Dec 8, 2016 No.2016-061 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 主席研究員 武田 淳 主任研究員 石川 誠 03-3497-3676 [email protected] 03-3497-3616 [email protected] 日本経済:7~9 月期 2 次 QE は下方修正、国内民間需要の停滞を確 認、基準改定により名目 GDP600 兆円の実現可能性高まる 7~9 月期の実質 GDP は 1 次速報の前期比+0.5%(年率+2.2%)から 2 次速報では+0.3%(+ 1.3%)へ下方修正された。設備投資と在庫投資の下方修正が主因であるが、基準改定されてお り両者の単純比較にさほど意味はない。新統計でも 2016 年入り後の国内民間需要の停滞が確認 されており景気認識は変わらず。また、2015 年度は成長率が大きく上方修正、名目 GDP の水準 は 532 兆円へ引き上げられ、2020 年頃までに 600 兆円に到達する可能性が高まる。 設備投資と在庫投資、純輸出が下方修正 本日、発表された 2016 年 7~9 月期 GDP の 2 次 速報値(QE)は前期比+0.3%(年率+1.3%)と なり、1 次速報値の前期比+0.5%(年率+2.2%) 実質GDPの推移(季節調整値、前期比年率、%) 10 実質GDP 公共投資 5 から下方修正された。 純輸出 個人消費 0 主な需要項目を見ると、大方の予想通り公的固定 資本形成(公共投資)が上方修正(1 次速報前期 比▲0.7%→2 次速報+0.1%)された一方で、設備 投資(0.0%→▲0.4%)や民間在庫投資が下方修 正(前期比寄与度▲0.1%Pt→▲0.3%Pt)された。 その他 ▲5 設備投資 ▲ 10 ▲ 15 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 ( 出所) 内閣府 また、個人消費(+0.1%→+0.3%)が上方修正 されたほか、輸出(+2.0%→+1.6%)が下方修正され輸入(▲0.6%→▲0.4%)が上方修正されたこと から、純輸出(輸出-輸入)の実質 GDP に対する寄与度は前期比で+0.5%Pt から+0.3%Pt へ下方修正 となった。 ただ、今回から基準年が 2005 年から 2011 年に改訂されたことに加え、統計作成のルールが変更1された ことから、1 次速報値と 2 次速報値を単純に比較することはできない点に留意が必要である。 成長率は減速傾向、景気は緩慢な拡大にとどまる 新たな GDP 統計に基づいて景気動向を確認すると、成長率は 2016 年に入り明確な減速傾向を示した(前 期比年率:1~3 月期+2.8%→4~6 月期+1.8%→7~9 月期+1.3%) 。国内民間需要(前期比:1~3 月期 +0.1%→4~6 月期+0.9%→7~9 月期▲0.1%)が 4~6 月期にやや盛り上がりを見せたが、輸出(+0.8% →▲1.3%→+1.6%)や政府消費(+1.3%→▲1.1%→+0.3%)が落ち込んで成長率を押し下げ、7~9 月期には国内民間需要が減少に転じ成長率を一段と押し下げた。内訳を見ると、個人消費(+0.4%→+ 0.2%→+0.3%)が回復力に欠き、設備投資(▲0.3%→+1.4%→▲0.4%)も一進一退が続いており、2016 年を通じて国内民間需要が停滞、景気は緩慢な拡大にとどまっていると評価できよう。 1 次速報までは国際連合の定めた国際基準「1993SNA」に準拠していたが、2 次速報から「2008SNA」に変更されている。 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研 究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告 なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。 1 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 2015 年度の成長率が大幅上方修正 また、今回の改定では過去に遡って実績が大幅に修正されているが、中でも目立つのは 2015 年度の実質 GDP 成長率の大幅上方修正である。旧統計(1993SNA)では 2015 年度の実質 GDP 成長率は前年比+ 0.9%であったが、新統計(2008SNA)では+1.3%へ 0.4%Pt も上方修正されている。内訳を見ると、個 人消費(2015 年度前年比:旧統計▲0.1%→新統計+0.5%)の上方修正が目立っており、一方で設備投資 (+2.1%→+0.6%)は大きく下方修正されている。 この傾向は名目値でも変わらない。名目 GDP 成長率(2015 年度前年比:旧統計+2.3%→新統計+2.8%) が 0.5%Pt の上方修正、うち個人消費(▲0.4%→+0.5%)は 0.9%Pt も上方修正されたが、設備投資(+ 2.5%→+1.1%)は大幅な下方修正であった。 今回の改定では、研究開発(R&D)費を設備投資に 計上することになったことが最大の変更点である。 そのため、昨今の研究開発投資の拡大傾向を反映し て設備投資の伸びが旧統計よりも高まるのではない 名目個人消費の推移(前年同期比、%) 4 1993SNA 3 2 1 0 かという見方もあったが、少なくとも 2015 年度につ ▲1 いては当てはまらなかったようである。 ▲2 また、個人消費については、名目で 2012 年度以降、 ▲3 2005 新統計の伸びが旧統計を上回っている。財別に見る 2008SNA 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 ( 出所) 内閣府 と、耐久財は 2012 年度(前年比:旧統計▲4.0%→新統計+0.9%)と 2015 年度(▲4.0%→▲0.4%)に おいて上方修正が目立ち、半耐久財は 2013 年度(+5.5%→+12.6%)が大きく上方修正されている。ま た、サービスは上方修正された年が多く2、推計方法が幅広く見直されている模様である。 旧統計では、2014 年 4 月の消費増税後、個人消費は落ち込みないしは低迷が続いていたという姿を示し ていたが、新統計は 2015 年度の個人消費持ち直しを示唆しており、認識の修正を検討する必要があろう。 2020 年度の名目 GDP600 兆円が視野に 研究開発投資などが新たに GDP へ計上された結果、2015 年度の名目 GDP は旧統計の 500.5 兆円から新 統計では 532.2 兆円となった。この結果、名目 GDP が 2020 年度に 600 兆円へ到達するために必要な名 目成長率は、旧統計の年平均 3.69%から新統計では 2.43%に下がった。最近 3 年間(2012 年度→2015 年度3)の名目成長率が旧統計で年平均 1.80%から新統計では 2.47%に高まったことと併せて考えると、 GDP600 兆円の実現可能性は高まったと言える。 2000 年度以降では、2009 年度、2011 年度を除いて前年比の伸びが上方修正されている。 過去 5 年間の平均と比較する方が望ましいが、東日本大震災の影響により 2011 年度はマイナス成長となったことを考慮し、3 年平均と比較した。 2 2 3
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