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平成28年9月号
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今月のシンガポールトピックス
「シンガポールの大統領制度」
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今月のバンコクトピックス
「ベトナムの物流インフラについて」
千葉銀行
シンガポール駐在員事務所
バンコク駐在員事務所
今月のシンガポールトピックス
「シンガポールの大統領制度」
8 月 22 日にシンガポールのナザン前大統領が亡くなり、多くの国民が国葬に参列し
ました。ナザン氏は 12 年間と歴代で最も長く大統領職に在任し、国民に非常に愛され
た大統領として知られています。また、ナザン氏は日本語が堪能な親日家としても知
られ、日本とシンガポールの友好関係の発展に尽力されました。日本からは安倍首相
が弔問に訪れ、冥福を祈りました。
今回のシンガポールトピックスでは、シンガポールの大統領制度をレポートしてま
いります。
1. 大統領制度の歴史
1955 年、イギリスの直轄領であったシンガポールに部分自治権が認められました。
その際、「シンガポール憲法制定会議」が開かれ、「イギリス女王の代理」として
「Yang di-Pertuan Negara(マレー語で「元首」)」の設置が提案されました。
その後、1958 年に「シンガポール自治州憲法」が制定され、元首が正式に置かれま
した。この「元首」が現在の大統領のルーツと言われています。そもそも象徴的な位
..
置づけである「イギリス女王」の代理であり、シンガポールの「元首」も象徴的な意
味合いとして置かれました。
その後、「シンガポール自治州憲法」は、1965 年のシンガポール独立にあたって
「シンガポール共和国憲法」へと修正され、「元首」は「大統領」へと名前こそ変わ
りましたが、その存在は脈々と受け継がれていきました。
2. 大統領の役割(権限)と候補者資格
シンガポールは独立時に共和制を選択し、「シンガポール共和国」となりました。
シンガポールは、この共和制において、行政府の長として「首相」を置きつつ、元首
として、実際の統治権を保持しない「大統領」を置いています。
「大統領」は象徴的な存在とされ、能動的な行政権は保持していない一方で、首相
や内閣が暴走した場合に備え、様々な差止権限を保持する牽制機能としての役割を担
っています。ただし、現在まで、牽制機能を発揮する場面はなく、象徴的な存在とし
ての役割だけを担っています。
1
ここで、大統領の役割、権限とその候補者資格を見ていきましょう。
(1) 主な役割(権限)
⃞ 象徴的存在としての役割
 儀式及び外交において、シンガポール元首としての役割
・国会の開会宣言
・首相、閣僚、最高裁長官等の要職の任命儀式への出席
・各種褒賞授与
等
⃞ 差止権限※
 大統領諮問会議を経たうえで差し止める権限
・前政権までに積み立てられた準備金の取崩し
・単年度支出法案可決前の支出決議
・首相、閣僚、最高裁長官等の要職の任命
等
 大統領が単独で差し止める権限
・議会の解散
・大統領の権限を縮小する法案や国民投票で 2/3 以上の指示を得ていない
憲法改正案の提出
等
※ 具体的には、拒否権、同意留保、承認留保、不承認などの様々な名称で差止権限が
与えられています。
(2) 主な候補者資格
⃞ 45 歳以上、かつ政党員(在任中)でないシンガポール国民
⃞ 大臣、主席裁判官、国会議長、法務長官、公務委員会委員長、会計検査院長
官、財務長官、事務次官など指定された職に 3 年以上あった者、または資本
金 1 億シンガポールドル以上の会社の取締役会会長もしくは代表取締役等
総じて言うと、政界に長年従事していた者、法律分野に長年の経験を有する者、
または大企業の代表者に限定されています。
(出典:シンガポール大統領府ホームページ(http://www.istana.gov.sg))
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3. 歴代大統領
大統領の任期は 6 年で、従来は国会により選出されていましたが、1991 年に憲法が
改正されて、シンガポール国民による直接選挙によって選ばれるようになりました。
実際に初の大統領選出の直接選挙が行われたのは 1993 年で、オン・テンチョン大統領
が選ばれました。歴代の大統領は以下の通りです。
氏名
在任期間
1. ユソフ・ビン・イサーク
1965 年 8 月 9 日~1970 年 11 月 23 日
シンガポールドル紙幣に肖像が印刷されています。
2. ベンジャミン・ヘンリー・シアーズ
1971 年 1 月 2 日~1981 年 5 月 12 日
3. C.V.デヴァン・ナイール
1981 年 10 月 24 日~1985 年 3 月 28 日
4. ウィー・キムウィー
1985 年 9 月 2 日~1993 年 9 月 1 日
5. オン・テンチョン
1993 年 9 月 1 日~1999 年 9 月 1 日
1999 年 9 月 1 日~2005 年 9 月 1 日
6. S.R.ナザン
2005 年 9 月 1 日~2011 年 9 月 1 日
7. トニー・タン・ケン・ヤム
2011 年 9 月 1 日~現在
(出典:シンガポール大統領府ホームページ(http://www.istana.gov.sg))
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4. 大統領選挙制度の見直し
シンガポールでは、来年 8 月に大統領選挙が予定されています。
今年に入り、大統領候補の資格等の見直しや少数民族出身の大統領を選出する必要
性について、様々な議論や検討が行われています。8 月 21 日に行われた首相の施政方
針演説(ナショナル・デー・ラリー)において、リー・シェンロン首相自らも見直し
の必要性について言及しました。
9 月 7 日、シンガポールの憲法委員会は、大統領選挙制度改正に関する勧告を発表し
ました。勧告では、大統領候補の資格を厳格化するとした一方で、少数民族出身の大
統領選出について、ある民族からの大統領選出が 5 期連続、つまり 30 年間選出されな
かった場合に、その民族の候補者だけが立候補できるようにするとしています。
シンガポールでは、民族グループを多数民族の「中華系」、少数民族の「マレー
系」・「インド系・その他」に分類しています。マレー系大統領は、ユソフ・ビン・
イサーク初代大統領以降は選出されていないことから、次回の大統領選挙ではマレー
系候補者のみが立候補できることになります。
5. おわりに
大統領選挙制度改正の動きに見られるように、多民族国家であるシンガポールでは
少数民族も含めた民族間のバランスが非常に重要視されています。
シンガポール国民に対するアンケートによれば、50%以上が他民族の大統領を容認
すると回答する一方で、自分或いは家族の結婚については、80%以上が同一民族との
結婚を志向していると言われています。違いを認めながらも、自分のルーツを大事に
するといったことでしょうか。日本も自国の文化を大切に残し、継続しつつ、海外の
よいところは取り入れていく必要があるのではないかと感じます。
千葉銀行シンガポール駐在員事務所は、今後も、シンガポールを初めとした ASEAN
地域の様々な情報をご提供してまいります。お気軽にご相談ください。
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今月のバンコクトピックス
「ベトナムの物流インフラについて」
近年、ベトナムでは、低廉で豊富な労働力や好調な経済成長等を背景に、企業の進
出が活発になっています。新興国への海外進出の際、賃金や経済情勢に加え、インフ
ラ整備も重要なポイントとなります。道路や空港、港湾が整備されていなければ、物
流コストや納期に影響を及ぼすことになるからです。
今回のバンコクトピックスでは、ベトナムのインフラについてレポートいたします。
1. ベトナムのインフラ環境について
日本はベトナムのインフラ整備に深く関わっています。日本の ODA(政府開発援助)
を通じて、空港、橋、港湾、高速道路等が建設されており、ベトナムにとって日本は
最大の ODA 実施国となっています。
(1) 空港
ベトナムの主要都市であるハノイ市(北部)、ハイフォン市(北部)、ダナン市
(中部)、ホーチミン市(南部)には、国際空港があり、近年利用者数が増加してい
ることから拡張工事などが行われています。
ハノイ市のノイバイ国際空港では、2014 年 12 月に第 2 ターミナルが建設され、ハイ
フォン市のカットビ国際空港は、拡張工事を経て、2016 年 5 月に国内空港から国際空
港に格上げされました。
ホーチミン市のタンソンニャット国際空港の年間利用者数は、2015 年時点で既に同
空港の処理能力を超えていることから、ホーチミン市に隣接するドンナイ省に新たに
ロンタイン国際空港の建設が計画されています。
また、ダナン市のダナン国際空港でも、2017 年に開催されるアジア太平洋経済協力
会議(APEC)に合わせて新国際線ターミナルを開業予定であり、建設工事が進んでい
ます。
(2) 港湾
ベトナムは南北に長く、海に面している部分も多いため、多数の港湾を有していま
す。主要な港湾は以下の通りです。
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【ベトナムの主な港湾】
北部
ハイフォン港、ティンブー港、カイラン港等
中部
ダナン港、クイニョン港、ニャチャン港等
南部
サイゴン新港、サイゴン港、ベンゲ港、フーミー港、ドンナイ港等
北部では、ハイフォン市において新しい港湾(ラックフェン港)の建設が進められ
ており、2017 年に開港予定です。同港は水深 14m の大深水港となり、今までは入港が
難しかった 10 万トンクラスの大型船の寄港が可能になる見通しです。
(3) 鉄道
ベトナムには南北を繋ぐ鉄道があるものの新幹線のような高速鉄道はなく、ハノイ
からホーチミンまで(約 1,730km)は、旅客で約 30 時間、貨物で 48~72 時間を要しま
す。
各都市において、都市内を移動するための都市鉄道(メトロ)は現状ありませんが、
ハノイでは 2016 年末に都市鉄道 2A 号線(※1)が、ホーチミンでは 2020 年に都市鉄
道 1 号線(※2)が開通予定です。なお、ホーチミンの都市鉄道 1 号線の建設プロジェ
クトには、日本の ODA が実施されています。
(※1)ハノイ市内のドンダー区~ハドン区を繋ぐ約 14km の高架鉄道。
(※2)ホーチミン市内の 1 区~9 区を繋ぐ約 20km。計 14 駅のうち、ホーチミン市中心部の 3 駅
は地下鉄、残りの 11 駅は高架鉄道。
(4) 道路
主な幹線道路は、下記の通りです。
【ベトナムの主な港湾】
国道 1 号線
ハノイ~ホーチミン(約 1,800km)
所要日数は約 3 日。
国道 5 号線
ハノイ~ハイフォン港(約 130km)
所要時間は約 2 時間。
国道 18 号線
ハノイ~カイラン港(約 160km)
所要時間は約 3 時間。
国道 22 号線
ホーチミン~タンニン省(約 59km)
国道 51 号線
ホーチミン~ブンタウ(約 73km)
東西経済回廊
ダナン~ラオス~タイ~ミャンマー
南部経済回廊
ホーチミン~カンボジア~タイ
ハノイ~ハイフォン高速道路
ハノイ~ティンブー港(約 105km)
所要時間は約 1 時間。
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今後、南北高速道路(ハノイ~ホーチミン~カントーの 1,811km)の建設プロジェク
トを始め、渋滞緩和を目的としたハノイ環状道路、ホーチミン環状道路等、様々な道
路建設プロジェクトが計画されています。
2. 近隣国との物流インフラ整備計画について
ベトナムは、日系企業の主な進出先である中国とタイに近く、両国から部材を調達
しやすい位置にあります。海にも面している部分が多いことから、海運でのアクセス
が容易であることも強みとなっています。
また近年は、「東西経済回廊」や「南部経済回廊」の整備により、カンボジアやタ
イへの陸のアクセス改善も期待されています。
【ベトナムと周辺国との国際物流ルート】
ハノイ~バンコク
トラック:3~4 日
船
:7~13 日
ハノイ
ハノイ~ホーチミン
トラック:4~5 日
船
:3~4 日
南
北
回
廊
東西経済回廊
ダナン
南部経済回廊
ダナン~ハノイ
トラック:2~3 日
船
:2~3 日
バンコク
ホーチミン
プノンペン
(注)車(トラック)と船の所要日数及びコストは目安
(出所)外務省 HP、ジェトロ資料等より作成
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ホーチミン~バンコク
トラック:3 日
船
:2 日
3. さいごに
ベトナムは、工業化を推し進めており、基幹製造業や裾野産業の育成とともに、イ
ンフラについても積極的に整備を進めています。
現在のベトナムの物流コストは、GDP の 15~20%に相当し、先進国の 2 倍近い水準
と言われています。特にハノイとホーチミンを結ぶ物流については、主に鉄道、トラ
ック、海運の 3 つの手段がありますが、いずれの輸送コストも高くインフラ整備の改
善を必要としています。
現在、多くのインフラ案件の計画があり、今後ベトナムの物流網は徐々に発達して
いくと期待されています。
バンコク駐在員事務所では、今後も、タイやミャンマーなど ASEAN 地域の政治・
経済の情報についてご提供するとともに、現地法人設立の手続きやオフィス・工場
物件のご紹介、税制等の情報、販路・調達先などについてお気軽にご相談ください。
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アセアンニュース短信
医療観光ハブを目指すマレーシア
【マレーシア】
マレーシアは医療観光、いわゆる“メディカルツーリズム”を国として推進してい
ます。医療観光とは、居住国以外の国や地域を訪れて治療や手術、検診などの医療サ
ービスを受けることを言い、東南アジアではシンガポールやタイがメディカルツーリ
ズム先進国と言われています。マレーシアはメディカルツーリズム後発国ではありま
すが、年々成果を上げています。
2015 年には 85 万人もの医療観光客を受入れ、その収入は 9 億リンギ(約 223 億円)
にも上りました。今年は、医療観光収入を 13 億リンギ(約 323 億円)と昨年の約 1.5
倍に増加させると発表しています。
マレーシアの医療観光の特色としては、第一に医療費の安さが挙げられます。治療
費や入院費が低額であり、手術費はシンガポールの半額、比較的安いタイに比べても
更に 10%程度安いと言われています。
その他、マレーシアの医療観光はハラル分野でも注目を集めています。例えば、豚
由来のインシュリンを牛由来原料で製造したもので代用したり、手術用縫合糸もイス
ラム法に則って処理された羊を原料としたものとしたりするなどのハラル対応を行っ
ています。また、メッカ巡礼時に義務付けられている髄膜炎ワクチン接種に対応する
為、世界初となるハラル対応髄膜炎ワクチンと肝炎ワクチンを 2017 年までに開発する
予定です。
タイ 2016 年第 2 四半期の実質 GDP 成長率
【タイ】
%
8 月 15 日、国家社会経済開発委員会は、
2016 年第 2 四半期(4-6 月)の成長率(速報
値)を前年同期比+3.5%と発表しました。
需要項目別にみると、「消費」では農家所
得の改善を背景として民間消費が好調な反面、
政府消費は低迷し、消費全体の寄与度は前年
並(+2.4%)となりました。
12.0
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
-2.0
-4.0
-6.0
タイ実質GDP成長率推移
5.4
2.9
2.7
0.9 1.0 2.1
0.6
3.0 2.7 2.9 2.8 3.2 3.5
-0.4
Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2
2013
2014
消費
純輸出
2015
2016
総固定資本形成
実質GDP成長率
「投資(総固定資産形成)」では、鉄道・
治水などの公共投資が堅調な反面、民間投資の低迷から、寄与度は+0.7%と前期(+
1.2%)より低下しました。
また、「純輸出」では、輸出・輸入ともに低調だった結果、純輸出の寄与度は前期
(+6.7%)を大きく下回りました(+2.0%)。
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お知らせ
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への進出等を全面的にサポートしております。
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先のご紹介など、幅広いサービスを提供させて頂いておりますので、弊行お取引店を
通じ、お気軽にご相談ください。
以
上
※ここに掲載されているデータや資料は、情報提供のみを目的としたもので、投資勧誘等を
目的としたものではありません。投資等の最終決定は、ご自身の判断でなされるようお願
いいたします。
※また、弊行は、かかる情報の正確性や妥当性については、責任を負うものではありません。
本レポートに関するお問い合わせは、千葉銀行 市場営業部 海外支店統括グループ
(Tel:03-3270-8526、e-mail:[email protected])までお願いいたします。
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