P06 カンボジア,トンレサップ湖における水質の季節変動 *大八木 英夫(日本大学文理学部) ・遠藤 修一(滋賀大学教育学部)・奥村 康昭(大阪電気通信大学 工学部)・石川 俊之(琵琶湖環境科学研究センター)・塚脇 真二(金沢大学環日本環境研究センター) 1. はじめに 3. 結果および考察 トンレサップ湖は,アジアモンスーンの影響のた トンレサップ湖の水位は,同湖から流入出するト め,雨季と乾季で湖水位・湖面積の季節変化が極め ンレサップ川とメコン川の合流点から約 250km の距 て大きい湖として知られ,東南アジア最大の淡水湖 離を 2 週間ほど遅れてピークが生じた(図 1) .メコ である.湖水位の変動は,メコン川の水理特性と密 ン川の流入することが明瞭であり,河川水の水質が 接に関連しており,雨季にメコン川の水がトンレサ 一年を通じて Ca-HCO3 型であった事から,雨季の湖 ップ川を通じて同湖に逆流し,湖水の水質に影響を の水質組成も河川水の流入水により Ca-HCO3 型に 与えているといえる.トンレサップ湖の学術的な調 なると示唆される. 査は,1970 年代まではわずかながらに行われてきた ト ン レ サ ッ プ 湖 の 水 質 は , Ca-HCO3 型 お よ び がカンボジアやその周辺諸国における政情不安など Na-HCO3 型のパターンに分けることができる(図 2) . のため,それまで収集されてきた陸水学的特徴や水 水位の低い乾季には,Na-HCO3 型の水質が,湖岸部 質に関する基礎的な調査結果も散逸しているのが現 (N-Tower, N1-1, N1-10)において認められた.水位 状である.したがって,学術上の希少性ならびに社 変動の結果とあわせると,乾季の水質変化の要因は, 会的重要性から,陸水学的特徴や生態系の維持機構 湖面積・水位が変わるにつれて湖岸を追いかけるよ を早急に評価することは必要であると考えられる. うに移動をくりかえして生活を営む水上住宅者やア 本研究は,湖水位の季節変動が生じることに着目し, ンコール遺跡群で著名な観光都市シェムリアプを通 雨季と乾季における水位変化に伴う湖水の水質特性 る支流からの生活排水の流入による人間活動の影響 について考察する. であることが考えられる.また,翌年度の雨季の湖 水の水質は,メコン川からの流入水により Ca-HCO3 2. 調査概要 型になった.したがって,トンレサップ湖の水質特 トンレサップ湖における現地調査は,2004 年 11 月より季節ごとに継続的に実施した.得られた試料 性は,水位の季節変動に伴うメコン川からの逆流水 や生活排水によって決定されると考えられる. - は,現地において 4.8 アルカリ度法により HCO3 を, その他の溶存主要成分については,実験室に持ち帰 りイオンクロマトグラフ法によって測定を行った. 図 1 トンレサップ湖とメコン川の水位変化 図 2 パイパーダイアグラム
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