ブラジル経済動向レポート

http://www.ide.go.jp
ブラジル経済動向レポート
(2016 年 11 月):7 期連続でマイナスの第 3 四半期 GDP
地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ
近田亮平
第 3 四半期 GDP: 2016 年第 3 四半期の GDP が 30 日に発表され、前期比▲0.8%、前年同期比
▲2.9%、年初累計比▲4.0%、直近 4 四半期比▲4.4%、時価額が R$1 兆 5,802.04 億であった(グ
ラフ 1)。今回の四半期 GDP は、事前の大方予測とほぼ同じであり、前年同期比などでマイナス
幅が縮小したものの前期比が 7 期連続のマイナスとなり、ブラジル経済は四半期 GDP で史上最
も長いリセッションを記録した。第 3 四半期 GDP でマイナス幅が前期比より拡大したことや投
資の後退が特に大きかったことに加え、同日に決定された政策金利 Selic の引き下げ幅が一部の
予想より小さかったことを受け、景気の回復は予想より遅れるとともに、その足取りは緩やかに
なるとの見方が強まった。その結果、2016 年と 2017 年の GDP 成長率の予測を下方修正する専
門家も見られたが、
政府はそれまでと同じく 2016 年▲3.5%、
2017 年+1%と変更を行わなかった。
グラフ 1
四半期 GDP の推移
(出所)IBGE
(注)GDP の成長率(%)は左軸、時価額(R$)は右軸。
第 3 四半期 GDP の需要面を見ると、雇用状況の悪化から家計支出(前期比▲0.6%、前年同期
比▲3.4%)が 7 期連続で前期比がマイナスを記録した(グラフ 2)。政府支出(同▲0.3%、同▲
http://www.ide.go.jp
Copyright (C) JETRO. All rights reserved.
1
http://www.ide.go.jp
0.8%)は、今年半ばの政権交代により公的支出が抑えられている影響もあり今回はマイナスに転
じた。投資を意味する総固定資本形成(同▲3.1%、同▲8.4%)は特に落ち込みが顕著だったため、
今後の景気回復に対してネガティブな見方が市場関係者の間で強まった。輸出(同▲2.8%、同
+0.2%)は前年同期比で若干のプラスとなったが、輸入(同▲3.1%、同▲6.8%)は大きく落ち込
んだ。
供給面では、各分野で全てマイナス成長となった。農牧業(同▲1.4%、同▲6.0%)では、年間
生産量に関して増加が見込まれるコーヒー(+11.0%)などがある一方、トウモロコシ(▲25.5%)
や綿(▲16.9%)では大幅な減少が予測されていることが影響した。工業(同▲1.3%、同▲2.9%)
では、鉱業(同+3.8%、同▲1.3%)が前期比でプラスになったものの、運輸倉庫通信業(同▲2.6%、
同▲7.4%)、組立製造業(同▲2.1%、同▲3.5%)、建設業(同▲1.7%、同▲4.9%)などが振わ
なかった。サービス業(同▲0.6%、同▲2.2%)も、個人消費の減退が商業(同▲0.5%、同▲4.4%)
に表れ、前期比で 7 期連続のマイナスとなった(グラフ 2 と 3)。
グラフ 2
2016 年第 3 四半期 GDP の受給部門の概要
(出所)IBGE
http://www.ide.go.jp
Copyright (C) JETRO. All rights reserved.
2
http://www.ide.go.jp
グラフ 3
四半期 GDP の受給部門別の推移:前期比
(出所)IBGE
貿易収支:11 月の貿易収支は、輸出額が US$162.20 億(前月比+18.2%、前年同月比+17.5%)、
輸入額が US$114.63 億(同+0.8%、同▲9.1%)であった。この結果、貿易黒字額は US$47.57
億(同+102.8%、同+297.4%)で今年 2 番目に大きい金額を計上した。年初からの累計は、輸出
額が US$1,693.07 億(前年同期比▲2.9%)、輸入額が US$1,260.25 億(同▲21.7%)で、貿易
黒字額は US$432.82 億(同+222.1%)となった。
輸出に関しては、一次産品が US$55.40 億(1 日平均額の前年同月比▲5.5%)、半製品が
US$24.44 億(同+21.3%)、完成品が US$79.01 億(同+41.8%)であった。主要輸出先は、1 位
が中国(香港とマカオを含む)
(US$21.59 億、同▲3.2%)、2 位が米国(US$20.73 億、同+21.8%)、
3 位がシンガポール(US$16.70 億)、4 位がアルゼンチン(US$11.93 億、同+15.0%)、5 位が
オランダ(US$9.91 億)であった。輸出品目に関して、増加率では昨年実績のなかった石油採掘
プラットフォーム(US$19.14 億)と精糖(同+109.2%、US$2.43 億)が 100%を、減少率ではト
ウモロコシ(同▲80.4%、US$1.53 億)と大豆(同▲76.2%、US$1.31 億)が 70%を超える増減
率を記録した。輸出額では(「その他」を除く)、鉄鉱石(US$12.34 億、同+37.0%)、原油(US$11.61
億、同+72.9%)、前述の石油採掘プラットフォームが US$10 億を超える取引額を計上した。
一方の輸入は、資本財が US$12.98 億(1 日平均額の前年同月比▲22.4%)、中間財が US$73.38
億(同+1.2%)、耐久消費財が US$4.29 億(同▲3.8%)、非・半耐久消費財が US$14.46 億(同
+0.1%)、基礎燃料が US$5.18 億(同▲52.8%)、精製燃料が US$4.30 億(同▲37.4%)であっ
た。主要輸入元は、1 位が中国(香港とマカオを含む)(US$20.60 億、同+2.9%)、2 位が米国
http://www.ide.go.jp
Copyright (C) JETRO. All rights reserved.
3
http://www.ide.go.jp
(US$20.12 億、同▲2.6%)、3 位がアルゼンチン(US$8.86 億、同+5.5%)、4 位がドイツ(US$7.53
億)、5 位が韓国(US$3.63 億、同+5.9%)であった。
物価:発表された 10 月の IPCA(広範囲消費者物価指数)は 0.26%(前月比+0.18%p、前年同月
比▲0.56%p)で、前月より上昇したものの今年 2 番目に低く、10 月としては 2000 年(0.14%)
に次ぐ低い数値となった。食料品価格が▲0.05%(同+0.24%p、▲0.82%p)と 2 カ月連続のマイ
ナスを記録し、年初累計は 5.78%(前月同期比▲2.74%p)、直近 12 カ月(年率)は 7.87%(前
月同期比▲0.61%p)となった。
食料品に関して、低脂肪牛乳(9 月▲7.89%→10 月▲10.68%)、フェイジョン豆(carioca:同
▲4.61%→▲8.79%、mulatinho:同▲1.45%→▲4.85%)、タマネギ(同▲3.30%→▲6.48%)、
卵(同▲2.52%→▲4.77%)、青菜(同▲4.42%→▲4.45%)などで価格が下落し、値上がりした
品目でも上昇率は全体的に低かった。非食料品では、前月に続き家財分野(同▲0.23%→▲0.13%)
がマイナスを記録したほか、個人消費分野(同 0.10%→0.01%)、教育分野(同 0.18%→0.02%)、
通信分野(同 0.18%→0.07%)では 0%に近い伸びにとどまった。ただし、エタノールやガソリン
などの燃料費が値上がりした運輸交通分野(同▲0.10%→0.75%)は、前月のマイナスから一転し
て最も上昇率の高い部門となった。
金利:政策金利の Selic(短期金利誘導目標)を決定する Copom(通貨政策委員会)は 30 日、Selic
を 14.00%から 13.75%へ 0.25%p 引き下げることを全会一致で決定した。Selic の引き下げは 2 回
連続で、引き下げ幅の 0.25%p も前回と同様であった。Copom の開催が弱い第 3 四半期の発表後
だったことや、直近の物価(IPCA)が低下傾向にあることから、Selic は 0.50%p 引き下げられ
ると期待する見方も一部にあった。しかし、米国大統領選でのトランプ候補の当選など、今後の
世界経済に関して不確定要素が最近多くなったことなどが考慮され、Selic の引き下げサイクル自
体に変更はないものの、そのペースに慎重な姿勢が反映されたといえる。
為替市場:11 月のドル・レアル為替相場は、月の前半は米国の大統領選の動向に左右される展開
となった。はじめはトランプ候補の当選の可能性が高まると安全な通貨のドルが買われ、可能性
が低下すると高金利でハイリスクな通貨のレアルが買われた。そして投票日、トランプ候補が得
票を伸ばすとともにドル高レアル安が進み、トランプ候補の勝利がほぼ確定した 11 日にドルは
4.29%もの大幅上昇となった。トランプ効果により米国をはじめとする世界経済に対する先行き
不透明感が高まり、ブラジルをはじめとする途上国通貨が売られドルが買われたため、14 日には
US$1=R$3.4446(売値)と約 5 カ月ぶりのドル高水準を記録した。
その後、中央銀行が為替介入を行ったこともあり、急激なドル高に一旦は歯止めがかかった。
しかし、ブラジル国内で汚職疑惑をめぐり文部大臣と内務大臣が続けて辞任に追い込まれ、テメ
ル政権発足後の半年で 6 人の大臣が辞職する事態になるなど、政治的な混乱が深まった。このこ
とを嫌気しレアルを売る動きが強まり、月末はドルが前月末比+6.78%の上昇となる
US$1=R$3.3961(買値)で 11 月の取引を終了した。
http://www.ide.go.jp
Copyright (C) JETRO. All rights reserved.
4
http://www.ide.go.jp
株式市場:11 月のブラジルの株式相場(Bovespa 指数)も為替市場と同様、月の前半は米国の大
統領選の動向に影響を受けて推移した。株価はトランプ・リスクの高まりや原油の国際価格の下
落で値下がりする一方、クリントン候補の当選可能性が高まると値上がりする展開となった。そ
して、米国大統領選の当日にトランプ候補の優勢が伝わると大幅に下落。大統領選の翌日、
Petrobras が第 3 四半期決算を発表したが、純利益の予測に反して過去 3 番目に大きな減益(▲
R$165 億)だったことも売り材料となった。また、トランプ効果による為替でのドル高レアル安
の影響で輸入価格が上昇し物価を押し上げ、このことが政策金利 Selic の引き下げや景気回復に
マイナス要素となるとの見方から、連日 3 %を超えて下落し 11 日に月内最安値となる 59,184p
まで値を下げた。
月の半ば以降、トランプ効果で下落した株を買い戻す動きに加え、政府系金融機関のブラジル
銀行が早期退職募集や支店閉鎖などの事業縮小策を打ち出したこともり、株価は徐々に上昇した。
しかし、発表された雇用統計(8 月から 10 月までの 3 カ月間)で、失業率が過去最高と同率の
11.8%、失業者数が最も多い 1,204 万人となり、年末に向け通常は改善する傾向のある雇用状況
が悪かったことなどが影響し、値を下げる場面も見られた。月末の終値は 61,906p で、前月末比
▲4.65%の下落となった。
http://www.ide.go.jp
Copyright (C) JETRO. All rights reserved.
5