2016.11.09 江守 哲 南アフリカ経済レポート

2016.11.09
江守 哲
南アフリカ経済レポート
南アフリカを取り巻く環境は、総じて不透明感が強いというのが一般的な見方になっている。直近では、ゴ
ーダン財務省が国家検察庁から出廷命令を受けるなど、市場は今後の南アの財政健全化への道のりはかなり
厳しいものになるとみている。そのため、政治面では非常に不安定な状況にあるとの指摘もある。このよう
な事象が今後も頻発するようであれば、同国への懸念はますます高まる可能性がある。これらの汚職や腐敗
などはきわめて懸念すべき政治リスクであり、投資家にとっての最大のリスクでもある。その結果、同国の
国債は投機的水準への格下げへの懸念が払しょくできない状況にある。
しかし、その一方で、同国の政策金利は 7.0%ときわめて高く、10 年債利回りも直近では 8.7%と高水準で
ある。世界的に低金利で推移する主要国の利回りと比較すると、きわめて魅力的な水準であるといえる。し
たがって、同国に大きな問題がなく、デフォルトのリスクがないと判断するのであれば、相対的に高い金利
が南アランドの水準を支えることになろう。同国経済は豊富な鉱物資源を背景に、金やプラチナなどの貴金
属の生産・輸出が重要な経済基盤になっており、鉱業とそれに関連する製造業が GDP に占める比率は 2 割
に達する。そのため、金やプラチナ価格の動向は、同国経済に大きな影響を与えることになるが、金・プラ
チナ価格は長期的な下落基調からようやく底打ちに転じ、長期的な反発・上昇基調に入った可能性が高い。
そのため、これが同国経済や財政改善に寄与し、経済基盤の安定化が進むものと思われる。
一方、同国財務省は、10 月に中期財政計画を発表しており、そこで GDP 見通しを引き下げている。16 年度
予算案(4 月~3 月)では、1.2%成長を見込んでいたが、中期財政計画では 1.0%としている。また 17 年
度についても、予算案では 1.9%に対して中期財政計画では 1.3%とし、18 年度も同様に 2.5%に対して
2.1%としている。例年であれば、10 月に中期財政計画を財務省が策定し、これに基づいて予算案が翌年の
2 月ごろに作成・公表されるのが通例である。したがって、来年 2 月に示される予算案では、GDP 成長率見
通しが引き下げられる可能性が高いといえる。ただし、成長率は低水準だが、水準自体は年々上昇する見通
しになっており、さらに 19 年度についても 2.3%と、18 年度より成長が加速するとしている。当面は税収
の低迷により、財政健全化は緩やかなペースになるもようで、これが同国のリスクとしてくすぶり続ける可
能性はある。また、大手格付け機関による国債格付けの見直しが行われる可能性があり、これが目先のリス
クイベントになるものと思われる。
南アランド円を構成する南アランド/ドルと、ドル円については、以下の動きが想定されよう。南アランド
/ドルは、長期的には米国のドル安政策の恩恵を受ける形で底堅く推移するものと思われる。南アフリカ経
済の重要な位置づけになっている金やプラチナ価格が、2011 年後半以降の下落基調から底打ち・反発の動
きにある。いったん底打ちすると、数年間は上昇するサイクルが顕著であり、2020 年前後までの上昇が見
込まれる。そのため、これが南アランドを長期的に支えることになろう。一方、ドル円ついても、対主要通
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貨のドルの動きを示すドル指数が 7 年ごとに上下動するサイクルが鮮明であり、現在のドル安のサイクルは
2022 年ごろまで続く可能性がある。そのため、ドル円は少なくとも 2020 年前後までは円高基調が続くこ
とが想定される。これが南アランド円の上値を抑えることになるが、その場合には南アランド/ドルはそれ
以上に上昇になるものと思われ、南アランド円は中長期的に堅調に推移しよう。南アランド円の過去 10 年
間のチャートを見ると、2006 年の 19 円台を高値におおむね下落基調が続いてきた。しかし、ドルの反転や
貴金属価格の底打ちもあり、南アランド円は今年 7 月の安値である 6.4 円で底打ちしたと考えられる。今後
は徐々に水準を切り上げ、8.7 円を超えると長期的な上昇基調に入り、9 円、11 円といった節目を試すこと
が想定される。さらに上昇基調が強まれば、今後数年間のうちに、2008 年 8 月に付けた高値である 15 円を
目指すことも十分にあり得るだろう。
南アランド/円 2006 年からの値動き
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筆者調べ
南アフリカの 10 年債利回りは、現時点では 8.7%前後で推移している。この 10 年間の利回りを見ると、2008
年 6 月に 10.9%まで上昇する場面があったが、その後は 2013 年 5 月に 5.75%まで低下している。この間
に同国債は買われたことになるが、これはリーマンショック後の世界的なリスク回避姿勢に伴う安全資産と
される国債への資金逃避の動きと同じ方向である。したがって、今後は同国の財政・経済・政治面に不安要
素が強まれば、一時的に国債は売られ、金利は上昇する可能性は否定できない。また、世界的な低金利の動
きがここにきて止まりつつあり、むしろ金利は上昇する可能性がある。その場合、同国の国債にも売りが出
る可能性があるが、相対的に高い利回りが魅力となり、南アランドの対ドルでの上昇が想定される。その結
果、南アランド円も底堅い動きとなるものと考えられる。
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■江守 哲 氏 プロフィール
エモリキャピタルマネジメント株式会社・代表取締役 江守 哲 氏
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は 25 年超。現在は運用業務に加え、
為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。
著書に「LME(ロンドン金属取引所)入門」(総合法令出版)など
共著に「コモディティ市場と投資戦略」(勁草書房)
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金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 165 号
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