Kobe University Repository : Kernel Title B to B マーケィングにおけるサービス志向アプローチの 課題と可能性(Service-Oriented Approach to B to B Marketing) Author(s) 南, 知惠子 / 西岡, 健一 / 坂間, 十和子 Citation 国民経済雑誌,205(4):11-22 Issue date 2012-04 Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 Resource Version publisher URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81008397 Create Date: 2016-10-31 B to B マーケティングにおける サービス志向アプローチの課題と可能性 南 知 惠 子 西 岡 健 坂 間 十 和 子 国民経済雑誌 第 205 巻 一 第4号 平 成 24 年 4 月 抜刷 11 B to B マーケティングにおける サービス志向アプローチの課題と可能性 南 知 惠 子 西 岡 健 一 坂 間 十 和 子 近年の, 企業の顧客への提供物として製品・サービス一体型をめざすサービス化 現象は,「サービス志向アプローチ (service-oriented approach) と呼ばれ, 学際的 に研究上の関心を集めつつある。本稿は, サービス志向アプローチが進行する現実 に対して, マーケティング的視点から, 売り手となる企業は顧客企業に対してどの ようにアプローチすべきか, とりわけ顧客に対する価値形成と, その基盤となる企 業間関係の問題に焦点を当て, 先行研究を整理するとともに, 望まれる研究領域に ついて提言することを目的とする。 キーワード サービス志向アプローチ, service-oriented approach, B to B マーケティング, 顧客価値, 企業間関係 1 は じ め に 近年, 製品を顧客企業に提供する際に, サービスを補完的に考えるのではなく, 製品とサー ビスを一体化して捉え, 付加価値をつけることで顧客にサービス提供する動きが産業界にお いて注目されている。この製品・サービス一体型をめざすサービス化現象は,「サービス志 向 (service-oriented) アプローチ」と呼ばれ, サービス・マネジメント分野のみならず, オ ペレーションズ・マネジメント分野におけるサービス領域などの研究領域で関心を集めつつ ある。この背景には, とくにエレクトロニクス製品など, 製品のコモディティ化の進行によ り, 製造業者にとってもはや製品のみでは収益性を確保することが困難になっているという 現状がある。バリュー・チェーンにおいて組み立て製造プロセスには収益性を確保する機会 があまりなく, むしろ下方の販売サービスや, 保守運用サービスへ目を向けるべきだという 主張が表れて久しい(例えば Wise and Baumgartner 1999)。 製品とサービスを区別せず, 一体化して扱う傾向には様々なパターンがあり, 例えば IBM が1990年代半ばに, 自社製品の製造・販売を中心とするビジネスから, ハードウェアやソフ 12 第205巻 第 4 号 トウェア, サービスを統合し, ソリューションとして提供する, サービス中心のビジネスモ デルに転換したことはよく知られているが, 設置型 (Installed Base) の製品に関しても, 付 随するサービスを積極的に開発していくような傾向が最近顕著に見られる。例えば, GE (ジェネラル・エレクトリック)は, 航空機エンジンを製造するのみならず, 部品の整備や 修理, メンテナンス計画や管理を包括的なプログラムとして, すなわちサービス・パッケー ジとして, 付加価値をつけて提供・販売している。 製造業におけるサービス化議論では, 製品中心のビジネスから製品・サービス一体型のビ ジネスへの転換が主張されるものの, その前提条件や成功に導く要因に関する研究はまだ緒 についたばかりである。顧客に対してカスタマイズしたサービス提供が製品の差別化につな がるという考え方がある一方(例えば Ulaga and Eggert 2006), 高付加価値, 高収益性をめ ざしたサービス投資が必ずしも収益性向上につながらないというサービス・パラドクスの問 題 (Gebauer et al. 2005) も指摘されている。本稿は, このようなサービス志向アプローチ の現実に対して, マーケティング的視点から, 売り手となる企業は顧客企業に対してどのよ うにアプローチすべきか, とりわけ顧客に対する価値形成と, その基盤となる企業間関係の 問題に焦点を当て, 先行研究を整理するとともに, 望まれるべき研究領域について提言する ことを目的とする。 2 B to B 取引におけるサービスの特徴とサービス志向プロセス 2.1 インダストリアル・サービスの特徴と分類 サービス分野においては, 消費者を対象とするサービスセクターに焦点を当てたサービス・ マネジメントやサービス・マーケティングが発展してきたことが指摘されるが, サービス志 向アプローチを検討する際には, 企業間におけるサービス取引について注目する必要がある。 Jackson and Cooper (1988) は, インダストリアル・サービス(企業を対象とするサービス 財)は, 専門化と技術によって特徴づけられるとしている。ここで専門化とは需要する側の 企業・組織へのカスタマイゼーションの必要性を指し, また組織的なニーズの複雑性から高 度な技術が要請されるとしている。Jackson et al. (1995) はインダストリアル・サービスに ついて, MRO (maintenance, repair, and operation:保守運営) 型サービスと, 製造サービス すなわち, 製造過程の一部を構成するサービスとを区別している。 近年では, インダストリアル・サービスに関して, 様々な考えに基づき, 分類がなされて きている。 Goffin (1999) は製品サポート・サービスを製造業者にとって重要な収益源として 考えている。一方, Mathieu (2001) は, インダストリアル・サービスの性質について, マ イクロエレクトロニクス産業の主要な欧州のサプライヤーやクライアント, 流通業者にイン タビュー調査を実施し, 主題内容分析と語句分析を行っている。彼はサプライヤー側による B to B マーケティングにおけるサービス志向アプローチの課題と可能性 13 保守などの製品サポートと, クライアント側の活動(例えばトレーニングなど)をサポート するサービスとを区別することを唱道している。前者が製品機能を保障するタイプのサービ スであるのに対し, 後者の方は, サービス提供により, クライアント組織のミッションを高 めることを提供側がめざしていることになる。 さらに, 活動や顧客の問題解決, 顧客との相互作用といったサービス次元の識別 (Edvardsson et al. 2005) や, 顧客側のサービスの利用形態によるサービス分類 (Wynstra et al. 2006) が主張されている。具体的には, Wynstra et al. (2006) は, 9 つの企業におけるサー ビスの調達手順に関する探索的調査結果を基盤とし, サービスを次の 4 つの分類, 1) コン ポーネント型サービス (component services), 2) 半製造型サービス (semi-manufactured services), 3) 用具的サービス (instrumental services), 4) 消費型サービス (consumption services) に分類している。航空業界を例にとると, コンポーネント型サービスは, 荷物の 輸送等にあたり, 半製造型のサービスとしては, 運航計画を決める天気予報サービス等, 購 買企業側の活動プロセスに何かをインプットするようなサービスが挙げられる。用具的サー ビスの例としては, サービスの購買企業がその主たる業務活動を実行するやり方を変容させ るのに用いられるようなサービスを指す。例えば航空会社での経営コンサルティングがそれ にあたる。消費型サービスは, オフィスの清掃サービスのように, サービス購買企業内で使 用されるようなサービスを指す。 2.2 統合的ソリューションへの志向 上記に述べたように, B to B サービスには様々な種類や次元があり, それぞれを区別し て管理し, 顧客にアプローチする立場だけではなく, 近年ではサービス提供の捉え方自体に 変化が生じてきている。サービス志向アプローチと呼ばれるのは, 主として機器などの製造 業者が所有権を顧客に移転するのではなく, 自ら所有権を保持しつつ, 顧客のニーズを満た し, 顧客価値を向上させることをめざすアプローチが見られるようなビジネスのコンテクス トである。さらには, 機器を顧客企業内に設置して, 保守運営をサービスとして取引すると いったビジネスではなく, 自社の所有する機器を顧客企業内に導入し, サービス財としてそ の機器が顧客ニーズを充足していこうとする顧客アプローチである。つまりエアコンプレッ サーの機械を設置するのではなく, 圧搾空気を顧客にサービス販売することで, 顧客のビジ ネスに役立てようとする考え方や実践である。サービスの提供が製品の付属物ではなく, 顧 客ニーズへの充足, すなわち顧客への問題解決(ソリューション)となる。 このソリューションという考え方は, 製品供給の際のスペア部品や設置, 保守運用サービ スを補完的に提供するという従来型のしくみとは異なり, 企業からの提供物を統合化すると いう特徴を持つ。統合化されたソリューションに関する企業アプローチのパターンとして, 14 第205巻 第 4 号 次のように様々な考え方がある (Windahl and Lakemond 2010)。すなわち, 1) 不完全なも のからより完全なものへの移行 (Penttinen and Palmer 2007), 2) 非バンドルからバンドル 化への移行 (Stremersch et al. 2001), 3) システムからソリューションへの移行 (Davies et al. 2007), 4) 製品志向からプロセス志向への移行 (Oliva and Kallenberg 2003) という捉え方で ある。 統合化されたソリューション提供へと戦略を変化させていくことは, 組織的な対応を必要 とするが, その変化は企業がバリュー・チェーンの中で自らの役割をあらためて位置づけ直 すことを意味する (Davies et al. 2003, Foote et al. 2001, Galbraith 2002)。設置型の製造業者 によるサービス提供が, ハードの設置後, 保守・運用サービスを提供するならば, 製品とサー ビスとを分離して考えるということになりがちであるが(例えば Oliva and Kallenberg 2003), 一方で, サービス志向において戦略的あるいは組織的な変化を強調する研究群は, 主として, サービスを運用面での提供物として捉えている(例えば, Penttinen and Palmer 2007)。後 者のタイプの研究は, サービス提供に関して, 製品とサービスをより統合的に捉える視点を 持っており, ソリューションにおいて研究開発部門までをも含めた関連性の重要性を強調す る。 統合化されたソリューション提供というアプローチにおいては, ハードである製品とサー ビスは同じ目的を持ち, 顧客企業の業績向上やコスト削減に焦点を当てている。しかしなが ら, 統合的ソリューションについての定義は比較的曖昧といえ, 資本財と消費財の両方を概 念的に含み, また顧客ニーズに関する特定化はされず, 具体例も乏しいことが Windahl and Lakemond (2010) により, 指摘されている。 1 つ目のサービス志向アプローチの傾向としては, 自社製品を補完するサービスと, 顧客 ビジネスをサポートするタイプのサービスとを区別し, 後者への移行を強調する立場がある (Galbraith 2002, Mathieu 2001, Phillips et al. 1999)。Galbraith (2002) は, 顧客中心的な戦略 を採るべきであることを強調し, 製品・サービスの組み合わせによるソリューション統合お よび組織的な変化を主張している。同じく顧客に関連する特定の事象や問題への対応を主張 しつつ, Stremersch et al. (2001) は, 製品とサービスとを包括的にバンドルする「フル・ サービス」という概念で捉えている。彼らは, オランダ・ベルギーのメンテナンスマーケッ トにおいてインタビュー調査・コンジョイント実験を行い, フル・サービス契約は高価格で あり, 高い複雑性や長期間の顧客へのコミットメントをともなうため, 顧客企業の意思決定 者によって包括的に評価されると主張した。さらに, 顧客企業にとって, フル・サービスの 評価基準は, 特定のメンテナンスコストよりも, コスト削減や向上のパフォーマンスの改善 が重要であると指摘した。 一方, 上記のような製品・サービスの組み合わせといった考え方ではなく, 製品の持つ B to B マーケティングにおけるサービス志向アプローチの課題と可能性 15 「機能」部分のみを提供するというアプローチも主張されている (Kumar and Kumar 2004, Markeset and Kumar 2003)。このタイプのサービス提供は, 顧客側には機器設置など製品自 体の所有権の移転が行われず, 製品のもたらす機能のみを, サービスとして, 提供企業から 購入することになる。この場合において顧客企業は, 機械システムの運用や保守について責 任を持たない (Markeset and Kumar 2003)。 すなわち, サービス志向アプローチにおいて, ハードとサービスとの組み合わせに焦点を 置く場合と, 製造業者が製品ではなくサービス自体を提供する場合への注目が見られ, 提供 企業においても顧客企業においてもバリュー・チェーン自体の変化をともなうことになる。 このようなバリュー・チェーンの変化について, Miller et al. (2002) はソリューションを, 1) クライアント企業のバリュー・チェーンの一部の業務を請け負うバリュー・チェーン統 合型, 2) 製品・サービス統合型, さらに 3) バリュー・チェーン型と製品 サービス型 との組み合わせの 3 つのタイプがあるとしている。 3 サービス志向アプローチへの移行の条件 製造業者がサービス志向を持つときにとり得るアプローチとして, 製品・サービスの統合 や, バリュー・チェーンの再編成など, 様々なタイプがあることを述べてきたが, 実際に自 社の提供物を製品からサービスへ変化させていく上でのボトルネックや必要な要因について も注目されてきている。 Shepherd and Ahmed (2000) は, コンピューターと電子機器産業に注目し, ソリューショ ンを促進させる要因として, 1) 技術的能力, 2) 統合化能力, 3) 市場/ビジネスに関する 知識, 4) 顧客パートナリング能力の 4 つを識別している。 製造業者によるサービスへのビジネスのシフトやサービス開発の困難性も指摘されている。 収益性改善をめざした付加価値型のサービス開発が必ずしも成功していない現状を Gebauer et al. (2005) は,「サービス・パラドクス」と呼んでいる。彼らは, 30以上の機器製造企業 とビジネスを行い, 機器製造企業のサービス化へのシフトが成功しない要因として, 担当す るマネジャーのモチベーション要因, つまり製造業者による製品・技術重視や, 取引額にお けるサービスが占める割合の低さ, 組織的に不十分なコミットメントなどを挙げている。そ して, 製品にサービスを付加するタイプではなく, 顧客に付加価値を提供できるようなサー ビス開発が強調されている (Gebauer et al. 2005, Gebauer and Friedli 2005)。 Oliva and Kallenberg (2003) は, ドイツの資本設備を製造する11企業に半構造化インタビュー を行い, 資本財業界における設置型の製造業のサービス開発・提供を研究対象としている。 彼らは, サービス化のプロセスは, 製品志向から顧客の業務プロセス志向への変化と, 顧客 との相互作用が一回一回の離散的なものから, 関係継続的なものへと変化していることを述 16 第205巻 第 4 号 べている。製品からサービスに基づくソリューションへの移行について, Matthyssens and Vandenbempt (2008) は, オランダの電子産業で実施されたインタビュー調査をもとに, 具 体的に段階的な戦略を提唱している。彼らは, 製品志向の製造企業が, サービス指向のソリュー ション企業へ移行するステップは急進的なものではなくインクリメンタルなものであり, 1) ビジネス・プロセスの統合, 2) 専門的な適用, 3) ターンキー・ソリューションの 3 段階で あると主張している。最初の段階では, 提供側の企業は, 顧客の業務プロセスにソリューショ ンを統合していくことにより, 顧客価値を付加していくことが求められる。アウトソーシン グといったソリューションがこの段階にあたる。第 2 段階としては, 顧客の特定化されたニー ズに対して, チューニングされた専門特化したソリューションを提供することにより, 価値 を加えることが求められ, 最終段階では, 両者の戦術を組み合わせることで, より統合化さ れたソリューションを提供する企業になる, としている。 4 サービス志向アプローチの特徴 4.1 サービス提供企業と顧客企業との関係性 製造業者がサービス志向を高めていくプロセスにおいて, サービス提供企業と顧客企業と の関わりは, 関係的であることが指摘されている (Gebauer et al. 2005, Mathieu 2001, Oliva and Kallenberg 2003)。顧客企業から見た場合に, 業務をアウトソーシングしているように 見えながらも, 提供側企業は, 顧客のビジネス・プロセスの一部になり, 提供されるソリュー ションは, 顧客のビジネスへ統合された一部となり, 緊密な協調関係やリスク共有が必要と されるようになる (Windahl and Lakemond 2006)。 顧客との取引が関係的であるとは, 信頼に基づく長期にわたる関係的取引が形成されてい る, パートナーおよびサプライヤーとの関係性がある, ビジネスのネットワークにおいて関 係性があるということを指す。そして, B to B 取引において, 多くの企業が特定のサプラ イヤーとの協力関係を育成させ, 単一の関係的取引を志向するようになっている (Swift and Coe 1994, Swift 1995)。 4.2 顧客関係管理の必要性 Galbraith (2002) は, 製品志向の企業は自社製品の顧客をできるだけ多く見つけ出そうと するが, 顧客志向の企業は, 特定の顧客のためにできるだけ多くの製品を見つけ出そうとす ると述べている。この意味において, サービス志向の企業にとっては, 新しく製品を開発し ていくというより, 顧客との関係性を創り出すこと自体が重要な目的となることが指摘され る。 従前よりも, サプライヤーは顧客のビジネスのプロセスの一部になっており, また「価値」 B to B マーケティングにおけるサービス志向アプローチの課題と可能性 17 というものが, 顧客の視点から決められるようになってきている。しかしながら, サプライ ヤー企業は, その価値の意味を決定していくという点において, 重要な役割を担っている。 提供側の企業は, 顧客に自らの提供物の価値を提案し, 示してみせ, 顧客を教育さえする必 要があるのである。 一方で, 提供側企業と顧客企業との関係性は, ともすれば統合型ソリューションの提供に ともなって相互依存関係になることも想定される。Gulati and Sytch (2007) は, 自動車業界 において実証研究を行い, 提供側企業と顧客企業との共同的な活動と情報交換の質(詳細さ や正確性, タイムリーであること)が, 互いの依存関係への効果に影響を与える媒介要因に なるとしている。ここで共同的な活動とは, 二者間による協力や, 組織間の調整のような活 動だけでなく, 業務プロセスに対するソリューションの開発をも含む。 4.3 ビジネス・ネットワークにおける関係性 B to B 取引における特徴は, 顧客との関係性が二者間で完結せず, 取引関係がネットワー ク 化 さ れ て い る と い う こ と で あ る (Anderson et al. 1994, Matthyssens et al. 2006) 。 Matthyssens et al. (2006) はインタビュー調査をもとに,「価値のイノベーション」という 概念に焦点を当て, 埋め込み関係にある企業間関係のネットワークが, 価値を創り出すこと を ブ ロ ッ ク し た り , 実 現 化 し た り す る と い う こ と を 明 ら か に し て い る 。 Windahl and Lakemond (2006) は, ネットワーク構造に焦点を当て, 複数のケーススタディをもとに, 次の 6 つの要因を統合化されたソリューション開発において重要なものとして識別している。 1) 異なる活動企業が関わったときの関係性の強さ, 2) ネットワーク構造における当該企業 のポジション, 3) 当該企業のネットワークの水平的な広がりの範囲, 4) 提供するソリュー ションが既存の内部活動に対するインパクト, 5) 提供するソリューションが顧客のコア・ プロセスに与えるインパクト, そして 6) ビジネスネットワーク内にある関係性から由来す る外部的な決定要因, である。すなわち, 顧客価値を実現するためのソリューションは, 内 部活動だけではなく, ネットワーク内に存在する行為者との関係性や相互作用により生み出 されるとしている。 4.4 顧客価値と関係性 ソリューションの価値は, 個々の製品やサービスがソリューションとして構築されるその 総体として概念化される。加えて, 顧客の特定化されたニーズに対してカスタマイズすると いうことや, マーケティングあるいはオペレーション上の統合が提供されるという点での価 値がある。このソリューションという言葉は顧客価値を論じる場合に「サービス」と同義語 で使用される (Edvardsson et al. 2005, Vargo and Lusch 2004)。ここでサービスとは, 市場 18 第205巻 第 4 号 における提供物のカテゴリーを意味する言葉ではなく, むしろ顧客価値の創造という視点を 意味し, 顧客の視点を通じた「価値」というものに焦点が当てられる。顧客が価値を創造す るということにおいて提供側の企業は顧客と相互作用的に関わり, 価値を共創するというこ とは, 供給側と顧客側とが関係的であることが主張される (Edvardsson et al. 2005, Vargo and Lusch 2004)。しかしながら, どのように顧客において価値を創り出せるかというプロセス やフレームワークに関してはそれほど具体的に明らかにされていない状況にとどまっている。 一方, 顧客へのカスタマイゼーションが顧客に価値をもたらすものとして強調する立場も ある (Matthyssens and Vandenbempt 1998, Windahl and Lakemond 2010)。ソリューションの 開発において, 同じタイプのソリューションが多くの顧客企業に提供されるならば, 経済的 な効果がもたらされるが, しかしながら顧客に特化すること, すなわちカスタマイゼーショ ンが実現されなければ顧客における価値が形成されないことになる。そこで, モジュール化 されたソリューションのプラットフォームの構築という考え方も出されている (Matthyssens and Vandenbempt 1998)。 5 むすびにかえて 本稿においては, 製造業におけるサービス志向アプローチについて, B to B サービスの 種類や特徴について言及した後, サービス志向アプローチに関する既存研究の整理, 類型化 を試みた。サービス志向アプローチには, 製品・サービスを組み合わせてソリューションと して統合するタイプ, そして製品機能をサービスとして提供するタイプとに大きく分けられ, さらに製品・サービスの組み合わせにおいても, 提供企業による製品のサポート型と, 顧客 企業のニーズに対応し, 顧客のビジネスをサポートするタイプとに区別できることが明らか になった。 製品に保守・運用のサービスを補完することにより付加価値をつけていくという方向性で はなく, 顧客を中心に据えサービス開発をしていくという流れが確認でき, かつ顧客中心型 のサービス志向へのシフトには, 提供企業と顧客企業との間に継続的, 関係的な取引が構築 されていることが要請されることになる。 サービス志向アプローチという現象に対して, マーケティング的な視点で捉えると, 売り 手となる企業は顧客企業に対して関係志向的なアプローチをすることが前提となるが, とり わけ顧客に対する価値形成が企業間関係を基盤として行われるということが議論されてきて いるという中で, 次のような研究課題が起こってくるであろう。 1) いかなる企業間関係において顧客価値を実現するソリューションとしてのサービスが 成功するのか, 二者間による相互作用の程度や質はどのようなものか。 2) 提供企業と顧客企業との関係的取引を含む, ビジネス・ネットワークはソリューショ B to B マーケティングにおけるサービス志向アプローチの課題と可能性 19 ンにいかなる影響を持つのか。 3) 顧客に実現される価値とは何か。顧客の問題解決において, カスタマイゼーションの 程度と経済性はどのように両立させられるのか。 サービス志向アプローチの研究はまだ緒についたばかりであり, 規範的なビジネスモデル の提唱にとどまらず, 上記の問題に答えていくような, 経験的な研究, 実証研究が今後ます ます要請されるであろう。 参 考 文 献 Ahuja, G. 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