JOGMEC 調査部 古藤 太平 アナリシス 「シェール革命」が上流開発企業 の財務にもたらした変化 はじめに 2 0 0 0 年代半ば、米国では従来商業的に掘削することが困難とされていたシェールガスの開発が可能 になり、天然ガス生産が拡大した。MMBtu あたり 6 ~ 8 ドルの相対的に高い水準で推移していた天然 ガス価格(ヘンリーハブ)はリーマンショックの後に低下し、おおむね 2 ~ 4 ドル程度で推移してきた。 しかし、生産量のほうは技術進歩によるコスト削減などによりリーマンショック後も増加を続け足元で も 1 日あたり 4 0 0 億 cf を上回っている。 同様の技術進歩によってシェールオイルについては、リーマンショック後に一旦下落した原油価格が 2 0 1 0 年以降数回にわたって 1 バレルあたり 1 0 0 ドルを超えたこともあって拡大しており、生産量も 2 0 1 4 年後半からの油価下落により減少したとはいえ日量 4 0 0 万バレル以上を維持している。 米国におけるシェールガス・オイルの生産拡大は中東・中南米・アフリカからの原油輸入を減らし、 世界のエネルギー事情や関連する政治状況にまで影響を及ぼしてきた。本稿では、このような「シェー ル革命」 が石油・天然ガス上流開発企業の財務にどのような変化をもたらしてきたかを検討する。 1.「シェール革命」 の担い手 (1) 「シェール革命」 と石油・天然ガス上流開発企業 検討してみたい。 「シェール革命」 が実現した要因については、 水平坑井・ 2 0 1 4 年後半以降低下した油価は、2 0 1 6 年 1 ~ 2 月に 水圧破砕・マイクロサイスミック(microseismic)といっ 一時 3 0 ドルを下回り、本稿執筆時点では 4 0 ドル台後半 た探鉱開発技術の進歩、これらを推進した石油・天然ガ で推移している。長期的に持続可能な形で探鉱活動が継 ス業界と米国連邦政府の協力があったことが指摘されて 続されるために必要と考えられる 6 0 ~ 8 0 ドル台まで回 いる。また、米国には長年にわたる石油生産国としての 復しない事情の一つに(産油国間で増産凍結についての 地質構造に関するデータが蓄積されており、シェールオ 合意ができないことに加えて)シェールオイル増産の可 イル・ガスを開発するための周辺技術を提供する掘削 能性があると言われるが、「シェール革命」が石油・天然 サービス関連企業や熟練労働者が国内に多数存在するこ ガス上流開発企業の財務にもたらしたものがシェールオ とも 「シェール革命」 が可能になった要因として挙げられ イル・ガスの増産の可能性にどのように影響しているか *1 ている 。さらにシェールガスやシェールオイルの出現 に関する含意についても考えてみたい。 が市場にどのような影響を及ぼしたかについても詳しい 需要サイドの要因をカバーすることはできないため *2 分析がなされている 。 油価動向を見通すことはかなわないが、供給サイドの そのような技術的な革新がシェールオイル・ガスの商 要因の一つであるシェールオイル・ガス生産の担い手 業的な生産拡大に結びつき、エネルギーを取り巻く環境 であるシェール企業が再び増産に転じるのか、転じる を一変させた 「シェール革命」 は石油・天然ガス上流開発 としたら 2 0 1 4 年半ばまでのようなペースの増産は再現 企 業 の 財 務 面 に ど の よ う な 変 化 を も た ら し た の か、 されるのか、といった問いに対しても一つの見方を提 「シェール革命」の主な担い手である米国の独立系石油・ 天然ガス上流開発企業の財務内容に着目することにより 31 石油・天然ガスレビュー 示してみたい。 (2) シェール企業 出所:EIA 図1 原油価格(WTI 月次平均)推移 $/MMBtu 12 10 8 6 4 2 0 Jun-2016 Jan-2016 Aug-2015 Mar-2015 Oct-2014 May-2014 Dec-2013 Jul-2013 Feb-2013 Sep-2012 Apr-2012 Nov-2011 Jun-2011 Jan-2011 Aug-2010 Mar-2010 Oct-2009 May-2009 Dec-2008 Jul-2008 Feb-2008 Sep-2007 Apr-2007 Nov-2006 Jun-2006 0 年 月 Jun-2016 Jan-2016 Aug-2015 Mar-2015 Oct-2014 May-2014 Dec-2013 Jul-2013 Feb-2013 Sep-2012 Apr-2012 Nov-2011 Jun-2011 Jan-2011 Aug-2010 Mar-2010 Oct-2009 May-2009 Dec-2008 Jul-2008 Feb-2008 Sep-2007 Apr-2007 14 Nov-2006 Jan-2006 160 Jun-2006 Jan-2006 アナリシス $/バレル 140 120 100 80 60 40 20 年 月 出所:EIA 図2 天然ガス価格(ヘンリーハブ月次平均)推移 天然ガス上流開発企業の財務の関係を検討するに際して 最近ではメジャー系企業もシェールオイル・ガスの開 は、いわゆるシェール企業(独立系の石油・天然ガス開 発を行っているが、もともとシェールオイル・ガスは開 発企業)の財務動向に注目することが妥当と考えられる。 発規模が小さいためメジャー企業はあまり積極的に開発 「シェール革命」を起こしたのはファイナンスであるな を行ってこなかった。このため「シェール革命」と石油・ どと論じようというのではないが、「シェール革命」 が資 2016.11 Vol.50 No.6 32 「シェール革命」が上流開発企業の財務にもたらした変化 5 MMbbl/d 4.5 4 3.5 3 2.5 2 Utica(OH, PA & WV) Niobrara-Codell(CO, WY) Delaware(TX & NM Permian) Haynesville Yeso & Glorieta(TX & NM Permian) Marcellus(PA,WV,OH &NY) Eagle Ford(TX) Woodford(OK) Bakken(MT & ND) Granite Wash(OK & TX) Spraberry(TX & NM Permian) Austin Chalk(LA & TX) Bonespring(TX & NM Permian) Monterey(CA) Wolfcamp(TX & NM Permian) 1.5 1 0.5 1-Jan-2006 1-Apr-2006 1-Jul-2006 1-Oct-2006 1-Jan-2007 1-Apr-2007 1-Jul-2007 1-Oct-2007 1-Jan-2008 1-Apr-2008 1-Jul-2008 1-Oct-2008 1-Jan-2009 1-Apr-2009 1-Jul-2009 1-Oct-2009 1-Jan-2010 1-Apr-2010 1-Jul-2010 1-Oct-2010 1-Jan-2011 1-Apr-2011 1-Jul-2011 1-Oct-2011 1-Jan-2012 1-Apr-2012 1-Jul-2012 1-Oct-2012 1-Jan-2013 1-Apr-2013 1-Jul-2013 1-Oct-2013 1-Jan-2014 1-Apr-2014 1-Jul-2014 1-Oct-2014 1-Jan-2015 1-Apr-2015 1-Jul-2015 1-Oct-2015 1-Jan-2016 1-Apr-2016 1-Jul-2016 0 年 月 日 出所:EIA 図3 シェールオイル生産量推移 50 Bcf/d 45 Marcellus(PA,WV,OH & NY) 40 Haynesville(LA & TX) 35 Fayetteville(AR) Eagle Ford(TX) 30 Barnett(TX) 25 Bakken(ND) 20 15 Woodford(OK) Antrim(MI, IN, & OH) Utica(OH, PA & WV) Rest of US 'shale' 10 5 1-Jan-2006 1-Apr-2006 1-Jul-2006 1-Oct-2006 1-Jan-2007 1-Apr-2007 1-Jul-2007 1-Oct-2007 1-Jan-2008 1-Apr-2008 1-Jul-2008 1-Oct-2008 1-Jan-2009 1-Apr-2009 1-Jul-2009 1-Oct-2009 1-Jan-2010 1-Apr-2010 1-Jul-2010 1-Oct-2010 1-Jan-2011 1-Apr-2011 1-Jul-2011 1-Oct-2011 1-Jan-2012 1-Apr-2012 1-Jul-2012 1-Oct-2012 1-Jan-2013 1-Apr-2013 1-Jul-2013 1-Oct-2013 1-Jan-2014 1-Apr-2014 1-Jul-2014 1-Oct-2014 1-Jan-2015 1-Apr-2015 1-Jul-2015 1-Oct-2015 1-Jan-2016 1-Apr-2016 1-Jul-2016 0 年 月 日 出所:EIA 図4 シェールガス生産量推移 源ファイナンスの分野に及ぼした変化も 「革命的」 と言っ 去 1 0 年分の決算書が入手可能で、かつ比較的大規模な てもよいのではないだろうか。 独立系石油開発会社 7 社を地域的な分散も勘案してピッ 米国には独立系の石油・天然ガス上流開発企業が 2 0 0 クアップし、その決算書を基に資産買収・売却、デット・ 社以上あると言われるが、このうち財務分析の対象にな エクイティ(debt・equity:銀行借り入れ・社債発行/ り得るのは証券取引委員会に決算書(Form 1 0-K)を登録 株式)市場からの資金調達の動向を取りまとめた。 している上場企業約 1 2 0 社と見られる。このなかから過 33 石油・天然ガスレビュー アナリシス 出所:EIA 図5 主要シェールオイル・ガス生産地 2. シェール企業の財務動向 (1) デボン・エナジー(Devon Energy) シティ) 。 「シェール革命」は 2 0 0 2 年、同社がテキサス Devon は独立系石油・天然ガス上流開発企業の一つで 州北部バーネット頁岩層で水圧破砕技術と水平坑井技術 1 9 7 1 年創業、1 9 8 8 年上場された(本社:オクラホマ・ の組み合わせ・実用化に成功したことに始まるとされる。 14,000 百万ドル 12,000 原油 天然ガス液 天然ガス 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図6 Devon:売上高構成 2016.11 Vol.50 No.6 34 「シェール革命」が上流開発企業の財務にもたらした変化 この後 「シェールガス革命」 は大規模な天然ガス田を求め ①資産の入れ替え てマーセラスやヘインズビルなどに広がり、 「シェール 2 0 1 0 年に海外の在来型石油・天然ガス権益を売却し、 オイル革命」は 2 0 0 8 年にノースダコタ州の巨大な頁岩 その後、シェールオイル・ガス資産の買収を進めた。 層バッケンから比較的精製の容易な軽質油が生産された ことから広がった。 2 0 1 0 年、メキシコ湾大水深の油ガス田の他、アゼ ルバイジャン、中国の資産を 5 6 億ドルで売却。 米国における天然ガスの堅調な増加は 2 0 1 1 年後半か 2 0 1 4 年、イーグルフォード・シェールの油ガス田 ら 2 0 1 2 年初頭にかけての大幅な供給過剰を招き、米国 権益を GeoSouthern International Holdings LLC か の天然ガス価格は MMBtu あたり約 2 ドルという史上最 ら 6 0 億ドルで取得。 安値をつけた。 このような天然ガス価格の急落によって、 2 0 1 4 年、カナダの在来型油ガス田権益を Canadian 石油およびガス業界は掘削資産の投入先を比較的乾燥し Natural Resources に 2 8 億ドル、米国内の非中核資 た天然ガス層からバッケンやイーグルフォードなどの液 産を LINN Energy に 2 2 億ドルで売却。 分が豊富なプレイに移した。 「シェール革命」 が天然ガス から石油に広がったことを受けて Devon は海外の資産 資産の入れ替えにより天然ガスと石油の権益比率を 変更してきた。 を売却し、米国とカナダの陸上油ガス田開発に特化する 戦略に切り替えている。 千b/d 百万cf/d 450 3,000 400 2,500 350 300 2,000 250 1,500 200 150 1,000 100 原油・天然ガス液生産 (左軸) 天然ガス生産 (右軸) 50 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 500 0 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図7 Devon:原油・天然ガス生産量推移 40,000 百万ドル 35,000 自己資本 長期借り入れ金 有形固定資産 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 出所:決算報告書(Form 10-K) 図8 Devon:有形固定資産と自己資本・長期借り入れ金 35 石油・天然ガスレビュー 2015 年 アナリシス ②借り入れの活用 生産量により収入が大きく変動する上流事業や価格 2 0 1 1 年以降のシェールオイル資産買収に当たっては 変動の影響を大きく受ける下流事業に比べ、パイプ デット (金融機関からの借り入れ) による資金調達を進め ラインや貯蔵施設等の中流事業資産はメジャー系等 てきた。2 0 1 5 年末時点の借り入れは 1 2 0 億ドルを超え の大手企業との長期契約をベースとした利用料を主 ている。 な収入源としており、キャッシュフローが安定して いる。 ③マスター・リミテッド・パートナーシップの活用 資金調達の方法としてマスター・リミテッド・パート シェール企業にとっては生産量の増加に対応してパ イプラインや貯蔵施設に対する設備投資が必要であ *3 ナーシップ (MLP : Master Limited Partnership) を活 るが、投資額が大きく新規参入は容易ではない。中 用した中流事業の流動化スキームを活用している。 流事業資産を対象とした MLP を使った流動化ス 2 0 1 4 年、Devon は EnLink Holdings という新設会 キームは、機関投資家等の関心が高いことから、 社にパイプラインや貯蔵施設等の主要な中流事業資 シェール企業にとっては有力な資金調達方法になっ 産を現物出資し、EnLink Midstream, LLC という たと考えられる。 ゼネラル・パートナー(GP:General Partner)を通 Devon は証券取引所に LP 持ち分を上場することに じてこれらの資産に対する支配力を維持することに より、2 0 1 4 年に 4 億ドル、2 0 1 5 年 7 億ドルの資金 より EnLink Midstream Partners, L.P. という MLP 調達を行った。さらに Devon 自らの金融機関与信 を上場させ、約 4 億ドルの資金調達を行った。 枠 3 0 億ドルとは別に EnLink Holdings は 1 5 億ドル 14,000 百万ドル 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図9 Devon:借り入れ残高(長期・短期合計) 16,000 百万ドル 14,000 12,000 キャッシュフロー 借り入れ (純増/減) 株式発行/買い入れ 資産売却 優先株発行 設備投資 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 (2,000) (4,000) 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 出所:決算報告書(Form 10-K) 図10 Devon:設備投資とファイナンス 2016.11 Vol.50 No.6 36 「シェール革命」が上流開発企業の財務にもたらした変化 の与信枠を設定しており、Devon にとって資金調達 資本を厚くしていたので天然ガスから原油に重心をシフ 力を広げている。 トした 2 0 1 2 年頃には借り入れを行うのに十分な財務内 容が備わっていた。 ④株式買い入れ償却 積極的な借り入れの活用、中流資産の分離上場や優先 資産の入れ替えに応じて自社株買い入れを行い、借り 株発行といったエクイティ市場からの調達により積極的 入れの活用と合わせて資本の効率性を高めている (2011・ な資産の入れ替えを行ってきており、ガスと石油の価格 2 0 1 2 年、総額 3 5 億ドルの自社株買いを行っている)。 の変化に応じて構成比率を変更してきた。レバレッジや 有 形固定資産の大半は自己資本で賄われ、長期借 デリバティブを活用し、資産の入れ替えにより効率的に り入れ金と合わせて有形固定資産相当分のファイ 資本が活用されてきた。 ナンスが行われてきた。 2 0 1 5 年度は油価の低下により 1 4 5 億ドルの赤字を ①資産の入れ替え 計上したため自己資本が減少したが、これを除けば Chesapeake が積み上げてきた上流資産はテキサス州 財務内容は強化されてきた。 南部のイーグルフォード・シェール、オハイオ州のユー ティカ・シェール、オクラホマ州のアナダルコ盆地、ワ (2) チェサピーク・エナジー(Chesapeake Energy イオミング州のナイオブララ・シェール、ルイジアナ州 Corporation) 西部のヘインズビル・シェール、ペンシルベニア州のマー Chesapeake の特徴は 2 0 0 8 年までの「シェールガス革 シェラス・シェールと幅広い。 命」の波にうまく乗ったところにある。その初期に自己 2 0 0 8 年フェイエットビルの権益(2 5 %)を BP に 1 9 億 10,000 9,000 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 百万ドル 原油 2006 天然ガス液 2007 2008 天然ガス 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図11 Chesapeake:売上高構成 250 千b/d 百万cf/d 3,500 3,000 200 2,500 150 2,000 100 1,500 原油・天然ガス液生産 (左軸) 天然ガス生産 (右軸) 50 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 出所:決算報告書(Form 10-K) 図12 Chesapeake:原油・天然ガス生産量推移 37 石油・天然ガスレビュー 1,000 500 0 2015 年 アナリシス ドルで売却した他、 以下のような資産売却を行ってきた。 2 0 0 8 年 マーセラスの権益(3 2.5 %)を Statoil に 3 3 ドルで売却 億 8,0 0 0 万ドルで売却 CNOOC に 2 2 億ドルで売却 2 0 1 0 年 バーネットの権益(2 5 %)を Total に 2 2 億 35,000 2 0 1 0 年 イ ー グ ル フ ォ ー ド の 権 益(3 3.3 %) を 2 0 1 1 年 ナイオブララの権益(3 3.3 %)を CNOOC に 百万ドル 30,000 自己資本 長期借り入れ金 有形固定資産 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図13 Chesapeake:有形固定資産と自己資本・長期借り入れ金 14,000 百万ドル 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図14 Chesapeake:借り入れ残高(長期・短期合計) 25,000 百万ドル 20,000 キャッシュフロー 株式発行/買い入れ 優先株発行 借り入れ (純増/減) 資産売却 設備投資 15,000 10,000 5,000 0 (5,000) 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図15 Chesapeake:設備投資とファイナンス 2016.11 Vol.50 No.6 38 「シェール革命」が上流開発企業の財務にもたらした変化 1 2 億 7,0 0 0 万ドルで売却 リザーブ・ベースト・レンディングに厳格な適用を 2 0 1 1 年 ユーティカの権益(2 5 %)を Total に 2 0 億 求めており、今後大きく伸びるとは考え難いが、短 ドルで売却 期の資金調達形態としてシェール企業の有力なファ イナンス方法になっている。 ②借り入れの活用 Chesapeake は借り入れの条件交渉を行うに際してリ ③中流資産の売却 ザーブ・ベースト・レンディング(埋蔵量担保の借り入 2 0 1 2 ~ 2 0 1 3 年 ウェスト・バージニア等一部を れ枠)を一時的に利用している。スワップやカラー等の ヘッジ取引 *4 を行う際にも埋蔵量担保を活用している。 除いてパイプライン資産を売却。 2 0 1 4 年 サ ー ビ ス 会 社 Chesapeake Oilfield リ ザーブ・ベースト・レンディングは中堅・中小事 Operating LLC を ス ピ ン オ フ し、Seventy Seven 業者には一般的な借り入れ形態であり、シェール革 Energy Inc. として上場させた。 命が中小の事業者を中心に進んだ背景の一つ。埋蔵 量を担保に金融機関から借り入れ枠の設定を受ける。 (3)ヘス・コーポレーション(Hess Corporation) リザーブ・ベースト・レンディングの担保は通常半 Hess は米国ノースダコタ州バッケン他の非在来型陸 年ごとに評価の見直しが行われるが、油価が下落し 上鉱区およびメキシコ湾の大水深油田、西アフリカ(赤 始めて以来、米国の金融監督当局は金融機関に対し 道ギニア、ガーナ)、東南アジア(マレーシア、タイ)で 18,000 百万ドル 原油・天然ガス液 16,000 天然ガス 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図16 Hess:売上高構成 350 千b/d 百万cf/d 700 300 600 250 500 200 400 150 300 100 200 50 0 原油・天然ガス液生産 (左軸) 2006 2007 2008 2009 2010 天然ガス生産 (右軸) 2011 2012 2013 出所:決算報告書(Form 10-K) 図17 Hess:原油・天然ガス生産量推移 39 石油・天然ガスレビュー 800 2014 100 0 2015 年 アナリシス 生産を行っている。以前アゼルバイジャン、インドネシ な権益はバッケン地区とメキシコ湾の海上油田であり、 ア、ロシア、英国に保有していた権益は売却している。 「シェールガス革命」の恩恵は僅かであった。ところが シェールガスの生産が拡大した 2 0 0 8 年までは顕著な 2 0 0 9 年以降バッケン地区でシェールオイルの開発が進 借り入れの増加は見られない。同社の米国における主 むと借り入れに加えて、資産売却やプライベート・エ 35,000 百万ドル 自己資本 30,000 長期借り入れ金 有形固定資産 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図18 Hess:有形固定資産と自己資本・長期借り入れ金 9,000 百万ドル 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図19 Hess:借り入れ残高(長期・短期合計) 12,000 百万ドル 10,000 キャッシュフロー 借り入れ (純増/減) 株式発行/買い入れ 資産売却 優先株発行 設備投資 8,000 6,000 4,000 2,000 0 (2,000) (4,000) 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 出所:決算報告書(Form 10-K) 図20 Hess:設備投資とファイナンス 2016.11 Vol.50 No.6 40 「シェール革命」が上流開発企業の財務にもたらした変化 クイティ・ファンドを活用して資金調達を行い、天然 ③プライベート・エクイティ・ファンドとの協働による 資金調達 ガスから石油、海外から米国内非在来型への転換を図っ てきた。 Hess の 中 流 事 業 部 門 の 資 産 は Hess Midstream Partners LP が 保 有 し て い る(Hess Midstream ①資産の入れ替え Partners LP は MLP として証券取引所に上場する 計画であるがまだ実現していない)。 Hess は 2 0 1 3 年までは石油製品の精製・販売に加え、 発電事業・小売り (ガソリンスタンド経営) 等を行う 2 0 1 5 年、Hess は Hess Midstream Partners LP の 統合型企業であった。売り上げに占める天然ガスの 1 0 0 % 持 ち 分 等 の 中 流 事 業 資 産 を 保 有 す る Hess 比率が低下し、石油の割合を増加させてきた。 Infrastructure Partners, LPの50%をプライベート・ 2 0 1 3 年から 2 0 1 5 年にかけて従来のグローバルに エ ク イ テ ィ・ フ ァ ン ド(Global Infrastructure 展開する統合型エネルギー企業から北米の上流資源 Partners)に 2 6 億ドルで売却し、資金調達を行って 開発に特化した企業に転換した。特に非在来型の石 いる。 油資源開発に強みを持つ。 ④債券市場を通じた資金調達 ②資産売却による資金調達 2 0 1 5 年、Hess Infrastructure Partners, LP の持ち 2 0 1 2 年、ノルウェー LNG プロジェクト権益(1 億 分売却による 2 6 億ドル相当の資金調達を実施した ドル) 、英領北海のパイプライン権益(5 億ドル)・ ほか、Hess Infrastructure Partners, LP は 6 億ドル LNG プロジェクト権益(2 億ドル)等の資産売却によ を債券市場から調達している。 り計 8 億ドルを調達。 2 0 1 3 年、英領北海 Beryl ガス田 (4 億 4,0 0 0 万ドル)、 アゼルバイジャンの油田・パイプライン(8 億 8,0 0 0 (4) ア パ ッ チ・ コ ー ポ レ ー シ ョ ン(Apache Corporation) 万ドル) 、インドネシア(6 億 6,0 0 0 万ドル) 、ロシア Apache は 1 9 5 4 年創業の石油・天然ガス上流開発企 (2 1 億ドル) 等の資産売却により計45億ドルを調達。 業(本社:ヒューストン)。当初、シェールガス革命への 2014年、 インドネシアの海上権益 (6億5,000万ドル)、 関与は限定的であったが、2 0 1 0 年以降パーミアンの開 タイ (8 億ドル) 、ユーティカ・シェールガス権益(1 1 発が進みシェールオイルの生産を拡大した。 億ドル)、その他発電関連の資産等の資産売却によ 2 0 0 0 年代まではオーストラリアをはじめとする海外 り計 3 0 億ドルを調達。 の権益買収により成長していたが、2 0 1 0 年頃から北米 におけるシェール開発にウェートを移した。折からのメ 18,000 百万ドル 16,000 原油 天然ガス液 天然ガス 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 出所:決算報告書(Form 10-K) 図21 Apache:売上高構成 41 石油・天然ガスレビュー 2013 2014 2015 年 アナリシス キシコ湾原油流出事故に関連して資産売却を進める BP ①買収 社 か ら 権 益 を 取 得。 さ ら に は Cordillera Energy 従来はグローバルに上流権益を獲得することで成長し Partners の買収などにより、米国およびカナダの非在来 ていたが、2 0 1 0 年、BP・Mariner Energy からパーミ 型資源を獲得した。他方ではエジプトにおける権益の一 アンの油ガス田権益を取得し、シェールオイル・ガスの 部やアルゼンチンにおける権益を売却している。 生産が拡大した。 主な権益はパーミアン盆地、アナダルコ盆地のほか、 2 0 1 0 年、BP からパーミアン盆地、カナダ、エジ カナダ、英国、エジプトにも権益を持つ。2 0 1 5 年度の プトにおける権益を合計 6 4 億ドルで買収。また アニュアル・レポートには同社の戦略としては以下の 3 Devon からメキシコ湾の油ガス田権益を 1 0 億 5,0 0 0 項目が掲げられている。 万ドル、メキシコ湾岸とパーミアンに油ガス田権益 ・厳格なポートフォリオ管理 を 保 有 す る 独 立 系 上 流 開 発 企 業 Mariner Energy ・財務の柔軟性向上 Inc. を 2 7 億ドルで買収した(カナダ Kitimat LNG プ ・利回りとキャッシュフローの重視 ラント等)。 これらの基本的な戦略に基づき、投下資本額の大きい LNG や大水深海底油ガス田権益を売却し、シェールオ イル・ガスのような資本効率の高い資産へのシフトを進 め、また天然ガスから石油への転換を進めてきた。 250 千b/d 5,0 0 0 万ドルで買収。 2 0 1 2 年、非上場の上流開発企業 Cordillera Energy Partners III, LLC を 2 7 億ドルで買収、アナダルコ 百万cf/d 1,000 900 800 700 600 500 400 300 天然ガス生産 (右軸) 200 原油・天然ガス液生産 (左軸) 100 0 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 200 150 100 50 0 2 0 1 1 年、ExxonMobil の英領北海油田権益を 1 2 億 2006 2007 出所:決算報告書(Form 10-K) 図22 Apache:原油・天然ガス生産量推移 60,000 百万ドル 自己資本 長期借り入れ金 有形固定資産 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図23 Apache:有形固定資産と自己資本・長期借り入れ金 2016.11 Vol.50 No.6 42 「シェール革命」が上流開発企業の財務にもたらした変化 盆地の油ガス田権益を獲得した。またオーストラリ アの子会社 Apache Energy Limited を通じて同国 売却した。 2 0 1 5 年、Yara Pilbara Holdings Pty Ltd に対する の肥料製造プロジェクト(Yara Pilbara Holdings 持ち分 4 9 %を 4 億ドル、カナダの Kitmat LNG プロ Pty Ltd) を買収した。 ジ ェ ク ト、 並 び に 隣 接 す る 天 然 ガ ス 田 権 益 を W o o d s i d e P e t r o l e u m に 8 億 5 , 0 0 0 万 ド ル、 ②資産売却 Wheatstone LNG プロジェクトと、それに隣接する LNG プロジェクトや大水深海底油田のように投下資 油ガス田権益を Woodside Petroleum に 2 8 億ドル、 本が大きい資本集約的な資産の売却を進めてきた。 オーストラリア子会社 Apache Energy Limited を 2 0 1 2 年、Chevron にカナダの Kitimat LNG プラン プライベート・エクイティ・ファンドに 1 9 億ドル トと Pacific Trail パイプライン権益 5 0 %を 4 億ドル で売却している。 で売却。 2 0 1 3 年、メキシコ湾の権益を Riverstone Holdings ③債券市場 に 37億ドル、 エジプトの権益をSinopecに29億5,000 2 0 1 5 年末時点の債券市場からの調達は 8 8 億ドル、こ 万ドルで売却。 の他に 3 5 億ドルのコマーシャルペーパー発行 / 借り入 2 0 1 4 年、オクラホマ州のアナダルコ盆地、ルイジ れ枠を確保している。 アナ州南部の石油ガス田権益を 1 3 億ドル、メキシ コ湾大水深を 1 4 億ドル、カナダの天然ガス資産を 3 億 7,0 0 0 万ドル、アルゼンチンの権益を 8 億ドルで 2 0 1 0 年、BP からの資産買収に関連して 1 5 億ドル の資金は債券発行により調達。 2012年、 Cordillera Energy Partners III, LLCと (オー 14,000 百万ドル 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 2014 2015年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図24 Apache:借り入れ残高(長期・短期合計) 百万ドル 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 (2,000) キャッシュフロー (4,000) 借り入れ (純増/減) (6,000) 2006 2007 2008 株式発行/買い入れ 資産売却 2009 2010 優先株発行 設備投資 2011 2012 2013 出所:決算報告書(Form 10-K) 図25 Apache:設備投資とファイナンス 43 石油・天然ガスレビュー アナリシス ストラリア現地法人 Apache Energy Limited によ Limited を Macquarie Capital と Brookfield Asset る)Yara Pilbara Holdings Pty Limited の買収に際 Management 傘下のプライベート・エクイティ・ファ して総額 5 0 億ドルを債券発行により調達。 ンドに 1 9 億ドルで売却した。 2 0 1 3 年・2 0 1 5 年にそれぞれ 2 5 億ドルの借り入れ (5) ア ナ ダ ル コ・ ペ ト ロ リ ウ ム(Anadarko 圧縮を行っている。 Petroleum Corporation) ④株式 (エクイティ) 市場 Anadarko は大型の買収によりシェール資産を取得し 大型の資産取得 / 買収を行う際には株式市場を活用す た後、資産売却や MLP による資産の回転、流動化によ るとともに、逆に資産売却により余剰資金が生じた際に り借り入れを圧縮してきた。 は自社株買いを行い、自己資本が過剰にならないように 効率的な資本政策を採っている。 ①資産の入れ替え 2 0 1 0 年、BP からの資産買収に関連して普通株 2 3 徐々に米国内資産への集中と天然ガスから石油へのシ 億ドルと優先株 1 2 億ドルを発行。 フトを進めてきた。 2 0 1 3 年 1 0 億ドル、2 0 1 4 年 1 8 億 6,0 0 0 万ドルの自 2 0 0 6 年 8 月、Anadarko は Kerr-McGee Corporation 社株買いを実施。 を 1 6 5 億ドル(プラス 2 6 億ドルの債務)で買収した。 2 0 1 5 年、オーストラリア子会社 Apache Energy さらに Western Gas Resources, Inc. を 4 8 億ドル(プ 16,000 百万ドル 原油 14,000 天然ガス液 天然ガス 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図26 Anadarko:売上高構成 400 千b/d 百万cf/d 350 3,000 2,500 300 2,000 250 1,500 200 150 1,000 100 50 天然ガス生産 (右軸) 原油・天然ガス液生産 (左軸) 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 500 0 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図27 Anadarko:原油・天然ガス生産量推移 2016.11 Vol.50 No.6 44 「シェール革命」が上流開発企業の財務にもたらした変化 ラス 6 億 2,5 0 0 万ドルの債務) で買収した。 借り入れが残った。この債務の圧縮が終わるのは 所要資金のうち 2 2 3 億ドルを短期借り入れにより賄 2 0 0 8 年の Western Gas Partners の上場まで時間を い、カナダ法人の売却(4 3 億ドル)などで債務を圧 要した。 縮しようとしたが、2 0 0 6 年末時点で 2 3 0 億ドルの 45,000 2 0 1 4 年、Anadarko はモザンビークの海上ガス田 百万ドル 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 2006 2007 2008 自己資本 2009 2010 2011 2012 2013 長期借り入れ金 2014 2015 年 有形固定資産 出所:決算報告書(Form 10-K) 図28 Anadarko:有形固定資産と自己資本・長期借り入れ金 25,000 百万ドル 20,000 15,000 10,000 5,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図29 Anadarko:借り入れ残高(長期・短期合計) 30,000 百万ドル 25,000 キャッシュフロー 借り入れ (純増/減) 20,000 株式発行/買い入れ 資産売却 優先株発行 設備投資 15,000 10,000 5,000 0 (5,000) (10,000) 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 出所:決算報告書(Form 10-K) 図30 Anadarko:設備投資とファイナンス 45 石油・天然ガスレビュー 2014 2015 年 アナリシス 権益を 2 6 億ドル、中国現地法人 1 0 億 8,0 0 0 万ドル、 させ資金調達を行っている。 メキシコ湾大水深を 5 億ドル、ロッキーの EOR ア ま た、2 0 1 5 年 に Western Gas Equity Partners の セット 4 億 6,0 0 0 万ドルで売却、合計 4 5 億 6,0 0 0 万 株 式 を 売 却 す る こ と で 資 金 調 達 を 行 っ て い る。 ドルを現金化した。 Western Gas Equity Partners は 2 0 0 8 年に Western 2 0 1 5 年、ロッキー山脈のコールベッド・メタン Gas Partners LP という MLP のゼネラル・パート (CBM)資産を 1 億 5,0 0 0 万ドル、増進回収法(EOR) ナーとして 2 0 0 9 年設立されたもので、自社で保有 資産を 7 億ドル、テキサス州東部の油ガス田を 4 億 していた MLP 持ち分を合わせて Tangible Equity ドル等、合計 1 3 億ドルの資産売却を行った。 Unit というパッケージにして売却することにより 3 このように買収による業容の拡大を図る一方、非中 億 8,0 0 0 万ドルの資金調達を行っている。 核資産を売却し、資産を回転させている。 (6)EOG リソーシズ(EOG Resources, Inc.) ②借り入れの活用 EOG Resources はシェールオイルに限って言えば米 2 0 0 6 年、Kerr-McGee Corporation と Western Gas 国で最大の独立系石油開発会社である(2 0 1 5 年日量 3 6 Resources, Inc. を買収するために 2 2 3 億ドルの借り 万バレル) 。当初はバーネットの原油・天然ガス生産か 入れを行った。 らシェール革命に参加したが、デット・エクイティ市場 からの資金を活用して資産の入れ替えを行い、イーグル ③株式市場の活用 フォードにウェートを移した。 Anadarko は原油・天然ガスを集積・処理する中流事 イーグルフォードでは最大の生産者であり(同 2 1 万バ 業の資産を保有する子会社を設立し、MLP として上場 レル)、パーミアン(同 4 万 3,0 0 0 バレル)、ロッキー山脈 14,000 百万ドル 12,000 原油 天然ガス液 天然ガス 2007 2008 2010 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 2006 2009 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図31 EOG Resources:売上高構成 400 千b/d 百万cf/d 1,400 350 1,200 300 1,000 250 800 200 600 150 400 原油・天然ガス液生産 (左軸) 200 天然ガス生産 (右軸) 100 50 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 0 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図32 EOG Resources:原油・天然ガス生産量推移 2016.11 Vol.50 No.6 46 「シェール革命」が上流開発企業の財務にもたらした変化 (同 6 万 5,0 0 0 バレル)における生産を拡大している半面、 採算性に劣るバーネットの開発は 2 万 7,0 0 0 バレルと絞 ①資産の入れ替え り込んでいる。 ガ スと石油の価格の変化に応じてバーネットから イーグルフォード / パーミアンに生産拠点をシフト 35,000 百万ドル 30,000 自己資本 長期借り入れ金 有形固定資産 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図33 EOG Resources:有形固定資産と自己資本・長期借り入れ金 7,000 百万ドル 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図34 EOG Resources:借り入れ残高(長期・短期合計) 10,000 百万ドル 8,000 キャッシュフロー 優先株発行 資産売却 株式発行/買い入れ 借り入れ (純増/減) 設備投資 6,000 4,000 2,000 0 (2,000) 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 出所:決算報告書(Form 10-K) 図35 EOG Resources:設備投資とファイナンス 47 石油・天然ガスレビュー 2014 2015 年 アナリシス (7) オ ク シ デ ン タ ル・ ペ ト ロ リ ウ ム(Occidental することで構成比率を変更してきた。 Petroleum Corporation) ②借り入れの活用 Occidental は他のシェール企業とは異なり、米国の上 EOG Resources の借り入れは 2 0 0 6 年の 7 億ドルか 流資源開発・中流事業だけでなく化学事業を展開、また ら 2 0 1 2 年には 6 3 億ドルへと増えており、バーネッ 中東・北アフリカや中南米でも上流・中流事業を行って トからイーグルフォード / パーミアンへのシフトに いる。米国における上流資源開発はパーミアン盆地に集 際して借り入れが積極的に活用されたことがうかが 中しているが、これも非在来型油ガス田だけでなく在来 われる。 型の油ガス田からの生産が大きな割合を占めている。 同社は 2 0 0 0 年度に Altura Energy の買収によりパー ③株式市場からの資金調達 ミアン盆地での権益を取得し、その後も 2 0 0 7 年に BP 2 0 1 0 年頃までの「シェール革命」の比較的早い時期 とメキシコ湾の資産をスワップ、2 0 0 8 年から 2 0 1 2 年 は借り入れを積極的に活用して生産を拡大したが、 頃には借り入れによる資金調達を拡大するなどしてパー リーマンショック後の 2 0 1 1 年、原油価格が上昇す ミアンの陸上権益を獲得してきた。 る局面ではキャッシュフローに加えて時価発行増 このようにして積み上げてきたパーミアン盆地の資産 資、資産売却により設備投資資金を調達している。 に対し、同社が得意とする増進回収法を適用して、ピー 5 0 ドルを割る油価で生産を拡大するだけの設備投 クを過ぎたと見られていた油・ガス田の埋蔵量を回復し 資を行うことは難しいが、技術の進歩により 6 0 ド た。また、資産売却の他、子会社の分離上場による資金 ル程度の油価であれば増産に転じる可能性が高い。 調達、借り入れの返済・自社株買い入れにより財務内容 350 千b/d 百万cf/d 900 800 300 700 250 600 200 500 400 150 100 原油・天然ガス液生産 (左軸) 300 天然ガス生産 (右軸) 200 50 100 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 0 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図36 Occidental:原油・天然ガス生産量推移 60,000 百万ドル 50,000 自己資本 長期借り入れ金 有形固定資産 40,000 30,000 20,000 10,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図37 Occidental:有形固定資産と自己資本・長期借り入れ金 2016.11 Vol.50 No.6 48 「シェール革命」が上流開発企業の財務にもたらした変化 を強化してきた。 いるが 2 0 1 0 年と 2 0 1 2 年にはそれぞれ 2 5 億ドル、 17億5,000万ドルの長期資金借り入れを行っている。 ①設備投資 2 0 0 6 年、1 3 億ドルで Vintage 社の買収によりパー ③資産売却 ミ ア ン 盆 地 の 資 産 を 買 い 増 し た ほ か、Plains 2 0 0 6 年、約 1 0 億ドルで非中核の海外やカリフォル Exploration and Production Co. から 8 億 6,0 0 0 万ド ルでパーミアンとカリフォルニアの資産を買収した。 ニアの資産を売却した。 2 0 0 7 年、ロシアと西アフリカの資産を約 5 億ドル 2 0 0 7 年、BP との資産スワップによりパーミアン 盆地の権益を買い増したほか、天然ガス処理プラン で売却。 2 0 1 3 年、 非 中 核 油 田 権 益 と パ イ プ ラ イ ン 資 産 トやパイプライン資産を取得した。 Plains Pipeline の売却により 1 6 億ドルの資金調達を 行った。 ②借り入れの活用 2 0 1 4 年、カリフォルニア州における石油・天然ガ 2 0 1 1 年・2 0 1 2 年にはパーミアン盆地などの油ガ ス事業 California Resources Corporation を分離上 ス田権益を買収しているほか関連会社を通じて同地 場するスピンオフにより約 4 0 億ドルの資金調達を 域のパイプライン資産にも投資を進めた。 行っている。 必要資金の大半は営業キャッシュフローで賄われて これらは主に借り入れ金の返済に充てられた。 9,000 百万ドル 8,000 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年 2014 2015 年 出所:決算報告書(Form 10-K) 図38 Occidental:借り入れ残高(長期・短期合計) 18,000 百万ドル 16,000 14,000 12,000 キャッシュフロー 優先株発行 資産売却 株式発行/買い入れ 借り入れ (純増/減) 設備投資 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 (2,000) 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 出所:決算報告書(Form 10-K) 図39 Occidental:設備投資とファイナンス 49 石油・天然ガスレビュー アナリシス 3.「シェール革命」 のファイナンス的側面 (1) 石油・天然ガス上流開発企業の財務にもたらした影響 キャッシュフローで賄われ、有形固定資産もほぼ自己資 本と長期借り入れ金の範囲内に収まっている。 「シェール ①資産の入れ替え 革命」 を経たことで資本の効率性が増したと考えられる。 資産の買収には、個別の油ガス田資産を買収するケー ス(Devon、Chesapeake、EOG Resources、Hess)やメ ジャー企業の戦略転換などからまとまった資産を取得す (2) 「シェール革命」がファイナンス市場にもたらした 影響 るケース(Apache、Occidental) 、M&A により企業ごと 「シェール革命」が米国の石油・天然ガス上流開発企業 買収し後から一部を売却するケース(Anadarko)等、さ の財務にもたらした変化はデット・エクイティによる まざまのパターンが見られる。しかし、各社とも大水深 ファイナンスにもさまざまの影響を及ぼした。 の海底油田やフロンティア地域の大規模開発等の油ガス 田権益やパイプライン等の中流事業部門を分離・売却し、 ①デット市場 シェールオイル・ガスの資産取得を行ってきたという方 「シェール革命」以前は、グローバルに展開する大手 向性は共通している。 の金融機関にとって石油・天然ガス上流開発事業向け 大水深の海底油田などの在来型の大規模な海外の油ガ の融資と言えば、個々の開発ごとに組成されるプロジェ ス田権益は、投下した資本を回収するのに 1 0 年以上の クト・ファイナンスあるいはメジャー系の石油・天然 長期間を要するのに対し、シェールオイル・ガス資産は ガス企業や国営石油会社向けのファイナンスが主なも 3 ~ 5 年程度で回収できるので、上流開発企業にとって のであった。石油・天然ガス上流資源開発向けのファ は、資本を効率的に回転させられるようになった。 イナンスの有望分野としては、フロンティア地域にお ける大水深の海底油田等の大規模なプロジェクト・ファ ②資金調達面における変化 イナンスで、投下する資本と開発リスクや所在国リス 従来、大水深の海底油田や大きなカントリーリスクを クに見合ったストラクチャリングを施したものでも、 伴うことの多いフロンティア地域の大規模開発により石 回収するには 1 0 年を超える超長期の大掛かりなものと 油・天然ガス事業への投資を行ってきた米国の上流開発 なるのが一般的であった。それでも民間金融機関だけ 企業は、 「シェール革命」 によってカントリーリスクの極 では担いきれず、さまざまの国あるいは多国間の信用 めて小さい米国で比較的短期間に投資を回収できるよう 補填の枠組みが利用された。 に事業内容 / リスクプロファイルを一変させることがで 「シェール革命」によって石油・天然ガス上流開発企業 きた。米国では元々エクイティ市場が発達しているので のビジネスモデルが超長期投資から相対的に短くなった リスクマネーが豊富にあり、シェール企業は油価が下 ことで、調達先が金融機関のみならず債券市場における がっても資金調達ができると言われることもある。 投資家にも広がり、調達できる金額・規模が増している。 しかし、むしろシェール企業は自ら開発した探鉱・開 また、従来は主として地場中堅金融機関によって対応さ 発技術によって起こした「シェール革命」と、それに対応 れる規模であった埋蔵量担保融資(リザーブ・ベースト・ するために積極的な資産の入れ替えを行うことによって レンディング)の活用が拡大しており、資金調達の幅と 財務内容 / リスクプロファイルを変えたことで、従来は 厚みが増したと言うことができる。 ほ てん 不動産等に向かっていたリスクマネーを引き寄せ、資金 調達力を強めたという側面があったと言うこともできる。 ②エクイティ市場 2 0 1 4 年半ば以降の長期化している低油価環境により 「シェール革命」がもたらした石油・天然ガス上流開発 相当数のシェール企業がチャプター 1 1(連邦破産法第 企業の財務の変化によりエクイティ市場における資金調 1 1 条)適用申請を行った。このことでシェール企業には 達力も強化された。エクイティ市場における投資家のな 借り入れ依存度の高い自転車操業的な財務内容の企業が かには油価の上昇から高い利回りを期待するプライベー 多い印象がある。しかし、少なくとも本稿で取り上げた ト・エクイティ等のファンドだけでなく、長期的に安定 ような過去 1 0 年間の財務データが開示されている比較的 した配当が継続されるインフラストラクチャーへの投資 大規 模な企業については設備投資の相当部分は営業 を選好する年金基金等の機関投資家がある。Devon や 2016.11 Vol.50 No.6 50 「シェール革命」が上流開発企業の財務にもたらした変化 Anadarko のようなマスター・リミテッド・パートナー (3)「シェール革命」の影響の持続可能性 シップを利用してパイプラインや貯蔵設備等の中流事業 資産を保有する別会社の上場は、これらの機関投資家か ①「シェール革命」はなぜ起こったか らの資金調達を拡大させた点で、エクイティ投資家の多 シェールオイル・ガスの存在は「シェール革命」の前か 様性を生かした変化であった。 ら知られていたにもかかわらず、実際に商業的な生産が また、中流事業資産を保有する別会社をつくって株式 開始されたのが 2 0 0 0 年以降になった。このことから を直接的に上場させるだけでなく、Hess や Apache のよ 「シェール革命」が始まったのは油価が上昇したことが契 うに特定の事業をプライベート・エクイティ・ファンド 機になったと考えられる。油価の上昇には地政学リスク に売却することも行われている。 の高まりやリーマンショック後の各国政府が採った金融 の量的緩和政策により生じた資金がコモディティ市場に ③その他 流入したことも一因となっている。 デット・エクイティ市場に新たな機会が生じたことで 石油・天然ガス市場における供給元である上流開発企 キャッシュフローを安定させるためのデリバティブ市場 業は、金融機関とスワップやカラー等のヘッジ取引を における取引も拡大している。石油・天然ガス価格の変 行っており、これら取引金融機関はそのポジションを 動をヘッジすることにより上 流開 発 企 業にとっては ヘッジするためにコモディティ市場が活用される。リー キャッシュフローが安定し、デット・エクイティ市場に マンショック後の量的緩和により増加していた流動性が おける投資家にとってもリスクを緩和することができる コモディティ市場に流入し、取引規模が拡大した事情が というメリットがあった。デリバティブ市場も「シェール あった。 *5 革命」 を機に拡大したファイナンス市場の一つである 。 また、量的緩和により潤沢な資金が市場に流入してい また、ファイナンス市場そのものへの影響とは言えな たということは金融機関にとっても貸し出しを増やすの いが、 「シェール革命」 により油ガス田資産や企業の買収・ に適した環境にあったということができる。 「シェール 売却が活発に行われるようになったことで、石油・天然 革命」までのクレジットサイクルにおいては、金融緩和 ガス上流開発企業や金融機関のみならず、石油・天然ガ 局面になると不動産や株式のような資産が大きな資金を ス資産の買収に関する契約やデューディリジェンス 受け入れるのが常であった。ところが、リーマンショッ (Due Diligence)を扱う弁護士・会計士・コンサルタン ク後の金融緩和局面では、従来、探鉱から開発・生産を トなどの厚みが増した。このことは、米国の石油・天然 経て資本を回収するまで10年以上を要するのが常であっ ガス上流開発企業にとって他の上流開発企業とファイナ た石油・天然ガス業界向け貸し出しが 4 ~ 5 年に短縮さ ンス面で競争する上での優位性が増すことを意味するも れるという事情も加わった。このように、油価の上昇に ので、 「シェール革命」 がファイナンス面にもたらした変 加えて、シェール企業に対するファイナンス面の後押し 化の一つと言うことができるだろう。 があったことも「シェール革命」が進展した要因の一つと 「シェール革命」 によって石油・天然ガス上流開発企業 考えられる。 においても投下資本が 3 ~ 5 年で回収されるようになっ たことで、民間の金融機関にとっては (不動産以外の)実 ②シェール企業の「低油価」に対する耐性 体ある資産に裏付けされた中長期の与信を行う機会とし このように、油価が高騰した背景にはリーマンショッ て新たな材料が登場した。 「シェール革命」 の初期の頃は ク後の金融緩和や「アラブの春」後の地政学リスクの高ま 天然ガスの価格が相対的に高く推移していたことから、 りなどの事情があったと考えられるが、地政学リスクな まずシェールガスの開発に民間金融機関の資金が流入し どの特別な事情が顕在化しない限り現状程度の油価(4 0 た。リーマンショック後、量的緩和政策により供給され ドル台後半)は当面継続する可能性がある。シェール企 た資金がシェールオイル開発のための資金需要と結びつ 業には、このような油価環境に対応していくだけの耐性 いた。またコモディティ市場に流れ込んだ資金が、「ア が備わっているのだろうか。 ラブの春」やイラン核開発問題といった地政学リスクの シェール企業が「シェール革命」への対応を通じて投資 顕在化を材料に原油価格を押し上げたという一面もあっ 効率を向上させ財務内容を強化してきたことは、これま たと考えられる。シェールオイルの開発には、民間金融 で見てきたとおりである。また、資本力や国の支援が期 機関の融資等の拡大が後押しとなった側面があったと考 待できるという点では、メジャー系企業や国営石油会社 えられる。 に優位性があると言えよう。しかし、今後更に長く現状 51 石油・天然ガスレビュー アナリシス 程度の油価が続いた場合、技術進歩の継続によりビジネ 2 0 1 4 年中頃まで油価が高騰した時のように仮に再び油 スモデルを転換してきたシェール企業にも以前に比して 価が高騰したとしてシェールオイル・ガスの生産は再び ある程度の耐性は備わっていると考えられる。低油価が 急に増える可能性についても考えてみたい 続けば、国営石油会社のバックには国が控えていると 地政学リスクの高まりは先行きの不確実性を増すこと 言ったところで、国そのものが歳入を石油収入に大きく につながるので、それによって油価が高騰しただけで金 依存している場合には磐石という訳ではない。またメ 融機関の貸し出し姿勢が変化するとは考え難い。また金 ジャー系企業にとっても、大水深等の大規模な油田開発 融機関の貸し出し姿勢とともにシェールオイル生産拡大 への投資を拡大するにはある程度の油価上昇が見通せな を支えたヘッジ取引についても、2 0 1 0 年米国議会で成 いと難しいと思われる(むしろメジャー企業もシェール 立したドッド・フランク法(Dodd–Frank Wall Street 開発への取り組みを強化してくる可能性もあるだろう)。 Reform & Consumer Protection Act:ウォール街改革・ COP2 1(国連気候変動枠組み条約第 2 1 回締約国会議: 消費者保護法)により規制が強化されており、簡単に 2 0 1 5 年 1 1 月 3 0 日~ 1 2 月 1 2 日 パリ)におけるパリ協定 2 0 1 3 年頃のように取引が急増するとは考え難い。更に 批准の議論などを踏まえると、今後は再生可能エネル は 2 0 1 3 年頃にはリーマンショック後の量的緩和により ギーの導入が一段と加速する可能性がある点は割り引く デット市場やデリバティブ市場は大量の流動性が供給さ 必要があるものの、シェール企業が技術革新の継続と れ て い た が、 現 在 の 米 国 は 金 融 緩 和 局 面 に は な く、 ファイナンス市場の後押しにより長く続く可能性のある 2 0 1 0 年以降の油価上昇時のようにデット市場やデリバ 現状程度の油価環境を生き残っていく可能性は十分ある ティブ市場がシェールオイルの増産を加速化させるとは と考えられる。 限らない。 需給要因によって油価が高い水準で安定的に推移する ③油価・天然ガス価格が再び上昇すればシェールオイル・ ガスは増産されるか ? ような環境にならなければ、シェールオイル・ガスが大 幅に増産されるという事態は想定し難いと考えられる。 それでは現状程度の油価が継続する可能性とは逆に、 むすび 「シェール革命」 が 「革命」 と言われるだけのインパクト うになればデット・エクイティ市場とともにシェールオ を持つとすれば、仮に原油バレルあたり 4 0 ~ 6 0 ドル、 イル・ガスに注目するようになるだろう。投資対象とし 天然ガス MMBtu あたり 2 ~ 4 ドルの価格が相当の期間 てファイナンス面から見れば、シェールオイル・ガス資 続いたとしても米国以外にも影響が及んでいくと思われ 産は大水深の海底油田やカントリーリスクを伴うフロン る。本稿で見てきたように、シェール企業の成長にファ ティア地域のエネルギー資源開発に比して優位性がある イナンスが一定の役割を果たしているとすれば、デット・ と考えられる。 エクイティ・デリバティブといったキャピタルマーケッ 「シェール革命」がもたらした技術進歩によりシェール トの成熟は 「シェール革命」 が米国以外に拡散していく上 オイル・ガスの生産コストが低下し、ビジネスとして資 で重要な役割を果たすだろう。例えば、英国のように 源開発を行う企業の財務面でも投資の効率性が向上した EU 離脱を控えて万一の事態に備えて EU 依存度を下げ ことで、米国ではファイナンス市場からシェール企業に るべく自国で石油・天然ガスを開発しようという政治的 継続的に資本が供給されるメカニズムができ上がってい な事情があり、かつファイナンス市場が発達している国 る。今後、このようなファイナンス市場が他のシェール であれば 「シェール革命」 が拡散していく可能性があるの 資産保有国にも広がれば「シェール革命」が他国にも伝播 ではないだろうか。 していく可能性もあるだろう。 「シェール革命」 は上流開発企業の財務面にも大きな変 また、民間の投資資金が回収期間の短いシェール資産 化をもたらした。従来は回収に 1 0 年以上を要していた に向かう流れが拡大すれば、大水深の海底油田開発やフ 石油・天然ガス上流開発投資が 3 ~ 5 年で回収できるよ ロンティア地域の資源開発にキャピタルマーケットから 2016.11 Vol.50 No.6 52 「シェール革命」が上流開発企業の財務にもたらした変化 十分な民間資金が供給されなくなる可能性も否定できな ンス市場から民間資金が十分に供給されないのであれ い。将来のエネルギー価格の高騰や、逆に供給が不足す ば、公的な資金供給の仕組みを強化することも必須とな るリスクに備えるのであれば、大水深やフロンティア地 ろう。 域の資源開発を続けることが必要であり、仮にファイナ < 注・解説 > * 1: 筆者に科学技術的な知見が乏しいため先行研究を振り返ることはかなわないが、 「シェール革命」に関連する技術 革新の理解のために以下の論文・書籍を参考にさせて頂いた。 本田博巳 ,2 0 1 5;石油探鉱開発における技術革新と石油鉱業(その 1), 石油・天然ガスレビュー ,2 0 1 5.1 1 Vol.4 9 No.6:1-1 1 伊原賢 ,2 0 1 1;シェールガス争奪戦 , 日刊工業新聞社 : 2 9-3 5 * 2: 野神隆之 ,2 0 1 3;シェールガス革命は世界天然ガス市場に何をもたらしたのか。その一考察 , 石油・天然ガスレ ビュー ,2 0 1 3.9 Vol.4 7 No.5:4 7-6 2 * 3: マスター・リミテッド・パートナーシップは、米国における共同投資事業形態の一つであるリミテッド・パート ナーシップ(LP:Limited Partnership)のうち、総所得の 9 0 %以上を内国歳入法で定められたエネルギー・天然 資源関連などの特定の事業から得ており、その出資持ち分がニューヨーク証券取引所や NASDAQ などの金融商 品取引所に上場されているもの。 * 4: スワップ取引は売り手(上流開発企業)と買い手(取引金融機関)が定められた時点に一定の価格で対象となる資産 (原油・天然ガス)を売買することを約定すること。カラー取引は上限(キャップ)と下限(フロア)の二つの価格を 設定し、売り手にとっては上限以上の価格で売ることによる利益を放棄する代わりに下限以下に価格が下落して も損失を被ることを回避する約定。 * 5: 拙稿;米国シェール企業の財務動向 , 石油・天然ガス資源情報 ,2 0 1 6.4.2 5 執筆者紹介 古藤 太平(ことう たいへい) 東京大学経済学部(BA)、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE・MSc)、シカゴ大学ビジネス・スクー ル(MBA)卒業。 1985 年、三菱銀行(現・三菱東京 UFJ 銀行)入行。香港支店(1991 ~ 1996 年)、シドニー支店(2000 ~ 2004 年)、 国際企画部情報戦略室 中東・アフリカ担当副室長(2012 ~ 2016 年)等を経て退職。2016 年 2 月より現職(石 油天然ガス・金属鉱物資源機構〈JOGMEC〉調査部 担当審議役) 。 毎朝少し早起きして一駅分歩き、天に向かって伸びていく建築中の高層ビルたちの成長や再開発が続く虎ノ門 周辺の変わる様子 / 変わらない様子を観察するのをささやかな楽しみにしています。 Global Disclaimer(免責事項) 本稿は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は 本稿に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本稿は読者への一般的な情報提供を目的と したものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本稿に依拠し て行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本稿の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨 を明示してくださいますようお願い申し上げます。 53 石油・天然ガスレビュー
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