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インドの石油情勢:
国内の資源開発動向
2016年10月20日
調査部
増野伊登
1
本日お話しすること
1.インドのエネルギー事情の概観
2.石油開発の歩み
3.主要な上流企業の顔ぶれ
4.最近の探鉱・開発動向
5.インドの投資環境
6.入札ラウンドと契約改定に向けた動き
2
インドのエネルギー事情の概観 現状
インドの一次エネルギー消費量と内訳
2005年 387Mtoe
2015年 700Mtoe
原子力 1%
原子力 1%
水力 4%
水力 6%
石炭 55%
再エネ 2%
石炭 58%
石油 30%
天然ガス
8%
石油 28%
天然ガス
7%
出所:BP統計を基に作成
 1次エネルギー消費量は年間7億toe*、世界消費量の5.3%。
 ロシアを抜いて、中国・米国に次ぐ世界第3位のエネルギー消費国
に(日本は年間約4.5億toeで、世界第5位)。
 一次エネルギー消費の内訳でみると、依然として石炭が最大のエ
ネルギー供給源。インドは世界有数の石炭埋蔵・生産国であり、
石炭需要の8割を国内で調達。
*石油換算トン
3
インドのエネルギー事情の概観 見通し
国際エネルギー機関(IEA)による見通し
 2040年までにインドの経済規模は現状の5倍以上に拡大、世界
最大の人口を抱える国に成長
 これに伴いエネルギー消費量は2倍増
インドの一次エネルギー需要見通し(IEA)
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
Mtoe
再生可能エネルギー
原子力
天然ガス
石油
石炭
2000
2013
2020
2030
2040
出所:IEA India Energy Outlook, 2015を基に作成
4
インドのエネルギー事情の概観 政策
環境問題への取り組み
 温室効果ガス排出量は中国、米国、ロシアに次いで世界第4位
 2030年までにGDP当たりの温室効果ガス排出量を2005年比で33~
35%削減するという国別目標案(INDC)を発表
 2016年10月2日「パリ協定」を批准、11月上旬にも発効する見通し
インドの石炭生産量と国内消費量
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
百万toe
生産量
消費量
1981
1983
1985
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
2001
2003
2005
2007
2009
2011
2013
2015
エネルギーミックス
 石炭消費量の削減は現実的に困
難。一方国内生産量は伸び悩み
 化石燃料の輸入依存度を低め、
増え続けるエネルギー需要を賄う
ため、天然ガス、原子力、再生可
能エネルギーの比率を高めること
が重要課題
出所:BP統計を基に作成
5
別添カラー資料1あり
インドのエネルギー事情の概観 政策(続き)
石油政策
 エネルギー安全保障の強化のため、石油輸入へのさらなる依存は避
けるべきとの意向
• 伸び悩む国内生産量に対し、国内需要は約5倍
• 消費量のおよそ80%(約330万b/d)を輸入に依存
• 中東依存率は60%程度(約240万b/d) 供給源の多様化は進まず
 2016年9月、Dharmendra Pradhan石油大臣は、2022年までに原油輸
入量を10%削減するという目標を発表
インドの原油生産量と国内消費量
500
400
*コンデンセートを含む
万b/d
生産量
消費量
インドの原油調達先(国別内訳)
500
万b/d
メキシコ
ベネズエラ
400
300
その他
アンゴラ
ナイジェリア
300
イラン
200
200
100
イラク
中東依存度
60%
100
1965
1968
1971
1974
1977
1980
1983
1986
1989
1992
1995
1998
2001
2004
2007
2010
2013
0
出所:BP統計を基に作成
58%
59%
カタール
クウェート
0
UAE
2013年度
2014年度
2015年度
サウジアラビア
6
石油開発の歩み 主要な開発地域
インドの主要な堆積盆地と開発の進展度合い
 インドの石油開発は、以下
地域に集中
• 成熟油田がある北東部の
Assam-Arakanと西部の
Mumbai Offshore堆積盆
• 近年発見があった南東部
のKrishna-Godawari
OffshoreとCauvery堆積
盆、北西部のRajasthanと
Cambay堆積盆
 未探鉱・未開発の地域がま
だ残されている。
出所:各種情報を基にJOGMEC調査部作成
7
石油開発の歩み 生産動向
 インドの原油確認埋蔵量は57億バレル(8億トン)
 古くから北東部のアッサム州近辺で小規模生産
 現在の主要生産地域は北西部およびムンバイ沖合
 フィールドのタイプ別に見ると、浅海油田と陸上油田がインド全体
の生産量のおよそ半々を占める
フィールド別の原油生産量推移
万b/d
80
深海
70
60
50
浅海
40
30
陸上
20
10
0
2010
2011
2012
2013
2014
2015
出所:Global Dataを基に作成
8
石油開発の歩み 生産動向(続き)
 1970年代に西岸沖合でムンバイ・ハイ油田発見、本格的生産開始
 2009年の北西部ラジャスタン州のマンガラ油田(Cairn、ONGCほ
か)の生産開始受け、2011年に91万b/dを記録
 しかし、ムンバイ沖、アッサム州近辺、そして北西部陸上の成熟油
田からの生産量が自然減退、伸び悩み
インドの主要な生産地域
インドの原油生産量
マンガラ油田
100
万b/d
*コンデンセートを含む
80
60
40
20
ムンバイ・ハイ油田
ディルバイ・ガス田
出所:Directorate General of Hydrocarbonsの公式ウェブサイト
(http://www.dghindia.org/?page=home)
0
出所:BP統計を基に作成
9
主要な上流企業の顔ぶれ
 石油上流の主要アクターは国営企業。最大の上流事業者ONGC
は、付与されている約550鉱区中400弱のオペレーターを務め、そ
の多くで100%権益を保有。
 生産規模でもONGCが突出、次がOIL(Oil India)。2社で全体生産
量の約3分の2占める。
 国営下流事業者IOC(Indian Oil)、Bharat Petroleum、Hindustan
Petroleum、GAILに加え、民間では、財閥系のReliance Industries
なども上流に参入。
 外国石油企業の進出事例は多くないが、英独立系Cairn Energy*
の存在感強い。そのほか、生産規模は小さいが、BP、Eni、Shell、
BHP Billiton、丸紅など。
* 2010年、Cairn Energyはインド部門Cairn Indiaの一部株式を
Vedanta Resourcesに売却。Cairn Indiaは現在同社の子会社。
10
(参考)インド石油事業に関わる主なアクター
インド政府
石油・天然ガス省
DGH
(Directorate General of Hydrocarbons)
探鉱・開発
国有
ONGC
OIL
IOC
Gail
Bharat
Hindustan
下流
民間・外資
Reliance
Essar
Tata
Cairn
BP
Eni
Shell
国有
民間・外資
IOC
Reliance
Bharat
Essar
Hindustan
Gail
11
最近の探鉱・開発動向 油価下落の影響
 国内生産量を増加させるため、再開発やEOR(増進回収法)、有望
な堆積盆地の周縁地域における探鉱・開発事業が進行中。
 しかし、昨今の原油価格下落を受け、Cairn Energyは2015~2016
年のCapexを6割削減、バレル当たり55ドルで採算可能な井戸から
のみ生産を続行すると発表。
 一方、ONGCとOILは投資計画を変更せず。油価低迷によるサービ
ス費用の低下と燃料補助金負担の軽減、これに石油製品価格の
自由化の流れも相まって、むしろ追い風に。
↑
両社の生産コストはバレル当たり37ドル程度との情報もあり。
12
最近の探鉱・開発動向 油価下落の影響(続き)
 ONGCのDinesh K Sarraf社長:「油価下落への対応の一つは、商
業性が不透明なうちは新規案件に手を出さないということだが、当
社は逆の見方をしている」。
 インド全体のリグ稼働数で見ると、油価低迷で一時減少したものの、
2016年以降は回復基調。
インドのリグ稼働数
135
130
125
120
115
110
105
100
95
90
基
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9
2013
2014
2015
2016
出所:Baker Hughesを基に作成
13
最近の探鉱・開発動向 深海開発
 2016年9月30日、ONGCは、南東部沖の深海鉱区KG-DWN-98/2
(Krishna-Godawari堆積盆)の開発に、向こう4年間で3,401億2,000
万ルピー(約5,200億円)を投資すると発表。
 2006 年 に イ ン ド 深 海 域 で は 初 め て 原 油 が 発 見 さ れ た D6 ( KGDWN-98/3)鉱区(RelianceとBP)に隣接。
 開発対象は水深300~3,200メートルの「ク
ラスター2」。原油埋蔵量6.9億バレル、ガス
埋蔵量519億8,000万m3。
 ガスは2019年6月、原油は2020年3月に生
産開始予定。ピーク生産量は、原油7万
7,305b/d、ガス1,275万m3/d。
出所:各種情報を基にJOGMEC調査部作成
14
最近の探鉱・開発動向 深海開発(続き)
 今後深海域での探鉱・開発がさらに活発化することが期待されて
おり、IEAは、深海油田の生産量が2040年にかけて徐々に拡大し
ていくと予測。
IEAによるインドの石油生産見通し
深海
浅海
陸上
出所:India Energy Outlook, IEA 2015
15
国営企業による対外上流投資動向
 変動する油価から国内の石油産業を保護するため、インド政府は
自国企業に対し供給源の多様化と自主開発原油の強化を奨励
⇒国営企業による外国の上流資産や石油企業株式の買収が活発化
インド石油企業による最近の対外上流投資動向
買収時期
買収元
買収対象
上流資産買収
2013年
ONGC等
Videocon(印)モザンビーク資産(10%)
2013年
ONGC
Anadarko(米)モザンビーク資産(10%)
2015年
ONGC
Rosnef子会社Vankorneft株式15%
2016年
Oil India等
Rosneft子会社Vankorneft株式23.9%
2016年
Oil India等
Rosneft子会社Taas-Yuryakh-Neftegazdobycha株式29.9%
企業買収
出所:報道などを基に作成
16
インドの投資環境
これまでの経済開放政策
 1991年の経済危機~
閉鎖的な経済政策からの脱却⇒現在では主要セクターのほとんどで
外資の参入が可能に
 マンモハン・シン前政権期
経済の抜本的な立て直しのため、より、外国からの直接投資(FDI)に
対する規制緩和を徐々に進めている(通信分野の出資上限を74%か
ら100%に引き上げ)。
 モディ政権誕生(2014年)以降
「モディノミクス」:海外からの投資促進、インフラ整備や雇用拡大で
経済活性化目指す
⇒外資規制の追加緩和にも期待高まる
しかし、注目度は高いが課題も多い・・・・
17
インドの投資環境
経済開放に向けた課題
 外資規制のほか、電力不足、用地取得、人材確保など、さらなる規制
緩和と法整備を必要とする事案多い。
 連邦政府と地方行政(州政府)の足並みが揃わないことも問題(農地
収容をめぐる政令の改正は2015年に頓挫)。
インドの行政区分
上流への外資参入度合いが低い背景
 石油産業に対する政府の統制(例:入札ラウ
ンドにおける不透明性)
 インフラの未整備、煩雑な税制・規制、時間
を要する許認可プロセス
外資にとっては必ずしも進出しやすい国とは言
えない
出所:各種情報を基にJOGMEC調査部作成
18
上流セクターの改革に向けた歩み
増産に向け、上流分野における政府主導の改革が徐々に進行中
出所:Directorate General of Hydrocarbonsの公式ウェブサイト(http://www.dghindia.org/?page=home)
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公開入札制度NELPの導入:1999年~
 1999年、公開入札による探鉱鉱区付
与 制 度 New Exploration Licensing
Policy(NELP)を導入
⇒国営と民間(外資含む)による
平等な上流参入機会の構築へ
NELPに基づいて付与された鉱区
 外資出資比率は最大100%まで可能に
 計9回の入札を実施
しかし、実際にはほぼインド国営による
占有状態が続く
出所:Directorate General of Hydrocarbonsの公式ウェブサイト(http://www.dghindia.org/?page=home)
20
NELPの問題点
NELPの問題点
 在来型資源のみが対象
• 炭素メタン(CBM)、シェール、ガス・ハイドレートなどの非在
来型にはそれぞれに異なる法制度が存在、手続きが面倒
 回収コスト額をめぐる企業・政府間の対立
• 生産物分与契約(PSC)を採用
コントラクター(企業)は、コスト回収後、落札時に提示し
た比率に基づき政府と収益を分配。
• しかし、回収するコスト額の正確性をめぐってしばしば対立、
多くのプロジェクトが遅延
 技術的に困難な鉱区に対するインセンティブが不足
• ロイヤルティー算出において、浅海と深海・大水深を区別せ
ず。よりリスクの高い鉱区に対するインセンティブなし
21
新しい入札制度(HELP)の導入計画
2016年3月、インド政府はHydrocarbon Exploration Licensing Policy
(HELP)の導入を検討していることを発表。
HELPの概要
 ライセンスの単一化
在来型・非在来型資源を単一ライセンス制度の下で付与
 PSCからRevenue Sharing Contract(RSC)への移行
 Open Acreage Licensing Policy(OALP)の導入
政府による入札ラウンド実施の発表を待つ必要なし
 探鉱期間の延長
陸上鉱区は7年から8年に、洋上鉱区は8年から10年に延長
 ロイヤルティの変更
浅海鉱区10%⇒7.5%。深海・大水深鉱区は、契約締結から7年間免除、以降は
深海5%、大水深2%
 国内におけるガス販売および価格設定を自由化
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HELPの問題点と今後の流れ
HELPの問題点
 コスト回収の不透明性
• PSCからRSCへの移行により、生産開始からすぐに収益の分
配が開始されることに。
• コスト回収額をめぐる企業・政府間の係争は避けられる一方、
企業にとっては投下した探鉱コスト回収の不透明性が増加
• 結局は新たな対立の火種になるのでは・・・との懸念
 生産物の販売価格自由化の実現可能性
• これまで同様の契約改定をほのめかしつつ実際には実行に
移されなかった経緯あり。インド政府として、市場の自由化を
どこまで本気で進められるか。
今後の流れ
 HELP導入後初の入札ラウンド実施は2017年の初め頃を予定
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小規模油・ガス田(DSF)入札ラウンド
 インド政府は、2016年5月25日、Discovered Small Fields(DSF)と
称する小規模油・ガス田の入札ラウンドの開始を発表。
 国営によって石油・ガスが発見されたが、地理的・技術的制約、政
府の価格統制ゆえ商業性得られず開発段階に至らなかった鉱区
が対象。
 9つの堆積盆地に位置する46鉱区(67の油・ガス田)。陸上、浅海、
深海域にまたがる総面積1,500㎢超の原始埋蔵量は6.25億boe(石
油換算バレル)。
DSF入札ラウンドの対象鉱区の概要
出所:PWC
24
DSF入札ラウンドの対象鉱区一覧
出所:Directorate General of Hydrocarbonsの公式ウェブサイト(http://www.dghindia.org/?page=home)
25
DSF入札ラウンドの詳細
 2016年6月から8月末にかけ、ムンバイ、ヒューストン、カルガリー、
シンガポール、ロンドン、ドバイなど7都市でロードショー実施。
 DSFはHELPの前哨戦として位置付けられ、一部HELPと同様のイ
ンセンティブが設けられている。
• ライセンスの単一化
• PSCからRSCへの移行
• 国営石油会社の参加義務およびキャリード・インタレストなし
• 技術的知見に関する前提条件や作業義務なし
• 契約期間中の探鉱活動に対する制約なし
• ロイヤルティー:陸上鉱区では原油12.5%、ガス10%、浅海では、
原油・ガスともに10%、深海鉱区では、原油・ガスともに最初の7
年間5%、以降10%
• 石油開発に要する物品・サービスに対しては関税免除
• 生産物の販売および価格設定の自由化。ただし、石油は国内
販売に限る
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DSFの注目ポイント
 生産物の販売と価格設定の自由化は注目に値。しかし、実際に実
行に移されるかが鍵。
 税制が改善されたことを受け、ONGCもOILも応札に意欲。
 一方、資源価格が低迷する今、外国企業
の反応は芳しくないとの予測も。
DSF入札ラウンドの日程
(2016年5月25日時点)
 2019年の総選挙までは様子見の傾向が
続くことも想定され、国営企業がほとんど
の鉱区を落札するとの見方あり。
 DSF入札ラウンドは、2016年10月31日に入
札が締め切られ、2か月以内に鉱区が付
与される予定。
出所:Directorate General of Hydrocarbonsの公式ウェブサイト(http://www.dghindia.org/?page=home)
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まとめ
 エネルギー安全保障強化の観点から、石油輸入への依存度を低
下させることがインド政府の目標。そのため、自然減退を食い止め、
国内生産を強化させることが課題。
 探鉱・開発面では、油価低迷にもかかわらず、インド国営は上流戦
略を変更せず。油価下落によるサービス費用の低下と燃料補助金
負担の軽減がむしろ追い風に。
 一方、インドの投資環境面では、国内石油産業に対する政府統制、
インフラの未整備、煩雑な税制・規制などが問題。2014年のモディ
政権誕生以降、徐々にビジネス環境の整備が進められているが、
外資にとっては必ずしも進出しやすい国とは言えない。
 インドは、上流改革の一環として、新しい入札制度の導入を検討中。
2016年5月には小規模油・ガス田の入札ラウンドが開始。しかし、
契約改定の実現可能性に疑問。油価低迷の中でどれだけ外国企
業を惹きつけることができるかが注目される。
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