若林大輝 - 愛知学院大学 薬学部 医療薬学科

平成 28 年度 卒業論文「Thalidomide 誘導体と 15 族有機金属化合
物のマトリックスメタロプロテアーゼ産生阻害活性」
愛知学院大学薬学部医療薬学科
生体有機化学講座
11A168 若林 大輝
細胞外マトリックスタンパク分解酵素は血管新生や血管形成において重要な役割を果
たしている。マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase: MMP)は、主と
してコラーゲンをはじめとする細胞周辺の細胞外基質(extracellur matrix, ECM)の分解に
関与するタンパク質分解酵素である。特にそのコラゲナーゼ活性は、細胞の増殖と運動の
制御因子として重要であり、がんの増殖と浸潤、血管新生などに必須の役割を果たしてい
る。MMP はその強力な細胞機能制御活性の故に、酵素の発現、活性制御と不活性化、局
在など極めて厳密な制御を受けており、その仕組みの解明は、当該分子の機能を制御し、
がんをはじめとする治療への応用の糸口を与えている。そこで本研究では、MMP 阻害薬
のリード化合物を見出すために thalidomide 誘導体及び 15 族有機金属化合物に着目した。
Thalidomide は、腫瘍血管の新生を促進する VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)の
産生や活性を制御することで血管新生を阻害することが解明されている。一方、15 族有
機金属化合物は、中心に金属元素を含む化合物であり、高い立体選択性、位置選択性を備
えた反応が実現されており、抗がん剤、抗ウイルス薬など様々な分野で有機金属化合物を
用いた研究が行われている。本研究では、thalidomide 及びその誘導体、15 族元素 Sb 及び
Bi を含む有機金属化合物の潜在的な MMP 阻害効果を探索した。
MMP 産生阻害効果は、Gelatin zymography を用いて行った。MMP 分泌能力の高い
HT-1080 細胞をマイクロプレートリーダーの各ウェルに播種し定着させた後、試料を添加
し 48 時間曝露させた。この培養上清を用いて Gelatin zymography にて MMP 産生阻害効
果を検討した。HT-1080 細胞対する thalidomide 及びその誘導体の MMP-2 産生阻害率が
60%以上かつ殺細胞率が 20%未満の化合物は 15 検体中 0 検体であった。一方の 15 族有機
金属化合物では、34 検体中 2 検体(YAK13-06、YAK13-08)であった。これら 2 つの化
合物は中心金属として Bi を有し、YAK13-06 は-PhMe3、YAK13-08 は thiophene の三置換
体である。ヘテロ環 Bi 化合物は細胞周期を停止させることが報告されているが、MMP
産生阻害や抗転移活性などは報告されていない。
これら化合物の作用機序を解明すること
により有機金属化合物の有用性が更に高まると思われる。