生 物 1 生物の特徴と細胞分裂(30 点) 解答・配点 4点(各2) 問1 1 べん毛 2 細胞膜 問2 ⑴ Ⅱ 3点 ⑵ 3点 問3 ⑴ 固定 2点 ⑵ 個々の細胞どうしを離れやすくするため。(19 字) 3点 ⑶ 20 分 3点 問4 分化 2点 3点 問5 問6 B 2点(完解) C 問7 ⑴ 6 時間 2点 ⑵ 3点 ●解説 問1 すべての生物のからだは細胞からできている。核をもたない細胞を原核細胞と いい,細菌類は原核細胞からなる原核生物である。原核生物の中には線毛やべん毛を もつものもある。一方,核をもつ細胞を真核細胞という。原核細胞と真核細胞とでは 内部構造が異なるが,細胞膜で包まれ,DNA をもつという点では共通している。 1 は,数が少なく長いべん毛である。 2 は,細胞質の最外層の膜を指して おり,細胞膜である。 問2 問題文より,沈殿Ⅰ∼沈殿Ⅳに含まれている細胞小器官の大きさや密度は, 重要 原核細胞と真核細胞の比較 細胞は原核細胞(大腸菌やシ アノバクテリアなどの細菌類)と 真核細胞に区別でき,さまざま な違いがみられるが,どちらも DNA をもち,細胞 膜で 包まれ ている。 真核細胞 動物 植物 沈殿Ⅰ > 沈殿Ⅱ > 沈殿Ⅲ > 沈殿Ⅳ となり,それぞれ種類の異なる細胞小器官が含まれていることがわかる。 原核細胞 細菌類 DNA ○ ○ ○ ⑴ DNA をもつ細胞小器官は,核,ミトコンドリア,および葉緑体である。多量の 細胞膜 ○ ○ ○ DNA が存在する沈殿Ⅰには核が含まれる。少量の DNA が存在する沈殿Ⅱと沈殿Ⅲ 細胞壁 × ○ ○ 核膜で包まれた核 ○ ○ × ミトコンドリア ○ ○ × 葉緑体 × ○ × のうち,緑色をした沈殿Ⅱに葉緑体,残りの沈殿Ⅲに酸素を消費するミトコンドリア が含まれていることになる。 ⑵ 誤り。遠心力をかけて沈殿した構造体より,沈殿せずに上澄みに残った構造 (○:あり ×:なし) 体の方が,大きさや密度が小さい。 誤り。前述のように,各沈殿に含まれる構造体の大きさや密度は,沈殿Ⅰ>沈殿 Ⅱ>沈殿Ⅲ>沈殿Ⅳとなっている。 正しい。沈殿Ⅱに含まれる葉緑体の方が,沈殿Ⅲに含まれるミトコンドリアより, 大きさや密度が大きい。 誤り。核は相対値 500 の遠心力で沈殿するので,より大きい相対値 1000 の遠心 力でも沈殿し,上澄みにはほとんど残らない。 問3 ⑴ タマネギの根端などを用いた体細胞分裂の観察において,酢酸とエタノー ルを 1:3 の割合で混合した液に 10 ∼ 15 分間浸す処理を固定という。固定の目的は, 細胞内の構造を,生きているときに近い状態に保つことである。固定の際に用いる液 を固定液といい,45 %酢酸などが用いられることもある。 ⑵ 固定した根端を,60 ℃に保った 3 %塩酸に約 1 分間浸す処理を解離という。解 離の目的は,細胞壁と細胞壁の接着をゆるめ,細胞どうしを離れやすくすることであ る。これにより,押しつぶす際に細胞が一層に広がりやすくなる。 − − 134 参考 体細胞分裂観察における処理と その目的 固定:細胞内の構造を生きてい るときに近い状態に保つ(酢 酸などの固定液を用いる)。 解離:細胞どうしの接着をゆる める(塩酸を用いる)。 染色:染色体を染色し,観察し やすくする(酢酸オルセイン 液などを用いる) 。 押しつぶし:細胞を一層に広げ, 観察しやすくする。 ⑶ 図4の a ∼ e を細胞周期の順に並べると以下のようになる。 e:間期 … 凝縮した染色体が観察されず,核がはっきり見られる。 c:M 期(前期)… 染色体が凝縮し,糸状に見えるようになる。 a:M 期(中期)… 染色体が赤道面に並ぶ。 d:M 期(後期)… 染色体が縦に裂けて分離し,両極へ移動する。 b:M 期(終期)… 染色体の形がくずれ始め,細胞質分裂が起こる。 細胞周期に対する各時期に要する時間の割合は,全細胞数に対する各時期の細胞数 の割合に等しい。観察された M 期の中期の細胞は 4 個,全細胞数は, 4 + 6 + 8 + 3 + 219 = 240(個) であり,細胞周期が 20 時間(1200 分)であるので,求める値は, 4 240 × 1200 = 20(分) となる。 問4 細胞が特定の形やはたらきをもつようになることを細胞の分化という。体細胞 分裂を経て増えた細胞は,すべて同じゲノムをもつが,細胞によって発現する遺伝子 を変えることでさまざまな種類の細胞へ分化し,多細胞生物のからだを構成していく。 問5 G1 期の細胞から G0 期に移行(分化)するときには DNA 量は変化しないので, DNA が複製されるので,S 期の始めから終わりにかけて核 1 個あたりの DNA 量が 増加し,G2 期の始めには 2 倍に増えている。すなわち,G0 期の DNA 量を 1 とする ∼ のチェックに の DNA 複製が正常に完了しているか のチェックは,DNA 複製を行う S 期のあとである G2 期付近と予想される。同様に, のすべての染色体が赤道面に並んでいるかのチェックは M 期の最中, の DNA 複製に必要なヌクレオチドなどの物質が十分にあるかのチェックは S 期の前である G1 期付近と予想される。よって,チェックポイント A が ,B が ,C が となる。 問7 ⑴ 【実験1】より,S 期の始めから G2 期の終わり,すなわち S 期+ G2 期の 時間が 11 時間,G2 期の始めから G2 期の終わり,すなわち G2 期の時間が 5 時間と わかる。よって,S 期の時間は 11 − 5 = 6(時間)となる。 誤り。 【実験2】と【実験3】で,S 期の始めにある細胞どうし,G2 期の始 めにある細胞どうしを融合処理しても,それぞれ処理していない場合と同様に 11 時 間後と 5 時間後に M 期に移行しており,M 期への移行は遅れてはいない。 ・ 1 分裂期 問6 細胞周期の各時期に起こることをもとに,問いで示された ⑵ % /2 " 0 と,G1 期は 1,S 期は 1 ∼ 2,G2 期は 2 となる。 矛盾なくあてはまるものを探すことになる。 重要 体細胞分裂と DNA 量の変化(核 1 個あたり) ︵相対値︶ 量 G0 期と G1 期の核 1 個あたりの DNA 量は同じとなる。また,細胞周期では,S 期に 正解への Point 問3の⑶は, 「各時期に要す る時間=(各時期の細胞数/全 細胞数) ╳細胞周期に要する時 間」で計算するが,細胞周期に 要する時間を 20 時間のままで 計算すると全細胞数 240 で割 り切れない。このような場合は, 20 時間をあらかじめ 1200 分 に直して計算するなどして,工 夫をすると間違いを起こしにく い。 誤り。【実験4】で,G2 期の核が M 期へ入るまでの時間はのびたが,S 期の 核が M 期に入るまでの時間は 11 時間のままで細胞周期の進行は速くなっていない。 また,G2 期の核はすでに S 期を終えており,M 期へ入るまでの時間がのびた理由は G2 期が長くなったためで,S 期が長くなったためではない。 正しい。【実験3】と【実験4】を比較すると,S 期の始めにある細胞との融合処 理である【実験4】のみで G2 期の核が M 期へ入るまでの時間がのびた。さらにそ の時間は,S 期の始めにある細胞が M 期に入るまでの時間の 11 時間と同じである。 このことより,S 期の細胞が G2 期の細胞の核に何らかの影響を与えたと考察できる。 前問の問6で,チェックポイント B では,DNA 複製が正確に完了しているかをチェッ クすることがわかったが,【実験4】では,融合処理した G2 期の核が,同じ細胞内 に存在する複製途中の DNA(S 期の核にある DNA)に由来する影響を受け,細胞周 期の進行が止められたと考えられる。 − − 135 G 1期 S期 間期 G2期 分裂期 G 1期 間期 2 生物の体内環境の維持(20 点) 解答・配点 問1 2点 問2 名称 グリコーゲン 3点(完解) 記号 問3 2点(順不同・完解) , 問4 A と B 腎小体(マルピーギ小体) C 細尿管(腎細管) 3点(完解) 問5 ホルモンの名称 バソプレシン(抗利尿ホルモン) 4点(各2) 内分泌腺の名称 脳下垂体後葉 問6 タンパク質 W 再吸収される割合が水に最も近い物質 Y 2点(完解) 問7 ⑴ 180 L 2点 ⑵ 162 g 2点 ●解説 問1 肺から送られてくる酸素を多く含む動脈血は,心臓の左心房に入り,左心室か ら全身に送り出される。また,小腸などの消化管から肝臓に流れ込む血液の通り道は 肝門脈(門脈)とよばれる。肝臓と十二指腸は胆管でつながっており,肝細胞のはた らきでつくられた胆汁は十二指腸に分泌されて体外へ排出される。 問2 小腸で吸収されたグルコースは,肝臓で物質 a(グリコーゲン。グルコースが 多数結合したもの)として貯蔵される。血糖濃度が低下すると,グリコーゲンはグル コースに分解され血液中に放出される。健康なヒトの血糖濃度はほぼ 0.1 %(100 mg / 100 mL)に保たれている。 問3 重要 肝臓のおもなはたらき ① 血糖濃度の調節(グリコー ゲンの合成・分解) ② 血しょう中に含まれるタン パク質の合成 ③ 尿素の合成 ④ 赤血球の破壊 ⑤ 解毒作用 ⑥ 体温の維持 ⑦ 胆汁の生成 誤り。胆汁にはタンパク質を分解する消化酵素は含まれていない。 正しい。赤血球は肝臓やひ臓で分解され,ヘモグロビンの分解産物(ビリルビン など)は胆汁に含まれて十二指腸から排出される。 誤り。タンパク質の分解によってアンモニアが生じるが,アンモニアは肝臓で毒 性の低い尿素に変えられ,腎臓から尿として排出される。 正しい。胆汁には脂肪を分解する酵素のはたらきを助ける物質が含まれており, 小腸での脂肪の消化・吸収を促進する。 参考 脂肪の分解 胆汁に含まれる胆汁酸は,食 物中の脂肪を細かい粒として消 化液を含む液中に分散させる。 これにより,脂肪を分解する酵 素リパーゼは脂肪と反応しやす くなり,分解が促進される。 正しい。食物が十二指腸に到達するとそれが刺激となり,胆のうが収縮すること により胆のうで濃縮・貯蔵された胆汁が放出される。 問4 毛細血管からなる A の糸球体と,糸球体を包みこむように存在する B のボー マンのうを合わせて腎小体(マルピーギ小体)という。血液が糸球体を通ると,血球 とタンパク質を除く大部分の成分がボーマンのうへろ過される。ろ過された液体を原 尿という。C の部位は細尿管(腎細管)で,原尿が細尿管を通過する間にグルコース や無機塩類などのからだに必要な物質が細尿管を取り巻く毛細血管中へ再吸収される。 問5 体液の濃度が高まり,濃度の高い体液が間脳の視床下部を流れると,脳下垂体 後葉からバソプレシンというホルモンが分泌される。バソプレシンはおもに D の部 位(集合管)に作用し,水分の再吸収を促進する。その結果,尿量が減り体液の濃度 は低下する。 問6 タンパク質の分子は大きいので,図2の A から B へろ過されない。そのため, 図3の測定場所 B での濃度は 0 となる。したがって,物質Wがタンパク質である。 また,再吸収される割合が水に最も近い物質とは,水とほぼ同じ割合で再吸収されて いる物質で,その濃度は測定場所 B ∼ D でほとんど変わらないはずである。した がって,物質Yが該当する。なお,図3の各物質の濃度から,物質Xは尿素,物質Y はナトリウムイオン,物質Zはグルコースと考えられる。 問7 ⑴ 1 日につくられる原尿量は,イヌリンの濃縮率×排出された尿量で求めら − − 136 参考 腎臓に作用するホルモン ※〈 〉は内分泌腺, はホ ルモン 水分の再吸収(発汗や塩分の取 りすぎで体液の濃度が高くなっ たとき) 間脳の視床下部 →〈脳下垂体 後葉〉→ バソプレシン → 腎 臓の集合管での水分の再吸収 Na+の再吸収と K+の排出 〈副腎皮質〉→ 鉱質コルチコ イド →細尿管における Na+ の再吸収と K+の排出の促進 れる。イヌリンの濃縮率は,尿中の濃度(測定場所 D の値)÷血しょう中の濃度(測 定場所 A の値)で求められるため,次のようになる。 120(g / L)÷ 1.0(g / L)= 120 排出された尿量は1日 1.5 Lなので,原尿量は次のようになる。 120 ╳ 1.5(L)= 180(L) ⑵ 物質Zは,図3の測定場所 D の濃度が 0 で尿中には含まれないことから,原尿 に含まれていた物質Zはすべて再吸収されたと考えられる。したがって,1日に再吸 収される物質Zの量(g)とは,1日の原尿量 180 L に含まれる物質Zの量(g)の ことである。図3の測定場所 B での濃度が 0.9(g / L)なので,求める値は次のよう になる。 180(L)× 0.9(g / L) = 162(g) 3 生体防御(25 点) 解答・配点 問1 2点 問2 3点 問3 2点 4点(各2) 問4 1 HIV(ヒト免疫不全ウイルス) 2 アナフィラキシー(アナフィラキシーショック) 問5 フィブリンが血球成分と絡み合っている。(19 字) 3点 問6 2点 問7 名称 抗原抗体反応 2点 記号 4点(順不同・各2) , 3点 問8 ●解説 問1 誤り。体表面の皮膚や粘膜は,物理的・化学的防御によってウイルスや細菌 などの異物が体内へ侵入するのを阻止している。皮膚は表面をおおう表皮と深部の真 皮からなり,表皮の表面には 平な死細胞が重なってできた角質層が形成される。角 質層は体内からの水分の蒸発を防ぎ,外界から水分や病原体などの異物が侵入するの を防いでいる。 正しい。汗には細菌の細胞壁を分解して細菌を破壊する酵素であるリゾチームが含 まれる。 重要 自然免疫と獲得免疫 自然免疫…体表面の皮膚や粘膜 での物理的・化学的防御と 炎症や発熱,白血球による食 作用など。 獲得免疫…体内に侵入した異物 に対する特異的な反応。体液 性免疫と細胞性免疫がある。 ・ 正しい。異物が体内に取り込まれると,気管内で繊毛の運動による異物の排除 が行われ,飲み込んだ食物や水などに含まれる病原体のほとんどは,強酸性の胃酸に よって殺菌される。 問2 体内へ侵入した病原体などの異物を排除する手段には,自然免疫と獲得免疫の 二つがある。自然免疫では,白血球の一種である好中球や樹状細胞および単球から分 化したマクロファージが異物を包み込んで消化・分解する食作用がみられる。 問3 好中球,樹状細胞,マクロファージなどの食細胞のうち,樹状細胞とマクロ ファージは食作用を行った後,侵入した異物(抗原)の一部を細胞表面に提示する (抗原提示) 。リンパ球の一種であるヘルパー T 細胞は,この抗原提示により抗原の 情報を認識し活性化する。 問4 HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染によって発症するエイズ(AIDS,後天 性免疫不全症候群)になると免疫力が低下し,健康なヒトでは通常発症しない病気に − − 137 正解への Point 食作用を行う白血球 好中球…白血球の中で最も数が 多い。 樹状細胞…樹枝状の突起をもつ 細胞で,食作用後,抗原提示 を行う。 マクロファージ…骨髄でつくら れた単球が毛細血管から組織 に出て変化した細胞で,抗原 提示を行う。 かかりやすくなる。このことを日和見感染という。 また,異物に対する免疫反応が過敏になり,その結果,生体に不利益をもたらすこ とをアレルギーという。アレルギーには原因となる抗原に対し,ただちに症状を現す 即時型のものと,1 ∼ 2 日経ってから症状を現す遅延型のものがある。即時型アレル ギーのうち,呼吸困難や全身性の強い炎症を起こす症状をアナフィラキシー(アナ フィラキシーショック)という。 問5 生体には破れた血管からの出血を防ぐための,血液凝固のしくみがある。出血 すると,傷口に集まった血小板などから放出される血液凝固因子のはたらきによって, 血しょう中に含まれるフィブリノーゲンとよばれるタンパク質が繊維状のフィブリン に変わり,これに血球が絡み合って血ぺいがつくられ出血を防ぐ。血ぺいは乾くとか さぶたになる。 問6 試験管に採血した血液を入れると血液凝固が起き,凝固成分である血ぺいと液 体成分である血清に分かれる。血ぺいはフィブリンに赤血球や白血球が絡み合ってで 重要 体液性免疫と細胞性免疫 体液性免疫…抗原提示を受けた ヘルパー T 細胞が B 細胞を 刺激し,B 細胞は抗体産生細 胞になり,その抗原に対して 特異的に結合する抗体を生産 する。 細胞性免疫…体内の異物やウイ ルスに感染した細胞などを, キラー T 細胞やマクロファー ジが直接攻撃して排除するし くみ。 ツベルクリン反応など。 きている。ヘモグロビンは赤血球に含まれる色素タンパク質であるため,血清中では 血液中にくらべてヘモグロビンが著しく少ない。グルコースは血液中では血糖とよば れる。 問7 【実験1】の結果,ウサギの体内で卵白アルブミン(抗原)に対する抗体がつ くられていると考えられる。 【実験2】では,その抗体を含むウサギの血清に再度卵 白アルブミンを加えると,抗体が卵白アルブミン(抗原)と結合して沈殿が生じる。 このように,抗原と抗体が結合する反応を抗原抗体反応という。 問8 誤り。 【実験4】 ・【実験5】では, 【実験1】の 30 日後に卵白アルブミンを 注射したところ,卵白アルブミンに対する抗体が多量につくられる二次応答が起こっ ていることから,免疫記憶は 30 日以上保たれていることがわかる。 誤り。【実験1】∼【実験5】では,抗原としてニワトリの卵白アルブミンのみを 用いており,ほかの抗原について調べていない。したがって,この実験だけでは,免 疫反応がある特定の抗原のみに対して起こるか否か判断できない。 誤り。獲得免疫では,抗原に対して応答する B 細胞や T 細胞の一部が記憶細胞と して残される。脳のはたらきとは関係がない。また,この実験では脳に抗原の情報が 記憶されるかを確かめることはできない。 誤り。同じ抗原が再度侵入したときに起こる免疫反応(二次応答)は,一度目の 免疫反応よりも速く生じ,また多くの抗体がつくられる。このときにつくられる抗体 は,一度目の免疫反応でつくられたものと同じ種類のものである。また, 【実験2】 と【実験5】において,同じ抗原(卵白アルブミン)に対して沈殿が生じたことから, 実験結果からも同じ種類の抗体がつくられたと判断することができる。 正しい。【実験5】で「卵白アルブミンを加えると多量の沈殿が生じた」ことから, 【実験2】の一度目の免疫反応にくらべ,二次応答では多くの抗体がつくられている ことがわかる。 − − 138 正解への Point 二次応答 獲得免疫では,体内に一度抗 体がつくられて,再度同じ抗原 が侵入すると,速やかに多量の 抗体がつくられる。一度目に侵 入した抗原の情報が,一部の B 細胞と T 細胞に記憶され,記 憶細胞として残ることによる。 二次応答は細胞性免疫でもみら れる。 4 生命現象とタンパク質(25 点) 解答・配点 問1 20 種類 2点 問2 2点 問3 二次構造 2点 問4 ⑴ 変性(熱変性) 2点 ⑵ 3点 問5 1 細胞骨格 4点(各2) 2 中間径フィラメント 問6 2点 問7 ⑴ チューブリン 2点 ⑵ 3点 ⑶ 3点 ●解説 問1 生体にはさまざまな種類のタンパク質が含まれており,生体の構造や機能に深 く関わっている。タンパク質の分子は,アミノ酸が数十個から数千個,鎖状につな がって形成されている。タンパク質の種類は,ヒトの体内ではたらくものだけでも数 万種類と考えられており,タンパク質を構成するアミノ酸は 20 種類ある。 重要 ペプチド結合 アミノ酸のアミノ基とカルボ キシ基の間で水分子が 1 個と れて結合する。 問2 タンパク質におけるアミノ酸どうしの結合をペプチド結合といい,一方のアミ R1 ノ酸のアミノ基と他方のアミノ酸のカルボキシ基の間で,水分子が1個とれることで C C O H H O 生じる。 R2 H2O 問3 アミノ酸が鎖状につながったものをポリペプチドといい,これが折りたたまれ て立体構造を形成することで,さまざまな機能をもつタンパク質となる。立体構造は, 離れた場所にあるアミノ酸の側鎖どうしが水素結合や S S 結合によって結合するこ とで形成される。特徴的な立体構造として,らせん状の構造であるαへリックス構造 やびょうぶ状に折れ曲がったシート状の構造であるβシート構造などがある。このよ 正解への Point タンパク質の立体構造 R R R 水素を仲立ちと した構造 R 側鎖 βシート構造 ヘム ヘム (色素) α β R R R R β アミノ酸 α ヘム 二次構造 三次構造 四次構造 ポリペプチドがつくる一定の立体 構造。αヘリックス構造,βシート 構造など。 長いポリペプチドの二次 構造が折りたたまれて立 体構造をとったもの。 図 はミオグロビンで,筋細胞 などに多く含まれる呼吸 色素タンパク質。 一定の三次構造をもつポリ ペプチドがいくつか集まっ てつくる構造。 図はヘモ グロビンで,α鎖とβ鎖2 分子ずつからなる呼吸色 素タンパク質。 問4 ⑴・⑵ タンパク質の立体構造は高温によって変化する。これは,立体構造を 形成している水素結合などが熱によって切れるからである。これを変性(熱変性)と いう。変性によって酵素がその活性を失ってしまうように,タンパク質の機能が失わ れることを失活という。なお,ペプチド結合は水素結合などより強いため,一次構造 はほとんど変化しない。また,変性は強い酸やアルカリなどの極端な pH やある種の − − 139 R1 R2 H N C C N C C O H H H O H H O アミノ酸1 アミノ酸2 R1,R2 はそれぞれ側鎖をあらわす。 うな,ポリペプチドに部分的にみられる立体構造を二次構造という。 αヘリックス構造 H N C C H H O 重金属の存在によっても起こる。 問5 細胞の形やその中の細胞小器官は,タンパク質でできた繊維状の構造に支えら れており,これを細胞骨格という。細胞骨格にはアクチンフィラメント,微小管,中 間径フィラメントの 3 種類があり,それぞれに構造や太さ,機能が異なる。 正解への Point 細胞骨格 アクチンフィラメント 中間径フィラメント 微小管 直径 タンパク質 アクチン 7 nm 25 nm 動,細胞間結合の接 (球状) 8 ∼ 12 nm 着結合に関与する。 ケラチンなど (繊維状) チューブリン (球状) 特徴・機能 筋収縮,アメーバ運 細胞間結合のデスモ ソーム,ヘミデスモ ソームに関与する。 紡錘糸を形成する。 べん毛や繊毛の運動 に関与する。 問6 アクチンフィラメントは 3 種類の細胞骨格の中で最も細く,筋収縮やアメー バ運動に関与している。 問7 ⑴ 微小管を構成しているタンパク質はチューブリンとよばれる球状のタンパ ク質で,αチューブリンとβチューブリンの 2 種類が 1 個ずつ結合したものが単位 となっている。 ⑵ モータータンパク質は細胞骨格上を移動するタンパク質で,原形質流動(細胞質 流動)を起こして物質や細胞小器官の移動を行っている。モータータンパク質には, ミオシン,キネシン,ダイニンの 3 種類が知られており,このうちキネシンとダイ ニンは微小管上をそれぞれ+端側,−端側へ移動する。問題文にあるように,繊毛の 伸長・短縮は+端側で起こるため,伸長に必要な物質はキネシンによって,短縮の際 の分解の結果生じた物質はダイニンによって運ばれる。 ⑶ モータータンパク質は繊毛の運動にも関わっている。問題文にあるようにモー タータンパク質は A 小管とは固定されているが,B 小管上は移動することができる。 ここで,モータータンパク質が−端側(図アの下方向)へ移動することで,左側の微 小管が上方向へ押し上げられる。しかし,これらの微小管は−端側でタンパク質 X によって固定されているため,全体として左側へ屈曲する。したがって,このモー タータンパク質はダイニンであるとわかる。 B 小管 A 小管 押し上げられる +端側 モーター タンパク質 タンパク質 X −端側 図 ア − − 140 重要 モータータンパク質 ミオシン…アクチンフィラメン ト上を 2 本の足で歩行するよ うに移動する。 キネシン…微小管上を+端方向 へ移動する。繊毛の伸長のほ か,ニューロン(神経細胞) におけるシナプス小胞の軸索 末端への輸送も行う。 ダイニン…微小管上を−端方向 へ移動する。繊毛の短縮のほ か,ニューロンにおける軸索 末端から細胞体への代謝産物 の輸送も行う。 5 植生の多様性と分布(25 点) 解答・配点 6点(各2) 問1 1 乾性 2 先駆植物(先駆種,パイオニア植物) 3 極相(クライマックス) 問2 2点 問3 ⑴ 2点 ⑵ 階層構造 2点 問4 ⑴ 名称 光補償点 記号 2点(完解) ⑵ 2.2 倍 2点 問5 2点 問6 ⑴ 2点 2点 ⑵ ギャップ ⑶ 3点(完解) ●解説 問1 1 一次遷移には,溶岩などの裸地から始まる乾性遷移と,湖沼から始まる 湿性遷移がある。 2 一次遷移は,土壌がほとんどなく根や種子などもない状況から始まる。その ような場所に最初に侵入する植物を先駆植物(先駆種,パイオニア植物)という。溶 岩などの裸地では,先駆植物は乾燥に強い地衣類やコケ植物であることが多い。 3 乾性遷移では,最終的に陰樹林が形成される。陰樹林にまで遷移が進行する と,それ以降は植物種の大きな変化はなく,ある程度決まった植物種からなる安定し た森林になる。このような遷移後期の安定した状態を極相(クライマックス)という。 問2 二次遷移は,森林や草原などすでにある植生が山火事や土砂崩れなどにより破 壊された状態から始まる。なんらかの植生があったため,通常,二次遷移の初期には 土壌や根,種子などがすでに存在している( は正しい) 。このため,土壌に含まれ る水分や養分を使って種子が発芽,成長することができ,一次遷移でみられたような 地衣類やコケ植物の侵入はない( は誤り)。また,土壌がすでに形成されており, 重要 一次遷移と二次遷移 一次遷移…土壌がほとんどない 状態から始まる。乾性遷移と 湿性遷移がある。 乾性遷移…裸地(溶岩など) から始まる。 荒原→草原→(低木林)→森林 (陽樹林→混交林→陰樹林) 湿性遷移…湖沼から始まる。 湖 沼→湿 原→草 原→ (以 降 は 乾性遷移と同じ) 二次遷移…山火事や洪水などに より植生が破壊された場所か ら始まる。根や種子,土壌な どがすでにあるので遷移が進 む速度が速い。 種子や根が発芽,成長しやすい環境にあるので,二次遷移の方が一次遷移よりも進行 が速い( ・ は正しい)。 問3 ⑴ 遷移の初期と後期が乾性遷移のどの段階を意味しているかをイメージする ことが重要である。表 1 中の地表の湿度は土壌の厚さと関連がある。土壌が薄いと 保持される水が少なく乾燥しがちになり,土壌が厚く保水力が高いと湿潤といえる。 このことから,遷移の初期は溶岩台地のような荒原や草原を,遷移の後期は厚い土壌 がある森林をイメージすればよい。荒原や草原は,森林にくらべて地表に達する日光 が強く,地表の温度変化は大きい。また,荒原や草原のような,乾燥しがちで土壌が 十分に発達していない場所では,小さくて軽い種子をたくさんつくることで,生育に 少しでも適した場所に種子を運ぶことができる植物が有利である。遷移が進んだ森林 では,森林内部は草原のように風が通ることはなく,地表の温度変化は小さい。また, 土壌は厚く発達しているので,重い種子をつくり親木の近くに種子を落とす樹木が多 い。 ⑵ 林冠から地表まで高さに応じて植物が生育するようすは階層構造とよばれ,林冠 から順に,高木層,亜高木層,低木層,草本層などに分けることが多い。 問4 ⑴ 光合成による CO2 吸収速度と呼吸による CO2 放出速度が等しいときは, 見かけ上,二酸化炭素の出入りがみられない。このときの光の強さを光補償点という。 図1には 2 種類のグラフが描かれている。陽樹は陰樹とくらべ,呼吸による CO2 放 − − 141 参考 階層構造と気候 熱帯や暖温帯では生育する植 物種が多く,階層構造もよく発 達する。一方,寒帯など寒冷な 気候の地域では生育する植物の 種数が少なくなり,階層構造や 各層に生育する植物群は単純に なる。 出速度が大きく,光補償点が高く,また,最大の CO2 吸収速度も大きいので,図の 右上まで高く伸びているグラフが陽樹である。光合成による CO2 吸収速度がそれ以 上大きくならない光の強さを光飽和点という。陽樹の光飽和点は である。 ⑵ 植物は光の強さが 0 のときは光合成を行わず,呼吸による CO2 の放出だけを行 う。このときの CO2 を放出する速度を呼吸速度という。光のもとでは呼吸と光合成 の両方を行っているため,光合成による CO2 吸収速度を考える際には呼吸速度も考 慮しなくてはならない。陽樹の場合,図1より,呼吸速度は 4 であるから,光の強 さが 5 のときの光合成による CO2 吸収速度は 4 + 18 = 22 である。陰樹の場合も同 様に,2 + 8 = 10 である。したがって,陽樹の光合成による CO2 吸収速度(22)は, 陰樹の光合成による CO2 吸収速度(10)の 2.2 倍である。 問5 陽樹と陰樹の区別は,陽樹林から陰樹林(極相林)に遷移が進む事例をもとに 理解しよう。おもに関東以西の暖温帯の平地では,アカマツやコナラなどが優占する 陽樹林からシイ類(スダジイなど)やカシ類(アラカシ,シラカシなど) ,タブノキ などが優占する陰樹林へと遷移が進む。ブナは,冷温帯の陰樹林をつくる代表的な種 である。シラビソは亜高山帯にみられる常緑針葉樹で,陰樹林をつくる。また,クス ノキは暖温帯の常緑広葉樹で照葉樹林の優占種である。 問6 ⑴ 一般に,陽樹林から陰樹林へと遷移が進むにつれ,土壌の腐植質が多くな るので土壌養分は多くなる。一方,陰樹は葉がよく茂り林床が暗くなるので森林内の 光は少なくなる。図2において,左上から右下の方向へ変化していくものを選ぶ。 よって, が正しい。 のように一度発達した土壌養分が「少ない」段階まで減少す ることは一般には考えにくい。 ⑵ 林冠にできる空間をギャップという。 ⑶ ギャップができると林床など森林の内部まで光が差しこむようになるので,その 光条件に適した植物が成長し,やがてギャップは埋められる。このような現象を ギャップ更新という。ギャップの大きさは林床に届く光の強さに影響を与えるが,土 壌養分の量には直接の影響はない(土壌養分の量は変わらない)ことに気がつけばよ い。 のように極めて大きなギャップができた場合は林床の光は「とても多い」状態 になるので,種子から芽生えた陽樹の幼木がよく成長し,陽樹がギャップを埋めるで あろう。 のようにギャップが小さいと,林床の光は「とても多い」状態にはならな いので陽樹の成長に有利にははたらかず,その結果,陰樹によってギャップ更新が進 むと考えられる。 − − 142 参考 ギャップ更新 ギャップを埋めるのは必ずし も陽樹とは限らない。たとえば 大木が倒れる場合,周囲の植生 をどの程度破壊するかにより, 林床に届く光の強さはさまざま である。陽樹と陰樹のどちらの 生育に有利な光条件になるかに より,ギャップを埋める植物は 変わる。なお,ギャップが陽樹 によって埋められた場合,その 陽樹の次は陰樹にとってかわ るとは必ずしもいえず,現実に は陽樹の状態が維持される場 合がある。これは,光条件以外 にも,たとえば,土壌の性質や 気候,地形,植物の種類などさ まざまな要因が遷移に関係す るからである。
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