分子の自己組織化を利用する 簡便・高感度な蛍光センシング 九州大学大学院工学研究院 野口 誉夫 背景 1 生体中に存在するアニオン性物質 - 生命活動や病態の指標となる鍵物質 - 生命現象: 低分子 物質生産・代謝 遺伝情報の転写・翻訳・複製 細胞内外の情報伝達 DNA RNA 生体防御機構(免疫応答) 生命活動を担う鍵物質の量・分布 生命活動・病態の指標 タンパク 特定・検出する技術 病態診断・創薬へ応用 技術概要 2 生体由来アニオンを検出する蛍光センサ 従来型: Lock-and-Key 結合 標的物質 結合 会合 蛍光センサ 発蛍光 消光 新技術: 自己組織化型蛍光センサ 標的物質 結合 蛍光センサ 自己組織化 発蛍光 標的物質と共に組織化して初めて蛍光を発する蛍光センサ 分子設計指針 3 凝集誘起発光性色素を利用する蛍光センサ OPVセンサ 発蛍光部位 オリゴフェニレンビニレン (OPV) 積層構造を形成することで初めて 蛍光を発光 → turn-on型蛍光応答 励起・蛍光波長制御 大きなストークスシフト (>100 nm) 高いシグナル/ノイズ(S/N) 比(>10) エーテルスペーサー 水溶性の付与 (アルキル鎖では水に不溶) グアニジウムレセプター アニオン基とのイオン性 水素結合 新技術:自己組織化を利用する蛍光センシング 4 分子構造の微視的な差異 → 全く異なる蛍光アウトプット L-酒石酸 (anti型) ・・・ 蛍光強度 ・・・ J-type stacking in supramolecular fiber 1 μm ・・・ meso-酒石酸 (gauche型) ・・・ H-type stacking in finite aggregate 1 μm [標的物質濃度] T. Noguchi, et al., Chem. Eur. J. 2014, 20, 13938. 自己組織化現象:分子情報変換システム 標的分子構造 自己組織化 5 センサ応答 J-会合体 H-会合体 分子構造のわずかな違いを精密に認識する蛍光センシング技術 新技術の特徴 Topics • ジカルボン酸の蛍光識別 • 生理的条件下におけるATPセンシング • グリコサミノグリカンの蛍光センシング 6 ジカルボン酸の蛍光識別 oxalic acid malonic acid succinic acid glutalic acid 60 60 50 50 30 20 FL int. ΔF/F0 adipic acid adi 40 40 adi glu suc mal ox 7 suc 30 glu 20 mal 10 10 ox 0 0 0 2000 4000 6000 8000 10000 [dicarboxylate] / μM ジカルボン酸:代謝疾患のマーカー 0 200 400 600 800 1000 1200 Threshold / μM 代謝疾患のスクリーニング検査 従来技術との比較―ジカルボン酸検出 従来:蛍光標識法 (ex.) 発蛍光基 • ジカルボン酸との有機反応 • 有機溶媒の利用 • HPLC分析 • LC/MS分析 ジカルボン酸 新技術:自己組織化型蛍光センシング ジカルボン酸 蛍光センサ 水中 混合 自己組織化 発蛍光 ①水中で ②混合するのみの ③高S/N比蛍光検出 分析手順の簡略化 8 蛍光センシングへの展開 9 自己組織化を利用する蛍光センシング系の構築 FL Intensity • Turn-on • Selectivity Turn-on 選択性 • Detection range 検出濃度レンジ Detection range ・ ・ ・ ・ [target] ①自己会合による発蛍光の抑制 ②標的に対するturn-on応答 塩濃度の増加に伴う自己会合挙動 10 1分子中に多数の正電荷基を導入することで 自己会合耐性を付与することができる ・ ・ ・ ・ G2 自己会合による 発蛍光 500 G2 FL intensity / a.u. 400 300 200 生理食塩濃度でも 自己会合しない 100 G6 G6 0 0 50 100 150 [NaCl] / mM 200 [G2] = [G6] = 6.0 μM, [HEPES] = 10 mM (pH 7.4) 生理的条件下におけるATPセンシング AMP ADP 20 11 ATP λex = 388 nm, λem = 514 nm ATP ΔF/F0 15 ATP 10 G6 AMP ADP ATP ADP AMP [G6] = 6.0 μM, [nucleotide] = 180 μM 5 ADP AMP 0 0 40 80 120 160 [Nucleotide] / μM 200 240 [NaCl] = 125 mM, [KCl] = 5.0 mM [CaCl2] = 1.0 mM, [MgCl2] = 0.5 mM in HEPES buffered (10 mM, pH 7.4) water T. Noguchi, et al., Chem. Sci. 2015, 6, 3863. なぜATP選択性を示すのか? 12 結合阻害によるATP選択性の向上 no salt CaCl2 1.0 mM 30 30 ATP 25 25 ADP 20 ΔF/F0 20 ΔF/F0 ATP 15 15 ATP ADP 10 10 5 5 AMP キレート形成 → 結合阻害 ADP ADP AMP AMP 0 0 0 10 20 30 40 50 [nucleotide] / μM 60 0 10 20 30 40 50 [nucleotide] / μM 60 従来技術との比較―ATPセンシング 従来型: Lock-and-Key 結合 13 新技術: 自己組織化型蛍光センサ 蛍光センサ AMP ADP ATP 結合 ADPとATPの区別は困難 Ka / M−1 ADP 1.7×106 ① ② ① 結合阻害によるATP選択性の向上 ② 自己組織化による高S/N比検出 ATP ATP 10 ADP AMP G6 5 ADP AMP 0 ATP 1.3×106 発蛍光 15 ΔF/F0 – 自己組織化 20 結合力の指標 AMP 結合 0 40 80 120 160 [Nucleotide] / μM 200 240 AMP ADP ATP ポリアニオン(PA)センシングへの展開 従来型: Lock-and-Key 結合 標的物質 結合 会合 蛍光センサ 発蛍光 消光 新技術: 自己組織化型蛍光センサ 標的物質 結合 蛍光センサ 自己組織化 発蛍光 ポリアニオンセンシングに極めて有用 14 グリコサミノグリカン(GAGs)の蛍光センシング 15 蛍光センサ G1 G2 天然由来アニオン性多糖類: グリコサミノグリカン (GAGs) ヘパリン (HEP) (4−) 抗血液凝固 コンドロイチン硫酸 (ChS) (2−) ヒアルロン酸 (HA) (1−) ガン細胞・悪性腫瘍で過剰に産生 → 腫瘍マーカー G1センサ → HEP選択性 HEP (4−) 400 16 HA (1−) ChS (2−) HEP λex = 400 nm, λem = 602 nm ChS FL int. / a.u. 300 HA 200 no guest HEP ChS HA [HEP] = 6.25 ppm, [ChS] = 8.50 ppm, [HA] = 11.5 ppm 100 選択性: 0 0 2 4 6 8 [GAGs] / ppm 10 12 HEP > ChS > HA ポリアニオン(PA)センシングのメカニズム 17 [G1]: varied, [PA]: fixed 協同的 自己組織化 PA FL int. 蛍光センサ LogKa = 8.65 1 equiv. [G1] 1 equiv. [PA] [G1]: fixed, [PA]: varied (PA sensing) Ka Ka FL int. PA 蛍光センサ 見かけ上1:1結合 → 蛍光強度の直線的増加 G2センサ → HA選択性 HEP (4−) 18 HA (1−) ChS (2−) 800 λex = 388 nm, λem = 518 nm HA FL int. / a.u. 600 ChS 400 no guest HEP ChS HA [HEP] = 2.50 ppm, [ChS] = 5.50 ppm, [HA] = 8.50 ppm 200 HEP 選択性: 0 0 2 4 6 8 [GAGs] / ppm 10 12 HEP < ChS < HA 選択性の逆転 なぜHA選択性を示すのか? 19 積層様式に基づく選択性 電荷密度が小さいものほど強発光性のJ-会合を誘起 HEP (4−) HA (1−) H-会合体→弱蛍光発光 J-会合体→強蛍光発光 T. Noguchi, et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 5708. ChS選択性の発現 HEP (4−) 20 HA (1−) ChS (2−) 400 λex = 388 nm, λem = 518 nm FL int. / a.u. 300 200 no guest 100 HEP ChS HA [HEP] = 2.50 ppm, [ChS] = 5.50 ppm, [HA] = 8.50 ppm [G2] = 10 μM, pH 1.5, 25 oC 0 no guest HEP ChS HA 従来技術との比較―ポリアニオンセンシング 従来型: Lock-and-Key 結合 新技術: 自己組織化型蛍光センサ ポリアニオン ポリアニオン 結合 自己組織化 発蛍光 消光 その他 • 電位差滴定(コロイド滴定) • 濁度測定 • 蛍光標識 → HPLC分析 ポリアニオンの蛍光センシングが可能 簡便・高感度な定量法を確立 グリコサミノグリカンセンシング グリコサミノグリカンセンシング 結合の強さに基づく選択性 積層様式に基づく選択性 (従来型) 新たな分子認識パラダイム HEP (4−) 負電荷密度の最も大きいHEPに対する選択性 21 HEP HA 従来法では困難であったChS, HA選択性を達成 22 新技術の特徴・従来技術との比較 • ポリアニオンの蛍光センシング • 標的物質との自己組織化による直接検出・ 高選択的・高S/N比センシング • 分析手順の簡略化 → 迅速・簡便・高感度セ ンシング 23 想定される用途 • 臨床化学検査、多検体一斉評価 (疾患診断、スクリーニング検査、薬効評価等) • バイオアッセイ (生細胞、代謝活性、免疫応答、染色、標識等) • 環境分析(水質検査等) 24 企業への期待 • バイオマーカー等の分離技術を有する企業と の共同研究を希望。 • また、蛍光法による測定・検査システム開発 を考えている企業には、本技術の導入が有効 と思われる。 25 本技術に関する知的財産権 発明の名称:発蛍光性化合物又はその 塩、イオン性化合物の検 出剤及びイオン性化合物 の検出方法 出 願 番 号:特願2016-024189 出 願 人:九州大学 発 明 者:野口誉夫、新海征治 26 お問い合わせ先 九州大学学術研究・産学官連携本部 知的財産グループ TEL 092-832-2128 FAX 092-832-2147 e-mail [email protected]
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