レポート課題第 2 回【4/26 10:20a.m. 締切】 問 1.1(5) 命題 P :「xy = 0 ならば x = 0 または y = 0」が真であることを証明せよ. の解答例 [1]∼[19] について吟味せよ.特に,証明として通用するか?それを理解するための前提条件は何か? に着目して解答せよ. 何を出発点としているかで,証明の道筋は変わってきますが,ひとつの証明の道筋を解説とともに示してお きましょう.この命題 P の証明をきちんと理解して自分で書けるように!というわけではありません. まず,x や y を実数,あるいは整数や自然数と限定し,xy は四則演算の積,x × y を意味するものとします. 次に,0 とは何か?これは大変難しい問題です.小学校で最初に登場する 0 は,10 や 20 という数を表現す るための記号としての 0 です.そして,足し算を習うときに, 「どんな数に 0 を足しても答えは変わらない」と いう性質を学びます.これは,大学数学の一分野である「代数学」における「加法の単位元としての 0」を意 味しています.つまり,a を任意に与えられた実数とするとき, 【加法単位元】 0+a=a なお,このような元が一つしかない(加法単位元の一意性)ことは,a, b を任意に与えられた実数として, 【加法の交換法則】 a+b=b+a を前提とすることで証明ができます. 証明:加法単位元が一つではないと仮定すると,加法単位元 0, 0′ が存在して 0 ̸= 0′ である.また, 加法単位元の定義より,a, b を任意の実数として, 0 + a = a, かつ 0′ + b = b 0 + 0′ = 0′ , かつ 0′ + 0 = 0 が成り立つ.a = 0′ , b = 0 とおくと 交換法則より,0 + 0′ = 0′ + 0 なので 0′ = 0.これは矛盾である.ゆえに,加法単位元は一つである. このように定義された 0 について,皆さんもよく知っている「どんな数に 0 をかけても答えは 0 になる」と いう事実 0×a=0 ··· ⃝ 1 はどのように示されるのでしょうか?これは,a, b, c を任意に与えられた実数として, 【加法に対する乗法の分配法則】 (a + b)c = ac + bc を前提として,加法単位元の一意性から示されます. 証明:分配法則より, (0 + b)a = 0 × a + ba が成り立つ.ここで,0 + b = b であることとから ba = 0 × a + ba, ∴ 0 × a + ba = ba. ゆえに,加法単位元の一意性から,0 × a = 0 が成り立つ. 2 なお,⃝ 1 は命題 P の逆命題が真であることを示していることに注意してください. 命題 P 自身が真であることを証明するために,さらなる準備をしておきましょう.掛け算についても単位元 を考えることができます.掛け算を習う時に学ぶことですが,どんな数に 1 をかけても答えは変わりません. つまり, 「乗法の単位元としての 1」です.a を任意の実数とするとき, 【乗法単位元】 1×a=a 乗法単位元の一意性は,加法の場合と同様 【乗法の交換法則】 ab = ba を前提とすることにより証明できます. 乗法単位元 1 を用いて,乗法の逆元を定義しましょう.任意の実数 a, b に対して, 【乗法の逆元】 ab = 1 となるとき,a を乗法に関する b の逆元といいます.b ̸= 0 のとき,逆元が必ず存在することは実数の構成方 法により保証されますが,その説明は長くなるので省きます.簡単にいうと,実数は b ̸= 0 の乗法に関する逆 元が存在するように構成されています.逆元 a は,与えられた b に対してただ一つに決まること(乗法に関す る逆元の一意性)は,乗法の交換法則と 【乗法の結合法則】 (ab)c = a(bc) により証明できます. 証明:一意性が成り立たないとする.このとき,与えられた b に対して,相異なる a, a′ が逆元である とする.すなわち, ab = 1 かつ a′ b = 1 である.このとき,単位元の定義,結合法則,交換法則を用いて, a′ = 1 × a′ = (ab)a′ = a(ba′ ) = a(a′ b) = a × 1 = 1 × a = a. すなわち,a = a′ となり矛盾.ゆえに逆元は一意に決まる. 以上で準備が整いました.実際に命題 P を証明しましょう. (i) x = 0 のときは,x = 0 または y = 0 が真である. (ii) x ̸= 0 のとき,x の乗法に関する逆元 x′ がただひとつ存在して,x′ x = 1 をみたす.乗法単位元の定義 と結合法則より, y = 1 × y = (x′ x)y = x′ (xy). 一方,xy = 0 のとき,乗法の交換法則と⃝ 1 より, x′ (xy) = x′ × 0 = 0 × x′ = 0. したがって,y = 0.すなわち,xy = 0 のとき x = 0 または y = 0 は真である. 高等学校までに慣れ親しんできた算数や数学は,ある程度直観に基づいたものから展開されています.しか し,本来「数学」という学問は,直感に基づくものを出発点とするのではなく,必要最小限の約束事(公理系) がきちんと準備され,それに基づきいろいろな性質が導かれています.もちろん,その約束事というのは,直 感から得られる性質となんら矛盾が無いよう構築されています. レポート課題についてですが,正解というものを明示すべき事柄ではないので,コメントのみ記しておきま す.参考にしてください. 3 【解答例 1】もとの命題と対偶命題の真偽が一致することを用いた証明.「x ̸= 0 かつ y ̸= 0 ならば xy ̸= 0」を証明 せよ,という問題であればどうするか?そういう意味では,証明というよりも,示したい命題 P の言い 換えに過ぎない. 【解答例 2】まさに,解答例1の不備を指摘しているコメントです. 【解答例 3】背理法による証明.「x ̸= 0 かつ y ̸= 0 ならば xy ̸= 0」であることを前提としているが,これは,示す べき命題 P の対偶命題が真であることを前提にしている. 【解答例 4】「0 でない数をかけて 0 になることはありえない」という表現は不十分です.「0 でない数をかけあわせ て 0 になることはありえない」と言いたいのでしょう.これは,解答例 3 と同じで,命題 P の対偶命題 を前提としている. 【解答例 5】示すべき命題 P の日本語解釈. 【解答例 6】同上. 【解答例 7】示すべき命題 P の対偶命題の日本語解釈. 【解答例 8】確かに,必要十分条件として当然のごとく使ってきましたが,この問題は,そのうちの必要条件である ことを示せという問題. 【解答例 9】「0 をかけると積は必ず 0 になる」を前提としているが,これを認めたとしても,「よって」以降の主張 との間にギャップがある(説明不足). 【解答例 10】同上. 【解答例 11】「よって」より前に示したことは,命題 P の逆命題が真であること.「よって」以降につなげるには ギャップがある. 【解答例 12】同上. 【解答例 13】x ̸= 0 のときと y ̸= 0 のときの二つに場合分けをしているが,場合分けとしてすべてを網羅するには x = y = 0 の場合も考えるべき. 【解答例 14】「以上より」の後にギャップがある. 【解答例 15】同上. 【解答例 16】対偶ではなく,裏命題.裏命題と元の命題との真偽は一般に一致しない. 【解答例 17】背理法とするのなら,「xy = 0 ∩ (x ̸= 0∩ ̸= 0)」を仮定すべき. 【解答例 18】「x = 0 または y = 0 ならば xy = 0」の証明につながるかもしれないが,これは命題 P の逆命題であ り,これを示しても P の証明にはならない. 4
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