パ ラ ダ イ ム シ フ ト

保険E R M 基 礎 講 座 《 第
連載
り、その過程において不
く変化させる動きであ
パラダイムシフトと
は、現在の枠組みを大き
のであったとしても、そ
またグローバル共通のも
に、戦略やリスク管理上
根本的なものであるが故
変化は保険会社にとって
る。しかしながら、その
へのインパクトは異な
の違いから、各保険会社
モデルやポートフォリオ
場においても、ビジネス
認められる。また同じ市
ードや対応には固有性が
によってその変化のスピ
えるが、各国の保険市場
これらの変化は、グロ
ーバルベースの潮流とい
のコミュニケーションも
われば、企業と投資家と
る財務情報の枠組みが変
て、企業の業績を開示す
い て 重 視 さ れ る。 従 っ
する情報は投資判断にお
いる。この経済価値に関
価値の源泉)に依存して
キャッシュフロー(経済
が将来生み出すであろう
報われる。いずれも企業
る配当や利息という形で
見返りは、将来支払われ
が株式や社債へ投資する
企業活動には資本や資
金が必要である。投資家
ていくための改定作業
基準をIFRSに近づけ
日本では、任意適用と
なっているが、日本会計
た。
してその採用が始まっ
れ、ヨーロッパを中心と
RS、〈注2〉)が生ま
会計基準」
:IF
務報告基準(通称「国際
ような考えから、国際財
問題は解決される。その
れるならば、このような
る一つの会計基準が使わ
難を来す。全世界で、あ
業の経営状況の把握に困
異なり、開示内容も変化
わると価値の評価尺度が
経済価値ベース会計に変
績が開示されていたが、
た期間損益によって、業
現した収益から算出され
これまでは、過去1年
間に発生した費用と、実
表1参照)。
産」を重視している(図
債 を 差 し 引 い た「 純 資
スで算出した資産から負
RSでは、経済価値ベー
きを置いているが、IF
出した「期間損益」に重
現行会計基準は、収益
から費用を差し引いて算
た。
〈収れん〉)が実施され
守的に確保するための標
保の将来の支払財源を保
超長期の負債を抱える生
めの異常危険準備金や、
る支払財源を確保するた
の自然災害リスクに対す
に対しては、例えば損保
険負債の将来の不確実性
保険会社の特徴である保
置かれていた。同時に、
に確保することに主眼が
させ、期間損益を安定的
用と実現した収益を対比
これまでの保険会社の
業績管理は、発生した費
リスクのようなファット
保においても、自然災害
けることとなる。また損
値評価が大きく影響を受
基礎率の水準によって価
死亡率、解約率といった
た将来の経済金融指標や
価は、決算時点で予測し
合、経済価値ベースの評
ローを有する生保の場
ただし、主として超長
期の負債性キャッシュフ
したものである。
ースのBSを使って説明
保険負債
督 者 国 際 機 構( I A I
S)の保険基本原則(I
CPs)における規制上
をとるものである。換言
り、投資判断との整合性
合的に評価することによ
現在起こっている変化
は、企業の業績を市場整
構築されている。
理が並存する管理体制が
れ、収益管理とリスク管
比率による管理が導入さ
ソルベンシー・マージン
実性を管理する目的で、
また他方、保険会社の
抱える資産、負債の不確
管理している。
度を導入して期間損益を
準責任準備金といった制
が2010年に成立し
法:
革法(ドッド=フランク
どを目的に、金融規制改
た金融危機の再発防止な
米国では、サブプライ
ムローン問題を端緒とし
する必要がある。
で処分可能な利益を識別
ベースの利益から現時点
フローに基づく経済価値
あろうネットキャッシュ
合には、将来生み出すで
や税金の問題を考える場
かという問題を含んでい
いかに合理的に評価する
テイル性の高いリスクを
の必要資本を経済価値ベ
すれば、戦略(その結果
る。さらに、現実の配当
としての業績)とリスク
3. 業 務 管 理 の
変化
いる。図表2は、保険監
のスコープや時間軸によ
の変更を求めるであろ
変わる。
(会計コンバージェンス
準が異なっている現状
する。
って異なる整理が可能と
う。そして、対応いかん
企業活動や資金調達が
グローバル化したにもか
る。
なる。例えば、日本の保
では今後の競争力に大き
回》
険会社に共通な要素とし
な影響を及ぼし得る。
当面の低金利環境の長期
は、投資家にとって、企
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明している。「あるパラ
ン(注1)が次の通り説
確実性を拡大させる。現
化やマイナス金利の影響
を考慮しなければならな
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ダイムで説明されるべき
在進行しつつある保険事
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事実が全て説明されてい
業をめぐる変化は、パラ
いだろう。
かわらず、各国の会計基
ては、今後の人口動態の
パラダイムシフト (その1)
るうちは、そのパラダイ
ダイムをシフトさせる可
ここでは、基本グロー
バル共通の中期的要素を
2. 会 社 価 値 の
枠組みの変化
変化が、終身保険や自動
有限責任監査法人トーマツ
ムは安泰である。しかし
能性がある。その要素を
車保険に及ぼす影響や、
後藤 茂之
ディレクター こる。やがて、新パラダ
そのうちに、パラダイム
さまざまな切り口から指
取り上げた。少なくとも
評価時点(t=1)の保険者の財務ポジション
イムが支配的になり、従
内で説明できない変則事
摘することが考えられ
次の三つの視点が重要と
保険負債
その他の
負債
その他の
負債
1. パ ラ ダ イ ム
シフト
例が生じてくる。変則事
る。保険会社の外的ハザ
考える。すなわち、①会
負債
1年間で
発生する
ショック
社価値の枠組みの変化②
MOCE *
来のパラダイムは旧パラ
例が無視できない重みを
ードはグローバル共通な
ショックの影響
ダイムとなり、歴史の彼
持ちはじめたとき、パラ
もの、あるいは特定の市
図表2
方に消えていく」。
ダイムは危機に陥る。こ
規制改革の進行③ビジネ
会社が、財務の健全性を管理しようとした場合、例えば一定の信頼水準に見合う 1 年後の純資産の変動(減少)の
可能性に耐えられるように資本の水準を維持することが必要となる。
パラダイム(思考の枠
組み)という概念につい
の変則事例を説明できる
場や各社のポートフォリ
スモデルの変革―であ
* ここでエコノミックキャピタルとは、事業計画に伴い想定されるリスクに対して、会社が必要とする資本のこと。
て、トーマス・S・クー
新パラダイムが見いださ
オに固有なものがある。
経済価値ベース
現行会計ベース
れたとき、科学革命が起
RM関連パネルに参
加。現職にて、ERM
高度化関連コンサルに
のの基本構造は共通して
など細部の違いはあるも
S)は、呼称、評価方法
ンシーの貸借対照表(B
FRSと経済価値ソルベ
れることを意味する。I
ースの枠組みで共通化さ
の枠組みが、経済価値ベ
を統合的に管理する両者
(5面へつづく)
ては、より厳しい健全性
〈注3〉を含む)に対し
バ ン ク( D ― S I I s
の監督下に置かれるノン
備制度理事会(FRB)
行持株会社および連邦準
資産500億㌦以上の銀
た。これにより、連結総
)
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従事。
大阪大学経済学部卒
業、コロンビア大学ビ
ジネススクール日本経
済経営研究所・客員研
*MOCE(Margin over Current Estimate)
:現在推計を超えるマージン
評価時点(t=0)の保険者の 規制上の
財務ポジション
必要所要資本
保険交渉、合併・経営
ペタイト・フレームワ
MOCE*
統合に伴う経営管理体
ーク、ORSAプロセ
余剰資本
経済価値ベース
純資産
エコノミック
(=資産−負債) キャピタル*
会計ベース
純資産
(=資産−負債)
現在推計
資産
制 の 構 築、 海 外 M &
A、 保 険 E R M の 構
築、グループ内部モデ
【後藤茂之氏プロフィ
究員、中央大学大学院
総合政策研究科博士課
程修了。博士(総合政
資産の
経済価値
資産
(会計ベース)
26
策)。
負債の
経済価値
負債
(会計ベース)
資産
現在推計
負債
所要資本
資本
リソース
ルの高度化、リスクア
ル】
S、Geneva A
ssociatio
ス整備に従事。IAI
て、企画部長、リスク
n、EAICなどのE
大手損害保険会社お
よび保険持ち株会社に
管理部長を歴任。日米
図表1 現行会計と経済価値ベース会計との対比
2 0 1 6 年(平成 2 8 年)1 0 月 1 3 日(木曜日) ( 4 )
(第 3 種郵便物認可)
適用されている。
(プルーデンス)基準が
(4面からつづく)
よりよく選択したいと考
測し現在取るべき行動を
ころより、人は将来を予
えるようになった。経済
価値ベースの枠組みは、
ト(
そのひとつとして、マ
クロフィナンシャルテス
(第 3 種郵便物認可)
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などの定性面も勘案し
スやリスク管理プロセス
的分析に加え、ガバナン
ST)がある。この定量
:DFA
が、そういう環境である
しているとも考えられる
けではなく、むしろ拡大
は解明され尽くされたわ
も考えられる。不確実性
チにおける一つの結実と
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て、包括的資本分析レビ
が故に、健全で合理的な
ある意味、そのアプロー
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資本計画(配当や株式買
検査を実施し、FRBが
R)と呼ばれる資本計画
:CCA
営ツールの一つと考えら
時代の流れに合致した経
いる経済価値の枠組みは
ている。現在進められて
拡大する努力が期待され
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戻し)の承認を行うこと
れる。しかし、これらの
アプローチで企業価値を
となっている。このプロ
◇
枠組みをいかに活用する
クコントロール効果など
( 注 1 ) ト ー マ ス・ S
・ ク ー ン『 科 学 革 命 の 構
セスの中で、将来のシナ
が確認され、将来の自己
(つづく)
資本の確保状況が評価さ
造』中山茂訳、 1971
かが、今問われている。
れる。これは、金融危機
年、みすず書房
リオに対する当局と金融
以前に過大な利益処分を
( 注 2) 国 際 会 計 基 準
審 議 会(
機関の予測の差異、リス
実施したため資本水準の
低下を助長した教訓を反
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映している。つまり、将
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る中で配当を払い、自社
る包括的な情報が不足す
来の潜在的な損失に対す
務化されている。
Uでは、 2005 年に義
した会計基準であり、E
)が作成
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B
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株買いを実施した幾つか
( 注 3)
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的でフォワードルッキン
を考え、資本政策を包括
今後の潜在的な経済条件
ざるを得なかったから、
であり、所属する組織の
(文中の意見に当たる
部分は執筆者個人のもの
ぼす国内保険会社。
ステムに重要な影響を及
:金融シ
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グな視点で検証する必要
ものではありません)
◆この連載は隔週木曜
日に掲載します。
を意識したものと考え
リスクの研究が本格的
に始まったルネサンスの
る。
ハイブリッド債を発行せ
の銀行が、その後巨額の
2 0 1 6 年(平成 2 8 年)1 0 月 1 3 日(木曜日)
(5)