栄養と料理 2016年 ∫ノ月号

栄養と料理 2016年 ∫ノ月号
││の
Dぼ香り
栄養
香 川靖 雄
女子栄養大学副学長 ・
自治医科大学名誉教授
"atch
DL香川監修 の
誌上 セミナァを
糖質制限食 の流行が止まりませ
ん。めんどうなカ ロリー計算が必
要な従来 の減量法と違 い、簡単 で
血糖値もすぐ に低下するので人気
があるのです。書店 に行けば ﹁
ロ
ーカ ーボダ イ エ ット﹂ ﹁
糖 は いら
な い﹂ ﹁
バ ン︶ は食 べ るな ﹂
米 ︵
﹁
炭水化物が人類を滅ぼす﹂など 、
﹁
糖﹂を悪者 にす る書籍がず らり
と並び、糖質制限食 こそが健康的
であると主張して います。
しかし、あまりに極端な糖質制
︲
限には大きな問題があります。今
糖質制限
月から3回にわた って ﹁
を考える﹂と題して、じ っくり解
説して いきまし よう。
―
し
―
糖 質制限食
申製攣│:i猾糖鍼 稚袢f腎町に
行した「ア トキンス・ダイエット」もこの一種。
1轡
│
1続 けると
1腎 :撃
脳はブ ドウ糖がおもなエネルギー源なので……
①血糖値が下がると脳のエネルギー源が足 りなくなる。
②糖尿病治療でインスリンやS∪ 薬を使っている場合、脳へのエネル
ギーが足 りなくなり低血糖発作 を起こして意識を失 うことも。
極端 な糖質制限食 は
が危 な い
一
3回 にわたって
お届 けします
脂肪 とグリコーゲン (ブ ドウ糖 から合成)も エネルギー源だが……
①血糖が足りないので、平常時は脂肪をエネルギー源として使用。
②運動時はグリコーゲンをエネルギー源として使用するが、糖質制
限ではグリコーゲンの蓄えがなく、糖尿病でインスリンやSU薬 を
使用 していると激 しい運動で低血糖発作 を起こすおそれも。
・高脂肪食になるので動脈硬化が進行 しやすい
・エネルギーを確保するために、筋肉のたんぱく質を分解 して血糖
に変える (糖 新生)。 つまり急激に筋肉が減る
・筋肉が落ちると代謝が下がり、太 りやすい体質に
・筋肉よりも消費にエネルギーを使う脂肪は減らず、隠れメタボに
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108
tll.限 良‐
榊篇‐
で.は │
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ー
ン不‐
リ 槙性‐
だ辱
`― ンス リンが作用するためには、細胞中の
体内でイ
インス リン受容体基質であるチロシンとい うアミノ
酸 をリン酸化 する必要がある。
ところが、糖質制限食で脂肪が過剰 になるとセ リ
ンというアミノ酸が リン酸化 して しまい、インス リ
ンが効 かなくなる (イ ンス リン抵抗性が上がる)。
するとインス リンが過剰に分泌 され、過剰分泌 を
補 うために膵臓の β細胞の分裂が増加。やがて β細
胞 が分裂の限界 に達 して老化すると糖尿病 になる :
“
食事 は推 奨 し て いま せ ん。 しかし、
会 や病態栄養学会 でも 、 ゝ
﹂
ヽ
つした
れ るよう になりま した。糖 尿病学
ると い った危 険 があ る こと が知 ら
に脳卒 中 や心筋 梗塞 など で亡く な
0年 以内
を続 け ると、低 血糖 や、 1
管 理な し に こ のよう な極端 な食事
gしか糖質 をとりま せ ん。 医師 の
0∼ 0
端 な糖質 制 限食 では、 1日 2
4
︲
年 には 1日 4
︲ g、 2011年 の統
5 gです0 これ に対 し、極
計 でも 2
5
尿病 がほと んどなか った 19 55
日本人 の炭水化物摂取量 は、糖
す。
く な った ことも原因と考え られま
続 け、必要な カ ロリーが得 られな
を誤 ったゝ
? えに極端 な糖質制 限を
6人 ︶。 これ は、 血 糖管 理
血糖 は 2
7人 にも達 しま した ︵
か月間 に3
7
高
玉県医師会 の最近 の調査 では、 3
血糖発作 によ る救急 搬送者 は、埼
ど が普 及 し て います。 しかし、低
糖 尿病薬 のイ ンク レチ ン関連薬 な
最近 は、低 血糖 を起 こし にく い
す る こと が目標 です。
認知症を 予防 し て健康寿命 を実 現
管疾患 、腎症 、さら には要介護 や
実際 、超低 炭水化物食 の マウ ス
差 であ ること が確 認 されました。
高く 、そ れが心臓血管 疾患 によ る
、
6
同
3 % ︶ でも 高 炭 水 化 物 食 ︵
0
6%︶ に比 べて全 死亡率 が有 意 に
︵
糖 質 の 比 率 が 総 エネ ル ギ ー の
比 較 的 ゆ る やか な低 炭 水 化 物 食
性 4万人を 0年 間、女性 8万人を
2
、
、
6
2年 間 食 事 追 跡 し た 調査 では
も紹介 され るよう になりました。
が る ことも 、最近 は テレビ など で
いると 、脳卒 中 や心筋 梗塞 に つな
事 療法 で糖質 摂取量をイ ンスリ ン
りま せ ん。 たとえ ば、糖 尿病 の食
体 は、まち が って いるわけ ではあ
糖質 をあ る程度制 限す ること自
情報 が行 き わたらな い状況 です。
は巷 にあ ふれ、
一般 の人 に正 し い
にこう した対応をと らな いと、脳
した。意 識 がな い場合 には、早急
の行 なう救 急救命 処置 に加 わりま
静脈注射 と が新 た に救 急救命 士
︵
作 症 例 へのブ ド ウ糖 溶 液 の投 与
改 正 さ れ 、 ﹁血糖 測定 と低 血糖 発
4
︲年 に救急救命 士法施行 規則 が
肪制 限な し の食事 は当然高脂肪食
す。また人体 では糖質制 限食 で脂
では、極度 の動脈硬化 が発生 しま
ハーバード大学 の卒業生 の、男
糖質 制限食 をすす め る雑誌 や書籍
量など に合 わ せ て制 限す るカーボ
障害 や生命 の危険 さえ生 じかねな
●.
αグ ルコシダ ーゼ阻書= ・
小腸で炭水化物を糖類に分解する働
きを阻害して糖質の消化吸収を遅らせ
る薬。その結果、食後 の急激な高血糖
がおさえられる﹁
泌を増加させるが、この働きは血糖値
が低 いときには起こらな い。この機序
を利用した糖尿病薬が、インクレチン
関連薬と呼ばれる。
豚膨のβ細胞に働いてインスリンの分
レ
鋲穐行醤勧
影軒
鰐”
カ ウ ント法 はよ い方法 です。 しか
いから です。
誤 った極端 な糖質 制限を続け て
脳卒中 ・心筋梗塞 に
猿
動脈硬化が
し、 パ ンや米 と い った糖質を ゼ ロ
にし て、血糖 や体重 を減 らす こと
だ け に目を奪 わ れ る のは よく あり
ま せん。糖 尿病 の治療 では、低 血
糖 発作 ややせす ぎ の危険 を防 ぎな
がら、糖 尿病患者 に多 発す る心 血
109
=P
`嬌
―
―
―
―
▼
… … … …
出 ヽ日
… … … … … … …
円
…
… …
・… … … …
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…
…
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…
…
一
゛
一
″ 1ヽ ヽ
…
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…
…
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…
″ ヽ
Ⅲ
… …
…
…
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…
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… … ・… …
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…
ハ
■レ ヽ
ビ
″
:… …
… …
Ⅲ
…… … …
¬
▼
リ″
ヽ
熙…
… …・"
、
… … ・…
……
遺伝子の進化は、ほかにも牧畜による乳糖分解酵素の
発現、貯蔵食のアルコール耐性へのアルデヒド脱水素酵
素の発現、太陽光の弱いヨーロッパでビタミンDを 合成
するためのメラニン減少による白人証牛など、多数の栄
でも起きている。
l―
養学関連遺伝子
=
-1-Jヽ
旧石
糖質制限食の理論的根拠とされるものの一つが “
器食"。 「人類の祖先は旧石器時代までの何百万年もの間、
穀類を摂取 しない低炭水化物食 (〓 糖質制限食)で 過ご
してきた。遺伝子もそれに適応 しているので、米や小麦
は健康 に悪い」 という理屈だ。
しかし、そのころの人類は寿命が短かった。そのうえ、
現代人の遺伝子は高糖質食に適応 して進化 していること
は
V eO―
`―
-1″1万 Tロ
年前 から、小麦、米、
が確認
:υ
HEE‐ されている。現代人
検査 の結果は公表されて いません。
限食を続け て いる患者さんの血管
も ので、残念ながら日本 で糖質制
硬化を起 こす のです。
ただ、これら のデータは海外 の
L︶ コレステロールが増え て動脈
LD
血清 脂質 の いわ ゆ る悪 玉 ︵
が悪化することが示されて います。
績からは、短期間 で血管内皮機能
になりますが、そ の血管検査 の成
度 に減 らす低糖質食 で運動をす る
短 距離 でも、糖質 の体内備蓄を極
とり入 れられます が、長距離 でも
ため に、試合前 に高糖質 の食事 が
スポ ー ツ医学 では成 果を上げ る
のあたり が最低 ライ ンでし ょう 。
う に指導 し て いる医師も おり、 こ
∞ g程度 ︶ の糖質 はと るよ
個分 ︵
をすす め ても、 1食 にお にぎり 1
<
とを公表 し て います。糖質制限食
て いま せ ん。隠 れ メタボ に陥 らな
す。 そし て、糖質制限食 はすす め
いう方法 で骨密度を計測 し て いま
また、正確性 の高 いD EXA法 と
管 障 害 の予防 に配慮 し て いま す 。
加え 、直接的な血管検査 を し て血
の結果 や体重 に基 づく栄養指導 に
従来 から行 なわれ て いる血液検査
栄養 大 学 の栄 養 ク リ ニ ック では、
こ のよう な状 況 に対 し て、女 子
の隠 れ メタボが いると のこと です。
いよう に指導 し て いる のです。
糖 尿病 の治療 では、血糖値 の コ
して保証 できな いのです。
長期 の安全性 や有効性を、学会と
端な糖質制限は推奨して いません。
見 ても、日本糖尿病学会 でも、極
5人、最長 1年後 の結
し最大 でも 5
果 の報告しかありません。詳細な
<
アメリカ糖尿病学会 の立場表明を
感受性 の改善はありました。しか
ど の症状を伴う状態は ﹁
隠れメタ
体重が減 っても脂肪はあまり減
らず、これに高血圧や脂質異常な
ので、ぜひお読みくださ い。
ダイ エット﹂ でくわしく紹介した
心も体も害する過激
月号 の本欄 ﹁
険 です。 これに ついては、本誌 7
や筋肉を減らしてしまう減量は危
す こと です。体 にと って必要な骨
正し い減量とは、体脂肪を減ら
の エネ ルギ ー比率を調 べた統計 で
現在健康 な百寿者 の別人 の食事
いた対応をと る のも よ い方法 です。
に食 べるなど、時間栄養学 に基づ
阻書剤を使 用し、食事 は野菜を先
と です。また、 αグ ル コシダ ーゼ
には、精白 度 の低 い穀類をと るこ
害 クを避 け る
白 米 や白 バ ンの ク
。
上記 コラム参 照︶
す め できま せん ︵
旧石器食 ﹂はおす
質 を制 限す る ﹁
す が、だからと い って、極端 に糖
体重が減 っても怖 いのは
こと はた い へん危険 です。
糖質制限食 では、長期 の安全性
に関するデータも不足しています。
︲∼
糖質 2
たとえば低炭水化物食 ︵
ント ロー ルは重要 です。白米 や白
聖路加国際病院内分泌代謝科部
ボ﹂と呼ばれます。名古屋学芸大
隠れメタボ
長 の能登洋先生は、低糖質摂取率
学 の下方浩史教授が今年 3月にま
3%と いう高 糖質食 で
は、糖質 が 6
した。沖縄県民 や、 ハワイ の日系
パ ンを食 べると血糖 が急 上昇 しま
0∼0%︶と高糖質摂取率群
群 ︵
3
4
、
0 0
︵
6∼ 7%︶ を厳密 に比較 し て
4万人も
︲
とめた推計 では、全国 で9
0
7g/日︶を調 べた■人 の試験 で
は、血糖制御 の指標とイ ンスリン
倍高 いこ
前者 の全死因死亡率が3
1・
110
参考文献 ‐ ―
― ‐―
―
― ―
―
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・
・
・
一
一
.
︲ ︵
す。健康 日本 2
第 2次 ︶ で健康
ま た、 スウ ェーデ ンの高齢男性 の
・
・
一
・
人 は近年 にな って糖質 の割合 が少
一 長 寿 と さ れ る静 岡県 は、 米 、 茶 、
・■
、
2
︲年生存率 は地 中海食 で高く 低
・
な い高脂肪 の食事 をと るよう にな
ールが加重平均で0。■耐/
●
・
マグ ロ、 みか ん の消費 量 が 日本 一
特定 の食 事 の効果を誇大 に考
炭水化物食 では低 いと の報告も あ
え る迷信 = フード フ アデ ィズ
つてから、肥満 と糖 尿病 が激増 し
●ネ 卜︲
やテレビ、無責任な
︲
,報を鵜呑みにして極端
本 の情
ムの 一種 であると、群馬大学
多 い、高糖質 で和食 の食文化 です。
一■糖
質制限が流行する のは、
︲
見かけ上、急速に減量や血糖
一
︲下するか で 。しかし、
一が低
ら す
教育 学部 の高橋久仁 子教授 も
ります。 ゝ
﹂
ヽ
つした変化 は数年 では
多ぐの糖質制限食と血管機能
指摘 し て います。
ま した。炭水化物 ︵
糖質 ︶が少 な
を調査した国際誌 の結論は、
根拠 のな い迷信、行 きすぎ
極端 な糖質制 限食 よりも 、長年
﹁一時的に は体重減少などの
た食 品宣伝 、非科学 的 な体験
・
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一一 一
・
一
・一
・
効果はあ っても、動脈内膜を
侵し、動脈硬化を早くから促
談 を中 心 と した巧 みな宣伝 の
でメタ解析した結果でも、低
糖質食 ではLDL■レステロ
● 一
一
ιも増 加しま した。 一
進して死亡率を高めるのです
し い食 物 の知識 を身 に つけで
あま りに極端 な糖質制 限 は、
すめられな い﹂と いうもので
九。低糖質食と低脂質食を科
学的︲
に厳密に比べた=の無作
いただきた いも のです。 .
罠 に注意 して、消費者 には正
為化比較試験 ︵
1369人︶
111
わ かりま せ んが、 0
1年 以上 の長期
analysis of randonlized contro‖ ed trials Br」 Nutr
l150):466‐ 479(2016)
く肉食 のモ ンゴ ル人 の平均寿命 は
(11)MansOor N, et al: Effects of low‐ carbohydrate diets v low‐ fat diets on body weight
and cardiovascular risk factors:a meta‐
親 しん でき た和食 や昔 から食 べて
(2015)
で比較す ると、糖質 制 限食 は短命 、
(10)」 ovanovski E, et al: Carbohydrates and endothelial function: is a low‐ carbohydrate
diet or a low‐ glycemic index diet favourable for vascular health?Clin Nutr Res 4(2):69‐ 75
7年も短く 、血管検査
日本人 より 1
Clin Nutr 92:967‐ 974(2010)
き た地中海食 のほう がよ いのです。
(9)Siogren P,et al :Am」
高糖質 の食事 は長命 だと わかりま
(3)Novembre」 ,et al:Adaptive droolin the gene pool Nat Genet 39(10):1188-1190(2007)
の成 績も 日本人 より悪 い結 果 です。
cause mortality:a systematic review and
(7)Noto H,et al:Low‐ carbohydrate diets and a‖ ‐
meta‐ analysis of obsen′ ational studies PLoS One 3(1):e55030(2013)
「糖質制限を考える」第 2回 「糖質制限食は糖尿病に有効か」の予定です。
★次号は、