低次元電子系における金属絶縁体転移の理論的研究

伝導性グル-プ
低次元電子系における金属絶縁体転移の理論的研究
河原林
透
1. 研究目的
2010 年のノーベル物理学賞に象徴されるように,単層グラファイト(グラフェン)の実現
により,2層グラフェンをはじめ,有機導体やトポロジカル絶縁体など特異なバンド構造(相
対論的な分散関係)をもつ物質が注目を集め,その基礎特性や応用の可能性について世界的
に精力的な研究が行われている.近年は,応用へ向けての研究が物理,化学,医療といった多方
面に展開されている一方,強磁場中での分数量子ホール効果といった乱れの効果や電子間相
互作用の効果などを考慮し,精密な実験結果を定量的に説明することも,残された重要な課
題となっている.本研究では,こうした特異なバンド構造を持つ低次元物質の輸送現象にお
ける,不純物ポテンシャルや格子歪みなどによる乱れの効果および電子間相互作用の効果を,
精密な数値計算に基づいて定量的に明らかにし,実験結果を理論的に解明するとともに,基
礎特性やデバイスへの応用に対する新たな知見を得ることを目的としている.
2. 2015 年度の研究計画
今年度は,Kernel Polynomial 法などを用いて,グラフェンのケクレ型ボンド秩序のトポロ
ジカルな欠陥近傍の局所状態密度の計算を行い,特に,高次の winding number をもつ vortex
の場合のゼロエネルギー状態の定量的な性質や,非整数電荷のランダムネスに対する安定性
などを精密な数値計算に基づき,研究を進めていく予定である.また,こうしたボンド秩序の
トポロジカルな欠陥に伴うゼロエネルギー状態が,一般の傾いたディラック電子系に対して,
どのように拡張されるのかを,一般化されたカイラル対称性の観点から調べることを計画し
ている.
3. 2015 年度の研究経過
ケクレ型ボンド秩序のあるグラフェンにおいて,高次の winding number をもつトポロジカ
ルな欠陥(vortex)近傍の局所状態密度を Kernel Polynomial 法により求めた.その結果,winding
number に応じて,欠陥近傍に局在したゼロエネルギーの状態が複数個存在することを確認す
ることができた.また,ゼロエネルギー状態が複数個あっても,すべての状態は,カイラル対称
性を壊さないようなランダムネスに対して強い安定性を示すことがわかった.これは,vortex
と anti-vortex の両方がある場合に,ゼロモードが分裂を起こしたのとは対照的である.(学会
発表 6)
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その一方,傾いたディラック電子系に対しても,このようなゼロエネルギー状態が一般化
されたカイラル演算子の固有状態として拡張されることを明らかにした.(学会発表 4,5)
4. 成果公表リスト
学会発表 シンポジウム講演
1)
T. Kawarabayashi,Y. Hatsugai, H. Aoki
Landau levels in general tilted massive Dirac fermions: stability against randomness.
Graphene week 2015, (June,2015,Manchester, UK)
2)
T. Kawarabayashi, Y. Hatsugai, H. Aoki
Tilted massive Dirac fermions with Disorder: Anomaly in Landau Levels.
The 21st international conference on Electronic Properties of Two-Dimensional Systems,
(July,2015,Sendai, Japan)
3)
T. Kawarabayashi
Zero-mode anomaly in general massive tilted Dirac fermions with disorder.
Invited talk in the APCTP Workshop on “Delocalization Transitions in Disordered Systems”.
(Aug.,2015,Pohang, Korea)
4)
T. Kawarabayashi
Zero modes in tilted Dirac fermions with vortices.
the international Workshop on “Physics of Bulk-Edge Correspondence and its Universality”.
(Sept.,2015,Tokyo, Japan)
5)
河原林 透, 初貝 安弘, 青木 秀夫
傾いたディラック電子系におけるボンド秩序の vortex とゼロモード.
日本物理学会 2015 年秋季大会 関西大学 日本(09.2015)
6)
板垣 諒, 初貝 安弘, 青木 秀夫, 河原林 透
ディラック電子系におけるボンド秩序の高次 vortex 近傍の局所状態密度.
日本物理学会 2015 年秋季大会 関西大学 日本(09.2015)
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