介護保険15年の軌跡 介護保険15年の軌跡

現場からのオピニオン
∼介護現場はいま∼
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∼介護現場はいま∼
介護保険15年の軌跡
全老健神奈川県支部代議員、老健ぬかだ理事長
く ぬ ぎ
とおる
㓛刀 融
日本においては、介護は家族の問題という意
識が長くある。世界一の長寿国になり人口減
少・少子高齢化が進むなか、寝たきりや認知
症患者の増加、介護の長期化は深刻な問題だ。
国はこのような背景から、それまで医療費
で賄ってきた財源に限界を覚え、2 0 0 0 年に
新たに介護保険制度を施行、6 5 歳以上を第1
号被保険者、4 0 歳以上 6 4 歳以下を第2号被
保険者として介護保険料を徴収し、原則 6 5
歳以上の要介護者の介護財源を賄う制度をス
タートさせた。
社会保障給付費と日本の人口動態
介護の人材不足は喫緊の課題
医療費・介護費・年金等を含めた社会保障
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給付費総額は、2 0 0 0 年に 7 8 兆円、2 0 1 4 年
には 1 1 5 兆円と大幅に増加している。社会保
障 給 付 費 の 一 般 会 計 歳 出に占める割 合も、
2 0 0 0 年に 1 9 . 7%、2 0 14 年には 3 1 . 8%に増
加している。社会保障給付費の大きな割合を占
める医療費と介護費に焦点をしぼってみると、
2 0 1 1 年は医 療 費 が 3 8 . 6 兆 円、 介 護 費は 8
兆円。このうち医療費を診療種類別にみると、
調剤医療費の増加が最も大きく、アメリカ、フ
ランス、ドイツ、日本のなかでは日本がトップ
である。次いで入院医療費、診療所外来費の
順に増加している。日本の医療費・介護費の
増加を諸外国と比較すると、リーマンショック
を受けて 2 0 0 9 年以降、水準としてはイギリス
と並んで低く、増加幅も突出したものではない。
しかし、薬剤費は 2 0 0 0 年代にドイツと並んで
低かったのが、アメリカと並んで主要国のなか
で最も高い水準となっている。
つぎに日本の人口動態だが、2 0 1 2 年の 1
億 2 , 7 3 0 万人をピークに徐々に減り続けてお
り、2 0 5 5 年には 8 , 6 7 4 万人にまで減少する
と推定されている。その内訳は、生産年齢人
口(1 5 歳 ~ 6 4 歳 ) の 割 合 が、2 0 1 2 年 の
6 2 . 1%であったものが、推定では 2 0 5 5 年に
5 0 . 9%にまで減少する。
また、高齢化率(6 5 歳以上の人口割合)は
2 0 1 3 年に 2 5 . 1%であり、予測では 2 0 5 5 年
に は 3 9 . 9 % に 上 る。 先 に 述 べ た 介 護 費 は
2 0 1 1 年の 8 兆円から 2 0 2 5 年には 2 1 兆円に
上ると推計されている。介護保険料も 2 0 0 0
年の介護保険スタート時点では、全国平均で
2 , 9 1 1 円 で あ っ た が、2 0 1 1 年 は 4 , 1 6 0 円。
これが 2 0 2 5 年には 8 , 2 0 0 円程度になると推
計されている。介護保険制度における要介護
者の認定者数は、2 0 0 0 年は 2 1 8 万人、2 0 1 1
年には 5 0 8 万人に増加。今後は年間 1 5 万人
ずつ増加すると予測される。
生産年齢人口の減少と、要介護者の増加に
よる介護の人材不足は喫緊の課題だ。介護職
員数はこの 1 2 年間で約 3 倍に増えたが、こ
れは介護施設や事業所の増加によるものであ
る。2 0 2 5 年には 2 3 7 万人~ 2 4 9 万人の介護
職員が必要といわれている。ちなみに 2 0 1 2
年度の介護職員数は約 1 4 9 . 9 万人、日本の人
口動態と要介護者の推移からみても、日本人
のみで介護人材の確保は困難だ。しかし、外
国からの合法的人材確保も容易ではない。言
葉の問題、特に読み書きが難しく、外国人の
介護・看護の資格取得はかなり困難である。
制度的に外国人を受け入れ、教育する公的機
関が非常に少なく、その費用捻出も課題が多
いのが現状だ。加えて、介護を受ける側が外
国人による介護になじめないという問題もあ
る。外国人に身体的介護をされることに抵抗
や不安を感じる方もいる。
神奈川県も全国推移同様
事業者と県が協調していくことが足がかり
さて、ここからは神奈川県における現状に
触れる。神奈川県は介護給付適正化の取り組
みを行っているが、第 1 号被保険者数は急速
な高齢化の進展により、2 0 0 0 年に 1 2 0 万人
だったのが 2 0 1 3 年に 2 0 4 万人になり、約 7
割増加した。また、第 1 号被保険者の要介護
認定者は平均寿命の延びなどの要因で、2 0 0 0
年 に は 10.5 % だ っ た の が 2013 年 に は
1 9 . 7%に推移している。介護サービス受給者
については、2 0 0 0 年の 9 . 1 万人から 2 0 1 3 年
には 2 7 . 4 万人と 3 倍増。それに伴い介護給
付費も 2 0 0 0 年の 1 , 4 1 2 億円から 2 0 1 3 年に
は 4 , 6 4 0 億円と 3 倍以上増加している。これ
らの数値からも明らかなように、神奈川県も
全国推移同様であるが、介護保険制度自体が
創設時とは大きく変化していくなかで、その
持続性を高めていくことを念頭に介護給付の
適正化という視点で対応している。
この神奈川県の介護給付適正化事業には、
高齢者が可能な限り、個々の能力に応じて自立
した日常生活を送れるようにするとともに、限ら
れた資源を効率的・効果的に活用するために事
業者と県が協調していくことが望まれる。
人口問題、生活習慣、社会保障の財源問題
など、極めて難しい問題が山積しており、早
い段階で将来を見据えたシステムの構築をし
ていかないと、介護施設はかつての姥捨山に
なりかねない。介護人材の確保は、国による
早急な制度化を望む。法的整備や認識を変え
ること、教育の問題、外国人の介護人材定着
の問題など、個別対応では解決できない諸問
題があるので、国策としての制度化を切望す
る。
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