マイコースプログラム報告書 0601-25-9510 熊谷

マイコースプログラム報告書 0601-25-9510熊谷陽介 1.研修準備等でお世話になった研究室等
京都大学医学研究科外科学講座(肝胆膵・移植外科分野)教授 上本伸二先生
京都大学医学研究科遺伝医学講座放射線遺伝学教授 武田俊一先生 2.研修先 米国Massachusetts General Hospital Nabeel Bardeesy Lab 3.期間 8/24-10/14 4.内容 マイコースプログラム期間を利用して、米国Massachusetts General Hospital にて研修
を行いました。 研修先は昨年の 11 月に卓球部の大先輩であり、Massachusetts General Hospital で勤務
していらっしゃる三野先生に紹介して頂きました。このような世界でもトップレベルの研
究機関に留学する機会はめったにないと思い、ありがたく行かせていただきました。 私は1、2回生の時にウイルス研、免疫の研究室にお世話になっており、基本的な実験手
技は教えていただいていましたが、実験にたいしてあまり熱心ではなく、自分でテーマを
決めて一連の実験をした経験はありませんでした。そこで、武田先生に紹介していただい
た肝胆膵の上本先生にお願いして、上本先生の研究室で今回の留学において必要な基本的
な実験手技のご指導をいただきました。
私が米国で所属していたが行っているのは膵臓がんの carcinogenesis 関する研究です。私
が面倒を見て頂いたポスドクの加藤先生(MD・PhD)、KrushnaPatra さん(PhD)はそのなかで
も PanIN や膵臓癌が起こる過程と主にその起源となる celloforigin についての研究をな
さっていました。 膵臓には大きく分けて acinarcell と ducutalcell が存在し、PanIN や PDA といった病変
は異常な ductal-likecell によって構成される。しかし、その起源を ductalcell とする
のは早計で、それらの発祥の段階で腺房-導管異形成(acinar-to-ductal-metaplasia,ADM)
により acinarcell から発生するという考え方が一般的だ。それらを調べるために LKB1 や
Kras といった発がんに関係する遺伝子に変異を加え、ductalcell に発現する sox9 と
acinarcell に発現する Ptf1/p48 などを利用し、Cre/loxPsystem や Tet-onsystem、
CreERsystem といった遺伝子改変システムを用いてある条件下で部位特異的に変異をくわ
えて、その結果どのような病変ができるかを調べるのが基本だ。
そのため具体的にはヘテロ変異をもつマウスを交配させて目的の変異をもったマウスを作
成することから始まる。というのもホモ変異の場合は子供ができないなどの問題があるた
めである。また発がんに関与する遺伝子だけでなく、レポーターとなるものも組み込むた
め 3、4 つの遺伝子を組み込むこともある。その場合、単純計算で目的のマウスは 10 匹に
1 匹ほどしか生まれず、コントロールなどのために同時に複数必要なので、常に大量のマ
ウスゲージを管理しなければならない。それらの遺伝子が導入されているか調べるための
tailcut からの PCR による Genotyping、また目的マウスに対しては遺伝子の発現や欠損を
起こさせるために tamoxifen や doxicyclin の注射をするなどの途方もないほどのマウスワ
ークが基本となる。さらに時間がたつとどのような病変ができているかマウスを解剖し、
免疫染色や cellline の確立などの作業になる。cellline ができると drug に対する反応
性や増殖スピードなどの性質を調べるために drug を加えたり、virus に感染させたり、最
終的には Westernblot や metabolite の分析などを行う。また、この研究室ではより良い
研究のために細胞培養技術として従来の 2D のほかに 3Dorganoid という最先端の技術の確
立を目指していた。3Dorganoid というのは簡単に言うと特殊なゲルを使って三次元的に
培養することにより、より生体に近づけるだけでなく、drug に対する反応性をより正確に
判断できる。というのも 2D 培養では致死的な drug を加えるとすべての細胞が死滅するが、
実際には細胞塊の内側では死まで至らず最終的には耐性を獲得することもあるのでよりよ
い評価が行える。また、3D のほうが増殖スピードが速い。このように 3Dorganoid のメリ
ットは多いが、その技術はまだ十分に確立されておらず、普及もあまりしていない。
6 週間で新しいマウスを作成し、病変を作り、cellline の作成などというのは時間的に
無理なため、それぞれの段階を別々のもので行い一連の実験の流れを教えていただいた。
最終的には sox9KrasLKB1 の遺伝子変異を持ち、PanIN を形成したものから自分の cell
line(Yo-1)を作成しました。
実験のほかにも多くのミーティングに出席したり、リトリートの発表会に参加するなどし
て知識と英語力が少なからずつきました。
またチャリティランなどのスポーツイベントにも参加しました。
5.感想 今回の研修では実験手技や英語力はもちろんいろいろと得るものがあり、大きく成長でき
たと思います。アメリカの研究者のライフスタイルや研究室のシステムも分かったほか、
将来自分の研究室を持つであろう優秀な PI の人たちとつながりができたこと、少しながら
もコミュニケーション能力が向上したことなど大きな意義があったと思います。将来、ア
メリカでもう一度研究したいと思いました。 最後になりましたが今回MGH を紹介して下さった三野先生、研究室に受け入れてくださっ
た上本先生、実験手技のご指導私をしてくださった西尾先生をはじめとした院生の先生方、
指導教官としてさまざまなお世話をしてくださった武田先生、受け入れて下さった Nabeel、
向こうでいろいろなことを教えてくださったラボのメンバー、関わった全ての方々に深く
感謝の意を申し上げたいと思います。本当に有難うございました。 6.追記(後輩の皆さんへ) さて、とりあえず報告は以上なのですが、来年以降海外で研修を行いたいという方の為に
参考までに今回の研修に関する情報を加えておきたいと思います。 ① MGH について MGH はマサチューセッツ州のボストンという都市にある米国でもトップレベルの大き
な病院であり、研究機関です。優秀な人しか行けないような少し敷居の高い病院です。
そのため、そこに集まる人みんな優秀で、私のラボでは各国トップの大学で学位を取
り研究に来ている人ばかりでした。研究で行くにしてもそれ相応の実績が必要です。
その意味では、三野先生に紹介していただいて留学できたことはとても幸運だったと
思います。将来アメリカで働くとしたら働きたい病院ナンバーワンというところです
が、研究でもそのような感じなので、臨床となるとさらに狭き門でものすごい努力が
必要そうでした。とても人気な病院で高い研修費を払う必要もありますが、留学のキ
ャリアとしては申し分ないので、行ける機会があれば迷わず、行かれたらいいと思い
ます。 ② ラボについて。 私が所属していたBardeesy Lab は、国際色豊かでとても精力的な人が多いラボでし
た。毎日ラボに来ることはもちろん、細胞培養のフードは日中は常に誰かが使ってい
て使えないので、朝か夜に時間をずらさないといけないくらいでした。そのように熱
心な人ばかりなのでいい論文が多く出ています。また、みんなとても親切なのでわか
らないことがあればとても丁寧に教えてくれました。仲もよいので一緒にランニング
したり、ご飯を食べたりしました。フェアウェル飲み会も開いてくれました。
最高のラボメンでした。 ③ 宿舎について。 私は MGH の最寄り駅から Red line で 20 分ほどの Alewife 駅から徒歩 5 分くらいの
ところのシェアハウスに泊まっていました。AirBnB というホストとゲストのマッチン
グサイトで予約しました。ボストンの宿泊費は信じられないほど高いので、うまく安
いところを見つけないと悲惨なことになるのでご注意を。バスルームとキッチンは共
用。家電系は完備でした。ホストが別居しているタイプだったので自由度は高かった
方ですが、その分マナーの悪い人が使うと大変かもしれません。幸い私の滞在中はみ
んないい人ばかりだったので快適でした。
④ フリーの時間について。 基本的にラボは月~金出勤で、帰る時間はまちまちでしたが基本的には暇です。外で
スポーツをしたり、ハーバード大学などに行ったりはしましたが、平日は基本的に宿
舎で過ごしていました。ボストンはアメリカ独立の地で歴史を感じさせるきれいな町
並みで、ただ歩くだけでも楽しい場所なのですが、特にこれといった観光地はありま
せん。暇なときには映画もよく見ました。時間があるならニューヨークやナイアガラ
に旅行に行くのがいいともいます。また、ボストンは学生も多くハンバーガーショッ
プもたくさんあるので、食べ歩くと楽しいと思います。 ⑤ 費用 基本的にはクレジットで払います。50 泊の滞在でしたが、航空券18 万 宿泊費 15
万(これはだいぶ破格でふつうは 30 万くらいかかると思います)、食費8万 研修費
11万 お土産その他雑費 10 万で計 50 万はいかないくらいだと思います。食事は何と
でもなりますが、普段の飲料をジュースか水ばかりというのはお金もかかりひもじく
なるので、麦茶パックでも持っていくと絶大に役に立つと思います。 ラボのメンバーと PancreaticCancerCharity5Krunにて
実験室オリジナル T シャツ起きて走りました。