Coを含まないNi基単結晶超合金のクリープ強度

日本金属学会誌 第 69 巻 第 8 号(2005)707710
Co を含まない Ni 基単結晶超合金のクリープ強度
小 林 敏 治1
原 田 広 史1
大 沢 真 人1
佐 藤 敦 史2,
1物質・材料研究機構材料研究所超耐熱材料グループ
2芝浦工業大学大学院材料工学専攻環境材料研究室
J. Japan Inst. Metals, Vol. 69, No. 8 (2005), pp. 707
710
 2005 The Japan Institute of Metals
Creep Strength of Co
Free Ni
Base Single Crystal Superalloys
Toshiharu Kobayashi1, Hiroshi Harada1, Makoto Osawa1 and Atsushi Sato2,
1High
Temperature Materials Group, National Institute for Materials Science, Materials Engineering Laboratory, Tsukuba 3050047
2Department
of Materials Science and Engineering, Shibaura Institute of Technology, Tokyo 1080023
The Pebble Bed Modular Reactor (PBMR) is a small atomic power reactor which can be used in areas where the electric
power transmission network is not well developed. It generates electricity by gasturbines that used Hegas as a coolant. Ni
based superalloys are the primary materials used in gasturbines. However if conventional Nibase superalloys are to be used for
PBMR, turbine maintenances will be difficult due to Co, as it can produce 60Co a recitative material that possesses a long halflife.
Therefore, Cofree Nibase superalloys are required for PBMR.
In this paper, a Cofree singlecrystal (SC) superalloy, TMS82+(Co), was developed; it was the same chemical composition as the 2nd generation SC superalloy, TMS82+, except that it is Cofree creep tests were performed on the developed alloy,
TMS82+, under three conditions; 900°
C/392 MPa, 1000°
C/245 MPa, and 1100°
C/137 MPa; CMSX4, a popular SC alloy, was
used as comparison.
TMS82+(Co) displayed superior creeprupture life in all creep tests; however, detrimental TCP were observed in the
microstructure of the sample that underwent creep testing at 1100°
C/137 MPa. This, the developed Cofree SC alloy should be
further modified for longterm microstructural stability. Elimination of phase formation will allow the alloy to be utilized in the
PBMR.
(Received April 26, 2005; Accepted June 8, 2005)
Keywords: nickelbase superalloy, single crystal, creep, pebble bed modular reactor (PBMR), and cobalt free
重要構成元素の Co は,半減期の長い 60Co を生成する.そ
1.
緒
言
のためメンテナンスや修理などに際し人体への被爆が心配さ
れる.また交換された部品等の保管が必要となる.これらの
小型原子炉を使用する,ペブルベットモジュール型高温ガ
理由から Co を含まない耐熱超合金が求められている.本研
ス炉(Pebble Bed Modular Reactor=PBMR)は炉心溶融の心
究では Co を含まない SC 合金の開発を試みたので報告する.
配が無い安全性の高い原子炉とされている. PBMR は He
ガスを冷却材として使用し,加熱された He ガスを用いて
2.
実
験
方
法
タービンを回して発電する.そのため多量の冷却水を必要と
しない特徴がある.このことから水資源の少ない内陸部や送
Table 1 に 用 い た 合 金 の 化 学 組 成 を 示 す . 第 一 世 代 の
電線ネットワークが未整備な地域に適した小型の原子炉であ
PBMR システムのタービン動翼のクリープ強度は,第 2 世
るとされている.また,プラント完成までの工期が短いこ
代 Ni 基単結晶( SC )超合金 CMSX 4 のクリープ強度を目標
と,初期投資が原子力発電プラントに比べれば大幅に低いこ
に設定されている.そこで著者らは NIMS において 1980 年
とも利点として上げられている.さらに PBMR の発電能力
代 初 頭 に 設 計 さ れ た Co を 含 ま な い 第 1 世 代 SC 超 合 金
は最大 16 万 kW 程度とされているが,これを 8 基程度組み
TMS 61) と TMS 122) ,比較材として Co を含む同世代 SC
合わせることで,既存の軽水炉型原子力発電プラント 1 基
超合金の PWA14803) ,さらに 1990 年代後半に NIMS で開
分を安価で早期に作ることが可能である.そのため既存の原
発 さ れ た 高 強 度 な Co を 含 む 第 2 世 代 SC 超 合 金 TMS 
子力発電に変りうる新たな発電施設として注目されている.
82+4), TMS82+から Co を除いた TMS82+(Co)合金,
原子力関連材料,特に熱交換に使用する材料では放射化に
強度目標材 CMSX 45) の 6 合金についてクリープ破断強度
よる同位元素の生成が問題とされている. Ni 基耐熱材料の
の比較を行った.6 合金の組成を Table 1 に示す.また客観
芝浦工業大学大学院生(Graduate Student, Shibaura Institute of
Technology)
的比較を可能にするために同一の製造プロセスでそれぞれの
合金を作製し,同一の条件で試験したクリープデータを使用
708
日 本 金 属 学 会 誌(2005)
Table 1 Chemical compositions (mass) of Cofree 1st
generation SC superalloys, TMS6 and TMS12, Cocontaining
1st generation SC superalloy, PWA1480, and Cocontaining
2nd generation SC superalloys, TMS82+and CMSX4, and
Cofree 2nd generation SC superalloy, TMS82+(Co).
Alloy
Co
Cr
TMS
6
0
9.2 0
8.7 5.3 0
10.4 0
12
TMS
0
6.6 0
12.8 5.2 0
7.7 0
TMS
82+
7.8
4.9 1.9
8.7 5.3 0.5
6
4.6 1.8
8.6 5.3 0.5
82+(Co) 0
TMS
PWA1480
5
CMSX
4
9
10
Mo
0
6.5 0.6
W
Al
Ti
4
5
6
5.6 1
Ta
69
巻
実験結果と考察
3.
3.1
第 1 世代 SC 合金のクリープ破断寿命の比較
Ni
Gene.
0
Bal.
1st
0
Bal.
1st
す.Co を含まない TMS6 と TMS12 のクリープ破断時間
0.1 2.4 Bal.
2nd
はほぼ同じで PWA1480 の約 2.3 倍のクリープ破断時間を示
6.4 0.1 2.5 Bal.
2nd
した. 800°
C / 735 MPa の条件での PWA1480 に対し TMS 
6 では約 3 倍, TMS 12 では約 4 倍のクリープ破断時間を
1.5 12
Hf Re
第
0
0
Bal.
1st
6.5 0.1 3
Bal.
2nd
Fig. 1 に 900 °
C / 392 MPa のクリープカーブを第 1 世代
SC 合金 TMS 6, TMS 12, PWA1480 の 3 合金を併せて示
示している. 1000 °
C / 245 MPa のクリープカーブを Fig. 2
に示す.この条件は第 1 世代 SC 合金の耐用温度の限界に近
くクリープ破断時間は短くなっているが PWA1480 の破断
Table 2
Heat treatment conditions of the samples.
時間 31.7 h に比べ TMS6 では 1.7 倍の 53.1 h, TMS12 で
Solution treatment
1st step aging
2nd step aging
も約 2 倍の 64.3 h であった.これらの結果より Co を除いた
TMS
6
1324°
C
4h
1100°
C
4h AC
870°
C
20h AC
Ni 基耐熱合金開発の可能性を確認した.
12
TMS
1348°
C
4h
1100°
C
4h AC
870°
C
20h AC
TMS
82+
1320°
C
5h
1150°
C
4h AC
870°
C
20h AC
TMS
82+(
Co)
1330°
C
5h
1100°
C
4h AC
870°
C
20h AC
PWA1480
C
4h AC
1288°
1080°
C
4h AC
871°
C
32h AC
TMS 82 +および TMS 82 +(Co )の熱処理後の組織を
CMSX
4
1277°
C~1318°
C
(6 step)
18h AC
1140°
C
6h AC
872°
C
20h AC
形状が小さくなっている
Fig. 3 示す.TMS82+(Co)で g′
Alloys
3.2
Co を含まない第 2 世代 SC 合金のクリープ強度および
クリープ破断後の組織
した.比較材の PWA1480 と CMSX4 には正規のマスター
インゴットを用い,NIMS の製造プロセスで作製した.
SC 合金の製造方法は一方向凝固炉を用いて,水冷銅板上
に設置したセレクター付単結晶丸棒 8 本取ロストワックス
鋳型を用いた引き抜き法で,200 mm/h の凝固速度で鋳造し
た.鋳造された丸棒は直径 10 mm 長さ 130 mm の形状であ
る.
Table 2 に用いた合金の熱処理条件を示す. PWA14803)
と CMSX 4 には合金開発者らの文献5) に基づいた熱処理を
施した. TMS 61), TMS 122) ,および TMS 82 +4) につい
ても Table 2 に示すような適切な熱処理を施した.TMS82
+(Co)については部分溶融開始温度より-20°
C 程度低い温
度で溶体化処理を行ない, 2 段階の時効処理を施した.ク
Fig. 1 Creep curves of the 1st generation SC superalloys;
TMS6, TMS12, and PWA1480, tested at 900°
C/392 MPa.
リープ試験片として平行部径 4 mm ,標点間距離 22 mm の
つば付試験片を作成し, 800 °
C / 755 MPa, 900 °
C / 392 MPa,
1000 °
C / 245 MPa および 1100 °
C / 137 MPa の 4 条件にてク
リープ試験を行った.また,試験前およびクリープ破断後の
組織の SEM 観察も併せて行った.その際,クリープ破断後
の組織観察はクリープ試験による影響の少ないつば近傍の平
行部について行った. Ni 基単結晶超合金のクリープ試験
は,温度や応力などの試験条件で,結晶方位に敏感な場合
と,時には鈍感な場合が見られる6) .理想的には〈 001 〉方位
から 0 °
に近い物を使用するのが望ましいが,実際の製造歩
以内を許容範囲と考
留を考えると難しため,結晶方位を 8 °
えて使用している.また結晶方位の測定は X 線背面反射ラ
ウエ法を用いている.
Fig. 2 Creep curves of the 1st generation SC superalloys;
TMS6, TMS12, and PWA1480, tested at 1000°
C/245 MPa.
第
8
号
Co を含まない Ni 基単結晶超合金のクリープ強度
709
が , NIMS が 開 発 し た 合 金 設 計 プ ロ グ ラ ム Alloy Design
多数の TCP 相が観察された.このことから,TCP 相の析出
量はほとんど変
Program(ADP)79)を用いた計算結果では g′
が TMS82+(Co)のクリープ破断時間が短くなった原因で
化が無く TMS
82+(
Co)で 1減少している程度であった.
あることが十分考えられる.また, 1000 °
C / 245 MPa のク
Fig. 4 に 900°
C / 392 MPa の条件で試験したクリープカーブ
リープ試験後の組織からも微量の TCP 相が観察された.
を示す.この条件では TMS 82 +でクリープ破断時間が一
番長く次いで比較材の CMSX 4 の順であるが Co を除いた
TMS 82 +(Co )でも CMSX 4 と同等のクリープ破断寿命
を示した. Fig. 5 に 1100 °
C / 137 MPa で試験したクリープ
カーブを示す.この条件において TMS 82 +は優れたク
リープ破断特性を示し,同世代の SC 合金 CMSX 4 に比べ
3 倍程度のクリープ破断寿命を示した. TMS 82+(Co)で
は目標合金の CMSX4 よりクリープ破断寿命は若干長い結
果を得て Co を含まない Ni 基 SC 超合金の開発の可能性を
確 信 し た . Fig. 6 に 1100 °
C / 137 MPa の 条 件 で 行 っ た ク
リープ破断後の組織を示す.TMS82+の破断後の組織から
はクリープ 強度に有害とされている Topologically Close 
Packed ( TCP )10) 相などは観察されなかった. TMS 82 +
(Co)では TMS82+の 3 分の 1 程度の破断寿命であったが
Fig. 5 Creep curves of the 2nd generation SC superalloys;
C/
TMS82+, TMS82+(Co), and CMSX4, tested at 1100°
137 MPa.
Fig. 3 Microstructures of the tested samples before creep
test. Cofree alloy shows finer precipitations.
Fig. 6 Microstructures of creepruptured specimens. Cofree
alloy shows precipitation of TCP phases.
Fig. 4 Creep curves of the 2nd generation SC superalloys;
TMS82+, TMS82+(Co), and CMSX4, tested at 900°
C/
392 MPa.
Fig. 7 LarsonMillar plot of the 2nd generation SC superalloys; TMS82+, TMS82+(Co), and CMSX4.
710
日 本 金 属 学 会 誌(2005)
Fig. 7 に各合金のクリープ破断試験結果をラーソンミラーパ
第
69
巻
原因である可能性が高い.
ラメーターで整理したものを示す.TMS82+(Co)は全応
PBMR 用材料には長期間の組織安定性が要求されること
力で CMSX4 と同等のクリープ破断寿命を示したが,低応
から,実用化のためには,より組織安定性に優れた材料の開
力側で TCP 相析出によるクリープ寿命の低下が見られた.
発が必要であると考えられる.
Co は TCP 相の析出を抑制する元素であるとの報告があ
る11) .このことから, TMS 82+(Co )では Co 量の低下に
本論文作成にあたり,実験協力および助言をいただいた
よって TCP 相が析出しやすくなっている可能性が高い.一
NIMS 超 耐 熱 材 料 グ ル ー プ の 小 泉
方,TMS82+は比較的高温・低応力のクリープ特性を向上
中沢静夫氏に深く感謝致します.
裕氏,横川忠晴氏,
させる目的から格子定数ミスフットを負に大きくする元素と
して Mo を多量に添加し,TCP 相の析出を抑制するため Re
文
献
量を控えた合金設計を行っている.そこで今後,高温・低応
力のクリープ破断寿命を維持しながら主に Mo 量を制御する
ことにより, TCP 相が析出しない長時間の組織安定性に優
れた合金の開発の可能性を考える必要がある.
結
4.
言
NIMS が開発した第 2 世代 SC 超合金 TMS 82+から Co
を除いた合金,TMS82+(Co)を作製し,900°
C/392 MPa,
1000°
C/245 MPa および 1100°
C/137 MPa の 3 条件でクリー
プ試験を行い, Co を含む TMS 82 +,および同様に Co を
含む代表的商用超合金 CMSX4 と比較した結果以下のよう
なことが明らかになった.


Re を含まない第 1 世代 SC 合金でも Co を含まない
高強度な合金の開発が可能であることがわかった.


全てのクリープ試験条件で TMS82+(Co)は比較材
CMSX 4 と同等かそれ以上のクリープ破断時間を示し, Co
を含まない高強度な SC 超合金の開発が可能であることを示
した.


1100°
C/137 MPa の条件で行ったクリープ破断後の組
織から TCP 相の析出が観察された.これが破断時間短縮の
1) T. Yokokawa, K. Ohno, H. Harada, S. Nakazawa, T. Yamagata
and M. Yamazaki: Proc. Fifth International Conference on
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(The Institute of Materials, 1993) pp. 245254.
2) T. Yamagata, H. Harada, S. Nakazawa and M. Yamazaki:
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E. Schwer: Proc. Conf. High Temperature Materials for Power
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7) H. Harada, K. Ohno, T. Yamagata, T. Yokokawa and M.
Yamazaki: Superalloys 1988, (TMSAIME, 1988) pp. 733742.
8) H. Harada, T. Yamagata, S. Nakazawa, K. Ohno and M.
Yamazaki: Proc. Conf. High Temperature Materials for Power Engineering 1990, (Liege, Belgium, 1990) pp. 13191328.
9) H. Harada, T. Yamagata, S. Nakazawa, K. Ohno and M.
Yamazaki: Proc. Conf. Creep and Fracture of Engineering Materials and Structure, (Swansea, U. K, 1993) pp. 255264.
10) G. L. Erickson: Superalloys 1996, (Warrendale, PA, USA,
Minerals, Metals and Materials Soc.) pp. 3544.
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Dreshfield: Superalloys 2004, (TMS, 2004) pp. 1524.