DPP-4 阻害薬と GLP-1 受容体作動薬の 適切な使い分け

7 DPP-4 阻害薬と GLP-1 受容体作動薬の適切な使い分け
特 集 DPP-4 阻害薬を極める 〜有効性と安全性を踏まえた適正使用に向けて〜
B
0.8
0.82
0.6
110
100
90
80
0.55
0.4
エキセナチド
食事負荷時の血糖変動
(mg/dl)
120
1.0
血中ブドウ糖濃度
DPP-4 阻害薬と
GLP-1 受容体作動薬の
適切な使い分け
インスリン分泌指標
p=0.02
A
Insulinogenic index
7
特 集 DPP-4 阻害薬を極める 〜有効性と安全性を踏まえた適正使用に向けて〜
70
シタグリプチン
−30
0
30
60
(分)
90 120 150 180 210 240
Time
Standard Meal
松田昌文
図1
エキセナチド・シタグリプチン投与時の食事負荷によるインスリン分泌と血糖変動比較
(文献 2)
DPP-4 阻害薬は 2 型糖尿病の第一選択薬として議論されるようになった.一方 GLP-1 受容体作動薬はメタボ型
患者に限定した注射製剤というとらえ方もあり日本での使用は限定的である.しかし SUSTAIN 6 研究のように
GLP-1 受容体作動薬の心血管障害抑制作用が明らかになり,また持効型インスリンとの併用の有用性が認識され
ている.そこで使い分けとして以下のように考える.DPP-4 阻害薬は比較的高齢の場合に第一選択薬として広く
用いられる薬剤である.一方,GLP-1 受容体作動薬はまず経口薬を多剤併用しても十分な血糖降下作用が達成
できない 2 型糖尿病患者において,基礎インスリンとの併用が有用である.第 2 に若い世代での極度の肥満を伴
う症例でメトホルミンや SGLT2 阻害薬の併用で減量を伴う血糖管理によいであろう.そして今後はコンプライア
ンスの悪い症例で週 1 回の GLP-1 受容体作動薬の利用といった使い方が広まると思われる.
Change From Baseline in HbA1c(±SE)
埼玉医科大学 総合医療センター 内分泌・糖尿病内科
(%)
0.6
(n = 100)
(n = 300)
(n = 302)
(n = 297)
0.4
0.2
0
−0.2
−0.4
−0.6
−0.8
−1
0
8
16
24
32
40
48
56
Week
64
72
80
88
96
(週)
104
図 2 HbA1c 基礎値からの変動
(HARMONY 3 研究)
(文献 3)
はじめに
DPP-4 阻害薬と
GLP-1 受容体作動薬の差異
インクレチン薬は 2009 年より日本で使用されるようにな
① 基本的薬物動態に関する差異
に影響し皮膚疾病を惹起させる可能性がある.GLP-1 受
あるのに比較しエキセナチドで 0.82 と上昇している.また,
り DPP-4 阻害薬は 2 型糖尿病の第一選択薬として議論さ
どちらもインクレチン作用を増強するが,DPP-4 阻害薬
容体作動薬は消化器症状を強く引き起こす.ただしこの
血糖の変化もエキセナチドでは食事負荷試験で基礎値より
れるようになっている.一方 GLP-1 受容体作動薬は肥満
はGLP-1濃度を2 〜 3倍に上昇させGIP濃度も上昇させる.
副作用は体重減少にも関連しており必ずしも否定的にと
かえって低下しているほどである.
を伴う 2 型糖尿病患者に限定した注射製剤というとらえ
他に PACAP(pituitary adenylate cyclase-activating
る必要はないかもしれない.
一方長期での比較として,各群 300 名程度でメトホルミ
方もあり日本での使用は海外ほど伸びていなかった.し
polypeptide)なども上昇させる .一方で GLP-1 受容体
かし今後は週 1 回の製剤が利用できるようになり認知症患
作動薬は血中濃度が 6 〜 8 倍に上回り,薬理的な作用が
② 有効性での差異
ンを比較した104週の治験
(HARMONY 3研究)がある .
者などで利用が期待されている.このような状況のなかで
期待できる.薬理作用としては体重の減量効果と強力な
長期ではないが DPP-4 阻害薬と GLP-1 受容体作動薬の
継時的に HbA1c をプロットしたものが
DPP-4 阻害薬と GLP-1 受容体作動薬をどのように使い分
血糖降下作用が挙げられる.副作用の面からは,DPP-4
急性効果を比較した臨床研究
けるのかを主に臨床データをもとに考えてみたい.
阻害薬はインクレチン以外の物質も分解抑制し血中濃度
のようにインスリン分泌指標が,シタグリプチンが 0.55 で
64 ● 月刊糖尿病
2016/12 Vol.8 No.12
1)
ンがすでに投与された状態でアルビグルチドとシタグリプチ
3)
2)
をまず確認したい.
図1
図2
のようになる.
GLP-1 受容体作動薬であるアルビグルチドの血糖降下作用
の強さがよく理解できる.HbA1c は 104 週でアルビグルチ
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