猫からの感染が示唆されたスポロトリコーシスの一例

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猫からの感染が示唆されたスポロトリコーシスの一例
◎山田 慶太 1)、鈴田 朱美 1)
独立行政法人 地域医療機能推進機構 諌早総合病院 1)
【序文】
スポロトリコーシス(sporotrichosis)は土壌など
【考察】
今回、猫からの感染を強く疑うスポロトリコ
に多く存在する Sporothrix schenckii complex に
ーシスの一例を経験した。猫ではヒトと同様
よる深在性皮膚真菌症である。日本では、関
に難治性の潰瘍性病変を呈し、罹患した猫は
西地方と九州地方に多く報告され、寒冷地で
病変部位の菌を舐めるために口腔や鼻腔、お
は比較的まれな疾患である。通常、人の露出
よび爪に多数付着して存在し、ヒトへの感染
部位に好発し皮下結節や潰瘍などの多彩な病
を果たすと考えられている。本症例では感染
変を生じ、人畜共通感染症としても知られて
源となる猫の特定は出来なかったが、猫から
いる。今回、猫の掻爬痕から Sporothrix
の感染が示唆されたことや、皮膚のグラム染
schenckii complex に感染しスポロトリコーシス
色から菌体が確認できたことからスポロトリ
を発症したと思われる症例を経験したので報
コーシスを含めた深在性真菌症の存在を疑い、
告する。
早期の菌種同定を行うことができた。改めて、
【症例】
患者背景の把握と臨床医との連携の重要性を
55 歳、男性。普段より 10 数匹の野良猫と暮
再認識する症例であった。
らしており、日常的に猫による掻爬痕があっ
連絡先 [email protected]
た。数か月前、猫により右膝に掻爬痕を生じ、
0957-22-1380(内線 2347)
絆創膏にて治療するも数か月間治癒せず、潰
瘍を呈したため当院皮膚科受診となった。
【微生物学的検査】
潰瘍部より採取された皮膚片のグラム染色よ
り、糸状菌を疑う菌体が確認された。培養は
Sabouraud Dextrose Agar(SDA)培地を用いて
25℃および 35℃にて、平行して培養を実施し
た。25℃では、培養初期で白色、その後湿潤
し、ビロード状で褐色のコロニーを形成した。
また、35℃では、黄褐色の表面の滑らかなコ
ロニーを形成したことより、温度依存性二形
成発育を認めた。それぞれのコロニーより、
顕微鏡標本を作製したところ、25℃にて直径
1~2 mmの極めて細い菌糸と、涙滴型で小さ
な分生子、35℃にて円形および紡錘形を呈す
る酵母状の菌体を確認した。以上のことより、
Sporothrix schenckii complex によるスポロトリ
コーシスであると同定した。