1/5 ASIA Indicators 定例経済指標レポート インドネシア銀、もう一歩金融緩和を前進(Asia Weekly (10/17~10/21)) ~豪州の雇用環境はみた目以上に厳しい状況に直面~ 発表日:2016 年 10 月 21 日(金) 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹(03-5221-4522) ○経済指標の振り返り 発表日 指標、イベントなど 結果 コンセンサス 前回 ▲4.8% ▲5.8% ▲0.0% (インドネシア)9 月輸出(前年比) ▲0.59% +0.50% +0.17% 9 月輸入(前年比) ▲2.26% +4.23% ▲0.11% (フィリピン)8 月海外送金(前年比) +16.3% +5.2% ▲5.4% 10/18(火) (ニュージーランド)7-9 月消費者物価(前年比) +0.2% +0.1% +0.4% 3.4% 3.4% 3.4% 10/19(水) (中国)9 月鉱工業生産(前年比) +6.1% +6.4% +6.3% 9 月小売売上高(前年比) +10.7% +10.7% +10.6% 1-9 月固定資産投資(前年比) +8.2% +8.2% +8.1% 7-9 月期実質 GDP(前年比) +6.7% +6.7% +6.7% 5.6% 5.7% 5.7% (台湾)9 月輸出受注(前年比) +3.9% +2.0% +8.3% (香港)9 月消費者物価(前年比) +2.7% +2.3% +4.3% (インドネシア)金融政策委員会(7 日物リバースレポ金利) 4.75% 5.00% 5.00% +1.5% +1.8% +1.5% 10/17(月) (シンガポール)9 月非石油輸出(前年比) (香港)9 月失業率(季調済) 10/20(木) (豪州)9 月失業率(季調済) 10/21(金) (マレーシア)9 月消費者物価(前年比) (注)コンセンサスは Bloomberg 及び THOMSON REUTERS 調査。灰色で囲んでいる指標は本レポートで解説を行っています。 [インドネシア] ~外需の不透明感が景気の足かせになるとの認識を示し、一段の金融緩和に踏み切る~ 17 日に発表された9月の輸出額は前年同月比▲0.59%となり、前月(同+0.17%)から2ヶ月ぶりに前年 を下回る伸びに転じた。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比も、前月に大きく拡大した反動も重な り2ヶ月ぶりに減少に転じるなど一服している。鉱物資源関連の輸出は堅調さを維持する一方、原油相場が上 昇基調を強めているにも拘らず、原油及び天然ガス関連の輸出に下押し圧力が掛かったほか、製造業や農産品 関連の輸出にも一服感が出ており、世界経済の不透明感が重石になっている可能性がある。一方の輸入額は前 年同月比▲2.26%と 24 ヶ月連続で前年を下回る伸びとなり、前月(同▲0.11%)からマイナス幅も拡大して いる。前月比も前月に大きく拡大した反動で2ヶ月ぶりに減少に転じており、原油及び天然ガス関連の輸入額 に下押し圧力が掛かっているほか、その他の財についても輸入額が減少に転じるなど、一進一退の展開が続い ている。結果、貿易収支は+12.17 億ドルと前月(+3.63 億ドル)から黒字幅が拡大している。 20 日、インドネシア銀行は定例の金融政策委員会を開催し、主要政策金利である7日物を 25bp 引き下げて 4.75%とするとともに、短期金利の下限である翌日物預金ファシリティー金利(FASBI)及び上限である 翌日物貸出ファシリティー金利についても 25bp 引き下げ、それぞれ 5.50%、4.50%とする決定を行った。同 行は今年8月から主要政策金利の適用金利を変更しており、今回は変更後2会合連続での利下げ実施となる。 なお、会合後に発表された声明文において、同行は足下の世界経済について「回復は続いているが緩慢で地域 ごとに不均衡な状態にある」との認識を示す一方、同国経済については「内需は堅調な一方、外需が足かせに 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 2/5 なることで第3四半期は事前の見通しほど強くはない」とし、今年通年の経済成長率については「+4.9~5.3%」 との従来見通しを据え置いている。その上で、足下では経常赤字の縮小が一段と進んで対外収支が改善するな か、国際金融市場の落ち着きも相俟って通貨ルピア相場は「強含みする動きもみられる」と評価している。ま た、足下で低下が進むインフレについても引き続き「管理可能な水準にある」とし、 「年末時点のインフレ率 は同行が定めるインフレ目標(4±1%)の下限近傍で推移する」との見方を示している。当面の金融市場は 落ち着いた推移が続くとみられるなか、同行はもう一段の金融緩和に踏み切る可能性もあると予想される。 図 1 ID 貿易動向の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [豪州] 図 2 ID 金融政策の推移 (出所)CEIC, インドネシア銀行より第一生命経済研究所作成 ~非正規雇用が底堅い一方、正規雇用を巡る自発的失業の増加が失業率の改善に寄与した模様~ 20 日に発表された9月の失業率(季調済)は 5.6%となり、前月(5.7%)から 0.1pt 改善した。失業者数 は前月比▲1.2 万人と3ヶ月連続で減少している上、前月(同▲0.8 万人)からそのペースが加速するなど減 少基調を強めており、非正規雇用に対する求職者数(同▲0.5 万人)のみならず、正規雇用に対する求職者数 (同▲0.7 万人)もともに減少している。地域別では、同国第2の都市であるメルボルン擁するビクトリア州 で増加する動きがみられる一方、その他の州では軒並み減少している。一方、雇用者数は前月比▲1.0 万人と 前月(同▲0.9 万人)から2ヶ月連続で減少している上、雇用形態別では非正規雇用者数(同+4.3 万人)が 増加している一方、正規雇用者数(同▲5.3 万人)は2ヶ月ぶりに大幅に減少しており、正規雇用を取り巻く 環境は厳しさを増している。地域別ではビクトリア州で堅調な動きがみられる一方、最大都市シドニーを擁す るニュー・サウス・ウェールズ州では頭打ち感が強まっているほか、その他の州では調整模様が強まるなど、 地域ごとの跛行色が鮮明になっている。なお、失業率が改善した背景には労働力人口が前月比▲2.2 万人と前 月(同▲1.7 万人)に引き続き減少するなど、自発的失業が増加したことが影響しており、その結果として労 働参加率は 64.5%と前月(64.7%)から▲0.2pt 低下している。中期的にみた雇用を取り巻く環境も厳しさを 増しており、足下の雇用環境はみた目ほどには良くないと判断することが出来よう。 図 3 AU 雇用環境の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [ニュージーランド] ~エネルギー物価の下落に加え、サービス物価も下落に歯止めが掛からない展開に~ 18 日に発表された7-9月の消費者物価は前年同月比+0.2%となり、前期(同+0.4%)から一段と伸びが 減速した。前期比も+0.17%と前期(同+0.42%)から上昇ペースが鈍化しており、生鮮品を中心に食料品価 格には上昇圧力が強まる動きがみられる一方、原油相場低迷の長期化を受けてエネルギー価格の上昇圧力が後 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 3/5 退しているほか、それに伴う輸送コストの低下は消費財を全般とする物価上昇圧力を抑えている。なお、食料 品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年同期比+1.1%と前期(同+1.0%)からわずかながら伸びが加 速しており、前期比も+0.25%と前期(同+0.00%)から上昇ペースが加速している。ただし、これはこのと ころの通貨NZドル安の進展に伴う輸入インフレ圧力の高まりが影響しているとみられるほか、長期に亘る金 融緩和の影響で不動産価格が再び上昇圧力を強める動きがある一方、サービス物価の下落に歯止めが掛かって いないほか、非貿易財を巡っても物価上昇圧力が高まりにくい状況が続いている。足下も雇用には底堅さがみ られるものの、景気の先行き不透明感などが物価の重石となっている可能性がある。 図 4 NZ インフレ率の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [フィリピン] ~前月に大きく減少した反動に加え、原油相場の底入れも移民送金の流入を後押し~ 17 日に発表された8月の海外移民労働者による送金流入額は前年同月比+16.3%となり、前月(同▲5.4%) から2ヶ月ぶりに前年を上回る伸びに転じた。当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比も、前月に大き く減少した反動も重なり2ヶ月ぶりに大幅な拡大に転じており、移民労働者からの旺盛な送金が個人消費を支 える構図は変わっていない。なお、国際金融市場が落ち着きを取り戻すなかで通貨ペソの対ドル為替レートは 上昇基調を強めたものの、ペソ建で換算した送金額も前月から拡大しており、個人消費にとってはプラスに作 用すると見込まれる。全体の3割強を占める米国からの流入が米国内における雇用環境の堅調さを背景に順調 な拡大を続けていることに加え、原油相場の底入れが進むなかで全体の3割弱を占める中東からの流入が押し 上げられており、アジアや欧州などのその他の地域からの流入も相対的に堅調を維持している。 図 5 PH 海外送金の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [香港] ~雇用環境に一時的に底入れの兆候は出るも、物価上昇圧力が高まりにくい状況は変わらない~ 18 日に発表された9月の失業率(季調済)は 3.4%となり、前月(3.4%)から7ヶ月連続で横這いでの推 移が続いている。失業者数は前年同月比+0.3 万人と前月(同+0.1 万人)から拡大ペースが加速しており、 新卒者を含めたベースでも緩やかに拡大しており、既卒者を中心に雇用環境は厳しい展開が続いている。一方 の雇用者数は前年同月比+3.4 万人と前月(同+2.7 万人)から拡大ペースが加速に転じており、国際金融市 場が落ち着きを取り戻していることに加え、中国本土経済を巡る不透明感が後退していることは雇用環境の改 善に繋がっている可能性が考えられる。また、労働力人口も前年同月比+3.8 万人と前月(同+3.0 万人)か ら拡大ペースが加速しており、雇用を取り巻く環境に底入れの兆候が出つつある様子もうかがえる。ただし、 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 4/5 中国本土経済については依然一進一退の展開が続くなか、先行きについては再び不透明感が高まるリスクはく すぶっていると判断される。 20 日に発表された9月の消費者物価は前年同月比+2.7%となり、前月(同+4.3%)から減速した。ただ し、前月比は+0.29%と前月(同+0.10%)から上昇ペースが加速しており、生鮮食料品を中心に食料品物価 に上昇圧力が掛かっていることに加え、足下における原油相場の上昇などを反映して都市ガス価格に上昇圧力 が掛かるなど、生活必需品を中心に物価上昇圧力が高まっていることが影響している。なお、同国では 2007 年以降断続的に公営住宅を対象とする賃料減免措置をはじめとする物価支援策の影響でインフレ率が大きく 上下に振れる展開が続いており、この影響を除いたベースだと9月は前年同月比+2.3%と前月(同+2.1%) から加速している。前月比も+0.29%と前月(同+0.10%)から上昇ペースが加速しており、生活必需品を中 心とするインフレ圧力の高まりに加え、下落基調が続いてきた服飾品をはじめとする日用品価格が上昇に転じ たことも物価の押し上げに繋がっている。他方、景気の不透明感を反映する形で耐久消費財などでは物価上昇 圧力が高まりにくい状況が続いており、インフレ率が大きく加速する展開は依然見込みにくいと予想される。 図 6 HK 雇用環境の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 図 7 HK インフレ率の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [シンガポール] ~輸出に底入れの兆候が出る一方、国内景気の弱さを反映して輸入は一進一退の展開~ 17 日に発表された9月の非石油輸出額は前年同月比▲4.8%と4ヶ月連続で前年を下回る伸びとなり、前月 (同▲0.0%)からマイナス幅も拡大している。ただし、前月比は+2.37%と前月(同▲1.87%)から4ヶ月 ぶりに拡大に転じており、調整模様が続いてきた展開が底打ちする兆しもうかがえる。主力の輸出財である電 気機械や機械製品関連のほか、化学製品などの輸出額も拡大するなど幅広い財で底打ちの動きがみられる。な お、原油関連を含めた総輸出額は前年同月比▲1.3%と前月(同+2.2%)から2ヶ月ぶりに前年を下回る伸び に転じており、前月比も▲0.1%と前月(同▲1.7%)から2ヶ月連続で減少しているものの、減少ペースは大 きく縮小するなど底打ちの兆候が出つつある。一方の輸入額は前年同月比▲6.2%と7ヶ月連続で前年を下回 っており、前月(同▲1.2%)からマイナス幅も拡大している。前月比も▲2.5%と前月(同+0.6%)から2 ヶ月ぶりに減少に転じており、拡大と減少を交互に繰り返す一進一退の展開が続いている。国内景気の弱さに 加え、輸出を巡る環境も勢いを欠いていることも輸入の重石になっている。結果、貿易収支は+70.57SGド ルと前月(+52.87 億SGドル)から黒字幅が拡大している。 図 8 SG 貿易動向の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。 5/5 [マレーシア] ~食料品価格に上昇圧力はあるも、全般的に物価が上昇しにくい地合いが続いている模様~ 21 日に発表された9月の消費者物価は前年同月比+1.5%となり、前月(同+1.5%)と同じ伸びとなった。 なお、前月比は▲0.26%と前月(同+0.43%)から8ヶ月ぶりに下落に転じており、このところの原油相場の 上昇にも拘らずエネルギー価格は横這いでの推移が続いている一方、生鮮品を中心に食料品価格は上昇基調を 強めており、生活必需品を巡っては物価上昇圧力が高まっている。他方、下落基調が続いてきた服飾をはじめ とする日用品価格が上昇に転じているものの、先行きの景気を巡る不透明感を反映してサービス物価の上昇ペ ースは鈍化しており、全般的に物価上昇圧力が掛かりにくい状況が続いている。当研究所が試算した食料品と エネルギーを除いたコアインフレ率はわずかに加速しているものの、依然として1%を下回る伸びに留まるな ど上昇基調を強める動きにはなっておらず、引き続きインフレ率は低位安定での推移が続くと見込まれる。 図 9 MY インフレ率の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 [台湾] ~英国のEU離脱の影響も一巡し、IT関連を中心に輸出受注に底入れの動きが広がっている~ 20 日に発表された9月の輸出受注額は前年同月比+3.9%となり、前月(同+8.3%)から伸びが減速した。 当研究所が試算した季節調整値に基づく前月比では勢いこそ鈍化しているものの、5ヶ月連続で拡大基調が続 くなど、国際金融市場が落ち着きを取り戻すなかで世界経済にも底入れの兆候が出ていることを反映し、底離 れの動きが進んでいる。国・地域別では、中国本土及び香港向けについては景気の不透明感を反映して頭打ち 感が出る動きがみられる一方、米国や欧州といった先進国向けを中心に底堅い展開が続いている。特に、欧州 向けについては英国のEU(欧州連合)離脱決定などが一時的に下押し圧力になったとみられるものの、足下 では急速に勢いを取り戻しつつある。財別では、新型スマートフォンの発売などを追い風にIT関連を中心に 電子部品や電気製品の需要が堅調なことが全体の押し上げに繋がっている。こうしたことから、先行きの輸出 については底堅い展開が続く可能性が高まっている。 図 10 TW 輸出受注額の推移 (出所)CEIC より第一生命経済研究所作成 以 上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容 は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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