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更新日:2016/11/22 修正
調査部:本村眞澄
公開可
ロシア:和解に向かう EU とガスプロム-対欧州ガス供給拡大の可能性
・EC は 2011 年以来、5 年間行って来た Gazprom の EU 競争法違反調査を打ち切り、Gazprom
と和解することとした。Gazprom は自らのガス価格政策を改定し利害関係者の異議を聞く。
・これまで容量の 50%しか使用が許されなかった OPAL パイプラインに関しては 80%が使用でき
ることになった。これにより Nord Stream 経由の対欧州ガス供給量の増加が見込まれる
・これにはポーランンド、バルト諸国がロシア産ガスの偏重を理由に反発しているが、これはエネ
ルギー安全保障論ではなく自国通過ガスが減少して通過料が下がるという懸念があると言われる。
・停滞していた Nord Stream 2 は動き出すと思われ、バルト海経由のガス供給能力は倍増する
・Gazprom から欧州へのガス供給は今後複数ルートで拡大すると見込まれる。また、石油連動フ
ォーミュラを用いるロシア産ガスは低油価の影響で欧州ハブでのガス価格より安く競争力がある。
・昨年のシリアでのロシア軍機撃墜事件以来対立していたトルコはロシアに謝罪し関係修復した。
・同時に停止していた Turk Stream 計画も復活し、政府間合意が成立。Turk Stream による対ト
ルコガス供給が増加する。将来的にギリシャ経由での対欧州ガス供給の増加もあり得る。
・トルコの翻意は、6 月 24 日の英国の EU 離脱決定の 3 日後。英国なし EU の将来を見てのもの。
・対ロ強硬路線を率いた英国の離脱で、EU 内ではロシアに強硬であったポーランドの発言力が低
下する。これによりロシアの対欧州天然ガス政策より円滑となり、今後供給量の拡大が見込まれる
・欧州のガス輸入は 2025 年までに 36%増加すると予測される。これに対処するためには、継続的
なガス輸送インフラが不可欠であるが、EU のこれまでのロシア産エネルギーへの依存軽減、上記
のパイプライン計画への牽制策は、将来的なガス需給逼迫を招く危険がある。
・米国のトランプ新政権は対露強硬路線を否定しており、Brexit 効果と相俟って、今後ロシア産エ
ネルギーの供給力の増加が予想される。
1. EU 競争法のガスプロムへの適用に変化が
(1)独禁法違反問題で EU とガスプロムが和解へ
2016 年 10 月、EU の競争政策を担うベステアー(Margarethe Vestagar)欧州委員と Gazprom
のメドベージェフ副社長が会談し、これまで 5 年間、EU 競争法(独占禁止法)違反問題をめぐる
–1–
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
争いについて、双方が和解を望む意向を示した。EU が示唆して来た巨額の制裁金や排除措置では
なく、法的拘束力のある問題是正の確約によって、本件の幕引きを図ろうとするものである。
Gazprom は従来のガス価格政策を段階的に改め、その後は「市場テスト」と呼ばれる第2段階
に入り、欧州委員会の最終決定前に利害関係者に異議申し立ての機会を与える 1。
同時に、欧州委員会は、Gazprom が以前から求めていた OPAL パイプライン経由でドイツへの
ガス輸送を増やすことも認める方向と伝えらた。この和解により、Gazprom からの欧州向けガス
供給量は増えることが見込まれる。
(2)EU による調査
2011 年、EU の欧州委員会(EC)は、Gazprom が EU 競争法(独占禁止法)に違反した疑い
があり、ガス輸送・販売において独占的地位を利用し、公正な競争を阻害したとして、Gazproom
に立ち入り調査を行った。次いで 2012 年の 9 月 4 日には正式調査を開始した。調査内容は、
① 加盟国への自由なガス供給を阻害して市場を分割支配した疑い
② ガス輸送網を他企業に利用させず供給源の多様化を阻害した疑い
③ 原油価格に連動させた不当に高いガス価格を加盟国に押しつけた疑い
の3点で、対象は旧社会主義圏のエストニア、ラトビア、リトアニア、チェコ、スロバキア、ポー
ランド、ハンガリー、ブルガリアの 8 カ国における Gazprom の活動である 2。
EC は中東欧へのガス供給を巡り、Gazprom が EU 競争法(独占禁止法)に違反しているとの
見方を更に強め、2013 年 10 月 3 日、EC の競争政策担当のアルムニア(Joaquin Almunia)副委
員長(当時)が「Gazprom の違反事実を指摘する異議告知書(Statement of Objection)を準備する
段階に入った」と言明した。これは、バルト3国やポーランドに対する支配的な地域を利用して不
公正な価格を設定したり、ガスの自由な流通を妨げたりしたとの疑いによるものである。違反が正
式に認定されると、EC は年間売上高の最大 10%を制裁金として科すことができる。ガスプロムの
場合、最大約 150 億ドルになると見込まれた 3。2009 年には米インテルに対して競争法違反で 10.6
億ユーロ(1,380 億円)の支払い命令をした例がある 4。
そして、2015 年 4 月 22 日、独占禁止法違反を是正する手続きの第一段階となる「意義告知書」
1
日経,2016/10/27(FT, by Rochelle Toplensky & Jack Farchy)
2
共同、2012/9/05
読売、2013/10/06
ビジネスアイ、2013/8/30
3
4
–2–
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
を Gazprom に送付した 5。この 1 週間前の 15 日には Google に対しても独禁法違反の疑いで警告
を出している。和解による解決を探った前任者に比べ、ベステアー委員はより強硬な姿勢であると
言われてきた。
(3) EU の指摘に対する疑問
EU の指摘に対してはいくつかの疑問がある。
まず第 1 点の、市場を分割支配したという件に対しては、そもそも東欧州向けのガスパイプライ
ン網はソ連時代の 1960 年代に、当時の西側とは別個の経済圏であるコメコン諸国に対するエネル
ギー供給の必要性から整備されたものである。1967 年には、ウクライナの Ushgorod を起点にチ
ェコ=スロバキアまでガスを供給する総延長 670km の「兄弟(Brotherhood)
」パイプラインが建
設され、翌年には当時の西側にあたるオーストリアの Baumgarten まで延長された。同年ハンガ
リー向け支線が完成し、1972 年には東ドイツ、ブルガリアへのガス供給が開始された。
受ける側のコメコン諸国も、当然自ら自国のパイプラインを建設せねばならなかったのであり、
EC の指摘自体が歴史的経緯を無視した荒唐無稽なものと言わざるを得ない。更に、このような 50
年近く前から建設されている輸送インフラストラクチャーに対して、2009 年に制定された EU 競
争法を遡及適用するということで、EC の姿勢がまず疑われると言わざるを得ない。
このパイプライン網は更に西側にまで延長された。1969 年に、当時西ドイツで成立した社民党
のBrandt 政権がソ連と、
西ドイツ製大口径管及びコンプレッサーとソ連の天然ガスを交換する
「レ
シプローカル協定」で合意し、これに基づき 1973 年に西シベリアから西ドイツまでの Transgas
パイプラインが建設された(図1)
。その後、イタリア、フランスなどと順次契約が進み、欧州向
けパイプラインが拡充した。これも欧州諸国との合意のもとに進められた事業であって、市場を分
割支配する意図が介入する余地がそもそもない。
加盟国への自由なガス供給を阻害したかという点に関しては、2006 年のウクライナ問題でウク
ライナへのガス輸出が停止された際に、シェルは「ロシアのガスは 40 年近く、全く問題なく欧州
に供給された」という声明を発表している。ウクライナへのガスの供給停止は、価格で合意できず、
供給契約が結ばれなかったからである。
第2のガス輸送網を他企業に利用させず供給源の多様化を阻害した、という嫌疑は恐らく法律家
が机上で思い巡らした類のものであろう。ロシアから欧州市場までの間のパイプライン沿線上に、
5
日経, 2015/4/23
–3–
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Gazprom 以外に輸出できる規模のガス田を操業しているガス生産者は存在しない。供給源の多様
化が実現しなかったのは Gazprom がそれを阻害したからではなく、そもそもの地質的条件がそれ
を許さなかったからであろう。この議論は、産業人の立場からは全くの空論と言える。
図1 ロシアから欧州向けのガス・パイプラインシステム 6(Economist による)
第3の原油価格に連動させた不当に高いガス価格を加盟国に押しつけた疑いというのは、本来の
ガス供給契約におけるガス価格の決定方式が原油価格連動であることを EC 側が無視しているこ
とを示すものである。Gazprom は通常、先行 6 か月ないし 9 か月の原油及び石油製品価格の平均
6
The Economist, 2009/7/16
–4–
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値を織り込んだ formula でガス価格を決定している。2010 年以降は油価が異常な高値を見せ、こ
れに伴いガス価格も高値に張り付いた。現状はその逆で、低い油価を反映して、ロシアからのパイ
プラインガスの価格は、市場で決定される欧州ハブのガス価格よりも低くなっている。2015 年 4
月の異議告知書送付の段階では、既にガス価格は低下していたためこの 3 番目の論点は、
「天然ガ
ス価格が生産・運搬コストに比べて過度に高い」という表現に修正されている 7。しかし、2016
年になって更にロシアからのガス価格が低下し、ハブ価格を下回った。
2016 年 10 月のロシア産のパイプガスの価格は$170/1,000m3($4.8/MMBtu)で、同時期の英
国 NBP(National Balancing Point)のガス価格は$200/1,000m3($5.7/MMBtu)と 18%高くなっ
ている 8。この為、この秋は欧州各国でロシア産ガスの需要が急増している。このような背景が、
EU 競争法による起訴を断念して和解を選択した理由と考えられる。
(4)異議告知書へのロシア側の反論
Gazprom は、自らの website に以下のような、対決姿勢を避けた、極めてローキーな反論を掲
載しており、Gazprom がいかに慎重にこの問題に対していたかが窺われる。
「Gazprom は、欧州委員会の主張には根拠がないと考えている。EC の異議告知書の採択は、独
占禁止法違反の調査の一段階に過ぎず、Gazprom が独占禁止法に違反したということを示唆する
ものではない。Gazprom は全ての国際法、および同社が活動している全ての国の法律を厳守する
方針である。Gazprom グループの EU 市場における活動は、ガス供給価格に関わる原則も含め、
その他のガス生産会社および輸出業者にも適用されている基準を満たすものである。わが社は、調
査の枠組みの中で、EU 法と国際法の両方から生じるわが社の権利および権益が適切に遵守される
ことを望んでいる。また、Gazprom が EU の司法の管轄外で設立された企業であり、ロシア法を
遵守し、公的な利益を実現することを目的とする戦略的国営企業体であることに、特別の注意が払
われることを望んでいる。Gazrpom は、ロシア政府と欧州委員会とが先に合意したように、当該
独占禁止法に関わる調査の問題について、政府間レベルで双方に受け入れ可能な解決策を見つける
ことを望んでいる」9
一方、Sergei Lavrov 外務相のコメントは、当事者でないためか、かなり直截なものである。
「欧州委員会が、第 3 エネルギーパッケージが発効する以前に Gazprom が締結したガス供給契約
7
8
日経, 2015/4/23
Interfax, 2016/10/23
–5–
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に、当該法律を適用しようとする試みは受け入れ難い。Gazprom とパートナー企業との間で現在
有効なガス供給契約は、契約の締結された当時の、欧州連合の法体制に準拠したものである。ロシ
アには、1999 年に EU と締結したパートナーシップ・協力協定がある。当該協定はいまだ有効で
あり、どの国からも解約されていない。同協定は、事業環境を損なう可能性がある行動を控えるこ
とを規定している。またロシアは、一連の EU 加盟国と、事業環境を悪化させることを禁じた二国
間投資保護協定も締結している」10
(5)各国の反応と EU の姿勢の変化の背景にあるもの
今回の決定に対して、ポーランンドとリトアニアは EU の決定を非難した。この理由は、EU が
「不当な」ロシア産ガス価格に対処しておらず、またロシアが課している「Take or Pay」条項に
関する解決策が織り込まれていないとするものである 11。この背景には、ロシアがガスを政治的な
道具としているという両国の考え方がある。但し、特にポーランドはロシアに強く対立しつつも、
ポーランド域内を通過するロシアからのガスパイプラインの通過料を貴重な収入源としている事
情がある。エネルギー政策上の議論を押し立てつつ、自国の収入源確保というもう一つの目的も忍
ばせているが、今回は EU 内部で押し切られた模様である。最早 EU 内でのポーランドの影響力
は大きく後退した言うべきであろう。
この様な状況の変化は、恐らく英国の EU 離脱(Brexit)によってもたらされた。EU 内で最も
強硬にロシアに対峙していたのは英国とポーランドであったが、英国はもはやいない。こうなると
ポーランドの強硬姿勢に付き合う国も限定的となっている状況が窺われる。
2.Nord Stream の供給拡大へ
(1)OPAL パイプラインの活用制限
今回の EU と Gazprom との和解で、最も早く影響の出るのが、OPAL パイプラインである。
Nord Stream のラインが陸揚げされるドイツの Greifswald から南方のチェコの Olbernhau
までの470km に、
容量360 億m3 のパイプラインが2011 年に建設された。
権益はWingasが80%、
E.On Ruhgas が 20%、いずれも独企業である。しかし、EU の第3エネルギー・パッケージの定
めるところにより、この能力の 50%は第3者に解放することが義務付けられており、現状では 180
Gazprom, website, 2015/4/22
Interfax, 2015/4/22
11 日経, 2026/10/20
9
10
–6–
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億 m3 しか輸送できできていない。
この影響で、本来 550 億 m3/年の能力のある Nord Stream は、Greifswald で陸揚げした後、こ
の南方に延びる OPAL と南西方向に延びる NEL パイプラインの輸送量制限のために、2013 年時
点で 230 億 m3 しか輸送できていなかった(図 2 参照)
。
図 2 Nord Stream とそれに接続する OPAL パイプライン(JOGMEC 作成)
Putin 大統領は、Nord Stream も OPAL パイプラインも第3エネルギーパッケージが成立する
前から計画が進められており、この措置は「非文明的」で受け入れられないと批判している。EU
側は OPAL の 50%につき第3者がアクセスできることを提案しているが、
ロシアの Novak エネル
ギー相は、OPAL の未使用の 50%の容量に関して関心を有する第3者がいないことを指摘してい
る。
–7–
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(2)OPAL パイプラインは容量の 80%へ利用拡大へ
OPAL パイプラインの空き容量を活用する議論は、
2013 年から始まっていた。
ロシアと EU は、
第3エネルギーパッケージに基づく Network Code on Capacity Allocation Mechanism(NC
CAM)に則り入札する、というもので、当初は 2013 年の 9 月末に法制化し、2015 年 11 月 1 日か
ら施行する計画であった 12。この法では、能力の 80%に関しては利用の 15 年前から予約可能、10%
が 5 年前から、残り 10%は 1 年前からとなっている。接続ポイントにおける 10%相当の「テクニ
カル量」
(パイプラインのコンプレッサーを稼働させるためのガス)に対しては別途の取扱いで 1
年前に予約可能となる。但し、その後はウクライナ問題により、この議論の殆どが停止状態となっ
ていたようである。
ところが、Vestagar 欧州委員の和解案が示された直後の 2016 年 10 月 28 日、EU 欧州委員会
はドイツ国内におけるOPALパイプラインの年間ガス輸送能力に占めるGazpromのガス輸送量比
率を 80%にまで増やすことを認めた。同委員会はまた、同パイプラインに他のガス供給会社が参
入しやすいような条件を設定したという 13。
これにより、OPAL の通ガス量は 288 億 m3/年となり、Nord Stream の通ガス量も本来の能力
に近いものになると期待される。当然、従来のロシアから西ヨーロッパにガスを輸送する際の経由
地だったウクライナとポーランドにとっては、トランジット料金の徴収による収入が減る可能性が
出てきたことになる。
(3)Nord Stream 2 の動き
Nord Steam は、2005 年に計画が立案され、2011 年 9 月から稼働開始となった。ところが、将
来的な事業拡張を見込んで、
2015年6月19日に、
ほぼ同じバルト海のルートを通るNord Stream-2
の建設に関わる覚書を Gazprom、Shell、ドイツの E.On(後に Uniper に移管)
、およびオースト
リアの OMV が締結した。送ガス能力は Nord Stream と同じ 550 億㎥である。Gazprom は 51%
の権益を保有する。Nord Stream 事業に参加していた Wintershall も、Nord Stream 2 事業に参
加する可能性がある 14。 その後 7 月 15 日に、仏の Engie(前 GdF Suez)が Nord Stream-2 への参
加に際して交渉に入ることになり、
Nord Stream-2 のパートナーは 6 社となる見込みである 15。
(図
12
13
14
15
WGI, 2013/8/14
Interfax, 2016/10/31
IOD, 2015/6/19
IOD, 2015/7/17
–8–
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3)
図3 Nord Stream 2 のルート(同社 website より)
2015 年 7 月 15 日、マロシュ・シェフチョヴィッチ(Maros Sefcovic)EC エネルギー連合担当
副委員長は Nord Stream 2 に関して、欧州のエネルギー安全保障に悪影響があると、EC として初
めて批判した。また、エストニアのウルマス・パエト元外相の率いる欧州議会議員グループが Nord
–9–
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Stream 2 の建設阻止を求める文書を EC に提出した 16。Gazprom はパイプライン敷設に当たって
の環境アセスメントでバルト 3 国と協議の必要があり、重大な問題に直面していると言える。
この時期、東欧首脳が次々と Nord Stream 2 を牽制する発言を行っている。9 月 7 日、ポーラ
ンドのアンジェイ・ドゥダ大統領は、
「このプロジェクトはポーランドの利益を完全に無視してお
り、EU の結束に重大な疑念が生じている」と述べた。これは従来からある通過料収入の減少を危
惧したものであるが、それが EU の結束への疑念となるとは議論の飛躍であろう。ポーランド・ス
ロバキアを訪問中のウクライナのヤツェニュク首相は 9 月 9 日、
「これは反欧州、反ウクライナ的
なプロジェクトであり、ウクライナの年間 20 億ドルのトランジット収入の損失をもたらす容認し
がたい不公平な措置で、欧州委員会が阻止することを期待する」と述べた。これはウクライナの本
音であろう。9 月 10 日、スロバキアのフィツォ首相は「Nord Stream 2 に署名した西欧ガス企業
はヨーロッパ諸国を裏切った。EU 諸国がウクライナ経由のトランジット維持の必要性を述べて来
たが、突然ウクライナ迂回を可能にする Nord Stream 2 が合意された。彼らは我々を馬鹿にして
いる。スロバキアは年間数億ユーロのトランジット料金を失う可能性がある」と非常に分かりやす
い言葉を述べた 17。議論がエネルギー安全保障というよりは「金目」であることが良くわかる発言
である。
次いで、ポーランド、スロバキアを中心とする 9 か国が、Nord Sream 2 に関して、
「EU の有
力な加盟国がエネルギー安全保障より自らの経済的な必要性を優先している」として、パイプライ
ン建設の中止を求める書簡をトゥスク EU 大統領宛てに出し、2015 年 12 月の EU 首脳会議で取
り上げるよう求めている。東欧諸国は Nord Sream 2 の新設で、ロシアの独占企業である Gazprom
に対する欧州の依存が高まると危惧、エネルギー源の多様化や安全保障に関する EU の政策と矛盾
し、他の加盟国とは異なるルールがドイツに適用されることになるとしている。EC のユンケル委
員長は、プロジェクトを政治的な問題として見るべきという東欧諸国の意見を退け、
「プロジェク
トは商業的なものであり EU 内の市場ルールの順守についてのみ調査すべき」と主張した 18。東欧
諸国とユンケル EC 委員長の立場の違いがよくわかる記事である。
ポーランドは一体何を危惧しているのか。エネルギー源の多様化と言っても、アルジェリアのガ
ス生産量は低下を続けているし、ノルウェーも大幅増は見込めない。当面必要なガスを手当てする
16
17
18
Kommersant, 2015/7/26
Kommersant, 2015/9/11
FT, 2015/11/30
– 10 –
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
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に当たって、経済性と実現可能性の観点から欧州企業と Gazprom が Nord Stream 2 計画を立ち
上げたということであろう。ユンケル EC 委員長の発言は極めて常識的なものと言える。
2016 年 8 月 19 日、ウクライナの反独占委員会が Nord Stream-2 構成 6 社に対して同委員会の
同意が前提と警告を発した。これは、ポーランド政府によるポーランドガス市場の競争を阻害する
との警告に続くもので、ウクライナも同様にエネルギー安全保障とは無縁の所で危機意識を深く持
っていることが分かる 19。ただし、EU に加盟していないウクライナが EU 内部の議論に口を挟ん
でくるのはいささか異様な光景といえる。
更に、2016 年 8 月 12 日、Nord Stream 2 の JV を構成する 6 社は、ポーランド当局が Gazprom
の寡占化を招くとして EU の競争法を根拠に同計画に反対を表明したのを受けて、合併通知の撤回
を決めた。これは 2019 年稼働開始を目指す計画の撤回は意味しないが、スイスに登録された Nord
Stream 2 は Gazprom のみが株主となり、
他の 5 社は各々の方式での参画を検討することになる。
当初は Gazprom 50%、他 5 社がそれぞれ 10%を出資する計画であったが、Gazprom が総事業費
$112 億を単独で調達する可能性がある 20。
Nord Stream 2 の側は粛々と事業を進めているようである。2015 年 9 月 24 日、Nord Stream 2
のオペレーターである New European Pipeline の社長に、Nord Steam のオペレーターNord
Stream AG 社長の Matthias Warnig が就任した 21。
事業会社 Nord Stream 2 AG は、2 本のパイプラインのための長さ 2,500km、重量 220 万 t の
高品質鋼パイプの国際テンダーを終結させた。落札者は Europipe GmbH, Mülheim/Germany
(40 %), United Metallurgical Company JSC (OMK), Moscow/Russia (33 %) 及び Chelyabinsk
Pipe-Rolling Plant JSC (Chelpipe), Chelyabinsk/Russia (27 %)。2018 年に予定されるパイプライ
ンの稼働開始に合わせ、パイプの供給は 2016 年から開始予定と言われている 22。
東欧諸国からのクレームはあったものの、
先の EU とGazprom との和解の流れもあることから、
ポーランドからの抵抗はあるものの、今後は事態はスムースに進展すると見られる。欧州へのガス
供給については、Nord Stream 2 も加わることにより、ロシアからのパイプガスが一定の競争力を
持ちながら、拡大してゆくことが予想される。
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IOD, 2016/8/23
IOD, 2016/8/15
IOD, 2015/9/25
Nord Stream-2 Press Release, 2016/3/11
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Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
3.トルコとの関係修復と Turk Stream の復活
(1)South Sream から Turk Stream へのシフト
South Stream 計画は 2007 年 6 月に、Gazprom とイタリアの Eni との間で合意したもので、
ロシアから黒海海底を 900km 敷設してブルガリアで陸揚げし、
更にオーストリアまで 1,300km 敷
設するという計画である。
容量は630 億m3 と大規模なもので、
これとNord Stream 1,2 があれば、
ウクライナ迂回が可能となる。
2013 年 11 月に、EU に加盟していないセルビアで起工式が挙行されたが、その後、これも先の
Nord Stream 2 と同様に EU 側から激しい反発があった。同年 12 月には、EU が South Stream
の政府間合意は「第3エネルギーパッケージ」に違反していると警告し、翌 2014 年 4 月には欧州
議会が South Stream の建設禁止決議まで行っている。これに対して Gazprom 側は、既にライン
パイプは現場に配置済みであり、6 月にはイタリアからパイプレイ・バージが傭船され、工事が始
まろうとしていた。この時、ブルガリア区間の工事入札が EU 官報に掲載されないで行われたこと
から EU 規則に違反の疑いがあるとして、EU から工事の差し止めが要請された。6 月、陸揚げ地
にあたるブルガリアの Oresharsi 首相(当時)が工事差し止め命令を出した。これは、米共和党の
マケイン上院議員がブルガリアを訪問した直後のことである。米国からの圧力は、当然予想される
ところである。
2014 年 12 月 1 日、
トルコのアンカラを訪問したプーチン大統領が South Stream 計画の撤回と
トルコ向け容量 630 億 m3/年(パイプラインは 4 本)の新たなガスパイプライン計画を突如発表
し、
関係者を驚かせた。
パイプラインルートはトルコ西部で陸揚げしてギリシャに至るもので”Turk
Stream”と名付けられた。これは欧州市場を断念した訳ではなく、ギリシャから先のパイプライン
建設は通過各国に委ねるとした。これは、EU との対話継続を断念したかのような措置である。
(図
4)
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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
図4. Turk Stream のルート(JOGMEC 作成)
(2)Turk Stream の頓挫と復活
Turk Stream に関して、Gazprom は 2015 年 6 月にはトルコ側と契約を交わし、2016 年 12 月
には送ガスを開始する目論見で、パイプ・レイ・バージも 6 月には黒海の作業海域に向かっていた
が、交渉は難航し、7 月には Gazprom はパイプ敷設作業に関わる 20 件の作業の入札を中止した。
9 月 23 日、
Putin 大統領はモスクワでのモスクの開所式で Erdogan 大統領と会談し、
Turk Stream
について意見交換したが進展がなかった。11 月 1 日のロシア下院選挙までに政府間合意がなされ
る可能性はないとされた。この難交渉の理由は明かされていない。
2015 年 11 月 24 日、トルコ軍はトルコ南部上空を侵犯していた国籍不明機に対して退去するよ
う警告したが侵犯を続けたので撃墜したと発表した。一方、ロシア国防相は撃墜されたのが同国軍
の Su25 であることを認めたうえで、シリア上空を飛行していたとして領空侵犯を否定した。ロシ
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ア側はトルコに対してこの件で謝罪を要求するとともに、直ちに①トルコ産食料の輸入制限、②ト
ルコへの旅行の制限という措置をとった。そして、Turk Stream に関する議論も棚上げ状態とな
った。これにより、黒海から欧州向けのパイプライン計画に関しては、持ち駒がなくなった感があ
った。
ところが半年以上経過した 2016 年 6 月 27 日、ロシア大統領府は、昨年 11 月にシリアでロシア
軍機が撃墜され、両国関係に亀裂をもたらした事件をめぐり、Erdogan大統領がPutin大統領に対
して謝罪したと発表した。このトルコ側の動きにより、両国の不和が解消される可能性が出てきた。
この数時間前にはトルコとイスラエル両国の首相が、2010 年に起きたイスラエル軍によるトル
コ支援船の襲撃事件を受け、6 年間にわたって冷え込んでいた関係の修復につながる協定の詳細を
公表した(この襲撃事件では、トルコ人活動家 10 人が死亡している)23。
7 月 26 日、Gazprom の Medvedev 副社長は、トルコ側が Turk Stream プロジェクトの再構築
に関心を示し、近くモスクワにワーキンググループを設置することを明らかにした。モスクワを訪
問していた Mehmet Simsek 第一副首相も 4 本平行のパイプラインの内1本(157.5 億 m3/年)に
関して建設する用意があると述べた。これはトルコの国内需要を賄うのに十分で、且つウクライナ
経由でのトルコへの輸入量 140 億 m3/年を置き換えるものである 24。
Turk Stream は当初計画 630
億 m3/年だったのを、Gazrom が昨年 10 月に 315 億 m3/年と半分の容量にしていた 25。
10 月 10 日、Putin 大統領は「世界エネルギー会議」に出席するためにイスタンブールを訪問し、
Erdogan 大統領と Turk Stream の建設に関する政府間協定を締結した。Putin 大統領はトルコ産
農産品の禁輸措置解除を表明し、ガス価格の引き下げでも合意した。このトルコ訪問は昨年 11 月
のトルコ軍によるロシア軍機撃墜事件以降初めてであるが、首脳会談は8月にロシア、9月に中国
でも実現しており、3カ月連続となる 26。
Novak エネルギー相は、Turk Stream のパイプラインの敷設開始は 2017 年になり、同パイプ
ラインの陸上区間と海底区間の両方の建設を 2019 年末までに完了する予定と述べた 27。
23
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27
AFP, 2016/6/28
IOD, 2016/7/27
IOD, 2015/10/08
日経, 2016/10/11
Interfax, 2016/10/12
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(3)トルコの翻意の背景
このトルコ側の突然の翻意の理由は明らかにされていないが、直近での大きな出来事としては、
3 日前の 6 月 24 日の英国の EU 離脱(Brexite)がある。それまで、EU の対露強硬姿勢の背景には、
緊張する英露関係があると見られていた。英国が EU を離脱することになれば、対露強硬路線の筆
頭がいなくなることを意味する。他にも、ポーランドを始めとする旧東欧諸国も反露的姿勢を示し
て来たが、これは英国という後ろ盾があるからものが言えたのであって、英国が抜けた後では殆ど
影響力を発揮することはないと思われた。独仏伊等の EU の主要国は、今後対露融和に舵を切ると
トルコ側が判断した可能性が考えられる。いち早くロシアに対する対決姿勢を取り下げることで、
今後存在感を増すと予想されるロシアに対して、より有利な立場を確保できると判断したものと思
われる。
冒頭に記した EU と Gazprom との和解も、このような流れの延長にある可能性がある。
4.
依然としてある South Stream の動き
2016 年 8 月 5 日、プーチン大統領は、ブルガリアの Boyko Borisov 大統領からの要請で電話会
談に臨んだ。両者はサウス・ストリーム及び Belene 原発の協議再開で合意した。EC 委員長の
Jean-Claude Junker はその前の週、書簡の中で Balkan Gas Hub の概念が検討されており、ロシ
アからのガス供給インフラは EU 規則に完璧に合致すると述べられているという 28。
ブルガリアは事実上、工事開始直前の South Stream にまったをかけた張本人ではあるが、この
時の首相はOresharsi であった。
次の首相であるBoyko には別の考えを持っていた可能性がある。
2015 年 12 月、露土関係の緊張に伴い、South Stream 復活の噂が東欧諸国で流れていた。Boyko
Borisov ブルガリア首相は、前述の東欧諸国による Nord Stream 2 の建設に反対する書簡は署名し
ておらず、South Stream の陸揚げ地である黒海海岸の Varna でのガスハブの創出を支持するとし
た。一方、ロシアのガス関係者は South Stream の復活の計画を否定している 29。11 月 13 日の同
国大統領選では、親露といわれている社会党候補ラデフ全空軍司令官が当選した。これは、South
Stream の今後に影響を与える可能性がある。
ロシア産業界のソースによれば、EU はロシアとトルコの和解に動揺しており、特に Turk
28
IOD, 2016/8/09
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Stream によって欧州にガスが供給されるのは最も望まない所で、ブルガリア経由がまだましとし
ている(これには通過料の関係もあると思われる)
。トルコは TANAP により年間 100 億 m3 を欧
州に供給する計画であるが量的には少なく、より大規模なパイプライン計画が求められていた。妥
協案として、Turk Stream の 157.5 億 m3/年の容量の 1 本目は直接トルコへ、次の 1 本はブルガ
リアへ行くといったものが検討されている。但し、そこから先のパイプラインの建設主体は不明で
ある。
バルカン半島を中心とする欧州南東部は、依然としてガス不足の状態にあり、それでこそ South
Stream 計画が推進された訳であるが、EU が EU 規則を口実にこれを殆ど葬り去った感がある。
地域のエネルギー安全保障とは真逆の政策を推進して来たと言える。Junker 委員長は、この問題
の解決策を探るべく腐心しているようである。
図5 EC による欧州でのガス需要予測(欧州員会、2007)
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IOD, 2015/12/02
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5.まとめ-欧州のガス需要と Gazprom の供給能力
(1)欧州ガス需要の見込み
欧州は、長期的にガス需要が増えて行き、一方で域内のガス生産量は減退する。必然的にガス輸
入量も増えてゆくと考えられている。
EC の 2007 年の予想では、
2005 年値に比べ 20 年後には 16%
増の 6290 億 m3 の需要があるとされた。一方、域内のガス生産量は減退を続けることから、ガス
の輸入量は 20 年で 62%増加すると予測されている(図5)。
IEA の WEO(World Energy Outlook) 2015 による 2025 年、2040 年の欧州でのガス輸入量予測
を表1に示す。2013 年値に比べ、12 年後の 2025 年には 36%増、27 年後の 2040 年は 55%増と
予測されている。
表1 2025 年、2040 年の欧州でのガス輸入量(単位:10 億 m3) (IEA, 2015)
年
OECD 欧州
2013
232
2025
316
2040
360
需要予測には幅は付きものであるが、いずれにせよ今後の欧州で、ガス需要が増加することは衆
目一致しているということである。将来、欧州においてガスの需給逼迫といった事態が起こらない
ようにするためには、ガス輸送インフラの継続的な拡充が欠かせない。
Gazprom への独占疑惑調査、Nord Stream の利用制限、Nord Stream 2 に対する建設の牽制、
South Stream に対する建設禁止決議など、この数年続いているロシア産ガスに対する EU の厳し
い態度は、ガス輸送インフラの整備の遅れを招き、将来的には欧州市場におけるガスの需給逼迫と
いった事態を招きかねない。欧州へのガス供給ソースとしては、ロシア、ノルウェー、アルジェリ
ア、LNG などがあるが、アルジェリアは緩やかな減退傾向にあり増産は望めない。ロシアとノル
ウェーからの輸入拡大を図る必要があるが、EU 内で議論されているロシア依存の低下は、エネル
ギー安全保障の観点からは、むしろ逆効果となるものであろう。
図6は最近 9 年間のロシアのガス生産量とパイプラインによるガス輸出量(全量欧州向け)の推
移である。2009 年の落ち込みはリーマンショックの後遺症、2014、2015 年に生産量、輸出量と
もに若干下がっているのはウクライナへの輸出が殆どなくなったことによる。この部分を除けば、
欧州へのガス輸出が堅調な増加傾向あることが分かる。これが、ここ数年は新規のガス輸送インフ
ラの計画が EU から大きな抵抗に会ってきた。冒頭に記したように、EU と Gazrom の和解が順調
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に進むならば、引き続きロシア産ガスの輸出の傾向が出て来るものと思われる。
図6 ロシアのガス生産量とパイプラインによるガス輸出量(全量欧州向け)の推移
(BP 統計による)
(2)LNG かパイプラインガスか
或は、欧州は LNG 輸入を増やすことで、将来的なガス需要増に容易に対処できるとする見解も
ある。Gazprom からのガス価格が高く、問題になっていたバルト地域では、当時価格的に安かっ
た LNG 導入の動きが盛んになった。
リトアニアでは、国有エネルギー会社傘下の LNG 調達会社リトガスが、能力 40 億 m3 の洋上
受け入れ基地においてノルウェーSatoil から LNG を 2014 年末から購入を開始した。ガスプロム
は対抗上からガス価格を、LNG の輸入を決めた 2014 年 5 月に 2 割引き下げている。但し、現状
は LNG よりパイプガスの方が価格は安くなっている。
ポーランドは、バルト海沿岸のシフィノウイチェで 2015 年にカタールからの LNG 受け入れ基
地の操業を開始した。能力は 50 億 m3 で、国内需要の 1/3 を賄うことになった。
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フィンランドは 2016 年から LNG 輸入を開始し、2017 年までに3つの受け入れ基地が稼働を開始
する。対岸のエストニアとの間にも海底パイプラインを引き、ガスを融通する。ラトビアも 2016
年から LNG の輸入を開始した 30。
しかし、前述の通り、2016 年 10 月の欧州でのロシア産ガス価格は$170/1000m3($4.8/MMBtu)
であり、同時期の欧州 LNG 価格(NBP)$200/100m3($5.7MMBtu)よりも 15%も安くなってい
る。ロシア産ガスの値決めは、先行 6 か月の油価・石油製品平均値連動ガス価格であり、今後若干
の上昇は見込めるが、Gazprom がより安定的な価格政策をとれば、より価格競争力が強まると予
(了)
想される。
30
日経, 2015/5/04
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