サーモトロピック液晶性ポリエステル/フィラー界面の運動性とその応用

SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
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Author(s)
サーモトロピック液晶性ポリエステル/フィラー界面の運
動性とその応用
深津, 博樹
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2014-12
http://doi.org/10.14945/00008780
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静岡大学 博士論文
サ ー モ ト ロ ピ ッ ク 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル /フ ィ ラ ー 界 面
の運動性とその応用
2014年 12月
大学院 自然科学系教育部
光・ナノ物質機能専攻
深津博樹
博士学位論文目次
深津 博樹
サ ー モ ト ロ ピ ッ ク 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル /フ ィ ラ ー 界 面
の運動性とその応用
目
次
第 1章 序 論
1
1-1
サ ー モ ト ロ ピ ッ ク 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル (TLCP)
1
1-2
TLCP の 相 転 移 挙 動
4
1-3
TLCP/フ ィ ラ ー コ ン ポ ジ ッ ト の 研 究
7
1-4
高 分 子 -異 種 物 質 に お け る 界 面 領 域 の 高 分 子 の 運 動 性
8
1-5
本研究の目的
10
1-6
参考文献
12
第 2 章 フィラー界面で誘起されるサーモトロピック液晶性
14
ポリエステルの構造評価
2-1
緒言
14
2-2
実験
16
2-2-1 試 料
16
2-2-2 測 定 試 料 の 調 製 条 件
17
2-2-3 示 差 走 査 熱 量 測 定 (DSC 測 定 )
17
2-2-4 広 角 X 線 回 折 測 定
18
2-2-5 赤 外 線 吸 収 分 光 測 定 (FT-IR 測 定 )
18
2-3
19
結果と考察
2-3-1 シ リ カ 微 粒 子 混 合 に よ る 界 面 の 熱 的 性 質
19
2-3-2 シ リ カ 微 粒 子 混 合 に よ る 界 面 相 の 構 造 評 価
20
2-3-3 界 面 相 の 分 子 評 価
23
2-3-4 シ リ カ 微 粒 子 界 面 相 の 厚 み に 関 す る 考 察
26
2-4 結 論
28
2-5 参 考 文 献
29
第 3章
フィラーの違いよるフィラー界面で誘起される
サーモトロピック液晶性ポリエステル界面相の影響
3-1
31
31
緒言
i
3-2
実験
32
3-2-1 試 料
32
3-2-1-1 サ ー モ ト ロ ピ ッ ク 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル (TLCP)
32
3-2-1-2 シ リ カ 微 粒 子
33
3-2-2 測 定 試 料 の 調 製 条 件
34
3-2-3 示 差 走 査 熱 量 測 定 (DSC 測 定 )
35
3-2-4 広 角 X 線 回 折 測 定
36
3-2-5 赤 外 線 吸 収 分 光 測 定 (FT-IR 測 定 )
36
3-2-6 偏 光 顕 微 鏡 観 察
36
3-3
37
結果と考察
3-3-1 シ リ カ サ イ ズ の 影 響
37
3-3-1-1 DSC に よ る 界 面 の 熱 的 性 質
37
3-3-1-2 X 線 回 折 に よ る 界 面 相 の 構 造 評 価
40
3-3-1-3 IR に よ る 界 面 相 の 分 子 評 価
45
3-3-2 シ リ カ 微 粒 子 表 面 の シ ラ ノ ー ル 基 の 影 響
46
3-3-3 TLCP の 分 子 量 が 与 え る 影 響
50
3-3-4 種 々 の シ リ カ 微 粒 子 に お け る 界 面 相 の 厚 み に 関 す る 考 察
54
3-4 結 論
58
3-5 参 考 文 献
60
第 4章
サーモトロピック液晶性ポリエステルおよび
シリカ微粒子コンポジットの固体粘弾性
62
4-1
緒言
62
4-2
実験
64
4-2-1 試 料
64
4-2-2 測 定 試 料 の 調 製 条 件
65
4-2-3 動 的 固 体 粘 弾 性 測 定 (DMA 測 定 )
65
4-3
66
結果と考察
4-3-1 シ リ カ 微 粒 子 濃 度 の 影 響
66
4-3-2 シ リ カ 微 粒 子 の 大 き さ の 影 響
67
4-4 結 論
72
4-5 参 考 文 献
73
第 5章
サーモトロピック液晶性ポリエステルおよび
シリカ微粒子コンポジットの実用化検討
ii
74
5-1
緒言
74
5-2
実験
76
5-2-1 試 料
76
5-2-2 TLCP/シ リ カ 微 粒 子 コ ン ポ ジ ッ ト の 調 製 条 件
77
5-2-3 評 価 試 験 片 の 調 製
77
5-2-3-1 引 張 り 試 験 片
77
5-2-3-2 シ ャ ル ピ ー 衝 撃 試 験 片
78
5-2-4 引 張 り 試 験
79
5-2-5 シ ャ ル ピ ー 衝 撃 試 験
79
5-2-6 キ ャ ピ ラ リ ー レ オ メ ー タ 測 定
80
5-3
81
結果と考察
5-3-1 定 常 せ ん 断 粘 度
81
5-3-2 機 械 的 性 質
85
5-3-3 衝 撃 特 性
87
5-3-4 界 面 相 厚 み と 衝 撃 強 度 改 善 に 関 す る 考 察
89
5-4 結 論
92
5-5 参 考 文 献
94
第 6章 結 論
96
主要論文と口頭発表リスト
98
謝辞
99
iii
第 1章
序論
1-1 サ ー モ ト ロ ピ ッ ク 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル (TLCP)
液晶とは完全な秩序構造を持つ結晶と短距離秩序しか持たない液体の
中 間 相 の 一 種 で あ る 。位 置 に 関 す る 完 全 な 三 次 元 秩 序 構 造 が 緩 く 、分 子 の
併 進 運 動 が 許 さ れ た 状 態 に あ る に も か か わ ら ず 、配 向 の 長 距 離 秩 序 は 維 持
し て い る 。温 度 や 圧 力 な ど の 外 的 な 要 因 に よ っ て 液 晶 状 態 を 発 現 す る 高 分
子 を 総 称 し て 液 晶 性 ポ リ マ ー と 言 う 。低 分 子 液 晶 同 様 に 、高 分 子 に お い て
こ の よ う な 中 間 相 を 形 成 す る た め に は 、特 別 な 構 造 要 因 を 満 た す 必 要 が あ
る (1)。
Floryは 剛 直 性 あ る い は 半 屈 曲 性 高 分 子 は 臨 界 濃 度 以 上 で 異 方 性 を 形 成
し え る こ と を 理 論 的 に 予 想 し 、1965年 に 理 論 的 記 述 が 実 験 的 に 確 認 さ れ て
い る ( 2 ) 。 ま た Grayも 高 分 子 に お け る 液 晶 状 態 発 現 の メ カ ニ ズ ム は 、 基 本 的
に 低 分 子 液 晶 の 分 子 構 造 と 液 晶 性 と の 関 係 性 が 適 用 で き 、以 下 の 関 係 を 経
(3)
験的に導き出している
。
[1] 分 子 構 造 が 細 長 い 棒 状 あ る い は 平 板 状
[2] 液 晶 状 態 を 保 持 さ せ る た め に 適 当 な 大 き さ の 分 子 間 力 を も た ら す 永 久
双極子基を分子内に有する
液晶性発現には幾つかの重要な要件があり、その中には分子の剛直性、
直 線 性 及 び そ の 長 さ や 幅 な ど が あ る 。主 鎖 骨 格 中 に 剛 直 或 い は 直 線 的 な 分
子 構 造 を 有 す る 主 鎖 型 LCPの 化 学 構 造 は 一 般 的 に 次 の よ う な 特 徴 を 持 つ 。
[1] 剛 直 鎖 と し て 主 に
p-置 換 基 の 芳 香 族 環 が 用 い ら れ る 。 そ の 他 に は 直
線性の置換ナフチル、ビフェニル系等がある
[2] 分 子 幅 を 調 節 す る た め に [1]の 剛 直 鎖 に オ ル ト 位 、 メ タ 位 に ハ ロ ゲ ン
元素、アルキル基、アルコシキル基、フェニル基を導入する
1
[3] 結 合 基 と し て エ ス テ ル 、 エ ー テ ル 、 ア ミ ド 、 ウ レ タ ン 結 合 が あ り 、 [1]
の剛直鎖と繰り返し単位を構成する。
[4] 柔 軟 分 子 と し て ア ル キ ル 鎖 を 導 入 す る 。 全 芳 香 族 ポ リ エ ス テ ル の 場 合
はこれを含まない。
特に剛直鎖のみから構成される主鎖型の全芳香族ポリエステルは分子
鎖 軸 方 向 に お い て 非 常 に 高 い ヤ ン グ 率 を 示 す ( 4 ) - ( 7 ) 。こ れ は 剛 直 な 分 子 鎖 が
成形加工時のせん断によって容易に高い配向構造を形成することで発現
さ れ る (8)。
ま た 優 れ た 耐 熱 性 、耐 薬 品 性 を 持 つ こ と か ら 、電 気・デ バ イ ス 、自 動 車 、
航 空 宇 宙 、医 療 分 野 と 広 く 適 用 可 能 な エ ン ジ ニ ア リ ン グ プ ラ ス チ ッ ク と し
て 知 ら れ て い る (9)。
温 度 、圧 力 変 化 で 溶 融 状 態 に な る こ と で 液 晶 性 が 発 現 す る サ ー モ ト ロ ピ
ック液晶と溶媒に溶解した状態で液晶性が発現するライオトロピック液
晶 と が あ り 、こ れ ら の 特 性 を 示 す 高 分 子 を 液 晶 性 ポ リ マ ー と 総 称 す る 。液
晶性ポリエステルはサーモトロピック液晶性ポリマーの代表的ポリマー
で あ り 、ラ イ オ ト ロ ピ ッ ク 液 晶 性 ポ リ マ ー と し て は 、全 芳 香 族 ポ リ ア ミ ド
が挙げられる。
液 晶 性 ポ リ マ ー 研 究 の 実 用 例 と し て 、世 界 で 初 め て 商 業 化 に 成 功 し た 液
晶 性 ポ リ マ ー は Du Pontか ら 1965年 に 「 Kevlar ® 」 と 言 う 商 標 名 で 上 市 さ れ
て い る 。「 Kevlar ® 」 は 濃 硫 酸 中 に お い て 液 晶 相 を 発 現 す る ラ イ オ ト ロ ピ ッ
ク 液 晶 性 ポ リ マ ー で あ る 。「 Kevlar ® 」 の 標 準 的 な グ レ ー ド の ヤ ン グ 率 は
185GPaと い う 鋼 鉄 の 210GPaに 匹 敵 す る ほ ど 高 い 値 を 示 す ( 5 ) 。「 Kevlar ® 」 の
分 子 構 造 は 全 芳 香 族 ポ リ ア ミ ド で あ り 、 Fig. 1-1に 示 し た よ う に p-置 換 の
ベンゼン環とアミド結合によってのみ構成される。
2
Fig. 1-1
Chemical structure of Kevlar® .
分 子 骨 格 中 の ア ミ ド 結 合 が 分 子 鎖 間 に 水 素 結 合 を 形 成 し 、局 所 的 な 回 転
運 動 を 拘 束 す る た め に 熱 的 安 定 性 に 優 れ る と さ れ る 。た だ し 、ラ イ オ ト ロ
ピック液晶性ポリマーは最終的な成形体にするには溶媒を完全に除去し
な く て は い け な い た め 、射 出 成 型 の よ う な 加 工 方 法 は 適 用 で き ず 、フ ィ ル
ム若しくは繊維への加工のみに適用されている。
「 Kevlar ® 」に お け る ラ イ オ ト ロ ピ ッ ク 液 晶 性 ポ リ マ ー の 商 業 化 を き っ か け
と し て 、よ り 加 工 性 の 自 由 度 が 高 い 射 出 成 形 、押 出 し 成 形 が 可 能 な 温 度 変
化 に 伴 い 液 晶 相 を 発 現 す る TLCP に 対 す る 研 究 が 始 ま っ た ( 5 ) , ( 8 ) , ( 1 2 ) - ( 1 6 ) 。
TLCP の 研 究 報 告 と し て 最 初 に 注 目 さ れ た の は 1973 年 に Eastman Kodak の
Jackson Jr. ら に よ っ て 報 告 さ れ た p- ヒ ド ロ キ シ 安 息 香 酸 (HBA) と ポ リ エ チ
レ ン テ レ フ タ レ ー ト の 共 重 合 体 で あ る X7Gで あ る ( 1 0 ) , ( 11 ) 。
構 造 式 を Fig 1-2に 示 し た 。 こ の TLCPは 分 子 鎖 間 に 水 素 結 合 を 形 成 せ ず 、
熱 に よ っ て エ ス テ ル 結 合 周 囲 の 回 転 運 動 性 が 高 ま り 、溶 融 状 態 で ネ マ チ ッ
ク 相 を 示 す 。X7Gに は エ チ レ ン 鎖 の 屈 曲 分 子 が 導 入 さ れ て い る が 、Celanese、
Calundan、 Du Pontら を 中 心 に X7Gと は 異 な る 、 屈 曲 分 子 を 導 入 し な い 全 芳
香 族 TLCPの 研 究 が 盛 ん に 進 め ら れ た 。屈 曲 鎖 に 変 わ っ て 芳 香 族 環 を 導 入 す
る こ と で 高 耐 熱 化 、力 学 特 性 向 上 が 期 待 で き る が 、融 点 を 上 げ 過 ぎ て し ま
う こ と で 成 形 加 工 性 の 低 下 が 問 題 と な る 。各 社 、力 学 特 性 の 維 持 と 成 形 加
工 可 能 温 度 領 域 の 低 下 を 両 立 さ せ る た め に HBA モ ノ マ ー と ヒ ド ロ キ シ カ
ル ボ ン 酸 、芳 香 族 ジ オ ー ル 及 び 芳 香 族 ジ カ ル ボ ン 酸 系 等 の モ ノ マ ー を 共 重
3
合 さ せ る こ と に よ っ て 、 独 自 の 全 芳 香 族 TLCPを 開 発 し た 。
こ の よ う に し て 合 成 さ れ た 全 芳 香 族 TLCP の 中 に は 複 数 の モ ノ マ ー が 共
重 合 し て い る に も か か わ ら ず 、微 結 晶 を 形 成 す る も の が あ る 。汎 用 ポ リ マ
ー の よ う に ラ メ ラ 晶 を 形 成 し て 結 晶 化 す る わ け で は な く 、TLCPの 場 合 は 剛
直な分子鎖の重心の位置が規則正しく配列した箇所で微結晶を形成する
ことが可能となっている。
Fig. 1-2 Chemical structure of X7G.
TLCPは 熱 可 塑 性 で あ り 、溶 融 時 に ネ マ チ ッ ク 液 晶 性 を 示 す 。溶 融 状 態 中
で 自 発 分 子 配 向 し 、固 化 時 に も そ の ま ま の 配 向 が 維 持 さ れ る た め 機 械 特 性
に 強 い 異 方 性 を 与 え る 。特 に TLCPは 射 出 成 形 分 野 で 使 用 さ れ る 機 会 が 多 く 、
極 端 に 強 い 配 向 は 収 縮 の 異 方 性 に よ る 成 形 体 の 破 壊 や TLCP に 特 有 の 表 面
剥離 を 引き 起 こす 。この た め 、様々 なフ ィ ラー を 添加 する こ とに よ り 、異
方性を低減させる研究が多くなされている。
代 表 的 な フ ィ ラ ー と し て 、ガ ラ ス フ ァ イ バ ー 、カ ー ボ ン フ ァ イ バ ー 、シ
リカ、タルク、マイカが好んで検討されており、異方性が低減すること、
加 工 性 が 改 善 す る こ と が 確 認 さ れ て い る ( 1 7 ) - ( 2 2 ) 。 TLCP- 無 機 フ ィ ラ ー コ ン
ポ ジ ッ ト に お い て 、フ ィ ラ ー と の 相 互 作 用 、界 面 の 構 造 を 十 分 に 理 解 す る
ことは、ポリマー特性を最大限に発揮させるためには重要である。
1-2 TLCPの 相 転 移 挙 動
本 研 究 で 用 い た TLCP は p- ヒ ド ロ キ シ 安 息 香 酸 (HBA) と ク ラ ン ク シ ャ フ
4
ト ユ ニ ッ ト の 2- ヒ ド ロ キ シ -6- ナ フ ト エ 酸 (HNA) が 73:27 の 組 成 で ラ ン ダ ム
共 重 合 し た 全 芳 香 族 コ ポ リ エ ス テ ル で あ り 、 LAPEROS ® の 商 標 名 で ポ リ プ
ラ ス チ ッ ク ス か ら 上 市 さ れ て い る 。 Fig. 1-3に 構 造 式 を 示 し た 。
Fig. 1-3 Chemical structure of LAPEROS® A950.
HBA/HNA共 重 合 体 は 分 子 鎖 が 規 則 正 し く 配 列 し た 箇 所 で 微 結 晶 を 形 成 す
る 。こ の 時 の 分 子 鎖 シ ー ケ ン ス に 着 目 す る と 、Fig. 1-4に 示 し た よ う に 微 結
晶を形成しているシーケンスは分子鎖軸に沿って一致していることが報
告されている。
Fig. 1-4 Crystal structure model of NPL crystal.
こ の モ デ ル は シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 結 果 と 非 常 に 良 く 一 致 し て お り 、ラ ン ダ ム
共 重 合 体 が 形 成 す る 微 結 晶 と し て 、 こ の Non-periodic Layer(NPL)結 晶 モ デ
ル が 提 案 さ れ て い る (23)-(26)。
HBA/HNA 共 重 合 体 に 対 す る 相 転 移 挙 動 に つ い て は 多 く の 研 究 が 行 わ れ
て い る 。 例 え ば 、 Wunderlich ( 2 7 ) ら は 共 重 合 体 の 組 成 を 様 々 に 変 化 さ せ た コ
5
ポ リ エ ス テ ル に お い て 、 X線 回 折 測 定 か ら 検 討 し て い る 。 こ の 中 で 、 HBA
が リ ッ チ な 組 成 の コ ポ リ エ ス テ ル (HBA/HNA=80/20, 90/10, 95/5)は 室 温 時
に お い て 斜 方 晶 結 晶 を 形 成 し て い る こ と が 、 Fig. 1-5に 示 し た X線 回 折 強 度
曲 線 よ り 確 認 で き る 。こ れ ら は 高 温 時 の ポ リ p-ヒ ド ロ キ シ 安 息 香 酸 (PHBA)
共 重 合 体 の 斜 方 晶 -擬 六 方 晶 -六 方 晶 -ネ マ チ ッ ク 相 と 言 う 、相 転 移 挙 動 と 非
常に類似している。
一 方 、 HBA/HNA= 75/25, 58/42, 30/70 の コ ポ リ エ ス テ ル に お い て は 、
HBA/HNA = 75/25 の み が 擬 六 方 晶 - 斜 方 晶 転 移 を 示 し 、 HBA/HNA =
58/42,30/70で は 準 六 方 晶 を 示 す 。
Fig. 1-5 X-ray diffraction patterns of p-HBA/HNA = (a) 95/5, (b) 90/10, (c) 80/20
copolymer.
ま た M. Mogilevsk y ( 2 8 ) ら は HBA/HNA=73/27の コ ポ リ エ ス テ ル に お い て 、
ア ニ ー リ ン グ 温 度 に 対 す る 相 転 移 挙 動 の 影 響 を DSC に よ り 考 察 し て い る
(Table1)。 Originalサ ン プ ル に お い て 277 ℃ 付 近 に 吸 熱 ピ ー ク (∆H =5.6 J/g)
が 観 測 さ れ 、 こ の 温 度 を 結 晶 -液 晶 転 移 と し て い る 。 ま た 270 ℃ 以 上 で 熱
処 理 を す る こ と で 230 ℃ 付 近 の ブ ロ ー ド な 吸 熱 と 310 ℃ 付 近 の シ ャ ー プ
な 吸 熱 ピ ー ク を 観 測 し て い る 。 230 ℃ 以 上 の 熱 処 理 に よ り 擬 六 方 晶 - 準 六
6
方 晶 (擬 六 方 晶 と 斜 方 晶 の 中 間 的 な 相 ) 転 移 が 起 こ る こ と が 、 Flores ( 2 6 ) ら に
よ り 提 案 さ れ て お り 、吸 熱 は こ の 転 移 に よ る 多 形 転 移 に よ る も の だ と し て
い る 。高 温 側 の 吸 熱 は 熱 処 理 の 間 に 構 造 が 形 成 さ れ た 元 の 結 晶 と 大 き さ の
違 う 結 晶 の Crystal-Mesophase転 移 で あ る と 考 察 し て い る 。
Table 1
The effect of annealing on the thermal behavior of LCP extruded sheets
Annealing Temp.
Tm1
Tm2
℃
⊿Hm1
J/g
℃
Original
270
278
233
275
280
290
Quenched
℃
⊿Hm2
J/g
⊿Hmtotal
J/g
5.6
1.7
311
3.6
5.6
5.3
238
235
2.2
1.9
313
313
3.3
2.9
5.5
4.8
273
274
3.9
5.9
305
-
1.7
-
5.6
5.9
1-3 TLCP/フ ィ ラ ー コ ン ポ ジ ッ ト の 研 究
近 年 の 電 子 産 業 、自 動 車 産 業 の 著 し い 発 展 と 共 に 、プ ラ ス チ ッ ク の 高 機
能 化 、高 性 能 化 へ の 要 求 が 厳 し く な っ て き て い る 。特 に 熱 可 塑 性 液 晶 性 ポ
リエステルは機械性能、耐熱性、耐薬品性、加工性が優れることから、こ
れ ら の 分 野 に 留 ま ら ず 、航 空 宇 宙 分 野 、医 療 分 野 に も 広 く 使 用 さ れ て い る 。
TLCPは ガ ラ ス 、鉱 物 フ ィ ラ ー を 添 加 す る こ と で 寸 法 安 定 性 、変 形 制 御 を 改
善 す る の が 一 般 的 で あ り 、こ れ と 併 せ て 生 産 性 も 改 善 さ れ る 。こ の た め フ
ィ ラ ー を 添 加 す る 上 で の 、 TLCP-フ ィ ラ ー 間 の 相 互 作 用 を 理 解 す る こ と は
非常に重要である。
ガ ラ ス 繊 維 、カ ー ボ ン 繊 維 を TLCPに 添 加 す る こ と に よ る 異 方 性 低 減 に つ
い て 多 く の 研 究 が 行 わ れ て い る 。Chiversと Moore ( 1 8 ) ら は HBA/HNA系 、HBA/
イ ソ フ タ ル 酸 (IA)/ ハ イ ド ロ キ ノ ン (HQ)系 の TLCP に ガ ラ ス 繊 維 を 添 加 す る
こ と に よ る 配 向 挙 動 、お よ び そ れ に 伴 う 弾 性 率 、強 度 の 影 響 を 確 認 し 、成
7
形 体 の 強 度 、剛 性 の 異 方 性 が 減 衰 し 、ガ ラ ス フ ァ イ バ ー が TLCPの 配 向 を 崩
壊 さ せ て い る と 結 論 付 け て い る 。 ま た Bhama、 Stupp ら は ( 2 1 ) p-ア セ ト キ シ
安 息 香 酸 、 ジ ア セ ト キ シ ハ イ ド ロ キ ノ ン 、 ピ メ リ ン 酸 か ら な る LCPと カ ー
ボ ン 繊 維 の コ ン ポ ジ ッ ト に お け る 、 TLCP-カ ー ボ ン 繊 維 界 面 の 構 造 に つ い
て NMR、偏 光 顕 微 鏡 観 察 か ら 考 察 し て い る 。そ の 中 で 、カ ー ボ ン 繊 維 表 面
に TLCP の 配 向 相 が 存 在 し 、 わ ず か 1wt%の カ ー ボ ン 繊 維 の 添 加 に よ り 、 1 H
NMRか ら 算 出 さ れ る 配 向 時 間 が 大 幅 に 短 く な る 現 象 を 明 ら か に し た 。彼 ら
は 、カ ー ボ ン 繊 維 最 表 面 に TLCPが 担 持 さ れ 、そ の 分 子 鎖 に 従 っ て 配 向 相 が
成 長 す る 結 果 を 示 し 、フ ァ イ バ ー 表 面 で は 完 全 な 等 方 性 化 へ 溶 解 す る と と
も に ポ リ マ ー の ネ マ チ ッ ク 秩 序 を 安 定 さ せ る と 報 告 し て い る 。 Sang Ki
Park ( 2 9 ) ら は TLCP/ ガ ラ ス 繊 維 /シ リ カ の コ ン ポ ジ ッ ト に お い て 、 数 十 ナ ノ
サ イ ズ の シ リ カ 微 粒 子 の 少 量 添 加 に よ り 、コ ン ポ ジ ッ ト の 複 素 粘 度 が 低 下
し 、 流 動 性 の 向 上 に よ る 加 工 性 の 向 上 を 報 告 し て い る 。 ま た Lee ( 2 2 ) ら は
HBA/HNA=70/30 の TLCP に 対 し て 、 表 面 処 理 の 異 な る ガ ラ ス 繊 維 と の 化 学
的 な 相 互 作 用 を SEM、XRD、偏 光 顕 微 鏡 観 察 か ら 考 察 し て い る 。① 未 処 理 、
② γ -メ タ ク リ レ ー ト プ ロ ピ ル ト リ メ ト キ シ シ ラ ン 処 理 、③ フ ェ ニ ル ト リ エ
ト キ シ シ ラ ン 処 理 の ガ ラ ス 繊 維 表 面 で は 処 理 の 違 い に よ り 、 5-20 μ mの 厚
み を 持 っ た 規 則 的 な 縞 状 の 光 学 組 織 が 確 認 さ れ 、TLCPの 配 向 挙 動 が 異 な る
ことを明らかにしている。
1-4 高 分 子 -異 種 物 質 に お け る 界 面 領 域 の 高 分 子 の 運 動 性
液 体 、固 体 の よ う な 凝 集 相 が 互 い に 均 一 に 混 ざ り 合 う 事 の な い も う 一 つ
の 相 と 接 す る 境 界 面 を 界 面 と 呼 ぶ 。特 に 気 相 と 接 す る 固 相 や 液 相 の 境 界 面
は 表 面 と 呼 ば れ る 。相 異 な る 物 質 同 士 が 接 す る 界 面 で は 、境 界 領 域 で は 物
質 内 部 と は 異 な る 運 動 性 や 構 造 特 性 、配 向 特 性 を 示 し 、物 理 化 学 的 性 質 お
8
よ び 機 能 に 影 響 を 与 え る 。表 面 物 性 に 対 応 し て 、材 料 内 部 の バ ル ク 物 性 は
体 積 物 性 と 呼 ば れ る 。凝 集 相 内 部 で は 分 子 は 周 り か ら 一 様 な 影 響 を 受 け る
た め 安 定 し て 存 在 す る 。一 方 、界 面 に 存 在 す る 分 子 は も う 一 方 の 気 相 若 し
く は 凝 集 相 の 影 響 を 受 け 、非 常 に 不 安 定 で あ り 、界 面 領 域 は バ ル ク 状 態 と
は 異 な る 特 異 的 な 表 面 凝 集 構 造 と 分 子 運 動 を 示 す 。異 種 物 質 同 士 が 接 触 す
る 界 面 に お い て 、高 分 子 鎖 の 運 動 性 は 力 学 的 相 互 作 用 、電 気 的 相 互 作 用 な
ど に 基 づ き 、バ ル ク 状 態 と は 大 き く 異 な る 結 果 を も た ら す 。さ ら に 高 分 子
に お い て は 、分 子 構 造 特 有 の 絡 み 合 い の 効 果 が 生 じ る た め 、界 面 の 影 響 が
直 接 異 種 物 質 と 接 し て い る 高 分 子 鎖 だ け で な く 、直 接 異 種 物 質 に 接 し て い
な い 高 分 子 鎖 に も 影 響 を 及 ぼ す 可 能 性 が あ る 。こ の よ う に 界 面 が 影 響 を す
る 空 間 領 域 は 協 同 再 配 置 領 域 と し て 定 義 さ れ 、界 面 科 学 を 理 解 す る 上 で 重
要 な 指 標 と な っ て い る ( 3 0 ) 。例 え ば 、PS鎖 の 熱 運 動 性 に 対 し て 優 位 な 表 面 効
果 が 表 れ る 空 間 領 域 は 約 100 Å と 報 告 さ れ て い る ( 3 1 ) 。 ま た ア ル ミ ニ ウ ム ポ リ ア ク リ ル 酸 エ ス テ ル 界 面 に お け る 、 熱 運 動 性 を DSCに よ り 調 査 し た 結
果 、 ア ル ミ ニ ウ ム 金 属 界 面 が 熱 運 動 性 に 影 響 を 及 ぼ す 空 間 領 域 が 約 200 Å
と 見 積 も ら れ て い る ( 3 2 ) 。こ れ ら は 高 分 子 の 絡 み 合 い 効 果 に よ り 、金 属 と 直
接 接 し な い 高 分 子 鎖 に 対 し て 、一 定 の 領 域 に 界 面 の 影 響 が 出 る こ と を 裏 付
けている。
またナノサイズのシリカ添加による結晶化阻害の現象は中根らがポリ
ビ ニ ル ア ル コ ー ル (PVA)の 系 に お い て 確 認 し て い る ( 3 3 ) 。 彼 ら は 任 意 の シ リ
カ 濃 度 の キ ャ ス ト フ ィ ル ム を WAXD観 察 よ り 、 シ リ カ の 含 有 量 の 増 加 に 伴
い 、ピ ー ク が ブ ロ ー ド に な る こ と を 見 出 し 、ナ ノ サ イ ズ の シ リ カ に よ り PVA
結晶の成長が抑制され、結晶化度が低下したと結論付けている。
一 方 、絡 み 合 い の 観 点 か ら す る と 、TLCPは 剛 直 で 直 線 性 の 分 子 構 造 を 持
つ た め 、高 分 子 鎖 の 絡 み 合 い の 効 果 は 無 視 さ れ 、界 面 の 影 響 は 限 定 的 で 協
同 再 配 置 領 域 も 極 め て 小 さ い と 予 想 さ れ る 。し か し 、TLCPは そ の 剛 直 な 分
9
子 骨 格 故 に 、自 発 的 に 高 分 子 鎖 が 配 列 し 配 向 構 造 を 形 成 す る 。ま た 、TLCP
の 中 に は 特 殊 な コ ン フ ォ メ ー シ ョ ン を 取 る こ と で 、分 子 鎖 軸 に 沿 っ て 巨 大
な ダ イ ポ ー ル モ ー メ ン ト を 発 現 す る TLCP が 存 在 す る こ と が 報 告 さ れ て い
る ( 3 4 ) - ( 3 7 ) 。 こ の た め 、 TLCP で は 絡 み 合 い 以 外 の 相 互 作 用 に よ っ て 、 金 属 樹 脂 界 面 の 影 響 が 広 が り 、あ る 程 度 大 き な 空 間 領 域 を 持 つ 界 面 相 が 形 成 さ
れる可能性が考えられる。
1-5 本 研 究 の 目 的
TLCPの 実 用 的 な 適 用 に つ い て は 、通 常 は ガ ラ ス 繊 維 、カ ー ボ ン 繊 維 、タ
ル ク 、マ イ カ な ど の 種 々 の 無 機 フ ィ ラ ー を 添 加 す る こ と に よ り 、高 機 能 化
を 実 現 し て い る 。し か し 、昨 今 の 関 連 産 業 の 著 し い 発 展 と 共 に 、今 ま で 適
用していた無機フィラーでは満足に市場要求レベルを達成するのが難し
く な っ て い る 。こ う し た 背 景 を 受 け て 、カ ー ボ ン ナ ノ チ ュ ー ブ 、モ ン モ リ
ロ ナ イ ト な ど の ナ ノ ス ケ ー ル の フ ィ ラ ー が 検 討 さ れ る よ う に な り 、ナ ノ サ
イ ズ の シ リ カ も 研 究 対 象 と さ れ て い る 。し か し 、TLCPへ の ナ ノ サ イ ズ の シ
リ カ の 添 加 に よ る 界 面 へ の 影 響 に 関 す る 研 究 例 は な く 、ま た 実 用 化 へ の 応
用 例 に 関 す る 報 告 も さ れ て い な い 。 TLCP-シ リ カ の 相 互 作 用 は 比 較 的 大 き
く 、界 面 の 影 響 が 分 子 配 向 、双 極 子 相 互 作 用 を 通 じ て 広 い 空 間 領 域 に 及 び 、
バ ル ク な 物 性 へ 反 映 さ れ る こ と が 期 待 さ れ る 。特 に ナ ノ サ イ ズ の シ リ カ は
TLCP分 子 鎖 長 よ り も 小 さ く 、 さ ら に 球 形 で あ る こ と か ら TLCP配 向 が 阻 害
さ れ る 可 能 性 が あ り 、他 の 繊 維 状 フ ィ ラ ー と は 異 な る 挙 動 が 発 現 さ れ る こ
とが期待される。
本 研 究 で は TLCP/フ ィ ラ ー 界 面 の 解 明 を 目 的 と し 、TLCPに シ リ カ 微 粒 子
を 大 量 に 加 え て 界 面 領 域 を 増 や す こ と で 界 面 の 影 響 に つ い て 、示 差 走 査 熱
量 測 定 (DSC)や X 線 回 折 測 定 (XRD)、赤 外 線 分 光 分 析 (IR)を 主 と し て 実 施 し 、
10
シ リ カ 界 面 で の 熱 挙 動 の 変 化 を 調 査 し た 。使 用 し た TLCPは p-ヒ ド ロ キ シ 安
息 香 酸 (HBA) と ク ラ ン ク シ ャ フ ト ユ ニ ッ ト の 2- ヒ ド ロ キ シ -6- ナ フ ト エ 酸
(HNA) が 73:27 の 組 成 で ラ ン ダ ム 共 重 合 し た 全 芳 香 族 コ ポ リ エ ス テ ル で あ
り 、 LAPEROS ® A950と し て 広 く 知 ら れ て い る 。
ま た 実 用 的 な 応 用 へ の 研 究 と し て 、 TLCP/ シ リ カ 微 粒 子 の 固 体 粘 弾 性 、
機械強度特性と界面構造との相関について明らかにする
11
1-6 参 考 文 献
(1) 小 出 直 之 , 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル の 開 発 ,シ ー エ ム シ ー (1987)
(2) P. J. Flory,
Proc. Ro y. Soc. London, A, 234, 73 (1956)
(3) G.W. Gray ”Molecular Structure and the Properties of Liquid Crystals”,
Academic Press, New York (1962)
(4) F.C.Frank, Proc. R. Soc. London A, 319, 127(1970)
(5) W.W. Adams and R.K. Eb y, MRS Bull., 12, 22 (1987 )
(6) H.E. Klei and J.J.P. Stewart, Int. J. Quantum Chem., S20, 529(1986)
(7) S.G. Wiershke, J. R. Shoemaker, P.D. Haaland, R. Pacheter, W. W. Adams,
Pol ymer, 33, 3357 (1992)
(8) H.N. Yoon, L.F.Charbonneau and G.W. Calundann, Adv. Mater, 5,206(1992)
(9) L. C. Sawyer, H. C. Linstid, M. Romer, Plast. Eng. (N.Y.) 54 (1998) 37
(10) W.J.Jackson Jr. and H. Kuhfuss (to Eastman Kodak Co.), U. S.Pat.
3,778,410(1973)
(11) W.J.Jackson Jr. and H. Kuhfuss, J.Pol ym. Chem., Pol ym. Chem. Ed., 14,
2043(1973)
(12) B.P. Griffin and M.K. Cox. Br.Pol ym er. J., 12,147(1980)
(13) W.J. Jackson and H.F. Kuhfuss, J.Polym. Chem. Ed., 14, 2043 (1976)
(14) W.J. Jackson and H.F. Kuhfuss, J.Pol ym. Sci. Part A Pol ym. Che,., 34,
3031(1996)
(15) W.A. MacDonal, Mol. Cryst. Lig. Crs yt., 153, 311(1987)
(16) A.H. Windle, MRS Bull., 12, 18 (1987)
(17) H. Voss, K. Friedrich, J. Mater. Sci. 21, 2889 (1986)
(18) R. A. Chivers, D. R. Moore, Pol ymer 32, 2190 (1991)
(19) C. J. G. Plummer, B. Zülle, A. Demarmels, H-H. Kausch , J. Appl. Pol ym.
Sci. 48, 751 (1993)
(20) R. Scaffaro, U. Pedretti, F.P. La Mantia, Eur. Pol ym. J. 32, 869 (1996)
(21) S. Bhama, S. I. Stupp, Pol ym. Eng. Sci. 30, 228 (1990)
12
(22) W. G.. Lee, T. C. J. Hsu, A. C. Su, Macromolecules 27, 6551 (1994)
(23) S. Hanna, A. H. Windle, Pol ymer, 29, 207 (1988)
(24) R. Golombok, S. Hanna, A. H. Windle, Mol. Cryst. Liq. Cryst., 155, 281
(1988)
(25) A. H. Windle, C. Viney, R. Golombok, A. M. Donald, G. R. Mitchell,
Faraday Discuss. Chem. Soc., 79, 55 (1985)
(26) A. Flores, F. Ania, F. J. Balta Calleja, I .M. Ward, Pol ymer, 34, 2915
(1993)
(27) A. Habenschuss, M. Varma-Nair, Y. K. Kwon, B. Wunderlich, Pol ymer, 47,
2369 (2006)
(28) M. Mogilevsk y, A. Siegmann, S. Kenig, Pol ym. Eng. Sci., 38, 322 (1998)
(29) S. K. Park, S. H. Kim, J. T. Hwang, Pol ym. Compos., 30, 309 (2009)
(30) G. Adam, J. H. Gibbs, J. Chem. Ph y, 43, 139 (1965)
(31) J. L. Keddie, R. A. L. Jones, R. A. Cory, Europh ys. Let., 27, 59 (1994)
(32) 杉 田 篤 史 ,
田 坂 茂 , 接 着 , 49巻 , 3号 ,108 (2005)
(33) K. Nakane, T. Yamashi ya, K. Iwakura, F. Suzuki, J.Appl. Pol ym. Sci ., 74,
133 (1999)
(34) P. D. Coulter and A. H. Windle, Macromolecules, 22, 1129 (1989)
(35) J. I. Jin, S. Antoun, C. Ober, R. W. Lenz, Br. Pol ym. J., 12 132 (980)
(36) J. P. Hummel, P. J. Flory, Macromolecules, 13, 479 (1980)
(37) T. Imase, S. Kawauchi, J. Watanabe, Macromol. Theory Simul, 10, 434
(2001)
13
第 2 章
フィラー界面で誘起されるサーモトロピック液晶性ポ
リエステルの構造評価
2-1 緒 言
主鎖に剛直な部位を導入したポリエステルはサーモトロピック液晶性
ポ リ エ ス テ ル (TLCP)と し て 、優 れ た 耐 熱 性 、耐 薬 品 性 を 持 つ エ ン ジ ニ ア リ
ン グ プ ラ ス チ ッ ク で あ る (1)。 溶 融 時 に ネ マ チ ッ ク 液 晶 性 を 示 す 一 群 の 全 芳
香 族 系 ポ リ エ ス テ ル で あ り 、溶 融 状 態 中 で 自 発 分 子 配 向 し 、固 化 時 に も そ
の ま ま の 配 向 が 維 持 さ れ る た め 機 械 特 性 に 強 い 異 方 性 を 与 え る (2)-(8) 。
Fig.2-1 は 分 子 動 力 学 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に よ っ て LAPEROS ® A950 の バ ル ク
な 状 態 を 表 し た モ デ ル で あ る 。TLCP分 子 が 平 行 に 充 填 す る こ と で 配 向 秩 序
が 形 成 さ れ て い る こ と が わ か る (9)。
Fig. 2-1 Oriented model of LAPEROS ® A950 calculated from molecular
d ynamics computer simulation ( 9 ) .
TLCPは 射 出 成 形 分 野 で 使 用 さ れ る 機 会 が 多 く 、極 端 に 強 い 配 向 は 収 縮 の
異 方 性 に よ る 成 形 体 の 破 壊 や TLCP に 特 有 の 表 面 剥 離 を 引 き 起 こ す た め 、
様 々 な フ ィ ラ ー を 添 加 す る こ と に よ り 、異 方 性 を 低 減 さ せ る 研 究 が 多 く な
14
さ れ て い る 。代 表 的 な フ ィ ラ ー と し て 、ガ ラ ス フ ァ イ バ ー 、カ ー ボ ン フ ァ
イ バ ー 、シ リ カ 粒 子 な ど の 無 機 フ ィ ラ ー が 検 討 さ れ て お り 、異 方 性 が 低 減
す る こ と 、 加 工 性 が 改 善 す る こ と が 確 認 さ れ て い る (10)-(16)。 フ ィ ラ ー 複 合
に 際 し て は 、最 適 な フ ィ ラ ー 種 類 、フ ィ ラ ー 量 を 決 定 す る 上 で 、フ ィ ラ ー
と の 相 互 作 用 、界 面 の 構 造 を 十 分 に 理 解 す る こ と が 重 要 で あ る 。序 論 で も
述 べ た が 、 Lee ( 1 5 ) ら の 研 究 結 果 か ら 、 フ ィ ラ ー 界 面 と TLCP と の 相 互 作 用
に よ り 、フ ィ ラ ー 界 面 か ら 数 μ m厚 み の 空 間 領 域 で TLCPの 配 向 挙 動 が 異 な
ることが明らかになっている。彼らの研究で対象としたフィラーは繊維
長 : 300 μ m 、 繊 維 径 : 9 μ m 、 ア ス ペ ク ト 比 : 33 の ガ ラ ス 繊 維 で あ り 、 サ
ー モ ト ロ ピ ッ ク 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル 分 子 鎖 長 : 150nm と 比 較 す る と 随 分 大
き な サ イ ズ で あ る ( 1 7 ) , ( 1 8 ) 。こ の た め 、TLCP分 子 鎖 が フ ィ ラ ー 界 面 で 規 則 的
に 配 向 す る に は 十 分 な ス ペ ー ス が 存 在 し 、一 定 の 液 晶 ド メ イ ン を 形 成 す る
に 足 る も の で あ る と 考 え ら れ る 。一 方 で 、ナ ノ サ イ ズ の 球 形 フ ィ ラ ー に お
い て は 、フ ィ ラ ー サ イ ズ が TLCP分 子 鎖 長 と 同 等 か そ れ よ り も 小 さ い 領 域 に
あ り 、フ ィ ラ ー 界 面 で 規 則 的 に 配 向 す る の に 十 分 な ス ペ ー ス が 確 保 さ れ ず 、
配 向 が 阻 害 さ れ る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 イ メ ー ジ 図 を Fig. 2-2に 示 す 。
そ こ で 本 研 究 で は TLCP と フ ィ ラ ー 界 面 の 構 造 を 明 ら か に す る こ と を 目
的 と し 、 TLCPに 高 濃 度 の シ リ カ 微 粒 子 を 添 加 /混 練 し 、 界 面 領 域 を 増 や す
こ と で そ の 影 響 に つ い て 、示 差 走 査 熱 量 測 定 (DSC)や 偏 光 顕 微 鏡 観 察 、X 線
回 折 測 定 (XRD) 、 赤 外 線 分 光 分 析 (IR)を 行 い シ リ カ 界 面 で の 熱 挙 動 の 変 化
を調査した。
15
(a)
(b)
Fig. 2-2 Schematic representation of size difference between filler and TLCP;
(a) Glass fiber surface, (b) Nano-Silica.
2-2 実 験
2-2-1 試 料
本 研 究 で 用 い た 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル は p-ヒ ド ロ キ シ 安 息 香 酸 (HBA)と ク
ラ ン ク シ ャ フ ト ユ ニ ッ ト の 2- ヒ ド ロ キ シ -6- ナ フ ト エ 酸 (HNA) が 73:27 の 組
成 で 共 重 合 し た 全 芳 香 族 コ ポ リ エ ス テ ル (Fig. 2-3)で あ り 、ポ リ プ ラ ス チ ッ
ク ス 株 式 会 社 よ り 提 供 さ れ た も の を 使 用 し た (重 量 平 均 分 子 量:Mw 30000、
分 子 量 分 布 : 2.45、 比 重 : 1.4g/cm 3 )
(17),(18)
。このサンプルはランダム共重
合 体 で あ る こ と が 確 認 さ れ て い る (19)-(24)。 ま た 使 用 し た シ リ カ 微 粒 子 は 関
東 化 学 株 式 会 社 製 の シ リ カ (平 均 粒 子 径 : 51 nm, 比 重 : 2.2g/cm 3 )で あ り 、
吸 着 水 を 除 去 す る た め に 使 用 前 に 300 ℃ で 1時 間 加 熱 処 理 を 施 し た 。
16
Fig. 2-3 Chemical structure of LAPEROS® A950.
2-2-2 測 定 試 料 の 調 製 条 件
任 意 の 量 の シ リ カ と TLCP を 二 軸 ス ク リ ュ ー 混 練 機 ( 東 洋 精 機 製 プ ラ ス
ト ミ ル 4C150-01)で 樹 脂 温 度 : 300℃ 、 回 転 数 : 100rpmで 8分 間 混 練 し コ ン
ポ ジ ッ ト サ ン プ ル を 調 製 し た 。最 終 的 な 回 転 ト ル ク は こ の 条 件 下 で 一 定 に
な っ て い る こ と を 確 認 し た 。 試 料 中 の シ リ カ 含 有 量 は 熱 重 量 測 定 (TA
Instruments社 製 TGA Q-500)に て 、 想 定 し た 処 方 量 が 添 加 さ れ て い る こ と
を 確 認 し た 。 今 回 作 成 し た サ ン プ ル を Table 2-1に ま と め る 。
Table 2-1 Samples used in this stud y.
Particles content
Particles content
[wt%]
[vol%]
LC
0
0
LC + SNP10
9.8
6.5
LC + SNP30
30
22
LC + SNP50
50
39
Sample
2-2-3 示 差 走 査 熱 量 測 定 (DSC測 定 )
DSC測 定 は 溶 融 プ レ ス し た フ ィ ル ム を 使 用 し た 。 測 定 フ ィ ル ム は ホ ッ ト
プ レ ス 機 (東 洋 精 機 製 mini test press-10)に て 、 3gの コ ン ポ ジ ッ ト 材 料 を 温
度 : 300℃ 、 圧 力 : 5MPaの 条 件 下 で 製 膜 し 、 室 温 ま で 徐 冷 し た 。 膜 厚 は お
よ そ 30μ mに コ ン ト ロ ー ル し た 。
17
試 料 の DSC測 定 に 使 用 し た 機 器 は“ DSC Q1000(Instruments社 製 )”を 使 用
し た 。温 度 キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン に は イ ン ジ ウ ム (Tm=156℃ )で 実 施 し た 。昇
温 、 降 温 速 度 は 10℃ /minの 設 定 と し 、 窒 素 流 量 200ml/minの 条 件 下 で 測 定
を実施した。
2-2-4 広 角 X線 回 折 測 定
広 角 X 線 回 折 測 定 は DSC と 同 じ フ ィ ル ム を 使 用 し て X 線 回 折 測 定 を 実 施
し た 。測 定 に お い て は 各 フ ィ ル ム 試 料 を ア ル ミ 製 の サ ン プ ル フ ォ ル ダ に 設
置し、テープで貼ることで固定して作製した。以下に測定条件を示す。
使 用 機 器 : R INT2500(㈱ 理 学 電 機 )
使 用 X 線 : Cu Kα線
波長:1.5418+
測 定 条 件 : 出 力 50kV,300mA
散 乱 ス リ ッ ト : 1/2°
受 光 ス リ ッ ト : 0.3mm
測 定 散 乱 角 度 : 10~30°
サ ン プ リ ン グ 速 度 : 2°/min
サ ン プ リ ン グ 幅 : 0.02
2-2-5 赤 外 線 吸 収 分 光 測 定 (FT-IR測 定 )
赤 外 線 吸 収 分 光 測 定 に は 使 用 し た サ ン プ ル は DSCで 使 用 し た フ ィ ル ム を
さ ら に ホ ッ ト プ レ ス で 溶 融 さ せ 、薄 膜 化 し 約 5μ mの 厚 み に し た 後 、徐 冷 し
た 。 測 定 機 器 は 顕 微 赤 外 測 定 装 置 IRT-3000 を 取 り 付 け た FT-IR4100(と も に
JASCO製 )を 使 用 し た 。分 解 能 は 2 cm - 1 、積 算 回 数 は 64回 、測 定 範 囲 500~4000
cm - 1 の 条 件 で 行 っ た 。
18
2-3 結 果 と 考 察
2-3-1 シ リ カ 微 粒 子 混 合 に よ る 界 面 の 熱 的 性 質
Fig. 2-4 (a),(b)に 各 々 サ ー モ ト ロ ピ ッ ク 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル の バ ル ク 試
料 と 10wt%, 30wt%, 50wt%の ナ ノ サ イ ズ の シ リ カ を 混 合 し た 試 料 の DSC昇
温測定、降温測定の結果を示す。
(a)
LC
endothermic
LC+SNP10
LC+SNP30
LC+SNP50
10 oC/min
50
100
150
200
250
o
Temperature [ C]
300
(b)
endothermic
LC
LC+SNP10
LC+SNP30
LC+SNP50
10 oC/min
50
Fig. 2-4
100
150
200
250
o
Temperature [ C]
300
DSC curve for TLCP and composite of Silica;
(a) Heating condition, (b) Cooling condition
19
昇 温 測 定 で は シ リ カ 量 の 増 加 に 伴 い 、 280 ℃ 付 近 に 見 ら れ る 液 晶 転 移 に
よ る 吸 熱 が 減 少 す る の が 確 認 さ れ た 。 吸 熱 量 は そ れ ぞ れ LCバ ル ク 試 料 で
2.8J/g、LC+SNP10試 料 で 1.4J/g、LC+SNP30試 料 で 0.28J/gを 示 し 、LC+SNP50
で は 明 確 な ピ ー ク す ら 観 察 さ れ な か っ た 。 降 温 測 定 で は LCバ ル ク 試 料 で
230~ 250 ℃ の 範 囲 で 結 晶 相 へ の 転 移 に よ る 発 熱 を 観 測 し 、そ の 熱 量 は 2.68
J/gで 、吸 熱 量 と ほ ぼ 等 し く な っ た 。一 方 、Tgは 92℃ 付 近 に 観 察 さ れ 、シ リ
カ 量 の 増 加 に 伴 い Tgに 変 化 は 確 認 さ れ な か っ た 。し か し Tgに お け る 比 熱 変
化量は徐々に増大することが確認された。液晶転移に基づく吸熱ピーク、
お よ び 結 晶 化 に 基 づ く 発 熱 ピ ー ク が 共 に 確 認 さ れ な か っ た た め 、平 均 粒 子
径 : 51 nmの シ リ カ 微 粒 子 を 30wt%以 上 含 有 し た LC+SNP30で は 結 晶 化 が 阻
害 さ れ て 、 非 晶 部 が 増 加 す る こ と が 示 唆 さ れ た 。 Table 2-2に 測 定 時 の 分 析
データを示す。液晶転移におけるエントロピー変化の計算値も併記した。
Table 2-2 DSC quantitative analysis of TLCP and composite of several type of silica.
Particles
Particles
content
content
[wt%]
[vol%]
LC
0
LC+ SNP10
Tm
∆H (Tm)
Tg
∆Cp (Tg)
∆S (Tm)
[oC]
[J/g]
[oC]
[J/g・K]
[J/K mol]
0
278.7
2.8
92.9
0.039
0.77
9.8
6.5
278.3
1.4
92.2
0.061
0.38
LC + SNP30
30
22
278.4
0.28
92.3
0.082
0.077
LC + SNP50
50
39
-
-
91.4
0.14
-
Sample
2-3-2 シ リ カ 微 粒 子 混 合 に よ る 界 面 相 の 構 造 評 価
DSCの 結 果 か ら シ リ カ 微 粒 子 の 界 面 で は 液 晶 相 の 形 成 が 阻 害 さ れ 、 非 晶
領 域 が 広 が る こ と が 示 さ れ た た め 、結 晶 相 の 減 少 を XRD測 定 に て 確 認 し た 。
Fig. 2-5(a) に TLCPバ ル ク 試 料 と 10wt% (LC+SNP10), 30wt% (LC+SNP30),
50wt%
(LC+SNP50) の シ リ カ 微 粒 子 を 混 合 し た 試 料 の X線 回 折 チ ャ ー ト
20
を 示 す 。 ま た シ リ カ 量 の 増 加 に 伴 う ポ リ マ ー 成 分 量 低 下 に よ る X線 照 射 面
積 の 減 少 を 考 慮 す る た め に 、 相 対 強 度 を 計 算 し た チ ャ ー ト を Fig.2-5(b) に
示 す 。 得 ら れ た X線 回 折 チ ャ ー ト は (110)面 に 由 来 す る 2θ =19.5° に 強 烈 な
ピ ー ク を 示 し 、 (211)面 に 由 来 す る 2θ =27.2°が は っ き り 観 察 さ れ た 。 こ れ
は Wunderlich ( 2 5 ) ら が 報 告 し て い る よ う に 擬 六 方 晶 若 し く は 斜 方 晶 に 見 ら
れる典型的なものである。
シ リ カ 微 粒 子 濃 度 が 高 く な る に つ れ て 、回 折 曲 線 が ブ ロ ー ド に な る の が
確 認 さ れ た 。シ リ カ は こ の 領 域 で 回 折 ピ ー ク を 持 た な い こ と か ら 、シ リ カ
の 濃 度 増 加 に 伴 い 、 規 則 的 な 配 向 相 (結 晶 相 若 し く は 液 晶 相 )が 減 少 し て い
る こ と 示 し て い る 。シ リ カ 微 粒 子 濃 度 が 高 く な る に つ れ 、結 晶 化 度 の 顕 著
な 低 下 が 確 認 さ れ た 。ま た (110)面 に 由 来 す る ピ ー ク ト ッ プ の 位 置 が シ リ カ
微 粒 子 濃 度 の 上 昇 に 従 っ て わ ず か に 低 角 側 に シ フ ト し て い る 。ブ ラ ッ グ の
式
2dsin(θ)=λ
(1)
よ り 求 め た 層 間 隔 と 共 に XRD解 析 の 結 果 を Table 2-3に ま と め た 。
21
(a)
Intensity/ a.u
LC
LC+SNP10
LC+SNP30
LC+SNP50
10
15
20
25
30
Scattering angle, 2θ[°]
(b)
LC+SNP10
Intensity/ a.u
LC+SNP30
LC+SNP50
LC
10
15
20
25
30
Scattering angle, 2θ[°]
Fig. 2-5 The scattering patterns of TLCP and composite of Silica
in wide-angle region. (a) Actual chart, (b) Calculated to consider
the ratio of polymer.
22
Table 2-3 Anal ysis summary of XRD
Particles content
Peak 2θ
Interlayer distance
χ
[wt%]
[°]
[nm]
[%]
LC
0
19.9
0.446
26
LC+ SNP10
9.8
19.8
0.448
21
LC + SNP30
30
19.7
0.450
10
LC + SNP50
50
19.6
0.453
3.5
Sample
Table 2-3よ り シ リ カ 微 粒 子 を 加 え る こ と に よ り XRD結 果 は 低 角 側 に シ フ
ト し 、層 間 隔 が 広 く な っ て い る こ と が 分 か る 。シ リ カ 微 粒 子 の 添 加 に よ り
結 晶 化 度 の 低 下 と 共 に 、 規 則 的 な 配 向 相 (結 晶 相 若 し く は 液 晶 相 )の パ ッ キ
ングがルーズになっていることが示唆される。
2-3-3 界 面 相 の 分 子 評 価
DSC、XRD評 価 か ら TLCPへ の シ リ カ 微 粒 子 の 添 加 に よ り 、シ リ カ 微 粒 子
界 面 の 影 響 に よ り TLCP の コ ン フ ォ メ ー シ ョ ン 変 化 が 起 こ っ て い る こ と が
明 ら か と な っ た 。 そ こ で 、 IR測 定 に よ り 界 面 の 分 子 運 動 性 の 確 認 を 行 っ た
(Fig.2-6)。さ ら に TLCPの カ ル ボ ニ ル 基 が シ リ カ 微 粒 子 界 面 と の 相 互 作 用 を
生 じ て い る か ど う か を 詳 細 に 分 析 す る た め 、 Fig.2-7に カ ル ボ ニ ル 基 の C=O
の 伸 縮 振 動 に 由 来 す る ピ ー ク 1744 cm - 1 付 近 を 拡 大 し た も の を 示 す ( 2 6 ) 。
23
LC+SNP10
LC+SNP30
LC+SNP50
Absorbance [a.u.]
LC
2000
1700
1400
1100
800
500
Wavenumber [cm-1]
Fig. 2-6 FT-IR spectra for TLCP and composite of Silica.
LC
LC+SNP10
LC+SNP30
Absorbance [a.u.]
LC+SNP50
1780
1770
1760
1750
1740
Wavenumber
1730
1720
1710
1700
[cm-1]
Fig. 2-7 FT-IR spectra of carbonyl region from 1700 to 1780 cm-1
for TLCP and composite of Silica.
24
TLCPに 由 来 す る 1744cm - 1 の ピ ー ク が 確 認 さ れ る が 、シ リ カ 微 粒 子 を 加 え
る こ と で 徐 々 に そ の ピ ー ク 強 度 は 弱 く な り 、新 た に 1733 cm - 1 に ピ ー ク が 出
現 し た 。 ア モ ル フ ァ ス 領 域 に お け る C=O伸 縮 に は 束 縛 さ れ た 状 態 と フ リ ー
な 状 態 の 2種 類 が 存 在 し 、 シ リ カ 微 粒 子 の 添 加 で は TLCPの カ ル ボ ニ ル 基 の
C=O伸 縮 が シ リ カ 微 粒 子 表 面 と の 相 互 作 用 に よ り 束 縛 さ れ た 状 態 に な っ て
い る と 予 想 さ れ る 。Table 2-4に (A1733+A1744) / A1600 の 面 積 比 、お よ び 面 積 比 A 1 7 3 3
/(A 1 7 3 3 + A
1 7 4 4 )の 計 算 結 果 を 示 す 。
Table 2-4 Summary of FT-IT anal ysis.
Peak area ratio
Peak area ratio
(A1733+A1744) / A1600
A1733 /( A1733+A1744)
LC
2.72
0.25
LC+ SNP10
2.76
0.41
LC+ SNP30
2.69
0.48
LC+ SNP50
2.78
0.48
Sample
A 1 6 0 0 の ピ ー ク は ベ ン ゼ ン 環 の C=C伸 縮 に 基 づ く ピ ー ク で あ り 、 シ リ カ 自
体 に は 存 在 し な い 。ま た 今 回 の シ リ カ 微 粒 子 の 添 加 に お い て は 、ベ ン ゼ ン
環 の C=Cの 伸 縮 挙 動 に は 影 響 が な い と い う 事 を 仮 定 し て 、 基 準 ピ ー ク と し
て 計 算 し た 。 得 ら れ た (A1733+A1744) / A1600 の 面 積 比 は シ リ カ 微 粒 子 の 添 加 量 に
ほ と ん ど 影 響 せ ず 約 2.7の 値 を 示 し た 。こ の 結 果 か ら 、カ ル ボ ニ ル 基 C=Oの
ピ ー ク シ フ ト は シ リ カ 微 粒 子 の 添 加 に よ り 起 こ る も の の 、全 体 的 な カ ル ボ
ニ ル の 数 は 変 わ っ て い な い と い う 事 を 示 し て お り 、カ ル ボ ニ ル の 状 態 の み
が 変 わ っ て ピ ー ク 位 置 の シ フ ト が 起 こ っ て い る と 推 定 さ れ る 。ま た 、本 研
究 で 用 い た TLCP は p- ヒ ド ロ キ シ 安 息 香 酸 (HBA) と 2- ヒ ド ロ キ シ -6- ナ フ ト
エ 酸 (HNA)が 73:27 の 組 成 で 共 重 合 し た 全 芳 香 族 コ ポ リ エ ス テ ル で あ り 、 1
ユ ニ ッ ト 中 に カ ル ボ ニ ル 基 が 2 つ 存 在 す る 。 つ ま り 1ベ ン ゼ ン 環 あ た り 、
約 2.7の カ ル ボ ニ ル 基 が 存 在 す る 計 算 に な り 、IRか ら 見 積 も ら れ た 計 算 値 と
25
近い。
2-3-4 シ リ カ 微 粒 子 界 面 相 の 厚 み に 関 す る 考 察
TLCPと シ リ カ 微 粒 子 コ ン ポ ジ ッ ト に お け る 、熱 的 性 質 、構 造 解 析 、分 子
状 態 の 検 討 結 果 か ら 、 TLCP/シ リ カ 微 粒 子 混 合 系 で は 液 晶 転 移 や Tgに 変 化
が 現 れ る こ と が 示 さ れ た 。 具 体 的 に は シ リ カ 30wt%で ほ ぼ 液 晶 転 移 に 基 づ
く 吸 熱 ピ ー ク が 現 れ な く な り 、液 晶 の 配 向 構 造 が シ リ カ 微 粒 子 界 面 相 に 存
在 せ ず 、界 面 相 が コ ン ポ ジ ッ ト 内 部 で か な り の 体 積 を 占 め て い る こ と を 示
唆 し て い る 。Fig.2-8に コ ン ポ ジ ッ ト 内 部 の シ リ カ 分 散 と 界 面 相 の 存 在 状 態
を 示 し た モ デ ル 図 を 示 す 。こ こ で 、ど の 程 度 の 空 間 領 域 を 持 つ 界 面 相 が 形
成されているかを計算した。
Fig. 2-8 Schematic interface layer model of TLCP/Silica composite.
計 算 に あ た っ て 、シ リ カ 微 粒 子 を 真 球 形 状 で あ る と し 、ま た 界 面 相 も シ
リ カ 微 粒 子 と 同 様 に 真 球 状 に 広 が っ て い る と 仮 定 し た 。TLCP、シ リ カ 微 粒
子 の 比 重 は そ れ ぞ れ 、1.4g/cm 3 、2.2g/cm 3 と し て 計 算 し た 。Table 2-5に 計 算
結 果 を 示 す 。PS鎖 の 熱 運 動 性 の 検 討 か ら 金 属 表 面 の 影 響 が 出 る 空 間 領 域 が
100 Å と 報 告 さ れ て お り 、 絡 み 合 い 効 果 に よ り 、 金 属 と 直 接 接 し な い 高 分
26
子 鎖 に 対 し て 、高 分 子 と 微 粒 子 が 相 互 作 用 す る 範 囲 は 数 十 か ら 数 百 Å 程 度
と 考 え ら れ て い る ( 2 7 ) , ( 2 8 ) 。 今 回 の 結 果 は シ リ カ 微 粒 子 の 濃 度 が 30wt% か ら
50wt%の 間 で 液 晶 転 移 の 吸 熱 ピ ー ク が 確 認 さ れ な く な っ て い る こ と か ら 、
TLCPに お い て も 193-320Å と 言 う か な り 広 範 囲 に 渡 り シ リ カ 微 粒 子 表 面 か
ら の 影 響 を 受 け て 、 バ ル ク な TLCPで は 観 察 さ れ な い 非 晶 性 の TLCPが 存 在
する可能性を示している。
Table 2-5 Ideal thickness of interface layer
Sample
Thickness of interface layer
[Å ]
LC
-
LC+ SNP10
515
LC+ SNP30
320
LC+ SNP50
193
27
2-4 結 論
TLCPと フ ィ ラ ー 界 面 の 構 造 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し 、 TLCPに 高
濃 度 の シ リ カ 微 粒 子 を 添 加 /混 練 し 、界 面 領 域 を 増 や す こ と で そ の 影 響 に つ
い て 、 示 差 走 査 熱 量 測 定 (DSC)や 偏 光 顕 微 鏡 観 察 、 X 線 回 折 測 定 (XRD)、
赤 外 線 分 光 分 析 (IR)を 行 い シ リ カ 界 面 で の 熱 挙 動 の 変 化 を 調 査 し た 。TLCP
に シ リ カ 微 粒 子 を 加 え る こ と に よ り 、熱 的 性 質 は 液 晶 転 移 に よ る 吸 熱・発
熱 が 確 認 で き な く な り 、非 晶 相 と 思 わ れ る 比 熱 変 化 量 が 増 加 す る 傾 向 が 確
認 さ れ た 。XRD測 定 か ら 添 加 量 が 増 加 す る に し た が っ て 、規 則 的 な 配 向 相
(結 晶 相 若 し く は 液 晶 相 )が 減 少 し て い る こ と が 示 さ れ 、 結 晶 化 度 の 顕 著 な
低 下 が 確 認 さ れ た 。IRの 結 果 か ら シ リ カ 界 面 で TLCPの カ ル ボ ニ ル 基 が 束 縛
さ れ て い る 現 象 が 確 認 さ れ 、こ の 相 互 作 用 に よ り TLCPの 配 向 、結 晶 化 が 阻
害 さ れ た も の と 推 測 さ れ る 。一 般 的 な 高 分 子 に 置 い て は 絡 み 合 い 効 果 に よ
り 金 属 と 直 接 接 し な い 高 分 子 鎖 に 対 し て 、一 定 の 領 域 に 界 面 の 影 響 が 出 る
こ と が 確 認 さ れ て い る 。一 方 で TLCPに 置 い て は そ の よ う な 知 見 は 今 ま で 確
認 さ れ て い な い が 、今 回 の 結 果 か ら TLCPに お い て も 金 属 と 直 接 接 し な い 一
定 の 空 間 領 域 、具 体 的 に は 193-320Å の 領 域 に 金 属 表 面 の 影 響 が 及 ぼ さ れ て
いる可能性が示された。
28
2-5 参 考 文 献
(1) L.C. Sawyer, H.C. Linstid, M. Romer, M. Plast. Eng.(N.Y.) 54, 37 (1998)
(2) 小 出 直 之 , 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル の 開 発 ,シ ー エ ム シ ー (1987)
(3) K.Asai, Plastics, 35, 10 (1984)
(4) W.J. Jackson Jr. and Kuhfuss (to Eastman Kodak Co.) U.S. pat. 3,778,410
(1973)
(5) W.J. Jackson J r. and Kuhfuss, j. Polym. Chem., Pol ym. Chem. Ed., 14,
2043(1973)
(6) T.Okada and J. Suenaga, Plastics, 37 No.3, 111 (1986)
(7) D. Acierno, F.P. La Mantia, G. Polizzolti, A. Ciferri and B. Valenti,
Macromolecules, 15,1455 (1982)
(8) T.S. Chung, Poly. Eng. And Science, 26, 13,901 (1986)
(9) 奥 山 直 人 ,中 根 敏 雄 , “ 液 晶 ポ リ マ ー の ガ ス バ リ ヤ ー 性 : 分 子 動 力 学
計 算 に よ る 解 析 ” , 第 10回 高 分 子 計 算 機 科 学 研 究 討 論 会 , 2005年 3 月 4
日
(10) H. Voss, K. Friedrich, J. Mater. Sci. 21, 2889 (1986)
(11) R. A. Chivers, D. R. Moore, Pol ymer 32, 2190 (1991)
(12) C. J. G. Plummer, B. Zülle, A. Demarmels, H-H. Kausch , J. Appl. Pol ym.
Sci. 48, 751 (1993)
(13) R. Scaffaro, U. Pedretti, F.P. La Mantia, Eur. Pol ym. J. 32, 869 (1996)
(14) S. Bhama, S. I. Stupp, Pol ym. Eng. Sci. 30, 228 (1990)
(15) W. G.. Lee, T. C. J. Hsu, A. C. Su, Macromolecules 27, 6551 (1994)
(16) A. R. Uribe, O. Flores, B. Campillo, A.Flores, M. Jaffe, Emer. Mater.
Research, 1, 3, 146 (2012)
(17) A. R. Uribe, A. H. Windle, Macromolecules, 29, 6246 (1996)
(18)H. Kromer, R. Khun, H. Pielartzik W. Siebke, V. Eckhardt, M. Schmidt,
Macromolecules 24, 1950 (1991)
29
(19) G.W. Gray ”Molecular Structure and the Properties of Liquid Crystals”,
Academic Press, New York (1962)
(20) F.C.Frank, Proc. R. Soc. London A, 319, 127(1970)
(21) W.W. Adams and R.K. Eb y, MRS Bull., 12, 22 (1987 )
(22) H.E. Klei and J.J.P. Stewart, Int. J. Quantum Chem., S20, 529(1986)
(23) S.G. Wiershke, J. R. Shoemaker, P.D. Haaland, R. Pacheter, W. W. Adams,
Pol ymer, 33, 3357 (1992)
(24)
H.N.
Yoon,
L.F.Charbonneau
and
G.W.
Calundann,
Adv.
Mater,
5,206(1992)
(25) A. Habenschuss, M. Varma-Nair, Y. K. Kwon, B. Wunderlich, Pol ymer, 47,
2369 (2006)
(26) R. Tannenbaum, C.Hakanson, A. Zeno, M. Tirrell, Langmuir, 18, 5592
(2002)
(27) J. L. Keddie, R. A. L. Jones, R. A. Cory, Europh ys. Let., 27, 59 (1994)
(28) 杉 田 篤 史 ,
田 坂 茂 , 接 着 , 49巻 , 3号 ,108 (2005)
30
第 3 章
フィラーの違いによるフィラー界面で誘起されるサー
モトロピック液晶性ポリエステルの界面相の影響
3-1 緒 言
主 鎖 型 サ ー モ ト ロ ピ ッ ク 液 晶 ポ リ エ ス テ ル (TLCP)は 、メ ソ ゲ ン 基 な ど の
芳香族残基と意図的に分子の剛直性を下げる目的として導入された柔軟
な 分 子 鎖 か ら な る 、非 常 に 剛 直 な 半 芳 香 族 若 し く は 全 芳 香 族 の 棒 状 分 子 を
主 鎖 に 持 つ 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル で あ る 。特 に TLCPは 溶 融 時 に ネ マ チ ッ ク 液
晶 性 を 示 し 、溶 融 状 態 中 で 自 発 分 子 配 向 し 、固 化 時 に も そ の ま ま の 配 向 が
維 持 さ れ る (1)。 こ う し た 構 造 的 な 理 由 か ら 機 械 特 性 、 耐 薬 品 性 、 耐 熱 性 が
高いために電機・電子、自動車、航空産業、医療の分野で広く使われてい
る (2)-(8)。
TLCPは 射 出 成 形 分 野 で 使 用 さ れ る 機 会 が 多 く 、射 出 成 型 物 の 表 面 は ポ リ
マ ー の 流 れ 方 向 に 著 し く 配 向 し て い る ス キ ン 層 を 形 成 す る 。こ の た め 機 械
特性に強い異方性を与えてしまい、収縮の異方性による成形体の破壊や
TLCPに 特 有 の 表 面 剥 離 を 引 き 起 こ す 。こ れ に 対 し 、過 去 に 様 々 な フ ィ ラ ー
を 添 加 す る こ と に よ り 、異 方 性 を 低 減 さ せ る 研 究 が 多 く な さ れ て い る 。代
表的 な フィ ラ ーと して 、ガ ラス フ ァ イバ ー 、カー ボ ン ファ イ バー 、シ リ カ
粒 子 な ど の 無 機 フ ィ ラ ー が 検 討 さ れ て い る ( 9 ) - ( 2 0 ) 。フ ィ ラ ー 複 合 に 際 し て は 、
最 適 な フ ィ ラ ー 種 類 、フ ィ ラ ー 量 を 決 定 す る 上 で 、フ ィ ラ ー と の 相 互 作 用 、
界 面 の 構 造 を 十 分 に 理 解 す る こ と が 重 要 で あ る 。特 に 、ナ ノ サ イ ズ の 球 形
フ ィ ラ ー は 、フ ィ ラ ー サ イ ズ が TLCP分 子 鎖 長 と 同 等 か そ れ よ り も 小 さ い 領
域 に あ り 、フ ィ ラ ー 界 面 で 規 則 的 に 配 向 す る の に 十 分 な ス ペ ー ス が 確 保 さ
れ ず 、 配 向 が 阻 害 さ れ る 可 能 性 が あ る (21)。
第 2章 で は TLCPと 平 均 粒 径:50nmの シ リ カ 微 粒 子 界 面 の 構 造 を 明 ら か に
す る こ と を 目 的 と し 、高 濃 度 の シ リ カ 微 粒 子 と TLCPと の コ ン ポ ジ ッ ト 材 料
31
の 熱 挙 動 の 変 化 を 調 査 し た 。得 ら れ た 結 果 は シ リ カ 微 粒 子 界 面 と サ ー モ ト
ロ ピ ッ ク 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル の 相 互 作 用 に よ り 、シ リ カ 微 粒 子 界 面 で TLCP
の 配 向 、結 晶 化 が 阻 害 さ れ る 可 能 性 が 示 さ れ た 。さ ら に シ リ カ 微 粒 子 界 面
か ら 193-320 Å の 領 域 で 金 属 界 面 の 影 響 を 受 け て い る 分 子 鎖 が 存 在 す る こ
と が 示 唆 さ れ た 。一 般 的 高 分 子 で は 絡 み 合 い 効 果 に よ り 、金 属 と 直 接 接 し
な い 高 分 子 鎖 に 対 し て 、一 定 の 領 域 に 界 面 の 影 響 が 出 る 。TLCPで も 似 た よ
う な 現 象 が 確 認 さ れ 、絡 み 合 い 効 果 以 外 の 相 互 作 用 に よ っ て 、金 属 -樹 脂 界
面 の 影 響 が 広 が り 、あ る 程 度 大 き な 空 間 領 域 を 持 つ 界 面 相 が 形 成 さ れ る 可
能性が示された。
そ こ で 本 研 究 で は TLCP と フ ィ ラ ー サ イ ズ に よ る 界 面 構 造 と の 関 係 を よ
り 詳 細 に 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て 、TLCPに 添 加 す る 真 球 状 の シ リ カ
微 粒 子 の サ イ ズ を 系 統 的 に 変 化 さ せ る こ と 、お よ び TLCP鎖 長 を 変 え る こ と
で TLCPと 真 球 状 フ ィ ラ ー サ イ ズ と の 関 連 性 を 第 2章 と 同 様 の 手 段 を 使 用 し
て 調 査 す る 。ま た 、シ リ カ 微 粒 子 界 面 と TLCPの カ ル ボ ニ ル 基 の 束 縛 性 が 界
面 構 造 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 、シ リ カ 表 面 の シ ラ ノ ー ル 基 と の 関 連 性 を 明
らかにする。
3-2 実 験
3-2-1 試 料
3-2-1-1 サ ー モ ト ロ ピ ッ ク 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル (TLCP)
本 研 究 で 用 い た 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル は p-ヒ ド ロ キ シ 安 息 香 酸 (HBA)と ク
ラ ン ク シ ャ フ ト ユ ニ ッ ト の 2- ヒ ド ロ キ シ -6- ナ フ ト エ 酸 (HNA) が 73:27 の 組
成 で 共 重 合 し た 全 芳 香 族 コ ポ リ エ ス テ ル (Fig. 2-1)で あ り 、ポ リ プ ラ ス チ ッ
クス株式会社より提供されたものを使用した。
32
Fig. 3-1 Structure formula of LAPEROS® A950.
今 回 は TLCP の 分 子 鎖 長 の 効 果 を 確 認 す る た め に 、 異 な る 2 種 類 の TLCP
を 調 製 し た 。均 一 な 分 子 量 の 低 い TLCPを 調 製 す る た め に 、骨 格 の 末 端 を ヒ
ド ロ キ シ ビ フ ェ ニ ル (HBP)で 封 止 す る こ と に よ り 分 子 量 を 制 御 し た 。 具 体
的 な 手 法 に つ い て は 、 分 子 量 の 低 い TLCP を 調 製 す る に 際 し 、 0.01mol%の
HBPを 重 合 時 に 添 加 し 、 セ ラ ニ ー ズ の 特 許 に 従 っ た 重 合 条 件 に よ り 実 施 し
た ( 2 2 ) 。 Table2-1 に 今 回 調 製 し た TLCP の 固 有 粘 度 : η、 液 晶 転 移 温 度 : Tm、
重 量 平 均 分 子 量 、平 均 分 子 鎖 長 を 示 す 。固 有 粘 度 は ペ ン タ フ ル オ ロ フ ェ ノ
ー ル と ヘ キ サ フ ル オ ロ イ ソ プ ロ パ ノ ー ル 混 合 溶 液 中 に TLCP を 溶 解 さ せ て
測定を行った。
Table 3-1 Characterization of TLCP
Sample
HBP
[mol%]
LC
LC (L)
0
0.01
Inherent viscosity
η
[dL/g]
Tm
[oC]
Mw
Average
molecular length
[nm]
5.24
3.91
278.7
276.2
29500
21000
149.9
106.8
3-2-1-2 シ リ カ 微 粒 子
シ リ カ 微 粒 子 は 関 東 化 学 株 式 会 社 製 の シ リ カ ( 平 均 粒 子 径 : 51 nm, 比
重 : 2.2 以 後 SNP[51]と 表 記 す る )、株 式 会 社 ア ド マ テ ッ ク ス 製 シ リ カ (平 均
粒 子 径:100nm, 240 nm, 485nm, 比 重:2.2 以 後 各 SNP[100], SNP [245], SNP
33
[485] と 表 記 す る ) を 使 用 前 に 吸 着 水 を 除 去 す る た め に 300 ℃ で 1 時 間 加 熱
処理を施した。さらにシリカ表面のシラノール基の影響を把握するため、
50nmの シ リ カ 微 粒 子 を 800℃ ×3時 間 、空 気 雰 囲 気 下 で 熱 処 理 を す る こ と で
シ ラ ノ ー ル 基 量 を 変 化 さ せ た 。Fig.3-2に 未 処 理 品 と 熱 処 理 品 の IRチ ャ ー ト
を 示 す 。 シ ラ ノ ー ル 基 量 は 熱 処 理 有 無 の サ ン プ ル を FT-IR に よ り 分 析 し 、
表 面 シ ラ ノ ー ル 基 に 帰 属 さ れ る 960cm - 1 付 近 の ピ ー ク 強 度 か ら 表 面 シ ラ ノ
ー ル 基 の 違 い を 判 断 し た (23)。
Fig. 3-2 FT-IR spectra for SNP[51] with and without heat treatment at 800oC.
3-2-2 測 定 試 料 の 調 製 条 件
任 意 の 量 の シ リ カ 微 粒 子 と TLCP を 二 軸 ス ク リ ュ ー 混 練 機 ( 東 洋 精 機 製
プ ラ ス ト ミ ル 4C150-01)で 樹 脂 温 度 : 300℃ 、 回 転 数 : 100rpmで 8分 間 混 練
し コ ン ポ ジ ッ ト サ ン プ ル を 調 製 し た 。最 終 的 な 回 転 ト ル ク は こ の 条 件 下 で
一定になっていることを確認した。試料中のシリカ含有量は熱重量測定
(TA Instruments社 製 TGA Q-500)に て 、想 定 し た 処 方 量 が 添 加 さ れ て い る こ
と を 確 認 し た 。 今 回 作 成 し た サ ン プ ル を Table 3-2に ま と め る 。
34
Table 3-2 Sample designations in this study.
Sample
Heat treatment
for silica
Particles content
[wt%]
Particles content
[vol%]
LC
-
0
0
LC+SNP[51]10
LC+SNP[51]30
No
No
9.8
30
6.5
22
LC+SNP[51]50
LC+SNP[100]10
No
No
50
9.9
39
6.6
LC+SNP[100]30
LC+SNP[100]50
No
No
29.9
50.1
21
39
LC+SNP[245]10
LC+SNP[245]30
No
No
10
30
6.7
21
LC+SNP[245]50
LC+SNP[485]10
No
No
50
9.8
39
6.5
LC+SNP[485]30
LC+SNP[485]50
LC+SNP[51]10_D
LC+SNP[51]30_D
LC+SNP[51]50_D
LC(L)
LC(L)+SNP[51]10
LC(L)+SNP[51]30
LC(L)+SNP[51]50
No
No
Yes
Yes
Yes
No
No
No
30
50
9.8
29.9
50
0
9.9
30
50
21
39
6.5
21
39
0
6.6
21
39
3-2-3 示 差 走 査 熱 量 測 定 (DSC測 定 )
DSC測 定 は 溶 融 プ レ ス し た フ ィ ル ム を 使 用 し た 。 測 定 フ ィ ル ム は ホ ッ ト
プ レ ス 機 (東 洋 精 機 製 mini test press-10)に て 、 3gの コ ン ポ ジ ッ ト 材 料 を 温
度 : 300℃ 、 圧 力 : 5MPaの 条 件 下 で 製 膜 し 、 室 温 ま で 徐 冷 し た 。 膜 厚 は お
よ そ 30μ mに コ ン ト ロ ー ル し た 。
試 料 の DSC測 定 に 使 用 し た 機 器 は“ DSC Q1000(Instruments社 製 )”を 使 用
し た 。温 度 キ ャ リ ブ レ ー シ ョ ン に は イ ン ジ ウ ム (Tm=156℃ )で 実 施 し た 。昇
温 、 降 温 速 度 は 10℃ /minの 設 定 と し 、 窒 素 流 量 200ml/minの 条 件 下 で 測 定
を実施した。
35
3-2-4 広 角 X線 回 折 測 定
広 角 X 線 回 折 測 定 は DSC と 同 じ フ ィ ル ム を 使 用 し て X 線 回 折 測 定 を 実 施
し た 。測 定 に お い て は 各 フ ィ ル ム 試 料 を ア ル ミ 製 の サ ン プ ル フ ォ ル ダ に 設
置し、テープで貼ることで固定して作製した。以下に測定条件を示す。
使 用 機 器 : R INT2500(㈱ 理 学 電 機 )
使 用 X 線 : Cu Kα線
波長:1.5418+
測 定 条 件 : 出 力 50kV,300mA
散 乱 ス リ ッ ト : 1/2°
受 光 ス リ ッ ト : 0.3mm
測 定 散 乱 角 度 : 10~30°
サ ン プ リ ン グ 速 度 : 2°/min
サ ン プ リ ン グ 幅 : 0.02
3-2-5 赤 外 線 吸 収 分 光 測 定
赤 外 線 吸 収 分 光 測 定 に は 使 用 し た サ ン プ ル は DSCで 使 用 し た フ ィ ル ム を
さ ら に ホ ッ ト プ レ ス で 溶 融 さ せ 、薄 膜 化 し 約 5μ mの 厚 み に し た 後 、徐 冷 し
た 。 測 定 機 器 は 顕 微 赤 外 測 定 装 置 IRT-3000 を 取 り 付 け た FT-IR4100(と も に
JASCO製 )を 使 用 し た 。分 解 能 は 2 cm - 1 、積 算 回 数 は 64回 、測 定 範 囲 500~4000
cm-1の 条 件 で 行 っ た 。
3-2-6 偏 光 顕 微 鏡 観 察
偏 光 顕 微 鏡 観 察 は DSCで 使 用 し た フ ィ ル ム を さ ら に ホ ッ ト プ レ ス で 溶 融
さ せ 、薄 膜 化 し 約 5μ mの 厚 み に し た 後 、徐 冷 し た 。測 定 機 器 は オ リ ン パ ス
製 BX51を使用した。
36
3-3 結 果 と 考 察
3-3-1 シ リ カ 微 粒 子 の サ イ ズ の 影 響
3-3-1-1 DSCに よ る 界 面 の 熱 的 性 質 の 考 察
Fig. 3-3 (a),(b)に 各 々 TLCP の バ ル ク 試 料 と サ イ ズ の 異 な る 4 種 類 の シ リ
カ 微 粒 子 を 50wt%混 合 し た 試 料 の DSC昇 温 測 定 、 降 温 測 定 の 結 果 を 示 す 。
昇 温 測 定 で は シ リ カ 微 粒 子 の サ イ ズ が 小 さ く な る に 従 っ て 280 ℃ 付 近 に
見られる液晶転移による吸熱が減少するのが確認された。
37
(a)
endothermic
LC+SNP[51]50
LC+SNP[100]50
LC+SNP[245]50
LC+SNP[485]50
LC
10 oC/min
50
100
150
200
250
300
Temperature [oC]
(b)
LC+SNP[51]50
endothermic
LC+SNP[100]50
LC+SNP[285]50
LC+SNP[485]50
LC
10 oC/min
150
200
250
300
Temperature [oC]
Fig. 3-3
DSC curve for TLCP and composite for several size of silica;
(a) Heating condition, (b) Cooling condition.
Fig.3-4に 液 晶 転 移 に 伴 う 吸 熱 量 変 化 を シ リ カ 微 粒 子 サ イ ズ 、お よ び 添 加
量 に 従 っ て プ ロ ッ ト し た 。LC+SNP[51]50、LC+SNP[100]50で は 吸 熱 ピ ー ク
が 観 察 さ れ て お ら ず 、 LC+SNP[245]50で は わ ず か で あ る が ピ ー ク が 確 認 さ
38
れ て い る こ と か ら 、 少 な く と も 粒 子 径 が 100-240nm の 領 域 に て 、 シ リ カ 微
粒 子 が TLCPの 結 晶 化 に 与 え る 影 響 が 異 な る こ と が 示 唆 さ れ る 。
3.0
SNP[51]
SNP[100]
SNP[245]
SNP[485]
2.5
⊿Hm (J/g)
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0
10
20
30
40
Filler content [wt%]
50
60
Fig. 3-4 Heat of fusion detected for the composites at 230°C.
また、降温測定でもシリカ微粒子のサイズが小さくになるに従って
230-250 ℃ の 範 囲 で 現 れ る 結 晶 相 へ の 転 移 に よ る 発 熱 ピ ー ク が 減 少 す る
の が 観 測 さ れ た 。さ ら に 昇 温 測 定 と 同 様 に LC+SNP[51]50、LC+SNP[100]50
で は 発 熱 ピ ー ク が 観 察 さ れ て お ら ず 、 LC+SNP[245]50 、 LC+SNP[485]50で
確認された。
一 方 、Tgは 90℃ 付 近 に 観 察 さ れ る が 、シ リ カ 微 粒 子 の サ イ ズ に よ ら ず Tg
の 変 化 は 観 察 さ れ な か っ た 。し か し Tgに お け る 比 熱 変 化 量 は シ リ カ 微 粒 子
の サ イ ズ が 小 さ く な る に 従 っ て 増 大 す る 傾 向 が 確 認 さ れ た 。Fig.3-5に Tgに
お け る 比 熱 変 化 を シ リ カ 微 粒 子 サ イ ズ 、お よ び 添 加 量 に 従 っ て プ ロ ッ ト し
た 。 液 晶 転 移 に 伴 う 吸 熱 量 変 化 と 同 様 に LC+SNP[51]50 、 LC+SNP[100]50
は ほ と ん ど 同 じ 挙 動 を 示 し 、 平 均 粒 径 : 240nmの シ リ カ 微 粒 子 を 添 加 し た
39
コ ン ポ ジ ッ ト LC+SNP[245]50 と は 明 ら か に 比 熱 変 化 率 が 異 な る こ と か ら 、
少 な く と も 粒 子 径 が 100-240nmの 領 域 に て 、シ リ カ 微 粒 子 が TLCPの 結 晶 化
(配 向 )を 阻 害 し 、 非 晶 部 に 相 当 す る 部 分 の 形 成 に 与 え る 影 響 を 与 え て い る
可能性が考えられる。
0.16
SNP[51]
SNP[100]
SNP[245]
SNP[485]
0.14
⊿Cp [J/g・K]
0.12
0.10
0.08
0.06
0.04
0.02
0.00
0
10
20
30
40
Filler content [wt%]
50
60
Fig. 3-5 Change of the specific heat of Tg.
3-3-1-2 X線 回 折 に よ る 界 面 相 の 構 造 評 価
DSC の 結 果 か ら シ リ カ 微 粒 子 の サ イ ズ の 違 い に よ り 、シ リ カ 微 粒 子 の 界
面 に お け る 結 晶 形 成 が 異 な る 事 が 示 唆 さ れ た 。そ こ で 結 晶 相 の 減 少 を XRD
測 定 に て 確 認 し た 。Fig.3-6 に TLCP バ ル ク 試 料 (LC)と サ イ ズ の 異 な る 4 種
類 の シ リ カ 微 粒 子 を 50wt%混 合 し た 試 料 (LC+SNP[51]50, LC+SNP[100]50,
LC+SNP[245]50, LC+SNP[485]50)の 回 折 チ ャ ー ト を 示 す 。 得 ら れ た X 線 回
折 チ ャ ー ト は (110)面 に 由 来 す る 2θ =19.5°に 強 烈 な ピ ー ク を 示 し た 。一 方
で 、(211)面 に 由 来 す る 2θ =27.2°に 関 し て は 、バ ル ク 試 料 で は は っ き り 観
40
察 さ れ た も の の 、 シ リ カ 微 粒 子 50wt%の コ ン ポ ジ ッ ト に お い て は 、サ イ ズ
が小さくなるのに従って、ピークが確認できなくなった。
Intensity/ a.u
LC
LC+SNP[485]50
LC+SNP[245]50
LC+SNP[100]50
LC+SNP[51]50
10
15
20
25
30
Scattering angle, 2θ[°]
Fig. 3-6 Scattering patterns of TLCP and
composite of Silica in wide-angle region.
シ リ カ 微 粒 子 の サ イ ズ の 影 響 は 、サ イ ズ が 小 さ く に な る に 従 っ て 、回 折
曲 線 が ブ ロ ー ド に な る の が 確 認 さ れ た 。今 回 用 い た シ リ カ 微 粒 子 は ど れ も
こ の 領 域 で 回 折 ピ ー ク を 持 た な い こ と か ら 、シ リ カ 微 粒 子 の サ イ ズ が 、規
則 的 な 配 向 相 (結 晶 相 若 し く は 液 晶 相 )の 形 成 に 影 響 を 与 え て い る こ と が 確
認 さ れ た 。Fig. 3-7に 各 種 シ リ カ 微 粒 子 に お け る 、シ リ カ 微 粒 子 量 と 結 晶 化
度 を 示 す 。シ リ カ 微 粒 子 の サ イ ズ に よ っ て 濃 度 に 対 す る 、結 晶 化 度 の 顕 著
な 低 下 が 確 認 さ れ 、サ イ ズ の 小 さ い シ リ カ 微 粒 子 の 方 が 結 晶 化 度 の 低 下 率
は 大 き い 結 果 が 得 ら れ た 。シ リ カ 微 粒 子 の サ イ ズ が 51nmと 100nmで は 大 き
く 低 下 率 に 違 い が 認 め ら れ ず 、 一 方 、 240nm以 上 の シ リ カ 微 粒 子 で は 結 晶
化 度 の 低 下 率 が 緩 や か に な っ て い る 。こ の た め TLCPの 結 晶 化 に 与 え る 影 響
41
と し て は 、 少 な く と も 粒 子 径 が 100-240nmの 間 で 、 シ リ カ 微 粒 子 が TLCPの
結 晶 化 (配 向 )を 阻 害 し 、 非 晶 部 に 相 当 す る 部 分 の 形 成 に 与 え る 影 響 を 与 え
る 閾 値 が あ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ 、DSCに よ る 検 討 結 果 と 一 致 し た 。そ こ で 、
今 回 XRD測 定 か ら 算 出 し た 結 晶 化 度 と DSCか ら 求 め た 、 液 晶 転 移 に よ る 吸
熱 量 : ⊿ Hを Fig.3-8に 示 す 。
Degree of Crystallinity [%]
30.0
SNP[51]
SNP[100]
SNP[245]
SNP[485]
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
0
10
20
30
40
Filler content [Vol%]
Fig. 3-7 Variation of crystallinity with the filler content in
a series of different size of silica particle.
42
50
3.0
SNP[51]
SNP[100]
SNP[245]
SNP[485]
LC
∆H (Tm) [J/g]
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0
10
20
30
Degree of Crystallinity [%]
Fig. 3-8 Variation of heat of fusion with the various degree
of crystallinity in a series of different size of silica particle.
各 々 の シ リ カ 微 粒 子 の サ イ ズ に お い て 、結 晶 化 度 と 液 晶 転 移 の 吸 熱 量 に
良 好 な 相 関 関 係 が 認 め ら れ た 。 さ ら に シ リ カ 微 粒 子 の サ イ ズ が 51nm 、
100nm で は 吸 熱 量 と 結 晶 化 度 の 相 関 関 係 が ほ と ん ど 同 じ な の に 対 し 、
240nm 、 480nm と サ イ ズ が 大 き く な る に つ れ て 、 同 じ 結 晶 化 度 に 置 い て 液
晶 転 移 の 吸 熱 量 が 増 大 す る 傾 向 が 確 認 さ れ た 。こ れ は 、サ イ ズ が 大 き い シ
リ カ の 方 が TLCPの 液 晶 化 、結 晶 化 を 阻 害 し な い と い う 推 定 に 基 づ け ば 、よ
り 密 に パ ッ キ ン グ し た 液 晶 、結 晶 が 形 成 さ れ る た め に 、液 晶 転 移 の 熱 量 が
大 き く な っ た と 考 え ら れ る 。結 晶 化 度 と 吸 熱 量 の グ ラ フ が 原 点 を 通 ら な い
の は 、 DSCに よ る 液 晶 転 移 の 熱 量 の 検 出 感 度 に よ る も の と 考 え ら れ る 。
次 に Fig.3-9 に サ イ ズ の 異 な る シ リ カ 10wt% を TLCP に 添 加 し た 時 の 偏 光
顕 微 鏡 観 察 結 果 を 示 す 。観 察 は 明 視 野 で 行 っ た 。TLCPで は 結 晶 に 由 来 す る
干 渉 色 が 確 認 さ れ た 。と こ ろ が 、50nmの ナ ノ サ イ ズ の シ リ カ を 10wt%添 加
し た LC+SNP[51]10及 び 100nmシ リ カ を 10wt%添 加 し た LC+SNP[100]10で は
43
干 渉 色 は 観 察 さ れ な か っ た 。 一 方 、 LC+SNP[245]10と LC+SNP[485]10で は
干渉色が確認されており、結晶化度の違いが現れていると考えられる。
(b)
(a)
(c)
(d)
(e)
Fig. 3-9 Optical microscopic textures of (a) LC, (b) LC+SNP[51]10,
(c) LC+SNP[100]10, (d) LC+SNP[245]10 and (e) LC+SNP[485]10.
44
3-3-1-3 IRに よ る 界 面 層 の 分 子 評 価
DSC、XRD評 価 か ら TLCP/シ リ カ 微 粒 子 界 面 の 影 響 に よ り TLCPの コ ン フ
ォ メ ー シ ョ ン 変 化 が 起 こ っ て い る こ と が 明 ら か に な り 、シ リ カ の サ イ ズ に
よ り 影 響 度 が 異 な る こ と が 明 ら か と な っ た 。 そ こ で 、 IR測 定 に よ り 界 面 の
分 子 運 動 性 の 確 認 を 行 っ た (Fig.3-10)。
LC+SNP[51]50
LC+SNP[485]50
LC+SNP[100]50
Absorbance [a.u.]
LC
LC+SNP[245]50
2000
1700
1400
1100
Wavenumber
800
500
[cm-1]
Fig. 3-10 FT-IR spectra of LC, LC+SNP[51]50, LC+SNP[100]50,
LC+SNP[245]50 and LC+SNP[485]50.
さ ら に TLCP の カ ル ボ ニ ル 基 が シ リ カ 微 粒 子 界 面 と の 相 互 作 用 を 生 じ て
い る か ど う か を 詳 細 に 分 析 す る た め 、Fig.3-11に カ ル ボ ニ ル 基 の C=Oの 伸 縮
振 動 に 由 来 す る ピ ー ク 1744 cm - 1 付 近 を 拡 大 し た も の を 示 す ( 2 4 ) 。 LCで は カ
ル ボ ニ ル 基 に 由 来 す る 1744cm - 1 の ピ ー ク が 確 認 さ れ る が 、 LC+SNP[51]50
で は ピ ー ク 強 度 は 弱 く な り 、新 た に 1733 cm - 1 に ピ ー ク が 出 現 し た 。ピ ー ク
強 度 を 詳 細 に 確 認 す る と 、50nmの ナ ノ サ イ ズ の シ リ カ を 添 加 し た サ ン プ ル
LC+SNP[51]50 に お い て 特 に 顕 著 に 1733 cm - 1 の ピ ー ク が 現 れ た 。 一 方 、
LC+SNP[245]50と LC+SNP[485]50で は ブ ロ ー ド な ピ ー ク と な り 、 明 確 な ピ
ー ク は 確 認 で き な か っ た 。 今 回 の ピ ー ク 強 度 の シ フ ト は 第 2章 で も 考 察 し
45
た よ う に 、ア モ ル フ ァ ス 領 域 の TLCPの カ ル ボ ニ ル 基 の C=O伸 縮 が シ リ カ 微
粒 子 表 面 と の 相 互 作 用 に よ り 束 縛 さ れ た こ と が 原 因 と 考 え ら れ 、シ リ カ サ
イズが小さい方がより束縛されていると考えられる。
LC+SNP[51]50
LC+SNP[245]50
Absorbance [a.u.]
LC
LC+SNP[100]50
LC+SNP[485]50
1780
1770
1760
1750
1740
1730
1720
1710
1700
Wavenumber [cm-1]
Fig. 3-11 FT-IR spectra of carbonyl region from 1700 to 1780 cm-1 for LC,
LCP+SNP[51]50, LC+SNP[100]50, LC+SNP[245]50 and LC+SNP[485]50.
3-3-2 シ リ カ 微 粒 子 表 面 の シ ラ ノ ー ル 基 の 影 響
IR の 分 析 結 果 か ら シ リ カ 表 面 の シ ラ ノ ー ル 基 が TLCP の カ ル ボ ニ ル 基 と
相 互 作 用 し 結 晶 化 を 阻 害 し た 可 能 性 が あ る こ と か ら 、平 均 粒 径:50nmの シ
リ カ 微 粒 子 を 800℃ ×3時 間 、 空 気 雰 囲 気 下 で 熱 処 理 し た シ ラ ノ ー ル 基 量 を
変 化 さ せ た シ リ カ の 影 響 を 確 認 し た 。シ ラ ノ ー ル 基 量 は 熱 処 理 有 無 の サ ン
46
プ ル を FT-IR に よ り 分 析 し 、 表 面 シ ラ ノ ー ル 基 に 帰 属 さ れ る 960cm - 1 付 近 の
ピ ー ク 強 度 か ら 表 面 シ ラ ノ ー ル 基 の 違 い を 判 断 し た 。Table3-3に TLCPと 熱
処 理 に よ り 表 面 シ ラ ノ ー ル 基 量 が 減 少 し た 50nm の シ リ カ 微 粒 子 コ ン ポ ジ
ッ ト の DSC測 定 の 解 析 結 果 を 一 覧 に ま と め た 。 熱 処 理 を 行 っ た シ リ カ 微 粒
子コンポジットは液晶転移の吸熱量が熱処理を行ったものよりも高い値
を 示 し た 。Tgの 比 熱 変 化 量 は 熱 処 理 を 行 っ た シ リ カ 微 粒 子 コ ン ポ ジ ッ ト の
方 が ど の シ リ カ 微 粒 子 濃 度 で も 低 い 値 を 示 し た 。液 晶 転 移 熱 量 と 比 熱 変 化
熱 量 の 結 果 か ら 、熱 処 理 を し た シ リ カ 微 粒 子 コ ン ポ ジ ッ ト の 方 が 結 晶 化 度
は 低 く 、非 晶 部 が 多 く 形 成 さ れ て い る こ と が 示 唆 さ れ 、シ リ カ 微 粒 子 の 表
面の影響を受けて変化が生じている可能性が高いと思われる。
Table 3-3 DSC quantitative analysis of TLCP and composite of un-dried and dried silica.
Sample
LC
∆H
Heat
Particles
Particles
treatment
content
content
for silica
[wt%]
[vol%]
[oC]
-
0
0
Tg
∆Cp (Tg)
[J/g]
[oC]
[J/g・K]
278.7
2.8
92.9
0.039
Tm
(Tm)
LC+SNP[51]10
※
No
9.8
6.5
278.3
1.4
92.2
0.061
LC+SNP[51]30
※
No
30
22
278.4
0.28
92.3
0.082
LC+SNP[51]50
※
No
50
39
-
-
91.4
0.14
LC+SNP[51]10_D
Yes
9.8
6.5
278.1
2.0
92.1
0.043
LC+SNP[51]30_D
Yes
29.9
21
277.9
0.35
92.2
0.065
LC+SNP[51]50_D
Yes
50
39
277.5
0.092
92.0
0.11
※
第 2章 に て 報 告 し た デ ー タ を 転 記 し た 。
そ こ で 、IR測 定 に よ り 界 面 の 分 子 運 動 性 の 確 認 を 行 っ た 。Fig.3-12 (a), (b)
に カ ル ボ ニ ル 基 の C=O の 伸 縮 振 動 に 由 来 す る ピ ー ク 1744 cm - 1 付 近 の IR チ
ャ ー ト を 示 す 。 シ リ カ 微 粒 子 の 熱 処 理 を し て い な い LC+SNP[51] コ ン ポ ジ
ッ ト で は シ リ カ 微 粒 子 の 濃 度 が 高 く な る に つ れ て 新 た に 1733 cm - 1 に ピ ー
ク が 出 現 し 、そ の ピ ー ク 強 度 が シ リ カ 微 粒 子 の 濃 度 と 共 に 強 く な る 傾 向 が
47
確 認 さ れ た が 、 濃 度 30wt%(LC+SNP[51]30)と 50wt%(LC+SNP[51]50)で は 差
が 確 認 で き な か っ た 。 DSC の 結 果 を 踏 ま え る と 、 LC+SNP[51]30 と
LC+SNP[51]50 で は Tg に お け る 比 熱 変 化 量 が 増 大 し て い る こ と か ら 、 ア モ
ル フ ァ ス 領 域 は 増 加 し て い る 。そ れ に も 拘 ら ず シ リ カ 表 面 で 束 縛 を 受 け て
いるカルボニル基が変わらないのは実質的なシリカ微粒子の総表面積が
変 わ ら な い こ と を 意 味 し て お り 、シ リ カ 微 粒 子 が 凝 集 し て 存 在 し て い る と
考 え ら れ る 。 LC+SNP[51]30 と LC+SNP[51]50 で は シ リ カ 微 粒 子 数 は
LC+SNP[51]50 の 方 が 多 く 、 結 果 と し て シ リ カ 微 粒 子 界 面 の 影 響 を 受 け て
い る TLCP相 が 多 く 、ア モ ル フ ァ ス 領 域 を 反 映 し た DSCの Tg比 熱 変 化 量 が 増
加したと考えられる。
一 方 で 熱 処 理 を し た シ リ カ 微 粒 子 と の コ ン ポ ジ ッ ト で も 1733 cm - 1 に ピ
ー ク が 出 現 し 、シ リ カ 微 粒 子 の 濃 度 と 共 に ピ ー ク 強 度 は 強 く な る が 、未 処
理 品 ほ ど 顕 著 な ピ ー ク 強 度 の 増 加 が 確 認 で き な か っ た 。こ れ は 熱 処 理 を す
る こ と で 表 面 の シ ラ ノ ー ル 基 が 減 少 し 、TLCPの カ ル ボ ニ ル 基 を 拘 束 す る の
に 十 分 な シ ラ ノ ー ル 基 が シ リ カ 微 粒 子 表 面 に 存 在 し な い た め に 、ピ ー ク 強
度 が 増 加 し な か っ た と 考 え ら れ る 。た だ し 、シ リ カ 微 粒 子 を 熱 処 理 す る こ
と で TLCP中 の 分 散 性 が 変 化 し 、凝 集 し た シ リ カ 微 粒 子 が 増 加 し た た め 、結
果 と し て ピ ー ク 強 度 の 変 化 が 小 さ く な っ た こ と は 否 定 で き な い 。一 方 で シ
リ カ 微 粒 子 の 凝 集 が 起 こ り に く い 濃 度 10wt%の 領 域 に お い て 、 シ リ カ 微 粒
子 の 熱 処 理 の 有 無 に よ り 、液 晶 転 移 の 吸 熱 量 、比 熱 変 化 量 に 差 が 生 じ て い
る こ と か ら 、シ リ カ 微 粒 子 の 界 面 で 拘 束 さ れ て い る TLCP分 子 鎖 の コ ン フ ォ
メ ー シ ョ ン が 異 な り 、表 面 シ ラ ノ ー ル 基 の 濃 度 が 高 い 方 が TLCPを よ り 強 固
に 束 縛 し 、界 面 の 影 響 が 分 子 配 向 、双 極 子 相 互 作 用 を 通 じ て 広 い 空 間 領 域
に影響を及ぼした結果と考えられる。
48
LC
LC+SNP[51]10
LC+SNP[51]30
LC+SNP[51]50
Absorbance [a.u.]
(a)
1780 1770 1760 1750 1740 1730 1720 1710 1700
Wavenumber [cm-1]
LC
LC+SNP[A]10_D
LC+SNP[51]30_D
LC+SNP[51]50_D
Absorbance [a.u.]
(b)
1780 1770 1760 1750 1740 1730 1720 1710 1700
Wavenumber [cm-1]
Fig. 3-12 FT-IR spectra of carbonyl region from 1700 to 1780 cm-1 for a series
of TLCP and nano-silica composite; (a) LC+SNP[51] without heat treatment,
(b) LC+SNP[51] with heat treatment.
49
3-3-3 TLCPの 分 子 量 が 与 え る 影 響
シ リ カ 微 粒 子 表 面 と TLCP分 子 鎖 中 の カ ル ボ ニ ル 基 の 影 響 に よ り 、シ リ カ
表 面 で の TLCPの 結 晶 化 が 阻 害 さ れ 、界 面 の 影 響 が 分 子 配 向 、双 極 子 相 互 作
用 を 通 じ て TLCP に 広 く 、 そ の 影 響 が 伝 わ っ て い る 可 能 性 が DSC 、 XRD 、
FT-IR の 評 価 か ら 明 ら か に な っ た 。 特 に シ リ カ 微 粒 子 の サ イ ズ の 影 響 を 大
き く 受 け 、 50nm-480nm粒 径 範 囲 の シ リ カ 微 粒 子 と TLCP の コ ン ポ ジ ッ ト に
おいて、より小さいフィラーの方が顕著に結晶化度の低下が確認された。
小 さ い フ ィ ラ ー の 方 が よ り 低 下 率 が 高 い 原 因 と し て 、シ リ カ 微 粒 子 の 表 面
積 が 増 大 す る こ と が 一 つ の 原 因 と 考 え ら れ た 。 さ ら に 、 今 回 用 い た TLCP
の 分 子 量 は 重 量 平 均 分 子 量 が 約 30000 で あ り 、 分 子 鎖 長 を 計 算 す る と 約
150nmと な る 。シ リ カ 微 粒 子 の 平 均 粒 径 は 50nmで あ り 曲 率 が 大 き い 。TLCP
分 子 鎖 長 の 方 が 大 き く 、TLCPが 効 率 的 に シ リ カ 微 粒 子 を 覆 え な い 。結 果 と
し て シ リ カ 微 粒 子 界 面 に 存 在 す る TLCPが 影 響 を 受 け て 、結 晶 化 が 阻 害 さ れ
て い る 現 象 が 確 認 さ れ た 。添 加 す る フ ィ ラ ー の サ イ ズ が TLCP分 子 鎖 長 に 対
し て 十 分 に 大 き け れ ば 、フ ィ ラ ー 表 面 に 規 則 的 に 配 列 す る こ と が 可 能 で あ
り 、十 分 に 配 向 が 維 持 さ れ た 構 造 が 形 成 さ れ る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。そ こ
で 、今 回 は TLCPの 分 子 鎖 長 を 変 化 さ せ た 時 の TLCP-フ ィ ラ ー 界 面 の 熱 挙 動
の 変 化 を 調 査 し た 。 Table3-4に 分 子 量 の 異 な る 2種 類 の TLCPと 50nm サ イ ズ
の シ リ カ 微 粒 子 の コ ン ポ ジ ッ ト の DSC測 定 の 解 析 結 果 を 一 覧 に ま と め た 。
50
Table 3-4 DSC quantitative analyses of TLCP and composite
Sample
LC
※
Particles
Particles
content
content
[wt%]
Tm
∆H (Tm)
Tg
∆Cp (Tg)
[vol%]
[oC]
[J/g]
[oC]
[J/g・K]
0
0
278.7
2.8
92.9
0.039
LC+SNP[51]10
※
9.8
6.5
278.3
1.4
92.2
0.061
LC+SNP[51]30
※
30
22
278.4
0.28
92.3
0.082
LC+SNP[51]50
※
50
39
-
-
91.4
0.14
LC(L)
0
0
276.2
2.7
91.3
0.037
LC(L)+SNP[51]10
9.9
6.6
276.0
2.1
90.9
0.043
LC(L)+SNP[51]30
30
21
276.0
0.78
90.6
0.074
LC(L)+SNP[51]50
50
39
275.9
0.39
90.0
0.10
※
第 2章 に て 報 告 し た デ ー タ を 転 記 し た 。
LCは 重 量 平 均 分 子 量 29500に 対 し て 、LC(L)は 重 量 平 均 分 子 量 21000で あ
る 。 DSC測 定 に お い て 液 晶 転 移 温 度 は 約 2.5℃ LC(L)の 方 が 低 い 値 を 示 し 、
ガ ラ ス 転 移 温 度 も 約 1.5℃ 低 い 値 を 示 し た 。液 晶 転 移 の 吸 熱 量 、ガ ラ ス 転 移
温度における比熱変化量は大きな違いは確認されなかった。一方、
LC+SNP[51]、 LC(L)+SNP[51]の コ ン ポ ジ ッ ト に お い て は 、 共 に SNP[51]濃
度 が 高 く に な る に つ れ て 、液 晶 転 移 の 吸 熱 量 は 低 下 傾 向 を 示 し た 。特 に LC
と の 組 み 合 わ せ の 方 が 低 下 傾 向 は 大 き く 、 LC(L)と の 組 み 合 わ せ で は 、 濃
度 50wt%(LC(L)+SNP[51]50) に お い て も 液 晶 転 移 の 吸 熱 ピ ー ク が 確 認 さ れ
た 。ま た 、Tg変 化 に お い て も 、LC(L)と の 組 み 合 わ せ の 方 が Tgは 約 1.5℃ 低
い 値 を 示 し 、 比 熱 変 化 量 は 小 さ い 値 を 示 し た 。 低 分 子 量 の LC(L)の 方 が 末
端 数 は 多 く 、一 般 的 な 高 分 子 同 様 に ガ ラ ス 転 移 温 度 が 低 く な っ た と 考 え ら
れ る 。 一 方 で 、 比 熱 変 化 量 は LC(L)の 方 が シ リ カ 微 粒 子 近 傍 で の 結 晶 化 が
LCに 比 べ て 進 ん だ た め 、変 化 量 と し て は 小 さ く な っ た と 考 え ら れ る 。前 項
で も 議 論 し た よ う に 、 SNP[51]の 高 濃 度 領 域 で は 均 一 に 分 散 さ れ て い な い
可 能 性 が 高 い も の の 、今 回 の 比 較 に お い て 、マ ト リ ッ ク ス の 液 晶 性 ポ リ エ
ステルの分子量によって大きくその分散性に差がないと推定されること、
51
さ ら に 低 濃 度 の 10wt%に お い て 、 顕 著 に 液 晶 転 移 の 吸 熱 量 に 違 い が 見 ら れ
る こ と か ら 、シ リ カ 微 粒 子 表 面 で の 結 晶 化 が 阻 害 さ れ る 要 因 に 、TLCPの 分
子量とシリカ微粒子のサイズの組み合わせが関係している可能性が高い
と思われる。
DSC の 結 果 か ら シ リ カ サ イ ズ と TLCP の 分 子 量 組 み 合 わ せ に よ っ て 、シ
リ カ 微 粒 子 の 界 面 に お け る 結 晶 形 成 が 異 な る 事 が 示 唆 さ れ た 。そ こ で 結 晶
相 の 減 少 を XRD 測 定 に て 確 認 し た 。Fig.3-13 に LC(L)バ ル ク 試 料 と SNP[51]
を 10,30,50wt%混 合 し た 試 料 の 回 折 チ ャ ー ト を 示 す 。
LC(L)
Intensity/ a.u
LC(L)+SNP[51]10
LC(L)+SNP[51]30
LC(L)+SNP[51]50
10
15
20
25
30
Scattering angle, 2θ[°]
Fig. 3-13 Scattering patterns of TLCP and
composite of Silica in wide-angle region.
得 ら れ た X 線 回 折 チ ャ ー ト は (110)面 に 由 来 す る 2θ =19.5°に 強 烈 な ピ
ー ク を 示 し た 。一 方 で 、(211)面 に 由 来 す る 2θ =27.2°に 関 し て は 、バ ル ク
試 料 で は は っ き り 観 察 さ れ た も の の 、シ リ カ 微 粒 子 50wt%の コ ン ポ ジ ッ ト
(LC(L)+SNP[51]50) に お い て は 、 サ イ ズ が 小 さ く な る の に 従 っ て 、 ピ ー ク
52
が 確 認 で き な く な っ た 。 た だ し 、 LC の 系 と は 異 な り 、 SNP[51]を 添 加 し て
も ピ ー ク 強 度 の 減 少 は 緩 や か な 傾 向 を 示 し た ( 第 2 章 Fig.2-4(a) 参 照 ) 。
(110) 面 に 由 来 す る 2 θ =19.5 ° に ピ ー ク 位 置 か ら 層 間 距 離 を ブ ラ ッ グ の 式
に よ り 算 出 し 、ま た 結 晶 化 度 を ピ ー ク 強 度 か ら 計 算 し た 。Table 3-5 に 評 価
結果の一覧を示す。
Table 3-5 Anal ysis summary of XRD
Sample
LC
※
Particles
Particles
content
content
[wt%]
Peak 2θ
Interlayer distance
χ
[vol%]
[°]
[nm]
[%]
0
0
19.9
0.446
26
LC+SNP[51]10
※
9.8
6.5
19.8
0.448
21
LC+SNP[51]30
※
30
22
19.7
0.450
10
LC+SNP[51]50
※
50
39
19.6
0.453
3.5
LC(L)
0
0
19.9
0.446
28
LC(L)+SNP[51]10
9.9
6.6
19.9
0.446
23
LC(L)+SNP[51]30
30
21
19.8
0.450
13
LC(L)+SNP[51]50
50
39
19.8
0.450
9
LC(L) の 結 晶 化 度 は LCと 比 較 し て 2 ポ イ ン ト 高 い 値 を 示 し た 。 コ ン ポ ジ
ッ ト の 結 晶 化 度 は シ リ カ 微 粒 子 の 濃 度 が 増 加 す る に し た が っ て 、減 少 傾 向
で は あ る も の の 、 LC(L) 系 で は 減 少 は 緩 や か で あ り 、 LC(L)+SNP[51]50 に
お い て も 9%の 結 晶 化 度 を 示 し た 。 LC系 で は (110)面 に 由 来 す る 2 θ =19.5 °
にピークが低角側にシフトし、層間隔が広くなる現象が確認されたが、
LC(L)系 で は 確 認 さ れ な か っ た 。 シ リ カ 微 粒 子 の 添 加 に よ り 結 晶 化 度 の 低
下 と 共 に 、 規 則 的 な 配 向 相 (結 晶 相 若 し く は 液 晶 相 )の パ ッ キ ン グ が ル ー ズ
に な っ て い る こ と が 示 唆 さ れ る が 、分 子 量 と シ リ カ 微 粒 子 の サ イ ズ の 組 み
合わせがそれらに影響していると思われる。
53
3-3-4 種 々 の シ リ カ 微 粒 子 に お け る 界 面 相 の 厚 み に 関 す る 考 察
TLCPと シ リ カ 微 粒 子 コ ン ポ ジ ッ ト に お け る 、熱 的 性 質 、構 造 解 析 、分 子
状 態 の 検 討 結 果 か ら 、 TLCP/シ リ カ 微 粒 子 混 合 系 で は 液 晶 転 移 や Tgに 変 化
が 現 れ る こ と が 示 さ れ た 。大 き さ が 異 な る ナ ノ シ リ カ と 液 晶 性 ポ リ エ ス テ
ル の コ ン ポ ジ ッ ト に お い て 、ナ ノ シ リ カ 粒 子 が 小 さ い 方 が 液 晶 転 移 に 基 づ
く 吸 熱 ピ ー ク が 小 さ く な り 、 粒 子 径 100nm 以 下 の 粒 子 を 50wt%添 加 す る こ
と で 、全 く 吸 熱 ピ ー ク が 観 察 さ れ な く な っ た 。こ れ は 粒 子 径 が 小 さ い ほ ど
表 面 積 が 大 き く な り 、界 面 に て 液 晶 ポ リ エ ス テ ル 分 子 鎖 が 拘 束 さ れ て い る
結 果 と 考 え ら れ る ( 2 5 ) 。 Fig.3-14 に 計 算 上 の フ ィ ラ ー の 総 表 面 積 量 と 液 晶 転
移 に お け る 吸 熱 量 を プ ロ ッ ト し た 。表 面 積 の 増 加 に 伴 っ て 、吸 熱 量 は 低 下
傾 向 を 示 し た 。 SNP[245], SNP[485]及 び SNP[100]の 10wt%に お い て は 表 面
積 と 吸 熱 量 に 相 関 関 係 が 確 認 さ れ る が 、 SNP[51]、 SNP[100]30wt%, 50wt%
で は こ れ ら の 相 関 か ら 外 れ る 。こ れ は 、SNP[51], SNP[100]は 粒 子 が 小 さ く 、
十 分 に 分 散 し き れ て い な い た め と 考 え ら れ 、 コ ン ポ ジ ッ ト 中 の SNP[51]及
び SNP[100]30, SNP[100]50に お い て は 実 質 的 な 表 面 積 は も っ と 小 さ い と 考
えられる。
54
3.0
LC
SNP[51]
SNP[100]
SNP[245]
SNP[485]
⊿ H (Tm)[J/g]
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0.E+00
1.E+07
2.E+07
3.E+07
Total surface area [cm2]
Fig.3-14 Variation of heat of fusion detected for the composites at 280°C
with the total filler surface area in a series of different size of silica particle.
Table 3-6 に 今 回 調 製 し た シ リ カ 微 粒 子 と TLCP コ ン ポ ジ ッ ト の シ リ カ 微
粒 子 表 面 か ら 影 響 を 受 け て い る 空 間 領 域 の 厚 み を 計 算 し た 。計 算 に あ た っ
て 、シ リ カ 微 粒 子 を 真 球 形 状 で あ る と し 、ま た 界 面 相 も シ リ カ 微 粒 子 と 同
様 に 真 球 状 に 広 が っ て い る と 仮 定 し た 。TLCP、シ リ カ 微 粒 子 の 比 重 は そ れ
ぞ れ 、 1.4g/cm 3 、 2.2g/cm 3 と し て 計 算 し た 。 上 記 考 察 か ら 、 LC+SNP[51]の
全 て の コ ン ポ ジ ッ ト 、お よ び LC+SNP[100]30 、LC+SNP[50]に お い て は シ リ
カ 微 粒 子 が 凝 集 し て い る と 考 え ら れ る た め 、実 質 的 に シ リ カ 微 粒 子 表 面 か
ら 影 響 を 受 け て い る TLCP相 の 厚 み は LC+SNP[100]10、LC+SNP[245]50の 値
か ら 82.2~ 96.6nmと 考 え ら れ る 。
55
Table 3-6 Thickness of interface layer in a series of different size of silica particle.
Particles content
Particles content
Thickness of interface layer
[wt%]
[vol%]
[nm]
LC
0
0
-
LC+SNP[51]10
9.8
6.5
51.5
LC+SNP[51]30
30
22
32.0
LC+SNP[51]50
50
39
19.3
LC+SNP[100]10
9.9
6.6
96.6
LC+SNP[100]30
29.9
21
61.0
LC+SNP[100]50
50.1
39
37.8
LC+SNP[245]10
10
6.7
158
LC+SNP[245]30
30
21
122
LC+SNP[245]50
50
39
82.2
LC+SNP[485]10
9.8
6.5
-
LC+SNP[485]30
30
21
196
LC+SNP[485]50
50
39
132
LC+SNP[51]10_D
9.8
6.5
36.8
LC+SNP[51]30_D
29.9
21
31.5
LC+SNP[51]50_D
50
39
18.5
LC(L)
0
0
-
LC(L)+SNP[51]10
9.9
6.6
33.5
LC(L)+SNP[51]30
30
21
27.5
LC(L)+SNP[51]50
50
39
16.8
Sample
次 に シ リ カ 微 粒 子 の 熱 処 理 の 影 響 、TLCP分 子 量 の 影 響 に つ い て 確 認 す る 。
高 濃 度 に お い て は 凝 集 の 影 響 が 大 き い た め 、 LC+SNP[51]10 、
LC+SNP[51]10_D 、 LC(L)+SNP[51]10で 比 較 す る 。通 常 の TLCPと 50nmの シ
リ カ 微 粒 子 10wt%の 組 み 合 わ せ に お い て 、TLCP界 面 相 の 厚 み は 約 51.5nmと
見 積 も ら れ て い る 。 一 方 、 800 ℃ の 熱 処 理 に て 表 面 シ ラ ノ ー ル 基 が 減 少 し
た シ リ カ 微 粒 子 に お い て は 、TLCP界 面 相 の 厚 み は 約 36.8nmと 約 30%も 厚 み
が 減 少 し た 。 こ れ は TLCPと シ リ カ 微 粒 子 と の 相 互 作 用 が 弱 ま っ た た め に 、
シリカ微粒子表面から影響を受けている空間領域の厚みが減少したと推
測 さ れ る 。ま た 、低 分 子 量 TLCP:LC(L)と 50nmの シ リ カ 微 粒 子 の 組 み 合 わ
せ に お い て も 、 TLCP 界 面 相 の 厚 み は 約 33.5nm と 約 35% 減 少 し た 。 LC と
56
LC(L)で は 分 子 鎖 長 が 異 な り 、 シ リ カ 微 粒 子 の 曲 率 と の バ ラ ン ス で 、 シ リ
カ 表 面 に 配 向 構 造 を 形 成 し や す い か ど う か が 影 響 し て い る と 思 わ れ る 。イ
メ ー ジ 図 を Fig.3-15に 示 す 。
Fig.3-15 Schematic image of TCLP at the interface with silica particle.
57
3-4. 結 論
TLCP と フ ィ ラ ー サ イ ズ に よ る 界 面 構 造 と の 関 係 を よ り 詳 細 に 明 ら か に
す る こ と を 目 的 と し て 、TLCPに 添 加 す る 真 球 状 の シ リ カ の サ イ ズ を 系 統 的
に 変 化 さ せ る こ と 、 お よ び TLCP鎖 長 を 変 え る こ と で TLCP鎖 長 と 真 球 状 フ
ィ ラ ー サ イ ズ と の 関 連 性 を 示 差 走 査 熱 量 測 定 (DSC)、偏 光 顕 微 鏡 観 察 、X 線
回 折 測 定 (XRD) 、 赤 外 線 分 光 分 析 (IR)を 行 い シ リ カ 界 面 で の 熱 挙 動 の 変 化
を調査した。
フ ィ ラ ー サ イ ズ の 影 響 は サ イ ズ が 小 さ く な る に し た が っ て 、熱 的 性 質 は
液 晶 転 移 に よ る 吸 熱・発 熱 が 確 認 さ れ な く な り 、非 晶 相 と 思 わ れ る 比 熱 変
化 量 が 増 加 す る 傾 向 が 確 認 さ れ た 。XRD測 定 か ら 添 加 量 が 増 加 す る に し た
が っ て 、 規 則 的 な 配 向 相 (結 晶 相 若 し く は 液 晶 相 )が 減 少 し て い る こ と が 示
さ れ 、 結 晶 化 度 変 化 も シ リ カ の サ イ ズ に 連 動 し た 結 果 と な っ た 。 IRの 結 果
か ら TLCP の カ ル ボ ニ ル 基 に 由 来 す る ピ ー ク シ フ ト が シ リ カ 界 面 と の 相 互
作 用 に よ り 束 縛 を 受 け て い る 現 象 が 確 認 さ れ 、粒 子 径 が 小 さ く な る そ の ピ
ー ク シ フ ト が 顕 著 に な る こ と が 示 唆 さ れ た 。さ ら に 分 子 量 の 異 な る 液 晶 性
ポ リ エ ス テ ル と の コ ン ポ ジ ッ ト に よ っ て 、液 晶 転 移 に よ る 吸 熱・発 熱 量 が
異 な り 、分 子 量 の 小 さ い 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル の 方 が 結 晶 は 促 進 さ れ る 結 果
が 示 さ れ 、分 子 量 と シ リ カ サ イ ズ と の 組 み 合 わ せ に よ り 、こ れ ら の 結 晶 化
阻害の影響が異なる結果が示された。
一 方 、表 面 シ ラ ノ ー ル 基 量 を 変 化 さ せ た シ リ カ 微 粒 子 と の 組 み 合 わ せ に
置 い て も 、液 晶 転 移 に よ る 吸 熱・発 熱 量 の 違 い が 確 認 さ れ 、表 面 シ ラ ノ ー
ル 基 量 が 多 い 方 が シ リ カ 微 粒 子 濃 度 に よ る 吸 熱・発 熱 ピ ー ク の 低 下 傾 向 が
大 き い こ と が 確 認 さ れ た 。 IR分 析 か ら は 、 液 晶 ポ リ エ ス テ ル 分 子 の カ ル ボ
ニル基の運動性を示すピークシフト量が表面シラノール基量よって異な
る 現 象 を 示 し て い る こ と か ら 、表 面 シ ラ ノ ー ル 基 と 液 晶 ポ リ エ ス テ ル 分 子
の カ ル ボ ニ ル 基 の 相 互 作 用 に よ り 、液 晶 ポ リ エ ス テ ル が シ リ カ 微 粒 子 表 面
58
で拘束され、結晶化が阻害された可能性が高いと考えられる。
59
3-5 参 考 文 献
(1) 小 出 直 之 , 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル の 開 発 ,シ ー エ ム シ ー (1987)
(2) L.C. Sawyer, H.C. Linstid, M. Romer, M. Plast. Eng.(N.Y.) 54, 37 (1998)
(3) T.S. Chung, Poly. Eng. And Science, 26,13,901 (1986)
(4) G.H.Huand, M. Lambla, J. Pol ym. Sci. Part A: Pol ym. Chem., 33, 97 (1995)
(5) R.E.S. Bretas, D.G. Baird, Pol ymer, 33, 5233 (1992)
(6) W.C. Lee, T. DiBenedetto, Pol ymer, 34, 684 (1997)
(7) D.S. Park and S. H. Kim, J. Appl. Polym. Sci., 87, 1842 (2003)
(8) J. Y. Kim, S.H. Kim, J. Pol ym. Sci. Part B: Pol ym. Ph ys, 43, 3600 (2005)
(9) K.Asai, Plastics, 35, 10 (1984)
(10) W.J. Jackson Jr. and Kuhfuss (to Eastman Kodak Co.) U.S. pat. 3,778,410
(1973)
(11) W.J. Jackson J r. and Kuhfuss, j. Pol ym. Chem., Pol ym. Chem. Ed., 14,
2043(1973)
(12) D. Acierno, F.P. La Mantia, G. Polizzolti, A. Ciferri and B. Valenti,
Macromolecules, 15,1455 (1982)
(13) H. Voss, K. Friedrich, J. Mater. Sci. 21, 2889 (1986)
(14) R. A. Chivers, D. R. Moore, Pol ymer 32, 2190 (1991)
(15) C. J. G. Plummer, B. Zülle, A. Demarmels, H-H. Kausch , J. Appl. Pol ym.
Sci. 48, 751 (1993)
(16) S. Bhama, S. I. Stupp, Pol ym. Eng. Sci. 30, 228 (1990)
(17) W. G. Lee, T. C. J. Hsu, A. C. Su, Macromolecules 27, 6551 (1994)
(18) S. K. Park, S. H. Kim, J.T. Hwang, Pol ym. Compos., 30, 319 (2009)
(19) R. Scaffaro, U. Pedretti, F. P. La mantia, Eur. Pol ym. J., 32, 869 (1996)
(20) T.S. Chung, P. E. MacMahon, J. Appl. Pol ym. Sci., 31, 965 (1986)
(21) L. T. Creagh, A. R. Kmetz, Mol. Cryst. Liquid. Cryst., 24, 59 (1973)
(22) G. W. Calundann (to CelaneseCo.), U.S. Pat. 4,161,470 (1979)
(23) L. C. Klein, Sol-Gel Optics: Processing and Applications, Springer Science
60
& Business Media (1994)
(24) R. Tannenbaum, C.Hakanson, A. Zeno, M. Tirrell, Langmuir, 18, 5592
(2002)
(25) G.W. Gray ”Molecular Structure and the Properties of Liquid Crystals”,
Academic Press, New York (1962)
61
第 4 章
サーモトロピック液晶性ポリエステルおよびシリカ微
粒子コンポジットの固体粘弾性
4-1 緒 言
サ ー モ ト ロ ピ ッ ク 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル (TLCP) は 主 鎖 に 剛 直 な 成 分 を 有
し 、そ の 分 子 構 造 に 由 来 し て 溶 融 状 態 で ネ マ チ ッ ク 液 晶 性 を 示 す 。分 子 鎖
が 棒 状 で 絡 ま り に く く 、高 せ ん 断 下 で 高 い 流 動 性 を 示 す た め に 、特 に 射 出
成 型 な ど の 高 せ ん 断 領 域 で 使 用 さ れ る 分 野 に お い て 、高 い 加 工 性 が 好 ま れ
てい る 。また 、力 学特 性 や熱 的 安定 性 、耐 薬 品性 に 優 れる こ とか ら 、ス ー
パーエンジニアリングプラスチック材料として、高性能が要求される電
機・電 子 、自 動 車 、航 空 宇 宙 産 業 、医 療 の 分 野 へ の 展 開 が 進 ん で い る ( 1 ) - ( 8 ) 。
TLCP は 成 果 加 工 時 に せ ん 断 を 加 え た 際 に 表 層 で は せ ん 断 方 向 に 容 易 に 分
子 鎖 が 配 向 す る 。一 方 、せ ん 断 力 に 乏 し い 内 層 は 表 層 と 比 較 し て 分 子 鎖 の
配 向 が 低 い 。 こ の Skin-Core構 造 の モ デ ル を Fig.4-1に 示 す ( 9 ) 。
Fig. 4-1 Model of Skin-Core layer structure for TLCP (9).
62
TLCPの 射 出 成 形 体 、押 出 し 成 形 体 の 分 子 配 向 、製 造 条 件 依 存 性 に よ る 粘
弾 性 特 性 、 熱 物 性 な ど の 研 究 報 告 が 多 く な さ れ て い る (10)-(14)。
成 形 品 の 層 構 造 に お け る 、表 層 と 内 層 で の 力 学 物 性 そ の も の は 大 き く 異
なり、両層間で歪みが発生しやすい。このため、薄肉の成形体であれば、
構 造 上 ほ と ん ど が 表 層 の ス キ ン 層 で 構 成 さ れ 、両 層 間 の 歪 み 差 が 顕 著 に 物
性 に 影 響 す る 可 能 性 は 低 い 。一 方 で 、厚 肉 の 成 形 体 で は コ ア 層 の 影 響 を 無
視 で き ず 歪 み 差 に よ り 強 度 低 下 が 露 見 す る 。ま た 、瞬 間 的 な 荷 重 が 加 わ る
衝 撃 強 度 に お い て も 、一 般 的 に TLCPは 低 く 、層 構 造 の 不 均 一 性 が 影 響 し て
いるとされている。
こ れ に 対 し 、過 去 に 様 々 な フ ィ ラ ー を 添 加 す る こ と に よ り 、異 方 性 を 低
減 さ せ Skin-Core層 間 の 歪 み 低 減 さ せ る 試 み が な さ れ て い る 。代 表 的 な フ ィ
ラー と して 、ガ ラ スフ ァ イバ ー 、カ ーボ ン ファ イ バー 、シリ カ 粒子 な ど の
無 機 フ ィ ラ ー が 検 討 さ れ て お り 、配 向 構 造 解 析 と 動 的 粘 弾 性 等 に つ い て 報
告 さ れ て い る (15)-(18)。
特 に 近 年 で は ナ ノ サ イ ズ の フ ィ ラ ー と の 複 合 に 関 す る 研 究 と し て 、ナ ノ
ク レ イ 、カ ー ボ ン ナ ノ チ ュ ー ブ と の 複 合 に よ る 高 機 能 化 と 構 造 解 析 、レ オ
ロ ジ ー に 関 す る 報 告 が 多 く さ れ て い る 。 Tangら ( 1 9 ) は ナ ノ ク レ イ と TLCP と
の コ ン ポ ジ ッ ト に お い て 溶 融 粘 弾 性 挙 動 か ら 、サ イ ズ の 小 さ い ナ ノ ク レ イ
で は TLCPの 液 晶 性 が 低 下 し た と の 報 告 を し て い る 。
第 2、3章 で 報 告 し て き た よ う に 、直 径:50-100nmの シ リ カ 微 粒 子 と TLCP
と の コ ン ポ ジ ッ ト に お い て 、 シ リ カ 微 粒 子 界 面 と TLCPの 相 互 作 用 に よ り 、
シ リ カ 微 粒 子 界 面 で TLCPの 配 向 、 結 晶 化 が 阻 害 さ れ る 可 能 性 が 示 さ れ た 。
こ れ は 先 の Tangら が ナ ノ ク レ イ で 示 し た 現 象 と 似 て い る 。 さ ら に 、 シ リ カ
微 粒 子 径 と TLCP分 子 長 と の 組 み 合 わ せ で 、シ リ カ 微 粒 子 表 面 の 影 響 が 及 ぼ
さ れ る 空 間 領 域 の 大 き さ が 異 な る こ と が 示 さ れ 、シ リ カ 微 粒 子 界 面 か ら 約
数百Åの領域で金属界面の影響を受けている分子鎖が存在することが示
63
唆 さ れ た 。こ の 空 間 領 域 内 の TLCP分 子 鎖 は シ リ カ 微 粒 子 表 面 の 影 響 を 受 け
て 、結 晶 化 が で き ず 、規 則 的 な 配 列 が 阻 害 さ れ て い る た め 、TLCP分 子 鎖 の
異方性が低減されていると考えられる。
前 述 し た よ う に 、TLCPの 高 い 配 向 性 は 表 層 の ス キ ン 層 の 影 響 が 支 配 的 な
薄 肉 の 成 形 体 で は 高 強 度 性 の 利 点 が 生 か さ れ る が 、厚 肉 の 成 形 体 、若 し く
は衝撃強度が必要な成形体では表層と内層の異方性が低い材料の方が望
ま し く 、 TLCP/シ リ カ 微 粒 子 の コ ン ポ ジ ッ ト に お い て こ れ ら の 機 能 が 生 か
させる可能性がある。
そ こ で 本 研 究 で は TLCPと シ リ カ 微 粒 子 の コ ン ポ ジ ッ ト に お け る 、固 体 粘
弾 性 挙 動 を 調 査 す る こ と で 、シ リ カ 微 粒 子 表 面 に 形 成 さ れ た TLCPの 秩 序 性
が崩壊した相の物性への影響について把握することを目的とする。
4-2 実 験
4-2-1 試 料
本 研 究 で 用 い た 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル は p-ヒ ド ロ キ シ 安 息 香 酸 (HBA)と ク
ラ ン ク シ ャ フ ト ユ ニ ッ ト の 2- ヒ ド ロ キ シ -6- ナ フ ト エ 酸 (HNA) が 73:27 の 組
成 で 共 重 合 し た 全 芳 香 族 コ ポ リ エ ス テ ル で あ り 、ポ リ プ ラ ス チ ッ ク ス 株 式
会 社 よ り 提 供 さ れ た も の を 使 用 し た (重 量 平 均 分 子 量 : Mw 30000、 分 子 量
分 布 : 2.45、 比 重 : 1.4g/cm 3 )
(16),(17)
。このサンプルはランダム共重合体で
あ る こ と が 確 認 さ れ て い る (18)-(23)。 シ リ カ 微 粒 子 は 関 東 化 学 株 式 会 社 製 の
シ リ カ (平 均 粒 子 径 : 51 nm, 比 重 : 2.2 以 後 SNP[51]と 表 記 す る )、 株 式 会
社 ア ド マ テ ッ ク ス 製 シ リ カ (平 均 粒 子 径 : 100nm, 240 nm, 485nm, 比 重 : 2.2
以 後 各 SNP[100], SNP [245], SNP [485]と 表 記 す る )を 使 用 前 に 吸 着 水 を 除 去
す る た め に 300 ℃ で 1時 間 加 熱 処 理 を 施 し た 。
64
4-2-2 測 定 試 料 の 調 製 条 件
任 意 の 量 の シ リ カ と TLCP を 二 軸 ス ク リ ュ ー 混 練 機 ( 東 洋 精 機 製 プ ラ ス
ト ミ ル 4C150-01)で 樹 脂 温 度 : 300℃ 、 回 転 数 : 100rpmで 8分 間 混 練 し コ ン
ポ ジ ッ ト サ ン プ ル を 調 製 し た 。最 終 的 な 回 転 ト ル ク は こ の 条 件 下 で 一 定 に
な っ て い る こ と を 確 認 し た 。 試 料 中 の シ リ カ 含 有 量 は 熱 重 量 測 定 (TA
Instruments社 製 TGA Q-500)に て 、 想 定 し た 処 方 量 が 添 加 さ れ て い る こ と
を 確 認 し た 。 今 回 作 成 し た サ ン プ ル を Table 4-1に ま と め る 。
Table 4-1 Sample designations in this study.
Particles content
Particles content
[wt%]
[vol%]
TLCP
TLCP + SNP[51]10
TLCP + SNP[51]30
TLCP + SNP[51]50
TLCP + SNP[100]10
TLCP + SNP[100]30
0
9.8
30
50
9.9
29.9
0
6.5
22
39
6.6
21
TLCP + SNP[100]50
TLCP + SNP[245]10
TLCP + SNP[245]30
TLCP + SNP[245]50
TLCP + SNP[485]10
TLCP + SNP[485]30
TLCP + SNP[485]50
50.1
10
30
50
9.8
30
50
39
6.7
21
39
6.5
21
39
Sample
4-2-3 動 的 固 体 粘 弾 性 測 定 (DMA測 定 )
動 的 固 体 粘 弾 性 測 定 (DMA)に お い て 使 用 し た サ ン プ ル は 、 キ ャ ピ ラ リ ー
レ オ メ ー タ ( 東 洋 精 機 CAP ILLROGRAPH 1B) の シ リ ン ダ ー 内 で 炉 内 温 度
330 ℃ 、 8 分 間 滞 留 さ せ た 後 、 幅 5mm 、 長 さ 1mm 、 高 さ 10mm の ス リ ッ ト ダ
イ を 用 い て 、 押 出 し 速 度 100mm/secで 押 出 す こ と で 、 板 状 の 試 料 を 作 製 し
65
た 。サ ン プ ル は 調 製 加 工 後 、室 温 に て 徐 冷 し た 。測 定 機 器 は 固 体 粘 弾 性 ア
ナ ラ イ ザ ー RSA III (Rheometric Scientific社 )を 使 用 し た 。 測 定 は 引 張 モ ー
ド で 実 施 し 、周 波 数 Fr=1Hz、歪 み γ = 0.1%を 固 定 し 、温 度 範 囲 40~250℃
で行った。
4-3 結 果 と 考 察
4-3-1 シ リ カ 微 粒 子 の 濃 度 の 影 響
Fig. 4-2 (a),(b),(c) に 各 々 TLCP の バ ル ク 試 料 と SNP[51] 10wt%, 30wt%,
50wt%の シ リ カ 微 粒 子 を 混 合 し た 試 料 の DMA測 定 結 果 を 示 す 。 SNP[51]の
濃 度 が 高 く な る に つ れ て 、G’は 全 温 度 領 域 で 低 い 傾 向 を 示 し た 。特 に 150℃
以 上 に お い て 急 激 に 低 下 傾 向 を 示 し た 。 こ れ は 、 先 の DSC、 XRDの 検 討 か
ら 、ア モ ル フ ァ ス 領 域 が 拡 大 し て い る こ と が 示 唆 さ れ て お り 、こ の た め 剛
性 を 維 持 す る た め の 結 晶 部 が 低 減 し 、低 下 率 が 大 き く な っ た と 考 え ら れ る 。
G''は 120℃ 付 近 で 曲 線 が 交 差 す る が 、高 温 側 で SNP[51]の 濃 度 が 高 く な る ほ
ど 低 下 傾 向 が 大 き い 。 Tanδ の 曲 線 は LCで 100 ℃ 、 LC+SNP[51]10 で 95℃ 、
LC+SNP[51]30で 103℃ 、 LC+SNP[51]で 135℃ の ピ ー ク を 持 ち 、 こ れ は ガ ラ
ス 転 移 温 度 Tgと 考 え ら れ る 。ガ ラ ス 転 移 点 が 濃 度 に よ っ て 変 化 す る 理 由 と
し て 、シ リ カ 微 粒 子 表 面 に て TLCPア モ ル フ ァ ス 領 域 が 形 成 さ れ る た め 、分
子 運 動 性 が 高 ま り 、 ガ ラ ス 転 移 温 度 は 低 下 す る 。 こ の た め LC+SNP[51]10
で は 5℃ の ガ ラ ス 転 移 温 度 の 低 下 が 起 こ る 。 し か し そ の 後 シ リ カ 微 粒 子 の
濃 度 の 増 加 と 共 に 、シ リ カ 微 粒 子 が 凝 集 し た た め コ ン ポ ジ ッ ト と し て の ガ
ラス転移温度が上昇したと考えられる。
66
4-3-2 シ リ カ 微 粒 子 の 大 き さ の 影 響
Fig. 4-3 (a),(b),(c) に 各 々 TLCP の バ ル ク 試 料 と SNP[100] 10wt%, 30wt%,
50wt%の シ リ カ 微 粒 子 を 混 合 し た 試 料 の DMA測 定 結 果 を 示 す 。 SNP[51]の
時 と 同 様 に SNP[100]の 濃 度 が 高 く な る に つ れ て 、G’は 全 温 度 領 域 で 低 い 傾
向 を 示 し 、 特 に 150℃ 以 上 に お い て 急 激 に 低 下 傾 向 を 示 し た 。 G''は LCと 比
較 し て SNP[100] を 混 合 し た 系 で は 顕 著 に 濃 度 に よ る 違 い は 確 認 さ れ な か
っ た 。Tanδ の 曲 線 は LC 、 LC+SNP[51]10 、 LC+SNP[51]30で 100℃ に ガ ラ ス
転 移 点 が 確 認 さ れ る が 、 LC+SNP[51] の み 110 ℃ 付 近 に ピ ー ク が 現 れ た 。 高
濃 度 領 域 で ガ ラ ス 転 移 温 度 が 上 昇 す る 理 由 に つ い て は SNP[51]50 と 同 様 に
シ リ カ 微 粒 子 の 凝 集 の た め で あ る と 考 え ら れ る 。 Fig. 4-4 (a),(b),(c)に 各 々
TLCPの バ ル ク 試 料 と SNP[245] 10wt%, 30wt%, 50wt%の シ リ カ 微 粒 子 を 混
合 し た 試 料 、 Fig. 4-5 (a),(b),(c) に TLCP の バ ル ク 試 料 と SNP[485] 10wt%,
30wt%, 50wt% の シ リ カ 微 粒 子 を 混 合 し た 試 料 の DMA 測 定 結 果 を 示 す 。
SNP[51]、 SNP[100] の 系 と 比 較 す る と SNP[245]、 SNP[485] の 系 は 共 に 、 G'
の 低 下 傾 向 が シ リ カ 微 粒 子 の 濃 度 に よ っ て 大 き く 変 化 し な い 。 SNP[245]、
SNP[485]の 系 で は DSC、 XRDの 分 析 に よ っ て 、 非 常 に 限 ら れ た 空 間 領 域 が
シ リ カ 微 粒 子 表 面 の 影 響 を 受 け て い る と 考 察 さ れ 、全 体 の 体 積 か ら 計 算 す
る と そ の 領 域 は 微 小 で あ り 、材 料 物 性 に 影 響 を 与 え る ほ ど で は な か っ た と
考 え ら れ る 。 Tanδ 曲 線 で も 100℃ 付 近 に ガ ラ ス 転 移 温 度 が 現 れ て お り 、 特
に 分 子 運 動 性 の 違 い を 反 映 し て い な い こ と か ら 、 TLCP/ シ リ カ 微 粒 子 の コ
ン ポ ジ ッ ト に お い て 、 材 料 物 性 に 影 響 を 与 え る シ 微 粒 子 の 大 き さ は 100nm
以 下 に 存 在 す る と 思 わ れ る 。ま た 高 濃 度 添 加 で は シ リ カ 微 粒 子 の 凝 集 の 影
響 が 現 れ て し ま い 、物 性 上 の 向 上 が 期 待 で き な い 可 能 性 が 高 い と 考 え ら れ
る。
67
1.E+10
1.E+09
(b)
(a)
G''
G'
1.E+09
LC
1.E+08
LC
LC+SNP[51]10
LC+SNP[51]10
LC+SNP[51]30
LC+SNP[51]30
LC+SNP[51]50
LC+SNP[51]50
1.E+08
1.E+07
30
60
90 120 150 180 210 240 270
Temperature [ oC ]
30
60
90 120 150 180 210 240 270
Temperature [ oC ]
1.0E+00
tan δ
(c)
1.0E-01
LC
LC+SNP[51]10
LC+SNP[51]30
LC+SNP[51]50
1.0E-02
30
60
90 120 150 180 210 240 270
Temperature [ oC]
Fig. 4-2 Temperature dependence of (a) storage modulus (G’), (b) loss elastic modulus (G’’)
and (c) tan δ of the composites of TLCP and SNP[51].
68
1.E+10
1.E+09
G''
(b)
1.E+09
1.E+08
LC
LC+SNP[100]10
LC+SNP[100]30
LC+SNP[100]50
LC
LC+SNP[100]10
LC+SNP[100]30
LC+SNP[100]50
1.E+08
1.E+07
30
60
90 120 150 180 210 240 270
30
Temperature [ oC ]
60
90 120 150 180 210 240 270
Temperature [ oC ]
1.E+00
LC
LC+SNP[100]10
LC+SNP[100]30
LC+SNP[100]50
Tanδ
G'
(a)
(c)
1.E-01
1.E-02
30
60
90 120 150 180 210 240 270
Temperature [ oC ]
Fig. 4-3 Temperature dependence of (a) storage modulus (G’), (b) loss elastic modulus (G’’)
and (c) tan δ of the composites of TLCP and SNP[100].
69
1.E+10
1.E+09
(a)
G''
G'
(b)
1.E+09
1.E+08
LC
LC+SNP[245]10
LC+SNP[245]30
LC+SNP[245]50
LC
LC+SNP[245]10
LC+SNP[245]30
LC+SNP[245]50
1.E+08
1.E+07
30
60
90 120 150 180 210 240 270
30
Temperature [ oC ]
60
90 120 150 180 210 240 270
Temperature [ oC ]
1.E+00
Tanδ
(c)
1.E-01
LC
LC+SNP[245]10
LC+SNP[245]30
LC+SNP[245]50
1.E-02
30
60
90
120 150 180 210 240 270
Temperature [ oC ]
Fig. 4-4 Temperature dependence of (a) storage modulus (G’), (b) loss elastic modulus (G’’)
and (c) tan δ of the composites of TLCP and SNP[245].
70
1.E+09
1.E+10
(b)
G''
G'
(a)
1.E+09
1.E+08
LC
LC+SNP[485]10
LC+SNP[485]30
LC+SNP[485]50
LC
LC+SNP[485]10
LC+SNP[485]30
LC+SNP[485]50
1.E+07
1.E+08
30
30 60 90 120 150 180 210 240 270
Temperature [ oC ]
60
90 120 150 180 210 240 270
Temperature [ oC ]
1.E+00
tanδ
(c)
1.E-01
LC
LC+SNP[485]10
LC+SNP[485]30
LC+SNP[485]50
1.E-02
30
60
90 120 150 180 210 240 270
Temperature [ oC ]
Fig. 4-5 Temperature dependence of (a) storage modulus (G’), (b) loss elastic modulus (G’’)
and (c) tan δ of the composites of TLCP and SNP[485].
71
4-4. 結 論
TLCP/シ リ カ 微 粒 子 コ ン ポ ジ ッ ト に お い て 、シ リ カ 微 粒 子 界 面 と TLCPの
相 互 作 用 に よ り 、シ リ カ 微 粒 子 界 面 で TLCPの 配 向 、結 晶 化 が 阻 害 さ れ る 可
能 性 が 前 章 か ら 示 さ れ た 。配 向 秩 序 性 が 低 下 し た TLCP相 で は 規 則 的 な 配 列
が 阻 害 さ れ て い る た め 、TLCP分 子 鎖 の 異 方 性 が 低 減 さ れ 、異 方 性 に 基 づ く
物性の低下が抑えられる可能性がある。
平 均 粒 径 50nm の シ リ カ 微 粒 子 と の コ ン ポ ジ ッ ト (LC+SNP[51]10 、
LC+SNP[51]30 、 LC+SNP[51]50) に お い て は SNP[51] の 濃 度 増 加 と 共 に G’ は
全 温 度 領 域 で 低 下 傾 向 を 示 し た 。 一 方 、 Tanδ は LC+SNP[51]10で は Tgに 由
来 す る ピ ー ク 温 度 が バ ル ク 試 料 (LC) に 対 し て 5 ℃ 低 下 す る も の の 、 そ の 後
は 濃 度 増 加 と 共 に Tg 温 度 も 増 加 傾 向 を 示 し た 。 シ リ カ 微 粒 子 表 面 で は
TLCP 分 子 鎖 は ル ー ズ な パ ッ キ ン グ を し て お り 、 分 子 運 動 性 が 増 加 し て Tg
が 一 旦 は 低 下 す る も の の 、そ の 後 は 微 粒 子 濃 度 の 増 加 に よ り 、シ リ カ 微 粒
子 の 粒 子 間 相 互 作 用 と シ リ カ 微 粒 子 の 凝 集 が 影 響 し て 、Tg温 度 が 上 昇 し た
と考えられる。
シ リ カ 微 粒 子 の 大 き さ の 影 響 に つ い て は SNP[51] 、 SNP[100] の 系 で は 、
シ リ カ 微 粒 子 の 濃 度 が 10wt%で は Tg温 度 は バ ル ク 試 料 よ り も 低 下 す る 傾 向
が 確 認 さ れ 、さ ら に 濃 度 が 高 く に な る に つ れ て 、Tg温 度 は 上 昇 し た 。一 方 、
SNP[245] 、 SNP[485]の 系 で は シ リ カ 微 粒 子 の 濃 度 に 関 係 な く Tg温 度 は 一
定 で あ っ た 。粒 子 径 の 大 き い 系 で は TLCP分 子 鎖 が シ リ カ 微 粒 子 表 面 の 影 響
を 受 け る 体 積 が 全 体 に 対 し て 圧 倒 的 に 小 さ く 、材 料 物 性 に 影 響 を 与 え る ほ
ど で は な か っ た と 考 え ら れ る 。今 回 の 結 果 に 基 づ け ば 、TLCPの 異 方 性 を 低
減 す る た め に は 平 均 粒 径 : 100nm 以 下 の シ リ カ 微 粒 子 を 10wt%程 度 添 加 す
ることが、分散性も含めて良好な結果が得られると考えられる。
72
4-5 参 考 文 献
(1) L.C. Sawyer, H.C. Linstid, M. Romer, M. Plast. Eng.(N.Y.) 54, 37 (1998)
(2) 小 出 直 之 , 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル の 開 発 ,シ ー エ ム シ ー (1987)
(3) K.Asai, Plastics, 35, 10 (1984)
(4) W.J. Jackson Jr. and Kuhfuss (to Eastman Kodak Co.) U.S. pat. 3,778,410
(1973)
(5) W.J. Jackson J r. and Kuhfuss, j. Polym. Chem., Pol ym. Chem. Ed., 14,
2043(1973)
(6) T.Okada and J. Suenaga, Plastics, 37 No.3, 111 (1986)
(7) D. Acierno, F.P. La Mantia, G. Polizzolti, A. Ciferri and B. Valenti,
Macromolecules, 15,1455 (1982)
(8) T. S. Chung, Pol y. Eng. And Science, 26,13,901 (1986)
(9) T. Shiwaku, EKISHO, 8, 26 (2004)
(10) W. J. Jackson and H.F. Kuhfuss, J.Pol ym. Chem. Ed., 14, 2043 (1976)
(11) D. G. Baird, G. L. Wilkes, Pol ym. Eng. Sci., 23, 632 (1983)
(12) M. R. Kantz, H. D. Newman Jr., F. H. Stigale, J. Appl. Pol ym. Sci., 16,
1249 (1972)
(13) G. Menges, G. Wubken, SPE 31 s t ANTEC Tech. Pap. 19, 518 (1973)
(14) Z. Ophir, Y. Ide, Pol ym.Eng. Sci., 23, 792 (1983)
(15) S. Kenig, Pol ym . Composites, 7(l), 50, (1986)
(16) N. W. Darlington, P. L. Mcginley, J. Matr. Sci, 10, 906 (1975)
(17) L. A. Goettier, Pol ym. Composites, 5(l), 60 (1984)
(18) P. F. Bright, R. J. Crows, M. J. Folks, J. Mater. Sci., 13, 2497 (1978)
(19) T. Tang, P. Gao, L. Ye, C. Zhao, W. Lin, J. Mater. Sci., 45, 2874 (2010)
73
第 5 章
サーモトロピック液晶性ポリエステルおよびシリカ微
粒子コンポジットの実用化検討
5-1 緒 言
サ ー モ ト ロ ピ ッ ク 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル (TLCP)は 押 出 成 形 、射 出 成 形 が 可
能 で あ る た め 、そ れ ま で 液 晶 性 ポ リ マ ー の 主 流 だ っ た リ オ ト ロ ピ ッ ク ポ リ
マ ー に 対 し て 、加 工 分 野 が 広 が り 、加 工 技 術 が 多 様 化 す る こ と に よ り 複 雑
な 製 品 形 状 を 設 計 す る こ と が 可 能 と な っ た 。高 せ ん 断 下 で 高 い 流 動 性 を 示
す こ と か ら 、特 に 射 出 成 形 な ど の 高 せ ん 断 領 域 で の 加 工 に 向 き 、高 性 能 が
要求される電機・電子、自動車、航空宇宙産業、医療の分野で広く使用さ
れ て い る (1)-(8)。
TLCPは 成 形 後 の 冷 却 に お い て 、流 動 時 の 分 子 配 向 状 態 が ほ ぼ 維 持 さ れ た
形 で 固 化 す る 。こ の た め 、射 出 成 形 時 の 成 形 体 に お い て 、配 向 挙 動 は 流 動
履 歴 に 明 確 に 影 響 を 受 け る 。 TLCPで は 流 動 方 向 と 流 動 直 角 方 向 で は 強 度 、
剛性、許容歪み、収縮率、線膨張係数、誘電率といった力学強度、熱的特
性 、電 気 的 性 質 に 至 る ま で 大 き く 異 な る 。さ ら に 成 形 品 の 層 構 造 に お け る 、
表層と内層でも流動挙動に起因した異方性の影響が現れる。このように
TLCPに お い て は 分 子 骨 格 に 特 有 な 異 方 性 に よ り 、変 形 、破 壊 、強 度 低 下 な
どの不具合が成形体に発生する。
こ う し た 問 題 点 の 対 策 と し て 、製 品 設 計 時 に TLCPの 配 向 挙 動 を シ ミ ュ レ
ー シ ョ ン す る こ と で 、局 所 的 に 発 生 す る 異 方 性 予 測 し 、配 向 を 制 御 す る 試
み が な さ れ て い る 。し か し 、TLCPの 流 動 挙 動 は 、溶 融 状 態 に お い て も 分 子
の自発的配向挙動が影響し、複雑な流動挙動を示すことが知られている。
現 在 ま で の と こ ろ 、明 確 に 流 動 を シ ミ ュ レ ー シ ョ ン す る こ と は 難 し く 、配
向 挙 動 を 予 測 す る に は 至 っ て い な い 。こ の た め 、TLCPの 実 用 化 の 対 応 と し
て は 、TLCPに ガ ラ ス 繊 維 、炭 素 繊 維 な ど の 繊 維 フ ィ ラ ー を 添 加 、若 し く は
74
タ ル ク 、マ イ カ な ど の 無 機 フ ィ ラ ー を 充 填 す る こ と で 、TLCP自 体 の 異 方 性
を 低 減 さ せ 、成 形 体 の 充 填 挙 動 に 起 因 し た 物 性 差 を 小 さ く す る 取 り 組 み が
な さ れ て き た 。ガ ラ ス 繊 維 、カ ー ボ ン 繊 維 、マ イ カ 、タ ル ク を 使 用 し た TLCP
コ ン ポ ジ ッ ト は 既 に 国 内 外 の LCPメ ー カ で 市 場 化 が 進 め ら れ 、 製 造 販 売 さ
れ て い る 。 国 内 の 代 表 的 な サ プ ラ イ ヤ ー の グ レ ー ド を Table5-1に 示 す ( 9 ) 。
Table 5-1 TLCP typical grades of Japanese suppliers.
Supplier/Brand name
Grade name
ISO identification Mark
A130
>LCP-GF30<
A230
>LCP-CF30<
A470
>LCP-(MD+GF)50<
UENO Fine Chemical
2030G
>LCP-GF30<
Industry/UENO LCP
2140GM
>LCP-(MD+GF)40<
JX Nippon Oil & Energy
G-330
>LCP-GF30<
Corporation/XYDAR
MG-350
>LCP-(MD+GF)40<
DIC Corporation/
LD-130
>LCP-GF30<
OCTA
LD-235
>LCP-(MD+GF)40<
Toray Industries, Inc./
LX70G35
>LCP-GF35<
Siveras
LX70M35 H
>LCP-(MD+GF)35<
Polyplastics/
LAPEROS
※
※ LCP: Liquid cr ystalline pol ymer, GF: Glass fiber, CF: Carbon fiber,
MD: Mineral powder
一方 、ナ ノサ イ ズ のフ ィ ラー と の複 合に 関 する 研 究は 、ナノ ク レイ 、カ
ー ボ ン ナ ノ チ ュ ー ブ 、ナ ノ シ リ カ に お い て 高 機 能 化 と 構 造 解 析 、レ オ ロ ジ
ー に 関 す る 報 告 が さ れ て い る も の の 、TLCPコ ン ポ ジ ッ ト と し て 市 場 化 し て
い る メ ー カ は な い 。こ れ は 、ナ ノ サ イ ズ の フ ィ ラ ー が 高 価 で あ る こ と か ら 、
コンポジットとして市場化に値する十分な性能が見いだせていないこと
が理由と考えられる。
前 章 ま で 報 告 し て き た よ う に 、 直 径 : 50-100nm の シ リ カ 微 粒 子 と TLCP
と の コ ン ポ ジ ッ ト に お い て 、 シ リ カ 微 粒 子 界 面 と TLCPの 相 互 作 用 に よ り 、
シ リ カ 微 粒 子 界 面 で TLCPの 配 向 、 結 晶 化 が 阻 害 さ れ る 可 能 性 が 示 さ れ た 。
75
シ リ カ 表 面 か ら 一 定 の 空 間 領 域 に 広 が る 、シ リ カ 微 粒 子 表 面 の 影 響 を 受 け
た TLCP分 子 鎖 は 規 則 的 な 配 列 が 阻 害 さ れ て い る た め 、 TLCP分 子 鎖 の 異 方
性 が 低 減 さ れ て い る 可 能 性 が 高 い 。TLCPの 高 い 配 向 性 は 表 層 の 影 響 が 支 配
的 な 薄 肉 の 成 形 体 で は 高 強 度 性 の 利 点 が 生 か さ れ る が 、厚 肉 の 成 形 体 、若
し く は 衝 撃 強 度 が 必 要 な 成 形 体 で は 不 利 に 働 く 。異 方 性 を 低 く コ ン ト ロ ー
ル で き る TLCP/シ リ カ 微 粒 子 コ ン ポ ジ ッ ト は 自 動 車 、 イ ン フ ラ な ど の 金 属
代替の構造部材として期待される。
そ こ で 本 研 究 で は 前 章 ま で の 結 果 を 踏 ま え て 、 二 軸 押 出 し 機 に て TLCP
に 平 均 粒 径 : 50-100nm の シ リ カ 微 粒 子 を 添 加 し た 高 衝 撃 特 性 を 有 す る
TLCPコ ン ポ ジ ッ ト の 調 製 を 目 的 と す る 。TLCP-シ リ カ 微 粒 子 コ ン ポ ジ ッ ト
の 可 能 性 を 探 索 し 、市 場 化 ま で 見 据 え た 検 討 は 非 常 に 有 意 義 で あ る と 考 え
られる。
5-2 実 験
5-2-1 試 料
本 研 究 で 用 い た TLCP は ポ リ プ ラ ス チ ッ ク ス 株 式 会 社 よ り 提 供 さ れ た も
の を 使 用 し た ( 重 量 平 均 分 子 量 : Mw 30000 、 分 子 量 分 布 : 2.45 、 比 重 :
1.4g/cm 3 )
(16),(17)
。この サ ンプ ル はラ ンダ ム 共重 合 体で ある こ とが 確 認さ れ
て い る ( 1 8 ) - ( 2 3 ) 。 シ リ カ 微 粒 子 は 関 東 化 学 株 式 会 社 製 の シ リ カ (平 均 粒 子 径 :
51 nm, 比 重 : 2.2 以 後 SNP[51]と 表 記 す る )、株 式 会 社 ア ド マ テ ッ ク ス 製 シ
リ カ (平 均 粒 子 径:100nm, 比 重:2.2 以 後 各 SNP[100]と 表 記 す る )を 使 用 前
に 吸 着 水 を 除 去 す る た め に 300 ℃ で 1時 間 加 熱 処 理 を 施 し た 。
76
5-2-2 TLCP/シ リ カ 微 粒 子 コ ン ポ ジ ッ ト の 調 製 条 件
任 意 の 量 の シ リ カ と TLCP を ド ラ イ ブ レ ン ド し 、 二 軸 ス ク リ ュ ー 混 練 機
(日 本 製 鋼 所 TEX30α ス ク リ ュ ー 径:φ 33mm)で Table 5-2に 示 す 条 件 で 押
出しを行い、ペレタイズした。
Table 5-2 Extrusion condition for TLCP-Silica composites.
Condition
Cylinder temperature
Die design
Content
o
C
-
300
Motor rotation
Degree of vacuum
rpm
mmHg
φ2.5×5
298
-97.0
Throughput
kg/hr
10
試 料 中 の シ リ カ 含 有 量 は 熱 重 量 測 定 (TA Instruments社 製 TGA Q-500)に て 、
想 定 し た 処 方 量 が 添 加 さ れ て い る こ と を 確 認 し た 。今 回 作 成 し た サ ン プ ル
を Table 5-3に ま と め る 。
Table 5-3 Sample designations in this study.
Sample
Particles content
[wt%]
Particles content
[vol%]
LC
LC + SNP[51]3
LC + SNP[51]5
LC + SNP[51]10
LC + SNP[100]3
LC + SNP[100]5
LC + SNP[100]10
0
3.1
4.8
9.8
3.0
4.9
9.9
0
2.0
3.1
6.5
1.9
3.2
6.5
5-2-3 評 価 試 験 片 の 調 製
5-2-3-1 引 張 り 試 験 片
Fig.5-1に 示 し た 試 験 片 を Table 5-4の 条 件 に て 射 出 成 形 し 、試 験 片 を 得 た 。
77
Fig. 5-1 Universal test specimen ; TypeA1
Table 5-4 Injection molding condition.
Condition
Injection machine
Screw size
Cylinder temperature
Mold temperature
Injection speed
Holding pressure
Content
o
C
mm
o
C
o
C
m/min
MPa
Sumitomo SE100DU
φ36
300
80
2
60
5-2-3-2 シ ャ ル ピ ー 衝 撃 試 験 片
シャルピー衝撃試験片は引張試験片と同一の成形品を成形した後、幅:
10mm部 分 の 中 央 60mmを 切 り 出 し て 試 験 片 を 得 た 。 さ ら に 、 中 央 部 に 角 度
45°、 深 さ 2mmの V字 の 溝 (Vノ ッ チ )を 入 れ た (Fig.5-2)。
78
Fig. 5-2 Test specimen for charpy impact strength ; ISO 179
5-2-4 引 張 り 試 験
試 験 片 は ISO多 目 的 試 験 片 TyoeA1を 使 用 し 、 ISO527の 規 格 に 準 拠 し て 実
施 し た 。試 験 機 は 島 津 製 作 所 製 オ ー ト グ ラ フ AG-20kNXDplusで 試 験 環 境 は
温 度 : 23℃ 、 湿 度 : 50%RHで 、 試 験 速 度 : 50mm/minで 行 っ た 。
5-2-5 シ ャ ル ピ ー 衝 撃 試 験
ISO 多 目 的 試 験 片 TyoeA1 の 中 央 部 を 切 削 し 、 V ノ ッ チ を 加 工 し た 試 験 片
を 使 用 し ISO179 の 規 格 に 準 拠 し て 実 施 し た 。 試 験 機 は 東 洋 精 機 製 作 所 製
シ ャ ル ピ ー 衝 撃 試 験 機 で 試 験 環 境 は 温 度 : 23 ℃ 、 湿 度 : 50%RHで 行 っ た 。
シ ャ ル ピ ー 衝 撃 強 度 測 定 時 の ハ ン マ ー の 振 り 上 げ 角 度 は 150 ° 、 ハ ン マ ー
は 4Jの 物 を 使 用 し た 。
79
Fig. 5-3 Schematic representation of charpy impact strength testing machine.
5-2-6 キ ャ ピ ラ リ ー レ オ メ ー タ 測 定
キ ャ ピ ラ リ ー レ オ メ ー タ 測 定 は 東 洋 精 機 製 作 所 製 CAPILLOGRAPH 1B
に て 、 炉 内 温 度 : 300℃ で 実 施 し た 。 キ ャ ピ ラ リ ー は φ 1.0×L30mmの フ ラ
ッ ト タ イ プ を 使 用 し 、 シ ェ ア 速 度 を 100-3600sec - 1 で 変 化 さ せ て 測 定 し た 。
80
5-3 結 果 と 考 察
5-3-1 定 常 せ ん 断 粘 度
一 般 に TLCP の 溶 融 粘 度 は 広 い せ ん 断 速 度 で せ ん 断 速 度 に 大 き く 依 存 す
る 。他 の エ ン ジ ニ ア リ ン グ プ ラ ス チ ッ ク で は 溶 融 粘 度 は TLCPの 場 合 ほ ど せ
ん 断 速 度 に 強 く 依 存 し な い た め 、TLCPに 特 異 な 現 象 と 言 え る 。本 研 究 で 用
い て い る TLCP;LAPEROS ® A950(ポ リ プ ラ ス チ ッ ク ス 製 )と 同 じ ポ リ マ ー に
お い て Taguchi ら ( 1 0 ) が 広 い せ ん 断 速 度 領 域 で の 粘 度 変 化 を 実 験 し て お り 、
そ の 結 果 を Fig.5-4に 示 す 。
Fig. 5-4 Steady-state viscosity for LAPEROS® A950 with
Various shear rate at 330oC (10).
粘 度 は 広 い せ ん 断 速 度 領 域 で 大 き く 変 化 し て お り 、顕 著 な 非 ニ ュ ー ト ン
粘 性 を 示 し て い る 。 彼 ら は 粘 度 -せ ん 断 速 度 依 存 性 評 価 に お い て 、 4つ の 領
域が存在することを示している。
[1] せ ん 断 速 度 : 10-1s-1ま で の 領 域 で 粘 度 変 化 が な い (領 域 0)
[2] せ ん 断 速 度:10 - 1 か ら 10 0 s - 1 の 領 域 で せ ん 断 速 度 に 対 し て 粘 度 が 低 下
傾 向 を 示 す (領 域 1)
81
[3] せ ん 断 速 度 : 5×10 0 か ら 5×10 1 の 領 域 で 粘 度 変 化 が な い (領 域 2)
[4] せ ん 断 速 度:10 2 よ り 大 き い 領 域 で せ ん 断 速 度 に 対 し て 粘 度 が 低 下 傾
向 を 示 す (領 域 3)
こ の う ち 領 域 1 ~ 3 に つ い て は Onogi ら ( 11 ) , ( 1 2 ) に よ っ て 確 認 さ れ て い る 現
象 と 一 致 す る が 、新 た に TLCPの 系 に お い て も LLCP系 で 確 認 さ れ て い る“ 領
域 0” が 本 ポ リ マ ー で 特 異 的 に 確 認 さ れ る こ と を 示 し て い る 。 こ う し た 現
象は“ 分 子が ラ ン ダム に 配向 す る領 域 ”と“ 配 向秩 序 を持 っ た領 域 ”で 構
成 さ れ る ド メ イ ン 形 成 に お い て 、せ ん 断 速 度 と 共 に ド メ イ ン 構 造 が 破 壊 若
し く は 乱 れ る こ と に よ り 生 じ る と さ れ て い る (13)-(16)。
TLCPの 溶 融 状 態 の 構 造 を 推 定 す る 上 で 、広 い 領 域 で の 粘 度 変 化 を 観 察 す
る こ と は 非 常 に 有 用 で あ る ( 1 7 ) - ( 1 9 ) 。一 方 、TLCPを 実 用 的 に 使 用 す る 上 で は 、
射 出 成 形 、押 出 し 成 形 に 用 い ら れ る せ ん 断 速 度 領 域 で の 特 性 を 把 握 す る こ
と は 重 要 で あ る と 考 え ら れ る 。 Fig.5-5 に 各 々 SNP[51] 、 SNP[100] を
3,5,10wt%添 加 し た LC+SNP[51]、LC+SNP[100]系 の コ ン ポ ジ ッ ト に お け る 、
せ ん 断 速 度 3×10 2 s - 1 ~ 4×10 3 s - 1 に お け る 溶 融 粘 度 挙 動 の 変 化 を 示 す 。
82
Melt Viscosity (Pa・
・sec)
1000.0
LC
LC+SNP[51]3
LC+SNP[51]5
LC+SNP[51]10
100.0
10.0
100
1000
Shear Rate (sec-1)
10000
Melt Viscosity (Pa・
・sec)
1000.0
LC
LC+SNP[100]3
LC+SNP[100]5
LC+SNP[100]10
100.0
10.0
100
1000
Shear Rate (sec-1)
Fig. 5-5 Melt viscosity change with
Various shear rate at 300oC
83
10000
こ の 領 域 は 先 の 区 分 で は “ 領 域 3” に 位 置 付 け ら れ 、 液 晶 ド メ イ ン が せ
ん 断 流 動 に よ る 配 向 に よ り 、溶 融 粘 度 は せ ん 断 速 度 の 増 加 と 共 に 減 少 傾 向
を 示 す と さ れ る 。 SNP[51]、 SNP[100]の 系 に お い て も シ リ カ 微 粒 子 の 添 加
量 に か か わ ら ず 、せ ん 断 速 度 の 増 加 に 伴 っ て 、溶 融 粘 度 は 直 線 的 に 低 下 傾
向 を 示 し 、非 ニ ュ ー ト ン 性;チ キ ソ ト ロ ピ ー 性 を 示 し て い る 。ま た シ リ カ
微 粒 子 の 添 加 量 に 対 し て 、SNP[51]、SNP[100]共 に 添 加 量 の 増 加 に 伴 っ て 、
粘 度 は 高 く な る 傾 向 を 示 し た 。今 回 の せ ん 断 速 度 領 域 で 測 定 さ れ た 溶 融 粘
度 と せ ん 断 速 度 に 対 す る 溶 融 粘 度 変 化 の 傾 き を Table5-5に ま と め た 。
Table 5-5 Anal ysis summary of stead y state viscosit y
Sample
LC
LC + SNP[51]3
LC + SNP[51]5
LC + SNP[51]10
LC + SNP[100]3
LC + SNP[100]5
LC + SNP[100]10
Viscosity range
[Pa・sec]
Viscosity Slope
[-]
24.5 - 83.4
30.8 - 95.1
37.0 - 110
44.6 - 125
29.0 - 90.2
34.9 - 105
42.4 - 114
0.522
0.488
0.477
0.454
0.493
0.480
0.438
SNP[51]、SNP[100]を 比 較 し た 場 合 、SNP[51]の 方 が 溶 融 粘 度 の 増 加 率 が
大 き く 、総 表 面 積 が 影 響 し て 大 き く な っ た と 推 定 さ れ る 。一 方 、溶 融 粘 度
変 化 の 傾 き に つ い て は 、5wt%ま で は SNP[51]の 方 が 傾 き は 小 さ い が 、10wt%
で は SNP[100]の 方 が 小 さ い 値 を 示 し た 。 定 常 せ ん 断 粘 度 挙 動 の “ 領 域 3 ”
に お け る 溶 融 粘 度 変 化 の 傾 き は 、溶 融 状 態 に お け る ド メ イ ン 構 造 の 配 向 性
を表しており傾きが小さい方がよりランダムな配向構造を形成している
た め 、 添 加 量 5wt%ま で は SNP[51]が ド メ イ ン の 配 向 は SNP[100]も ラ ン ダ ム
と 推 定 さ れ る 。 一 方 、 10wt%で は 各 々 の シ リ カ 微 粒 子 で 凝 集 が で き て し ま
う も の の 、 粒 子 径 の 小 さ い SNP[51]が よ り 凝 集 構 造 を 作 り や す く 結 果 的 に
84
逆 転 し て し ま っ た と 考 え ら れ る 。今 回 の 結 果 か ら よ り 粒 子 径 の 小 さ い シ リ
カ の 方 が 溶 融 状 態 で も TLCP-シ リ カ 微 粒 子 の 相 互 作 用 に よ り 、 配 向 ド メ イ
ン 構 造 を 形 成 し に く く 、結 果 と し て TLCPの チ キ ソ ト ロ ピ ー 性 が 弱 ま っ た と
考えられる。
5-3-2 機 械 的 性 質
Fig. 5-6 に SNP[51] 、 SNP[100] を 3,5,10wt% 添 加 し た LC+SNP[51] 、
LC+SNP[100]系 の コ ン ポ ジ ッ ト に お け る 、引 張 り 試 験 時 の S-Sカ ー ブ を 示 す 。
ま た 、評 価 デ ー タ の 一 覧 を Table5-6に 示 す 。評 価 し た 全 て の 材 料 に お い て 、
降 伏 挙 動 は 確 認 さ れ ず 、最 大 強 度 が 最 大 伸 び の 位 置 と 一 致 す る 傾 向 を 示 し
た 。こ れ は ガ ラ ス フ ァ イ バ ー 、カ ー ボ ン フ ァ イ バ ー と の コ ン ポ ジ ッ ト で も
確 認 さ れ る 現 象 で あ り 、 TLCP-シ リ カ 微 粒 子 に お け る 特 異 的 な 現 象 で は な
い (20)-(22)。
85
180
Tensile strength [MPa]
150
120
90
LC
LC+SNP[51]3
LC+SNP[51]5
LC+SNP[51]10
LC+SNP[100]3
LC+SNP[100]5
LC+SNP[100]10
60
30
0
0.0
1.0
2.0
3.0
Strain [%]
4.0
5.0
Fig. 5-6 Composite stress-strain plots for a series
of TLCP and nano-silica composite.
Table 5-6 Anal ysis summary of tensile strength
Sample
Tensile strength
[MPa]
Tensile elongation
[%]
LC
LC + SNP[51]3
LC + SNP[51]5
LC + SNP[51]10
LC + SNP[100]3
LC + SNP[100]5
LC + SNP[100]10
165
154
149
142
153
150
147
3.5
3.9
4.2
3.6
4.2
4.5
4.4
引 張 り 強 度 は TLCPバ ル ク が 最 も 高 い 値 を 示 し 、 SNP[51]、 SNP[100]共 に
添 加 量 に 従 っ て 、引 張 り 強 度 は 低 下 傾 向 を 示 し た 。一 方 、引 張 り 伸 び に つ
い て は SNP[51]、 SNP[100]共 に 添 加 量 5wt%に お い て 最 大 値 を と り 、 10wt%
86
で は 若 干 低 下 す る 傾 向 を 示 し た 。 前 章 ま で の TLCP-シ リ カ 微 粒 子 の 相 互 作
用 に よ り TLCPの 配 向 が 乱 さ れ る と の 見 解 に 立 て ば 、 引 張 り 強 度 が 低 下 し 、
引張り伸びが増加する結果はこれを支持していると考えられる。ただし、
10wt%で は 引 張 り 伸 び が 低 下 す る 理 由 は 、 シ リ カ 微 粒 子 の 凝 集 に よ っ て 欠
陥が生じ、破断しやすくなっていると考えられる。
ま た 、SNP[51]、SNP[100]で は 同 添 加 量 で は SNP[100]の 方 が 引 張 り 強 度 、
引 張 り 伸 び 共 に 高 い 値 を 示 し た 。こ の 理 由 に つ い て は は っ き り し な い と こ
ろもあるが、一つの理由には凝集しやすさが影響していると思われる。
我々の推定に基づけば、より曲率の大きいシリカ微粒子の添加により、
TLCPの 配 向 ド メ イ ン 構 造 は 大 き く 乱 さ れ 、結 果 的 に 結 晶 化 度 が 低 下 し 、力
学 物 性 と し て 引 張 り 強 度 が 低 下 、引 張 り 伸 び が 増 加 す る こ と が 考 え ら れ る 。
こ の 点 か ら す れ ば SNP[51]の 方 が 優 位 で あ る が 、 同 時 に 小 さ い シ リ カ 微 粒
子の方が凝集塊を作りやすく、力学的な欠陥を作りやすくなってしまう。
現 状 保 有 す る 押 出 し 技 術 (設 備 、 条 件 )に お い て 、 平 均 粒 子 径 : 50nmの シ
リ カ 微 粒 子;SNP[51]を 10wt%程 度 に 添 加 し た 場 合 に 凝 集 物 を 発 生 さ せ な い
よ う に す る の は 技 術 的 に 難 易 度 が 高 い 。よ り 高 い 水 準 の TLCPコ ン ポ ジ ッ ト
を 創 出 す る た め に は 、 SNP[51]を 使 い こ な す 押 出 し 技 術 の 確 立 が 必 要 で あ
ると考えられる。
5-3-3 衝 撃 特 性
TLCP は 高 強 度 、 高 剛 性 で あ る が 分 子 構 造 に 由 来 す る 異 方 性 に よ り 衝 撃
強 度 は 低 い 。 TLCP の 高 靭 性 化 は TLCP コ ン ポ ジ ッ ト の 適 用 範 囲 を 飛 躍 的
に 広 げ 、 TLCP 本 来 の 特 徴 を 維 持 し た ま ま の 改 良 が 現 実 的 に な れ ば 、 ア プ
リ ケ ー シ ョ ン の 高 機 能 化 に 寄 与 で き る 可 能 性 が あ る 。高 靭 性 化 の 手 法 と し
て無機フィラーの充填や他ポリマーのアロイが有効であるとされている
87
が ( 2 2 ) - ( 2 4 ) 、TLCP の 融 点 が 300℃ と 高 く 、こ の 領 域 で 分 解 せ ず に 高 靭 性 化 に
有効 な ポリ マ ーは 非常 に 限ら れ る 。一方 、無 機フ ィ ラ ーに お いて は 、添 加
す る フ ィ ラ ー の サ イ ズ 、形 状 の 影 響 が 大 き い こ と が 知 ら れ て い る 。Table 5-7
にこれまでのフィラータイプの違いによるシャルピー衝撃強度の影響を
示す。
Table 5-7 Charpy impact strength for TLCP composite with various types of filler
Filler content
Charpy impact strength
[wt%]
[kJ/m²]
Glass fiber
30
35
Glass fiber
50
12
Carbon fiber
30
12
Wollastonite
30
30
Inorganic whisker
30
45
Talc
30
30
Mica
30
21
Filler type
一般的にはサイズの小さいフィラーの方が粒子間距離は小さくなるた
め 、衝 撃 を 吸 収 す る ク レ ー ズ が 発 生 し や す く な り 衝 撃 強 度 が 高 く な る と 言
わ れ て い る (24)。
Fig. 5-7 に SNP[51] 、 SNP[100] を 3,5,10wt% 添 加 し た LC+SNP[51] 、
LC+SNP[100]系 の コ ン ポ ジ ッ ト に お け る シ ャ ル ピ ー 衝 撃 強 度 を 示 す 。 シ リ
カ 微 粒 子 の 添 加 量 と 共 に シ ャ ル ピ ー 衝 撃 強 度 は 増 加 す る が 、5wt%と 10wt%
で は ほ と ん ど 値 に 変 化 が な か っ た 。得 ら れ た シ ャ ル ピ ー 衝 撃 値 は 今 ま で 他
の 無 機 フ ィ ラ ー 添 加 系 で 得 ら れ て い た 値 よ り も 大 き い 値 を 示 し た 。さ ら に
その必要添加量が他の無機フィラーと比較して少ない量で実現可能であ
る こ と が 明 ら か と な っ た 。 LC+SNP[51] と LC+SNP[100]で は わ ず か で あ る
が 、 LC+SNP[100]が よ り 高 い シ ャ ル ピ ー 衝 撃 強 度 を 示 し た 。 機 械 的 特 性 の
と こ ろ で も 触 れ た が 、現 段 階 で こ の 違 い が 明 確 に な っ て お ら ず 、一 つ の 考
88
え 方 と し て 凝 集 塊 の 影 響 が あ る と 考 え ら れ る 。今 後 、凝 集 性 に つ い て 確 認
が 必 要 で あ り 、押 出 し 工 程 に お け る 、よ り 微 細 な シ リ カ を 高 充 填 で 分 散 す
る技術確立が必要であると考えられる。
Charpy impact strength [kJ/m2]
140
120
100
80
60
40
SNP[51]
20
SNP[100]
0
0
2
4
6
8
Filler content [wt%]
10
12
Fig. 5-7 Charpy impact strength values of TLCP- Silica composites
versus the filler content.
5-3-4 界 面 相 厚 み と 衝 撃 強 度 改 善 に 関 す る 考 察
Table 5-8 に 今 回 調 製 し た シ リ カ 微 粒 子 と TLCP コ ン ポ ジ ッ ト の シ リ カ
微 粒 子 表 面 か ら 影 響 を 受 け て い る 空 間 領 域 の 厚 み を 計 算 し た 。計 算 に あ た
っ て 、シ リ カ 微 粒 子 を 真 球 形 状 で あ る と し 、ま た 界 面 相 も シ リ カ 微 粒 子 と
同 様 に 真 球 状 に 広 が っ て い る と 仮 定 し た 。TLCP、シ リ カ 微 粒 子 の 比 重 は そ
れ ぞ れ 、1.4g/cm 3 、2.2g/cm 3 と し て 計 算 し た 。実 質 的 に シ リ カ 微 粒 子 表 面 か
ら 影 響 を 受 け て い る TLCP 相 の 厚 み は LC+SNP[100]5 、 LC+SNP[100]10の 値
か ら 0.097µm~ 0.13µmと 考 え ら れ る 。Fig.5-8に Wuら が エ ラ ス ト マ ー の 添 加
に お い て 、衝 撃 性 改 善 の 重 要 因 子 と し て 臨 界 粒 子 間 距 離 を 検 討 し た 研 究 結
89
果 を 示 す 。彼 ら は 衝 撃 性 改 善 に お け る 、エ ラ ス ト マ ー 添 加 に お い て 、エ ラ
ス ト マ ー 濃 度 に か か わ ら ず 、 粒 子 壁 間 距 離 が 0.304µm 以 下 に な る と 急 激 に
Izot衝 撃 強 度 が 向 上 す る こ と を 報 告 し て い る
(24), (25)
。一定の粒子壁間距離
が 確 保 さ れ る こ と で 、粒 子 周 り の 延 性 部 が 連 結 し 、衝 撃 強 度 が 向 上 す る こ
とを結論付けている。
Table 5-8 Thickness of interface layer in a series of different size of silica particle.
Sample
Particles content
[wt%]
Particles content
[vol%]
Thickness of interface layer
LC
0
0
-
LC+SNP[51]3
LC+SNP[51]5
LC+SNP[51]10
LC+SNP[100]3
LC+SNP[100]5
LC+SNP[100]10
3.0
4.9
10.0
2.9
5.0
10.0
2.0
3.2
6.5
1.9
3.3
6.5
0.081
0.061
0.052
0.15
0.13
0.097
[µm]
Fig. 5-8 Notched impact toughness versus (surface-to-surface)
interparticle distance T, showing that the tough-brittle transition
occurs at the critical value Tc, independent of rubber volume fraction.
Rubber contents; A:25wt%, B:15wt%, C:10wt%.(25)
90
今 回 の TLCP+ ナ ノ シ リ カ の 系 に お い て 、 衝 撃 強 度 が 向 上 し た の は
LC+SNP[100]5及 び LC+SNP[100]10で あ り 、計 算 か ら シ リ カ 界 面 の 影 響 を 受
け て い る TLCP 厚 み が 0.097µm ~ 0.13µm で あ り 、 粒 子 間 距 離 と し て 2 倍 の
0.19µm ~ 0.26µmと 見 積 も る こ と が で き た 。 こ れ は Wuら が 示 し て い る 粒 子
壁 間 距 離 と 近 い 値 を 示 し て お り 、シ リ カ 界 面 の 影 響 を 受 け た TLCPが ア モ ル
フ ァ ス 状 態 と な っ て 靭 性 が 向 上 し 、靭 性 部 が 連 結 す る 粒 子 濃 度 に な っ た こ
とで衝撃強度が向上したと考えられる。
91
5-4 結 論
前 章 ま で の 結 果 を 踏 ま え て 、 二 軸 押 出 し 機 に て TLCP に 平 均 粒 径 :
50-100nm の シ リ カ 微 粒 子 を 添 加 し た 高 衝 撃 特 性 を 有 す る TLCP コ ン ポ ジ ッ
ト の 調 製 を 検 討 し た 。 TLCPコ ン ポ ジ ッ ト の 定 常 せ ん 断 粘 度 測 定 に お い て 、
溶 融 粘 度 は せ ん 断 速 度 に 従 っ て 低 下 傾 向 を 示 し 、典 型 的 な 非 ニ ュ ー ト ン 流
体:チ キ ソ ト ロ ピ ー 性 を 示 し た 。シ リ カ 微 粒 子 の 添 加 量 に 従 っ て 溶 融 粘 度
は 上 昇 傾 向 を 示 し 、特 に 平 均 粒 径 の 小 さ い シ リ カ 微 粒 子 の 方 が 増 加 傾 向 は
大 き い 値 を 示 し た 。こ れ は 粒 子 径 が 小 さ く な る こ と に よ り 総 表 面 積 が 増 加
す る た め 、TLCPと の 相 互 作 用 に よ る も の で あ る と 推 定 さ れ る 。さ ら に 、せ
ん 断 速 度 に 対 す る 溶 融 粘 度 の 傾 き は 5wt% の 添 加 量 ま で は 小 さ い シ リ カ 微
粒 子 の 方 が 小 さ い 値 を 示 し た 。 定 常 せ ん 断 粘 度 挙 動 の “ 領 域 3” に お け る
溶 融 粘 度 変 化 の 傾 き は 、溶 融 状 態 に お け る ド メ イ ン 構 造 の 配 向 性 を 表 し て
お り 小 さ い シ リ カ 微 粒 子 の 方 が 配 向 秩 序 は 低 い こ と を 示 し て い る 。 4章 ま
で の 検 討 に て 、固 体 状 態 に て TLCPと シ リ カ 微 粒 子 の 相 互 作 用 に よ り 、配 向
秩 序 の 低 下 を 提 案 し て き た が 、溶 融 状 態 で も 同 様 に シ リ カ 微 粒 子 と の 相 互
作 用 に よ り 、液 晶 ド メ イ ン の 配 向 秩 序 が 低 下 し て い る 可 能 性 が あ る 。今 後 、
溶融状態での直接的な観察によりはっきりさせていく必要があると思わ
れ る 。ま た 、添 加 量 10wt%で は 特 に SNP[51]で は 分 散 不 良 と 思 わ れ る 現 象 が
確認された。
機 械 的 特 性 、衝 撃 強 度 評 価 に お い て は 今 回 の 検 討 結 果 に お い て 、平 均 粒
子 径 : 100nm の 方 が 、 平 均 粒 子 径 : 50nm よ り も 引 張 り 強 度 、 引 張 り 伸 び 、
シ ャ ル ピ ー 衝 撃 は 高 い 値 を 示 し た 。TLCPと シ リ カ 微 粒 子 と の 相 互 作 用 、そ
れ に 基 づ く 配 向 秩 序 の 程 度 を 考 え れ ば 、平 均 粒 径:50nmの シ リ カ 微 粒 子 の
方 が こ れ ら の 特 性 に 優 位 に 働 く と 予 想 し て い た が 、同 時 に 凝 集 物 の 影 響 が
疑 わ れ 、 結 果 と し て 平 均 粒 子 径 : 100nmの 方 が 現 状 設 備 、 条 件 に お い て 優
位に働いたと考えられる。
92
今後より微細なシリカを高充填で分散するための技術検討が必要であ
る が 、 平 均 粒 子 径 : 100nmを 5wt%添 加 し た 系 に お い て 、 顕 著 な 衝 撃 強 度 の
改善を実現できたことは非常に興味深いと考えられる。
93
5-5 参 考 文 献
(1) L.C. Sawyer, H.C. Linstid, M. Romer, M. Plast. Eng.(N.Y.) 54, 37 (1998)
(2) 小 出 直 之 , 液 晶 性 ポ リ エ ス テ ル の 開 発 ,シ ー エ ム シ ー (1987)
(3) K.Asai, Plastics, 35, 10 (1984)
(4) W.J. Jackson Jr. and Kuhfuss (to Eastman Kodak Co.) U.S. pat. 3,778,410
(1973)
(5) W.J. Jackson Jr. and Kuhfuss, J. Polym. Chem., Pol ym. Chem. Ed., 14,
2043(1973)
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95
第 6章
結論
本 研 究 で は TLCP と フ ィ ラ ー 界 面 の 運 動 性 に つ い て 明 ら か に す る こ と を
目 的 と し 、ナ ノ サ イ ズ の シ リ カ 微 粒 子 を 大 量 に 添 加 す る こ と で 、シ リ カ 微
粒 子 -TLCP界 面 の 熱 挙 動 変 化 、構 造 を 示 差 走 査 熱 量 測 定 (DSC)や 偏 光 顕 微 鏡
観 察 、 X 線 回 折 測 定 (XRD)、 赤 外 線 分 光 分 析 (IR)を 用 い て 調 査 し た 。 ま た
そ こ か ら 得 ら れ た 結 果 を 元 に 、TLCPコ ン ポ ジ ッ ト と し て 実 用 化 の 検 討 を お
こなった。
[1] TLCP と ナ ノ オ ー ダ ー の シ リ カ 微 粒 子 界 面 で は TLCP の カ ル ボ ニ ル 基
と シ リ カ の 相 互 作 用 に よ り TLCP の 規 則 的 な 配 向 相 ( 結 晶 相 若 し く は 液 晶
相 )が 減 少 し て い る こ と が 示 さ れ た 。ま た こ れ に 伴 い 、DSCに お け る 熱 的 性
質 評 価 で も 液 晶 転 移 に よ る 吸 熱・発 熱 が 確 認 で き な く な り 、非 晶 相 由 来 と
思 わ れ る 比 熱 変 化 量 が 増 加 す る 傾 向 が 確 認 さ れ た 。シ リ カ 微 粒 子 の 添 加 量
と 粒 子 径 か ら シ リ カ 微 粒 子 に 直 接 接 し て い な い に も か か わ ら ず 、表 面 の 影
響 を 受 け て い る 空 間 領 域 の 厚 み は 193-320Å と 見 積 も ら れ た 。一 般 の 高 分 子
で は 分 子 の 絡 み 合 い で 発 現 さ れ て い る 現 象 が 、 絡 み 合 い を 持 た な い TLCP
でも確認された。
[2] TLCPと ナ ノ オ ー ダ ー の シ リ カ 微 粒 子 界 面 に お い て 、 シ リ カ 微 粒 子 の
サ イ ズ が 小 さ い 方 が 結 晶 化 度 の 減 少 が 大 き い こ と が 確 認 さ れ た 。分 子 量 の
異 な る TLCPと 異 な る サ イ ズ の シ リ カ 微 粒 子 と の 組 み 合 わ せ か ら 、粒 子 の 曲
率 が TLCP 分 子 長 に 対 し て 大 き く な る と 結 晶 の 減 少 率 が 大 き く な る こ と が
明 ら か と な っ た 。さ ら に 、同 じ 粒 子 径 の シ リ カ 微 粒 子 に お い て 、表 面 の シ
ラ ノ ー ル 基 濃 度 の 違 い に よ り 、シ リ カ 微 粒 子 表 面 の 影 響 を 受 け て い る TLCP
界 面 相 の 厚 み が 変 化 し 、シ ラ ノ ー ル 濃 度 が 高 い 方 が TLCP界 面 相 の 厚 み が 厚
くなることが確認された。
96
[3] TLCPと シ リ カ 微 粒 子 の コ ン ポ ジ ッ ト に お い て 、TLCP分 子 長 に 対 し て 、
曲 率 が 大 き い シ リ カ 微 粒 子 で 結 晶 化 度 の 低 下 、非 晶 相 の 増 加 が 確 認 さ れ た
た め 、TLCPコ ン ポ ジ ッ ト と し て の 応 用 を 検 討 し た 。流 動 性 は 典 型 的 な 非 ニ
ュ ー ト ン 流 体 性 を 示 し 、せ ん 断 速 度 に 対 す る 溶 融 粘 度 の 傾 き は 小 さ い シ リ
カ 微 粒 子 の 方 が 小 さ く 、溶 融 状 態 で も 同 様 に シ リ カ 微 粒 子 と の 相 互 作 用 に
よ り 、液 晶 ド メ イ ン の 配 向 秩 序 が 低 下 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。た だ
し 、添 加 量 の 増 加 に 伴 い 、特 に 粒 子 径 : 50nmで は 分 散 不 良 と 思 わ れ る 現 象
が 確 認 さ れ 、分 散 性 向 上 を 目 的 と し た 混 練 条 件 の 更 な る 検 討 が 必 要 と 思 わ
れる。
機 械 的 特 性 、衝 撃 強 度 評 価 に お い て は 濃 度 の 増 加 と 共 に 、凝 集 塊 の 影 響
と 思 わ れ る 強 度 低 下 が 確 認 さ れ た が 、 平 均 粒 子 径 : 100nmを 5wt%添 加 し た
系 に お い て 、バ ル ク な TLCPに 対 し て 、約 3倍 の 衝 撃 強 度 の 改 善 を 実 現 で き 、
高 衝 撃 TLCPコ ン ポ ジ ッ ト と し て の 可 能 性 を 見 出 し た 。
97
主要論文と口頭発表リスト
発表論文
1) H. Fukatsu, M. Kuno., Y. Matsuda, S. Tasaka (2014) , Surface Effect of Silica
Nano-Particles with Different Size on Thermotropic Liquid Crystalline
Pol yester Composites, World Journal of Nano Science and Engineering, 4,
2014, 35-41
口頭発表
1) 深津博樹, 久野雅明, 松田靖弘, 田坂茂
フィラー界面で誘起されるサーモトロピック液晶ポリエステルの構造評価
第51回日本接着学会年次大会、東京、明治大学駿河台キャンパス
平成 25 年 6 月 20 日,21 日
2) 久野雅明, 深津博樹, 松田靖弘, 田坂茂
サーモトロピック液晶ポリエステルのフィラー界面での構造と性質
平成25年度繊維学会年次大会、東京、タワーホール船堀
平成25年6月12日,13日,14日
3) 久野雅明, 深津博樹, 松田靖弘, 田坂茂
サーモトロピック液晶ポリエステルのナノ粒子界面による影響
第 44 回中部化学関係学協会支部連合秋季大会、静岡、静岡大学浜松キャンパス
平成 25 年 11 月 2 日,3 日
98
謝辞
本 研 究 を 遂 行 し 、学 位 論 文 を ま と め る に 当 た り 、適 切 な ご 指 導 を 賜 り ま
し た 静 岡 大 学 創 造 科 学 大 学 院 工 学 研 究 科 田 坂 茂 教 授 、松 田 靖 弘 助 教 授 に
心から謝意を表し、御礼申し上げます。
ご 多 忙 中 に も か か わ ら ず 、本 論 文 の 審 査 を 行 っ て 頂 き 、ま た 有 意 義 な ご
助 言 を い た だ い た 、静 岡 大 学 創 造 科 学 大 学 院 工 学 研 究 科 久 保 野 敦 史 教 授 、
鈴木久男教授、金原和秀教授に深く感謝の意を表します。
本研究を進めるに当たり、多大なるご理解を頂き、また適切なご助言、
激励を頂いたポリプラスチック株式会社 研究開発本部 田島義久 本部長、
テクニカルソリューションセンター 松島三典 センター長に深く御礼申
し上げます。
実験を精力的に行って頂いたポリプラスチックス株式会社
佐々木伸
彰 氏 、長 永 昭 宏 氏 を は じ め 物 心 両 面 で 支 え て 頂 い た ポ リ プ ラ ス チ ッ ク ス 株
式会社の方々に感謝致します。
最後に研究に専念するために支えてくれた妻
秀美と息子 俊敦に感謝
します。
2015年 1月
深津 博樹
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