日銀短観(12 月調査)予測

ニッセイ基礎研究所
2016-12-08
日銀短観(12 月調査)予測
~大企業製造業の業況判断 D.I.は5ポイント上昇
の 11 を予想
経済研究部 シニアエコノミスト 上野 剛志
TEL:03-3512-1870 E-mail: [email protected]
1. 12 月調査短観では、注目度の高い大企業製造業で 6 四半期ぶりの景況感改善が示されると
予想する。大企業非製造業も悪化に歯止めがかかると見ている。前回調査以降の経済指標
を見ると、個人消費は力強さには欠けるものの、良好な雇用環境や天候不順の解消などか
ら底堅さを増している。最近は株高が高額消費の追い風になっているとみられる。生産に
も回復が見られるほか、11 月以降の急速な円安によって輸出採算が大きく改善している。
大企業製造業では生産回復や円安進行、国際商品市況の改善を受けて幅広く景況感の反発
が見込まれる。非製造業も大都市圏での再開発需要や節税対策の住宅需要増加を受ける建
設、不動産業、訪日客増加の恩恵を受けやすい運輸・郵便業などが牽引しそうだ。小売も
顕著な悪化は避けられると見ている。中小企業の景況感も改善を予想するが、最低賃金引
き上げの影響を受けやすいため、人件費の増加が景況感の抑制に作用しそうだ。
2. 先行きの景況感については、トランプ新大統領の誕生や欧州での政治の混迷など海外経済
の先行き不透明感増大によって、幅広く悪化が示されると予想。
3. 16 年度の設備投資計画は前年度比 2.5%増と前回調査時点から上方修正されると予想。例
年、12 月調査にかけては、計画が固まってくることに伴って上方修正されるクセが強いた
めだ。ただし、年初から半ばにかけての円高で企業収益が圧迫されたほか、海外経済が不
透明感を増していることから、例年と比べて上方修正の度合いが抑制的になると見ている。
4. 今回の短観で最も注目されるテーマは、
「先行きへの警戒感がどれだけ現れるか」だ。とり
わけ、トランプ氏の掲げる保護主義的な通商政策は、企業に対してダイレクトに悪影響を
及ぼしかねない。先行きの景況感や設備投資計画への影響が注目される。
(図表1)日銀短観業況判断D.I.の予測表
業況判断
大企業
中堅企業
中小企業
1|
製造業
非製造業
全産業
製造業
非製造業
全産業
製造業
非製造業
全産業
9月調査
最近
先行き
6
6
18
16
12
11
3
1
15
10
10
6
-3
-5
1
-2
0
-3
12月調査(予測)
最近
先行き
11
8
20
19
15
13
6
3
16
12
12
9
0
-4
2
-2
1
-3
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12 月短観予測:円安を好感するが、先行きには警戒感が現れる
(製造業・非製造業ともに改善を予想)
12 月 14 日発表の日銀短観 12 月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断 D.I.が 11 と前
回 9 月調査比で 5 ポイント上昇し、6 四半期ぶりに景況感の改善が示されると予想する。大企業非
製造業の業況判断 D.I.も 20 と前回比 2 ポイント上昇し、3 四半期連続で続いてきた悪化に歯止め
がかかると見ている。
前回 9 月調査では、長引く影響で大企業製造業の業況判断 D.I.が横ばいに、インバウンド消費の
減速や天候不順から非製造業では小幅の悪化となっていた。
前回調査以降の 10 月の経済指標は総じて持ち直し傾向にある。個人消費は生鮮食品の価格高騰
もあって力強さには欠けるものの、良好な雇用環境や天候不順の解消などから底堅さを増している。
さらに 11 月以降は株高が高額消費の追い風になっているとみられる。生産についても、需要の持
ち直しや在庫調整の進展を受けて回復が見られる。また何より、米大統領選でのトランプ氏勝利を
受けて為替が急速に円安に向かったため、輸出採算が大きく改善している。
今回、大企業製造業では生産の回復や円安進行を受けて幅広く景況感の反発が見込まれる。国際
商品市況の改善も、素材系業種の景況感押し上げに働くだろう。
非製造業は製造業ほど円安のメリットを享受するわけではないため、景況感の改善幅も限定的に
なる。ただし、大都市圏での再開発需要や節税対策の住宅需要増加を受ける建設、不動産業、訪日
客増加の恩恵を受けやすい運輸・郵便業などが牽引しそうだ。小売業の景況感は抑制的になりそう
だが、消費が減少しているわけではないため、顕著な悪化は避けられると見ている。
中小企業の業況判断 D.I.は、製造業が前回比 3 ポイント上昇の 0、非製造業が 1 ポイント上昇の 2 と
予想。大企業同様、中小企業でも製造業・非製造業ともに改善が示される。ただし、中小企業では、秋
からの最低賃金引き上げの影響を受ける割合が高いとみられ、人件費の増加が景況感の抑制に作用しそ
うだ。
先行きの景況感については、海外経済の先行き不透明感増大によって、企業規模や製造・非製造業を
問わず悪化が示されると予想。米国でトランプ氏が新大統領に選出されたほか、欧州では英国の EU 離
脱決定に加えてイタリアの首相が辞任するなど政治が混迷している。情勢は流動的であり、企業は先行
きへの警戒感を強めていると考えられる。
16 年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比 2.5%増と前回調査時点の 1.7%増から上
方修正されると予想。例年、9 月調査から 12 月調査にかけては、中小企業で計画が固まってくる
ことに伴って上方修正されるクセが強く、今回も上方修正されるだろう。ただし、年初から半ばに
かけての円高によって企業収益が圧迫されたほか、海外経済が不透明感を増していることから、一
部で様子見や先送り姿勢が広がりつつあると考えられ、例年と比べて上方修正の度合いが抑制的に
なると見ている。
2|
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(図表2)前回までの業況判断 D.I.
(図表3)生産・輸出・消費の動向
(15年10月=100)
(ポイント)
30
104
大企業非製造業
鉱工業生産指数
消費活動指数
(実質)
輸出数量指数
25
102
20
100
15
大企業製造業
98
10
中小企業非製造業
5
96
0
94
-5
中小企業製造業
(資料)日本銀行
6
9
12
16/3
6
9
12(見通し)
(年/月調査)
(注)16年12月見通しの値は16年9月時点の先行きの値
(資料)経済産業省、内閣府、日銀
(図表4)円相場と原油価格
(円/バレル)
ドル円
8,000
7,000
115
6,000
110
5,000
105
4,000
100
3,000
95
2,000
16/1
(資料)Bloomberg
2
3
4
5
6
7
設備投資額(含む土地投資額)
ドバイ原油(円換算後、右軸)
120
15/12
8
9
10
(注)各週次終値(直近は12月2日)
11
12
(年/月)
(前年度比:%)
12月調査
(予測)
9月調査
大企業
製造業
非製造業
全産業
中小企業 製造業
非製造業
全産業
全規模
製造業
非製造業
全産業
2015年度 2016年度 2016年度
8.4
12.7
9.5
1.0
2.9
3.9
3.4
6.3
5.8
11.5
-15.3
-12.2
5.2
-6.0
-0.1
7.2
-9.0
-4.1
9.1
6.1
4.6
2.9
-0.6
1.4
5.0
1.7
2.5
2016年度
計画の
修正率
-3.2
1.0
-0.5
3.1
5.9
4.9
-1.5
2.0
0.8
(注)リース会計対応ベース
(図表6)設備投資計画(全規模全産業)
10
(注)各指数(季節調整値)を15年10月を100とする指数に換算
(図表5)設備投資予測表
(円/ドル)
125
15/10
11
12
16/1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
15/3
15/10
11
12
16/1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
12
15/10
11
12
16/1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
92
-10
(図表7)設備投資関連指標
(億円)
(2010年=100)
(対前年比、%)
120
10,000
機械受注(船舶・電力を除く民需, 右軸)
8
資本財出荷(除.輸送機械)
10年度
建設財出荷
6
9,000
11年度
4
110
12年度
2
13年度
0
8,000
14年度
-2
15年度
-4
100
7,000
16年度
-6
-8
NA
3月調査
6月調査
9月調査
(資料)日本銀行「企業短期経済観測調査」
12月調査
実績見込(3月)
(注)リース会計対応ベース
実績(6月)
90
6,000
15/7
10
(資料)経済産業省、内閣府
16/1
4
(注)季節調整済み
7
10
(年/月)
(注目ポイント:先行きへの警戒感がどれだけ現れるか?)
今回の短観で最も注目されるテーマは、「先行きへの警戒感がどれだけ現れるか」だ。とりわけ
トランプ新大統領誕生については、金融市場では、同氏の掲げる政策のうち大規模なインフラ投資
や減税、規制緩和への期待を大いに織り込み、株高・円安ドル高が進んだが、企業の受け止めは異
なる可能性がある。環境が悪化すれば即座にポジションを手仕舞うことができる投資家と異なり、
企業の場合は、一旦投資を決定するとその影響は少なくとも数年単位に及ぶだけに、先行きに対し
て慎重になりやすい。さらに、トランプ氏の掲げる保護主義的な通商政策は、企業に対してダイレ
クトに悪影響を及ぼしかねない。具体的には、先行きの景況感や設備投資計画への影響が注目され
る。
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(日銀金融政策との関係:影響は限定的)
今回の短観の結果は、筆者の見立てでは「足
(図表8)企業の物価見通し
元に明るさは見られるが、先行きには警戒感が
台頭する」というものだが、この結果が日銀の
2.0
(前年比:%)
金融政策に与える影響は限定的になりそうだ。
もともと、2%の物価目標のハードルは極めて
1.5
高く、達成が見通せない一方、追加緩和の選択
肢も実質的に限られているためだ。
1年後(平均値)
3年後(平均値)
5年後(平均値)
1.0
11 月 1 日の総裁会見でも、黒田総裁が、
「(イ
ールドカーブ・コントロールによって)適切な
イールドカーブが実現しており、これが日本経
済にプラスに働き、物価目標に向けて効果を発
0.5
14/3
6
9
12
15/3
6
9
(資料)日本銀行「短観(「企業の物価見通し」の概要)」
12
16/3
6
9
(年/月)
揮していく」と現状の政策維持を肯定的に評価する発言をしており、日銀が積極的に動く気配は見
えない。従来と比べて、日本の景気と金融政策の関係性は希薄化している。
そうした中でも日銀との関係で注目されるのが、翌 15 日に発表される「企業の物価見通し」だ。10 月の展
望レポートで日銀は予想物価上昇率が弱含んでいることを認めたが、実際、企業の物価見通しは 2014 年
4 月の調査開始以来、低下が続いている(上昇は皆無)。最近では、円安が進んだほか、原油価格も持ち
直しているが、ともに物価の押し上げに働くだけに、動向に変化が現れるかが焦点となる。日銀の目指す持
続的な物価上昇には持続的な賃上げが不可欠であり、最近では黒田総裁が企業に賃上げを求めるような
場面も見られる。物価見通しは企業の賃金設定に影響を与えるが、特に現在は来春闘を控えた重要な時
期にあたるだけに、その動向が注目される。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情
報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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