講演 公益社団法人経済同友会 執行役 藤巻 正志 皆さんこんにちは。経済同友会の藤巻でございます。私ども経済界、企業はご案内のと おり、大学教育の最終的な受け手という立場ですが、このような立場から経済同友会はも う長年、この教育問題に取り組んでおります。先程、ご紹介にありましたが、昨年の 4 月 に、本日の手元資料にございます、『これからの企業社会が求める人材像と大学への期待』 という提言をまとめております。本日は 2 点お話させていただきます。この提言が一つと、 もう一つは、 『新卒既卒ワンプール通年採用の定着に向けて』という提言をこの 3 月に発表 させていただきました。こちらは NHK のニュース等々で各種メディアに取り上げていただ きました。もしかしたら、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。 まず、最初に申し上げた提言ですが、大学への期待を中心に書いています。見出し項目 について、それぞれ簡単にお話いたします。「はじめに~問題意識~」ですが、ご案内のと おり、人材育成とはひとえに大学だけではなく、やはり社会全体で真剣に考え若い貴重な 人材を育てていくことである点は議論の余地がないのではないでしょうか。20 年以上前は 大学に行きますと、教員の先生から「なぜ経済界が大学に来るんだ」という、非常に厳し いご意見をいただいたこともありました。さすがに最近は少し理解が進んでいると感じま すが、まだ理解が十分ではないかというのが、経済同友会の認識であり、それでこの提言 をまとめたわけでございます。 最初に、マクロ環境の様々な変化については詳しくは申し上げませんが、最近は雇用状 況が売り手市場になっており、日本企業もグローバル競争をしていく中でそれぞれ苦労し ております。とはいえ、企業で人を沢山採用するキャパシティーはあまりなく、つまり学 生を選んでいくことになるのではないかと思っているわけです。 次に「企業側の大学に対する期待」に関して、企業がどのような能力を重視してるかで すが、このグラフにあるように、文理共通の項目がある一方、理系の学生には専門知識を 求めるが、文系にはあまり期待しないといった文理の差が大きい項目があります。この点 については、企業が期待する文系の専門知識や研究内容が大学で十分教えられていないの ではかという疑義があります。従って採用の現場において、企業が学生に対して大学で学 んだ専門知識を問うことがあまりないことにつながっているのかもしれません。 それでは企業はどのような人材が欲しくて、どのようなことを求めているのかですが、 大きく四つのカテゴリがあります。まずはよく言われていることですが、課題設定力、解 決力。次に、先ほどもご紹介した耐力、胆力。要するにストレスコントロールです。それ から多様性を尊重して異文化を受け入れながら組織力を高める力。最後によく言われてい るコミュニケーション能力です。大学の教員等から「企業はいつもコミュニケーション能 力が必要と言っているが、抽象的で分からない。では、どういうことを大学で教えたら、 1 企業が言うコミュニケーション能力が高まるのか」という質問をよくいただきます。後ほ ど、少し詳しくご説明いたしますが、面接等で学生が「私は本当にコミュニケーション能 力があり居酒屋のアルバイトでもお客さんからの受けがよく、女性とも非常にソフトに話 ができるので、みんなから好かれている」と言います。確かにそれは素晴らしいことだと 思います。ただ、私どもが言っているコミュニケーション能力はそれだけでは足りなくて、 あえて申し上げると、組織には、特に企業には 20 代初めの新人から 60 代の年配の方まで おり、世代間の価値観を超えて、いかに業務としてのコミュニケーションが取れるのかが 必要となります。いかにその相手の懐に入り、理論をちゃんと理解をして納得できるよう な環境を作りながら説明ができるのかということ。皆さんが恐らく組織の中で、こうした 点を意識しながら、仕事を進めているように、学生にもそうした力が高まると、非常に喜 ばしいと思います。 また、入社後に活躍している社員とはどんな社員かについて、アンケート取ったことが あります。企業のアンケート結果と、今回同友会が提言した、求める資質能力はおおむね 合致しています。今申し上げたことと重複いたしますが、やはり課題設定・解決、それか らやはりストレス耐性は極めて重要です。こうした力はコミュニケーション能力をベース にしながら培われていくのではないでしょうか。 次に、私ども同友会は経営者の団体のため、新人、新卒の採用に当たって、経営者がど のような認識を持っているかを、列挙しました。いろいろな経営者の認識がありますが、 「入 社して何をしたいのかがよく分からない新人が多い」ことは、多くの意見として寄せられ ています。 企業が大学に期待する役割は、アクティブ・ラーニングによるコミュニケーション能力 の向上や、留学、インターンシップ、ボランティアといった学外の経験を積んでほしいと いうことです。また、学生がもう少し主体的に自分のキャリアビジョンをしっかり持って、 そのために大学 4 年間で何をしたらいいのか考え、能動的に学修できるようになれば、素 晴らしいと思います。 一方、社会で人材を育てていくにあたり、企業が何をするかですが、企業というのは、 当然、経営者がいて、そのビジョンをしっかり守って、グローバルでも国内でもマーケッ トで競合他社に対して戦っていくという立場です。お客さまに当然、いい品質の物やサー ビスを提供するということが一番の目的です。そのために、企業が求める人材像をもっと きちんと発信したほうがいいと考えます。第二に、採用選考で学業成績も聞いてはどうか と思います。学生が面接で言うことは、アルバイトや、部活のことがほとんどです。それ 以外の経験を学生がするのもなかなか難しいことのですが、やはり学生の本分である、学 業の成果を問う必要があると思います。3 年生とか 4 年生で、まだこれからというご意見も あるかもしれませんが、しかしそれまでに得たいろんな知識とか、自分なりのものの考え 方などを教えていただければありがたいと思っています。 先程申し上げた、「コミュニケーション能力がよく分からない」という教員の声に対して 2 ですが般的に言われているコミュニケーション能力よりは、少し掘り下げて示しました。 ただ具体的になればなるほど個社ごとに違ってきますので、あくまで例示ということで見 ていただきたいと思っています。一つは「学生時代の学びの成果」ですが、ここに書いて あることは大体熱心な大学ではかなり実践されているという期待もあるのですが、特に「ゼ ミ等で課題解決型のディベートとかアーギュメント」をちゃんとやっていたかどうかは聞 きたいことです。それから「自分のキャリアを企業に入ってどう生かしたいのか」、「どん なビジョンを持ってわが社に入ってくれたのか」、「どういう貢献をしてくれるのか」は必 ず聞きたいですね。これがちゃんと答えられないと多くの企業は採用を躊躇するかもしれ ません。また、「人や社会との交流」の中で、例えば、インターンシップとありますが、最 近、企業の人事関係者もインターンシップへの関心が強いですね。インターンシップに参 加した実績は、企業でしっかり見ています。従って、提言でも言っているように、学部 1、 2 年生からのキャリア教育の観点での就業体験として、インターンシップをぜひ経験してい ただきたいと思います。先ほど申し上げたコミュニケーションですが、とにかく相手を説 得する、理解を促す。これが真のコミュニケーション能力です。ぜひこうした力が備わる 場を大学で学生にご提供いただきたいと思います。「求められるコンピテンシー」でやはり 重要なのは先程も申し上げたストレス耐性です。これから本当にストレスが増すような企 業の経営環境もある中で、それを乗り越えて新しい分野、付加価値を求めていくことが求 められます。従って、そこで打たれ弱いとなかなか前に乗り越えて行けません。これは一 流大学を出たかどうかはあまり関係ありません。従って、これは企業にとって学校や学部 は問わず、その学生の持っている資質という意味ですごく重視したい項目です。 「企業と大学が協力すべきこと」は、同友会でインターンシップという形で実践してい ます。「課題」に対して「望ましい枠組み」を整理しています。大学全体でインターンシッ プの重要性を認知して一致団結して学生を企業に送り出すことが必要ではないでしょうか。 そうなれば当然何を研修するのかという中身は、大学に責任を持ってやっていただきたい と思います。プログラムの開発は企業と連携して開発することになるかもしれませんが、 大学でもしっかりやっていただいたうえで、単位も与えていただくことが重要ではないか と思います。そうなると中身が濃いので当然 1 週間で終わるわけもなく 1 カ月ぐらいがス コープに入ってきます。こうしたインターンシップを学部の 1、2 年生からやると、真剣に やっている学生はすごく気づきを得ます。1、2 年生で気づきを得ることが大事で、そうす ると大学まだ 2 年、3 年と残っているわけです。大学に戻ると、その得た気づきが欠点なら 克服するし、長所はさらに伸ばすということで、ものすごく学習意欲が高まる学生が多い と思います。従って、若いうちからなるべく早くインターンシップに参加することは極め て意義の大きいことではないかと思います。 企業がインターンシップの現状をどう見ているのかですが、なかなか長期のインターン シップをできないという実情もあります。多分、大学から要請があり企業として受ける形 になると思います。やはり、企業としては大学の考えをしっかり伺った上で責任を持って 3 学生さんを受け入れることになりますので、企業と大学のコラボレーションがしっかりで きないと、本当のインターンシップは進まないのではないかとの実感を持っています。そ して残念なことに、本格的な学部 1 年生からのインターンシップが日本に定着する前に、 企業がインターンシップの名称を使った採用活動を、3 年生を中心に先行して行うようにな っています。真の意味でのインターンシップが世の中に本当に伝わっているのか、甚だ疑 問に思っています。経済同友会は「1day インターンシップ」をインターンシップとは認知 していません。従って、今申し上げたように本当に教育的効果のある 1、2 年生のインター ンシップこそ、まさにインターンシップだとして実践をしています。 経営者の視点で見たインターンシップの課題をまとめていますが、これもいろんな課題 があるとは思います。これは企業によっても違いますが、私が見る限り、少し努力をすれ ばそれぞれ解決するような課題が多いのではないかと思っています。 「大学への期待」については4つ掲げています。大学人にとっては少しきついように聞 こえるかもしれません。実際一部そういうところもあります。①の大学のビジョンは、い うまでもありません。それから②の「国際化の対応」もかなり実践されている大学は多い のではないかと思います。一つのポイントとして全学の取り組みという観点からいっても 組織の問題、あるいは人材の問題として、③「教職員の資質能力の向上」があります。頑 張って実践されている方が多いこともよく存じ上げていますが、一般的には教員評価、あ るいは大学職員の資質能力の向上は、重要な点として申し上げたいと思います。特に職員 の方については、今回、経済同友会として初めて提言しましたが、職員の方が学内でキャ リアビジョンをしっかり描いてどのような貢献をしていくかといった、役職や処遇も含め てしっかりと描かれているかどうか。組織として、つまり大学のキャリアセンターの職員 の方々をモティベートするような何らかのインセンティブがあるのかないのか。これは一 つの重要な論点ではないかと思っています。④は結果として一番大事な「卒業生の資質能 力の保障」をお願いしたいと思っています。これは先ほど申し上げたようなプロセスを経 ながら、大学 4 年間でしっかり人材の資質・能力を高めて卒業証書をお渡しいただきたい ということです。 次は学生への期待ですが、学生といってももう大人ですから、やる気をもって真剣に学 ぼうという姿勢がないと、いくら周りが言ってもなかなか成果に結びつかないと思います。 二つ目として「専門知識とそれを支える基礎力の修得」があります。それから三つ目は政 府も取り組んでいますが、海外留学を経験してもらいたい。そしてインターンシップにも 取り組んでいただきたい。 提言の「おわりに」の「大学、学生へのメッセージ」ですが、これまでの繰り返しにな ります。これからの社会が求める人材として、まず、日本がグローバル競争で勝ち抜くと いう観点で、英知と活力に溢れて、世界で本当に通用する人材がほしいという思いが、大 きな期待としてあります。そして、同時に、耐力、先程から申し上げているようなストレ スコントロール力です。それを柔軟に対応して自ら道を切り開くということができる学生 4 を求めています。三つ目ですが、日本社会は、グローバルな産業だけではなく、しっかり 地元に密着した産業があって初めてワークしているわけです。ですから、そうした地元の 現場でしっかりスキルを発揮して活躍する人材も極めて重要と認識しています。そのため、 大学に求められることは、ここまで申し上げてきたように実社会で生き抜く基礎力を身に つけることを、ぜひやっていただきたいと繰り返し述べさせていただきます。 提言の一番最後では通年採用に移行することが望ましいと触れています。これは次の意 見の中でご説明いたします。一言で言うと、企業も大学に多様な学びを求めることになる と、一生懸命な大学ほど多数のプログラムを作ったり、あるいは非常に柔軟なシラバスや カリキュラムを組むようになってくると思います。そうなると、今のように新卒一括採用 で、期限までに決めないと就職できないというのは、少しリジットすぎるのではないかと 経済同友会では考えています。その辺りを含めて次の話をしたいと思います。 それでは、次にこの 3 月に発表いたしました『新卒・既卒ワンプール/通年採用の定着 に向けて』という意見についてご説明いたします。昨今、就活問題は社会問題になってい ると思います。私の勤務する経済同友会は丸の内にあり、大きな会社の本社等が林立して います。地方から上京した学生さんが就職活動で道に迷っていると、本社まで案内してい ます。学生にしなくていい苦労はさせたくないというのが同友会の思いであり、そうした 点はこれからも発信を続けていきたいと思っています。新卒一括採用の弊害については、 よく言われていますが、やはり人生ワンチャンスというのは日本のよくないところではな いでしょうか。もっと申し上げれば、今回、同友会は卒業後 5 年までは、新人採用の土俵 に乗せて同じ選考をして、エキスパティーを求めるのではなく新人としてのコンピテンシ ーで採用しようという懐を広げた提言をしました。卒業後 5 年以内の方々には、恐らく学 校を出てギャップイヤーを活用した若者もいるでしょうし、いろんなアルバイトをやりな がらどのような職があるのかを見つけた若者もいるでしょう。一度就職したもののミスマ ッチ等で 3 年ぐらいで辞める学生が多いようですから、もう一度採用を受け直す機会を与 えることも必要です。若いうちは、やはり数年の試行錯誤はあってもいいと思います。長 い人生、一生懸命頑張ってやっていく、その自分が就く仕事を探す前段階の数年間の試行 錯誤はやはり認めるべきではないかというのが経済同友会の考えです。今の一括採用の枠 組みが必要かどうかも議論をしたのですが、やはり企業で一定の採用計画をきちんと立て て、一定レベルの新人を取って、企業の中で育成したいという思いがあり、新卒一括採用 はその理想にかなっています。それから学生側の新卒一括採用のニーズもやはりあり、経 済的事情のある学生は大学を出てからすぐ勤めて稼ぎたいという思いがあるわけです。従 って今回の提言でも、一括採用の枠組み自体は残しています。ただし、それにワンプール という形で卒業後 5 年程度までの既卒者も採用選考の対象に加え、しかも新人として採っ ていくことを打ち出したわけです。この辺りはメディアからもいろいろ質問等も来たとこ ろですが、何とかこれを定着させていきたいという思いがあります。現状の新卒一括採用 のみは将来的にはなくなっていき、将来的には新卒・既卒関係なく、企業がいつでもその 5 門戸を開く通年採用と、新卒一括採用の対象に既卒者を対象とする「新卒・既卒ワンプー ル」の二つの柱が、まずは定着するということが重要と考えているわけです。 新人採用に関し、企業がなすべきことは先ほどの繰り返しです。違う点について申し上 げると、エントリーシートの問題があります。エントリーシートは皆さんご案内のとおり、 大企業にはもう数千件、数万件のエントリーシートが来るため、業者に依頼して、絞り込 みを行っていることもあるようです。何とかこの方法を変えることができないかと同友会 でも議論していきたいと思っています。真剣にエントリーシートを書いている学生も多い ので、ぜひそういう思いを企業の人事担当が直接読んで汲み取るように何とかならないか と知恵を出したいと考えているところです。次に、先ほど申し上げた学びの重要性。これ は教員にも十分にやっていただきたいと思っています。 最後に「望ましいインターンシップ」ですが、これは実際に先ほどご説明した提言を受 けて早速実践して取り組んだ内容です。既に報道で取り上げられていますが、いろんな大 学、地方の学生に入ってもらい、私どもの会員の 17 社とマッチングをして 70 名ぐらいの 学生をインターンシップに参加する枠組みを構築しました。以上でございます。ご静聴い ただき、どうもありがとうございました。 6
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