法学部140回連続講演 2016年11月18日 監督義務者責任の意義と機能 ―最近の最高裁判決を素材として― 法科大学院准教授 大澤逸平 民法 714 条は、未成年の責任無能力者及び精神障害による責任無能力者の行為によって 損害が生じた場合に、当該責任無能力者の監督義務者に損害賠償責任を負わせたもので す。同条 1 項は監督義務者の過失がなかった場合に監督義務者が責任を免れるものとして おり、これは、 (しばしば民法の基本原則とも位置づけられる)「過失責任の原則」に基づ く帰結であるとされてきました。 もっとも、このような法文上の体裁に反して、未成年の責任無能力者に関する親権者 の責任に関する限り、従来の裁判例及び学説は、免責の余地を事実上ほとんど認めてきま せんでした。このような状況は、親は子の不法行為について「当然に」責任を負うことと なっている、との評価があてはまっていたといえるでしょう。しかし、近時の最高裁判決 が親権者の免責を正面から認めたことで、このような法状況には大きな変化が生じつつあ ります。 このような変化は、一見すると、本来の過失責任原則に回帰した、好ましい判決のよ うにも見えますが、他方で、このような変化によって万事が解決するわけではなく、むし ろこのような解決を採用することで犠牲にならざるをえない利益(価値)もあります。 本講演では、監督義務者の責任のうち、とりわけ親権者の責任に焦点を当て、従来の 法状況と前記判決によって生じる変化を検討しようと思います。その上で、このような法 状況の変化がいかなる意味を有するのか、ひいては、民法が「不法行為責任」として監督 義務者の損害賠償責任をもうけていることがいかなる意味を有することなのか、考える機 会になればと願っています。
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