Activation of pyruvate dehydrogenase by dichloroacetate has the

主
報告番号
甲 乙 第
論
文
号
要
氏
名
旨
松
橋
智
弘
主 論 文 題 名
Activation of pyruvate dehydrogenase by dichloroacetate has the potential to induce
epigenetic remodeling in the heart
(ジクロロ酢酸によるピルビン酸脱水素酵素活性化が、エピジェネティックな変化を誘
導して圧負荷ストレス条件下での心臓リモデリングを抑制している)
(内容の要旨)
心不全の原因の一つに心筋細胞内の代謝異常の存在が指摘されている。しかし、細胞
代謝を修飾することで心不全が治療できるのか、またその標的分子は明らかでない。ジ
クロロ酢酸(Dichloroacetate, DCA)は、リン酸化を阻害することによりピルビン酸脱水
素酵素(Pyruvate Dehydrogenase, PDH)を活性化させ、結果としてピルビン酸のミトコ
ンドリア内への輸送を促進する。本研究ではDCAが圧負荷による心不全の発症と進展を
抑制しうるか、もしそうであればその分子機序を解明することを目的とした。
野生型マウスに対しDCA1mg, 3mg,10mgを3日間経口投与したところ用量依存性にPDH
のリン酸化が抑制された。DCA 10mg/日にてPDHのリン酸化がほぼ完全に抑制された。
このため実験にはDCA 10mg/日を使用した。野生型マウスにSham手術、横行大動脈縮窄
術(Transverse Aortic Constriction, TAC)を行った。TACにより2週間で心肥大が、4週間
では心臓収縮機能低下が観察された。DCA投与によって、TACによる心肥大、心不全が
抑制された。CE/MS を用いて心筋内代謝産物を網羅的に定量化したところ、DCA投与に
より、ブドウ糖の取り込みが亢進して、乳酸とピルビン酸が減少、アセチルCoAが増加し
た。ク エ ン 酸 回 路 の 代 謝 産 物 の 総 和 や、ATP量 に 変 化 は な か っ た。こ れ ら の 変 化 は、
Sham手術を施行した個体でもTAC手術を施行した個体でも同様に観察された。以上の結
果から、DCA投与によって、グルコース酸化の亢進は伴わず、アセチルCoAプールが増
加することが分かった。アセチルCoAは、ヒストンのアセチル化の基質に利用されるた
め、DCA投与前後でのヒストンアセチル化状態を比較した。ラット新生仔培養心筋細胞
をDCAで刺激すると、濃度依存的に核内ヒストン蛋白質H3K9やH4のアセチル化が亢進し
た。野生型マウスへのDCA投与によっても心臓において核内ヒストン蛋白質のアセチル
化亢進が観察された。ヒストンのアセチル化状態の修飾が遺伝子発現様式に変化をもた
ら し た 可 能 性 を 考 え て、DCA投 与 群、非 投 与 群 の 心 臓 に お け る 遺 伝 子 発 現 をDNA
microarrayによって網羅的に解析した。その結果、DCA投与により心臓に発現している遺
伝子の2.3% (全23,474遺伝子の中で545遺伝子)の発現が上昇していた。Gene Ontology解
析の結果、発現が上昇していた遺伝子の中に転写制御機能を持つ遺伝子が濃縮されてい
た。その中には、KLF4やKLF15など心肥大を抑制する転写制御因子が含まれていた。
以上よりDCA投与は心筋細胞内アセチルCoAプールを増加させて、ヒストンのアセチ
ル化状態を変化させることによって、圧負荷誘発性心不全に対する治療効果を発揮して
いる可能性が示唆された。