ハロウィン緩和から2年、銀行は「水中生活」に耐え

リサーチ TODAY
2016 年 11 月 1 日
ハロウィン緩和から2年、銀行は「水中生活」に耐えられるか
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
今から2年前、2014年10月31日のハロウィン緩和で、日本銀行は長期国債の購入を80兆円まで増やす
追加緩和策を行った。それから2年、日本銀行は9月の総括的検証で「長短金利操作付き量的・質的金融
緩和」を開始し、事実上、長期金利ターゲティングに転じて新たな第一歩を踏み出した。下記の図表は、今
年になってからの長期金利の推移である。長期金利は年初から急に低下した。ちなみに、昨年の今頃は、
10年で0.4%、20年で1%を超える水準だった。今年1月のマイナス金利導入をきっかけに長期金利は大幅
な低下を続け、今年7月のボトムでは10年が▲0.3%程度、20年も一時的にマイナス領域になった。超長期
分野の金利水準の低下から大きなダメージを受ける生保・年金業界の悲鳴が、9月の総括的検証につなが
った。9月の見直しで日銀は10年ゾーンについては、「▲0.1~0%」程度を想定していると考えられるが、超
長期ゾーンは概ねの目安として、20年0.4%、30年0.5%、40年0.6%程度となっている。確かに、7月初のボ
トムの水準からは底上げされたものの、今回の長期金利ターゲットで現状の水準の金利がかなりの間、続く
ことを覚悟した対応が市場参加者には求められる。しかも、2016年度はそのような超低金利の状態で事実
上初の決算であることを認識する必要がある。2015年度は2016年2月以降の低金利はあったものの、その
影響は2015年度決算には限定的だったため、今年度の決算はまさに未踏の領域に入ったといえる。
■図表:年限物長期金利推移
(%)
2016年1月29日
日本銀行:「マイナス金利付き量的・
質的金融緩和」の導入
1.6
1.4
9月21日
日本銀行:「長短金利操作付き量的・
質的金融緩和」の導入
1.2
7月29日
日本銀行
次の「総括的検証」を決定
1.0
0.8
40年債
6月23日
英国国民投票
0.6
30年債
0.4
20年債
0.2
0.0
10年債
-0.2
5年債
-0.4
2年債
-0.6
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 (月)
2016年
(資料) みずほ総合研究所作成
次ページの図表は、今回のイールドカーブのコントロールのイメージである。これは、イールドカーブのな
かで、起点となる政策金利のマイナスと、10年の長期金利を「ゼロ%程度」とする2点をベースにしたコントロ
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2016 年 11 月 1 日
ールで、大まかに見て10年ゾーンまでは、マイナスゾーンの「金利水没」、それ以降の超長期ゾーンは水没
していない。 金融機関のファンディング構造を勘案すれば、預金が短期調達中心の銀行業界は概ね10
年ゾーンまでの世界が活動領域となる。一方、10年以上の長期の負債構造をもつ生保・年金業界は10年
以上の超長期分野が活動分野の中心になる。下記図表に示されたように、銀行はさながら活動領域が水
中に沈んだような状況で、「水中生活」を強いられる。一方、総括的検証で一定の超長期分野の水準は確
保されたが、保険・年金は予定利回りとの関係で逆鞘リスクの不安を抱える。一般的に銀行の収支の源は
長短金利差にある。確かに「水中」のなかでも一定の長短金利差は存在する。仮にマイナス金利の深掘り
があれば、更に長短金利差は拡大する。しかし、銀行の調達手段である預金金利のマイナス化が事実上
困難ななか、「水中生活」ではほとんど長短金利差の確保が困難だ。「水中生活」は日本だけでなく、欧州
でも見られる状況だ。ただし、今日、世界全体で約19兆ドルの債券が水没しているが、そのうち、日本が占
めるのは約8兆ドルと世界全体の半分近い状況である。それだけに、水中生活の深刻度は日本に顕著とい
う認識が必要だ。
■図表:日銀のイールドカーブ・コントロールのイメージ
(%)
0.8
量的緩和(国債購入)
オーバーシュート型
コミットメント(時間軸)
0.6
長期金利操作目標
「ゼロ%程度」
0.4
政策金利
「▲0.1%」
0.2
保険(年金)の領域
金利圧縮による
逆ざや不安
0.0
銀行の領域
-0.2
事実上、長短金利差喪失
-0.4
ターゲット(指値オペも)
マイナス金利
-0.6
0
5
10
15
20
25
30
(残存年数)
(資料)みずほ総合研究所作成
このような「水中生活」でいかに生き抜くのか。筆者は昨年来、「金利水没」のなかで資産運用を行うには
「LED戦略」とする、「長く(Long)、外に(External)、多様な(Diversify)なリスク」の3分野しか選択肢はない
とした。まず、「L」長期化については、日本では10年までが水没したなか、銀行でも超長期ゾーンに踏み込
む動きが生じうる。つまり、少しでもスプレッドがついたクレジット商品に投資対象を拡大することになる。ま
た、その延長線上でハイイールド債、バンクローン等の商品も対象になりやすい。「E」海外については、ま
だ沈んでいない国を探し、投資せざるをえない。「D」として、多様な対象に視野を広げる必要もある。また、
手数料収入等での収益の模索も必要だ。いずれにしても、フロンティアを探す必要がある。業態としては地
域金融機関で先述の「E」と「D」の比率が低いため、「水中生活」では自ずと「L」の次元で超長期分野の投
資に頼りやすくなる。いずれにしても、銀行は「水中生活」が当面続く中、「魚」のように水中で生活を続ける
わけにはいかないので、せめて「両生類」に進化して、水中から逃れたビジネスモデルを模索せざるをえな
い。まさに、「水中生活」でも呼吸ができる「エラ」のない銀行にとって、今年度は生き残りをかけた進化への
覚悟が問われる年になる。
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