐原さんが俺の腕をがっしりと掴んでくる。
!
﹁⋮⋮断る﹂
私に言えない事なんですか
どうせ言っても信用してくれない。
﹁何故ですか
?
﹂
?
絶対何か隠してます。教えてください。せめて何かあなた
﹁⋮⋮特に理由は⋮⋮﹂
﹁いえ
﹂
のか気になります。理由を教えて頂けませんか
﹁嫌です。私はあなたが何故そこまで無理をして出ていこうとする
?
﹂
﹁余計なお世話だ⋮⋮さっさと離せ﹂
﹂
﹁⋮⋮どうしても、だめなのですか
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁私を、信用してないのですか
?
その通りだ。と言いたいところだが、佐原さんの真剣な表情に不安
?
96
?
!?
の力になれれば⋮⋮﹂
!
が出ている。あまり相手を傷つける行為は避けたい。むしろ女性な
らなおさらだ。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮大丈夫ですよ﹂
すると佐原さんは俺の片腕の手のひらを両手で優しく包み込んだ。
﹁あなたに何があったのかはわかりませんが、これだけは言わせて
ください﹂
そしていつもの優しい表情になって
﹁私はいついかなる時もあなたの味方です。あの時、誰も相手にし
てくれず一人孤独に過ごしていた私に話しかけてくれた。お嬢様と
かそういう立場など関係なしにあなたは私を一人の女性として見て
くれて、ちゃんと向き合ってくれました。私はそれがたまらなく嬉し
かったのです⋮⋮﹂
﹁佐原さん⋮⋮﹂
﹁そんな優しいあなたを、私は心からお慕いしております。例え周
りの人達があなたの事を信用してくれなくても、私はずっとあなたの
味方です﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
佐原さんは笑顔でそう言った。
俺は何を思ったのだろうか。重たい口を開き、今までにあった事を
全て話した。
⋮⋮⋮
﹁そんな事が⋮⋮﹂
﹁あぁ⋮⋮これから、どうすればいいんだろうなぁ⋮⋮グスッ⋮⋮
あれ⋮⋮﹂
誰かに話せた事で安心したのだろうか。気がつけば俺は涙を流し
97
ていた。
﹁ぁぁ⋮⋮グスッ⋮⋮ちくしょう⋮⋮女の子の⋮⋮グスッ⋮⋮前で
⋮⋮泣くなんて⋮⋮男らしくねぇ⋮⋮グスッ⋮⋮﹂
まだ俺を信用してくれる人がいる。ちゃんと俺の味方になってく
れる人がいる。それだけで俺の心は満たされていた。
﹁雅人くん⋮⋮﹂
俺は佐原さんに引き寄せられぎゅっと優しく抱きしめられる。佐
原さんの手が俺の頭を優しく撫でていた。
﹁怖かったでしょう⋮⋮辛かったでしょう⋮⋮もう大丈夫ですよ。
私が、ずっとあなたのそばにいますから⋮⋮﹂
﹁⋮⋮佐原⋮⋮さん⋮⋮﹂
﹂
?
だから事が落ち
﹁今頃先生達は警察と協力してあなたを捜索しているはずです。無
実なうえに怪我や精神も回復していないでしょう
﹂
?
?
それにお前の両親達の許可は
着くまでここで暫く身を潜めてはどうですか
﹁だ け ど、お 前 は そ れ で い い の か
?
98
そして今まで溜まっていたのを全部吐き出すように、俺は声を荒ら
げて泣いた。
││││││
数 分 後。よ う や く 泣 き 止 ん だ 俺 は さ っ き ま で 寝 て い た ベ ッ ド に
座って、これからどうするかと悩んでいた。正直もう家には帰りたく
ないし、あの学校ももううんざりだ。
﹂
﹁あの、雅人くん﹂
﹁ん
﹂
?
それを聞いた俺はつい腑抜けた声を出してしまう。
﹁⋮⋮へ
﹁これから、私と一緒に暮らしませんか
俺が悩んでいると、隣に座っていた佐原さんから声をかけられる。
?
⋮⋮﹂
﹁ここには両親は居ませんよ。両親は別居でこのお屋敷は私と数十
名の執事やメイドしかいませんし、もし何かあった時は私含め、佐原
財閥が全力であなたを守ってあげます﹂
こんなでっかいお屋敷が佐原さん一人のものなのか⋮⋮さすがお
嬢様。
﹁そうか⋮⋮﹂
正直、もう疲れた。立ち直れる気がしない。
このまま佐原さんと一緒にいれば、色々と楽かもしれない。
﹂
誰からも信じてもらえなくなった俺を唯一信用してくれている彼
女と一緒にいたい。
﹂
99
彼女とずっと一緒にいたい。
なんだ、そんな事か。
雅人くん
﹁これからもよろしくな、アリサ﹂
﹁はい
窓から外を見るとあたりは暗くなっていた。今頃先生達は警察の力
アリサは微笑して部屋を出た。時刻はすでに19時を過ぎている。
﹁あ、ああ。すまないな﹂
﹁うふふっ。お食事、持ってきますね♪﹂
するとさらに安心したのか、俺の腹がぐぅ∼と情けない音で鳴る。
れる。
彼女は笑顔で喜んでくれた。その可愛い笑顔が俺の心を癒してく
!
?
俺はその想いでいっぱいだった。
﹁じゃあ、しばらく世話になるよ。よろしくな、佐原さん﹂
なんか微妙な顔をしているぞ
﹁⋮⋮⋮﹂
あれ
?
﹁⋮⋮﹃アリサ﹄と、これからは名前で読んでくれませんか
?
!
を借りて俺を探しているだろう。
もうあんな出来事はごめんだ。今まで関わってきた人達の顔を見
るのが怖い。学校に行かずにここで働くという選択肢もある。色々
とこれから先不安ではあるが、ちゃんと隣にはアリサが一緒にいてく
れる。
もう失わないように、彼女を大切にしよう。
そう心に決めたのであった。
││││││
﹁⋮⋮⋮﹂
2階の部屋から1階にある厨房までの長い距離。私は口角が上が
るのを抑えられなかった。
︵ここまで来たら⋮⋮︶
ここから雅人くんの部屋までは距離がある。
﹁ふふ⋮⋮ふふっ⋮⋮﹂
もう我慢の限界だった。
﹁あはははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははははははははは
100
これで雅人くんを独占することが出来る
﹂
はははははははははははははははははははははははははははははは
遂に叶った
はははははははははははははははははははははは
やった
くんを見て、あれは完全に関係が壊れただろうと確信しました。
感じでその場を離れて行きました。その時の絶望した顔をした雅人
と酷い有様でした。そして雅人くんの近くにいたあの女も失望した
結果は大成功。周りの人達は彼を避け、嫌い、罵倒したりなど色々
年生の学年掲示板に貼り付けて、誰もが目を通すようにしました。
で写っている雅人くんの顔を合成しました。出来上がったそれを2
れている写真を極秘で入手し、その写真に写っている犯人と同じ角度
それを狙いで数ヶ月前に起きた女子中学生拉致事件で実際に犯さ
周りの人達に彼の悪い印象を与えて離れさせる。
私は早速計画を実行することにしました。
そうだ。周りのやつを彼の周りから消せばいいんだ⋮⋮と。
私はあることを思いつきました。
を見て欲しい。私だけを愛して欲しい。ずっとそう思っていました。
雅人くんが私以外の人といるのがすごく嫌だった。彼には私だけ
殺意も高まりました。
くんを独占したい気持ちがさらに高くなり、同時にその女に対しての
二日前。私は雅人くんが他の女といちゃついているのを見て雅人
事がうまく進んだみたいで本当に良かったと思っている。
最初はこんな計画で大丈夫のだろうかと不安だったが思いのほか
!!
!!!!
完全に思い通りになって、嬉笑いが抑えきれなかった。
!
さらに誘いやすくするために雅人くん自身の精神も追い込もうと
101
!
思い、同じクラスの男子にお願いして1枚の写真を渡し、それを使っ
て彼の元番長だった過去をばらし、立場を壊そうとしたのも私の計画
のひとつです。しかし、色々と雅人くんに対してやってくれたあのヤ
ンチャ野郎はさすがに殺意が湧きましたがなんとか我慢しました。
夜に雅人くんの家を訪ねて元気づけてあげようと思い、私はその日
に手作りの弁当を用意して彼の自宅へと向かいました。
だがありえないことに、彼の自宅にはあの女が居ました。私はとっ
さに隠れて様子を見ました。しばらく口論していましたが、最終的に
和解していつも以上の関係になってしまったのではないかと不安に
なりました。
やはりあの女は邪魔だ。本格的に消さないといけない。
そして私は奥の手を使うことに決めました。
その日の夜、私はある男を金で雇いました。その男は残酷な殺人を
する事が大好きなサイコパスな人でした。
ターゲットは杉原真央。彼女を殺してくれれば報酬として100
万払いましょう。
そう命令すると男は快く引き受けてくれて、指名した日にちゃんと
殺してくれました。
そして私は︽犯人は柿原雅人︾と荒々しく紙に書き、1階の掲示板
に貼り付けました。これでもう彼に関わろうとする者は誰もいなく
なると思いました。
学校から少し離れた人気の少ない場所。仕事を終えた男は私に報
告すると、私の護衛を務めている執事に気絶させられました。私は脳
に障害を起こさせる薬が入った注射器をその男に注入しました。男
は目を覚ますと激しく混乱し、頭を抱えながら悶え、激しく暴れまく
り、最後にはあの女を殺した凶器で自分の心臓を突き刺し、自ら命を
絶ちました。
そして私はもう1人の執事に彼、柿原雅人を捕獲する事を命じてい
ました。
執事は逃げ回っている彼を遠く離れた距離から睡眠弾を装填した
スナイパーライフルで射撃。見事彼の動きを止めて、回収することに
102
成功しました。
心身共にボロボロになった彼を安心させ、癒し、彼の心を私のもの
にする。こうしてこの計画は成功しました。
﹁これからもよろしくな、アリサ﹂
これを聞いた瞬間、私はどれだけ嬉しかったのか計り知れません。
大好きな彼と一緒にいられる。そう思うと幸せな気持ちでいっぱい
でした。
もう彼には私しか頼れない⋮⋮
もう彼には私しか見れない⋮⋮
もう彼には私しか愛せない⋮⋮
﹁お待たせしました﹂
﹂
﹁おぉ⋮⋮相変わらず美味そうだなぁ﹂
﹁ふふふっ、自信作ですよ﹂
﹁そりゃあ、楽しみだ。いただきます
﹁はい、召し上がれ♪﹂
これからの事を考えると私は楽しみで仕方なかった。
103
!
︵大好きです⋮⋮愛していますよ⋮⋮一緒に、幸せになりましょうね
雅人くん♡︶
あぁ⋮⋮私は幸せです⋮⋮。
?
指切りげんまん︵前編︶
ピピピッ ピピピッ
﹁起きろー
﹂
止めて、再び布団に潜った。
携帯のアラームが部屋に鳴り響く。俺は寝ぼけながらアラームを
!
﹂
身体を襲う。
さむっ
!
﹁えへへ♪﹂
﹁そう言ってくれると嬉しいよ﹂
﹁いいってことよ。お前の為ならば苦じゃないぜ﹂
﹁いつもすまないな﹂
だ。
リビングのテーブルには既に朝食が並べてあり、どれも美味しそう
﹁冷めないうちに食べろよ﹂
替えて、朝の支度を済ませた。
そう言って彼女はリビングへと向かった。俺はせっせと制服に着
﹁朝飯できてるから、はやく降りてこいよ∼﹂
ちょっと変わっている俺の幼馴染だ。
とつにまとめており、一人称が﹁オレ﹂だったり、男勝りな所がある
彼女は赤坂 幸希。金髪に染めたクセ毛のある長い髪を後ろでひ
﹁おう♪﹂
﹁ふわぁ⋮⋮おはよう、幸希﹂
立つ所がなく、ごく一般的な男子生徒だ。
俺の名前は、柏原 健人。ごく普通の高校2年生。これといって目
﹁へへっ。おはよう、健人﹂
﹁うあっ
﹂
掛け布団を無理やり取られ、12月中旬の凍えるような寒い気温が
﹁ほいっ
﹁んん⋮⋮あと5ふん⋮⋮﹂
部屋のドアが勢い良く開かれ、元気な女性の声がする。
!!
椅子に座り、
﹁いただきます﹂と何時もの言葉を言って箸をとる。で
104
!
!
きたての卵焼きを口に入れた。
えへへ♪﹂
﹁うん。今日も美味しいよ﹂
﹁そっか⋮⋮
く。
?
あ、あぁ。ちょっと包丁でやっちゃってな、まだ慣れてない証
爆竹トラップ事件﹂
またあったんだって﹂
﹁またかよ∼。あれだろ
﹁ねぇねぇ聞いた
朝の学校。俺のクラスはある噂でまた盛り上がっている。
a.m.8:45
││││││
ふふっ♪︶
︵健人の料理に自分の血を入れるために切ったなんて言えないぜ⋮⋮
今度何かお返ししないとなと思いつつ、俺は朝食を取り続けた。
う に な っ て い る。こ こ ま で 上 達 す る に は 相 当 練 習 し た の で あ ろ う。
料理もまともにできなかったのに今ではだいたいの料理は作れるよ
幸希が本格的に料理を始めたのは2年前くらいからだ。その頃は
﹁そっか﹂
拠だなー⋮⋮﹂
﹁ん
俺は気になって、その指のことについて問いかける。
﹁幸希。その指どうしたの
﹂
すると俺は幸希の人差し指に絆創膏が貼ってあったことに気がつ
あった。
可 愛 い と こ ろ も ち ゃ ん と あ る。や っ ぱ り 女 の 子 だ な と 思 う 瞬 間 で
幸希はニコニコと笑顔で喜んでいた。男勝りなところはあるけど、
!
なか目で捉えることが難しく、突然爆発して怪我を負わせるという無
あり爆竹自体の色も仕掛ける道路の色に合わせられているため、なか
学路に爆竹が仕掛けられている。爆竹の威力は通常の3倍の威力で
︽爆竹トラップ事件︾。2週間前くらいから歩行者や学生が通る通
?
?
105
?
駄に手の込んだイタズラだ。
﹁またかよ⋮⋮早く犯人捕まんねぇかな∼﹂
健人はオレがちゃんと守ってやるからよ
﹂
﹁しかも被害はここの地区だけだからなぁ∼。気をつけないとな﹂
﹁大丈夫だ
﹁流石に厳しいだろ﹂
!
その後は特
?
﹁がっ⋮⋮
﹂
と外にある自動販売機へ行こうと公園から出る。
を待っているところだ。俺は喉が渇いてきたので、ジュースを買おう
途中で幸希がトイレに行きたいと言い始め、今は近くの公園で幸希
学校の授業が終わり、俺達はのんびりと帰宅中だ。
p.m.16:18
に何もなく授業が行われた。
石にしばらく休校とか考えた方がいいんじゃないのか
やはり皆の噂通り、また被害が出たらしい。ここまでやられると流
絡事項だが│││﹂
だ捕まっていないため、十分に注意して登校してくれ。では今日の連
﹁今回もまたうちの生徒1人が例の事件の被害にあった。犯人はま
と座った。
担任の先生が教室へと入ってくる。生徒達はせっせと自分の席へ
﹁はい皆席につけー。ホームルーム始めるぞー﹂
を感じながら生活しているのだ。
俺達高校生は次は自分がやられるんじゃないかという不安と恐怖
重に警戒しているのかこの地区でよく見るようになっている。
何が目的でこんなことをしているのかは全く理解できず、警察も厳
がターゲットみたいだ。
生、中学生達が被害を受けたということは聞いていない。高校生だけ
被害者はこの地区にある3つの高校の生徒だ。大人や高齢者、小学
?
と俺は笑いながら受け流す。
本気にしてないなぁ∼
﹁あー
!
どうだろうねぇ∼﹂
﹁さぁ
﹂
幸希はキリッとした顔で断言する。
!
!
106
?
すると数歩進んだだけで、大きな音と爆発されたような感覚がし
︶
た。足下に激しい痛みを感じ、その場に倒れてしまう。
︵なんでこんなところにっ⋮⋮
たいだ。
﹁あひゃひゃひゃ
﹂
!
﹁ほれ﹂
﹁ぎっ⋮⋮
﹂
血がダラダラ出ているその足でなんとか立とうとする。
ことがわかってよかったよ﹂
﹁いやぁ。改良版の実験台ありがとうね。いい感じに威力が出てる
﹁お前ら⋮⋮﹂
だ。
めた髪型やピアスをしている格好からして他校生のヤンキーみたい
後ろから男達の声がする。深緑色の学ランを着た3人組の男。染
の威力かよ﹂
﹁この改良版すげぇな。いつもより少なめに仕掛けたはずなのにこ
ほんとにひっかかりやがったよ
地面から火薬の匂いがする。どうやら例の事件の被害にあったみ
!
足が滑っちゃった
ぎゃははははは
﹂
﹁この事は、誰にも言うんじゃねぇぞ
⋮⋮どうなるかわかってんだろうな
さないからよ。ほら早く﹂
﹁ついでに今持ってる金よこせよ
﹂
もし俺らのことを喋ったら
そうしたらもうお前には手を出
そしてこの事を誰にも喋らないよう脅迫される。
?
﹁⋮⋮おい﹂
俺はこの状況をどうにかしようと思考を巡らせていると⋮⋮
誰が渡すもんかアホ。
!
しまう。
﹁あ、ごめ∼ん
︵こいつら⋮⋮︶
!
?
?
107
!
さらに1人の男が俺の髪をワシ掴みして持ち上げる。
!
しかし1人の男に怪我している部分を攻撃され、また体制を崩して
!
﹁あ
│││ほげぇっ
﹂
?
﹁オレの健人に何してんだおまえら
﹂
突然、後ろから殺意の篭った声がして男が殴り飛ばされる。
!!
﹂
幸希だった。物凄く怒っている。殺意がタダ漏れだ。
﹂
﹁な、なんだてめぇ
﹁ふざけんなよ
!
﹂
ちょ、やめ、おれ││
﹁ぎいあああああ
バキッ
﹁いだだだだ
止めた拳を力強くメリメリと握りしめる。
1人の拳を手で受け止め、もう1人の拳を掠めるように避ける。受け
他の男達が二人がかりで襲ってくる。だが幸希は恐れることなく
!
﹁⋮⋮⋮﹂
そして幸希は最初に殴り飛ばした男の元へと歩いていく。
﹁てめぇ⋮⋮一体何もんだ⋮⋮﹂
﹁黙れ﹂
幸希は倒れている男の顔を踏み付ける。
﹁ぐっ⋮⋮﹂
﹁てめぇ、よくもオレの大事な健人に手ぇ出してくれたな
ことしてただで済むと思ってんのかよおい﹂
グリグリと足を男の顔に擦りつける。
こんな
男は腹を抱えて跪いた。1人は折れた骨の痛みで動けないでいる。
﹁が⋮⋮は⋮⋮﹂
に鋭い蹴りを打ち込む。
攻撃をかわされた男はもう一回殴りかかってくるが、幸希は男の腹
﹁や、野郎⋮⋮﹂
遂には握りつぶして、男の掌の骨を砕いた。
!!
!
﹁く、そ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ふん﹂
?
108
?
幸希は踏み付けていた右足を男から離すと、今度は左足で男の顔面
ほら
頼むから⋮⋮﹂
金払うから
500
を蹴り上げた。男の巨体がふわっと浮き上がり、ドシャッと落下し
た。
﹁さて⋮⋮後片付けもしないとな⋮⋮﹂
あ、そうだ
悪かった
幸希は跪いている2人の男に狙いを変える。
﹁ひっ⋮⋮ゆ、許してくれ
﹂
﹁ほんとにごめんなさい
0円
!
﹁ひっ⋮⋮﹂
﹁﹁ぎゃあああああああああ
うわ、すげえ血が出てんじゃん
!?
戦いを初めて目の当たりにして、唖然としていた。
﹁大丈夫か健人
﹂
番長だ。それなりに喧嘩はやってきているし、俺も実際さっき幸希の
あったが、格闘技の分野は最も得意としている。しかも元ヤンキーの
幸 希 は 昔 か ら 喧 嘩 が 強 か っ た。運 動 神 経 は 元 か ら 凄 く 高 い 方 で
﹁ふぅ⋮⋮﹂
その後、3人組の男は幸希にコテンパンにされ、全員気絶していた。
⋮⋮⋮⋮
﹂﹂
﹁⋮⋮許すわけねぇだろ、死ね﹂
も憐れなものだった。
2人は幸希に許してもらおうと必死になっている。その姿はとて
!
!
!
!
!
!!
﹁⋮⋮あ、あぁ。大丈夫だよ﹂
!
痛みに耐えつつなんとか立ち上がる。
﹁そっか⋮⋮なら早く帰って手当しないとな
﹂
ほら、早く帰ろうぜ
そして幸希は何時もの雰囲気で俺の心配をしてきた。
!?
彼女の顔に少しの返り血がついていた。
109
!
健人
!
そして幸希はニカッとした何時もの明るい笑顔で手を差し伸べる。
!