<記者用説明文> 深い引っ掻き傷もすぐ直る自動車用の新しい塗装材料 (株)豊田中央研究所 学会発表番号 熊野尚美、森寛爾 1PC39 <研究成果のポイント> ●自動車塗装に適する硬さと従来型自己修復塗膜(柔軟)を越える傷回復 性を両立 ●柔らかい分子構造と硬い分子構造を化学的に組み合わせることによ り、短時間で元の状態に戻る特異な弾性挙動を発見 <研究成果の概要> これまでの「自己修復塗装」は材料を柔らかくすることで傷から回復し 易くしていたため、硬さとは両立できなかった。我々は、柔らかい分子 構造と硬い分子構造を化学的に組み合わせることで、硬さと柔軟性を兼 図1 針で塗膜を引掻いて残るスクラッチ 傷の違い(15 分後) ね備えた新しい塗装材料の開発に成功し、自動車の塗装に適した硬さを 持ち、さらに、深い引掻き傷から速やかに回復できることがわかった (図 1)。この材料は自動車用途だけではなく、透明・高光沢が求められる スマートフォン・PC、家電製品など、様々な用途での応用も期待できる。 <研究成果解説文> 深い引っ掻き傷もすぐ直る自動車用の新しい塗装材料 第 25 回ポリマー材料フォーラム 予稿集 P98 著者名: 熊野尚美 1*、森寛爾 1、加藤誠 1 著者所属 1. 株式会社 豊田中央研究所 * E-mail: [email protected] これまでの「自己修復塗装」は柔軟性を増すことによ さと従来型自己修復塗装を越える傷回復性を両立した。 って、破れのないスクラッチ傷がゴムのように早く回復 する原理を用いており、硬さとの両立はできていなかっ た。シロキサン結合でできた主鎖をイソシアネートで架 橋した塗膜(Si-film)は、大変形しても短時間で元に戻る 特異な弾性挙動を示すことを見出した。弾性率が Si-film と同じである従来型耐傷塗膜とスクラッチ傷の回復挙動 を比較した結果、Si-film は、瞬時にスクラッチ傷が回復 する弾性回復率が 1.3 倍高く、経時での回復も 2 倍速か った。このため、15min 後にはスクラッチ傷の残存深さ が約 1/5 になり、スクラッチ傷はほとんど見えなくなっ た(図 1)。これは、主鎖が Si-O 結合と C-C 結合の場合の 分子運動性の違いが、粘弾性に影響しているためと推察 された。今回調製した Si-film は、自動車塗装に適する硬 図1 先の尖った圧子で塗膜を引掻いてできる圧痕 の違い(15 分後)
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