土木技術資料 50-1(2008) 特集:明日の社会を切り開く土木技術研究 新たな社会の期待を担う道路技術研究 瀬尾卓也 * るかは、利用者サービスやライフサイクルコスト 1.はじめに 1 低減の観点等から重要であり、修繕を行うタイミ 本格的な少子高齢社会を迎え、限られた財源の ングや維持すべき舗装状態の目標を示す管理目標 中でより品質の高い道路インフラを利用者に提供 値および維持修繕工法の提案を目的として、舗装 することが求められている。そのため、道路技術 のマネジメントに関する研究を実施している。 研 究 グ ル ープ に お いて は、 舗 装 ・ト ンネ ル を 中心 このほか、長期的計画的舗装マネジメントを補 と し た 合 理的 な 設 計 ・性能 評 価 技 術の 開 発 、既 存 完するものとして、道路の対症的維持修繕 ス ト ッ ク の機 能 を 保持 ・更 新 す る ため の 技 術の 開 (Responsive Maintenance) に 関 す る 調 査 研 究 も 発、更に、地域の環境や防災に寄与するための技 行っており、その高度化のための情報収集体制の 術研究開発に取り組んでいる。 確立や対応時間の短縮等の課題に取り組んでいる。 ア ス フ ァ ル ト 舗 装 発 生 材 は 99% 以 上 が 再 利 用 2.合理的な舗装設計と維持管理・環境対策 されているが、これまで繰り返し再利用されてき 平 成 13年 に 「 舗 装 の 構 造 に 関 す る 技 術 基 準 」 た舗装発生材や、再利用の実績が少ないポーラス が通達され、設計法や使用材料、施工法を問わな アスファルト舗装の発生材など、既存の品質規定 い性能規定化に向けた方針が示された。それを受 では対応できない材料が今後増加するものと考え けて、舗装構造の設計の信頼性と自由度を高め、 られる。そのため、これらの材料を有効利用でき 新 技 術 の 開発 ・活 用 を容易 に し 、 現場 に お いて 適 るよう品質規定の見直し等を目的とした検討を実 材適所で自由にかつ合理的な設計が行えるよう、 施している。 理論設計法の高度化を図っている。 また、道路利用者を念頭に置いた路面評価や、 路面の性能規定発注がし易い環境を整えるための 性能評価方法の確立を推進している。 理論設計法 理論設計法 材料の物理定数に基づいた 材料の物理定数に基づいた 自由な設計が可能 自由な設計が可能 (新技術 (新技術の導入へ柔軟に対応) の導入へ柔軟に対応可) 荷重P 荷重P 表層・基層 表層・基層 上層路盤 上層路盤 下層路盤 下層路盤 路床 路床 ひび割れ ひび割れ εt:アスコン層下面に生じる ε εtt 水平方向の引張ひずみ 図-2 εz:路床上面に生じる z:路床上面に生じる 舗装発生材の再生フロー 鉛直方向の圧縮ひずみ ε εzz 図-1 また、都市部の熱環境改善に向けた舗装技術に わだち掘れ ついては、路面温度の上昇抑制効果の評価方法等 について検討を行っている。 理論設計法の概要 更に、効率的な維持管理が求められている中で、 3.トンネル設計の合理化と防災・維持管理 NATMに よ り 建 設 さ れ る 山 岳 ト ン ネ ル の 支 保 どのタイミングで、どのような修繕工法を選定す ──────────────────────── Road Technology Research for the Coming Society 構 造 は 、 吹 付 け コ ン ク リ ー ト ・ロ ッ ク ボ ル ト ・鋼 ア ー チ 支 保工 ・覆 工 により 構 成 さ れて い る が、 近 - 45 - 土木技術資料 50-1(2008) 年、土砂地山など、過去の実績や経験に基づいて る 煤 煙 ・一 酸 化 炭 素 の 自 動 車 1台 あ た り の 排 出 量 設定された標準支保パタ-ンの適用外となる地山 を基に所要換気量を算定することにより実施され 条件が増加する一方、高強度の吹付けコンクリー ているが、現在用いられている自動車からの排出 トなどトンネル構造の合理化やコスト縮減に寄与 量 は 、 平 成 2年 ~ 5年 に 実 施 さ れ た 実 態 調 査 結 果 する新材料の開発が進んでいる。このため、標準 などをもとに設定されており、その後の自動車排 支保パタ-ンで設定されていない新しい支保構造 出ガス規制による排出量の低減効果が反映されて に関する研究を行っている。 いない。このため、供用中のトンネルでの排気ガ 一方,都市部においては周辺地盤へ与える影響 ス実態調査等を通じて、自動車排出ガスの低減を が少ないシールド工法を用いて、土被りが大きく、 考慮した合理的で経済的なトンネル換気施設の設 地盤条件が比較的良い場所での道路トンネルの建 計法についての研究を行っている。 設が計画されており、このような条件下において 6.00 合 理 的 な トン ネ ル の構 築を 行 う た めの 土 圧 ・水圧 5.00 煤煙排出量(m2 /台・km) 技術基準(大型車) 等のトンネルに作用する荷重の設定方法や地盤特 性を考慮した経済的なセグメント構造など、シ- ルドトンネルの設計法に関する研究を行っている。 ま た , 平 成 16年 に 発 生 し た 新 潟 県 中 越 地 震 に おいては、地震の被害を受けにくいと言われてき 煤煙(大型車) 4.00 煤煙(小型車) 3.00 2.00 1.00 技術基準(小型車) 0.00 た山岳トンネルでも多くの被害が生じており、山 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016 年度 岳トンネルの地震時における被害発生メカニズム や被害を受けやすいトンネル条件を明らかにし、 図-4 自動車1台当たりの煤煙排出量の経年変化 (土木技術資料 Vol49,No4,pp58-63,2007.4) 合理的な山岳トンネルの耐震対策を提案すること を目的とした研究を行っている。 既設トンネルの合理的な維持管理を行っていく 1.おわりに た め に は 、点 検 ・調 査結果 を も と にひ び 割 れな ど の変状が発生しているトンネルの健全度を的確に 診断し、変状の発生原因と変状状態に応じた最適 な 補 修 ・補 強な ど の 対策工 を 実 施 して い く こと が 重要である。このため、トンネルに発生したひび 割れなどの発生状況から変状の発生原因を推定す るとともに、変状状態に応じた最適な対策工を設 定する方法についての研究を行っている。 道路を含む社会資本の整備は今後も重要であり、 長年にわたってこれらがペースダウンを続ける一 方、我が国に追従する形で少子高齢社会を迎える 欧米諸国においては、国土レベルで生産性を向上 さ せ る 交 通イ ン フ ラの 重要 性 を 冷 静 ・客 観 的 に判 断し、様々な手段を講じてその拡充に努めている。 また、既存ストックの維持管理や有効活用、延 命化、新規構造物の長寿命化設計、更に高齢者や 女性、障害者にも配慮した道路の質的向上等につ いても特に研究分野において多くの課題を抱えて おり、今後ともこうしたニーズに的確に対応でき るよう、研究を推進していきたい。 瀬尾卓也 * 図-3 変状対策工の効果に関する実大実験 道路トンネルの換気設計は、換気対象物質であ - 46 - 独立行政法人土木研究所つくば中央研究所 道路技術研究グループ長 Takuta SEO
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