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術前画像検査でNuck管水腫と診断された大腿ヘルニアの
一例
経過中に内鼠径輪が自然閉鎖したと考えられた女児鼠径ヘル
ニア症例の手術所見
石橋 正久、川村 英伸、小林めぐみ、武田雄一郎、青木 毅一、
畠山 元、杉村 好彦
江角元史郎、河野 淳、永田 公二、伊崎 智子、田口 智章
九州大学大学院医学研究院 小児外科学分野
盛岡赤十字病院 外科
【症例】31歳女性、1か月前からの右鼠径部の膨隆を自覚し当科
受診。診察上は鼠径部に圧痛の伴わない3cm大の柔らかい腫瘤
を認めた。超音波検査では内部低エコーな嚢胞性病変であり、
CTでも同部位に造影効果のなく鼠径管に併走する40×50mm
大の腫瘤を認め、Nuck管水腫の診断となった。
【手術所見】鼠径部切開法で皮下の剥離を行ったところ、鼠径管
を開放する前に嚢胞性腫瘤を認めた。腫瘤と恥骨や外腹斜筋腱
膜などの周囲組織との剥離を進めると、腫瘤は大腿輪から突出
する腹膜と連続しており、大腿ヘルニアおよびヘルニア嚢水腫
の診断となった。大腿輪は5mm程度の開大を認め、腸管の脱出
は認めなかった。鼠径管を開放し横筋筋膜を切開して腹膜前腔
へ到達、ヘルニア門とヘルニア嚢の間を剥離してヘルニア嚢を
腹膜前腔へ還納した。ヘルニア嚢を切離し、腹膜を連続縫合閉
鎖したのちに、McVay法に準じて鼠径靭帯とCooper靭帯を縫
合してヘルニア門を閉鎖し、手術終了した。
【おわりに】術前にNuck管水腫との鑑別が困難であった大腿ヘル
ニアの一例を経験した。若干の文献的考察を加えて報告する。
【はじめに】外鼠径ヘルニアは小児に多く認められるが、経過中
にヘルニアが軽快する症例も存在する。しかし、鼠径ヘルニア
の自然軽快についての研究は非常に少なく、その様式について
の報告も少ない。今回我々はLPECの手術所見より、診療経過
中に内鼠径輪が自然閉鎖した(しつつある)と考えられた女児の
鼠径ヘルニア症例を経験したので報告する。
【症例】症例は日齢27の女児。両鼠径部の膨隆あり、超音波検査
に両側鼠径ヘルニアと診断し、待機的に手術を行う方針とした。
月齢2の再来では卵巣の脱出を認めたが、月齢5、月齢12の再
来でヘルニア症状を認めず、手術は延期した。2歳になり手術希
望で再来されたため、LPECを予定した。術中に鼠径部を観察
すると、左内鼠径輪は腹膜で完全に覆われ、また円靭帯上にス
リット状の小開口を認めた。小開口は腹膜鞘状突起に連続して
いた。また、右内鼠径輪は腹膜によりスリット状に被覆されて
いた。両側内鼠径輪は閉鎖の過程にあると考えられた。
【 考 察 】1985年 梶 本 ら に よ り、 小 児 鼠 径 ヘ ル ニ ア 9498例 中
3346例(35%)が手術無しで軽快したと報告されている。また、
小児鼠径ヘルニア手術の対側検索においては、陽性率が年齢と
ともに減少したとする報告もある。今回我々は、開存していた
内鼠径輪が自然閉鎖しつつあると考えられる鼠径ヘルニア症例
を報告した。小児鼠径ヘルニアの自然軽快について、今後のさ
らなる知見の積み重ねが必要である。
O5-2
O5-4
鼠径部子宮内膜症の1例
右鼠径部痛を主訴に発見されたNuck管水腫の1例
山﨑 泰源、坪井 淳、山﨑 泰弘
福田 純己、川原田 陽、河合 典子、森 大樹、花城 清俊、
佐藤 大介、才川 大介、山本 和幸、鈴木 善法、川田 将也、
北城 秀司、大久保哲之、奥芝 俊一
児島聖康病院 外科
今回我々は、右鼡径部に発生した子宮内膜症を経験したので若
干の文献的考察を加えて報告する。症例は41歳女性、2年前よ
り右鼡径部の腫脹を自覚、平成28年に入り圧痛を伴い周期的
に大きくなるといった症状が加わったためヘルニア外来受診と
なった。触診にて右鼡径部に1.5cm大の腫瘤を触知、超音波・
骨盤部CT・MRI所見および問診にて生理の周期に伴い膨隆およ
び疼痛が増大していることなどより鼠径部に発生した子宮内膜
症を疑い、前方アプローチ法にて手術を施行した。腫瘤は子宮
円索末梢側に存在したため、子宮円索を含めて腫瘤を切除した。
またヘルニアの合併はなかったが、子宮円索を切除したため予
防的に内鼠径輪の縫縮(Marcy法)を施行した。病理組織検査に
て組織内に子宮内膜類似腺管および間質が混在、子宮内膜症と
診断された。本症は外性子宮内膜症のうち約0.4%と比較的稀な
疾患であり診断に難渋することが多いが、充分な病歴の聴取に
より症状と月経周期との関係を把握することが診断のポイント
であると考えられ、治療においては子宮内膜組織の完全切除が
重要とされており、再発のリスクも伴う疾患であるため標準的
な鼠径ヘルニアとは治療法も区別する必要がある。女性の鼠径
部膨隆を主訴に来院される患者を診る際には本症を鑑別診断の
一つにあげ慎重な病歴の聴取を行い、的確な治療法を選択する
必要があると思われた。
国家公務員共済組合連合会 斗南病院 外科
女性において生後も腹膜鞘状突起が閉鎖されずに遺残し、その
末梢に嚢胞を形成し、液体が貯留した状態をNuck管水腫と呼称
する。多くは無痛性の鼠径部腫瘤として経過するが、本症例の
ように強い鼠径部痛を伴って発見された報告は比較的稀である
ため、若干の文献的考察を加え報告する。症例は、36歳女性。
右鼠径部に疼痛と寛解を繰り返す腫瘤を自覚するようになり、
当院を受診した。診察では、右鼠径部に示指頭大、非還納性の
腫瘤を触知し、強い圧痛を伴っていた。CTでは、右鼠径管内に
腹腔との連続性はない25mm大の嚢胞性病変を認め、Nuck管
水腫が第一の鑑別に挙がった。症状改善と診断を兼ねて外科的
切除を行う方針とした。術中所見では、外鼠径輪と恥骨の狭い
間隙から突出する漿液性の内容液を含んだ嚢胞性腫瘤を認めた。
嚢胞を子宮円索と共に剥離し、鼠径管を開放したところ、嚢胞
と交通する管腔構造を確認し、交通性Nuck管水腫と診断した。
内鼠径輪のレベルまで子宮円索を剥離し、高位結紮した後に
Marcy法にて内鼠径輪を縫縮した。病理組織学的検査では、嚢
胞壁は円柱上皮に裏打ちされており、悪性所見や子宮内膜症を
疑う所見は認めず、Nuck管水腫に矛盾しない所見であった。交
通性の水腫が、外鼠径輪と恥骨の狭い間隙から突出していたた
め、水腫が増大した際に嵌頓と類似した状態となり、強い痛み
を生じていたものと考えられた。術後は右鼠径部痛も消失し経
過は順調である。
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