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今に見ていろ10
腐女子 作
物語重視すると話数が多くなる...。でもちゃんとハッピーエンドにはする。話がややこしくなりすぎてつらいよ
ー
夜になると、時間通り社長が副社長室にやって来た。今夜は、社長と居
酒屋で飲む約束をした。そうたが会社を休んで4日目のことだった。
それにしても、岡本...彼はやけに引っかかる。岡本もそうたが好き
だというのを知った時、僕は焦った。
あいつは実質、僕よりもそうたと長く過ごしている。別に、そうたとは
もう何もないのに...。
今日は社長の話に付き合うだけ。それ以上の接触はしない。
席を立って、お辞儀をする。
﹁そんなに硬くならなくてもいいよ。仕事はもういいの?明日の企画は
もう出来たの?...そうか。君は優秀だな。﹂
夜の繁華街を社長の後をつけて歩いて行くと、一軒の居酒屋に辿り着い
た。
こういう所、いつかそうたと行きたいな...って、何考えてんだ。そ
うたとはもう何にもないのに。
今は社長と楽しむだけだ。寂しさを酒で紛らわせて、飲もう。
それから、社長とは会社の愚痴を言い合ったり、酒を注ぎあったりして
どんどん時間が過ぎていった。
日本酒を飲みすぎて、だんだん自分が何を考えていっているのか分から
なくなってきた。
﹁うぅー...そうたの馬鹿ぁ...ぐすっ。﹂
﹁あぁ...どうしよう。完全に酔い潰れてるし、家まで送るか。けい
くん、住所を教えてくれないか...?﹂
﹁父さん...母さん......っ﹂
﹁参ったなぁ...。よし、私の家で寝るといい。そしたら、私はソフ
ァーで寝ればいいし。けいくん、立てる...?﹂
﹁んん∼?んふふ...﹂
けいくんは上機嫌だ。ああ...今日こそけいくんに私の気持ちを打ち
明ける筈だったのに。
やはり、彼にはそうたくんが必要なのかもしれないな...。
家に着くと、けいくんを予定通り自分のベッドに寝かせ、私はソファー
で横になった。電気を消しても、眠ることが出来ない。
好きな人が目の前にいるのに、届かない。けいくんのしゃくり泣く声が
寝室から聞こえていた。心配になり見に行くと、けいくんはうずくまっ
て一人で泣いていた。ハンカチで溢れ出る涙を拭い、毛布を掛けなおし
た。
こんな時、そうたくんならどうやって慰めるのだろう。きっと、抱擁し
て安心させる。それから、キスをして、優しく抱いてやるのだ。
けいくんの体はきっと華奢で色白く、噛まれた所はことごとく赤に染ま
り、甲高い喘ぎ声を出して身をよがらせながらも相手を求めるに違いな
い。
...ダメだな。勝手に人の関係を想像してしまっては。けいくんの頭
を暫く撫でていると、泣き止んだ。
彼は子どもがそのまま大人になったような性格をしている。いつもは大
人に見えても、ちょっとした拍子に子供のような幼稚な所を見せる。
私が彼を好きになったのは、そういう所を守ってあげたいと思ったから
だ。
でもそれも今日で終わりにしよう。
けいくんの心の中はそうたくんのことでいっぱいだ。そうたくんもけい
くんも、予想以上に疲れきっている。誰かがこの二人をなんとかまた一
緒にしてやらないと、駄目になってしまう。
それにしても、岡本くんは一体何を企んでいるのだろうか。
そうたくんが会社を休んでからは毎日定時には仕事を済ませ、いつもよ
り早い時間に帰っている。そうたくんに何かあったのだろうか。その前
にそうたくんと連絡が取れなくなった時も彼は早めに帰宅した。
彼は何かとそうたくんと関わりがある。岡本くんには悪いが、明日は彼
の身の回りのことを調べる必要があると考えた。
足元では愛猫のチャコが頬を擦り付けている。チャコを抱き上げ、その
日はソファーで1日の終わりを過ごした。
次の日、そうたくんは会社に復帰していた。表情は重いように見える。
というか、怯えている...?はたから見ても只ならぬ様子だった。会
社に復帰する前に何かあったのだろうか。
近付いても挨拶はない。普段なら笑顔で挨拶してくるものだが、どうし
たことだろう。
その日の定時時間、そうたくんと一緒に帰ろうとする岡本くんを見かけ
た。私は仕事をそっちのけで二人の後を付けた。
タクシーで追っていると、一本の電話が掛かった。
けいくんだった。
﹁社長...すみません。今どちらにいらっしゃいますか。﹂
﹁それが...﹂
言いかけてやめた。何て言えばいいのだろう。二人を追っているだなん
て言ったら頭がおかしいと思われるに決まっている。岡本くんは言動・
行動ともに怪しいが、まだ私がそういう場面を見たわけではない。
私がけいくんと付き合えるチャンス?そんなのどうだっていい。今はそ
うたくんとけいくんが幸せになれるよう全力を尽くしたい。
﹁ちょっと...用事があってな。君だって、急な用事じゃないだろう?﹂
﹁いえ、まあ...。申し訳ありませんでした、突然。﹂
﹁いいんだ。それじゃあ、また後で。﹂
ピッ...
﹁運転手さん、急いで。﹂
﹁はい。承りました。﹂
額から変な汗が出る。これから何もないといいんだが...。
気付かれないよう、途中で降りてマンションに入っていくのを眺めた。
やはり、そうたくんは俯いている。岡本くんに引っ張られながら二人は
中へと消えていった。
付近にいた住人に声をかける。
﹁すみません、少しお伺いしたいのですが...お時間いただけません
でしょうか。﹂
﹁ええ、なんでしょう。﹂
﹁天野 相太という男を知っていますか?﹂
﹁知っていますよ。あのハンサムな方でしょう?﹂
﹁そうです。それで...何か最近その男について気付いたこととか、
些細なことでいいんです。教えていただけませんか?﹂
﹁ええと...一週間前とここ最近、同じ男の人が彼の家を訪問するの
を見たことがあります。それと...﹂
﹁それと?﹂
﹁いえ...私個人の意見なんですけどね。なんだか、男同士では仲が
あまりに良すぎるんじゃないかって思ってた所なんですよ。ここ何日か
はずっと同じ人が彼の家に通っているんです。これは噂だけど、二人、
付き合ってるとかないとかで...﹂
﹁色々教えていただき、ありがとうございます。﹂
﹁あなた、探偵さん?お疲れ様。これどうぞ。﹂
そう言われて受け取ったのはみかんだった。お辞儀をして彼女と別れる
と、日が暮れているのに初めて気付いた。
そろそろ帰らないと仕事がまだ山済みだ。けいくんも何か用事があるら
しい。
待たせていたタクシーに戻り、会社へと向かった。
社長室に戻ると、数分後にけいが部屋に訪れた。
何も言わずに頭を下げ、ツカツカと私が座っている机までやってくると、
持っていた資料を渡してきた。
﹁すまないな、迷惑をかけて。明後日の出張は君も来ることになってる
から、きちんと準備をしていてくれ。﹂
﹁はい。あの...さっきはどこへ..,﹂
﹁君が心配するような問題じゃない。ちょっと出かけただけだ。﹂
﹁言ってください...先程はどちらへ。﹂
けいくんの目はいつになく真剣だった。ゴクリと唾を飲み、全てを話し
た。
話し終えると、彼は俯いて静かに話し出した。彼も岡本に、そうたが好
きなことを告白されたらしい。そして、どうして彼はそうたくんへの想
いを断ち切れないのだと教えてもらった。
私と同様に彼も岡本に疑念を抱いていたのだ。この日、私とけいくんは
今に見ていろ10
協力してそうたくんの身の回りを調べるために立ち上がった。
もう少しで終わる。
掌編︵3,196文字︶
小説
2016−10−06
2016−10−06
腐女子
今に見ていろ10
作
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星空文庫
Copyrighted ︵JP︶
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