水素社会に向けた 街のエネルギーシステム

講演ダイジェスト
第342回 技術サロン
水素社会に向けた
街のエネルギーシステム
東京ガスエネルギー企画部部長
荒 正仁
エネルギーの有効活用や効率の向上のため水素が注
ます。
目を集めています。東京ガスはかつて水素と一酸化炭
水素は扱いやすいといえますが,自然界には水素の
素などが化合された都市ガスをつくっていました。昭
ままでは存在しません。さまざまなエネルギー源から
和63年に全面的に天然ガスに移行しました。このよう
の製造・改質方法がありますが,変換効率は技術開発
に水素は決して新しいエネルギーではありません。
が進んでも8割程度です。さらに水素を利用する段階
燃料電池車
「ミライ」や家庭用燃料電池「エネファーム」
では電気と熱を効率よく作る燃料電池コジェネはエ
で使われている薄膜技術を使った燃料電池,またセラ
ネルギーを有効活用できます。最も小さな形がエネ
ミックスを利用した大型燃料電池などには日本の強い
ファームです。今後に向け業務用燃料電池の実用化検
技術要素が入っています。国は燃料電池で世界を席巻
証を行っているところです。なお,下水処理場からの
したいと考えていると思います。水素を低温液化させ
消化ガスを精製して都市ガス13Aにするため,東京ガ
て運ぶための魔法瓶型のタンカーを造る技術も日本は
スでは横浜市環境創造局と膜分離方式による消化ガス
長けています。タンカーから水素を降ろし,気化させ
精製を研究しています。
て近くに設置された発電所で使うのが化石燃料削減に
私たちがめざしているのは,CO2の排出が削減され
は最も近道でしょう。経産省の資料でもミライ223万
る社会です。その手段の一つとして有望な水素を活用
台が使う水素と100万キロワットの発電所が使う水素
するため,都市ガス業界では家庭用燃料電池の普及に
はほぼ同じですから,CO2排出削減の面からも,発電
取り組み,今年度中には全国で延べ15万台を達成する
所での水素利用が進むと思います。今後,CO2の排出
見通しです。これからは少しスケールアップして,水
クレジット高騰も現実となるかもしれませんし,ミラ
素ステーションの建設やコジェネなど,街の中の電源・
イやエネファームなども普及拡大を図り,水素社会で
熱源として分散型エネルギーシステムの普及拡大を図
のキーデバイスである燃料電池の価格を下げていくこ
るよう努力していく考えです。
とも重要です。
東京ガスが考える水素社会の姿
(2030年~)
経産省資料にもあるようにCO2フリーの水素は2040
年頃には普通に使えるようになり,湾岸エリアなどで
は部分的に水素への転換を図った町ができるでしょ
う。水素が届いていない街では化石燃料の中ではもっ
CO2フリー水素は2040年~
燃料電池自動車
水素タンカー
純水素燃料電池
太陽光
(電気・熱)
移動電源車としての活用が求められています。非常時
でも現場で天然ガスから水素を製造するオンサイト型
ステーションでは水素供給が可能ですし,燃料電池を
積んだバス等は避難所等ので電力供給を期待されてい
バイオマス
発電
風力発電
ガス
コージェネ
燃料電池
(家庭用・業務用)
LNGタンカー
もうひとつ,非常時対応として,燃料電池自動車は
運輸部門でのエネルギー多様化
再生可能・未利用エネルギーの普及拡大
臨海部
(LNG基地)
ともCO2排出が少ない天然ガスの活用も進んでいくも
ののと思います。
水素ステーション
ローカル水素
ネットワーク
発電所
臨海部
(水素基地)
天然ガス
水素
ステーション
分散型エネルギー
システムの
普及拡大
エネルギーセキュリティの向上
燃料電池
自動車
天然ガス
スタンド
天然ガス
自動車
省エネ・低炭素エネルギー・マネジメント
系統電力の負荷軽減
+省エネ・低炭素化
ガス
空調
天然ガスライン
水素ライン
電力ライン
災害時等における
重点施設・周辺地域
への電力・熱の供給
ガス
コージェネ
ガス
コージェネ
熱供給ネットワーク
による熱の面的融通
熱融通ライン
出典:日本ガス協会「都市ガス業界が考える水素エネルギー社会の姿について」
図 東京ガスが考える水素社会の姿
下水道機構情報 Vol.10 No.22 ——
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