ハイブリッドケーソンにおける施工技術

ハイブリッドケーソンにおける施工技術
Construction Technique for Hybrid Caisson
村 上 亨 物流・鉄構事業本部鉄構事業部土木・鉄構技術部
荒 見 敦 史 物流・鉄構事業本部鉄構事業部土木・鉄構技術部 課長
森 祐 介 物流・鉄構事業本部鉄構事業部建設部 課長
近年港湾施設において,鋼とコンクリートの合成構造物が防波堤,護岸,桟橋,沈埋トンネルなどに用いられて
きた.当社は,1990 年からハイブリッドケーソンの鋼殻製作・コンクリート工事施工管理を行ってきた.本稿では,
ハイブリッドケーソン製作工事に関連し当社が提案してきた施工技術を紹介する.
Recently, steel concrete composite structures have been used for breakwaters, sea walls, piers and immersed tunnels as
port structures. IHI has performed steel manufacture and concrete construction of hybrid caisson from 1990. The construction
techniques which IHI has developed for hybrid caisson construction are described.
1.
2.
緒 言
ハイブリッドケーソンは,鉄筋コンクリート( 以下,RC
と呼ぶ )で構成されるケーソンと同様に防波堤,岸壁,護
施 工 技 術
施工実績
2. 1
ハイブリッドケーソンの製作実績を次に示す.
岸などに使用され,鋼とコンクリートの合成構造および鋼
一般的なケーソン
16 函
構造で構成される.ハイブリッドケーソンの概略構造図を
上部鋼殻ケーソン
33 函
第 1 図に示す.一般的なハイブリッドケーソンは,底版お
スリットケーソン
34 函
よびフーチングが鉄骨鉄筋コンクリート( 以下,SRC と呼
海水交換型ケーソン
ぶ )構造,側壁が合成版構造,隔壁が鋼構造で構成される.
L 型ブロック
8函
10 函
当社は,1990 年からハイブリッドケーソンの鋼殻製作・コ
2004 年 3 月時点で,101 函製作してきた.
ンクリート工事施工管理を行ってきた.
2. 2
本稿では,ハイブリッドケーソン製作工事に関し当社が
提案してきた施工技術を紹介する.
ケーソン製作手順
ハイブリッドケーソンの製作手順を第 2 図に示す.側壁,
隔壁,底版を構成する鋼殻を工場で組立て,その外側にコ
ンクリートを打設し製作する.コンクリートは,ケーソン
高さ方向に数層に分けて打設する.その打設高さは,第 1
層を 2.5 m 以下とし,第 2 層以降を 3.0 m 以下とすること
が一般的である.
施工技術
2. 3
2. 3. 1
プレハブ鉄筋工法
一般的な製作方法では,コンクリート打継ぎ高さごとに
鉄筋を組立て,配筋検査を実施した後に型枠を組立て,型
枠検査を実施した後にコンクリートを打設する.第 3 図に
コンクリート工事工程表を示す.コンクリート 1 層ごと
第 1 図 ハイブリッドケーソンの概略構造図
Fig. 1 General structure of hybrid caisson
134
に,配筋検査と型枠検査を実施し,それらを層数分繰り返
す.当社が提案したプレハブ鉄筋工法は,鉄筋をコンクリ
石川島播磨技報 Vol.44 No.2 ( 2004-3 )
鋼 殻 総 組 立
ルーフィング敷設
鉄
筋
組
立
型
枠
組
立
所定層数
繰り返す
コンクリート打設
Fig. 4
第 4 図 鉄筋架設状況
Construction location of steel bar unit
型 枠 取 外 し
2. 3. 2
完
鉄骨・鉄筋一括組立工法
ケーソンの前壁にスリットを設け,透過壁にしたものを
成
スリットケーソンと称し,その概略構造図を第 5 図に示す.
スリットケーソンの透過壁は,作用する外力の大きさによ
第 2 図 ハイブリッドケーソンの製作手順
Fig. 2 Construction procedure of hybrid caisson
って,RC 構造もしくは SRC 構造になる.当社が提案した
鉄骨・鉄筋一括組立工法は,柱部および梁部の一部の鉄骨
と鉄筋を地上で一括して組立て,所定の位置に架設する工
鉄筋組立
法である.鉄骨・鉄筋の架設状況を第 6 図に示す.本工法
◎配筋検査
型枠組立
は次の利点がある.
◎型枠検査
コンクリート
打 設 ①
( 1 ) プレハブ鉄筋工法と同様に,① 配筋検査を数層
養 生
脱 型
分一度に実施することによって工期短縮が可能にな
鉄筋組立
◎配筋検査
る ② 鉄筋を地上で組み立てることによって効率良く
型枠組立
コンクリート
打 設 ②
◎型枠検査
組み立てられる ③ 足場上で組み立てる鉄筋量を最小
養 生
限にすることで,高所作業が大幅に少なくなり,安全
脱 型
性が向上する.
第 3 図 コンクリート工事工程表
Fig. 3 Process of concrete construction
( 2 ) スリットケーソンの場合,進水・えい航・据付け
ート各層ごとに組み立てるのではなく,数層分の鉄筋を地
上で組立て,所定の位置に設置する工法である.鉄筋の架
設状況を第 4 図に示す.本工法は次の利点がある.
( 1 ) 配筋検査を数層分一度に実施することによって,
それ以降の鉄筋組立作業は発生せず,型枠検査のみを
各層ごとに実施すればよい.コンクリート打設後の脱
型の後,直ちに次層の型枠組立に移ることができ,工
期短縮が可能になる.
( 2 ) 鉄筋を地上で組み立てることによって,足場上で
組み立てることに比べて作業性が向上する.
( 3 ) 足場上で組み立てる鉄筋量を最小限にすることで,
高所作業が大幅に少なくなり,安全性が向上する.
第 5 図 スリットケーソンの概略構造図
Fig. 5 General structure of slit caisson
石川島播磨技報 Vol.44 No.2 ( 2004-3 )
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2. 3. 3
鋼殻総組立手順
これまでのハイブリッドケーソン製作実績では,まず鋼
殻のすべてを完成させ,その後コンクリート施工をすること
が多い.この方法では総組立後の鋼殻出来形を確認できる
が,鋼殻総組立が完了するまで待つ必要があるため,コンク
リート工の着工時期が遅くなる.そこで,当社は鋼殻下部ブ
ロック組立後,コンクリート第 1 層を打設し,その後鋼殻
上部ブロックを搭載することを提案した(第 7 図 )
.この工
法を採用することによる得失は,以下のとおりである.
( 1 ) 鋼殻総組立完了時には,コンクリート第 1 層を打
Fig. 6
第 6 図 鉄骨・鉄筋架設状況
Site construction of steel bar and steel frame unit
設しているため,鋼殻を 2 回に分けて計測し,寸法管
理する必要がある.
( a ) 鋼殻下部ブロック
( b ) 第 1 層コンクリート打設
( 2 ) コンクリート第 1 層を早い段
( c ) 鋼殻上部ブロック搭載
階で打設できるため,ケーソン製
作工期を短縮することができる.
( 3 ) 鋼殻下部ブロックまで組み立
てられた状態でコンクリート第 1
層を打設するため,コンクリート
( d ) コンクリート打設
ポンプ車のブーム高さは鋼殻下
( e ) 鋼ケーソン完成
部ブロック高さを越える高さが
あればよく,打設作業の作業性は
良好である.またポンプ車のブー
ム高さが低いため,打ち込むコン
クリートが分離しにくく,品質の
良いコンクリートを打設できる.
第 7 図 ハイブリッドケーソンの製作手順
Fig. 7 Construction procedure of hybrid caisson
作業時の安定性を確保するため,透過壁からの海水の
136
3.
結 言
流入を防ぐ必要があり,そのために透過壁に止水蓋を
当社は,船舶や橋梁を始めとする鋼構造物の製作に長年
取り付ける.透過壁コンクリート表面の凹凸が大きい
従事してきた.コンクリート工事は,鋼構造物の製作に比
場合,進水時の漏水が多くなり,えい航までに長時間
べると経験が浅いが,主体的に施工管理を行うことによっ
の調整が必要になる.本工法によれば鉄骨・鉄筋の組
て,工期短縮・品質向上を実現してきた.今後も工法改善
立精度が向上し,透過壁の凹凸を抑えることが期待で
を実施し,鋼殻製作面とコンクリート施工面トータルを勘
きる.
案し,技術提案していく所存である.
石川島播磨技報 Vol.44 No.2 ( 2004-3 )