新潟県の郷土食に関する研究(第22報) のっぺい 渋谷歌子・本間伸夫・石原和夫・佐藤恵美子 Foods and Meals in Niigata Prefecture (XXII) "Noppei" Utako Shibuya, Nobuo Honma, Kazuo Ishihara and Emiko Sato めにこの調査を行なった。 I は じめに 新潟県の代表的郷土料理に苦からのっぺいがある。 しかし全国的には,のっぺいの分布は広く,独り新潟 県のみのものではない。図1に示すように九州から青 森まで分布しており,名称も20種を越えるが,国中に 示されないものも各地域に数知れず存在していること が推察される。このように,のっペいは伝統的な庶民 の味として親しまれている料理であり,中でも郷土料 理としてその名を馳せている地域では島根県の津和野 地方∴奈良市それに新潟県がある。ここにこののっペ いのルーツを探り,その名物料理の由因を解明するた Ⅲ 調査の目的と調査方法 1.目 的 はl のっペいの歴史的伝承 r 脚「のっペいの全国分布 (31新潟県ののっペいの実態 2.調査方法 アンケート調査10)・15)及び巷ロ17)の報告により,県 内ののっペいの実施状況を検討し,文献14編を参照し つつ考察を加えた。 ロ 0 ねりこみ 弘前竹森 岩手 のっペい こくしょ こくしょ こくしよ のっべい汁 こくしよ ♂だぷ こにもの 飯塚 ¢ のっペい汁 竺」」「頂ト堀田 松江 ロβ♂ 岩国 呉 鳥取 長崎 茄紅 大阪 ぬっべい♂♂ 熊本 前知 ロ JP 新 山形宮城 米沢 亡くしょIおくずかけ 醐莞琵品悪税鵬 茶良 封京 和歌山 1ぐる魚 0㌔ のっぺ汁 にっペ(岩手南印) ぬっべい汁 大平醒め のっべ汁 のっペ lCっべい おおぴらのっベ 図1.のっぺいの全国分布図 −41− ぬっベ つゆにしめ おかにしめ ぬっべ.1こっべ. いも来会 県立新潟女子短期大学研究紀要 第25集 1988 m 耀査結果 新年のおせち料理のうち,与の膳にみられる。材 1。のっべいの歴史 のっぺいは濃平,能平,濃餅,のっぺ,おおびら, 料はダイコン,ゴボウ,イモ,トウフ,タケノコ, 串アワビ,イリコ,ッミイレを入れて煮て,みそ, をはじめ地方色豊かな呼名がいろいろある。 又は清しで味をっけるもので葛はかかない。現在 昔紛は葛粉を掻いてトロミをつけた野菜汁と解釈さ でも集め汁の系統ののっぺいが各地域にみられる。 れ,のっぺいとう(湯)といって飲めば温まるという 江戸時代の料理書は120∼130冊に及ぶといわ 意を持っていた。寒い冬など殊に喜ばれた。国語事典 れるが,そのうち煮物料理5)を取扱った本も多い。 でも,「野菜をすましで煮込み,くず粉を溶いて加え 因みに煮ものを取扱った本を上げてみると,次の た料理である」と同様の説明をしている。 如くである。 ()内は取上げている本数。 一方には年末にご馳走を作った後,残り野菜を上手 ④ 杉箱,或いは杉焼(26) に処分するという生活の知恵から生み出された素朴の ②ぜんまい煎,或いはせんば煮(23) 料理であったと考えられる。 ③ 筍葵(13) {1}さといもの歴史 ④ さくら煮,或いはさくら煎(11) のっぺいの共通点は主材料にさといもを使って ⑤のっぺい(10) トUミを出すことにある。さといもの原産地i)は ⑥ 酢煮(9) イン5’,マレー半島であり,日本へは中琶から平 ⑦ふくら煮,或いはふくら煎(9) 安時代に輸入され栽培されるようになった。また ③あんかけ(8) ’一一’ sc i》によると紀元前2,500年頃の伝来でイネよ ⑨骨抜(7) り古く南方からの移民によって渡来したともいわ ⑩ 煮和え(7) れる。 ⑪ ゆで鳥(7) さといもは自生のやまのいもに対して里に栽培 ⑫いり鳥(7) されるためこの名がある。家の回りの畑に栽培さ ⑬ なべ焼(6) イ エ ツ イ モ れることから,家のイモとか以倍都以毛などとよ ⑭ 煮浸し(6) ばれていた。 (醍醐天皇の代〔897∼930)) イ モ さといもは万葉集の中‘こは{P毛,豊後風土記に ⑮姻勢豆腐(6) は芋.延喜式には芋子として登場してくるが,高 以上の料理が記載されている本のうち「料理物 冷に尉え温帯に隷培されるなどから我国の気候風 語」の申に出てくる煮ものにのっぺい湯があり、 圭に適し,奈寅時代には概に食馬されていたとい 「鴫をいり鳥の如くに作り,出したまりにて煮る う記録2)がある。当時古代人は粥の中IC炊きこむ 也。煮えたち候時,加減吸い合せ,うどん粉を出 ⑯ じぶ(5) か蒸すかゆでるかの単純な方法で食用し,主要な しにて溶き粘るほどさし,煮えたち候時出し候也。 食糧であった。さといもは親芋の回りに子いもを しぎ,うづらなどもよし」と記され,必らず鳥と片 沢由付けることから,子を生むという意にっなが 栗粉は欠かせなかった。 り縁起の良い食物として扱われていた。さといも また,江戸時代ののっぺいの記録を江戸料理の は食用のほか糊としても利用され,煮ると出るヌ’ 中にみることができる。 ラヌラとした粘液を昔の人は紙を継ぐ時に用いた 元禄7年19)(1694年)の夏,芭蕉が帰郷する際 という。 の休息所「無名庵」を門人が寄進し,8月に落成 {2}のっぺいのいわれ したのに対して,芭蕉が謝意を表わす会を十五夜 125e年鎌倉建長寺の開山宋僧蘭渓師が伝えた3) に門人を招いて催した。その時の献立が三重県上 禅寺料理であり,野菜,乾物を煮込んで,クズ粉 野市桑町の菅野入郎兵衛氏宅に発見されたのが, でドロリとさせた濃厚汁をいう。又,黄蘂料理の 図2に示すように芭蕉自身の月見献立であり,そ 雲庁もクズ煮であることから,安土・桃山時代に の中にのっぺいの文字がみられる。 出てくるのっぺいを中国風というのもうなつかれる。 のっぺいは江戸時代では庶民の味として親しま また,日本古来の料理書に四条流庖丁書があり, れていたことが記載されている本の数からも推測 その中にr集め汁j4)がある。室町時代から式三 出来る。 獄の正式料理に必らず用いられたもので,将軍の 一42f−一. 新潟県の郷±食に関する研究(第22報) 鯵 匿 ψ 一軸−、. ■ ▼r で ロ 6i ’鐙 i鮮 9㍉ 芭蕉自筆「月見献立」 元禄7年(1694)夏 一 芋煮〆 のっべいせうが しめじ 吸物 つかみたうふ ふ 器物 木くらげ ごんに争く 里いも めうが ごまう 中ちよく 肴 にんじん もみうり くるみ 焼初茸 しぼり汁 す すり山ノいも しやうゆ くわし かき 吸物 松茸 冷めし とりさかな 酒 図2.平野雅章「江戸の料理」日本料理探求全書第2巻東京書房抜粋 2.全国各地ののっぺい例 ①奈良ののっぺい汁 全国的に分布されているのっぺいを地域別3)・a)・T)rS)120) 12月17日の奈良の春日大社の若宮のお祭りに に分類し表1に示した。 この表から、のっぺい汁とのっぺい及びにっぺい更 作られるのっぺい汁は、日本最古の作り方として にこくしょの4系列に分類できる。 辺では代々主婦がのっぺい汁を作る習慣がある。 (1)のっぺい汁系 材料はすべて大切りにして片栗粉でトロミをつ 片栗粉で萬をかいた濃厚の汁状のもので,最も けるもので,可愛い朱塗りの器に盛り,神様IC 多い料理法である。 供え災厄退散,五穀豊穣を祈願するというもの その代表例を示すと で,神への供物として作ることが目的の料理で 知られている。この祭りには奈良市及びその周 あることが全国的にも珍らしい。 一43一 県立新潟女子短期大学研究紀要 第25集 1988 。之てoee皿穏讐Uコ蟄管.ゆ¢く申喝心勾櫓﹂﹁Φb荊﹂型U瑠齢S 。ゆ罵喬二ゆ刈霜暇eマpe。5ご#く磐お蘇女PO5艇盤竃算。即拳”帥︵田卜一慶9︶O綴e艶櫛ロ齢嘱尊マoe λ弘、等.馨ロ.器罷 bぐ聰楽5ヨ。9診﹀ 嶋Vψ.、ト、隊疑加 綴響ミUぐ# 覇胴.穆醒 旧’で.”oコ.皐翼 ”◎2.喬Vψ一簿層 轟嘱ゼリぐζ ﹂∂e二 。即魯o私心壕”O溜eロ雲.田竃斜 O“9舶.桜終.中弓bぐる 破綻国 。﹁蠣ゆ︾﹂砲e5愚’3<e鶴’で 。誉申蕾.捧≦.匿固eS 。舶e︵認艇契b契b︶喫ぐ”OV£義︵慶泣桜乞e嵐豊︶ゆ二4却”噛£る 。幣斑.壕。二樽灸る砲私>O<る喬∂る盤UO二郭 綴雲−θ雪・田§く︶譲冬当翁p総二識詣鑓翼 蕨゜噂マーe 藤゜リマーe 卿の01◎ 卿誘ー◎ 卿霧ー◎.綴霧1◎ P◎ ◎8ー◎ ◎.卿[?◎ 黎1㊥ 右窟.葎繋.ゆ二弓 ︵ゆ#<弘①壕︶慣’で.ぐUぐ磁 。§。ゆ囎φ刈りゆ5匿砲魯ゆU碁どe褐弔刈 酵τ禦5。中二∂却艇馳b.艇り幻二 O舶螂亭 ﹂∂e二 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ お駅聖 O ∂ 5輯い鞠 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 懇 耀 擁φ幻 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ Vo謹ぐ ” ○ ○ 公 契” ﹂ ○ ○ φ§b ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 蔀 く ○ ○ ○ jリ ○ ○ ○ φ ”母 菊 ⋮ 臣 製 5心リニ 杓 5マp絶 e課㌃ £e二初 二て炉窒 署 出⑪ 恥聾即⑭ 士マ,e 鰻 壌⑭ 03記 褐 塁 診o筒羽摂 擢㊤ 野 劇⑭ 萄Q二杓 φ噸jVり £e二初 05磁 之マoe窪 裟⑪ 05︽ 鳶マ炉e 雄 遙§ 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O X X O O O X X O O ○ X X X X X X ○ X O O 。5 ゜辱 新潟県の郷土食に関する研究(第22報) のいもこ煮は葱,きのこ,とうふを加え,みそ ②青森のねりこみ 弘前三十三寺の禅林寺で昔,托鉢して集めた で味を調える。これを小さく切り揃えたものを 野菜を元に作った寺料理が始まりである。津軽 ップツブ煮というが,これはのっぺいの部類に のものは砂糖味が濃いのが好まれ精進料理,田 属するものと思われる。 植えを始め,ハレの日やふだんの日でも気軽に ③広島県の煮こめ 作り,その味を楽しんでいる。この地のねりこ 新暦1月15日のお逮夜(親驚上人入滅の日) みの特徴はさといもが入らず,その代りにさつ の前夜,煮こめを大鍋一杯に煮る。これは小豆 まいもまたはじゃがいもが入り,ささげまめも が入るのが珍らしく,材料は生くさものは一切 入れる。津軽20)は野菜と豆で栄養素を補給し, 使わない。材料は塞の目切り。 海に遠いため魚や肉が使えなかった中での生活 ④高知県のおぶつじ の知恵として生れたものである。青森ははらら, 親鷺上人入寂の旧暦11月27日,おぶつじを煮て さけが沢山入るので,弘前より豪華であるが, 供える習わしがある。塞の目切りの野菜にじゃこ 他の材料は共通している。 出しで汁を多くしてあづきを入れて煮合せたも ⑨島根県津和野ののっぺい汁 ので,おいとこさんという。あづきと豆腐,大 毎年節分になると豆撤きの後,夕食にのっぺ 根と人参,さといもとこんにゃくがそれぞれい い汁をフウフウ吹きながら食べる習わしがある。 とこ同志というのも面白い。あづきの入らない っぐみ,山どりなどの小鳥を主材にしたとりの のを「ぐる煮」といって晩秋から秋の日常食に っぺい(現在は鶏肉)や猪の肉を使った(現在 なる。 は豚肉)ししのっぺい汁として知られている。 {3)にっぺい系 津和野では古めかしい本膳料理の姿が残り,の これはのうぺいとは呼び方が似ているが,さと っぺい汁の食べ方にもいろいろの方式がある。 いもの代りに長芋のぬゐりを楽しむ料理である。 別名をチョロケン汁ともいうところがある。古 トロロ汁の一種で摺った山いもまたは長いもに大 い手法の残るのっぺい汁として珍重される。出 根おろしをまぜ,豆腐の短冊切りの入った醤油の 雲地方の赤貝入りのっぺいも特色がある。 出し汁の上に載せるものである。大根おろしの辛 ② のっぺい系 味を利かせたもので,トロロいもと豆腐のくみ合 福島県の煮肴,山形県のいも煮,茨城県ののっ せは良く,岩手,山形,和歌山など分布は広い。 ぺ汁,広島県の煮こめ,高知県のぐる煮,そして ③岩手県南部のにっぺ 新潟県下越地域ののっぺいがある。 集め汁として昔からあった料理が転じたものと ぬっぺい汁ともいう。あまりおいしいので8 杯もお代りすることから八杯豆腐汁とも呼ばれ 思われるが,さといもだけのトロミに汁は澄んだ ている。寒い冬の夜の汁として喜ばれる。この 清し汁でサラリとしている。 地のにっぺはみそすまし仕立てが特徴であるが, ① 福島県の煮肴 現在は醤油仕立てが多く,年令を問わず好まれ 会津田島地方では数百年も伝わるおかにしめ ている。 がある。山間部はっゆにしめ,平坦部はこづゆ といい,祝事,仏事に作られる煮〆である。か ② 山形県のにっぺ 岩手と同じ手法であるが,名物のナメコを入 んぴょうを2本からめるように結び入れたり, れ郷土色豊かに作り上げている。 婚礼の時は人参は角の無いようにと面取りし, ③和歌山県のにっぺい 昆布は青色を出して三角結びにするなど,盛付 煮餅とも書き,熊野川上流で作られる。醤油 に工夫する。酒の肴に用いられる。 仕立てのトロロ汁を椀に盛り,別に清し汁で煮 ② 山形県のいも煮 米沢ではいもこ煮というが,のっぺいに属す た丸小餅につけながら食べるもの。餅の代りに るかは疑問である。山形市では最上川水運によ 根おろしを添える食べ方も多くなっている。 ってもたらされた京都の芋棒の影響がみられる。 にっぺい系の語源は餅を煮て用いたことにある はじめは芋と棒鱈を煮たが,棒鱈がいっしか牛 ものと推察される。 肉に変り,名物のこんIC “くと共に煮る。米沢 豆腐を用い,薬味に唐辛子,粉山轍,または大 一45一 県立新潟女子短期大学研究紀要 第25集 1988 {4} こくしょう系 集めの振舞には必らず作るものとされ,新潟県独特の こくしょという土地もある。燦字では「濃漿」 「のっぺい文化」を築き上げた伝統を持っことから, としてあり濃く煮立てた粘るみモ9}とある。たれ その名を馳せているものと考えられる。 みそともいうが語源かどうかは不明。江戸初期 のっぺいの実態調査では昭和58年IC新潟大学教育学 の料理こくしょうは仏事に供される場合が多く, 部小学家庭科巻口桂子の「家庭科教育に於ける食文化 精進仕立てである。全国的にも分布しており宮城 の継承ic関する一考察」の報告がある。 のおくずかけ(こくしょともいう),島根のこく また,既報le}のアンケート調査に正月料理の1っと しょ,愛媛のこくしょうが例として上げられ してのっぺいの頻度が高いので,その結果をも併せ更 る。 に文maG}・ 11)・ 12), 13}・ 14)を参照して考察を加えた。 ①宮城県のおくずかけ 地域区分は既報10)に従い上・中・下越及び佐渡に分 ずんだ餅と共に盆の精進料理に欠かせない。 類して行なった。 もともと普茶料理の雲庁をまねて,盆に供した 1.のっぺいの呼称 あんかけ料理とのこと。 図3に示すような調査の範囲内でも地域により呼 他の地域のこくしょうと違っている点は野菜 び方が異なり,その地域に根づいた料理として親し を曲で妙めて煮込み,そうめんを入れて最後に まれていることが分る。特に珍しいものには,村 窃をかくことである。 上の大海,拍崎のざくざくにもん,十日町のざっこ ②愛媛県のこくしょう くびら,上越のいとこ煮,その他おおびら,っぼ, 仏事に作り,米のとぎ汁にみそを合せてこし こくしょうざい,こにもんなどと呼ばれている。 た煮汁で煮るeくずはかかない。 2.正月料理の中ののっぺい 以上,北海道を験き全国的にのっぺいは分布し,そ 新潟県ではのっぺいは特に年取りと正月には必ら れぞれの地域の名前で呼ばれ,食生活に密着している ことが窺われるe ず作る習慣がある。その実施状況は昭和57・59年の アンケート調査の結果から,表2に示すような地域 のっぺいとのっぺい汁及びこくしょはさといもを利 差がみられる。中越85%,下越93%で殆んど家庭で 規しているのに封し,にっぺはとろろいもを使用し, 作り,上越,佐渡は少ない。全般的には80%の実施 はっきりと画されている。にっぺがどのような形で伝わ 状況であり,巻ロ17}の79、3%と同様の結果であった。 ったか興味深いものがある。但し,新潟県にはにっぺ 3.各地域ののっぺいの特徴 の例が見当らない。 表3に県内各地域ののっぺいの呼称とその材料を こくしょうはいずれもお盆・法事・葬式などの仏事 示した。 に作られており,切り方もお骨のようにコロコロ切り {1}上越地方 又は乱切りで,生くさものは一一切使わないところが共 ①頸城海岸ののっぺい汁22) 通している。全国的には,精進料理以外は殆んどが片 正月三ケ日と1月10日の船霊さんの年取りに 栗粉をかいた濃厚汁であるのに対し,新潟県下越はハ は必らず作るもので,野菓は土手草(家の回り レのB,仏事にかかわらず,アッサリした小煮物風に に作った野菜)を乱切りにして煮てから豆腐も 仕上げる所に特徴がみられる。但し,材料,切り方に 必らず入れる。片栗粉を水で溶いて入れトロミ は気配りをする。 をっけるが,大鍋に大量に作り温め直しながら 3.新潟県ののっぺい 幾日も食べる習わしがある。 新潟県ののっぺいは昔から代表的郷土料理として全 ② 福崎ののっべEl) 国的にも有名である。 上越地方を代表しているのっぺといってもよ 柳田国男の分類食物習俗語集ユBUCも,のっぺいの解 い。中郷村福碕はさといもの産地であり,寺で 説としてr新潟県地方に行われる季節の野菜ものに豆 は「いもお講」という形でさといもを沢山使っ 腐,瘤揚,塩ざけの切身を入れた寄せ鍋風のもの。寄 たのっぺいを作り,村人が寺へ呼ばれていった。 せ鍋と違う所は葛粉をかく点で祝儀料理に使い,東蒲 寺でご馳走になったものの残りは重箱に詰めて 原ではこれだけは何杯代えても非礼にならぬ」と新潟 家に持ち帰って食べた。この10月13日をサトイ を引例している。 モの年とり(イモの日)という。 新潟県では全県的に年中行事や冠婚葬祭をはじめ人 一46一 新潟県の郷土食に関する研究(第22報) ’0 ノ鴇 團臨 磁、憲んヂ大海) (すきやき風) !(のっべい風) ぺ岩船 北蒲原 こにもん)、 ;t・ 、 新発田 つび︶ のおぼ ︵おつ 西ぺら ・新 豊 旦^ 栄 新発田地方 (こにも) 窪:一 泉 見附 x 三島郡..,,(! ・關小馨+訣 崎くし ざく 柏くこ にん、 よ ざ一 一事 月仏 正 柏 中魚沼郡川西町 こくしょうざい 糸魚川 憾縦・ ミ゜ーア ヤ.⋮ 獅 汁 榮栃尾㌧ぜ 長岡 こくしょう 、大和町大倉 (こくしょ) 潟3・ 新図 崎つ 福の ぺ 十日町 ざっこ 県の地域区分 のっべいの呼称 表2. 昭57・59年 調 査 数 上越西頸城 @ 東頸城 中越 長 岡 南蒲原 魚 沼 刈 羽 }8 正月料理としてののっべいの実施状況 作 成 作 る 中蒲原 穴洛エ 西蒲原 北蒲原 岩船郡 合 計 6 (75.0%) 0 0 7 4 5 10 4 3 26 22 4 5. 10 3 1 36 3 }24 22 2 7 7 9 2 9 o 0 1 1 81 75 6 8 123 西蒲村山の「のっぺ」 新発田地方の「こにも」 村上,岩船の「大海」 (7.4彩) 8 o 99 i80.5妬) のっぺい以外め呼び方 のっぺい汁 沚閨uのっぺ」,おおびら,こくしょ, いとこ煮 のっぺ いっとこ煮 魚沼のこくしょうざい,十日町のざくびら 柏崎ののっぺ,のっぺ汁 (15.4%) 39 (92.6%) 『佐 渡 郡 作らない 2 (33.3%) (846%) 下越新潟市 状 況 24 i19.5%) 一47 こくしょう おおびら 県立新潟女子短期大学研究紀要 第25集 1988 ○ 頑 心勾燧 唄 や勾婁 史U楽 ぐu乗 V阜翌く U 弔甦b ○ む 喫二 ﹂ ○ 翰く 齪嵩 O葺煮 ψ 二刈 拘 鵜︵二章 巨 駅 廉 理岳ー割﹄5 掴F “イjVり ●廻 理 聖 綻 哨 心b無楚俣裳 裟 ゆ 思 日 蚤 撫 ユ]叫庶剴鴇窪覇 轄 澤 爵 国 十 仁田4・蛍葛=蝋瞳現毒岳 絶 緯 ︵粋聚響︶凶為V肋 く ψ 呈V知V冶 ︹捺 単︶心帰ρVり 二 肋心繧﹂﹀り 葦 営 § 雪 超 士ニマp奪 殺導響,蜀 9 昼 高 て ぐ 9 書 矩 9 葺 記讐心刃二 健 劃 州﹁ ひ 罫 諾 縄⊇﹀り ⇔嘱h宙薫筈 O 罫 頑 9 富 記 萄 事 祀 9 罫 貫 O 餐 鋸之マo奪 9畢宝麟て 炉 e OB自蟹 ニマ“e 9罫9相 雰心蛎ゆ二 マ ρ e ヨ煎瞳籍冠 寧 窪 捜 ︹罫華o︶9 罫 寵 9 臼 祀撹 覗 判 詫 9 醇 寵裳 網 鰹 量 怠 罫 章 9 罫 南鍵 ︷ 窟 鱒 9 寧 蒔 ゆb輿興 寧槍魯二惚 O O くu※ O 申爵.史O駐無疏、弾︷.掛杓拘 ○ × .X O 轡亥興田 Vρ知面魯冠誕二価“磯 P拶哨伍函面私弔、U吊扁嶺 唾ニマoe.tp砲Wロ占u坤 走 “﹀届.Φ製“瞳、唄心諏杣輔価 × くbミ3.呉’6イ心 ○︹遇︶ 類蹴βeむ星盆O刈 ”e魯契、£V玲、史Uく喜.置O刈 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し,更に煮汁にまぜ,野菜を煮上げるもので, あるが,いっしか料理を大海と呼ぶようになった。 昔はみそ煮の後必らず作ったもの。冷えてもお 一般に正月料理として大量に作る習わしがあ いしいので沢山作る。 り,「火をくれて日を持たす」といって温め直 {2}中越地方 して食べると,次第に味がしみこんで美味しく ①魚沼のこくしょうざい(濃漿菜) なる。 (4)佐渡のおおびらとこくしょう11) 中魚沼郡川西町小白倉では21),土手草料理の 一番のごちそう。さといも,人参,ごぼう,き 佐渡はのっぺいとして出てこないが,おおびら のこだけの素朴な煮物である。 またはこくしょうがあるe 古志は仏事と祝いごととにより切り方と片栗 おおびらはふるまい膳に必らずっく。野菜は乱 粉の使い方が異なる。仏事はこくしょうといっ 切りにし,うずら豆は簸でておき,白玉餅1ま小さ て葛はかかない。ハレ用にはザクザクにもんと く切るe出しをとり,野菜を煮て味付けし,うず いって片栗粉でトロミをつける。 ら豆,白玉餅を加えてデンプソでとろみをつける。 ② 十日町のざくびら(雑穀平) こくしょうは大晦日に大鍋で煮るが,ささげが 小正月料理として必らず作る。又,仏事,孫 入り味噌で味つける。正月料理なので大量に煮て 祝い,めいげっ等の親類が集まった時の一番の 温め直して食べる。先の広島の煮こめ,高知のお ご馳走e ぶつじ,秋田のきやの汁に小豆またはささげを入 ③柏崎ののっぺ13> れた同様の料理があり,門徒の精進料理と関連深い。 柏崎ではのっぺとのっぺ汁を使い分けている。 4.のっぺいの調理 のっぺは下越ののっぺいと同様,片栗粉をかか のっぺいの源をたどれば古く,安土・桃山時代に既 ないアッサリとした小煮物風の煮物である。の にあったという伝統料理であり,黄壁料理の葛寄せか っぺ汁は他地域と同様濃厚汁である。 ら形を変えて庶民に親しまれ受け継がれてきた。 ㈲ 下越地方 さといもが主材料であるほかは,どんな材料でもよ 下越一帯はのっぺという歩,新発田地方はこに く合い,葛をかいて仕上げることにより,そのなめら も,村上地方では大海という。 かな感触と温かさは,人の心を和らげる。冠婚葬祭を ①新潟市近郊ののっぺ謝 はじめtどんな時にでも作られ,全国至る所に郷土色 野菜はさといも中心で8^一一 10種類の材料に生 豊かなのっぺの饗宴がくり広げられている。その好ま 鮭,鶏肉,いくらが入る。葛をかかないため澄 れる由因は何であろうか,料理としての特質を探って んだ汁と材料の彩りが食欲をそモる。酒の肴に みよう。 喜ばれ正月料理の主役をなす。ここでもハレ思 {1) さといもの性質と煮方 と仏事用とはっきり区別して仕込む。祝いごと 主材料のさといもの成分は糖質がユ9箔内碁含ま では鮭,腹子が入り,短冊切りにする。葬式で れているほかは,脂質,螢白質共1こ少ない。糖質 は精進仕立てで油揚が入り、野菜は乱切りか三 は主としてデンプンであるが,ガラクタン・ペン 角切りにする。法事は細い短冊にするなど細か トザy,デキストリン,笹を含み、粘性1よガラク 一49一 県立新潟女子短期大学研究紀要 第25渠 1988 タンである。ビタミンはBl, Cが若干含まれ,え 意義があるので,それぞれの土地の特色のある ぐ味はホモゲンチヂン酸である。あくは確酸が含 ものが期待される。 まれ,皮慮にふれると痒みを起すなどの調理上の ⑥ 葛のかき方……のっぺい汁として仕上げる地 欠点も有しているが,さといものもっぬめりは日 域も多く特に寒い季節には喜ばれる。程良いと 本人の好みに合っている。さといものみならず, ろみ加滅は煮出汁の2%が適当。 とろろ芋や納豆のねばりなどもまた然りで粘質性 嗜好を有している民族でもある。 IV おわりに 然し,のっべいを煮る時,ぬめりがふきこぼれ 最近の目まぐるしい食生活の変化により,郷土食離 の原因となったり,調味料の浸透を妨げるので, れが憂誰されているが,その歯止めの一っとして,県 一艇苅でこぼしてからさっと水洗いしてぬめりを 教育委員会では「行事食,郷土食と学校給食」を上・ 取ってから煮るか,ぬめりは1.0%の食塩水に溶 中・下越,佐渡に分類して冊子を作り,学校給食の献 けるので,最初から1凋味料の中に入れて煮るか, 立に組み入れるよう啓蒙に努めている。郷土食は子供 着しくは塩もみして粘質物を除いてから煮るなど の頃からの食教育の中の重要な部分であることから, の方法がある。 その成果が期待される。冊子の中ではのっぺいを上越 料理家ののっぺいの作り方は,ごぼう,人参な はこくしょ,中越はのっぺ、下越はのっぺい,そして ど固いものを予め茄でておき,調味料を煮立てた 佐渡はおおびら,またはこくしょうとして伝統的の呼 中に全部入れて煮るが,この時アクを取ることを 名であるのもうれしい。 忘れてはならない。 新潟県の誇れる郷土料理として,のっぺいを再認識 C2)のっぺいは主としてハレの日の手作り料理とし して,伝統を守り,作り伝えて行きたいものである。 て供せられることが多く,そこには作る人の心入 れが表現される。従って出来上りの外観,味、香 り,テクスチャーに細心の注意をしながら料理す るものである。ここic調理上いくつかの留意点が 上げられる。 ① 外観の美しさとは8∼10種類の材料の切り方 を揃えることと,色彩の異なった材料の取合せ をし,汁が澄んでいてその材料の持っ色の美し さを損わないことが勘要。最終的には盛付がそ れを決定するので,器の選び方,盛付の仕方1こ 細心の注意が望まれる。 ②味……汁気の多い料理であるのでうす味を主 「F越ののっぺ」(左から祝い事用、法事用、葬式用) 眼とする。塩を土台にし,醤油は色付け程度に 入れることにより材料の持ち味が生かされる。 出し汁を充分lcag味し,かつおぶし,椎茸,貝 柱などが一般に使用される。動物性の素材は鮭, 鶏肉などの味の軽いものが適切である。 騨『 ④テクスチャー……のっぺいのつるりとした全 論. ︾,﹄ ρぐ..ご... ある素材や脂っこい肉類は避ける。 鋲爆 欠一M.〆 は生きた素材からのみ生れる。従って,くせが 論漸 ③ 香り……煮上った時の混然たる円やかな香り 体の食睡の中に,いろいろの素材のテクスチャ ーを楽しむことが出来る料理であるため,煮過 ぎないよう加.nlC留意する。 ⑤ 素材……ee土の香り高いものを優先する。の っべい嫉郷土色毅かなものを作り上げることに 一50一 r村上の大海」 (「新潟の食事」引用) 新潟県の郷土食に関する研究(第22報) 文 献 1.安達巌:日本の食物史,同文書院(昭51.2). 新潟県教育委員会(昭58・59・60・61). 2.平野雅章:野菜記,日本の食文化大系8巻,東京 12.にいがたの味,新潟県農業改良協会(昭56.4). 書房(昭61.3). 13.越後ふるさとの味,常盤会,柏崎常盤高校同窓会 3.多田鉄之助:郷土料理,日本の味名著選集第9巻, (昭58.10). 14.ふる里料理,村上の味,村上市中央公民館(昭 東京書房. 4.児玉定子:宮廷柳営豪商町人の食事誌築地書館. 57.9). 5.江戸時代食生活事典,日本風俗史学会二雄山閣 15)渋谷他:県立新潟女子短大紀要14報(1983). (昭53.7). 16)生活,万有百科事典13巻. 6.日本の食生活全集,農文協(昭59∼). 17)巻口桂子:家庭科教育における食文化の継承に関 7.郷土料理,日本編,世界の食べもの,週刊朝日百 する一考察,新潟大学教育学部小教家庭科(昭58). 科(昭56). 18)柳田国男:分類食物習俗語集,角川書店(昭49.4). 8.日本食生活文化調査研究報告集58・59・60年度, 19)平野雅章:江戸の料理,日本料理探求全書第2巻, 日本食生活文化財団(昭60・61). 東京書房. 9.川村渉:日本の味,みそ・醤油,東京書房. 20)芳賀文子:津軽の味,津軽書房(昭54.2). 10.渋谷歌子,本間伸夫,佐藤恵美子,石原和夫:県 21.渋谷歌子:小白倉の食生活,高志路277(昭60.9). 立新潟女子短大紀要,Na22,69(1985). 22. 「聞き書き,新潟の食事」15,農文協。 11.行事食,郷土食と学校給食(上・中・下越佐渡) 一51一
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