第1章 総 説

第1章
第1章
第1節
総
説
総
説
相続税のあらまし
学習のポイント
1
1
相続税とは、どのような租税か。
2
現行相続税の課税方式とは、どのようなものか。
相続税とは
相続税は、死亡した人(被相続人)の財産を相続又は遺贈(贈与をした者の死亡に
より効力を生ずる贈与を含む。以下同じ。)により取得した配偶者や子など(相続人
等)に対して、その取得した財産の価額を基に課される租税である。
2
相続税の持つ機能
財産が親から子等に移るだけなのに、なぜ税金がかかるのか。これにはいろいろな考え方がある
が、相続税の持つ機能として代表的なものは、次のとおりである。
⑴
所得税の補完機能
被相続人が生前において受けた社会及び経済上の要請に基づく税制上の特典、その他による負
担の軽減などにより蓄積した財産を相続開始の時点で清算する、いわば所得税を補完する機能で
ある(注)。
(注)所得の清算としての相続税
年々の所得
年々の消費(消費税を負担)
(所得税を課税)
課税されなかった所得等
非課税所得
免税所得
少額贈与
その他
⑵
財産の蓄積
遺産
相続
(相続税を課税)
遺贈
富の集中抑制機能
相続により相続人等が得た偶然の富の増加に対し、その一部を税として徴収することで、相続
した者としなかった者との間の財産保有状況の均衡を図り、併せて富の過度の集中を抑制する。
3
相続税の課税方式
⑴
相続税の課税方式
相続税の課税方式には、大別して遺産課税方式と遺産取得課税方式の二つの方式がある。
イ
遺産課税方式とは、被相続人の遺産総額に応じて課税する方式である。
-1-
第1章
ロ
総
説
遺産取得課税方式とは、個々の相続人等が取得した遺産額に応じて課税する方式である。
⑵
二つの方式の特徴
イ
遺産課税方式
被相続人の所得税を補完する意義があり、作為的な遺産分割による租税の回避を防止しやすく、
また、遺産分割のいかんに関係なく遺産の総額によって相続税の税額が定まるため、税務の執行
が容易である。
ロ
遺産取得課税方式
個々の相続人等が相続した財産の価額に応じて、それぞれ超過累進税率が適用されるため、富
の集中化の抑制に大きく貢献し、また、同一の被相続人から財産を取得した者間の取得財産額に
応じた税負担の公平が期待できる。
《相続税の課税方法としての遺産課税方式と遺産取得課税方式の概念図》
〈遺産課税方式〉
〈遺産取得課税方式〉
国
納付
相
相
続
財
産
続
税
相
続
財
産
遺言執行又は遺産分割
遺言執行又は遺産分割
相続人A
相続人A
相続人B
相続人C
相続税
相続人
B
相続税
相続人
C
相続税
納付
国
⑶
現行の課税方式
我が国の相続税の課税方式は、明治38年の相続税法創設以来、遺産課税方式とされ
ていたが、昭和25年に遺産取得課税方式に改められ、昭和33年には税額の計算に当た
り遺産課税方式の要素が一部取り入れられ現在に至っている。
遺産取得課税方式には、各遺産取得者間の取得財産額に応じた税負担の公平を図りやすいという
長所がある反面、仮装の遺産分割によって相続税の回避が図られやすいという難点があった。そこ
-2-
第1章
総
説
で、昭和33年の改正では、遺産取得課税の建前を維持しつつ、各相続人等が相続等により取得した
財産の合計を一旦法定相続分で分割したものと仮定して相続税の総額を算出し、それを実際の遺産
の取得額に応じてあん分するという計算の仕組み(法定相続分課税方式)が導入された。
現行の課税方式による税額の計算手順については、第3章第2節(13ページ)で説明する。
第2節
贈与税のあらまし
学習のポイント
贈与税とは、どのような租税か。
1
贈与税とは
贈与税は、個人からの贈与により財産を取得した者に対して、その取得財産の価額
を基に課される租税である。
2
贈与税の持つ機能
相続又は遺贈により財産を取得した場合には相続税が課税されるが、もし、被相続人が生前、相続
人となるべき配偶者や子供などに財産を贈与してしまったとしたら、相続税が課税されなかったり、
課税されるとしても少ない負担で済んでしまい、生前に贈与することにより財産を分散した場合とし
なかった場合とでは、同額程度の財産を取得した者の間で税負担に著しい不公平が生じることになる。
そこで、生前の贈与による取得財産には贈与税を課税することとし、贈与税は相続税に比べて、課
税最低限は低く、税率の累進度合は高く規定されている。このように、贈与税は相続税を補完する機
能を有し(相続税の補完税と位置付けられ)ていることから、相続税と贈与税は、全く別個の税目で
あるにもかかわらず、双方とも相続税法に規定されている。
この贈与税の性格を踏まえ、被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者については、相
続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算する制
度(相法19)が設けられている。また、平成15年度の税制改正により、相続税と贈与税を一体化す
る仕組みを持つ相続時精算課税制度(相法21の9~18)が設けられている。
〔相続税と贈与税の比較〕
基礎控除額
相続税
贈与税
(注)
税
3,000万円
最低
+(600万円×法定相続人の数)
受贈者1人につき1年間
率
最高
1,000万円以下(10%)
110万円
最低
200万円以下(10%)
6億円超(55%)
最高
3,000万円超
(55%)
贈与税について、相続時精算課税の適用を受ける場合には、基礎控除額に代え、特別控除
額(最大2,500万円)を控除する。
-3-
第1章
総
説
〔相続税と贈与税の関係イメージ〕
生
前
贈
与
が
な
い
場
合
生
前
贈
与
が
あ
る
場
合
相続税法
相続財産
相続税に関する規定
相続税(相続時)
相続税法
相続財産
贈与財産
(生前贈与)
3
相続税に関する規定
定
相続税(相続時)
贈与税に関する規定
定
贈与税(贈与時)
補完
贈与税の課税方式
贈与税の課税方式は、その持つ機能が相続税の補完機能であることから、相続税の課
税方式に準じて決まる。大別すると、贈与をした人(贈与者)に課税する方式と贈与を
受けた人(受贈者)に課税する方式とがあるが、わが国の現在の相続税の課税方式は遺
産取得課税方式を採用していることから、贈与税の課税方式は受贈者課税方式が採用さ
れている。
第3節
財産の無償取得と課税
学習のポイント
財産を無償で取得した場合には、どのような課税関係が生じるか。
1
個人の無償取得財産に対する課税関係
個人が財産を無償で取得した場合には、その財産の増加によって所得が生じていると捉えて所得税
の課税原因となると考えられるが、相続、遺贈又は個人からの贈与による取得財産には相続税又は贈
与税が課税されるため、重ねて所得税を課税しないこととされている。
また、贈与税は相続税の補完税であることから、相続や遺贈という概念のない法人からの贈与には
贈与税を課税する必要がなく、所得税のみが課税される。
このようなことから、次のとおりとなっている。
⑴
個人が個人から財産を無償で取得した場合には、相続税又は贈与税が課税され、所得税は課税さ
れない(所法9①十六)。
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第1章
⑵
総
説
個人が法人から財産を無償で取得した場合には、その個人の一時所得等として所得税が課税され
る(所法34①、所基通34-1⑸)。
2
法人の無償取得財産に対する課税関係
一般の営利法人が、個人や法人から財産を無償で取得した場合には、法人税が課税される(法法22
②)が、公共法人や公益法人等に係る非収益事業の場合には、法人税は課税されない(ただし、①代
表者又は管理者の定めのある人格のない社団又は財団が個人から財産の遺贈又は贈与を受けた場合、
②持分の定めのない法人が個人からの財産の遺贈又は贈与を受けた場合で、かつ、その個人の親族な
どの相続税や贈与税の負担が不当に減少する結果と認められるときは、その人格のない社団又は財団
や持分の定めのない法人を個人とみなして相続税や贈与税が課税される。)(相法66①、④)。
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