シンポジウム3 当院救命センターにおける学生の教育の現状と今後の課題 1 佐賀大学医学部附属病院救命救急センター 本村 友一 1、 瀧 健治 1 佐賀大学医学部附属病院(600 床)は昨年9月、 救命救急センターの認可を受け、「佐賀大学附属病 院救命救急センター(30 床)」として始動した。同 センターは、佐賀県(県民 88 万人)の県庁所在地で ある佐賀市(市民 20 万人)に位置している。 市内には他に県立病院 好生館(541 床)が当院 同様3次救急を担っている。 平成17年度の当院 ER 受診者数は 7293 人(うち 小児症例 2087 人)(1 日平均 20.0 人)、救急車搬入 数は 1687 台(1 日平均 4.6 台)、CPA 搬入数は 73 例 であった。ER では、医師・看護師共に 2 交代制 で、日勤帯は救急スタッフ医師3∼4名と研修医3 名及び看護師 2 名、夜勤帯は救急スタッフ医師 1∼ 2名と研修医 2 名及び看護師 2 名が勤務している。 さて、当院救命センターでは、医学部 5 年次の学 生実習を年間約 100 名受け入れている。学生たちは 5 名のグループで実習を行う。救急科の実習は全体 でわずか 10 日間であるが、うち 5 日間を教育協力施 設である市中病院での救急実習に当てている。これ は、主に 3 次救急を担う大学 ER での研修のみでは 疾患疫学を正しく認識できないことを考慮している。 1∼3次救急に幅広く対応する市中病院での実習に て、救急患者の疾患疫学を正しく認識すると共に、 より多くの症例を体験してもらうこととしている。 また、残りの 5 日間には当院 ER 及び救命センタ ーにて研修医業務への密着及び救急車同乗実習を当 てている。合間を見て学生対象の短時間レクチャー (ACLS・ICLS・外傷初期診療など)を行い、また 研修医・看護師対象の定期学習会へも参加させてい る。 研修医密着実習では、なるべく傍観者にならぬよ うに、常に診療に可能な範囲で参加協力をさせてい る。手足頭を動かし診療に協力をすることで、学生 と患者とのコミュニケーションもスムーズに行われ、 学生にも責任感が生じて疾患・診療へ興味が深まる ことが多い。実習後のアンケート調査でも、診療に 参加する機会に恵まれた学生の方が、実習をより充 実したものと感じており、救急医療への興味も大き いようである。 実習期間中、市内の消防署にて夜間の救急車同乗 実習を行う。 学生の ACLS 活動については、別に行う救急学講 義での座学のほか、病棟実習時のレクチャーでも体 を動かしながら学ぶ機会を設けている。救命センタ ー主催で行っている院内の ICLS コースは学生であ ってももちろん受講することは可能で、例年数名の 学生が同コースを受講している。また、学年末の試 験として 4 年次末に BLS、 5 年次末に ACLS の OSCE が行われている。 問題点や今後の課題もある。当院救命センターに おける実習期間が短く、症例数も限られていること や、3 次救急施設であるが故にやむを得ず1∼2次 症例をトリアージし他院へ紹介せざるを得ない実情 が学生達には理解できず、大学病院の救命センター が消極的に映っている様子である点も非常に残念で ある。 日本では、学生・研修医・スタッフ等への教育活 動が一般的に評価されにくい現状がある。教育行為 は医療従事者のわれわれにとっては、仕事の合間の 貴重な空き時間を利用して行う大変な行為であるこ とも確かである。しかし、より良い医学生教育が次 世代の医師達の知的好奇心に答え、一人でも多くの 学生に救急医療についての理解・興味を深めてもら い、新しい救急医が生まれる事を切に願う。
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