三津原弘絵 - 愛知学院大学 薬学部 医療薬学科

平成 28 年度 卒業論文「ミャンマー産植物抽出エキスを用いた悪性
中皮腫に対する抗腫瘍活性のスクリーニング」
愛知学院大学薬学部医療薬学科
生体有機化学講座
10A141 三津原 弘絵
中皮細胞から発生するがんを中皮腫といい、その発生する場所によって胸膜中皮腫、腹
膜中皮腫などに分けられる。中皮腫は、臨床上特徴的な症状はなく、早期発見が難しい病
気である。発生原因はほとんどがアスベストの暴露である。アスベストを扱う労働者だけ
でなく、労働者の家族やアスベスト関連の工場周辺の住民にも発生しており、アスベスト
による暴露が多いほど、またその期間が長いほど発症の危険性は上がる。アスベストを吸
ってから中皮腫が発生するまで約 25~50 年かかると言われており、今後も患者数が増加す
ると考えられる。悪性胸膜中皮腫は、胸膜の肥厚や多数のしこりとして発見されるため、
外科療法の適応になることは少なく、多くの場合化学療法が治療の候補となる。
悪性胸膜中皮腫に対する化学療法の中心的薬剤は、ペメトレキセドで、これにシスプラ
チンを組み合わせた併用治療が標準的治療として用いられる。ペメトレキセド+シスプラ
チン療法による奏効率は約 40%ほどである。ペメトレキセドは、DNA 合成を阻害して抗
腫瘍効果を発揮する。シスプラチンは、DNA に架橋反応をおこすことで DNA 鎖がほど
けなくなり、細胞分裂が阻害される。中皮腫に対しては、植物由来アルカロイド誘導体の
ビノレルビンを用いた治療法が確立されつつある。このように植物成分は、新しい骨格を
有する化合物が見い出される可能性があり、新規抗がん剤のシードとして未だに注目され
ている。
本研究では、ミャンマーの植物から抽出したエキス 100 検体を用いて、MTT アッセイ
による抗腫瘍効果の検討をし、新たな悪性中皮腫の治療薬に繋がる可能性のある化合物の
探索を試みた。実験の結果、25 検体に抗腫瘍効果があると判断した。これらの内、M-34-S、
M-46-L、M-74-W、M-120-S、M-151-L、M-180-B の 6 検体は、強い抗腫瘍効果を示した。
6 検体の内、M-46-L (Croton laevigatus)、M-180-B (Phyllanthus emblica)は、検討した全ての
細胞腫でも高い抗腫瘍効果を示し、中皮腫に対して高い抗がん作用を有する化合物を含有
する可能性が非常に高いと考えられた。
今回の研究で、抗腫瘍効果があった 6 検体については、今後 IC50 値を求め、より詳細
な抗腫瘍効果を明らかにしたり、他の悪性中皮腫細胞や別のがん種に対する効果を明確に
したい。また、今研究では悪性中皮腫を標的として研究を遂行してきたが、この様に特定
のがん種にのみ効果がある可能性を考慮して、研究を進めていくことで新たな抗がん剤の
開発だけでなく、がん種特異的な性質をも解明できると思われる。