Page 1 海洋科学技術センター試験研究報告 JAMSTECTR 13(1984

海洋科学技術センター試験研究報告 JAMSTECTR 13
(1984
)
海中作業実験船の自動船位保持装置
濱田
幸 信*1 中 西
俊 之*2 網 谷
久米
範 佳*2 野 々 瀬
泰 孝*2
茂*3 山 本 喜 多 男*3
海中作業実験 船 は1979 年か ら海 洋科学 技術 セ ンターによ って 計画検討が開 始さ
れたが ,本船 の使命 から みて定点 保持 システ ムの必要 性が認識さ れ ,国産 の自動船
位保持 システ ム(D P S)を搭 載す ること となった。 本D P Sの機能 ,性能 ,制御
方式等 に関 し ,学識 経験者 によ って 構成さ れる海中作業実 験船 検討委員会 の指導 の
もとに詳細な 調 査検討が 行わ れた。 その結果 ,0000 m
級深海 におけ るD P Sと共
に潜水作業 の安全 を考慮 したD PSを 構成す ること がで きた。 また開発 したD P制
御装 置用 の制 御プ ロ グラムは ,コンピュ ータ シ ミュレ ーショ ンを 行 った 結果 ,十分
満足 のゆく性 能を 有す ることが 確認さ れた。
Dynamic
PositioningSystem of the Underwater Work Test Vessel
Yukinobu Hamada*4 Toshiyuki Nakanishi*5Yasutaka Amitani*5
Noriyoshi Kume*s Shigeru Nonose*6 Kitao Yamamoto*6
A comprehensive
conducted
From
study on the underwater
work
by the Japan Marine Science and Technology
test vessel has been
Center since 1979.
the viewpoints of the mission of the vessel, the necessity of the Dy-
namic Positioning System was recognized and JAMSTEC
domestically made
DPS. A detailed investigation of performance, function
and the control system had been made
Committee
decided to installa
in cooperation with the Investigation
for the vessel, which is comprised
and other persons possessing technical knowledge
Following a comprehensive
of professors, ship operators
and experience.
investigation, the DP
account the safety of diving work
as well as the mode
system, taking into
of 6,000 m
water
depth, could be organized. Also, following various kinds of computer simulations, the control program
developed
for the DP
controller has been con-
firmed to have satisfactorycapabilities.
*1 運 輸 省 船 舶技 術 研究 所 (前 深 海開 発 技 術 部)
*2 深 海 開 発 技 術部
*3 三井 造 船 ㈱
*4 Ship Research Institute (formerly Deepsea Technology Department)
*5 Deepsea Technology Department
*6 Mitsui Engineering & Shipbuilding Co.Ltd、
1
多 く がkalman
1. ま え が き
フ ィ ル タ を 採 用 する よ うに な り ,
当センタ ーが現在昭和60 年5月の竣工をめさし
本 D P S で も詳 細 に こ れ を 検 討 し 採 用 す る こ と と
て建造を進めている海中作業実験船 には,自動船
し た 。 そ の 内 容 は 文 献3) に 示 さ れ る も の を 基 本 に
位 保持装置(Dynamic Positioning
し て い るo
:DPS
System
) が装備される。本船 は,潜水作業技術
ま た 本 船 は 水 深6, 000 m 級 の いわ ゆる 深 海DP
の開発,深海底探索 システ ムに関 する研究開発,
Sの 必 要 が あ るが, こ の問 題 は ス ラ スタ の 放 射 雑
ならびに海底精査技術 に関 する研究開発 に関連 す
音 に マ ス クさ れ位 置 セ ンサ で あ る音 響 測 位 装 置 の
る各種海洋実験 に従事 することを目的とした船で
精 度 が低 下 す る こ とで あ る 。 本 船 の水 中 放 射 雑 音
あ り,海洋におけ る研究開発のための基地 として
の低 減対 策 は 別 途 音 響 専 門 部 会 で 検 討 さ れ て い る
の使命を有 する船である。 したがって装備される
が, ス ラ ス タ の放 射 雑音 を 減 ら す 直 接 的 な 対 策 は
DPSは, これら海洋実験 に不可欠な装 置として
ス ラ ス タ の 運 転 台 数 を 減 ら す こ とで あ る 。 こ の よ
位置付け られ,学識経験者で構成される海中作業
う な 観点 か ら 絶 え ず 外 力 が 最 小 と な る 方 向 に 船 を
実験船検討委員会において,あヽ
らゆ る角度から検
立 て る こ と に よ って ス ラ ス タ の 減 機 運転 を 可 能 と
討が行われてき た1)
。 同委員会には特定 の問題を
す る制 御 方 式 が 検討 さ れ, シ ミュ レ ー シ ョ ン に よ
専門に検討 する部会の一 つとしてDP S専門部会
る検 討 の 結 果 こ れ の採 用 が 決 定 さ れ た 。 さ ら に 近
が設け られ,昭和55 年度以降約4 年間 にわたりD
年 , 光フ ァ イバ に よ る 光 通 信 装 置 の 船 舶 へ の 採 用
PSの システム全体にわたる計画検討 が実施され,
例 も多 く な り 実 績 も 散 見 さ れ る こ と か ら , 耐 電 気
本船用D PSの全体骨子 ができ上った。 ここで特
雑 音 性 が 良 い と い う 長 所 を 生 か す べ く本 D P S に
に重点 が置かれたのは,DPSが潜水作業 実験 に
も採 用 さ れ る こ と と な っ た 。
使用 されるため,潜水作業 時の安全対策 に関 する
こ こ で は こ れ ら 自 動 船 位 保 持 装 置 の 概要 を 説 明
検討,すなわちシステ ムの性能と信頼性および深
し,さ ら に 実 機 用 に 開 発 し た 制 御プ ログ ラムに よ っ
海域 における位置保持制御方式の計画検 討であ つ
て 実 施 した シミュレ ーションの 結 果 につ いて 報 告 する。
た。
2. 要 求 性 能
DP Sの使命は,推力装置を用いて船の位 置と
船首方位をある目標値 に保持することである。 す
な わち風,波,潮流による外力 にき っ抗 すべく推
本DPSに対 する要求性能を次 に示 す。
(1) 外力条件
力装 置を作動させ船位を保持す るこ とである。こ
風 :風速16 ノット以 下,風向は任意の方向。
の技術 は1960
波 =%有 義波高1.25m
年代 に ほぼ確 立された もので,そ
の方向。
の基礎技術は文献2)等 に詳し く述べられており,
本DPSもこれを基礎に置いている。 DPSを 計
潮流 :流速 2ノット以 下,流向 は船首対向(船
首を流れに立 てる)。
画する上での重要 な課題 は, スラスタカ量 と制御
系 の決定であ るが,本船の場合, まず水槽試験お
よび風胴試験 によ って必要 なデ ータを得, シミュ
以下, 到来方向 は任意
(2) 目標性能
水深50 ∼5.0m
の範囲 において, 10m あるい は
レーショ ンにより許容外力特性を検討し, スラス
水深の5%のどちらか大きな値以 内の誤差半径で
タカ 量が決定された。制御系 についてはセ ンサの
位置を保持でき るものとす る。 また6,000 m の水
選定,その信号処理方式,位 置や方位の制御方式,
深において300 m 以内の誤差半径で位 置を保持で
等 に関し相当量の シミュレ ーション解析 が実施さ
き るものとす る。ただし位 置信号が正常に受信で
れ制御方式 が決定された。例え ばDPSのデザイ
き る場合 とす る。
ンポイント は,位 置保持精度を向上すること,お
以 上 の よ う に, 500
m 以 浅 の 浅 海 域 と水 深
よび ノイズや波の運動 によって生ず るスラスタ応
6,000m
答を低減すること,この二つの相反す る要求に対
のは,前者 は主 に潜水作業実験を目的とし ており,
して適切 な妥協点を見 い出すことであ る。 これは
後者は深海底探索あ るいは海底精査を目的 として
信号処理の問題に帰結 されるが,最近のDPSの
いるからで あり船位保持の方法 も異る。 また位 置
2
までの深海域 に分け て目標性能を定 めた
JAMSTECTR 13 (1984)
保持性能が水深を基準にしているのは,主たる位
置センサが音響測位装置であることによるもので
あ る。
すなわちDPSの位置保持精度は,主に位置セ
ここで。
Z :水深( m)
ンサの誤差と波による船体動揺の和で表わされ,
式(1)のように表現できる。
すなわち,音響測位装置では,ら お よび7`は水
深,厳密にはスラントレンジによ って変 わる。一
方,電 波航法装置の一つであるロ ランCでは 唔=
ここで
60m, T=
1 秒程度 が得 られ,性能 は水 深に無関
り : 位 置センサ不規則誤差
係で ある。こ れらを 式(2)をJ目い て 比 較 す れ ば,
りy: 波 による不規則動揺
3, 000 m 以 浅の海域では音奢測位の方 が性能 が良
り : 位 置保持誤差
く,3,000 m を越え る海域ではロ ランCの方 が良
ここで短周 期の波動揺に敏感な制御を行 うこと
いということがわかる。このことから,水 深3,000m
は,位置保持精度を向上させたとしても過大 なス
を越え る所で は位 置センサにロ ランCを充てるこ
ラスタ応答, つまりス ラスタモジュレ ーショ ンの
ととし,これによって大深度DPSを実現し よう
増大を まねくことになり,このス ラスタモ ジュレ
としている。ただしロ ランCにはド リフト誤差が
ーションはスラスタの機械寿命 の短縮,燃費の増
存在 するため,この補正のために音響測位装 置を
大,さらには水中放射雑音の増大につなが るもの
使用する必要があり,したがってロ ランC と音響
である。し たがって良 好なDP S制御と は, この
測位装置を併 用す ることによって大深度DP Sが
スラスタモ ジュレーショ ンを低減することと,位
実現され ることになるo
置保持精度を向上させ るこ との,二つの相反 する
要求 に対して適切 な妥協点を見 いだすこ とのでき
3.
全体 システム
た制 御であるといえ る。 これについて以前には,
図 1にD P S の全 体 シ ス テ ムを 示 す 。 図 中 の サ
Adaptive Contro14) など が実施されたが,近年
ブ シ ス テ ムそ れ ぞ れ につ い て, 以 下 に 説 明 す る。
はKalman
3.1 音 響 測 位 装 置
フィル タが採用されるようになり,本
DP Sで もこれによって目 標性能を達成 しようと
している。
本 装 置 は海 底 に 設 置 し た ト ラ ン ス ポ ン ダを 基 準
と し てS
次 に6,000 m 級の大 深度 におけ る船位保持誤差
S B L ( Super Short Base Line)
式 お よ びL B L ( L°
ng Base Line)
方
方式に よ る
の問題であるが,性能 は位 置セ ンサの性能に大き
船 位 測 定 機 能 を 備え てお り , 次 の 性 能 を 有 し て い
く依存 する。今,サ ンプ リング周期7で測定され
る。
る測定値 x,xは互 いに独立な確率変 数で, 平均値
・使 用 水 深 =
μ,標準偏差(7s の正規分布 にしたがうと仮 定する
浅 海 … … …500m
以内
と,単位時間当たりに得 られるN=
深 海 … …6, 000m
以内
1/7
個の測
定値の平均操作によりその誤差 則ま式(2)の ように
与え られ る。
・ ト ラ ン ス ポ ンダ電 池 寿 命 :
低 出 力 … …1.2 ×106 回 ピ ン ク
高 出 力 … …2 ×105 回 ピ ン ク
・周 波 数 範 囲:
したがって位置センサの性能を表わす指標の一
つとして ら
を考えるならば,この指標は値
が小さいほど性能が良 いことを表わしている。
本船で使用する位置センサの一つである音響測
位装置の場合,性能の目安として式(3)が与えられ
ている。
J AMSTECTR 10 ∼15
KHz
・ 測 位 誤差 :
S SBL
…水 深 の1%( D ),た だ し 水平レ
ン ジが 水 深 の20 %以 下
L BL … … 5m( 1(y),た だ し ペ ース ラ イ
ンが水 深 の100 % 以 上
13 (1984 )
3
=
観測が重要となる。このため風向,風速,気圧,
1 μbar/ Hz%)以上,高出力側が94 dB 以 上 の
気温を測定する装置が装備されているか,この中
送波音圧を有し,切換によって使い分け られ る。
の風向,風速信号はDPSに供給された風圧補償
つまり浅海においては,伝搬損失が少 ないため低
制御に使用される。
トランスポンダは低 出力側 か85 dB OdB
出力で使用し,電池寿命を延ばすこ とにより長時
3
.
6
2軸対水速度計
間の潜水作業実験 に耐え られるようにしてい る。
2軸(サージおよびスエー方向)の対水速度を
またDP Sの位 置セ ンサとして使用する場合 は,
測定するドプ ラソーナー方式の対水速度計が装備
SSBL 方式で使用し, かつ潜水作業時 には最低
されており, DPS
2本のト ランスポ ンダを海底に設 置することを原
ルタの入力 センサの一つとして使用される。
では深海モ ードKalman
フィ
則としている。
4. 自動船位保持装置
3.2 マイ クロ波測位装置
本 装置は主にDP S潜水作業 のバ ックアップ位
置セ ンサとして使用されるもので, 次の性能を有
図2に自動船位保持装置の制御装置全体の様子
を示 す。
4.1
している。
・ 最大レ ンジ:100 km
主 推 進 機
主推進機は船首尾方向 の運動制御 に使用される。
以内
・測距精度 =3m ( 1(7)遐 内
プロペ ラは可変ピッチプ ロペ ラで,減速機を介し
・周 波数 =主局8960 MHz,
て2台 の誘導電動機で駆動され る。電 動機は860
従局8860 M
kw ( 1,200 rpm )/230 kw (000 rpm
Hz
)の 極 数
本装置は陸上に従局を最低 2局離 して設置し, 3
変換 によ る2段速度切 換方式 となっており,プ ロ
角測量方式によ って位 置を測定 するものであ るが,
ペ ラ回転数が 高速,低 速の 2段 に切換え られ る。
いずれか一つの レンジが測定不能になって も測位
低速側 はプロペ ラの発 生す る水中放射雑音を低 減
が継続でき るよ う,従局は適切 な距離をおい て3
する必要があ る場合 に使用され, DPS
局 設置す ることを原 則として いる。
を使 用する。この低速回転にお いてDPSで予 定
3.3 電 波航法装 置
本装置はNNSS
lite System),
(Navy Navigation Satt ロ ランCお よびデッカ システ ム
で はこれ
している推力 は, ボラードプ ル状態で前進8 ton,
後進4t on であ る。
4.2
スラ スタ
を結合したハ イブリッド航法機能を備え,これに
ト ンネル型可変ピッチプロペ ラ方式のスラスタ
前述の音響測位信 号およびマイクロ波測位信号を
が合計8台,ロワーハルに装備されている。これ
加え た総合的な航法機能を備えている。 この中の
らのスラスタは正横方向の運動制御および回頭制
ロ ランC の測位信 号は, 深海DPSの位 置セ ンサ
御に使用され,船首ス ラスタは430 kw, 船尾スラ
として も使 用される。
スタは250 kw の誘導電動機によって 駆動されそ
3.4 ジ ャイロコンパス
れぞれ6. 8ton および4t o
n の推力を発生する。
方位セ ンサとして もDP S専用の ジャイロコ ン
潜水作業時のDPSではスラスタは全数運転し,
パ スが装備 される ほか,本船用 ジャイロ コ ンパス
深海DPSでは半数運転とすることを原則として
もパ ックアップ セ ンサとして使用でき る。これ ら
いる。この潜水作業時のスラスタ全数運転は,運
は方位保 持制御のセ ンサとして使用 され, またD
転中にいずれか1台のスラスタが故障停止しても
PS専用 ジャイロコ ンパ スはヨ ーイングの測定に
残りのスラスタで位置保持が継続でき るという,
よ る波 スペクトルの推定用センサとしても使用さ
並列冗長による信頼性向上対策である。 また深海
れ る。
で半数運転とするのは,水中雑音を低減し,音響
3.5 気象観測装置
潜水作業 にあ って はダイバ ーの安全確保の意 味
から気象海象の変化 に迅速に対応す る必要があり,
気象 ファクシミリ等 による情報収集 のほかに船上
4
測位装置の測位機能を継続維持させるための対策
である。
4.3 船位保持装置
船位保持装置は主装置と補助装置の2系統で構
JAMSTECTR 13 (1984)
図1 DPSの全体システム
Total system of DPS
図2 ゛自動船位保持装置
Dynamic positioningcontrol system
JAMSTECTR
13 (1984)
成さ れ,主装置をA型 ,補助装 置をM型と呼称し
れてい る。 前者の操作信号系 はデ ジタル信号であ
てい る。A型系,M型系 それぞれにDP操作卓お
り,光系 はI Mbit/ 秒の伝送速度である。また後
よびDP制御盤が設け られており,さらにA型 に
者の推力信号系 はアナロ グ信号であ るが,これを
はデ ータ記録用のプ リンタおよびカセット磁気 テ
光通信では12 bitのAD/DA 変換 によりI M bit
ープ 装置が付属している。この構成 は潜水支援用
/ 秒の伝 送速度で伝送し ている。 光通信を採用し
DP S船に定められたガ イド ライン5)を参考にし
た主目的 は耐電気雑音性の向上にあ る。
て装備されたもので, ダイバ ーの安全 に注意を払
った ものである。装 置のA型お よびM型 の操作卓
を写真 1に示す。写真の右側がA型,左 側がM型
の操作卓である。
5. シミ ュレーション
DPSの制御性能デ ータを効率的に得 る手段 は,
コンピュ ータシミュレ ーションによ る方 法である。
4.3.1 船位保持装置A 型の制御機能
さまざ まな条件下において制御性能を実海域で確
A型 は標準モ ードと深海モ ードの二つの制御モ
認することは,時間や費用の面で不可能 に近く,
ードを備え ている。 標準 モ ードにはスタンバ イ,
このため本DPSで はその大半の性能確 認デ ータ
手動,半 自動,自動の四 つの制御機能 が設けられ
を シミュレ ーションで得 るこ ととし,最後の機能
ており, 深海モ ードにはスタ ンバ イ,向 心,深海
確 認を海上で行う予定で作業 が進められてい る。
自動の三 つの制御機能 が設け られて いる。これら
ここでは本DPSの許容外力特性と,実機用に開
の機能を 次に示 す。
発した制御プ ログラムを大型計算機(IB M 3081 )
スタンバイ =推力装置に推力零を指令する。
(2) 手 動:位置お よび方位の保持を ジョ イス
ディック操作で行 う。
(3) 半 自動:位置保持 はジョ イスティック操作。
方位保持は自動で行 う。
にかけて実施した制御の シミュレ ーショ ン結果を
示 す。
5.1 許容外力特性
船体が外力 にきっ抗でき る条件 は,次の三 つの
式 を同時に満 すことであ る。
(4) 自 動:位置お よび方位保持を 自動 で行う。
(5) 向 心:船首を絶え ず目標点 に向け, 目標
点 から一 定半径離 れた円周上を漂 う。
(6) 深海 自動:推定した潮流方向に船首を保持
し ながら位置を保持 する。
4. 3.2 船位保持装置M型の制御機 能
M型 は潜水作業時 におけ るA型のバ ックアップ
装置の役割をにない,スタンバイ,手動,半 自動
の三つの制御機能を備え ている。つ まりA型によ
って自動船位保持を行 っている間は,M型を半自
動で待機 させておき,万一A型が故障した場 合,
オペレ ータがM型 に切り換え て手動で位 置保 持を
ここで
Xt max, yt max, Nt max : 最大制御推 力
,y1,A4 : 流体 力
行 う もので ある。M型には,A型の作動中の平均
X。,y。,.yV
。: 風圧力
的な制御力を監視し,M型 に切り換え られた場合
Xs。y。。A
にはA型 が過去 に出力していた平均制御 力を 引き
式(3.1),
(3.2)
。=波漂流力
および(3.3)
にお いてX
継 ぐ機能を 備え ており,切 り換え時の船 の急 激な
はサ ージ方向,y はス エー方向 の力であり,jV は
移動を防 ぐ対策が施されている。
ヨーイングモ ーメントであ る。ここで流体力は相
4.3.3 光通信装置
対流向 βと相対流速y ,風圧力 は相対風向¥・ 。 と
DP制御盤とDP操作卓の間の操作信号系 ,お
相対 風速l/。,波漂 流力は相対 波向
と 波 高j7
よびDP制御盤 と各推力装置の間の指令/応答推
の関数として表わされる。したがって許容外力特
力の信号系 は光 ファイバ による光通信装 置で結ば
性 は, これらパ ラメ ータによ って多数の組み合 わ
6
JAMSTECTR 13 (1984)
写 真 1 D P 操 作 卓
DP Console
せができ るが,本DP Sに与え られた外力条件の
5. 2.2
標準 モ ード
場合,流体力に比較して風圧力や波漂流力は小さ
標準モ ードにおけ る自動制御方式 は,位置制御
い。 このためここではこれら風圧力および波漂流
に比例・ 微分・定常力補償・風圧力補償方式を採
力を次のように固定し た場合の許容外力特性,つ
用し,方位制御に比例・ 微分・積分・風圧モ ーメ
まり許容流向 一流速特性を シミュレ ーションによ
ント 補償方式を採用している。この制御方式 にお
り求め た。
け るコールドスタ ート性能を以下 に示 す。 ここで
.
風向 枦。
, =60 , 風速 Fa,=16 ノット
波向 圻。 =60°
, 波高∬ =
1.25m
コ ールドスタ ートとは,制御装置の内 部で推定す
る定常力が全く推定 されていない状態 からのスタ
( % 有義値)
ートをい う。図 4は目標点(原点 )か らスタ ート
その様子を図 3に示 す。図 は流向 βに対し何m /
した場合の, 1,400 秒間の船体 運動の様子を 表わ
秒の流速 に耐え られるかを円 グラフに表 わし たも
したもので, スタ ート後に一度外力の下手 に流さ
ので ある。
れ,やがて目 標点 に復帰する軌 跡図である。この
これによれば流速を2 kt ( 1.08m/
秒)とすると,
詳細をX軸方向 の運動,y 軸方向 の運動およ び回
図 に示 すようにいずれの状態においても耐え られ
頭運動に分解して表わした ものが図 5,図 6,図
る流向 は約30 °以 内であ る。
7で ある。それぞれの図 は,横軸に時間を取り,
5.2 制御性能 シミ ュレーション
真値を○印,セ ンサで観測した観測値を十印, ka-
シミュレ ーショ ンには海中作業実験船 の船体モ
1man フ ィルタで 推定した値を△印で プロ ットし
デルを使用しており,主要目 は垂線間長 島 。=
=
たもので,位置セ ンサの誤差は標準偏差で 5m,
53m,
型 幅B = 28m, 型深 £)= 10.6m, 吃水 ば=
サンプ リング周 期 2秒, また方位セ ンサの誤差 は
排水量3,500 tonであ る。 また 想 定 外 力
標準偏差で0.01 °, サンプ リング周 期1秒を 想定
は流速2 kt, 流向30 °,風速16 kt, 風向90 °
, 波
している。図 8は, 船首ス ラスタに対 する指令推
高1.25m,
特性波周期6.25 秒であり,座 標はX軸
力を○印, それに対 するス ラスタの機械的 な応答
の正値を北 に取 った右手直交系 による地球固定座
を△印でプロ ットし たものであ るが, 遅れが小さ
標 XH − yE で表示している。
いため,両者は重なって見え る。 また図 9は,主
6.3m,
JAMSTECTR
13
(1984)
7
推進機に対する指令推力を○印,プロペラ翼角が
めに,非常に特異な外力条件を与えて行ったシミ
これに応答することによって実際に船体に作用し
ュレ ーショ ンである。つまり目標点の東側では南
た力を△印で表わしたものである。両者に差があ
るのは,プロペラが前進速度を持つために発生推
力が低下することによる。図10 は電力の消費状態
を表わしたもので,0 印は全電力,十印は船首ス
向きの潮流があり,西側では北向きの潮流がある
ラスタの合計電力,×印は船尾スラスタの合計電
力,△印は主推進機の合計電力である。
合と同じに取り,位置セ ンサはロランCを想定し
5. 2.3 深海 モード
深海モードには向心制御と深海自動の二つの制
を1秒とした場合を図12 に示す。図は0地点から
御機能があることを前述した。向心制御の制御方
式は,位置制御および方位制御に比例・微分制御
た後2.000 秒まで向心制御を続け, 2,000 秒目の
K点で今度は深海自動に切り替えて目標点上に達
方式を採用しており,深海自動には比例・微分・
するまでを表わしたものである。
積分方式を採用している。またkalman フィルタ
は,標準モードのものと違い対水速度センサの信
号も入力されるようになっており。 潮流の推定機
能も持っている。図11 は向心制御の特徴を示すた
という条件である。図によれば,目標点の回りで
絶えず目標点を向くという向心制御の特徴が読み
取れるであろう。次に外力条件を標準モードの場
てその誤差を標準偏差で60m,
サンプ リング周期
向心制御で目標点に近づき,外力の下手で安定し
以上 シミュレーション結果の一例を示したが,
これら一連のシミュレーションによって,本DP
Sの目標性能は十分達成されることが確認された。
全 推力 装置運転
船尾 スラスタ1台停 止
船首 スラスタi 台停 止
主推 進機 1台停 止
図3 許 容 外 力 特 性
Operational capability
JAMSTECTR
13 (1984)
SHIP POSITION < NORTH UP >
CRRT = 2.03(M/S) 30 (DEG), HAKO = 1.25CM)
WIND =8.2 (M/S) 90 (DEG), TW =6.25 CS)
図4 船体の重心運動軌跡
Locus of gravity center
POSITION ERROR : <X>
TRUE (O),ESTIMATE (A), SENSOR (+)
図5 X軸制御特性
X axis control
JAMSTECTR
13 (1984)
POSITION ERROR = < Y >
TRUE CO], ESTIMATE (A), SENSOR
C+)
図6 Y軸制御特性
Y axis control
HEADING ERROR : <V>
TRUE (O), ESTIMATE
(A), SENSOR(+
J
図7 方位制御特性
Yawing control
JAMSTECTR
13 (1984)
BOW THRUSTER (TON/SET)
COMMAND CO), RESPONSE CA)
図8 船首スラスタ推力
Thrust of bow thruster
MAIN PROPELLER (TON/SET)
COMMAND (O), RESPONSE (A)
図9 主推進機推力
Thrust of main propeller
JAMSTECTR
13 (1984)
POWER CONSUMPTION
TOTAL (O), MAIN [A], BOW
[ + ],STN (x)
図10 電 力 消 費
Power consumption
図11 向 心 制 御
Control mode of glare at center
JAMSTECTR
13 (1984)
図12 向心・深海自動制御
Control mode of glare at centerand at deep sea
6. あ と が き
最後に。本DPSの開発にあたり懇切なる御指
本稿では,海中作業実験船のDPSの概要と,
導を頂いた,小山DPS専門部会長をはじめとす
実機用制御プログラムを大型計算機で検証したシ
る海中作業実験船検討委員会委員の方々に厚 くお
ミュレーション結果の一部について報告したが,
礼申し上げる。
引き続きこのプログラムを実機に搭載し専用試験
装置に接続して行う陸上試験,さらには実機を本
船に搭載後行う実海域状態での海上試験が予定さ
れている。これらについては,いずれ機会をみて
報告する予定である。なお今後の研究課題として
文 献
1) 海中作業実験船の計画検討 ;昭和55 年度研究
成果報告書, (1981)
海洋科学技術センタ ー
2) Mor
gan,M亅 パDynamic Positions of
は,いずれ実用化される米軍開発の高精度の衛生
Offshore Vessels ” (1978),
,
測位 システム(Global Positioning System: G
Div. Petroleum Publishing
PS)を位置センサとして応用する技術,あるい
はkalman
フィルタに関しては 応用面でいろいろ
な改良工夫 が可能なので, Extended kalman
フ
PPC Books
3) 野々瀬 茂 ほか, 1983 パ 自動船位保持装置”,
三井造船技報(120),
4) Sargent,
49-60
J. S. et al.,"Adaptive Controle
ィルタ6)のような,より性能のよいフィルタの開
of Thrust er Modulation for a Dynam-
発も必要と考えられる。
ically Positioned Drillship, Proc. OTC,
JAMSTECTR
13 (1984)
13
Houston, 1974-5, 2_, 10-13
2036)
U. K. Dept. Energy,
(OTC
Nor. Petro. Di-
rectrate,"Guidelines for the Specification and Operation of Dynamically
6) Grinble, M. J.et al.," The Design of
Dynamic Ship Positioning Control Systems Using Extended Kalman Filtering
Techniques", Proc. OCEANS
'79, San
Diego, 1979-9, IEEE, 488-497
Positioned Drilling Support Vessels",
(1980)
14
JAMSTECTR 13 (1984)