第7章 納税の緩和制度

第7章 納税の緩和制度
第7章
納税の緩和制度
第1節
換価の猶予
差押えに係る国税が納付されない場合には、差押財産を換価(公売)してその売却代金
を滞納国税に充てることとなるが、納税者の負担の軽減を図るとともに、早期かつ的確な
納税の履行を確保する観点から、滞納者に一定の事由がある場合には、差押財産の換価を
猶予し、滞納者の事業を継続させ又は生活を維持させながら、滞納国税を分割納付などで
円滑に徴収しようとする制度がある。これを換価の猶予という。
学習のポイント
1
1
換価の猶予の要件は何か
2
換価の猶予の期間はどのくらい認められるのか
3
換価の猶予をする場合にはどのような手続が必要か
4
換価の猶予の効果とはどのようなものか
換価の猶予の要件
⑴
税務署長の職権による場合
滞納者が次のいずれかに該当すると認められる場合において、その者が納税につい
て誠実な意思を有していると認められるときは、その納付すべき国税について滞納処
分による財産の換価を猶予することができる(徴151①)。
イ
財産の換価を直ちにすることにより、その事業の継続又は生活の維持を困難にす
るおそれがあるとき
ロ
財産の換価を猶予することが、直ちに換価することに比べて、滞納国税及び最近
において納付すべきこととなる国税の徴収上有利であるとき
⑵
滞納者からの申請による場合
滞納者が次のいずれの要件にも該当すると認められる場合において、その者が納税
について誠実な意思を有していると認められるときは、その国税の納期限から6月以
内にされたその者の申請に基づき、1年以内の期間を限り、その納付すべき国税につ
いて滞納処分による財産の換価を猶予することができる(徴151の2①②)
。
①
国税を一時に納付することによりその事業の継続またはその生活の維持を困難
にするおそれがあること
②
申請以外の国税の滞納がないこと
【参考法令・通達番号】
基通151-2~-5、151の2-2~-4、-9
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第7章 納税の緩和制度
2
換価の猶予の期間
猶予期間は、その猶予した金額を納付することができると認められる最短の期間であ
るが、その期間は1年を超えることはできない(徴151①ただし書、徴151の2①)。
なお、猶予期間内に猶予金額を納付できないやむを得ない理由があると認められると
きは、その期間を延長することができるが、その期間は、既に換価の猶予をした期間と
合わせて2年を超えることはできない(徴152③④、通46⑦)。
【参考法令・通達番号】
基通151-5-2、151の2-7
3
換価の猶予の手続
⑴
税務署長の職権による場合
税務署長は、換価の猶予をする場合において、必要があると認めるときは、滞納者
に対し、①財産目録、②収支の明細書、③担保の提供に関する書類、④猶予に係る金
額を分割して納付させるために必要となる書類(分割納付計画書)の提出を求めるこ
とができる(徴151②、徴令53①)。
⑵
滞納者からの申請による場合
換価の猶予の申請をしようとする者は、①国税を一時に納付することにより事業の
継続又は生活の維持が困難となる事情の詳細、②納付すべき国税の金額等、③納付を
困難とする金額、④猶予を受けようとする期間、⑤猶予に係る金額を分割して納付す
る場合の納付計画、⑥担保に関し参考となる事項(担保を提供することができない特
別の事情)を記載した申請書に、財産目録、収支の明細書、担保の提供に関する書類
等を添付して、税務署長に提出しなければならない(徴151の2③、徴令53①②)
。
⑶
猶予する金額
換価の猶予をした場合においては、滞納者の財産の状況その他の事情からみて、そ
の猶予をする期間内の各月に納付させる金額が、それぞれの月において合理的かつ妥
当なものとなるようにしなければならない(徴152①)。
⑷
滞納者への通知
換価の猶予をしたとき及び猶予期間を延長したときは、その旨を滞納者に通知しなければならな
い。また、猶予申請に係る事項を認めないときも、その旨を滞納者に通知しなければならない(徴
152③④、通47)。
【参考法令・通達番号】
基通152-6、-7
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4
換価の猶予の効果
⑴
換価の制限
換価の猶予の期間中は、差押財産の換価ができない。しかし、差押財産から生ずる天然果実につ
いては換価することができ、また、差押債権等は取り立てることができる(徴152、通48③④)。
(注)
換価の猶予は、差押えを制限するものではない。したがって、猶予期間中であっても、猶
予に係る国税について、新たな差押えができる他、交付要求又は参加差押えを行うことがで
きる。
⑵
差押えの猶予又は解除
換価の猶予を行う場合において、税務署長が、差押えにより滞納者の事業の継続又は生活の維持
を困難にするおそれがあると認めるときは、財産の差押えを猶予し、又は解除することができる(徴
152②)。
⑶
時効の停止
換価の猶予をした場合には、その猶予期間中は徴収権の消滅時効は進行しない(通73④)。
⑷
延滞税の免除
換価の猶予をした場合には、猶予に係る国税につき、その納期限の翌日から2月を経過する日(延
滞税の利率が年14.6%となる日)以後の猶予期間に対応する延滞税の2分の1を免除する(通63①)。
なお、免除額の算出に当たっては、租税特別措置法第94条第2項の適用に留意する。
【参考法令・通達番号】
基通151-9~-12、152-8
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第2節
滞納処分の停止
滞納者について、滞納処分を執行することができる財産がない場合など、一定の要件に
該当するときは、滞納処分の停止をすることができる。
学習のポイント
1
滞納処分の停止の意義
2
滞納処分の停止の要件は何か
3
滞納処分の停止はどのようにして行うのか
4
滞納処分の停止にはどのような効果があるか
1
滞納処分の停止の意義
滞納者が資力を喪失するなどの一定の事実が生じ、滞納処分を執行すればその生活を
著しく窮迫させるなど、滞納処分を執行するのが不適当、又は滞納処分の執行ができな
い場合には、税務署長は、職権で滞納処分の執行を停止することができる(徴153①)。
2
滞納処分の停止の要件
滞納者が次のいずれかに該当する場合には、滞納処分の停止をすることができる(徴
153①)
。
①
滞納処分の執行及び租税条約等に基づく徴収共助等により相手国等が徴収(以下、
「滞納処分の執行等」という。
)をすることができる財産がないとき。
財産があっても、国税に優先する質権等があるために国税に充てるべき金額がない
場合を含む。
②
滞納処分の執行等をすることによって、滞納者の生活を著しく窮迫させるおそれが
あるとき。
「生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」とは、滞納処分を執行することによ
り、生活保護法の適用を受けなければ生活を維持できないと認められる程度の状態に
なるおそれがある場合をいう。
③
滞納者の所在及び滞納処分の執行等をすることができる財産がともに不明である
とき。
【参考法令・通達番号】
基通153-2~-4
3
滞納処分の停止の手続
滞納処分の停止は、滞納者の申請によらないで税務署長の職権で行い、滞納者に停止した旨の通知
をしなければならない(徴153②)。
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第7章 納税の緩和制度
【参考法令・通達番号】
基通153-5、-9
4
滞納処分の停止の効果
⑴
差押えの解除
滞納処分の停止をした場合において、差し押さえている財産があるときは、その差押えを解除し
なければならない(徴153③)。
⑵
納税義務の消滅
滞納処分の停止をした国税の納税義務は、その停止が3年間継続したときに消滅す
る(徴153④)。
⑶
延滞税の免除
滞納処分の停止をした場合には、その停止をした国税につき、その停止期間に対応する部分の延
滞税が免除される(通63①)。
【参考法令・通達番号】
基通153-10、-14、-15
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