新規開発重質原油の動向と海外製油所での処理事例 1.調査の目的 2

新規開発重質原油の動向と海外製油所での処理事例
一般財団法人石油エネルギー技術センター
調査情報部
野本
研二
1.調査の目的
現 在 8割 を 超 え て い る 輸 入 原 油 の 中 東 依 存 度 の 低 減 と い う エ ネ ル ギ ー セ キ ュ リ テ
ィ の 観 点 か ら 、カ ナ ダ 産 オ イ ル サ ン ド や ア フ リ カ ・ 南 米 等 の 高 酸 性 ・ 重 金 属 含 有 原
油 と い っ た 新 規 開 発 原 油 を 今 後 活 用 す る 事 が 検 討 さ れ て い る 。た だ し 、新 規 開 発 原
油 は 重 質 ・ 高 酸 価 と い っ た そ の 性 状 に よ り 、そ の ま ま 国 内 製 油 所 で 精 製 す る 事 は 困
難であり、これに対応するためには、製油所への投資が必要である。
そ こ で 当 セ ン タ ー で は 、新 規 開 発 が 行 わ れ て い る 重 質 原 油 に つ い て 、国 内 精 製 を
検 討 す る 上 で の 課 題 検 討 の 基 礎 デ ー タ を 得 る 事 を 目 的 と し て 、将 来 日 本 へ 輸 入 さ れ
る 見 込 み に つ い て 調 査 し た 他 、こ れ ら 重 質 原 油 を 精 製 処 理 し て い る 海 外 製 油 所 を 訪
問し、重質・高酸価原油を国内製油所で精製する場合の課題について調査した。
2.調査の内容
世 界 の 重 質 原 油 生 産 見 通 し か ら 、新 規 開 発 原 油 を 将 来 我 が 国 で 取 り 扱 う 事 が 適 当
で あ る か ど う か を 検 討 し た 。ま た 、重 質 ・ 高 酸 価 と い う 特 徴 を 持 つ 新 規 開 発 原 油 を
精 製 処 理 す る 上 で の 課 題 、対 応 策 及 び そ れ に か か る 投 資 費 用 に つ い て 評 価 し た 。そ
の 他 、実 際 に 重 質 高 酸 価 原 油 を 精 製 し て い る 事 例 と し て 、米 国・ 中 国 ・イ ン ド の 製
油所を訪問し、各々の対応策や課題について調査した。
本 報 告 書 は 業 界 基 準 に 従 い 、 API比 重 22未 満 の 原 油 を 重 質 油 と 分 類 す る 。 API比
重 10以 上 の 重 質 油 は 一 般 的 に 「 在 来 型 」 重 質 油 と 呼 ば れ 、API比 重 10未 満 の 原 油 は
一般に「非在来型」と見なされている。
3.調査の結果
3.1
世界の重質油生産見通し
各 地 域 の 重 質 原 油 生 産 予 測 を 図 1 に 示 す 。2012年 の 世 界 に お け る 重 質 油 の 総 生 産
量 は 1,000万 BPDで あ っ た 。 重 質 油 生 産 は 、 2025年 ま で に 1,540万 BPD、 2035年 ま
で に 1、640万 BPDに 達 す る 見 込 み で あ る 。 そ の 後 生 産 量 は わ ず か に 減 退 す る と 予 測
されている。
供給量の増加が最も著しいと考えられているのがカナダのオイルサンド由来の
重 質 油 で あ る 。2030年 ま で に こ の 生 産 は 、生 ビ チ ュ ー メ ン が 450万 BPDま で 増 加 す
る 見 通 し で あ る 。現 時 点 で 発 表 さ れ た プ ロ ジ ェ ク ト が 、見 通 し の 予 測 通 り に 実 施 さ
れ る な ら 、2035年 ま で に さ ら に 200万 BPDが 増 産 さ れ る ポ テ ン シ ャ ル が あ る 。カ ナ
ダ の オ イ ル サ ン ド 生 産 の 大 幅 な 増 加 は 、北 米 の イ ン フ ラ 及 び 輸 出 に 広 範 な 影 響 を 与
え る 。カ ナ ダ の 重 質 油 生 産 は ま も な く 、現 在 そ の 大 半 を 処 理 し て い る 米 国 中 西 部 の
1
製 油 所 能 力 を 超 え る 見 込 み で あ る 。そ の 主 な 出 荷 先 は 米 国 の メ キ シ コ 湾 岸 だ が 、パ
イ プ ラ イ ン 能 力 は 限 ら れ て い る た め 、一 部 は 鉄 道 で 輸 送 さ れ て い る 。鉄 道 で 輸 送 さ
れ る ビ チ ュ ー メ ン は 、パ イ プ ラ イ ン で 輸 送 さ れ る 場 合 と 比 べ て 、必 要 と さ れ る 希 釈
剤 が 少 な い 長 所 を 持 つ 。し か し 、2025年 ま で に は 生 産 量 が 多 す ぎ て 北 米 で す べ て を
処 理 す る こ と は で き な く な る だ ろ う 。そ の た め 原 油 を 北 米 西 海 岸 沿 い の 港 湾 ま で 西
に 向 か っ て 運 ぶ 目 的 で 、何 本 か の パ イ プ ラ イ ン が 提 案 さ れ て お り 、こ れ が 達 成 さ れ
れば、カナダ産重質原油をアジア市場に輸送可能となるルートができる。
供 給 量 が 増 大 す る 2番 目 の 主 要 供 給 ソ ー ス は 、 ベ ネ ズ エ ラ の オ リ ノ コ 超 重 質 油 で
ある。オリノコ地帯は世界最大の未開発石油資源の一つである。その他南米では、
コロンビア、エクアドルにて重質油生産が増大する見込みである。
中 東 に は 、2020年 ま で に 生 産 が 開 始 さ れ る と 予 想 し て い る 巨 大 な 未 開 発 の 重 質 油
油 田 が い く つ か あ り 、 重 質 油 生 産 の 伸 び 率 は 2025年 ま で 年 平 均 8%で 、 地 域 別 で は
最 も 伸 び 率 が 高 く な る 見 込 み で あ る 。ア フ リ カ は 、2025年 ま で 重 質 油 の 開 発 を 続 け
る と 見 ら れ て い る 。生 産 は 年 平 均 0.4%の ゆ っ く り し た ペ ー ス で 増 加 し 、そ の 後 減 退
す る と 見 遠 し で あ る 。ヨ ー ロ ッ パ 、ロ シ ア 及 び ア ジ ア の 重 質 油 生 産 は ゆ っ く り と 減
退する見通しである。
N. America
S. America
Middle East
Europe Russia CIS
Africa
Asia Pacific
18
16
14
Million b/d
12
10
8
6
4
2
2035
2034
2033
2032
2031
2030
2029
2028
2027
2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
0
出 所 : Hart Energy
図1
次各地域の重質原油生産予測
現 在 、重 質 油 生 産 の 84%が 在 来 型 資 源 に 由 来 す る が 、 2030年 ま で に は 、 57%が 非
在 来 型 資 源 由 来 と な る と 予 測 さ れ る 。非 在 来 型 資 源 と し て は 、北 米 の シ ェ ー ル オ イ
ル 生 産 も 急 増 中 で 、2025年 ま で に 570万 BPDの 原 油 及 び コ ン デ ン セ ー ト が 生 産 さ れ
2
る 予 測 で あ る 。図 2 に 提 示 し た 世 界 の 油 種 別 液 体 燃 料 生 産 見 通 し で は 、2015年 か ら
需 要 に 対 し わ ず か に 原 油 過 剰 と な り 、そ の 状 態 が 続 い た 後 、2027年 以 降 に は 再 び 不
足に転じるを予測している。
120
Oilsands LT projects
Other
Biofuels
90
GTL/CTL (EIA)
Million B/D
Shale NGL
Conventional NGL
60
Conv condensate
Marketed Light SCO
Unconventional heavy
30
Conventional heavy
Shale Oil
Light/Medium crude
2030
2029
2028
2027
2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
0
Demand
出 所 : Hart Energy
図2
世界の油種別液体燃料生産見通し
重 質 油 開 発 に か か る 採 掘 コ ス ト は 、原 油 開 発 プ ロ ジ ェ ク ト を 格 付 け す る 際 の 重 要
な 要 素 で あ り 、 開 発 埋 蔵 量 1バ レ ル 当 た り の ド ル 、 ま た は 、 開 発 能 力 の BPD当 た り
の ド ル と し て 表 さ れ る 。前 者 は 、シ ェ ー ル オ イ ル 対 重 質 油 と い っ た 異 な る タ イ プ の
プ ロ ジ ェ ク ト を 比 較 す る 際 に 有 用 で あ り 、後 者 は 重 質 油 水 蒸 気 攻 法 や 非 在 来 型 重 質
油 開 発 と い っ た 、何 年 に も わ た り 低 い 減 退 率 で 生 産 さ れ る プ ロ ジ ェ ク ト に 適 し て い
る 。 ド ル 2ド ル /バ レ ル 未 満 の 中 東 の プ ロ ジ ェ ク ト 以 外 は 、 大 半 が 8ド ル /バ レ ル か ら
18ド ル /バ レ ル の 範 囲 内 で あ る 。シ ェ ー ル オ イ ル の 場 合 は 約 14~ 17ド ル /バ レ ル で あ
る。
た だ し 、重 質 油 田 に お い て は 水 蒸 気 圧 入 等 外 部 エ ネ ル ギ ー を 擁 す る 場 合 が ほ と ん
ど で あ り 、操 業 コ ス ト は 高 価 と な る 。近 年 北 米 の 天 然 ガ ス が 供 給 過 剰 に よ っ て 価 格
が 大 幅 に 低 下 し た こ と で 、油 田 の 操 業 コ ス ト も 大 き く 下 が っ た 。し か し な が ら 、依
然 と し て 重 質 油 を 輸 送 可 能 な 性 状 に す る た め の ブ レ ン デ ィ ン グ コ ス ト は 3 0ド ル / バ
レ ル を 超 え て い る 。カ ナ ダ 産 オ イ ル サ ン ド の 損 益 分 岐 点 コ ス ト は 、新 た な 地 層 内 回
収 プ ロ ジ ェ ク ト で 、 WTI 価 格 が 平 均 約 6 0 ド ル / バ レ ル で あ る こ と が 必 要 で あ る 。 採
掘 プ ロ ジ ェ ク ト は 、 WTI 価 格 8 0 ド ル / バ レ ル で 損 益 分 岐 点 に 達 す る が 、 採 掘 と ア ッ
プ グ レ ー ダ ー の 統 合 プ ロ ジ ェ ク ト で は 、 損 益 分 岐 点 に 達 す る に は 最 高 で 100ド ル /
バ レ ル が 必 要 と な る 。一 般 に 、バ ッ ケ ン 及 び パ ー ミ ア ン の 軽 質 タ イ ト オ イ ル プ レ イ
の 平 均 の 損 益 分 岐 点 価 格 は 、 1バ レ ル 当 た り 35~ 70ド ル で あ る 。
3
重 質 油 生 産 国 は 、国 内 の 重 質 油 処 理 能 力 を 開 発 し つ つ あ る が 、世 界 市 場 で 利 用 可
能 な 量 も 増 加 す る 見 込 み で あ る 。最 大 の 重 質 油 処 理 能 力 を 持 つ 北 米 は 、現 在 進 行 中
の い く つ か の 重 質 油 精 製 プ ロ ジ ェ ク ト の 完 成 に よ り 、北 米 産 重 質 油 の 精 製 能 力 が さ
ら に 拡 大 す る 予 定 で あ る 。そ の 後 、北 米 の 製 油 所 は 、非 在 来 型 シ ェ ー ル ・ タ イ ト オ
イ ル プ レ イ か ら 増 産 さ れ る 軽 質 油 を 処 理 す る 必 要 が あ る た め 、2025年 以 降 は 重 質 油
処 理 量 を さ ら に 拡 大 す る こ と は な い と 思 わ れ る 。精 製 能 力 は 2025年 ま で は 横 ば い 状
態 で 、そ の 後 、重 質 油 処 理 量 は 減 少 し 、北 米 か ら の 重 質 油 輸 出 量 の 大 幅 な 増 加 が 予
想される。
表 1 は 、輸 出 市 場 に 回 っ て く る 大 量 の 重 質 油 の 処 理 に 関 す る 情 報 と し て 、各 地 域
に お け る 輸 出 量 、北 米 の 製 油 所 、南 米 ・ 中 米 及 び カ リ ブ 海 地 域 の 製 油 所 、ヨ ー ロ ッ
パ に よ る 輸 入 量 、そ の 残 り と し て ア ジ ア と 、量 は 少 な い が ア フ リ カ へ 輸 出 さ れ る 正
味 量 と し て 示 し て い る 。2012年 に ア ジ ア が 輸 入 し た 160万 BPDの 多 く は 中 国 と イ ン
ド に よ っ て 処 理 さ れ た 。 北 米 は 、 輸 出 市 場 か ら 146万 BPDを 輸 入 し た 。 こ れ に は カ
ナ ダ 産 原 油 の 米 国 へ の 輸 出 は 含 ま れ て い な い が 、そ れ は 両 国 を 単 一 市 場 と 考 え て い
る か ら で あ る 。北 米 は 、重 質 油 の 輸 出 を 開 始 す る の に 伴 い 、輸 入 が 劇 的 に 減 少 す る
見 込 み で あ る 。ア ジ ア は 需 要 の 増 加 に よ っ て 、将 来 は 重 質 油 の 主 要 市 場 と な り 得 る 。
ま た 、ア フ リ カ も こ の 原 油 の 一 部 を 受 け 入 れ ら れ る 見 込 み で あ る 。た だ し そ れ に は 、
さらなる精製設備の増設が必要となる。
表 2 .6
Export Market
North America
South America
Europe, Russia & CIS
Asia Pacific
Middle East
Africa
Total
Draw from Export Volume
North America
South America
Europe
Total
Net to Asia/Africa Refining
Total
世 界 の 重 質 油 輸 出 バ ラ ン ス ( 千 BPD)
2012
262
1,776
267
111
632
827
3,876
2015
323
2,098
300
82
1,299
745
4,847
2020
685
1,899
400
42
1,713
726
5,465
2025
2,011
2,248
232
25
1,518
739
6,772
2030
2,540
2,367
145
9
1,331
610
7,001
2035
2,490
2,068
97
0
1,233
506
6,393
1,460
400
450
2,310
1,130
400
440
1,970
200
450
430
1,080
180
450
420
1,050
150
450
400
1,000
150
450
390
990
1,566
2,877
4,385
5,722
6,001
5,403
出 所 : Hart Energy
3.2
重質・高酸価原油処理の課題
API比 重 の 数 値 に よ り 、原 油 が 重 質 な の か 軽 質 な の か を 知 る こ と が で き る 。2011
年 度 の 国 内 輸 入 原 油 の 平 均 API比 重 は 35.8で あ っ た 。 一 般 的 に は API比 重 22未 満 の
原 油 が 重 質 原 油 に 分 類 さ れ る 。こ の よ う な 原 油 は 国 内 で 処 理 さ れ る 一 般 的 な 原 油 よ
り も コ ス ト 面 で は 優 位 だ が 、精 製 処 理 す る 場 合 、重 油 の 得 率 が 大 き く な っ て し ま う 。
4
こ の た め 、需 要 の 大 き い ガ ソ リ ン や 軽 油 等 白 油 製 品 得 率 を 向 上 さ せ る た め に 、軽 質
原 油 と ブ レ ン ド し て 原 油 の API比 重 を 調 整 す る 他 、 コ ー キ ン グ 装 置 等 の 重 質 油 分 解
装 置 の 導 入 が 必 要 と な る 。ま た 、図 3 に 重 質 油 分 解 装 置 を 含 む 製 油 所 装 置 構 成 例 を 、
表2に各種重質油分解技術の概要を示す。
重 質 油 分 解 装 置 導 入 に は 、水 素 化 脱 硫 、接 触 分 解 装 置 の 触 媒 被 毒 原 因 と な る 重 金
属 を 除 去 す る た め の ガ ー ド リ ア ク タ ー 設 置 や 、装 置 に よ っ て は 水 素 製 造 等 関 連 装 置
も 必 要 な 場 合 が あ る の で 、 重 質 原 油 を 処 理 す る た め に は 1,000億 円 以 上 の 設 備 投 資
が 必 要 と 言 わ れ て い る 。コ ス ト を 高 め る 主 な 要 因 に は 、原 油 の 油 種 、供 給 品 質 、望
ま し い 分 解 ・ 改 質 レ ベ ル 、既 存 の 製 油 所 イ ン フ ラ と の 相 互 作 用 及 び 製 品 ブ レ ン ド に
よ る 相 互 作 用 な ど が あ る 。こ の た め 、重 質 油 分 解 装 置 導 入 は 当 該 製 油 所 の 将 来 の 財
務実績に非常に重要な影響を与える可能性がある。
出所:東洋エンジニアリングウェブサイト
図3
重質油分解装置を含む製油所装置構成例
5
表2
熱分解
各種重質油分解技術比較
スラリー床水素化分解
沸騰床水素化分解
ライセンサー
FW、CB&I
ExxonMobil
UOP
KBR
CB&I
Axens
プロセス名
ディレード
コーカー
フレキシ
コーカー
Uniflex
VCC
LC-Fining
H-Oil
ガス化
CB&I
E-Gas
13億ドル
(0.5万t/d)
導入コスト
具体例
約10億ドル
ディレードコー
カーの3割高
沸騰床水素化分
解の2割高
10-15億ドル
(3-4万bpd)
導入コスト
上昇要因
-
ガス化装置
併設
高圧の反応装置
高圧の反応装置
導入コスト評価
Base
+
++
++
+
60-80(1基)
転化率, %
約70
95以上
導入実績
100基以上
6基
(東亜京浜他)
他3基建設中
フィード中
重金属(Ni+V)上限
触媒
○
(条件なし)
-
○
(条件なし)
-
水素
生成コークス
の搬送時、
粉じん発生
-
備考
90以上
95以上
+
40億ドル
(2万t/d、
リライアンス)
1,000℃の高温
反応装置、
要酸素
+++
50-80(1基)
99以上
85-90(2基)
90以上
(2基orスラリー触媒)
9基
(東燃川崎他)
4基
○
(条件なし)
-
小規模×1基
(5,000bpd、カナダ)
最初の商業機
建設中
(中国、
カンボジア)
9基
他1基建設中
△
△
△
必要
必要
必要
△
(300ppm)
必要
必要
必要
必要
必要
生成ガスの用
途確保が必要
重金属
回収可
出所:各社資料及びヒアリング内容
ま た 、重 質 原 油 は 一 般 的 に 酸 性 度 も 高 い た め 、精 製 設 備 の 腐 食 防 止 対 策 が 求 め ら
れ る 。 原 油 の 酸 性 度 は 、 全 酸 価 ( T A N) の 数 値 が 高 い ほ ど 強 い 。 重 質 原 油 に は TA
Nが 高 い も の が 多 い 。 TANと 直 接 相 関 す る と は 限 ら な い が 、 高 酸 価 原 油 の う ち 、 特
に軽油より重質な留分に多く含まれるナフテン酸化合物が高温度下での金属腐食
を 引 き 起 こ し や す い た め 、関 連 す る 装 置 、配 管 等 に つ い て の 対 策 が 必 要 と な る 。一
般 的 な 対 策 は 、ブ レ ン ド に よ る 常 圧 蒸 留 装 置 入 口 で の TAN上 限 規 制 及 び 薬 剤 注 入 等
で あ る 。た だ し 、最 も 効 果 的 な 対 策 は ス テ ン レ ス 等 へ の 材 質 変 更 で あ る 。薬 剤 注 入
を 併 用 し つ つ 、長 期 的 ス パ ン で 材 質 変 更 を 順 次 進 め る の も 可 能 で あ る 。最 も 有 効 な
対 策 は 腐 食 環 境 の 厳 し い 装 置 の 材 質 を 炭 素 鋼 か ら SUS316L等 の ス テ ン レ ス に 変 更
す る こ と だ が 、こ れ に は 高 額 な 費 用 が 必 要 で あ る た め 、腐 食 防 止 剤 等 の 薬 剤 注 入 に
よ る 対 応 や 、材 質 変 更 と 薬 剤 と の 併 用 も 一 般 的 で あ る 。ち な み に 、2011年 の 国 内 に
お け る TANが 1mgKOH/g以 上 の 原 油 の 処 理 比 率 は 0.8% で 、 常 圧 蒸 留 装 置 へ 投 入 さ
れ る 原 油 の TANは 通 常 1以 下 に 調 整 さ れ て 処 理 さ れ て い る 。
3.3
海外製油所での重質油処理実例
高 TAN・ 重 質 原 油 の 処 理 事 例 実 態 調 査 と し て 、米 国( ラ イ オ ン デ ル バ セ ル 、エ ク
ソ ン モ ー ビ ル ) 、 中 国 ( SINOPEC) 及 び イ ン ド ( リ ラ イ ア ン ス ) 各 社 の 製 油 所 を
訪問して情報を収集した。
3.3.1
米国
米 国 テ キ サ ス 州 、ヒ ュ ー ス ト ン 西 部 の ヒ ュ ー ス ト ン ・ シ ッ プ ・ チ ャ ネ ル と い う 運
6
河 沿 い に は 、多 く の 石 油 産 業 関 連 工 場 が 立 地 し て い る 。ラ イ オ ン デ ル バ セ ル の ヒ ュ
ー ス ト ン 製 油 所 と エ ク ソ ン モ ー ビ ル の ベ イ タ ウ ン 製 油 所 を 訪 問 し 、重 質 原 油 処 理 の
現状について情報した。
①
ライオンデルバセル ヒューストン製油所
1918年 操 業 開 始 の 同 製 油 所 は 、 常 圧 蒸 留 装 置 28.5万 BPD、 接 触 分 解 装 置 11万 BP
D、 の 規 模 を 擁 し 、 重 質 油 熱 分 解 装 置 に つ い て は 、 1960 年 代 に 1基 目 の デ ィ レ ー ド
コ ー カ ー を 設 置 、 90年 代 に 2基 目 を 設 置 し て お り 、 計 10.7万 BPDの 規 模 が あ る 。 2
基 目 の デ ィ レ ー ド コ ー カ ー を 設 置 し た 後 の 1993-2006年 の 間 は 、 重 質 原 油 を 多 く 産
出 す る ベ ネ ズ エ ラ の 国 営 石 油 会 社 PDVSAの 子 会 社 で あ る CITGOと の JVで 製 油 所
を 操 業 し て お り 、こ の 時 期 に 重 質 油 を 受 け 入 れ る た め の 設 備 投 資 を 積 極 的 に 実 施 し
て き た 。 ま た 、 同 社 は ヒ ュ ー ス ト ン に 位 置 す る 石 化 工 場 で 日 本 向 け ETBEを 生 産 、
出荷している。
同 製 油 所 で 処 理 さ れ る 重 質 原 油 に つ い て は 、 2基 目 の デ ィ レ ー ド コ ー カ ー 設 置 時
に PDVSAか ら 24万 BPD、 期 間 25年 の 原 油 供 給 契 約 を 締 結 し て い る 他 、 重 質 な カ ナ
ダ 産 原 油 も 処 理 し て い る 。重 質 油 を デ ィ レ ー ド コ ー カ ー で 処 理 す る 場 合 、加 熱 炉 で
熱 せ ら れ た 油 は コ ー カ ー ド ラ ム と い う 部 屋 で 軽 質 留 分 と コ ー ク ス に 分 解 さ れ る 。こ
こ で 発 生 す る コ ー ク ス の 処 理 が し ば し ば 重 質 油 処 理 に お け る 課 題 と な る 。同 製 油 所
で 発 生 し た コ ー ク ス は 、コ ー カ ー ド ラ ム か ら 直 接 ホ ッ パ ー 車 へ 積 み 込 ま れ 、列 車 で
出荷、販売されている。
ま た 、 精 製 設 備 の 高 酸 価 原 油 対 応 に つ い て は 、 CITG Oと の JV 期 間 中 、 設 備 の 点
検 結 果 を 参 考 に し な が ら 、材 質 変 更 に て 順 次 実 施 し て き た 。減 圧 蒸 留 装 置 や 配 管 等
を 中 心 に 、 直 近 10~ 15年 の 間 に 総 額 1億 ド ル 以 上 を ス テ ン レ ス 等 へ の 材 質 変 更 に 投
資 し て い る 。ま た 、近 年 で は 脱 塩 槽 の 運 転 温 度 ア ッ プ 、減 圧 蒸 留 装 置 の 還 流 部 の 材
質変更などを行いました。
②
エクソンモービル ベイタウン製油所
1920年 操 業 開 始 、米 国 内 の エ ク ソ ン モ ー ビ ル 製 油 所 に お い て 最 大 規 模 の ベ イ タ ウ
ン 製 油 所 は 、米 国 内 の 全 製 油 所 の 中 で も 第 二 の 処 理 能 力( 58.4万 BPD)を 持 っ て い
る 。重 質 留 分 処 理 装 置 と し て は 自 身 の ラ イ セ ン ス 技 術 で あ り 、コ ー カ ー と ガ ス 化 炉
か ら 構 成 さ れ る フ レ キ シ コ ー カ ー ( 4.6万 BPD) を 1986年 に 導 入 し た 。 同 製 油 所 は
そ の 後 、 デ ィ レ ー ド コ ー カ ー を 2001年 に 導 入 し て い る 。
フ レ キ シ コ ー カ ー は 付 加 価 値 を 持 つ 水 素 を 製 造 で き る 他 、閉 鎖 系 プ ロ セ ス の た め
粉 じ ん の 発 生 が な い 等 の 長 所 が あ り ま す が 、副 生 ガ ス の 供 給 先 が な い 、導 入 コ ス ト
が 高 い 等 の 理 由 か ら 、 2台 目 の 重 質 留 分 処 理 装 置 に は デ ィ レ ー ド コ ー カ ー を 選 択 し
た 。フ レ キ シ コ ー カ ー か ら 得 ら れ る 低 圧・低 カ ロ リ ー の 副 生 ガ ス は 、自 家 使 用 の 他 、
一 部 外 部 へ 販 売 も さ れ て い ま す 。デ ィ レ ー ド コ ー カ ー か ら の 発 生 コ ー ク ス は 、外 部
7
へ販売されている。
同 製 油 所 で は Cold lake等 カ ナ ダ 産 、Maya等 メ キ シ コ 産 の 重 質 原 油 の 他 、ア フ リ
カ、中東原油を処理している。カナダ産原油の一部はパイプライン輸送されるが、
最近は鉄道による輸送も増えている。
高 酸 価 原 油 対 応 と し て は 、酸 価 の 低 い 原 油 と の ブ レ ン ド 、薬 剤 注 入 、材 質 変 更 の
他、装置内のモニタリング等の手段を用いている。
3.3.2
中国
中 国 は 急 増 す る 国 内 石 油 製 品 需 要 に 対 応 す る 他 、国 内 で 産 出 さ れ る 原 油 処 理 対 応
と し て 、 古 く か ら 重 質 原 油 を 製 油 所 で 扱 っ て き た 経 験 が あ る 。 SINOPECの 製 油 所
の う ち 、同 国 最 大 級 の 規 模 で 重 質 ・ 高 酸 価 原 油 を 処 理 し て い る 広 州 石 化 と 、高 酸 価
の 同 国 産 勝 利 油 田 原 油 を 積 極 的 に 処 理 し て い る 済 南 石 化 の 両 製 油 所 を 訪 問 し 、情 報
を収集した。
①
SINOPEC広 州 石 化
1973年 に 操 業 開 始 し た SINOPEC広 州 石 化 は 、常 圧 蒸 留 装 置 26万 BPD、接 触 分 解
装 置 5.4万 BPD、デ ィ レ ー ド コ ー カ ー 4.4万 BPDを 擁 す る 製 油 所 で あ る 。重 質 原 油 に
つ い て は カ ナ ダ 、メ キ シ コ 、コ ロ ン ビ ア 、ベ ネ ズ エ ラ 等 か ら 、高 酸 価 原 油 に つ い て
は ブ ラ ジ ル 、ア ン ゴ ラ 等 か ら 受 け 入 れ て お り 、処 理 原 油 に お け る 劣 質( 高 酸 価 も し
く は 重 質 ) 原 油 の 占 め る 割 合 は 最 大 3 5%に な り ま す 。 SIN OPEC広 州 石 化 に て 処 理
している主な原油とその性状を表3に示します。
表3
種類
重質原油
高酸価原
油
良質原油
SINOPEC広 州 石 化 に て 処 理 し て い る 主 な 原 油
処理原油
COLD LAKE
AWB
ALBIAN.H
MAYA
CASTILLA
MEREY16
RONCADOR
KUITO
DALIA
Kissanje
沙中原油
沙経原油
産地
API 比重
カナダ
カナダ
カナダ
メキシコ
コロンビア
ベネズエラ
ブラジル
アンゴラ
アンゴラ
アンゴラ
中国
中国
21.1
20.1
20.6
18.6
16.1
18.8
22.5
22.5
31.3
30.66
32.7
硫黄分
(質量%)
4.4
2.9
2.52
3.52
1.76
2.7
0.87
0.75
0.58
0.4
2.6
1.8
TAN
(mgKOH/g)
0.84
1.41
1.98
2.32
1.7
3.87
0.44
0.2
0.07
出 所 : SINOPEC
同 製 油 所 の 重 質 ・ 高 酸 価 原 油 処 理 に お け る 特 徴 と し て 、常 圧 蒸 留 装 置 へ 投 入 す る
原 油 を 2系 列 に 分 け 、 高 硫 黄 、 高 酸 価 そ れ ぞ れ に 対 応 し て い る 点 が 挙 げ ら れ る 。 系
8
列 毎 の 処 理 原 油 性 状 を 表 4 に 示 す 。 な お 、 両 系 統 と も 投 入 原 油 の API比 重 は 29以 下
に調整されている。
表4
常圧蒸留装置 CD1 CD2 SINOPEC広 州 石 化 の 常 圧 蒸 留 装 置 系 統
硫黄分上限(質量%)
TAN 上限(mgKOH/g) 1.6
2.3
2.66
0.5
出 所 : SINOPEC
高 酸 価 原 油 対 応 に つ い て 、操 業 当 初 は 低 TAN原 油 と の ブ レ ン ド で の 対 応 が 中 心 だ
っ た が 、そ の 後 、材 質 対 応 へ シ フ ト し て い き ま し た 。同 製 油 所 で は 減 圧 蒸 留 装 置 で
230℃ 以 上 と な る 箇 所 は ス テ ン レ ス 鋼 へ 材 質 変 更 を 実 施 し て お り 、 250℃ 以 上 と な
る 箇 所 で は こ れ に 加 え 、腐 食 防 止 剤 注 入 も 実 施 し て い る 。ま た 、減 圧 蒸 留 装 置 の 高
温配管部等、配管肉厚の常時測定を実施している箇所もあります。
②
SINOPEC済 南 石 化
1971年 に 操 業 開 始 し た SINOPEC済 南 石 化 は 、 操 業 開 始 当 初 よ り 劣 質 原 油 処 理 対
応 を 実 施 し て き た 。同 製 油 所 の 処 理 能 力 は 、常 圧 蒸 留 装 置 10万 BPD、接 触 分 解 装 置
2.4万 BPD、 デ ィ レ ー ド コ ー カ ー 1.2万 BPDで 、 高 酸 価 の 勝 利 油 田 原 油 ( 最 大 TAN2.
2) と 西 ア フ リ カ 、 中 東 、 南 米 等 か ら の 輸 入 原 油 を ブ レ ン ド し 、 常 圧 蒸 留 装 置 投 入
可 能 な 性 状 に 調 整 し て い る 。 SINOPEC済 南 石 化 に て 処 理 し て い る 主 な 原 油 と そ の
性状を表5に示す。
表5
処理原油 混合原油
(パイプライン輸入混
合)
勝利油田産ブレンド
Shengli Mixed Crude O il
勝利油田産原油
Linpan Crude O il
Kissanje
Plutonio
Escalante
Hungo
Djeno
Zakum
Oriente
ESPO
SINOPEC済 南 石 化 に て 処 理 し て い る 主 な 原 油
産地 API 比重 硫黄分
(質
量%) TAN
(mgKOH/g) 海外
29‐31
0.75
以下
中国
勝利油田
20.8
中国
勝利油田
アンゴラ
アンゴラ
アルゼンチン
アンゴラ
コンゴ共和国
UAE
エクアドル
ロシア
重金属分
ニッケル
(μg/g)
バナジウム
(μg/g)
0.8
以下
1
2.2
8.8
0.01
24.39
0.34
0.7
15.5
1.5
30.4
32.6
24
29.3
27.6
33.84
22.8
34.74
0.39
0.39
0.18
0.63
0.39
1.65
1.6
0.54
0.44
0.69
0.69
0.55
0.73
0.03
0.14
0.04
13.6
2.2
2.2
21.7
26.53
8.7
70.1
3.6
4.5
2.9
2.9
11.9
9.5
12.11
181.3
3.6
出 典 : SINOPEC
9
常 圧 蒸 留 装 置 へ 投 入 さ れ る 原 油 の 平 均 性 状 は 、API比 重 26、硫 黄 分 0.62質 量 %、T
AN0.92mgKOH/gと な っ て い る 。 高 酸 価 原 油 対 応 は 、 か つ て は ブ レ ン ド で の 対 応 で
あ っ た が 、そ の 後 材 質 対 応 へ 移 行 し て い っ た 。2007年 以 降 の 材 質 の ア ッ プ グ レ ー ド
実 施 状 況 と し て は 、 常 圧 蒸 留 装 置 、 減 圧 蒸 留 装 置 に お い て 240℃ 以 上 と な る 箇 所 に
ついて、炭素鋼からステンレス鋼へ材質変更が実施されている。
通 常 は 済 南 か ら 約 300km離 れ た 青 島 の タ ン ク タ ー ミ ナ ル に て 、各 種 原 油 を 常 圧 蒸
留 装 置 へ の 投 入 原 油 の TANが 1.0以 下 と な る よ う タ ン ク ブ レ ン ド し 、 済 南 へ パ イ プ
ラ イ ン 輸 送 し て い る 。 同 製 油 所 は 最 高 で TAN1.15を 処 理 し た 経 験 が あ る 。
3.3.3
インド
イ ン ド で は 石 油 製 品 輸 出 を 想 定 し て 、コ ス ト 面 で 優 位 な 重 質 ・ 高 酸 価 原 油 を 処 理
可 能 な 大 規 模 製 油 所 が 建 設 さ れ て い る 。そ の 中 で 世 界 最 大 能 力 を 誇 る 、リ ラ イ ア ン
ス の ジ ャ ム ナ ガ ー ル 製 油 所 ( 136万 BPD) に つ い て の 各 種 情 報 を 、 ム ン バ イ に あ る
同社の本社を訪問し情報収集した。
ジ ャ ム ナ ガ ー ル 製 油 所 は 大 き く 3つ の 系 統 に 分 け る こ と が で き る 。 1999年 に 完 成
し た J1 ( D T A: Domestic Tariff Area: 国 内 関 税 区 ) 製 油 所 の 能 力 は 、 常 圧 蒸 留
装 置 64万 BPD、 接 触 分 解 20.5 万 BPD、 デ ィ レ ー ド コ ー カ ー 16.5万 BPDで す 。 2 009
年 完 成 の J2( SEZ: Special Economic Zone: 経 済 特 区 ) 製 油 所 は 常 圧 蒸 留 装 置 7
2万 BPD、 接 触 分 解 装 置 21.5万 BPD、 デ ィ レ ー ド コ ー カ ー 17.5万 BPDを 擁 し 、 2015
年 操 業 開 始 予 定 の J3製 油 所 は ガ ス 化 装 置 、石 油 化 学 製 品 向 け 改 質 装 置 に て 構 成 さ れ
る予定である。
同 製 油 所 に お け る 処 理 原 油 は 全 体 の 5割 が 高 酸 価 、 高 硫 黄 原 油 及 び 重 質 原 油 等 の
コ ス ト 面 で 優 位 な 原 油 で あ る 。 調 達 先 別 で み る と 、 1/3を サ ウ ジ ア ラ ビ ア 、 1/3を ベ
ネズエラ等の南米、残りをその他から調達している。
ジ ャ ム ナ ガ ー ル 製 油 所 で は 、劣 悪 原 油( 高 酸 価 原 油 、重 質 原 油 、高 硫 黄 分 原 油( サ
ワ ー 原 油 ) や 高 金 属 含 有 原 油 ) の 処 理 は 、 原 油 の 種 類 に よ り 、 以 下 4種 の 手 段 で 対
応している。また、同製油所における処理原油受入基準を表6に示す。
・
高酸価原油:ブレンドと薬剤注入
・
重質原油:脱塩能力増強
・
高硫黄分原油:水素化処理
・
高金属含有原油:水素化処理装置及びガードリアクター設置。将来は金属回収
も検討
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表4
リライアンス ジャムナガール製油所の処理原油受入基準
地区 平均 API TAN 上限(mgKOH/g)
備考 J1 J2 J3 27.5
26
-
高酸価原油取扱なし
1.0
-
製品は国内向けメイン、一部輸出
製品はすべて輸出 コークスのガス化装置導入 出典:リライアンス
高 酸 価 原 油 の 処 理 に は 制 限 を 設 け て お り 、 常 圧 蒸 留 装 置 入 口 で 平 均 全 酸 価 1.0mg
KOH/gと な る よ う に ブ レ ン ド 処 理 し 、 更 に 薬 剤 注 入 に よ り 腐 食 等 を 軽 減 し て い る 。
こ の と き 高 酸 価 原 油 の ブ レ ン ド 比 は 6 ~ 10 % で あ る 。 操 業 開 始 当 初 は 全 酸 価 0.5mg
KOH/gで 原 油 処 理 を 開 始 し 、 徐 々 に ブ レ ン ド 量 を 増 加 し て き た 。 最 高 で 全 酸 価 1.5
mgKOH/gの 原 油 処 理 経 験 を 同 所 は 有 し て い る 。 ま た 、 定 期 点 検 時 に 機 器 を 開 放 し
ての腐食状況等確認も実施している。
4.まとめ
重質原油生産動向
供給量の増加が最も著しいと考えられているのがカナダのオイルサンド由来の
重 質 油 で あ る 。次 い で 供 給 量 増 大 が 著 し い と さ れ て い る の は 南 米 ベ ネ ズ エ ラ の オ リ
ノ コ 超 重 質 油 で あ り 、中 東 が さ ら に 続 く 。ア フ リ カ 、ヨ ー ロ ッ パ 、ロ シ ア 及 び ア ジ
アの重質油生産は将来的には減退する。
北 米 は 2025年 以 降 重 質 油 処 理 量 を さ ら に 拡 大 す る こ と は な い と 思 わ れ る 。こ れ に
よ り 輸 出 へ 流 れ る と 予 想 さ れ る 。た だ し そ れ に は 、さ ら な る 精 製 設 備 の 増 設 が 必 要
と な る 。ま た 、重 質 原 油 が 価 格 面 に お い て 在 来 型 の 原 油 よ り も 優 位 で あ る 必 要 が あ
る。
訪 問 し た 各 国 が 重 質 原 油 等 を 処 理 し て い る 背 景 と し て 、米 国 は 地 理 的 要 因 に よ り
カ ナ ダ ・ ベ ネ ズ エ ラ 等 重 質 原 油 の 優 先 的 な 入 手 が 可 能 で あ る こ と 、中 国 は 急 増 す る
国 内 石 油 製 品 需 要 に 対 応 す る 他 、国 内 で 産 出 さ れ る 原 油 処 理 対 応 が 必 要 で あ る こ と
が 挙 げ ら れ る 。ま た イ ン ド で は 、購 入 価 格 で メ リ ッ ト は あ る が 特 殊 な 重 質 油 分 解 装
置 が 必 須 と な る 重 質・高 酸 価 原 油 を 処 理 で き る 大 規 模 製 油 所 が 建 設 さ れ て い る 背 景
には、石油化学製品輸出を想定していることがある。
こ れ ら の 国 々 と は 異 な る 背 景 を 持 つ 我 が 国 の 石 油 精 製 業 が 、重 質 ・ 高 酸 価 原 油 の
取 扱 量 を 増 や す こ と を 検 討 す る 場 合 、 1,000億 円 以 上 の 投 資 が 必 要 な 重 質 油 分 解 装
置 の 導 入 や 、装 置 の ス テ ン レ ス へ の 材 質 変 更 に よ る 数 十 ~ 百 億 円 を 超 え る 規 模 の 投
資、薬剤注入や装置モニタリング等によるランニングコスト上昇は避けられない。
そ れ 故 に 、重 質 ・ 高 酸 価 原 油 の 購 入 価 格 低 減 に よ る メ リ ッ ト と 、設 備 投 資 及 び 精 製
コスト上昇によるデメリットのバランスについて考慮する必要がある。
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