冬銀花 ID:103151

冬銀花
さくい
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小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
基本的に明後日の方向をぼーっと見ている女の子を中心とした物語
彼女を中心に世界は回る、わけじゃない
※何作品目になるかわからない衝動的に作者が書く作品です。節操なしで書きたい
ものを書いているだけなので続く自信はありませんので悪しからず⋮⋮。
不思議っ娘の誕生 │││││││
目 次 フユカ ││││││││││││
1
演習2 ││││││││││││
演習1 ││││││││││││
アカデミー ││││││││││
8
14
23
31
不思議っ娘の誕生
淡く儚い雪がハラハラと舞い落ちる時期、火の国にある木の葉の里、その里で一つの
新しい命が産声を上げた。
出産に体力を使い疲れ果てた女性が胸に抱くのは、今さっきまで自分のお腹の中にい
た我が子。産まれた時にか細い大きさでしか声を出さなかった子を心配していたが、安
らかに眠る様子と確かに伝わる命に一応の安堵が生まれた。
腕の中にある小さな、だが大きく重みのある己が子を優しく抱き締めて心の底から湧
﹂
いて来る幸福感を享受していると看護婦に先導されて愛する夫が室内に入って来た。
﹁カオリ⋮⋮その子、が⋮⋮
﹁ええ。私たちの娘よ﹂
﹁⋮⋮そっ、か⋮⋮﹂
る恐る産まれた子を覗き込む夫に笑みが浮かぶ。
そこから言葉が続かず嬉しさに涙する夫を優しく女性は見守った。夫が泣き止み、恐
?
1
﹁抱いてみる
﹂
﹁⋮⋮えっ⋮⋮いい、の⋮⋮
﹂
﹂
?
いっていう意味⋮⋮﹂
﹁⋮⋮うん、冬の厳しい季節に負けずに春に綺麗に力強く芽吹く花のようになってほし
﹁ふふ、意味を聞いても良いかしら
﹁⋮⋮この子の名前、フユカ、で良いかな⋮⋮﹂
夫が徐に口を開いた。
優しく温かい夫婦の空気に周りにいた助産師や看護師が柔らかい眼差しで見守る中、
く事にガチガチに緊張して固まりつつ何とか抱く事に成功した夫にまた笑みが浮かぶ。
そう言って女性は夫に抱き方を教えながら抱かせる。産まれたばかりの儚い子を抱
﹁ふふ、勿論。寧ろ抱いてあげて﹂
?
?
雪が舞い落ち街灯にキラキラ照らされて光り輝く冬の夜、一つの命が木の葉の里に生
﹁素敵ね、これから宜しくねフユカ﹂
不思議っ娘の誕生
2
まれ落ちた。
フユカが生まれて暫く経った。フユカは他の赤子に比べて体が小さく寝返りやハイ
ハイが遅く母であるカオリと父であるトオヤはそんな我が子を心配したが、周りにいる
育児経験者の話や医師の話を聞いて個人差の範囲であると知って安心した。
わからないのは、目が見えるようになってから何もない所を何時までも見ていたり反
応が薄い事。それでもまあ個人差の範囲だろうと受け止めて過ごし、気付けば一年を迎
える頃にある事件が起きた。
その時カオリはフユカが壁に手をついてつたい歩きしているのを洗濯物を畳みなが
ら見ていた。そしてふと洗濯物に目を移してフユカに視線を戻すと、フユカが壁をゆっ
くりとハイハイしていた。
数回パチパチと瞬きして驚きを露わにしたが、この一年の子育てで精神的に大きく成
長してあまり動じなくなったカオリは直ぐに落ち着いて一言。
﹁あらあらまあまあ、フユカちゃん壁を歩けるのね∼凄い凄い。あなたぁ、フユカが壁を
3
歩いてるわよ∼﹂
二階で趣味のカメラを点検している夫を間延びした声で呼びながら、フユカが何時落
ちても良いようにフユカの元へ向かう。
数秒の間フユカの呼吸をする音とペタペタと壁をハイハイする音だけが周りを支配
し、次の瞬間二階からドタンバタンと大きな音が鳴り響いた。そして直ぐに階段から大
きな音が転げ落ちる音と振動が家を揺らす。
それから数秒時間を置きガチャリとドアノブが回りドアから姿を現したのは、体のあ
ちこちに傷を作った夫のトオヤだった。ちなみにフユカは鳴り響いた大音量に全くと
言って良いほど反応を見せずゆっくりと壁をハイハイしている。
﹁本当に、歩いてる⋮⋮﹂
幾らこの世界に忍者という火を吐き出し水を噴き出し土を割り雷を落とす忍とは名
般で言えばトオヤの反応が正常である。
驚き体を固めるトオヤとほのぼのと壁をハイハイする娘を応援するカオリ。世間一
﹁凄いわよね∼。フユカちゃん頑張れ∼﹂
不思議っ娘の誕生
4
ばかりの全く忍んでいない超人がいようとも、生後一年程で壁をハイハイする赤子の話
なんて聞いた事がない。
それに壁を垂直に移動するなんて言うのは忍者という超人への最初の一歩だと聞い
た事があるし、それを実現するにはチャクラというエネルギーを操れて初めてできる事
である。そのチャクラというのは忍になるために訓練をした者が初めて操れる代物で
あり一般人ではまず使う事は不可能と言っていい。
ますます生後一年程の赤子ができる事ではない。が、カオリと同様精神的に大きく成
長してあまり動じなくなったトオヤは直ぐに冷静さを取り戻す。そして壁をハイハイ
する娘の勇姿に心を打たれ、手に持っているカメラを構えてパシャりと五連写した。
とある昼下がり、花実ミキはお隣に住んでいる幼馴染みであり自分と同じ新人ママで
ある甘梨カオリと赤ちゃん同士の顔合わせという名目でお茶を楽しんでいた。否、カオ
リが楽し気に話すフユカの異常性に頭を痛めていた。
れが可愛くてトオヤさんが何度も写真をパシャパシャ撮ってるのよね∼﹂
﹁それでね∼、フユカちゃんってば気付いたら天井でぼーっとしてたりするのよ∼。そ
5
いや、まあ、世の中にはそんな子もいる、のか
ポワポワとした表情で話すカオリに頬を引き攣らせながらミキは考える。あれ、赤
ちゃんって天井とか壁歩けたっけ⋮⋮
血継限界とか
⋮⋮いやいやいや、そんな訳ないでしょ実際にユウリは壁歩いた事ないし周りの人
の話でそんな話聞いた事ないし、もしかしてこの子の特異体質とか何か
な
?
感じなのかな
から出ている青い糸。
しい二人が一緒にいる姿は何とも絵になるが、やはり一番目を引くのはフユカの手の平
いフユカと赤色の癖っ毛で髪色と同じ色の快活そうな瞳を持つユウリ。そんな可愛ら
ミルク色のサラサラな髪、眠た気に半分閉じている瞼から覗く蜂蜜色の瞳が可愛らし
て物を引き寄せるフユカとそれに目を輝かせて声を上げている娘のユウリ。
ぱっとその方向に顔を向けたミキの目に映ったのは、手の平からか細い青い糸を出し
悲鳴が響き渡った。
そう頭の中で考えていると一緒に遊ばせていたフユカとユウリの方から興奮気味な
?
ある世の中だし一般家庭出身で化け物みたいに強い人もいるしフユカちゃんもそんな
?
?
﹁あらあら、フユカちゃん今までで一番長い糸出せたわね∼凄い凄い﹂
不思議っ娘の誕生
6
異常とも言える光景を鼻で笑うようにほのぼのと己の娘の頭を撫でながら宣うカオ
リにミキは思った。駄目だこの親、私が一般的な赤ちゃんのなんたるかを教えないと
⋮⋮と。
そう思いつつフユカの出している糸を観察して、それがチャクラ糸であると理解した
ミキは更に驚きに目を見開いた。
ミキは漠然としながらもそんな思いを抱いた。
駄目だこの親子、私が何とかしないと。
クラ糸で引き寄せているフユカ。
ている娘の頭をほのぼのと撫でるカオリ、そんな両親に一切の関心を向けずに物をチャ
る。残像を作り無言で一心不乱にシャッターを切り続けるトオヤ、とんでもない事をし
そしてそのトオヤの残像をも残す動きに再び驚きに目を見開き、甘梨家族3人を見
であるトオヤがカメラのシャッターを切りながらフユカの周りを動き回っていた。
それから言葉が続かず暫しの間呆然とフユカを見ていると、何時の間にかカオリの夫
﹁いや、赤ん坊でもうチャクラ糸使えるって⋮⋮﹂
7
フユカ
日差しが降り注ぐ春の麗らかな日、一人の幼い女の子が公園の芝生の上で寝転がって
いた。
ながら世間話をする数人の奥さん達の声が聞こえてくる。
れたところではベンチに座り楽しくおしゃべりしている女の子達やベビーカーを押し
い雰囲気を持つ女の子の方を見てはコソコソと話している。その男の子達から少し離
そんな女の子の近くでは元気に走り回っている少し年上の男の子が数人おり、時々儚
少女は持っていた。
小柄で華奢な体型で白いワンピースを着ている事もあってか何処か儚い雰囲気をその
テールにし、瞳は半分以上閉じているせいでよく見えないが綺麗な蜂蜜色をしている。
光 を 浴 び な が ら 心 地 良 さ 気 に 目 を 細 め て 微 睡 む 女 の 子。ミ ル ク 色 の 長 い 髪 を ツ イ ン
夏の日に突き刺さるような日差しではなく、命を育むような優しく柔らかい春の陽の
﹁⋮⋮ん、ぽかぽか⋮⋮﹂
フユカ
8
春の麗らかな日差しが体を包みむ布団となり、周りの音が心地良い音楽となる。その
﹂
心地良さと共に緩やかに訪れて来る睡魔の誘いに身を任せようとしていると、元気の良
あそぼーぜフユカ
い女の子の声が辺りに響き渡った。
かくほー
!
﹁フユカ発見
!
ユカを見ていた。
?
﹁⋮⋮いや⋮⋮﹂
じゃん﹂
﹁えー、偶には一緒に駆けっこしたり忍者ごっこしよーぜ
﹁⋮⋮ん、眠い、から⋮⋮﹂
フユカいっつも寝てばっか
そこにいたのは赤ちゃんからの付き合いであるユウリがいて、輝く笑顔を浮かべてフ
ら、殆ど閉じていた瞼を何とか押し上げて睡眠の邪魔をする不届き者を見遣る。
フユカと呼ばれた女の子は揺れる体と鼓膜を盛大に揺らす大声に不機嫌になりなが
ある赤髪の幼い女の子。
そう言ってうとうとしている女の子に何の遠慮もなく突撃して抱き着いたのは、癖の
!
9
﹁そんな事言わずにあそぼーぜ
体動かせば眠いのもなくなるって
!
﹂
!
行動が気になった。
子供は元気だなと子供らしくない事を考えつつその二人を見ていると、ふと大人達の
い髪の男の子。
の子を引っ張るユウリとユウリに引っ張られて困惑しつつも嬉しそうにしている黄色
仕方なく半分程瞼を上げて目だけを動かして周りを見る。見えたのは黄色い髪の男
体を動かした所為か微妙に目が冴えて睡魔が中々やって来ない。
足気に息を吐いた。だが、ユウリに揺さぶられた事とベストポジションを見つける為に
もぞ⋮⋮もぞ⋮⋮とゆっくり動きベストポジションを見事に探り当てたフユカは満
さぶられた事によってずれたベストポジションを探し始める。
ユウリがいなくなりこれで静かに眠る事が出来るとフユカは判断し、ユウリに体を揺
カから離れて一人寂し気にブランコに座る黄色い髪の男の子に突撃して行った。
そんなフユカを見て諦めたのか﹁しゃーないか、また今度誘お﹂と言い、ユウリはフユ
ユウリの誘いの言葉を断固として拒否し、再び眠りに就こうとフユカは瞼を閉じる。
﹁⋮⋮や⋮⋮﹂
フユカ
10
11
ユウリと黄色い髪の男の子⋮⋮よく見れば黄色い髪の男の子の方を避け、剰え自分の
子供に関わらないように話している。その時に黄色い髪の男の子を見る目は子供を見
るような目ではなく、恐怖し怯えその中に怒りと憎悪を孕ませていた。
が、幼いフユカにはそんな事分かるわけがなく何か変だなと疑問を浮かばせるだけに
留まり、その疑問を空の彼方へと放棄した。
二人と大人達の観察に飽きたフユカは、辺りに浮いているキラキラと輝く光の粒子に
目を向ける。物心ついた時には既に見えていたこの粒子は他の人には見えないらしい。
というのも、フユカがその光の粒子を観察している時に決まって両親やユウリが何を
見ているのか不思議がっているからだ。
この粒子が何なのかわからないが、これは言ってはいけない事だと幼いながらに判断
して誰にも言っていない。ましてやその粒子が自分の中に入ってくるなどという事を
言う気にはなれなかった。
そして、過ごしていく内に見慣れた光景の一つとなったそれを観察するのが日課と
なっていた。ぽけーっと自分の身体にふわりふわりと入っていく光の粒子を眺めてい
ると、パサパサと小鳥がやって来てフユカの指に止まった。
フユカ
12
チュンチュンと首を動かしながら鳴く小鳥を眺め、空いている片方の手で小鳥を撫で
る。心地良さ気に目を細めて声を出す小鳥を見ていると、もう一匹小鳥がやって来て小
鳥を撫でている方の手に止まった。
後からやって来た小鳥を見ていると今度はカサカサと音を立てながら兎がやって来
てフユカの腕に潜り込み、続いて狐の親子がフユカにくっ付いて眠り始めた。
それからも猫や犬、鼬など色々な動物がフユカの近くに来てはリラックスするように
寝転がる。
気付けば芝生の上は様々な動物が争う事なく体を寄せ合っている。その中心にいる
のはすうすうと静かな寝息を立てているフユカ。
周りにいる人はその幻想的とも言える光景に暫しの間目を奪われていたとかいない
とか。
それから数時間が経ち空がオレンジ色に染まる頃、フユカはふと目を覚ましてゆっく
りと起き上がる。フユカの上に乗っていた小動物や小鳥は起き上がる動作に従って地
面に着地してフユカを見上げた。
それに応えるように一匹一匹一撫ですると動物達はそれぞれの巣に戻る為に移動を
開始した。少ししてフユカの周りから動物がいなくなると目を擦りながら小さく欠伸
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をする。
生理的に出て来た涙を指で拭い取り指先に着いた水滴をじっと数秒見て、フユカは徐
に右手を自分の前に翻した。
すると手の平から野球ボール程の水の球が出現した。そしてその水の球はぐんぐん
と成長して子供一人が寝転がれる程の大きさに成長して空中にふよふよと浮いた。
完成した水の球を見て満足そうに頷いたフユカはその水の球に乗っかった。ぷよぷ
よとした感触に程よい冷たさを持つ水の球をぺしぺし叩き、ふと動きを止める。すると
水の球はゆっくりと動きを変えて長方形に変わった。
再度ぺしぺしと形の変わった水を叩き何かに納得したフユカはその状態のままふよ
ふよと帰路を辿る。
フユカのした事は忍者の世界でチャクラの性質変化、形態変化と呼ばれる高等技術。
それを習得するには修練が必須であり易々とできるものではないが、幼いフユカはそれ
を知らない。
フユカが帰路を辿っている最中、偶々それを見た何人かの忍が驚きに目を見開き口を
開け、そして里の最高責任者である火影に報告しに行ったのはすぐの事だった。
アカデミー
アカデミー行こーぜー
﹂
午前七時、起きる人は起きて寝ている人は寝ている時間帯に女の子の声が住宅街に響
き渡る。
﹁フーユーカー
!
﹂
!!
今日も師匠流アカデミー登校で行こーぜー
きこうやって声を出しており、近所では目覚ましとして利用している人もいる。
う忍者を育成する学校に通うくノ一候補の女の子。彼女は毎朝七時にフユカの家に行
そう元気一杯にとある一軒家の前で叫んでいるのは花実ユウリ、忍者アカデミーとい
!
!
起きたような姿をした少女は小さく欠伸を漏らしてから口を開いた。
ゆっくり開いてミルク色の髪を持つ少女が顔を出した。瞼は半分以上閉じ、明らかに今
ユ ウ リ が ブ ン ブ ン と 手 を 振 り な が ら 再 び 声 を 上 げ る と カ ラ カ ラ と 二 階 に あ る 窓 が
﹁フーユーカー
アカデミー
14
をのろのろと付いて行く。この時フユカは全く動くことはせず、ウォーターベッドの上
ユウリがほっほっほっと息を吐きながら律儀に側転で移動し、フユカはユウリの後ろ
を鍛えると同時に持久力をあげる画期的な方法らしい。
てに於いて体力は大事であるとのこと。この登校法は様々な動きを使って全身の筋肉
クステップ、側転や逆立ち歩き等を組み合わせた登校法である。ユウリの師匠曰く、全
ユウリが師匠と呼び慕う人物流らしいアカデミー登校、それはサイドステップやバッ
ウォーターベッドと名付けられた︶に乗り微睡みながらユウリに連れ出された。
せられて綺麗に整えられたフユカは、幼少の頃に生み出した水の布団︵ユウリにより
そしてユウリの手によって着替えさせられ顔を洗われ歯を磨かれて朝ご飯を食べさ
しそうに笑っている。
因みにフユカの両親であるカオリとトオヤは引っ張り引っ張られる二人を見て微笑ま
は少しムッとなって実力行使に出る。即ち家にお邪魔してフユカを引き摺り出すのだ。
そう言って窓を開けた時とは正反対の速さでピシャリと締めた。それを見たユウリ
﹁⋮⋮ん、先行ってて⋮⋮﹂
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に乗って快適な移動をしている。
﹂
色々と歩き方を変えて移動するユウリと水の塊に寝転がって移動するフユカの二人
の登校風景がある種の名物となっているのは近隣住民の秘密である。
暫くの間大人しく師匠流アカデミー登校を続けるユウリと終始変わらずウォーター
させる物を持っていなくて出来ないので仕方ない。
フユカの意識をこちらに向けさせる方法はあるにはあるが、現状フユカの意識を向け
一切の反応が返ってこないのは幼少の頃から変わらない。
を吐いて移動に集中する。フユカに声を掛けて返事がない時は、しつこく声を掛けても
ぽけーとしながら明後日の方向を見続けるフユカを見て、ユウリは諦めたように溜息
!
﹂
﹁あ、そう言えば今日の授業って一日使って演習だったっけ。楽しみだなフユカ
﹁⋮⋮﹂
﹁おーい、フユカー
﹁⋮⋮﹂
?
﹁駄目だ、またぼーっとしてる﹂
アカデミー
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ベッドに乗ってふよふよ移動しているフユカの二人。
その二人に一人の女の子が近付いていく。腰まで伸びたサラサラな濡れ羽色の髪に
大きくおっとりとした黒真珠のような瞳、纏う雰囲気は柔らかく温かい母性を感じさせ
る女の子。名前は時津ミナミ、フユカとユウリと同い年でありアカデミーに入学したそ
の日に二人と仲良くなった。以来ユウリとフユカの二人と一緒に行動している。
﹁ん
おっすミナミ
フユカは今ぼーっとしてるから反応しないぞ﹂
!
たか
﹂
﹁もっちろん
待ちに待った演習だからな、準備は万全だぜ
﹁フユカ、おはようございます﹂
﹂
る。其処には力の入っていない目でミナミを見ているフユカがいた。
ミナミは口に手を当てて穏やかに笑い、ふと視線を感じてその方向に視線を移動させ
!
?
﹁ふふ、それは良かったです﹂
!
﹁あら、そうですか、残念です⋮⋮。ところで今日は一日演習ですけど準備はしてきまし
?
﹁おはようございます。フユカ、ユウリ﹂
17
﹁⋮⋮ん⋮⋮﹂
﹁ふふ、相変わらず可愛らしいです﹂
フユカの返事を聞いて蕩けたような笑顔でフユカの頭を撫でるミナミ。為すがまま
にされるフユカの様子に更に表情を蕩けさせたミナミを横目に見ながらユウリはバク
転を始めた。
それから特に何事もなくアカデミーに到着して演習の時間になりグラウンドに生徒
たちが集まった現在、生徒達は教師である波野イルカと他数名の教師の前でそれぞれ
座って演習の話を聞いていた。
そうイルカかが続けようとした瞬間に子供達から歓声が湧き、仲の良い友達と組もう
チームが勝ちだ。数は全部で10、三人一組に分かれて行ってもらーー﹂
の チ ャ イ ム が 鳴 る ま で 守 り 抜 く こ と。チ ャ イ ム が 鳴 っ て 一 番 巻 物 を 多 く 持 っ て い た
う。内容はこのアカデミーの何処かに隠されてある黒色の巻物を見つけて午後の終業
﹁よし、みんな集まったな。今日は前から伝えてた通り一日使ってサバイバル演習を行
アカデミー
18
﹂
﹂
としたり好きな人と組もうと行動を開始し始める。それはユウリ達も例に漏れず、普段
一緒に組もうぜ
一緒にいる三人で組もうと盛り上がっていた。
フユカ、ミナミ
﹂
!
﹁よし
﹁ええ、是非
﹁⋮⋮ふぁ⋮⋮ん、ねむ⋮⋮﹂
!
ミナミと一緒に演習組もうぜ
⋮⋮ん⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あー、フユカ
﹁⋮⋮ん
?
!
らちゃんと従うように
﹂
!
﹁静かにしろお前ら
チーム分けはバランスが良くなるようにこっちの方で決めてるか
和気藹々とした雰囲気を放出する三人組の空間を切り裂いてイルカの声が響いた。
ミナミ。
ユウリと、フユカが欠伸したことで生理的に涙目になっているのを見て顔を蕩けさせた
ワンテンポ遅れてマイペースなフユカに苦笑しつつ承諾を得た事に嬉しそうにする
?
?
!
!
19
アカデミー
20
そのイルカの言葉を聞いて悲鳴をあげる子供達に構うことなくイルカは淡々とチー
ム分けをしていった。
結果的にフユカはユウリとミナミから離れることになり、ユウリとミナミがイルカに
猛反発したがその反論が通ることはなくチーム分けは完了した。
フユカのチームはフユカを含めて山中いの、うちはサスケの三人。いのはサスケと一
緒の班になった瞬間に悲鳴を上げてサスケの所に向かい、フユカがサスケと同じ班と発
表された瞬間に複数の女子から嫉妬と怨念の混じった視線が突き刺さった。
何故女子達からそんな目で見られるのか。それはミナミがサスケと両親の繋がりで
幼馴染であり、ミナミと出会った日にフユカとユウリはサスケと面識を交わして以降親
しくしているからだったりする。
最初はなんで女なんかと⋮⋮とぶつくさ文句を言っていたサスケだったが、フユカが
ぽへーっとしているようで何気に高度なチャクラコントロールを常にしているのを
知ったり、ユウリとの組手でボコボコに負かされたりして気付けばサスケの態度は軟
化。
最近ではフユカ・ユウリ・ミナミの三人に加わってサスケが昼食に入る事もしばしば
あるし、アカデミー後に女子三人でやっている訓練にも加わる事が増えてきている。
アカデミー内ですらユウリが男子達と忍者ごっこをしていたり、ミナミが用事があっ
てフユカの下を離れていなくなると二人の代わりにサスケがフユカの面倒を見るよう
になった。
フユカは何気に世話焼きなサスケの介護を受けて快適に過ごし、サスケは偶にフユカ
の口から漏れるチャクラコントロールのタメになる話を聞けてwin│winの関係。
ちなみにフユカのタメになる話とは、トオヤが何処からか集めてきたチャクラに関する
書物をカオリがフユカに読み聞かせて覚えさせられたものである。
そうゆうサスケとの普段との関係もあって女子達から睨まれているが、フユカは体の
向きを変えるのに忙しくて気づく事はなかった。
周りが班分けされたメンバーで作戦を練っている最中、フユカはそれを一切気にする
事なくゆっくりとした動作で体の向きを変えてベストポジションを探しているとサス
ケが面倒そうな顔をしながら近づいて来た。
﹁⋮⋮はあ、まあいい。そのままで良いから話だけでも聞いてろ﹂
﹁⋮⋮ん、ちょっと⋮⋮待って⋮⋮﹂
﹁おいフユカ、いい加減作戦会議するぞ﹂
21
は進んでいった。
を噛まんばかりに酷い形相をしたが、二人はそれに気づく事はなくサクサクと作戦会議
と、二人が如何にも慣れてますよと言わんばかりの雰囲気にいのは嫉妬してハンカチ
﹁⋮⋮ん、りょーかい⋮⋮﹂
アカデミー
22
演習1
フユカがウォーターベッドの上でモゾモゾと動いている横で、サスケといのが今回の
演習内容について話していた。
!
巻物を最後まで多く持っていること。くらいか⋮⋮﹂ こんなに簡単にまとめちゃうなんて
!
デミー生の中では一番低く華奢。服装は忍者候補にあるまじきふわふわとした白色の
の髪、やる気の全く感じられない眠た気な半分閉じた蜂蜜色の瞳。身長は同年代のアカ
昔から変わらないという髪型はツインテールでその状態で膝近くまであるミルク色
いたサスケは、未だにモゾモゾと動いているフユカに目を向けた。
ハートマークにしている。そんないのの様子を見て気付かれないように軽く溜息を吐
否、真面目にまとめているのはサスケだけでいのはサスケの魅力に当てられて目を
﹁さっすがサスケ君
﹂
ものはこのアカデミーの何処かに隠されている黒い巻物で数は全部で十。勝利条件は
﹁まず今回の演習内容をまとめるぞ。制限時間は放課後のチャイムが鳴るまで。必要な
23
ワンピースで薄い桃色のカーディガンを羽織っている。
ユウリ曰くワンピースの下には短パンとタンクトップを着ているらしいが、正直それ
がどうしたとサスケは感じている。言わないが。
サスケが多分に呆れた視線を向けている中、未だにベストポジションが見つかってい
ないのかモゾモゾと動き続けるフユカ。
何でこんな奴のチャクラコントロールが凄いのかと疑問が尽きないサスケではある
﹂
が、以前それをした時に延々と考えて寝不足になってからはなるべく考えないようにし
ている。
﹁で、フユカは何か案あるか
﹁⋮⋮ん、聞いてるだけでいいって、言った⋮⋮﹂
?
そう思考しているとフユカがやっとベストポジションを探し当てたのか、ふうと満足
いだけか⋮⋮。
まさか本当に聞きに徹しようとするとは、なんて図太い奴なんだ⋮⋮いや、単に面倒臭
フユカの返しに思わず無言になるサスケ。確かに話だけでも聞いてろとは言ったが
﹁⋮⋮﹂
演習1
24
そうに息を吐いて目を閉じた。
流石にその態度はないんじゃない
﹂
今は演習の作戦を練る時で
!?
少しは協力しなさいよ
﹁ってちょっとフユカ
しょ
!
本格的にブチ切れようとした瞬間イルカから演習開始の声が上がった。
﹁んなっ
フユカ
あんたのせいで全然作戦練れなかったじゃないの
そんな狡いことできるわけーー﹂
⋮⋮えっ
⋮⋮サ、サスケ君が⋮⋮そう言うなら⋮⋮﹂
﹁確かに、それが効率的だな﹂
﹁ないでしょ
!!
?
!
そしていのが再び声を荒げる。
﹂
!
んのよ
﹁ああもう
!
﹁⋮⋮ん、巻物見つけた人から、奪えばいい⋮⋮その方が⋮⋮楽⋮⋮﹂
!
!
どうしてくれ
だがそんないのの怒鳴り声は何処吹く風。全く反応しないフユカに、いのの堪忍袋が
態度が我慢ならなかったのか眉間に皺を寄せていのは声を荒げた。
不真面目極まるフユカの態度に業を煮やしたのか、はたまたフユカのサスケに対する
!?
!
25
演習1
26
やる気が微塵も感じられないフユカに子供故の正義感が顔を出したのか、多少厳しく
してでもその態度を改めさせようとしたいのの言葉を遮りサスケがフユカの案を承諾。
結果いのはサスケが良いならと渋々身を引いた。
正義感や自分の気持ちとかよりも、好きな男の子の印象を良くしようとする健気な女
の子の心理戦。フユカは偶然サスケを味方につけたことによっていのの説教から逃れ
る事が出来た。
それから時間が経ち昼食の時間帯、フユカ・サスケ・いのの三人は各自で持ってきた
弁当をアカデミー保有の森の中で食べていた。
今に至るまでに見つけたチームで巻物を取得出来ていたチームはいなかった。とい
う事は巻物はそれなりに探すのが大変な場所にあるらしい。
まず候補として上がるのはグラウンド・校舎内・アカデミーが所有している小さな森
の三つ。つまりアカデミー全域何処にあっても不思議ではなく何のヒントも与えられ
ていない現状では探し当てるのは厳しい。
結局フユカが提案した巻物を見つけたチームから奪うという作戦が一番体力の消耗
が少なく済むと思い至ったいのは、時には狡い事も必要だと知ってまた一つ大人になっ
た。
いのは自分より子供っぽい見た目であり、その実合理的な思考をしていると思われる
フユカに目を向ける。 持ってきたサンドイッチを小さな口でもきゅもきゅと食べ、サ
スケに飲み物を飲まされていた。
サスケに恋する乙女にとってはとても羨ましく、同時に他の人がやられているのを見
れば激しい嫉妬に駆られる事間違いなしなその光景に一瞬思考が停止。直ぐに再起動
して行動を起こそうとするもフユカとサスケが作っているほのぼのとした空間を壊す
には途轍もない勇気が必要だった。
かくしていのは自分の猛狂う嫉妬心を直向きに隠し、好きな男の子からの心象を悪く
しないように頑張った。そしていのは自分の嫉妬心を誤魔化そうと思考の方向を転換
した。
つまり、フユカとサスケは恋人同士ではなく兄妹という風に見ればこの渦巻く心は消
えるはず⋮⋮と。
﹁⋮⋮ん、まとめて、飲んでるから⋮⋮﹂
﹁たくっ、何で少しずつ食べて喉詰まらすんだよ﹂
27
﹁わかってんなら直せ﹂
集中する。木や草が視界を遮り見難い。だが、状況は分からなくもない。
その三人が何をやっていて何を目的として行動しているのか、それを見ようと意識を
油女シノ・うずまきナルト・春野サクラの三人がいた。
のか確認する。サスケから見て左の方向、自分から見て右側。その方向に目を向けると
フユカにサンドイッチを戻させたいのは次にサスケを見て、サスケが何処を見ている
るのをやめる様に言い含めサンドイッチを弁当箱に戻させた。
こりゃ確かに手の掛かる妹だ。いのは苦笑しながらそう感じフユカに近付いて食べ
気付いていないのかもきゅもきゅと小さな口を動かしている。
のに静かにするようにジェスチャーをした。いのは即座にそれに反応したが、フユカは
そんな風に思考が再ループし始めようとした時、サスケが何かに気づいてフユカとい
でも、それはそれで妬ましい⋮⋮。
ない。それに普段クールで一匹狼然としているサスケ君の意外な面が見れたし。⋮⋮
そう、そうよ。二人が兄妹だと思えば世話焼きな兄と手の掛かる妹として見れるじゃ
﹁⋮⋮ん⋮⋮﹂
演習1
28
サクラが苛立ちを露わにしながら先頭を歩き、シノが大人しく追従し、ナルトが落ち
込んだ様に肩を落としながら歩いている。
恐らくナルトが何かをやらかしてサクラを怒らせたのだろうと、いのは推測する。昔
は泣き虫でよくイジメられていたサクラだが、今ではコンプレックスだったおでこを出
して立派に堂々としている。そのお陰でサスケとの取り合いが頻発するがそれはそれ。
いのはその状況を楽しんでいたりする。
閑話休題。
取り敢えず見た限りでは巻物を持っていなさそうである。そう判断してサスケに指
示を仰ごうとした時フユカが小さく言葉を発した。
﹂
?
そ の 水 の 塊 ど う な っ て る の ⋮⋮ い の は そ う 思 い つ つ も 触 手 が 指 し 示 し た 方 を 見 る。
触手が出てその方向を指す。
聞く。帰ってきた答えは肯定であり、フユカの乗っているウォーターベッドから細長い
何処にあるか分からない巻物、それをみつけたと言われて半信半疑でいのはフユカに
﹁えっ、本当フユカ
﹁⋮⋮ん、巻物、みつけた⋮⋮﹂
29
触手が示した方向はナルト達が向かおうとしていると思われる地点。その方向にある
一本の木の枝に黒い巻物が一つ吊るされていた。
﹁⋮⋮あ、本当ね。というかあんな風にあるのね﹂
何事もなかった様に昼食後の睡眠に入ろうとウォーターベッドに体を埋めた。
あった事を知って軽く落ち込む。フユカはそんな二人を不思議そうな顔で見て、そして
いのが巻物の設置の仕方を見て感心し、サスケが思ったよりも見つけやすい場所に
﹁あんな分かりやすくあんのに、なんで気付かなかったんだ⋮⋮﹂
演習1
30
かけて女の子に頼む事なんて出来るわけがないと思っている。
自分の力で獲得したいという男の子故の気持ちがあるし、何よりうちはのプライドに
う選択肢はサスケの中にはない。
ちなみに、フユカに頼んで今尚巻物の方向を指し示している触手で取ってもらうとい
必然的に前者は無くなるわけで、結局後者の方法を取るしかない。
この二つからどれを選択するべきか。とは言ってもナルト達が後者の行動をすれば
この面子なら、実力的に考えれば確実に奪える自信はあるが幾らかは消耗する。
二つに一つの選択肢。前者は神頼みという何とも情けなく確実性のない方法、後者は
つけ油断するだろう時に奇襲を仕掛けて奪取するか。
このままナルト達が気付かずに過ぎて行くのを祈って待つか、はたまたナルト達が見
だろう方向の木の枝に吊るされている。
サスケは如何行動すれば良いか悩んでいた。目標の巻物は、ナルト達が向かって行く
演習2
31
演習2
32
ユウリには体術でボコボコにされ且つ序でだからと鍛えられ、フユカには忍術関連で
圧倒的な差をつけられて且つ教えられているという事は置いておく。大事な所は、昔か
らの付き合いであるミナミには僅差で負けていないという事。五分五分ではなく僅差
ではあるが負けていないのだ。互角と負けているのとでは天と地程の差があるのだ。
と、関係のない事を考えているとナルトが大きな声を上げた。
ハッと弾かれた様に声の方向に顔を向けると、ナルトが枝にぶら下がっている巻物を
見つけて飛び跳ねながら歓声を上げている。それを見て関係のない事を考えていたと
自覚したサスケは自分に舌打ちし、班員に目線を向ける。
いのは悔しそうな顔をしながらナルトの方を見ていて、フユカは何時の間にかウォー
ターベッドに身を埋めて心地良さそうに寝息を立てていた。
フ ユ カ の マ イ ペ ー ス 過 ぎ る 行 動 に 頬 を 引 き 攣 ら せ な が ら 再 度 軽 く 戦 力 を 分 析 す る。
役に立たなそうなフユカは考えないものとして、いのはアカデミー生で全体的に上位の
実力を持っている。そして自分も実力はアカデミー生の中で最上位と言って良いと確
信している。
対して向こう側は、ドベのナルトに勉学系の成績が良いが体術は平均的なサクラ、シ
33
ノはあまり目立たないが上位寄りの中位⋮⋮だったはず。二対三だが、総合的な実力で
は此方の方が上。巻物を簡潔に奪うなら巻物を取って気が緩むだろう瞬間。
そこまで考えていのに黙ってついてくる様にジェスチャーで伝え、音を出さない様に
してナルト達の死角に回り込む。フユカは寝ている筈だが、ウォーターベッドに意思が
ある様にふよふよ浮いて付いて来ている。
三人の死角になるだろう場所に着き三人が巻物を手にして油断する瞬間を伺う。馬
鹿でかい声ではしゃぐナルトとそれを怒鳴って殴り黙らせたサクラ、シノは両手をポ
ケットに突っ込んで二人から少し離れた所にいる。
と、そこまで見たところで背後から影が掛かった。
影の形から推測出来るのはフユカの乗っているウォーターベッド。まさか⋮⋮と思
いながら後ろを振り返ればふわふわと草より高い位置にウォーターベッドが浮いてい
た。
当然死角だろうが何だろうが目立つ水の塊がふよふよと浮いてくれば気付くのは当
然。ナルト・サクラ・シノの三人は突然現れた水の塊に警戒し、構えを取ったが、目に
も留まらぬ速さで絡みついて来た水の触手に為す術なく捕らえられる。
そしてぽいっという擬音がつく様な軽さで、だが周りの木の高さを超えて遠くに投げ
られた三人はその姿を消した。
﹁⋮⋮﹂
演習が終わりフユカ・ユウリ・ミナミの三人はいつも使っている演習場で修行をして
結果的に今回の演習はフユカ・いの・サスケが巻物を五つ取得して一位になった。
いのに﹃やるぞ﹄とアイコンタクトをし、直ぐに行動に移した。
て来た。しかもその内の一人は巻物を一つ片手に持っている。
ガサガサと草むらが音を立て、次いで特に名前を覚えていないクラスメイト三人がやっ
とは言っても、この遣る瀬無い気持ちをどう解消するか⋮⋮。そう悶々としていると
ではなさそうである。
の上に乗っているフユカはすーすーと気持ちよさそうに寝ている事からフユカの意思
ベッドが二人の前に躍り出て、二人に向かって触手がグーサインをした。ちなみに、そ
あ ま り に も 唐 突 で あ ん ま り な 光 景 に 無 言 に な る サ ス ケ と い の。す る と ウ ォ ー タ ー
﹁⋮⋮﹂
演習2
34
35
いた。
フユカはユウリが面白半分で話した、チャクラの形態変化を利用してかなり複雑に乱
回転させて更に極限に圧縮し塊にした物を放つ遠距離攻撃を取得するために試行錯誤
を繰り返している。名を疾風漆黒螺旋剛撃砲。疾風でもなければ漆黒色でもない。色
は青色で、フユカは面倒だからと螺旋砲と呼んでいる。フユカの理論上ではこれに更に
形態変化を加えたり性質変化を加える事も可能とのこと。
ユウリは師匠から贈られた超重量の重りを身に付けて筋トレや体力をつけるために
走り、それに加えて徒手空拳の型の反復を只管繰り返している。最近では素手で身の丈
程ある岩を殴って軽く凹みが付く様になったらしい。
ミナミはユウリと一緒に体を鍛えたり、印を早く組めるように反復練習したりチャク
ラコントロールを高めるために木登りの業をしたりと満遍なく行なっている。最近で
は母親から貸して貰った時空間忍術に関する巻物を読んで実践中である。まだ上手く
出来はしないが感覚は掴めてきているとのこと。
其々思い思いの修行をしている時、フユカの頭に電球が煌めいた。
フユカが現状悩んでいるのは螺旋砲の範囲の狭さ。今出来ている段階は、ビー玉程の
大きさである為に螺旋弾と呼んでいいもの。それを螺旋砲と言える程度にまでどうす
れば良いのか。それは、チャクラを練る量を増やせばいい。
螺旋弾になる程度のチャクラ量で如何にかしようとしていたフユカにとっては正に、
天啓と呼べるものであった。
そんな訳で練るチャクラ量を十倍にしてみた。そうして出来たのは一抱え以上はあ
る大きくて立派な球。それを何の気なしに近くにある木に放とうとした瞬間、誰かの手
がフユカの球を持つ腕を捉えた。
⋮⋮数秒、フユカの周り一帯を静けさが包む。そこから更に一拍置いてフユカは自分
の腕を掴んでいる人物を見上げた。
黒髪の天然パーマで死んだ魚のような黒目。着崩した黒色の着物を着て上には黒の
インナー、下は黒のズボンに黒のブーツと上から下まで見事に黒い。違う色をしている
のは肌の色と口に咥えているキャンディーの棒の白色位か。ちなみに男。
﹁⋮⋮﹂
眠た気で全くやる気のない視線と死んだ魚のような視線が合わさる。
﹁⋮⋮﹂
演習2
36
﹁⋮⋮﹂
る。
で爆発したかの様に巨大になり辺りの雲を吹き飛ばした。ノーマル螺旋砲の完成であ
その言葉と同時に螺旋回転を続ける球が空に向かって放たれ、見えなくなったところ
﹁⋮⋮ん、眠たい⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
フユカが小さく欠伸をする。
﹁⋮⋮ん、ふぁ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
無言が続くも二人とも視線を合わせたまま微動だにしない。
﹁⋮⋮﹂
37
﹁⋮⋮おいおい、マジか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ん、おやすみ⋮⋮﹂
空を見上げて呆然と呟く死んだ魚の様な目を持つ男と、腕を掴まれた状態なぞ何のそ
﹂
のと言わんばかりに眠りに就こうとするフユカ。
﹁⋮⋮っておい。寝るーー﹂
﹂
﹁フユカに何しようとしてんだ変態がぁ
﹁ぶげらっ
!!
が加わり洒落にならない強さを持っている。
男は為す術もなく吹き飛ばされ、数度バウンドして沈黙した。
?
﹁まあフユカですし、その分私達が気を付けませんと﹂
﹂
の怒声。そして男の顔面に突き刺さる飛び蹴り。ユウリの飛び蹴りは身に付けた重り
死んだ魚の様な目の男が眠りに就くフユカを起こそうとした瞬間に響き渡るユウリ
!?
﹁たくっ、不審者には気を付けろって何回も言ってんのに寝るのを優先するか普通
演習2
38
﹁まあそうだけどよぉ﹂
そうユウリとミナミは会話しながら帰路に着く。どうやら今日の修行は終わりらし
い。
男を置き去りに修練場からユウリ達がいなくなって数分後、男は痛そうに頬を抑えな
がら立ち上がった。
術の才能を開花さつつある高津ミナミ。
ある花実ユウリと、同じく同僚の一人娘であり実力のバランスが良くこの年で時空間忍
甘梨フユカの幼馴染でありとんでもない身体スペックを持っている同僚の一人娘で
数年前から観察対象になっている甘梨フユカ。
で四代目火影が考案した螺旋丸と同じ見た目のチャクラの塊を作り出して空に放った
アカデミー生でありながら水の性質変化を習得し剰え形態変化をして留め、その状態
ついてねぇなぁ⋮⋮と呟きながら男は先程の光景を思い出す。
青春馬鹿を思い出しちまったぜ﹂
﹁⋮⋮いってて、これが下忍にもなってない女の子の蹴りですかこのヤロー。何処かの
39
演習2
40
彼が与えられた任務は甘梨フユカの監視・観察であり、彼女が里に甚大な被害を及ぼ
しそうになればそれを止める役割も与えられている。何故そんな事をしているのか、そ
れは原因不明ではあるが甘梨フユカのチャクラ量が異常な速度で増え続けているから
である。
このままの速度で上昇し続ければ肉体が耐えられなくなり、それが暴発して里に被害
が及ぶかもしれない。それを危惧しての任務だが、手っ取り早く殺せばいいという意見
は当然上がる。
それを押さえつけたのは現火影の猿飛ヒルゼンである。里の為とはいえ幼子を殺す
のは如何なものか、出来ることなら見守り教え導きこの里の力になって貰おうというの
は猿飛ヒルゼンの言葉。
その言葉に賛否両論は別れたが、結局は現状維持に帰結した。それというのも、この
里には九尾の狐という約十年前に木の葉を襲った化け物を身に宿した子供がおり憎し
みや危機といった感情の大部分がその子供に向いている為であった。
男は痛む頬を撫でながら自分の損な役回りに溜息を溢して、火影に今起こった出来事
を報告すべく火影邸へと足を進めた。