非常に広い電位窓を示す アルミニウム二次電池用電解

非常に広い電位窓を示す
アルミニウム二次電池用電解液の開発
新技術説明会 2016/11/29
大阪府立大学 知久昌信
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背景
従来のリチウムイオン二次電池
正極:LiCoO2などの層状酸化物
負極:黒鉛材料
電解質:有機電解液
負極
電解質
正極
放電
エネルギー密度の
向上が困難
充電
Li O
Co
ポストリチウムイオン二次電池として
• 電解液を固体化した全固体型二次電池
• リチウム以外の金属を用いる多価カチオン二次電池
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多価カチオン二次電池
金属
Li
Na
Mg
Al
価数
1
1
2
3
電気容量 [mAh g-1]
3860
1170
2200
2978
電気容量 [mAh cm-3]
2060
1136
3830
8042
電極電位 [V vs. SHE]
-3.05
-2.71
-2.38
-1.66
クラーク数
0.006
2.64
1.93
7.56
融点 [ºC]
186
98
650
660
N. Yoshimoto, M. Morita, Electrochemistry, 80 (2) 104
アルミニウム負極
メリット
• 最も高い体積当たりの電気容量
• 地殻中で金属として最も豊富
• 融点が高く反応性が低い。
デメリット
• 電気化学的に溶解・析出しづらい。
3
アルミニウム二次電池
これまでのアルミニウム二次電池の研究例
電解液:イオン液体
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド + 塩化アルミニウム
正極:酸化バナジウム
負極:金属アルミニウム
N. Jayaprakash, S. K. Das and L. A. Archer, Chem. Commun, 47, 12610 (2011)
電解液:イオン液体
1-ブチルピリジニウムクロリド + 塩化アルミニウム
正極:ポリアニリン
負極:金属アルミニウム
N. Koura, H. Ejiri, and K. Takeishi, J. Electrochem. Soc.,140, 602 (1993)
すべてイオン液体を使用している。
・・・これらのイオン液体は高コスト
4
有機溶媒を用いた電解液
アルミニウムメッキ用電解液
ジメチルスルホン + 塩化アルミニウム (AlCl3)
融点が80 ºC
⇒ 電池に不向き
分子量の大きい
ジプロピルスルホン + 塩化アルミニウム
融点が30 ºC
⇒ 電池に適合
L. Legrand et al. Electrochim. Acta, 40, 1711 (1995)
ジプロピルスルホン + トルエン + 塩化アルミニウム
より低融点の二次電池用電解液として特許
株式会社東芝、非水電解液電池および非水電解液、特開2003-100347号、2003-04-04
5
アルミニウム研究助成を受けてからの成果
ジプロピルスルホンを用いた電解液の構造解析
新規なアルミニウム二次電池用電解液の開発
特許出願をしたアルミニウム二次電池用電解液
6
有機電解液の電気伝導性
電気伝導性測定
Amplitude : 5 mV (vs. OCV)
Frequency range : 1 M Hz – 0.1 Hz
Ea = 12.9 kJ mol-1
電解液
白金黒電極
Ea = 21.2 kJ mol-1
電解液のモル比:
ジプロピルスルホン : トルエン : AlCl3
= 10 : 5 : 2
• ジプロピルスルホン+塩化アルミニウム電解液は
高い電気伝導性を持つ(σ35 = 1.5 mS cm-1)
• トルエンを添加することで電気伝導性が向上し活性化エネルギーは低下
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アルミニウムの溶解/析出
CV測定方法
作用極:モリブデン板
セパレーター
ガラス繊維濾紙
対極+参照極:アルミニウム板
温度:40 ºC
走査速度:10 mV s-1
100サイクル後に測定
• ジプロピルスルホンを用いてアルミニウムの可逆的な溶解/析出が可能
• トルエンを添加することで酸化還元電流が増大した。
⇒ 粘性の低下により電子移動や物質拡散が増大
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アルミニウムの析出形態
20 μm
20 μm
2 μm
2 μm
電流密度:1 mA cm-2 (10 mAh cm-2)
平滑なAl金属が析出
電流密度:5 mA cm-2 (10 mAh cm-2)
粒子状のAl金属が析出
⇒ 樹状ではない。
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アルミニウム負極の充放電特性
負極充放電
負極:モリブデン板
セパレーター
ガラス繊維濾紙
正極:アルミニウム板
充放電電流密度:0.67 mA cm-2
充電時間:1時間
放電カットオフ条件:電圧(+2V)
CVを100サイクル後に測定
• 充放電初期では放電効率が低い
⇒ アルミニウムがモリブデン電極表面を覆うことで効率が上昇
• 50サイクル後、効率はほぼ100 %
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アルミニウム研究助成を受けてからの成果
ジプロピルスルホンを用いた電解液の構造解析
新規なアルミニウム二次電池用電解液の開発
特許出願をしたアルミニウム二次電池用電解液
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DPSO2 + AlCl3系の問題点
作用極 : Mo板 対極兼参照極 : Al板
走査速度 : 50 mV s-1 測定温度 : 30℃
0.6
0.4
Al ➝ Al3+ + 3 e-
(溶解反応)
i / mA cm-2
0.2
4AlCl4- ➝ 2Al2Cl7- + Cl2 + 2e-
0
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
-1.0
Al3+ +
<問題点>
AlCl4-の酸化反応により
電位窓がca. 2.0 V
3
➝ Al
(析出反応)
-0.5
e-
0
0.5
E / V vs.
1.0
1.5
2.0
2.5
Al/Al3+
電池の高電圧化のために、より広い電位窓を有する電解液が必要
Cl-
酸化されにくい
トリフルオロメタンスルホニルイミド(TFSI)アニオン
Al(TFSI)3の合成
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Al(TFSI)3の合成
トリフルオロメタン
スルホニルイミド(H-TFSI)
1.52 g (5.4 mmol)
AlCl3 + 3H-TFSI → Al(TFSI)3 + 3HCl ↑
・アセトニトリル 3 mL へ溶解
・ドラフト内で一晩放置
・真空乾燥 120度
アルミニウムパーフルオロメタン
スルホニルイミド(Al(TFSI)3)
Al
EDX元素分析
(
F
F O
O
F
C S N S
C
F O
F
O
(
塩化アルミニウム(AlCl3)
0.24 g (1.8 mmol)
F
S
Intensity / a.u.
O
Al
F
N
・Al(TFSI)3含有元素のみを検出
⇒ Al(TFSI)3の合成に成功
Cl
C
0
0.5
1.0
1.5
2.0
Energy / keV
2.5
3.0
13
3
AN / Al(TFSI)3電解液のCV
電解液 : 0.5 M Al(TFSI)3 / アセトニトリル
作用極 : Mo板
対極兼参照極 : Al板
温度:80 ºC
走査速度:50 mV s-1
• 還元電流を観察
• 80 ºC 24時間経過後、還元電位が正にシフト
定電位還元による析出物の分析
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AN / Al(TFSI)3電解液中でのAl析出反応
定電位電析(Al析出)
作用極 : Mo板 対極兼参照極 : Al板
保持電位 : -0.2 V vs. Al/Al3+
保持時間 : 10時間 電析温度 : 80℃
SEM
EDX
10 µm
Al
Mo
O
Intensity / a.u.
2 µm
Mo
0
O
Al
0.5
1.0 1.5 2.0
Energy / keV
Mo作用極上にAl析出
⇒ Al析出反応が進行
2.5
15
3.0
定電位電析後LSV測定
定電位電析(Al析出)
作用極 : Mo板 対極兼参照極 : Al板
保持電位 : -0.2 V vs. Al/Al3+
保持時間 : 10分 測定温度 : 80℃
LSV(Al溶解・電位窓測定)
走査速度 : 1 mV s-1
走査範囲 : -0.2 ➝ 5.0 V vs. Al/Al3+
測定温度 : 80℃
0.2
i / mA cm-2
0.1
0
-0.1
-0.2
-0.3
-0.4
0
1
2
3
E / V vs.Al/Al3+
4
5
CV測定とは異なりAl析出・溶解の過電圧≒0
可逆な析出・溶解でない電解液では二極式は不適
⇒ 三極式で測定
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三極式セルの作製
二極式セル
三極式セル
シリコン栓
シリコン栓
Mo 集電体
CE&RE : Al 板
グラスファイバーろ紙
WE : Mo 板
電解液
RE : Ag 線
グラスファイバーろ紙
Mo 集電体
CE : Al 板
グラスファイバーろ紙
WE : Mo 板
電解液
銀線を参照極として使用
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AN / Al(TFSI)3電解液のCV 三極式
走査範囲:-2V ~ 1.4V
走査範囲:-2V ~ 3.9V
電位窓 約3V
電解液 : 0.5 M Al(TFSI)3 / アセトニトリル
作用極 : Mo板
参照極:Ag
対極 : Al板
温度:80 ºC
走査速度:10 mV s-1
• 約3Vの電位窓
• -0.8 V vs. Agに還元電流、1 V vs. Agに酸化ピーク
• Alの析出・溶解
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AN / Al(TFSI)3 80℃24時間加熱後 負極充放電試験
Charge
充放電曲線
充放電試験
負極 : Mo板 正極: Al板 参照極:Ag
測定温度 : 80℃
充電(Al析出) : 0.1 mA cm-2, 60 分
放電(Al溶解) : 0.1 mA cm-2, 60 分
Discharge
充放電時の正極・負極の電位変化
• Al金属負極の充放電が可能
• Mo電極上への析出・溶解の過電圧は約0.5 V
• Al電極上への析出・溶解の過電圧は約1.0 V
⇒Al電極表面がAlF3などにより不働態化?
0.1 mA cm-2の充放電は低い過電圧で可能
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アルミニウム研究助成を受けてからの成果
ジプロピルスルホンを用いた電解液の構造解析
新規なアルミニウム二次電池用電解液の開発
特許出願をしたアルミニウム二次電池用電解液
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<Mandaiら>
(1) T. Mandai et al., J. Mater. Chem. A, 3 12230 (2015).
塩化物イオンを含まない新型電解液
+
N-メチルアセトアミド
(NMA)
◎ 電位窓が広い
室温でAl析出溶解可能
× TfOアニオンがAl3+から解離せず
Al析出・溶解の過電圧が大きい
+
Al(TfO)3
尿素
電位窓
0.15
2.5
0.1
2
i / mA cm-2
i / mA cm-2
Al析出・溶解のCV
0.05
0
-0.05
-0.1
-1.5
5 at.% Al(TfO)3
76 at.% N-メチルアセトアミド
19 at.% 尿素
1.5
1
0.5
0
-1.0
-0.5
0
E / V vs. Al wire
0.5
1.0
-0.5
-1.0
0
1.0
2.0
E / V vs. Al wire
Al(TFSI)3を使用できるのでは?
3.0
21
CV測定
5 at.% Al(TFSI)3
76 at.% N-メチルアセトアミド
19 at.% 尿素
定電流電析
電位窓10 V !?
・電流値 : -50 µA cm-2
・時間 : 12時間
平滑な金属Alが析出
室温(30 ºC)において、非常に小さな過電圧による可逆な金属Alの析出・溶解を実現
Al(TFSI)3 + アセトニトリル では80 ºCで1V以上の過電圧
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尿素の効果
5 at.% Al(TFSI)3
76 at.% N-メチルアセトアミド
19 at.% 尿素
5 at.% Al(TFSI)3
95 at.% N-メチルアセトアミド
尿素無しではAlは析出するが電位窓が狭い
膜の形成にMoと尿素が必要
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電極の素材による違い
白金電極では狭い(~3V)電位窓
Moと電解液の反応?
1stサイクルにて5V vs. Al/Al3+付近に酸化電流
サイクル後の電極上に被膜
Alは繰り返し溶解析出している
電子伝導し広い電位窓を
可能にする良い膜の可能性
24
電析したAl
Al
被膜
被膜の上にAlが電析 → 被膜は電子伝導性と広い電位窓を両立
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実用化に向けた課題
• アルミニウム二次電池を作製するためには、
電解液だけでなく正極の開発が不可欠である。
• 今後、この電解液に適合する正極材料の開発
を行っていく。
27
企業への期待
• 多価カチオン二次電池向けの正極材料(特に
マグネシウム二次電池向け)をアルミニウム二
次電池用として利用できないか?
• また、次世代二次電池を開発中の企業、二次
電池分野への展開を考えている企業には、本
技術の導入が有効と思われる。
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本技術に関する知的財産権
• 発明の名称 :電解液及びそれを用いたアルミ
ニウム二次電池
• 出願番号
:特願2016-050367
• 出願人
:公立大学法人大阪府立大学
• 発明者
:知久昌信、松村祥太、井上博史
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お問い合わせ先
大阪府立大学
地域連携研究機構
URAセンター
統括コーディネーター 雨田 光弘
TEL 072-254 - 9128
FAX 072-254 - 7475
e-mail [email protected]
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