平成28年後期講座①観光と日本文化 第1講義 観光と日本文化 近年日本政府は外国人観光客の誘致を進め、2015年、訪日外国人の数はついに日本人海外旅行 者数を上回り、国全体の旅行収支も53年ぶりに黒字となった。「観光」は今後日本人にとってますま す身近な存在となり、その形態もどんどん多様化していくことになろう。その中で、日本人は、日本文 化の面白いところ、優れたところを見直すいい機会を得たと考えることができよう。本講座では観光 の観点から日本文化を再考したい。 第2講義 聖地としての四天王寺 四天王寺を聖地としてみた場合、そこには、3つの要所があるといえる。本尊救世観音菩薩を中心と する中心伽藍と、聖霊院、そして西門周辺の地域である。この3つの要所をつなぐものは聖徳太子信 仰である。古代から中世へ、そして近世へと、聖徳太子への信仰が、どのようにこの四天王寺という 聖地に人びとを引き寄せてきたのかを見ていきたい。 第3講義 芸能・音楽にみられる名所案内 観光とは、自らが各地に出向いて名所を見物することです。芸能・音楽は実際に移動することなく楽 しむものなので、まったく別物では?と思われるかもしれません。しかし、舞台のうえに現実とは異な る場所を仮想するものと考えるなら、古くから観光といえそうな内容をもっていることが見えてきます。 そこで、芸能・音楽にみられる名所案内をご紹介しながら、私たちにとって観光とはなにかについて 考えてみたいと思います。 第4講義 熊野詣と『平家物語』 『平家物語』では、物語の重要な転換点に、熊野詣に関する記事が差し挟まれています。そのこと が物語において果たす役割を考えるとともに、そうした趣向が物語に取り込まれるのはどのような時 代背景によるものかについてもお話ししようと思います。 第5講義 江戸時代の旅と観光 江戸時代には、参勤交代や三都を中心とする貨幣経済の発達などにより、全国的な交通網が整備さ れ、物資と人々の移動が盛んになった。「旅の安全」が確保されることにより、さまざまな制約はあった が、化政期以降には、庶民も「物見遊山」の旅に出るようになった。旅に関する出版文化の盛行はこ の結果である。本講では、近世の交通網の整備を前提に、浮世絵を含む出版物を素材に近世の「庶 民の旅」の実相と意義について検討する。 第6講義 三古湯と古代の湯治 日本は温泉の多い国です。また日本人にとって「温泉へ行く」ことは、最もなじみのある観光イベント でしょう。今回は、飛鳥時代や奈良時代の天皇や貴族・官人たちの湯治について取り上げます。 「三古湯(さんことう)」と呼ばれる牟婁(むろ)の湯(白浜温泉)、有間の湯(有馬温泉)、伊予の湯 (道後温泉)をはじめさまざまな温泉への湯治はどのような様子だったのか、古文書や古典籍をひも 解いてみます。 1 第7講義 日本の文化遺産と観光 羽曳野市では現在、関連自治体との協力の下、古市古墳群の世界遺産登録運動が行われている。 1993年、日本が世界遺産条約を批准して以降、世界遺産への社会的認知度は徐々に高まり、現在 に至るまで日本全国で文化遺産の世界遺産登録運動が盛んとなっている。このような中、本講義で は、そもそも文化遺産とは何か、文化遺産を保存するとはどういうことか、文化遺産と観光はどう関 係するのか、考えてみたい。 第8講義 『摂津名所図会』にみる四天王寺と住吉大社 江戸時代の観光案内書ともいえる『摂津名所図会』(秋里籬島作、1796・98刊)が、どのように利用さ れ、そこに、大阪観光の大きなポイントである四天王寺と住吉大社はどのように紹介されていたのか を読み解きく。それらの記述を踏まえて、江戸時代の四天王寺と住吉大社における年中行事とそこ に集った人びとについて考えてみたい。 第9講義 平安人の観光 平安時代には純粋な観光はありませんでした。代わりに観光的な楽しみを見出していたのが、寺社 への参詣の道中や、国司に任命された国と都を行き来する家族での長い旅です。平安人が味わい 感動した風景や体験を、『蜻蛉日記』『源氏物語』や和歌資料に基づき、明らかにしていきます。 第10講義 西国三十三所観音巡礼と文学 中世後期に盛んとなる西国三十三所観音巡礼の前提には、平安期に伝播した観音信仰寺院伝承 が前提になっています。そのいくつかを紹介するとともに、最初期の巡礼順序伝承についても考察 し、同巡礼成立の過程とその意義についてお話ししようと思います。 第11講義 アニメの「聖地巡礼」の光と影 聖地巡礼といえば、お遍路さん(四国八十八ヶ所)のような宗教的なスポットを順番に訪れるものを 思い浮かべるでしょう。しかし近年では、マンガやアニメなどのファンが、作品の舞台となった場所を たずね歩くという活動が「聖地巡礼」と呼ばれ、脚光を浴びています。ファンのみならず、マンガ・アニ メの制作会社や地域社会などの思惑が複雑に絡み合うこの「聖地巡礼」について詳しく紹介しつつ、 その可能性と限界について考えます。 第12講義 日本社会の未来と観光 工業化と脱工業化、サービス経済化という産業構造の変化を踏まえれば、多くの日本人の活動にお いて観光の占める位置が拡大していくのは必然であり、多くの日本人はこれから観光行動と隣合わ せで生活することになるかもしれない。本講義では、講座全体の内容を踏まえ、「観光」という行動が 実際に現代日本社会においてどのような地位を占め、社会をどのように変えていくのか、日常生活 の変化と関連させつつ考えていきたい。 2
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