スマートアグリカルチャーの創出を 目指した根域温度制御装置 (N.RECS)の開発 日本大学 生物資源科学部 准教授 窪田 生命農学科 聡 1 一般的な栽培温度の調節 温室全体の加温・冷却が主流 冬季 温風暖房機またはヒートポンプとの併用による暖房 課題:原油価格や為替変動による暖房コストの変動リスク 夏季 ヒートポンプ冷房 課題:昼の冷房は実質的に困難,夜冷が主流 気化熱利用冷房(細霧冷房・パッド&ファン) 課題:外気温から3~5℃の冷却効果,夜間は効果無し 温室全体の加温・冷却から局所加温・冷却へ 2 既存の局所加温・冷却技術 局所加温技術の例 ナスの株元加温(奥ら,2012) バラの株元加温 (神奈川県農業技術センター,2012) 3 既存の局所加温・冷却技術 局所冷却技術の例 イチゴのクラウン部冷却 (農林水産省,2009) コチョウランの局所冷房装置 (愛知県,2009) 4 既存の局所加温・冷却技術 問題点 • 固有の品目に対応した局所加温・冷却システムであり, 汎用性はほとんどない • 加温と冷却の両方を行えるシステムは少ない 解決方法 • 土耕栽培・ポット栽培・養液栽培などに対応した 根域加温・冷却システムを開発する 5 根域環境制御装置 (New Root-zone Environmental Control System, N.RECS ) 図 断熱鉢トレイの断面図 6 根域温度の制御方法 電力量の モニター 鉢内温度 On/Off制御 電動弁 断熱鉢トレイ 床暖房パネル 冷水・温水の製造と循環 7 断熱鉢トレイ 発泡スチロール製トレイ 内側をアルミでライニング トレイ底面を アルミでライニング トレイごと持ち運べる 鉢と同型のテーパー 床暖房パネルからの熱を鉢内へ効率的に伝導し, 保温性が高く鉢の運搬が容易 8 断熱鉢トレイの伝熱特性 15℃/無加温 断熱鉢トレイなし 気温と根域温度が ほぼ同じ 鉢側面から 放熱 無加温/18℃ 断熱鉢トレイあり 気温が10℃以下でも 根域温度は18℃に維持 鉢側面から 吸熱 9 各種栽培方法に対応可能 30cmポット 土耕栽培 養液栽培 10 低温期における根域加温 温室内気温 温室の加温温度/根域加温温度 根域温度 温室の加温温度/根域加温温度 最低気温が5℃に下がっても,根域温度を約25℃に維持可能 11 低温期における根域加温 ダリアの生育・開花に及ぼす冬季の根域加温の影響 25 15 15℃/無加温 12℃/24℃ 無加温/24℃ 10 5 0 2/25 平均根域温度 25 根域温度(℃) 最低気温(℃) 20 30 最低気温 20 15 10 15℃/無加温 12℃/無加温 無加温/24℃ 5 3/3 3/10 2016年 3/17 3/24 0 2/25 3/3 3/10 2016年 3/17 3/24 表 ダリアの生育・開花に及ぼす根域加温の影響 葉数 葉面積 分枝数 2 (枚/株) (cm /株) (本/株) 15℃/無加温 81.3c 194.8c 12.5b 12℃/24℃ 143.9b 341.4b 18.0a 無加温/24℃ 188.5a 389.0a 20.2a 処理区 開花率 花数 蕾数 (%) (個/株) (個/株) 100a 2.9b 7.7b 100a 2.0ab 17.0a 79b 1.0a 15.6a 根域加温により分枝数が増加し生育が促進される 12 低温期における根域加温 ダリアの生育・開花に及ぼす冬季の根域加温の影響 15℃/無加温 無加温/24℃ 12℃/24℃ 表 実験期間中の光熱費(灯油:80円/L,電気:20円/kwh) 15℃/無加温 灯油(円) 6,926 電気(円) 0 合計(円) 6,926 削減率(%) - 12℃/24℃ 3,669 904 4,573 34 無加温/24℃ 0 2,108 2,108 70 34%以上の省エネルギー化が可能 13 高温期における根域冷却 4.5号ポット使用(75%遮光) 20℃設定では気温に対して 最大Δ15℃の冷却が可能 根域温度を終日20~23℃に 維持可能 根域温度と気温の推移 14 高温期における根域冷却 栄養繁殖系親株の維持(フクシア) 通常,八ヶ岳などの高冷地に植物を移動させる夏越し(山上げ)が必要 試験実施地:神奈川県藤沢市 20℃冷却 生存率100% 無冷却 生存率52% 暖地においても20℃の根域冷却により枯死することなく, 多数の栄養繁殖用の穂を確保することができる →山上げが不要となり労力の大幅な削減が可能 15 効果が確認されている品目 冬季の根域加温による 省エネルギー化 1. インパチェンス 2. ゼラニウム 3. 薬用植物 無加温 夏季の根域冷却 1. 2. 3. 4. 5. シクラメンの開花促進 プリムラの開花促進 パンジーの発芽促進 イチゴの開花促進 野菜の機能性成分の増加 18℃加温 20℃冷却 インパチェンス 無冷却 シクラメン 16 既存装置に対するN.RECSの優位性 項目 ■冷却モード 昼間 夜間 ランニングコスト ■加温モード 昼間 夜間 ランニングコスト N.RECS ヒートポンプ1 気化冷却2 ◎ ◎ ○ ○ ◎ △ △(湿度依存) × ◎ ◎4 ◎4 ◎ ◎4 ◎4 ○ - 温風暖房3 - ◎ ◎ △5 1 空気熱利用型ヒートポンプ,2パッド&ファンまたは細霧冷房方式,3重油または灯油燃焼式温風暖房機,4温風暖房機 との併用が必要です,5燃油価格の変動に依存します 周年にわたる利用が可能で投資コストの回収が容易 17 想定される用途 1. 高温に弱い植物の育成装置 2. 冬季の省エネルギー型植物生産装置 3. 本装置を利用した新しい生育・開花調節技術 の開発が可能 4. 根域冷却によりマイルドな水ストレスを植物に 付与できるので,生育・開花調節だけでなく生 薬成分・機能性成分の高蓄積にも利用可能と 考えられる。 18 実用化に向けた課題 1. 製品としての断熱鉢トレイの生産方法の検討 2. 野菜・花・薬用植物等における様々な栽培局面 においての適用性・活用事例に関するデータの 蓄積 3. 植物生産者等の現場におけるプロトタイプを用 いた実証試験 19 企業への期待 • N.RECSをシステムとして販売できる企業を希望 • N.RECSを使った新しい植物生産方法(生薬成 分・機能性成分等含む)の共同開発を希望 • ハードウェアと機器の制御方法および植物生産 方法等のソフトウェアをパッケージとして展開す ることを考えている。 20 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :栽培容器保持トレイ及び栽 培システム • 出願番号 :特願2016-111867 • 出願人 :日本大学 • 発明者 :窪田 聡 21 お問い合わせ先 日本大学 本部 知財課 コーディネーター 井上 典之 TEL 03-5275-8139 FAX 03-5275-8328 e-mail [email protected] 22
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