〈巻頭言〉 天皇・朝廷をめぐる史料と研究 野尻泰弘 日本の歴史を考えるに際しては,宜接的にあるいは間接的に,天皇や朝廷について意識する ことになる。それは天皇や朝廷が,権力や権威,宗教と深く関係するためであり,古代から現 代にいたるまで,人々の生活や生き方に大きな影響を与えているからである。たとえば現代を 生きる私たちの暮らしをみても,カレンダーに示された祝日の由来や,私たちの無意識に潜む 畏敬と差別の感覚など,天皇・朝廷と結びっく事柄は決して少なくないのである。それらは, いわば,私たちの「常識」ゃ社会的な「秩序」の形成と密接に関係しているといえる。 もちろん,天皇・朝廷に関わる事柄とそれに付随する問題は,現代に限定されることではな い。それは日本史研究においてもやはり重要なのである。日本史研究の各時代・各分野におい て,天皇・朝廷に関わる史料の発掘と研究は活発に進められてきた。それらは戦後に各種史料 の公開・利用が「促進」され, r 自由」な研究が可能になったためである。このような研究環境 の整備はひとりでに進んだものではない。戦前の皇国史観への反省や.記録を保存・管理し, それを参照・利用して実態を描き出す学問的な姿勢が鍛練されたことによる。つまり,戦後の 0年,そして「平成」も四 歴史学の研錆によって現在の研究環境は獲得されたのである。戦後 7 半世紀が経過した現在,いま一度,天皇・朝廷をめぐる史料と研究を考え,私たちの歩みを確 かめる必要があるだろう。 以上から,天皇・朝廷に関する 6本の論説を掲載した。本特集をきっかけに,読者各位の研 究がさらに深まることを祈念する。
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