キノコのガイドブック 2)多様なキノコの紹介

(1)腐朽の程度とキノコ(写真 16)
枯れ木を分解するキノコは種類が多く、また、腐り具合によって発生するキノコが変化
する。一つの枯れ木を観察してゆくと、その分解段階ごとに違ったキノコをみることがで
きる。
カワラタケは、よく目にする定番のキノコであり、分解力が強く針葉樹・広葉樹の両方
に発生する。カイガラタケは分解力は強く、また傘の裏がヒダ状になっているので見分け
やすい。ベニヒダタケは分解力が弱いので、材の分解が進んだ最終段階で発生する。他の
キノコによって分解された残りを栄養にしている(根田・伊沢,2006)。
(2)樹種とキノコ(写真 17)
カワラタケのように樹種を選ばずに針・広葉樹どちらにでも発生するような種もあれ
ば、特定の樹種のみから発生するものもある。
ホウロクタケは広葉樹の枯木に発生し、通年生なので季節を問わず観察できる。エゴノ
キタケは、エゴノキの枯れ木上に発生し、スギエダタケは針葉樹(特にスギ)の落枝から
発生するキノコである。
(3)生きている木に発生するキノコ(写真 18)
枯れた木に生えたのか、それともキノコが木を枯らしたのか。疑問に思ったことのある
人もいるだろう。木材腐朽菌は枯れ木に生えるものがほとんどだが、中にはナラタケのよ
うに生きた木に寄生して枯死させるものもある。また、生きた木の枯れた部分に生えるも
のもある。そのようなキノコは、直接宿主を枯死せる力はないが腐朽の進行によって宿主
の強度を弱めて風害を招くことがある(今関・本郷,1987)。
コフキサルノコシカケは、多年生であるため季節を問わず見かけるキノコである。多く
は幹の根元付近に発生していたが、大学内で確認したこの個体は幹の高い位置に発生して
いた。枯木を分解する菌であるが、生木に発生することもある。というのも、樹木の幹で
生きた細胞は表面近くのみで、その内部はほとんどが死んだ細胞である。死んだ細胞であ
る心材の中で、菌糸を繁殖させて養分を得ている。また、発生して間もないコフキサルノ
コシカケを観察したところ、7月では全体が白色であったものが、8月末には表面が茶色
くなっていた。この表面の茶色は自らの胞子が降り積もったためである。
ベッコウタケはサクラなどの広葉樹、根株部の心材を腐らせる。空洞となった木は倒れ
やすくなり、風折れなどの原因となる。スルメタケもベッコウタケと同様に広葉樹の根株
腐朽菌であるが、このように地下の根を侵して宿主から離れた地上に姿を現すこともある。
Ⅳ.個性あるキノコたち
1. 小さなキノコと大きなキノコ(写真 19)
イヌセンボンタケの1個体の傘の大きさは1cm程度と超小型で可愛らしいが、ときにお
19
びただしく群生する様はなかなか壮観である。一方、バレーボールのようなオニフスベは
ときに直径 50cmになることもあり、また白色の幼菌時は食用になると言われている。
1.
軟らかいキノコと硬いキノコ(写真 20)
キノコには、シイタケのような軟らかいものとサルノコシカケのような硬いものがある。
軟らかいキノコには発生期間が短いものが多く、硬いキノコには 1 年生~多年生と長期間
にわたって見られるものが多い。軟らかいキノコの成分を、数種における平均で見てみる
とその約 90%は水分で固形物は約 10%である。一方、硬いキノコの平均は水分約 15%、
固形物約 85%である。(七宮ほか,1984)
キツネノハナガサやザラエノヒトヨタケは特にはかない印象の弱々しいキノコである。
ザラエノヒトヨタケは“ひと夜茸”の名前が示すように、非常に発生期間が短いキノコで
ある。気象条件によって多少異なるが、夜のうちに成長して朝になるころには傘を開いて
おり、昼近くには傘が溶けてしまう(本郷,2003)。写真は、丁度 10 時頃に撮影したもの
であるが、傘が開ききって反り返り、黒く溶け始めている。
一方硬いキノコの代表というと、マンネンタケやマゴジャクシが挙げられる。材上に発
生する 1 年生のキノコである。マンネンタケは広葉樹材の腐朽菌、マンネンタケに似てい
るが、針葉樹に生えるものはマゴジャクシといって区別している。
乾燥すると永年にわたり原形を保存することができるので、マンネンタケ(万年茸)の名
前が付けられている。
2.
多彩なキノコの色
写真 21 に多彩な色をしたキノコを載せている。
3.
変色するキノコ(写真 22)
キノコの中には、傘や柄に傷をつけるとその部分が変色するものがある。色が変化する
のは、キノコの中にあるフェノール系の物質が空気に触れて酸化され発色するためだとい
う(小川,1983)。変色性は、種を決める際に参考となることもあるが、乾燥気味のキノコ
はその通りに変色をしなくなることが多いので新鮮なうちに見てみる必要がある。
クロハツは、初めは白色だが、傘・ヒダ・柄ともにと黒っぽく、汚くなっていく。肉は
傷をつけると初め赤くなり、ついには黒くなる。イロガワリは、名前が示すように左の写
真の状態から真ん中の写真の状態に触れただけですぐに変色する(写真 22)。ツブカラカサ
タケは傷つくとすぐに赤く変色する。落葉の厚く積もった場所に多数発生し、中には柄の
長さが 28cmとかなり大きくなるものもあった。
4.
キノコの匂い(写真 23)
ケショウハツは淡い黄色地に桃色のぼかしが、まるで桃そのもののようなキノコである。
見た目が桃なので匂いも・・・と考えるのはとんでもない。どこかでかいだことのあるこ
22
の匂いは、まさにカブトムシ臭である。キツネノエフデの頭部は黒い粘液でおおわれてい
る。この粘液中に胞子があるのだが、この粘液は非常に悪臭がして、ハエなどの昆虫が集
まってくる。
1.
乳液を出すキノコ(写真 24)
チチタケは傷を付けると白い乳液を出す。触るとべたべたし、少しなめてみると渋味が
あった。また、この乳液は時間がたつと褐色に変化するため、古くなったものにはシミが
たくさん付いていた。
2.
ヌメリのあるキノコ(写真 25)
ナメコのように、傘や柄に滑り(粘性)を持ったキノコがある。特に雨のあった後、粘
性が著しく現れている。写真のものはヌメリハツというまだ図鑑には掲載されていないキ
ノコである。
Ⅴ.私たちの暮らしとキノコ
1. 食べられるキノコ(写真 26)
食べられるキノコは 39 種確認できた。中には毒キノコと似ているものもあるので実際に食
べる場合は専門家にきいたほうが良い。また、生で食べると中毒したり、アルコールと一
緒に食べると中毒するなど、食べ方に注意を要するものもある。
キクラゲやアラゲキクラゲは中華料理でよく使われるキノコであるが、海藻だと思って
口にしている人も多いだろう。アラゲキクラゲは、キクラゲよりも 3 倍程度の長さの白色
毛に覆われている。オオゴムタケはゴム状の弾力性があり、茹でてスライスするとほぼ透
明の美しい状態になるという(小宮山,2006)。
アミガサタケは春、道端などの比較的開けたところや広葉樹の林内で確認できる。実に
珍妙な姿に思うかもしれないが、フランス料理やイタリア料理においてモリーユやモレル
などの名で親しまれ、乾燥品などが高値で売られていたりする。また、ヤマドリタケモド
キは、ヨーロッパにおいてマツタケに近いほどの価値があるというポルチーニに近縁のキ
ノコである(小宮山,2006)。
マイタケは木の又から発生していた。材が朽ち果てるまで毎年同じ木に生えるため、一
度見つけるとそれ以後は探す手間が省けるが、なかなか見つからない。そのため、見つけ
た人は喜んで踊りたくなるために“舞茸”の名がついたらしい(根田,2003)。ヤナギマツ
タケは、名前にマツタケとつくが、マツタケとは全く無縁のキノコで、マツタケ臭はない
が最近では人口栽培もされているという。
ムラサキシメジは晩秋に発生するキノコである。「鮮やかな色をしたキノコは毒である」
というような迷信もあるが、食べられるキノコである。ときに群生しているので、出会う
ととてもうれしい。ただし、生で食べると中毒するので注意が必要である。ここにあげた
キノコはすべて陣ヶ下や大学構内から出現した。
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1.
毒のあるキノコ(写真 27)
毒キノコとされるものは、10 種確認された。ひとくちに「毒キノコ」と言っても、お腹
が痛くなるもの、神経に影響を与えるものと、その症状は様々である。死に至らしめる猛
毒のキノコも多く確認しているので注意してほしい。また「こういうキノコは毒である」
というような一般的な特徴はないので、見分けるためには毒キノコを一つ一つ覚える必要
がある。
ドクツルタケは「殺しの天使」の英名を持つ。雑木林などでふつうにみられ、全国での
死亡事故が最も多いという(大作・吹春,2004)。テングタケやウスキテングタケは開けた
場所でもよく目にする毒キノコである。
ニガクリタケは、枯れ木などの材上に普通に見られ、死亡例もあるキノコである。かじ
ってみると苦い味がするので食べようとも思わないだろうが、似ている種に食用とされる
ものがある。フクロツルタケは傘表面に綿屑状の鱗片をつけること、大きなつぼがあるこ
となどで見分けることができる。毒成分は不明だが、死亡例がある。
また、ウラグロニガイグチも毒キノコであるが、「イグチの仲間に毒はない」「虫やナメ
クジに食われたキノコは安全」という言い伝えが迷信であることがわかるだろう。
2.
キノコを利用する(写真 28)
キノコと言えば、食料や漢方薬としての利用が最もポピュラーであろう。マンネンタケ
やマゴジャクシは漢方薬として霊芝・紫芝などと呼ばれている。
また、カワラタケのクレスチンという成分の制癌性が認められたり、スエヒロタケのシ
ゾフィランという成分が制癌剤として使用されたりしているという(大舘,2004)。
Ⅵ.珍しいキノコ(写真 29)
調査地内でも、報告の少ない希少性のある種がいくつか発生していた。
コガネカワラタケは図鑑に掲載されていない報告例の少ないキノコで、日本では亜熱帯
地方に多い。神奈川県下では、真鶴岬や三浦半島でたまに見つかり、沿岸部の温暖地域で
わずかに生息できる種なのだと考えられている。 北限域に近い個体群であるということを
理由に、現在神奈川県のレッドリストでは準絶滅危惧種とされている。
ミミブサタケは世界的にみても数少ない珍しいキノコで、日本では明治41年の夏に長
野県で初めて発見されたという記録がある。ウサギの耳がたくさん集まったような形をし
ている。また、ウズタケは同心円状のヒダを持っている。
Ⅶ.キノコと生き物の不思議な関係
1.キノコを食べるナメクジ(写真 30)
キノコを観察していると、写真のようにキノコがナメクジやカタツムリに食べられてい
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