車両振動分析の適用性に関する模型実験による検討

車両振動分析の適用性に関する模型実験による検討
構造エネルギー工学主専攻
博士前期課程 2 年
米原 善秀
連絡先 [email protected]
指導教員
1. 背景
1960 年代の高度経済成長期に建設された橋梁郡が,供用開
始から約 50 年が経過し,老朽化が深刻な問題となっている.
供用開始後 50 年経過し,多くの落橋事故が生じたアメリカと
山本
亨輔
𝒚(𝑥,𝑡) = ∑𝑛𝑘=1 𝜙𝑘 (𝑥)𝑞𝑘 (𝑡)
(1)
ここで,𝑛は考慮する最大モード次数である.(1)式より,移動
計測点 𝑥 = 𝑥̃(𝑡) における橋梁変位は
同様の年月が経過しており,わが国においても同様の問題が発
̃(𝑡) = ∑𝑛𝑘=1 𝜙𝑘 (𝑥̃(𝑡))𝑞𝑘 (𝑡)
𝒚
生する可能性を否定できない.このような問題を未然に防ぐた
(2)
ある.しかし,わが国の従来の目視点検による維持管理事業は,
と表される.車上計測点数を 𝑛 = 2 としたとき,固定計測点 𝑥 =
𝑥̂1 , 𝑥̂2 における 𝑘 次のモード形状関数を 𝐴̂𝑗𝑘 として以下のよう
コスト不足,少子高齢化による労働者の減少や技術者の高齢化,
に表す.
めには現状把握と適切な維持管理(メンテナンス)を行う必要が
また事業のマニュアルの不足などの課題がある.今後は,この
𝐴̂𝑗𝑘 = 𝜙𝑘 (𝑥̂𝑗 ) (𝑗 = 1,2)
(3)
ような主観的なデータからの維持管理をするのではなく,客観
つづいて, 𝜙𝑘 (𝑥) を内挿によって離散化する.図-1 に内挿の概
的なデータに基づいた維持管理手法の構築が必要である.そこ
念図を示す.内挿とは,基底関数により連続関数を補間するこ
で,簡易的な検査技術を提案し客観的なデータから損傷確立の
とである.基底関数 𝑁𝑗 (𝑥) (𝑗 = 1,2, … , 𝑛) を用いて,𝑘 次のモー
高い橋梁にリソースを集中させ優先的に点検,診断,対策を行
ド形状関数 𝜙𝑘 (𝑥) は近似的に次式のように表すことができる.
う効率的なスクリーニング手法の構築が急がれている.現在
様々なスクリーニング手法が検討されているが本研究におい
𝜙𝑘 (𝑥) = ∑𝑛𝑗=1 𝑎𝑗𝑘 𝑁𝑗 (𝑥)
(4)
答振動から橋梁の損傷有無を検地できるかについて検討して
ここで,基底関数が,𝑁𝑗 (𝑥̂𝑗 ) = 1,かつ,𝑁𝑗 (𝑥̂𝑖 ) = 0(ただし,
𝑖 ≠ 𝑗)となる性質を示すとき,𝑎𝑗𝑘 = 𝐴̂𝑗𝑘 である.本研究では,
いく.
基底関数としてラグランジュ関数を用いた.
ては,橋梁全体において適用されている振動に着目し車両の応
本研究では橋梁のモード次数を 2 次まで考慮する.いま,仮想
2. 目的
する固定計測点を,橋梁を等間隔に 𝑛 等分する点とすると,
車両振動分析を用いた研究は多く行われている.山本(1)らは
𝑥̂1 = 𝐿/3, 𝑥̂2 = 2𝐿/3 となる.固定計測点は,橋梁内のどの点に
実際に大型トラックに加速度センサーを搭載しトラス橋にお
おいても仮想できるが,モード形状の直交性を保証しやすいた
ける健全時と損傷時において SSMA が変化するか検討してい
め,橋梁を等間隔に分割する点とする.このとき,近似したモ
る.また,石川(2)らは,トラス橋において,様々なパターンで
ード形状 𝜙𝑘 (𝑥) を行列で表すと,
数値シミュレーションを実施し SSMA の適用性について検討
している.また,中釜(3)らは模型実験を行い桁橋の健全時,損
傷時の SSMA の有効性を検討している.しかしこの研究では,
模型桁の振動数を実橋と同程度にするなど相似測はあってい
るが実際に桁橋に起こりうる損傷は模擬できていない点が課
𝜙1 (𝑥̃1 (𝑡)) 𝜙1 (𝑥̃1 (𝑡))
[
]
𝜙1 (𝑥̃2 (𝑡)) 𝜙1 (𝑥̃2 (𝑡))
𝑁 (𝑥̃ (𝑡)) 𝑁2 (𝑥̃1 (𝑡)) 𝐴̂11
=[ 1 1
][
𝑁1 (𝑥̃2 (𝑡)) 𝑁2 (𝑥̃2 (𝑡)) 𝐴̂12
𝐴̂21
]
𝐴̂22
(5)
題である.そこで本研究においては,桁橋の幾何寸法模型を作
と表せる.移動計測点の座標を代入して得られる基底行列を
成し,実際の損傷を模擬し上で車両振動分析の適用性について
̃ (𝑡) とすると,次式が得られる.
𝐍(𝑡) ,モード形状行列を 𝚽
検討する.
̃ (𝑡) = 𝐍(𝑡)𝐀
̂
𝚽
3. モード形状推定手法
一般的にモード解析理論に用いられる橋梁振動の計測値は
固定点で得られるものである.しかし,車両振動分析では,時
間変化する移動計測点での車両振動を固定点での橋梁振動に
変換する必要がある.その手法としては,基底関数を導入し,
̃(𝑡)での計測値 𝒚
̃(𝑡) から,仮想した固定計測点
移動計測点𝑥 = 𝒙
̂(𝑡𝑠 ) を求める.𝑘 次のモード形状関数
𝑥 = 𝑥̂1 , 𝑥̂2 での推定値 𝒚
を 𝜙𝑘 (𝑥) ,基準座標を 𝑞𝑘 (𝑡)とおくと,橋梁変位振動は(1)式の
ように表すことができる.
(6)
ここで,(2)式に(7)式を代入すると
̂ 𝒒(𝑡)
̃(𝑡) = 𝐍(𝑡)𝐀
𝒚
(7)
となる.車両後輪が 𝑥̂1 を通過してから(𝑡 = 𝑡1 ),前輪が 𝑥̂2 を
通過するまで(𝑡 = 𝑡𝑚 )を内挿の定義領域とする.(8)式の両辺
に 𝐍−1 (𝑡) をかけると,移動計測点での計測値から固定計測点
での推定値を求めることができる.
̂ 𝒒(𝑡)
̃(𝑡) = 𝐀
𝐍−𝟏 (𝑡)𝒚
(8)
6.参考文献
[1] 山本亨輔, 伊勢本遼, 大島義信, 金哲佑, 杉浦邦征:鋼トラス
次に(8)式で求められる固定計測点での橋梁振動推定値を特異
橋の部材破断が橋梁および走行車両の加速度応答に及ぼす影響, 構
値分解しモード形状を推定し,橋梁健全度判定の指標となる空
造工学論文集, Vol.58A, pp.180-193, 2012
[2] 石川幹夫,山本亨輔:車両振動分析による橋梁健全度
間特異モード角(SSMA)を求める.まず,固定計測点での推定値
を列並べた行列𝑚 列並べた行列を 𝐌(∈ 𝐊 𝑛×𝑚 ) とすると
̃(𝑡1 ) ⋯ 𝐍−𝟏 (𝑡𝑚 )𝒚
̃(𝑡𝑚 )]
𝐌 = [ 𝐍−𝟏 (𝑡1 )𝒚
(9)
̂ 𝒒(𝑡1 ) ⋯ 𝐀
̂ 𝒒(𝑡𝑚 )]
𝐌=[𝐀
(10)
判定手法の可能性検討,筑波大学理工学群工学システム学類卒業
論文,2015
[3]
中釜祐太:模型桁実験による車両応答を用いたモード形状
推定法の桁損傷検知への適用性に関する検討,筑波大学理工学群工
学システム学類卒業論文,2014
[4] 原隆,山口隆志,北原武嗣,和多田康男,鋼構造学,コロナ
̂𝐐
𝐌=𝐀
(11)
社,2009
となる.特異値分解は 𝑛 × 𝑚 行列に対して適用可能であるか
ら,(11)式の M に対して特異値分解を適用すると,
表 1 橋梁各パラメーター
𝐌 = 𝐔𝚺𝐕 T
(12)
と分解できる.ここで,𝐔(∈ 𝑅𝑚×𝑚 ),𝐕( ∈ 𝑅𝑚×𝑛 )は直交行
全体
寸法
列(ただし,𝐕 T 𝐕 = 𝐈,𝐈:単位行列)
,𝚺( ∈ 𝑅𝑛×𝑛 )は特異値を
長さ
重さ
2.12mm
5.3Kg
厚さ
30mm
幅
665mm
ヤング率
0.076GP
比重
0.02
下フランジ厚
2mm
下フランジ幅
35mm
ウェブ長さ
130mm
ウェブ幅
2mm
上フランジ厚
2mm
35mm
対角成分にもつ対角行列である.また, 𝚺 の対角成分を大きな
ものから順に並べると,𝐔, 𝚺 および 𝐕 は一意に求められる.こ
床版
のうち𝐔の 1 列目が推定 1 次モードとなるが,本研究では𝑛 = 2
であるため SSMA を以下の式として表せる.
SSMA = tan−1 (
𝑈21
𝑈11
)
(13)
4. 橋梁模型,車両模型の作成
本研究における橋梁模型は,厚さ 2mmのケント紙を用いて
使用した.設計図面は『鋼構造学(4)』(コロナ社)の 30m 橋の縮
小模型を拡大して用いた.作成する橋梁パラメーターと構造計
算を行った結果を表 1 に示す.このとき橋梁は幾何寸法のみ実
際の橋梁と一致する形態を取っている.表 1 より許容応力度の
主桁
部材
上フランジ幅
断面積
ヤング率
比重
分布荷重
集中荷重
床版断面
二次モーメン
ト
主桁断面
二次モーメン
ト
最大曲げ
計算
モーメント
最大曲げ
モーメントに
おけるたわ
み
許容応力度
(主桁部)
許容応力度
(床版部)
応力度(紙長
編方向)
引張試験
応力度(発泡
スチロール)
24.5N/m
29.4N
1.50×10^6mm4
2.66×10^5mm4
2.60×10^4N・mm
4.99mm
0.0488N/mm2
0.0868N/mm2
2.00N/mm2
0.20N/mm2
400mm2
0.25GP
0.66
引っ張り試験時の応力度の結果より,十分な耐火性能を確認し
た.作成された橋梁は図 1 のようになる.
また,加速度センサーを搭載し橋梁部を走る車両
[30cm×20cm]は,助走区間を利用して橋梁部で 1[m/s]となるよ
うにモーターを搭載し,重さ 3.5[Kg]で作成する.
5. 今後の予定
作成した橋梁と車両を用いて,まず,橋梁の健全時の橋梁の
振動を検出する.その後,損傷時の橋梁振動を検出し車両振動
分析の適用性についての検討を行う.損傷時は,致命的な損傷
につながる恐れのある主桁ウェブガセットプレートの溶接部
図 1 橋梁完成写真
と主桁ウェブ横桁フランジ溶接部に亀裂をいれ損傷も模擬す
る.また,床版内部ひび割れの損傷はレーザーカッターにて亀
裂を入れ損傷を模擬する.模擬する損傷,今後の研究の進め方
表 2 今後の予定
については表 2 に記載する.
第1回(損傷検討) 第2回(損傷検討) 第3回(損傷検討) 第4回(損傷検討)
主桁ウェブセットプレート
溶接部
主桁ウェブの横桁下フランジ
溶接部
床版内部ひび割れ
粒子破砕・摩耗による地盤材料の力学特性変化
構造エネルギー工学専攻 博士前期課程 1 年
フロンティア工学研究グループ
佐藤 完
連絡先:[email protected]
指導教員
松島 亘志
2. 二種類の試験試料
60
Kashima3A_1
Kashima3A_2
2
我々は地面の上、即ち地盤の表面で生活している。地盤
は、土や砂、石などの様々な大きさや形をした固体粒子の
集合体(粒状体)であり、その粒子スケールの力学が地盤
全体の力学特性を決める。地盤材料が摩耗・破砕し、その形
や大きさが変化することは、地盤全体の性質変化に大きく
寄与する。
粒子の摩耗・破砕特性については、今日までに多くの研
究が行われてきた。しかし、実際の地盤材料を用いて粒子
形状や応力条件など複数の要素をまたいで実験し比較・検
討された例はまだ少ない。複数の要素が絡み合う粒状体の
力学的特性を理解するには、それらの要素の相互関係を明
らかにし、定量的に評価することが求められる。そこで本
研究では、二種類の異なる地盤材料を用いて種々の応力条
件下で試験を実施し、発生する応力や粒度分布、粒子形状
に着目した。粒子の摩耗・破砕特性について定量的な評価
をすることにより、様々な分野への応用の基礎を築くこと
を目的とする。
Crushing stress ( N/mm )
1. 概要
50
40
30
Gifu3_1
Gifu3_2
20
10
0
0.00
0.04
0.08
0.12
0.16
0.20
Displacement (mm)
図 3 実験装置
図 4 変位-破砕応力
3-2 一次元圧縮試験
図に示すように、ステンレス製の筒と棒を用いて 20gの
供試体(ゆる詰め)に載荷、その時の荷重と変位を測定・記
録した。載荷時のひずみ速度が約 5.0×10-4 (1/s)となるよ
うに設定し、準静的な載荷とみなせるようにした。
それぞれの試料について、700MPa まで載荷した試験の
結果を図 6 に示す。間隙比が著しく減少し始める降伏応力
に着目すると、その値は鹿島 3A の方が大きい。この結果
は、単粒子破砕試験の結果に対応している。
Gifu3
本研究では、2 種類の地盤材料を用いて試験を実施した。
それぞれ、
岐阜県の山中で採取された岐阜珪砂 3 号(以下、
岐阜 3 号)、茨城県鹿嶋市の川沿いで採取された鹿島珪砂 3
号 A(以下、鹿島 3A)である。写真を図 1、図 2 に示す。
1
Void ratio
Kashima3A
0.1
0.1
図 5 実験装置
図1
岐阜 3 号
図2
鹿島 3A
3. 種々の応力条件下での載荷試験
3-1 単粒子破砕試験
図 3 に示すように、ステンレス製の棒で試料 1 粒を挟み
込み、プラスチックのカバーで覆う。試料が破砕するまで
垂直方向に載荷、その時の荷重と変位を測定した。測定さ
れた値から、加登らの研究[1]で用いられているように、粒
子の破砕応力σc (N/mm2 ) を式(1)によって算出した。
𝜎𝑐 =
𝑁𝑚𝑎𝑥
𝑑2
(1)
ここで、Nmax は試験における最大荷重(N )、d は粒子の
高さ(mm )を表す。実験の結果を図 4 に示す。岐阜 3 号よ
りも鹿島 3A の方が大きな破砕応力を示した。これは、地
盤材料の生成環境によるものだと考察され、山砂よりも川
砂の方が強いことを示唆するものである。
1
10
Pressure (MPa)
100
1000
図 6 圧力-間隙比
3-3 回転せん断試験
産業技術総合研究所の所有する回転せん断装置を用い
て試験を行った。図 7 のように 2gの供試体(ゆる詰め)を
花崗岩で製作された 2 つのシリンダーで挟み込み、テフロ
ンのリングで覆う。垂直方向に一定の荷重を加えながら上
部のシリンダーのみを回転させることで、供試体にせん断
力を加え、その時の垂直方向荷重、垂直方向変位、回転速
度、トルクを測定・記録した。
回転せん断試験では、半径方向におけるせん断力、及び
せん断ひずみの非一様性が問題となる。Kitajima ら[2]は、
粒子間の摩擦力がする仕事量に着目し、中心から 2/3 の半
径の位置におけるせん断力およびせん断ひずみが、代表値
としてふさわしいものであることを示しており、本研究で
もそれを取り入れた。
試 験 結 果 ( 条 件 は 垂 直 方 向 応 力 1.0MPa 、 回 転 速 度
0.75rpm、回転数 100rot)のせん断応力-ひずみ曲線を図 8
に示す。試料によって明確な違いは見られなかった。
岐阜 3 号と鹿島 3A による回転せん断試験の試料の測定
結果を図 14 に示す。初期の FU は両者で大きく異なる。
これは試料の生成環境によるものだと考察する。試験後の
試料の FU は、両者とも似た傾向を示した。このことは、
摩耗が進行すれば試料の初期の形状にかかわらず、最終的
に似た形状に収束することを示唆するものである。
1000
Gifu3
Kashima3A
Shear stress (kPa)
900
800
700
600
500
400
300
200
100
6. 結論
0
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
Shear strain
図 7 実験装置
図 8 せん断応力-せん断ひずみ
4. 粒度分析とフラクタル次元
1 次元圧縮試験と回転せん断試験の試験後の試料を、産
業技術総合研究所の所有する画像解析装置 Camsizer 及び
レーザー測定器 LA-960 を用いて粒度分析した。結果を図
9~図 12 に示す。図 11、図 12 の傾きの絶対値は、フラク
タル次元を示す。どちらの試験もフラクタル次元は約 2.5
を示しており、このことは試験後の試料のパッキングが共
通の構造になっていることを示唆する。
5. 凹凸係数 FU による摩耗特性評価
本研究では、地盤材料の摩耗を評価するための指標とし
て、その粒子形状に着目した。粒子形状を定量的に評価す
る方法のひとつに、吉村・小川[3]によって提案された凹凸係
数 FU(以下、FU)の導入がある。FU は、粒子内に直交す
る三軸を考え、その長軸と中間軸を含む平面に粒子を投影
した断面(図 13)から、次式で定義される。
FU =
4𝜋𝑎
𝑙2
(1) 岐阜 3 号よりも鹿島 3A の方が、粒子単体の破砕応力
は大きい。
(2) 粒子単体の破砕応力は 1 次元圧縮試験の降伏応力にも
影響を与える。
(3) 粒子単体の破砕応力は、回転せん断試験のせん断応力
に明確な影響を与えない。
(4) 粒度分析の結果から算出したフラクタル次元より、試
験後のパッキングは応力条件によらないことが示唆
される。
(5) FU の測定から、試料は摩耗が進行すれば初期の形状
に関わらず、似た形状に収束する。
7. 参考文献
[1]
[2]
(2)
ここで、𝑎 は投影断面の面積、𝑙 は外周長を表す。FU は
真円度とも呼ばれ、0~1.0 の値をとる。粒子が完全な円の
とき FU は 1.0 となり、凹凸の度合いが激しくなるほど小
さくなる。今回はこの FU を Camsizer で測定した。
Camsizer では、試料の FU を 2 台のカメラによる 2 次元
投影画像解析により測定することができる。
[3]
加登文学,中田幸男,兵動正幸,村田秀一: 地盤材料の
単粒子破砕特性, 土木学会論文集, Vol. 2001 (2001)
No. 673 P 189-194
Hiroko Kitajima, Judith S. Chester, Frederick M.
Chester, Toshihiko Shimamoto: High ‐ speed
friction of disaggregated ultracataclasite in rotary
shear: Characterization of frictional heating,
mechanical behavior, and microstructure evolution:
JOURNAL OF GEOPHYSICAL RESEARCH, VOL.
115, B08408, doi:10.1029/2009JB007038, 2010
吉村優治,小川正二: 砂のような粒状体の粒子形状の
簡易な定量化法, 土木学会論文集, Vol. 1993 (1993)
No. 463 P 95-103
100
Cumulative (%)
90
80
70
60
50
40
Kashima3A
1rot
10rot
100rot
Original
30
20
10
0
0.1
図 9 一次元圧縮粒度分析
1
10
100 -6
Grain size (10 m)
1000
図 10 回転せん断粒度分析
10000
図 11 一次元圧縮フラクタル次元
100
90
Cumulative (%)
1.0
------------
Number of grains greater than
2
1x10
1
1x10
0
1x10
-1
1x10
-2
1x10
-3
1x10
-4
1x10
-5
1x10
-6
Kashima3A
1x10
-7
1rot
1x10
-8
10rot
1x10
-9
1x10
100rot
-10
1x10
Original
-11
10
-12
10
0.1
1
10
--------------------
-2.5
Gifu3
Gifu3(試験後)
Kashima3A
Kashima3A(試験後)
80
70
60
50
40
30
20
10
100
-6
1000
0
10000
0.5
Grain size (10 m)
図 12 回転せん断フラクタル次元
0.6
0.7
0.8
FU
図 13 粒子の投影断面
図 14 試験前後の FU
0.9
1.0
小型地盤掘削ロボット DigBot の掘削性能検証とその改善
構造エネルギー工学専攻
前科博士課程 1 年
克樹
[email protected]
連絡先
指導教員
1. 小型地盤掘削ロボット DigBot 概要
横島
松島
亘志
2. 研究目的
「地盤内を自由に掘削し、その過程で地盤内の情報を収
本研究では DigBot による地耐力調査に重点を置き、
集する小型軽量の自律型ロボット」の開発を目的として、
DigBot 開発の根幹となる掘削性能の検証・改善、また地盤
元システム情報系、現秋田大学の川村洋平教授によって小
物性の取得手段についての検討を行う。その手始めとして、
型地盤掘削ロボット DigBot の開発が進められている。目
まず模擬砂層の掘削を行った。
標が達成された場合、地耐力調査、地下水調査、汚染物質
調査、また自律ロボットである強みとして月面探査といっ
た極限状況下での地盤調査も想定されている。 現在、
DigBot は直線的な掘削を行うのみであるが、方向転換・通
信・電源に関する技術に関しては検討中である。図 1 に
DigBot の全体像を示す。大まかな構造としては、モータが
搭載されている本体部と先端の掘削機構である二重反転
ドリルから成る。図 2 のようにドリルビットが上下で分か
れ、遊星歯車機構によりそれぞれが逆方向へ回転する。そ
の結果、上下ドリルで回転反力を打ち消し、単方向回転ド
3. 模擬砂層掘削試験
3-1 実験概要
基本的な掘削対象として、模擬砂層に対する DigBot
による掘削を行った。試料は豊浦標準砂とし、本実験では
アクリル円筒を用いて高さ約 1m、直径 19.2cm の砂層(図
3)を作成した。その際、間隙比 e((1)式)を変化させるこ
とで砂層の強度を設定する。豊浦標準砂では最小約 0.6 、
最大約 1.0 の値を示す。
リルに比べ安定した掘削を実現している。また、この構造
𝑒=
によりシールドマシンで見られる DOT 工法の利点を残し
つつ、掘削時の断面積抵抗を小さくすることに成功し、小
𝑉𝑉
𝑉𝑠
𝑉𝑉 : 間隙の体積
(1)
𝑉𝑠 : 土粒子の体積
型軽量化にも繋がった[1]。表 1 に DigBot 諸元を示す。
実験時には 10cm 毎の掘削量とそれにかかる時間を計測
した。また、DigBot の掘削停止原因が「ドリルの回転トル
クが砂の抵抗力を下回ることによるモータの停止」が原因
であることから、減速比を 14:1、128:1、370:1 の 3 種
類のギアのモータを用意した。これにより地耐力的な
DigBot の掘削限界を広げることを狙いとした。
図1
DigBot 全体像
図 2 二重反転ドリル
3-2 実験結果
結果を表 2 にまとめて示す。表内には掘削可能であった
深さ、また 1m掘削可能であったケースにはそれにかかっ
表1
DigBot 諸元
た時間[s]を記載している。間隙比 e =0.85 , 減速比 370:1 の
全長
240mm
本体径
30mm
全形状
重量
結果に関しては 0.27m まで掘削が進んだが、掘削終了後に
異常電流値、発熱といったモータ異常を確認したため、実
験を打ち止めとした。
0.6 kg
maxon motor
EC-4pole 22 323219
定格
36V, 90W
停動トルク
612mNm
最大連続トルク
43.7mNm
トルク定数
21.1mNm/A
無負荷回転数
163000rpm
表 2 砂層掘削実験結果
間隙比
モータ仕様
減速比
e = 0.90
e = 0.85
e = 0.80
14:1
1m , 23s
0.21m
0.17m
128:1
1m , 200s
1m , 628s
0.55m
370:1
1m , 528s
未実施
4-2 スウェーデン式サウンデンィグ(SWS)試験との比較
続いて、砂層が地耐力的にどれほどの強度を持つのか確
認するため、本研究ではスウェーデン式サウンディング
(SWS)試験を用いた。この試験により地耐力の指標である
N 値を測定する[2]。図 8 に砂層の SWS 結果を示す。表 2
より今回は DigBot が間隙比 e = 0.80 の中層まで掘削可能
であったことから、DigBot の掘削限界は N 値 5~6 程度で
あることが推定できる。
また、このように間隙比 e と N 値の関係を得られれば、
前章のような間隙比 e と掘削速度 v の関係と合わせて、掘
図 3 模擬砂層
図 4 砂層への SWS 試験
削速度 v から N 値を推定できる可能性が浮上した。
時間 [s]
0
N値
0
60 120 180 240 300 360 420 480 540 600 660
e=0.91
e=0.85
e=0.80
3
4
5
6
40
60
80
100
図 5 間隙比ごとの掘削時間と砂層深さの相関
(ギア減速比 128:1)
0.35
20
砂層深さ [cm]
20
砂層深さ [cm]
2
0
0
掘削速度 [cm/s]
1
40
60
e=0.91
e=0.85
e=0.81
80
100
図 5 砂層の SWS 結果
まとめ
本研究では DigBot による模擬砂層、SWS 試験との比較
0.30
によって以下の知見を得た。
0.25
1) DigBot の地耐力的な掘削限界が N 値 5~6 程度の強度
0.20
であると推定された。
2) 実験結果から算出された掘削速度 v と間隙比 e の関
0.15
係、また SWS 試験による N 値と間隙比 e の関係を利
0.10
用することで掘削速度 v から地耐力指標 N 値の推定
0.05
可能性が浮上した。
0.78 0.80 0.82 0.84 0.86 0.88 0.90 0.92 0.94
間隙比
図 6 間隙比と掘削速度の相関
(ギア減速比 128:1)
4. 掘削速度を基にした地耐力指標 N 値推定の検討
今後の掘削実験に関する検討課題としては、他試料、掘
削層の深さ等の条件が挙げられる。
また、より詳細な地盤物性との関係を得るためには
DigBot の掘削能力の改善が必要不可欠であり、そのために
は適切なモータ・ギアの選定、またビット形状選定といっ
た DigBot そのものの改良が今後の重要課題となる。
4-1 掘削速度の算出
図 5 に減速比 128:1の場合の掘削結果を示す。その計
測点(深さ、時間)のうち、砂層中層の計測点を用いて掘
参考文献
削速度 v を算出し、間隙比 e ごとにプロットした結果が図
[1] 阿 部 亮 平 : 地 盤 お よ び 月 面 掘 削 用 小 型 ロ ボ ッ ト
6 である。砂層中層のみに注目した理由は、表層では設定
DIGBOT の開発, 筑波大学大学院博士課程システム情報工
間隙比よりも高く(ゆるく)
、また深層では低く(密に)成
学研究科修士論文, 2011
っていることが予想されるためである。図 6 では間隙比 e
[2] 稲田倍穂:スウェーデン式サウンディング試験結果の
の変化(密度変化に)によって掘削速度 v が変化する傾向
使用について, 土と基礎, Vol.8, No.1, pp.13~18, 1960
が見てとれ、地耐力評価のひとつの指標となる可能性が窺
えた。
凝縮を伴う高速液滴噴霧流の気液間輸送現象
システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻
博士前期課程 1 年 安西 駿 ([email protected])
指導教員 阿部 豊
副指導教員 金川 哲也,西岡 牧人
1. 緒言
単相の圧縮性流体の管内流れは,古くから多くの研究がな
され,超音速流れや衝撃波を伴う流れについても相当数の知
見が得られている(1).気液二相流においても,実験・理論の
両面から多様な研究がされている(2).一方,凝縮を伴う液滴
噴霧流は,様々なエネルギー機器の動作時に現れるにもかか
わらず知見が少なく,その流動特性の把握が必要不可欠であ
る.
相田らは,管入口より過熱水蒸気が流入し,そこに高速の
水液滴群を噴霧する体系において,準一次元の定常計算手法
が構築した(3).しかしながら,エネルギー機器は外的要因に
よって背圧が変化することで,流動に影響を与える特徴を有
しており,既存の定常計算手法ではこの影響を考慮すること
ができない問題を残している.
本研究の目的は,凝縮を伴う液滴噴霧流の流動特性解明に
ある.本発表では,過熱水蒸気中に高速の水液滴群を噴霧す
る体系において,圧力分布の計測,ならびに,レーザードッ
プラー流速計(LDV)を用いた流れ方向の水液滴流速分布の計
測を行った.加えて,過渡状態を詳細に計算可能な非定常計
算体系の構築を行った.
2. 圧力・液滴流速計測実験手法
2.1 実験装置
実験装置の概略図を図 1 に示す.実験装置は主に過熱器,
蒸発器,バッファタンク,テスト部で構成される.テスト部
は全長 0.683 m とし,レーザー透過のため,透明のポリカー
ボネートで製作した.蒸発器に蓄えておいた水をヒーターに
よって飽和蒸気とし,さらに過熱器で加熱することで,圧力
7440 Pa,温度 120 ℃に制御された蒸気をテスト部に供給する.
また,バッファタンク内の水を,チラー,ポンプを用いて温
度 37.3 ℃,流量 4.24 L/min に制御した状態で,噴霧ノズルを
用いてテスト部内に噴霧する.以上によりテスト部内におい
て液滴噴霧流を実現し,テスト部側面に取り付けた圧力計に
より圧力分布の計測を行う.実験に際しては水と蒸気の直接
接触凝縮による影響に注目するため,装置全体を真空ポンプ
により真空引きした.
2.2 LDV 概要
LDV の概略図を図 2 に示す.LDV 装置を PC,LDV プロー
ブに接続し,プローブより二本のレーザーをテスト部に向け
て照射する.レーザーにはあらかじめ位相差がついているた
め,交点では波長と交差角度に応じた干渉縞が生じる.液滴
が干渉縞を通過すると,散乱光の強度が光の強弱によって変
わることから,強度が周期的に変化する散乱光信号を得られ
る.これをフーリエ変換することで,液滴の速度を測定でき
る.
3. 解析手法
相田らにならい,準一次元の二流体モデルの方程式系と,
Marble により噴霧流の体系に即して定式化された構成式群
を用いた(4).解析においては,液相は非圧縮性で常に径が一
定の液滴として扱い,分裂,合体および液滴同士の相互作用
は無視した.
基礎式は気液各相の質量,運動量,エネルギーの保存則か
らなり,水と蒸気の物性値および状態量は,国際水・蒸気性
質協会の実用国際状態式を用いて計算した(5).以下に方程式
系を挙げる:
(i) 質量保存則:
(1)
(ii) 運動量保存則:
(2)
(iii) エネルギー保存則:
2
2
(3)
ここで,t は時間,z は空間座標,α は体積分率,A は断面積,
ρ は密度,u は流速,p は圧力,e は単位質量あたりの内部エ
ネルギー,i は単位質量あたりのエンタルピー,Γ は凝縮速度,
M は気液間の運動量輸送速度, E は気液間のエネルギー輸送
速度,Q は熱伝達量を表し,添字の j は気液の各相について
の式であることを表す.
図1
図2
実験装置概略図
LDV 概略図
解析に際しては,時間の離散化には後退差分を用いて完全
陰解法とし,空間の離散化には中心差分を用いた.また,計
算の安定化のために陽的な粘性項を付加した(6).メッシュ分
割数を 500 とし,流動が定常に至るまで計算した.
4 実験・解析による圧力・液滴流速分布
テスト部に縮小管を用いた場合の圧力・液滴流速分布を図
3,液滴流速ヒストグラムを図 4 に示す.圧力は流れ方向に大
きく上昇している一方で,液滴流速は流れ方向に横ばいであ
り,管路全体に渡ってなだらかな山型のヒストグラムを形成
し,計測最下点では,二つの山を持つヒストグラムを得た.
続いてテスト部に拡大管を用いた場合の圧力・液滴流速分
布を図 5,液滴流速ヒストグラムを図 6 に示す.圧力は流れ
方向に上昇しているが,縮小管に比べてその上昇量は小さい
ことがわかる.また,液滴流速は縮小管同様に流れ方向に横
ばいであるが,より上流側においてヒストグラムが二つの山
を形成することがわかる.
解析では,縮小管での大きな圧力上昇,拡大管での小さな
圧力上昇を捉えられている.加えて,流速も実験で得た値と
同程度のオーダーとなった.しかしながら,圧力・液滴流速
分布の概形には不一致が見られた.この原因としては,管の
断面で不均質な噴霧を,準一次元的に取り扱った点,壁面に
液膜が形成し,環状噴霧流となるのを考慮していない点など
が考えられる.
図3
図4
拡大管圧力・液滴流速分布
拡大管液滴流速ヒストグラム
5. 結言
凝縮を伴う液滴噴霧流挙動を明らかにすることを目的とし,
圧力・液滴流速計測実験および準一次元二流体モデルを用い
た解析を行った:
1)
管の形状によらず,流れ方向に圧力が上昇し,液滴流速
分布は流れ方向に横ばいであった.下流側では液滴流速
が二つの山を持つヒストグラムを形成した.
2)
構築した計算体系を用いて,管内流れの圧力波挙動を解
析可能であることを確認した.実験結果と比較して,圧
力分布の傾向は定性的に一致し,液滴流速のオーダーは
同程度であった.
参考文献
(1) 松尾一泰,圧縮性流体力学(理工学社,1994).
(2) 気液二相流技術ハンドブック(日本機械学会編,2006).
(3) 相田ら,混相流シンポジウム 2014 講演論文集,E213.
(4) Marble, Astronautica Acta, 14(1969), pp.585-613.
(5) IAPWS, "The International Association for the Properties of
Water and Steam," 8 2007. [Online]. Available:
http://www.iapws.org/. [Accessed 1 2016].
(6)
大川ら,混相流, 8(1994), pp.126-134.
図5
図6
縮小管圧力・液滴流速分布
縮小管液滴流速ヒストグラム
胸腔ドレナージユニット低流量計測技術に関する基礎研究
博士前期課程 1 年 岩上聖([email protected])
システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻
指導教員 阿部豊
1.緒言
現在呼吸器科では,気胸等の疾患の治療において胸腔ドレナ
ージは極めて重要な治療法であり,頻繁に実施されている.気
胸とは何らかの原因により肺の一部が破れ,呼気が胸腔に漏れ
ることで気体が肺を圧迫し,肺が外気を取り込めなくなった状
態のことをいう.胸腔ドレナージユニットには,胸腔内に溜ま
った空気の排気や血液などの胸水の排液を行い,胸腔内陰圧を
回復させ呼吸の正常化を図る役割がある(1).
患者の胸腔から漏れ出る空気をエアリークと呼び,その流量
は気胸患者の重症度を明らかにする上で重要な指標である.エ
アリークが 20ml/min 以下になった時点でドレーン抜去が可能
であり,600ml/min を超えると再手術の危険性があると報告さ
れている(2).現在日本の医療現場で一般的に使用されているド
レナージユニットには流量計が付属しておらず,この流量を定
量的に計測することができれば臨床的に有用な指標となるが,
患者が十分に回復した状態だと判断できる低流量域の空気を
計測する技術は現状確立されておらず,回診時の医師の間欠的
観察による主観的,定性的判断に委ねている.また,ドレナー
ジ法,ドレナージ装置も多岐にわたり施設により異なるのが現
状である.(3),(4)
そこで,本研究では胸腔ドレナージユニットにおけるエアリ
ーク流量の定量化を目的とし,気液二相流における低流量域で
の気相流量計測技術の開発を行う.まずは,既存装置における
排気の詳細な可視化と気相流量計による排気量の同時計測を
実施し,実際の排気の様子の詳細に把握した.
図 2 可視化実験装置概略図
3.可視化実験での画像処理方法
撮影した画像のスケールをユニットの実寸から設定する.
ユニット側面から撮影した映像を用いて気泡が離脱した瞬
間の画像を背景差分し二値化処理,ノイズを除去したうえで
気泡の輪郭を抽出する.正面から撮影した画像も同様の処理
を行う.この作業はすべて人の目を通して,手作業で行われて
いる.
4.実験結果
図 1 チェスト・ドレーン・バック
図 2 に可視化実験の際に用いた実験装置の概略図を示す.
作動流体として,液相には蒸留水,気相には空気を用いてい
る.
装置本体には図 1 に示す既存の胸腔ドレナージユニットを
使用した.コンプレッサーから送り出された圧縮空気をレギ
ュレータ,気相流量計により流量を調節しユニット上部から
水封部へ送り込んでいる.水封部には蒸留水を 30ml 注入して
おり,吸引圧は臨床で一般的に設定されている,-8cmH2O~12cmH2O とした.可視化する水封部の背面,側面からメタル
ハイドライトで照射し,ユニットの正面,側面から2台の高速
度カメラを同期させ撮影を行った.
2.実験装置
可視化実験より得た水封部内流路の液相の流動様式から,
気相流路は一種の液柱マノメータの役割を持つことを確認し
た.胸腔ドレナージユニット内の圧力の関係を以下の(1)~
(3)式に示す.
∆
(1)
∆
(2)
(3)
図 3 に気泡発生と圧力の関係を示す.胸腔内圧力が水封部内
圧力より大きいとき,水封部内流路から出た気相は液相に侵
入し気泡となって排気される.
図 4,図 5 に水封部の正面,側面から撮影した気泡発生の過
程を示す.画像は吸引圧-8cmH2O,気相流量 100ml/min の条件
下で,それぞれ気泡発生から 0.16 秒後の気泡を表している.
流量が 30ml/min~700ml/min においても,一様に画像のよう
な流路であり,また気泡が発生,離脱する様子がほぼ一致して
いることから,同一の手法での計測が可能である.
そこで,発生した気泡の流量を求めるため,気泡の体積と
気泡の発生頻度に着目した.
図 3 気泡発生と圧力の関係
図 8 気泡平均体積と気泡発生頻度
図 4 水封部正面からの気泡発生の様子
図 5 水封部側面からの気泡発生の様子
図 6 に-8cmH2O での気泡発生頻度を示す.気相流量の増加
に伴い気泡発生頻度も増加した.その増加量は 100ml/min を
超えると徐々に緩やかに変化した.
画像解析により,発生する気泡の体積は気相流量ごとに誤
差 1~6%であることが分かった.そこで気相流量は気泡体積
の平均値に気泡の出現頻度を掛けて求めた.図 7 に吸引圧8cmH2O,気相流量 30ml/min~700mlm/min の条件で,画像解
析により測定した気相流量を示す.流量が 500ml/min を超え
ると,離脱する前に水面から外部に排気される気泡が現れた
ため,実際の気泡体積を計測できなかった.400ml/min 以下の
気相流量では実流量とほぼ一致していることから,画像解析
によって微小の誤差で求めることができた.
図 8 に吸引圧-8cmH2O~-12cmH2O での,気相流量 30ml/min
~100ml/min の間で全体の気泡体積の平均値と全体の気泡発
生頻度を示す.吸引圧増加に伴い発生する気泡の体積は小さ
く,発生頻度は多くなる傾向にあることが確認された.
図 9 に吸引圧-8cmH2O~-12cmH2O,気相流量 30ml/min~
100ml/min の条件で画像解析により測定した気相流量を示す.
流量が 100ml/min のとき,全ての吸引圧下において流量が過
大評価となった.実流量が 100ml/min より大幅に流れている
ことは考えにくいことから,実際の気泡出現頻度は計算値よ
り低いことが考えられる.30ml/min~70ml/min について,実
流量と概ね同等の流量が計測できたことから,吸引圧に関わ
らず画像解析から流量は求められたといえる.
図 9 各吸引圧での気相流量
5.結言
・気泡の排気流路は気相流量によらずほぼ一定であり,気相
流量増加に伴い気泡発生頻度も増加した.
・気相流量が 500ml/min を超えると発生した気泡の全貌を可
視化できないため,画像解析による流量測定は難しい.
・吸引圧増加に伴い発生する気泡の体積は小さく,発生頻度
は多くなる傾向がある.
・吸引圧に関わらず,画像解析により低流量域での流量は誤
差 7%程度で求めることができた.
6.今後の方針
可視化実験から画像解析による低流量域での流量計測が可
能であると確認できた.しかし臨床において,胸腔ドレナージ
ユニットそれぞれにカメラを取り付けることはコスト面から
現実的ではなく,より安価で更にオンライン測定が可能な計
測方法が求められる.今後はオンライン測定が可能で,比較的
構造が単純である定電流法を用いた実験を行う.実験につい
て,高速度カメラと電圧計測計を同期させて撮影し,可視化映
像から気泡の流量およびボイド率を算出する.算出したボイ
ド率と計測した電圧比をリンクさせ実験式の構築を行う.
その後既存の胸腔ドレナージユニットに電極を取り付け定
電流法による実験を行い,構築した実験式の有効性を検討す
る.
(1) 奥村明之進,中桐伴行.胸腔ドレーン管理の要点.胸部外
科 2008;61:693-9.
(2) Anegg U,Lindenmann J,Matzi V,Mujkic D,Maier A,Fritz L,et
al.AIRFIX:the first digital postoperative chest tube airflowmetry—a
novel method to quantify air leakage after lung resection. Eur J
Cardiothorac Sueg 2006;29:867-72.
(3) 井上匡美,南正人,澤端章好,新谷康,中桐伴行,奥村明
之進.呼吸器外科手術におけるウロキナーゼ抗血栓加工ポリ
ウレタン製スリット型ドレーンの基礎的および臨床的試験.
日呼外会誌 2012;26:114-8.
(4) Brunelli A,Monteverde M,Borri A,Salati M,Marasco RD,Al
Refai M,et al.Comparison of water seal and suction after pulmonary
lobectomy:a prospective,randomized trial.Ann Thorac Surg
2004;77:1932-7.
(5)上澤伸一郎,金子暁子,阿部豊.定電流法によるマイクロ
バブルを含む分散気泡流のボイド率計測.2011;JBR:0253.
参考文献
図6
図7
-8cmH2O での気泡発生頻度
-8cmH2O での気相流量
集束超音波を用いた非接触液滴マニピュレーション技術の開発
システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻
博士前期課程 1 年 渡邉 歩([email protected])
指導教員:阿部 豊,副指導教員:金川 哲也,松本 聡
緒言
バイオや創薬,分析化学といった分野では,溶液の混合・
撹拌といった操作が不可欠である.これらのプロセスにお
いて,容器壁に起因する問題の顕在化が危惧されており,
非接触での流体制御技術の確立が切望されている[1, 2].
これを実現しうる手法として,試料の空中保持を可能と
する音場浮遊法が挙げられる.本手法は,任意の空間内に
発生させた音響定在波を用いて,音響放射力を試料の自重
と釣り合わせることにより浮遊を実現するものである.近
年では,振動子を 2 次元的に配列した超音波フェーズドア
レイにより集束超音波を発振して,試料を 3 次元的にマニ
ピュレーションする技術が報告されている[3].
本研究では,液滴の合体・混合を始めとする様々な非接
触流体制御技術の構築を目的として,高自由度な音場制御
を可能とする超音波フェーズドアレイに着目した.まず,
音圧計測により集束超音波による音場を可視化し,2 つの
浮遊液滴の合体を実現する音場制御手法を構築した.さら
に,合体した液滴の高効率な混合を目指し,液滴のモード
振動[4]に着目した.液滴の混合挙動を可視観測し,モード
振動の有無で液滴の混合性能を定量比較した.
1.
実験装置と手法
Fig. 1 に集束超音波の概念図を示す.小型の振動子を複
数配列し,各振動子から出力される音波の位相を制御する
ことで任意の位置に音波を集束させる.集束超音波をリフ
レクタで反射させることにより,任意の位置に局所的な音
響定在波を形成し,試料を浮遊させる.さらに,音波の位
相制御により焦点を 1 軸上で移動させ,浮遊物体の位置を
制御する.Fig. 2 に本実験で用いた装置と,計測体系の概
略図を示す.音波を集束させるには,それぞれの振動子に
対して,独立した制御信号を生成し,その位相を制御する
必要がある.本研究では,FPGA(Field-Programmable Gate
Array)を用いてこれを実現した.本装置では,共振周波数
40 kHz の超音波振動子を 49 個用い,7×7 配列に設置し
た.振動子・リフレクタ間の距離は 45 mm とし,音波の
集束点をリフレクタの反射面上に設定した.また左単焦点
と右単焦点を 500 Hz で切り替えることで,擬似的な複数
焦点の形成を可能とした.
音圧は,先端径 1/8 inch のプローブマイクロフォンを x,
y, z トラバース装置に固定し,テスト部に挿入することで
計測した.浮遊液滴の挙動は,ハイスピードカメラを用い
て,バックライト法により撮影した.また合体時の液滴の
混合挙動は,水液滴と,光を透過しにくい性質を持つメチ
レンブルー水溶液の液滴を合体させ,バックライト法で撮
影することにより可視観測を行った.
2.
3.
実験結果および考察
3.1
複数液滴の浮遊と合体
Fig. 3(a)に 500 Hz の焦点切り替えにより,左右に焦点を
形成した場合の音圧計測結果を示す.焦点間の距離は 10
mm に設定し,計測範囲はリフレクタの近傍から 2 つ目の
腹までの x-z 断面である.結果より,左右に形成したそれ
ぞれの焦点位置で音圧の腹と節が存在し,2 つの定在波が
同時形成されていることが分かる.さらに,Fig. 3(b)のよ
うにそれぞれの定在波中に液滴が浮遊することを確認し
た.使用した試料はエタノールである.
Fig. 4 に焦点距離を 10 mm から 8 mm に切り替えた時の
液滴の挙動を示す.撮影速度は 4000 fps,露光時間は 250
μs である.
左右の液滴が中央に向かって移動して合体し,
安定に浮遊することを確認した.この手法により,2 つの
浮遊液滴の非接触合体が実現された.
Fig. 1 Concept of focused ultrasound transmitted from
ultrasonic transducer array
Fig. 2 Schematic of experimental apparatus
RMS Sound Pressure [kPa]
z [mm]
5.7
4.5
3.5
2.3
1.5
0
-8
0.4
-6
1mm
-4
-2
0
2
4
2.2
6
8
x [mm]
(a)
(b)
Fig. 3 Sound pressure distribution in the case of two foci
(a) Sound pressure distribution in the x-z plane
(b) Snapshot of a pair of levitated droplets
果では 0.5 s 程度で η が収束していることがわかる.この
結果より,液滴の非接触混合には,モード振動の利用が有
効であることが示唆された.
結言
超音波フェーズドアレイに着目し,非接触で液滴の合
体・混合を実現する手法の構築を試みた.焦点の高速切り
替えで形成した 2 つの定在波中に液滴を浮遊させ,焦点位
置を近づけることで,液滴の非接触合体を実現した.合体
時の液滴の混合挙動を評価した結果,液滴の非接触混合に
はモード振動の利用が有効であることが示唆された.
4.
Fig. 4 Coalesce of acoustically levitated droplets
3.2
モード振動を利用した液滴の非接触混合
音波の出力を,一定の周波数で ON と OFF に切り替え
ることで,出力に振幅変調を施し,非接触で液滴に振動を
印加することができる.液滴の持つ固有振動数と,印加し
た振動数が一致した時,Fig. 5 に示すように,突起を有す
る形状で振動するモード振動が見られる.本実験では,音
波の変調周波数を 500 Hz とし,液滴の径を変化させるこ
とでモード振動を誘起した.水液滴とメチレンブルー液滴
を浮遊・合体させ,混合挙動を可視観測した結果を Fig. 6
に示す.撮影速度は 1000 fps,露光時間は 1000 μs である.
モード振動を誘起しない Without mode oscillation の条件よ
りも,4 次のモード振動を誘起した With mode 4 oscillation
の条件の方が,メチレンブルーの成分が素早く液滴全体に
行き渡っていることが定性的に確認できる.
次に,混合状態を定量化し,比較するために,Mixing
parameter[5]を導入する.実験的に取得した画像データよ
り,以下の式で N ピクセルの混合領域における輝度値の
平均値 μ と標準偏差 σ が算出される.
𝜇=
∑𝑁
𝑖=1 𝐼𝑖
𝑁
参考文献
[1] 栗林一彦,プラズマ・核融合学会誌,Vol. 83, 139-143
(2007).
[2] Thomas, V. et al, Sci. Rep., Vol. 6, 20023 (2016).
[3] Hoshi, T. et al, Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 53, 07KE07 (2014).
[4] Rayleigh, L., Proc. R. Soc. Lond., Vol 29, 71-97 (1879).
[5] Carrol, B. et al, Exp. Fluids, Vol. 53, 1301-1316 (2012).
Fig. 5 Behavior of oscillating droplet
(1)
1
Fig. 6 Mixing behavior of coalescence dropelet
(2)
ここで,I は輝度値を表す.さらに,平均値で除して規格
化した標準偏差を基に,以下の式で Mixing parameter η を
定義する.
𝜎
𝜎
( )
−( )
𝜇 𝑡=0
𝜇 𝑡=∞
𝜂= 𝜎
𝜎
( )
−( )
𝜇 𝑡=0
𝜇 𝑡=∞
(3)
η は,混合前 (η = 1) と比較して,混合パターンがどの程
度均一混合 (η = 0) に近づいたかを定量的に表現する指標
である.実験で取得した画像群に対して画像処理を施し,
η の時間的変化を算出した結果を Fig. 7 に示す.Without
mode oscillation の条件では,2.0 s の時間経過では η が収束
しない結果となった.一方で,With mode 4 oscillation の結
1.0
Mixing parameter [-]
2 2
∑𝑁
𝑖=1(𝐼𝑖 − 𝜇)
𝜎=[
]
𝑁−1
0.8
0.6
Without mode oscillation
0.4
With mode 4 oscillation
0.2
0.0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
Time [s]
Fig. 7 Comparison of time change of mixing parameter
電力系統連系時の非平衡ディスク形 MHD 発電機に関する研究
システム情報工学研究科・構造エネルギー工学専攻
博士前期課程 1 年
201620863 市川
拓
Email : [email protected]
指導教員:藤野貴康 副指導教員:文字秀明,高橋徹
1.
背景
近年,発電時に温室効果ガスを排出しない再生可能エ
ネルギーを利用した発電が導入されている。しかし,太
陽光発電や風力発電などの出力は自然条件に左右される。
今後さらに再生可能エネルギーを大量に導入した場合,
電力の安定供給に問題が生じる可能性がある。そのため
短時間での出力調整が可能な電源を確保する必要がある。
電磁流体力学(MHD)発電は,磁場が印加された流路
に導電性を持つ作動ガスを流すことによって,流体の持
つエンタルピーを直接電気エネルギーに変換する発電方
式である[1]。図 1 に,非平衡ディスク形 MHD 発電機の
概念図を示す。ホットダクトから作動ガスが流入し,ガ
スが磁場を横切ることで起電力が生じる。作動ガスとし
ては,希ガスに電離ポテンシャルの小さいアルカリ金属
を微量添加(シード)したものを用い,アルカリ金属を
電離させることで導電性を得る。MHD 発電では外部負荷
が変化すると MHD 発電機内の流体諸量が変化し,電気
出力も変化する。MHD 発電機内の電磁流体の変化は数ミ
リ秒オーダーで起こるため MHD 発電の電気出力の変化
は火力発電や水力発電に比べて速い。
MHD 発電機は電気出力の応答が速いことから,再生可
能エネルギー大量導入時の出力調整用電源に適合しうる
可能性がある。例えば,電気出力の制御に関する過去の
研究事例として,MHD 発電機内のプラズマの電気伝導率
を変化させ,部分負荷運転時や高速電力制御時の挙動が
解析的に検討されている[2]。しかし,外部負荷による電
気出力の制御は行われていない。また MHD 発電機で電
気出力の変動を調整するような研究もまだ行われていな
い。
電気出力の応答が速い MHD 発電機と電力系統を連系
し,電力系統側を制御することで再生可能エネルギーに
おける出力変動のバランス調整が可能であるかの検証が
必要である。そのため本稿では,MHD 発電機と電力系統
を連成した解析を行い,電力系統の回路挙動が MHD 発
電機内部の電磁流体挙動に及ぼす影響を調べる。
解析手法
MHD 発電機における流体場の支配方程式としては,
MHD 相互作用項(ローレンツ力,ジュール加熱およびロ
ーレンツ力のする仕事)を含む Navier–Stokes 方程式と電
荷連続式を用いた。電磁場の支配方程式としては,定常
の Maxwell 方程式および一般化された Ohm の法則から
導出される電位に関する 2 階の偏微分方程式を解いた。
本解析では支配方程式を𝑟 − 𝜃 − 𝑧座標形にて z 方向に 0
2.
Noble gas seeded
with alkali metal vapor
Magnetic
flux density
Faraday
current
Plasma
flow
External
load
Hall current
Anode
Cathode
Hall
voltage
Noble gas seeded
with alkali metal vapor
図 1 非平衡ディスク形 MHD 発電機概念図
から流路高さ h まで積分して𝑟 − 𝜃二次元近似を施し,解
析を行った。また運転条件については表 1 のように定め
た。
電力系統の解析は過渡現象解析プログラム(EMTP)と
同様の手法を用いた。EMTP は回路素子を抵抗と電流源
に置き換えた回路を節点電位法によって解く手法である。
図 2 に解析した回路を示す。
連成解析では,MHD 発電機側から内部起電力および内
部抵抗を電力系統側に与え,電力系統側からホール電圧
に相当する電圧値を MHD 発電機側に与えて繰り返し解
析を行う。
表1
運転条件
Working Gas
Thermal Input
Stagnation Temperature
Stagnation Pressure
Magnetic Flux Density
Seed Fraction
Inlet Mach Number
He/Cs
100 MW
2200 K
3 atm
4.0 T
1.8×10-5
2.0
結果
図 3(a)に回路側で出力させたホール電圧を,図 3(b) に
領域②におけるホール電圧波形の拡大図を示す。図 3(a)
中の領域①では MHD 発電機と電力系統をそれぞれ連成
せずに解析している。約 0.02 s のタイミングで電力系統
のインバータが動作し始め,ホール電圧が減少する。そ
の後 0.05 s で MHD 発電機と電力系統を連系する。連系
3.
直流リアクトル
変圧器
ホール
電圧
無限大母線
電力系統回路図
4.
とれる条件を選定し,本稿の結果で見られたような解析
の破綻を解消する。その後,MHD 発電機を用いた電力系
統安定化手法を数値解析的に検証する。
50
40
30
20
10
0.02 0.04 0.06 0.08 0.10
Time [s]
(a)解析全体図
図3
7.8
7.7
7.6
②
①
0
0
0.060
0.065 0.070
Time [s]
(b)拡大図
ホール電圧
Before coupled analysis
After coupled analysis
10000
8000
6000
4000
0.3
図4
結論および今後の課題
MHD 発電機と電力系統を連系させて解析を行い,連系
した際に電力系統の回路挙動が MHD 発電機内部の電磁
流体挙動に及ぼす影響を調べた。しかし,MHD 発電機と
電力系統を連系した直後にホール電圧の急激な上昇が生
じ,それに起因して MHD 発電機内の電子温度も急激に
上昇し,解析ができなくなってしまった。このホール電
圧の上昇は MHD 発電機側と電力系統側での外部負荷に
相当する値が連系時に異なっており,その差からホール
電圧の急激な上昇が生じていると考えられる。またホー
ル電圧は電力系統側のインバータのスイッチングの影響
によって周期的な振動が生じているが,今回の解析にお
いて,このスイッチングが及ぼす MHD 発電機内部の電
磁流体諸量への影響は小さい。
今後の課題として,MHD 発電機と電力系統を連系する
際に,発電機側と電力系統側のインピーダンスの整合が
Hall Voltage [kV]
したタイミングで見られるホール電圧の急激な上昇は
MHD 発電機側と電力系統側で外部負荷に相当するイン
ピーダンスの値が異なっているためであると考えられる。
このホール電圧の急激な上昇の後,図 3(a)中の領域②で
はホール電圧が緩やかに減少していき,0.1 s 近傍で解析
が破綻している。図 3(b)の電圧波形においては周期的な
振動が生じていることが分かる。この周期的な振動はイ
ンバータのスイッチングに起因している。
図 4 に 0.05 s での連系前後の周方向に平均された MHD
発電機の電子温度の半径方向分布を示す。実線が連成解
析より 0.01 s 前の解析結果であり,破線が連成解析より
0.01 s 後の解析結果である。連成解析直前においては電
子温度がほぼ一定の値であるが,連成後には入口近傍で
急激に電子温度が上昇している。これは連成時にホール
電圧が急激に上昇することで周方向電流が大きくなるた
めと考えられる。
図 3(b)で示された周期的な振動が MHD 発電機内部の
電磁流体挙動に及ぼす影響を調べるために,スイッチン
グにおける電磁流体挙動を比較する。図 5 に,あるスイ
ッチング前後での周方向に平均された MHD 発電機内の
ホール電界の半径方向分布を示す。スイッチングでホー
ル電界の半径方向分布に大きな違いは見られないことが
分かる。このことから今回の解析条件においては回路側
で生じるスイッチングでのホール電圧の周期的な振動は
MHD 発電機内部に大きな影響を与えないことが明らか
になった。
Electron Temperature [K]
図2
Hall Electric Field [kV/m]
インバータ
Hall Voltage [kV]
MHD
発電機
0.4
0.5
r [m]
0.6
0.7
連成前後の周方向に平均された
電子温度の半径方向分布
0
-10
-20
Before Switching
After Switching
0.3
図5
0.4
0.5
r [m]
0.6
0.7
スイッチング前後の周方向に平均された
ホール電界の半径方向分布
参考文献
[1]
Rosa, R. J., Magnetohydrodynamic Energy
Conversion, McGraw-Hill, New York, 1968.
[2] 乾義尚,石川本雄,卯本重郎:電学論 B,
Vol. 115,No. 2,pp. 172-179,1995.
アキシャルフィード型プラズマ溶射ガンにおける溶射粒子のプラズマジェットに及ぼす影響
システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻
博士前期課程 1 年 鈴木 琢矢
指導教員:藤野 貴康 副指導教員:西岡 牧人,文字 秀明
E-mail:[email protected]
はじめに
大気圧プラズマ溶射とは表面改質技術の一つであり,
高温,高速のプラズマジェット中にセラミックスなどの
溶射材料粒子を投入し,加熱,加速させ機械部品(基材)に
溶射粒子を溶融状態で多数付着させることで皮膜を生成
する[1]。図 1 には現在本研究グループで取り扱っている
アキシャルフィード型プラズマ溶射ガンの概略図を示す。
一般的な溶射ガンはその出口部付近から溶射粒子がプラ
ズマジェットに対し垂直に供給されるが,アキシャルフ
ィード型プラズマ溶射ガンでは,溶射粒子は溶射ガン内
部からプラズマジェットと平行に供給されるため,プラ
ズマ生成部を溶射粒子が通過するという特徴を持つ。こ
の特徴によりアキシャルフィード型プラズマ溶射ガンは,
一般的なプラズマ溶射ガンと比較して投入される溶射粒
子を均一に加熱可能であり,高品質な皮膜を生成可能で
あると期待されている。また,溶射材料としてサスペン
ションを用いることで緻密な皮膜の生成が期待される。
サスペンションとはエタノールなどの液体と溶射粒子の
微粉末との液状の混合物のことである。このサスペンシ
ョンをプラズマジェット中に噴霧供給し成膜を行う[2]。
本研究グループにおけるサスペンションプラズマ溶射
(SPS)においては,プラズマ生成部におけるプラズマとサ
スペンションとの運動量輸送,熱輸送が発生するが,こ
れは通常の溶射ガンを用いた SPS にはない特徴である。
この運動量輸送,熱輸送の影響を明らかにすることによ
り,SPS を実施する際の溶射条件等に関して指針を与え
るが,実験によってサスペンションがプラズマ生成部に
おけるプラズマに与える影響を明らかにするのは困難で
あり,また,これまでアキシャルフィード型プラズマ溶
射ガンを用いた SPS を解析対象とする,上述の相互作用
を考慮した数値解析はなされていない。Jabbari ら[3]はサ
スペンションをノズル出口部から垂直に供給する一般的
な溶射ガンを用いた SPS 法に関して,プラズマ-サスペ
ンション間の相互作用を考慮した数値解析を行った。そ
の結果,サスペンション投入によりプラズマジェットの
高温領域の縮小および流れ方向のプラズマジェット流速
の減少が確認された。本研究グループで取り扱う溶射ガ
ンを用いた SPS において,プラズマ生成部に関して同様
の影響が存在すると考えられる。
以上より,本研究ではアキシャルフィード型プラズマ
溶射ガンを対象とし,プラズマとサスペンションの相互
作用を考慮した軸対称 2 次元電磁流体解析を行うことで,
サスペンション投入がプラズマジェットへ与える影響を
調べることを目的とする。
2.
解析モデルおよび計算手法
本研究においてアキシャルフィード型プラズマ溶射ガ
ンは軸対称形状を持つと仮定し,軸対称 2 次元での熱プ
ラズマ,サスペンション軌道,熱エネルギー輸送の相互
作用を考慮したシミュレーションを行った。スプレー形
状はエアロテック株式会社の TC-8050 をモデルとする。
基材設置位置はノズル出口から 20 mm とし,半径 20 mm
の円板を仮定した。図 2 に解析格子を示す。格子点数
130(𝑟) × 228(𝑧) の直交格子を用いており,r, z 両方向に
関して溶射ガンよりも広く解析領域を取った。𝑟方向の最
小格子幅は中心軸付近で 5.0×10-5 m であり,最大格子幅
は r = 0.15 m において 1.5×10-2 m である。z 方向の最小格
子幅は基材近傍で 1.5×10-4 m であり,最大格子幅は z =
0.3 m において 2.0×10-2 m である。
流体場の支配方程式には質量保存式,運動量保存式,
全エネルギー保存式を用いた。今回は相互作用に関して,
プラズマ-サスペンション間の運動量輸送,熱輸送のみ
を考慮した式を用いた。各保存方程式は有限体積的に離
散化し,対流項および拡散項の流束評価にはそれぞれ
AUSM-DV 法および中心差分法を用い,時間積分には 4
段の Runge-Kutta 法を用いた。
電流場の支配方程式には,
Ohm の法則と電流連続式を用い,これらの式より導出さ
れる電位に関する 2 階の偏微分方程式を,Galerkin 有限
要素法により離散化した。離散化により得られた連立方
程式の解法には Gauss の消去法を用いた。
図 3 に本研究におけるサスペンションモデルの概略図
を示す。サスペンションは噴霧供給を模擬して球形状で
供給され,また図 3 に示すようにサスペンションに含ま
れるセラミック粒子は球形状であり,サスペンション 1
滴に溶射粒子が 1 つ存在すると仮定した。サスペンショ
ン,溶射粒子に関しては運動,温度上昇,蒸発現象を考
Working gas
+ suspension
Working gas
Cathode
N torch
Jet
Current path
Axial
injection
Suspension
Anode
P torch
Cathode
N torch Working gas
Substrate
図 1 アキシャルフィード型プラズマ溶射ガンの概略図
Torch and substrate region
0.15
0.1
r [m]
1.
0.05
0
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0.3
z [m]
図 2 解析格子
Disperse (Ethanol droplet)
Ceramic
powder
Disperse
evaporation
Ceramic powder
図 3 本研究におけるサスペンションモデルの概略図
0.03
0
-0.01
-0.02
-0.03
Suspension inlet
Suspension injection
0
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
0.06
0.07
z [m]
Temp. [K]
300 6000 12000
図 4 溶射ガン内部から基材までの温度分布
(上図:サスペンション供給なし,下図:供給あり)
0.03
0.02
Substrate
Without suspension injection
Cathode
Gas inlet
Anode
0.01
まとめ
本研究ではアキシャルフィード型プラズマ溶射ガンを
対象とし,プラズマとサスペンションの相互作用を考慮
した軸対称 2 次元電磁流体解析を行うことで,サスペン
ション投入がプラズマジェットへ与える影響を調べた。
その結果,サスペンション供給量の増加に伴い,中心軸
r [m]
結果
図 4 に溶射ガン内部から基材までのプラズマジェット
の温度分布を示す。このとき上図はサスペンション供給
がない場合,下図は供給がある場合の結果で,供給量は
35 g/min である。同図より,サスペンションを供給する
ことで中心軸付近の温度が下がることがわかる。供給量
が 15 g/min, 25 g/min の場合での解析においても中心軸付
近の温度が下がるが,温度の低下する領域は供給量が多
いほど拡大することが確認された。
図 5 に溶射ガン内部から基材までのプラズマジェット
の流速分布を示す。図 4 と同様に上図はサスペンション
供給がない場合,下図は供給がある場合の結果で,供給
量は同様に 35 g/min である。図 5 より,中心軸上でのプ
ラズマジェットの流速はサスペンションの供給により減
少することがわかる。また,供給量が 15 g/min, 25 g/min
の場合においても流速は減少するが,流速はサスペンシ
ョン供給量が多いほど減少量が多いことが確認された。
サスペンション供給量の増加に伴い中心軸上で温度の
低下する領域が拡大し,また流速の減少量は多くなるが,
この原因としてサスペンション供給量の増加によるプラ
ズマからサスペンションへの運動量輸送,熱輸送がそれ
ぞれ増加することが考えられる。熱輸送に関して,図は
省略するがサスペンション供給量に関係なくサスペンシ
ョン分散媒は全て蒸発し,その後溶射粒子はトーチ内部
において全て溶融状態まで加熱される。このことから供
給量が多いほどプラズマからサスペンションへの熱輸送
は大きくなると言える。一方で運動量輸送がサスペンシ
ョン供給量の増加に伴って増加するかに関しては十分な
考察ができておらず,今後更なる検討が必要である。
4.
Substrate
Anode
0.01
慮した。上記の現象を取り扱うため,運動方程式,熱エ
ネルギー方程式,粒径変化に関する方程式を用い,時間
積分には 4 段の Runge-Kutta 法を用いた。
解析の手順としては,まず流体場,電流場の方程式の
みを解きプラズマジェットの定常場を得る。次に得られ
た定常場を用いて流体場,電流場を解くのに加え,サス
ペンションおよび溶射粒子に関する上記の各方程式を解
き,更にサスペンションがプラズマへ与える影響の項を
計算し,流体側の計算にその項を加えることによりプラ
ズマ-サスペンション間の相互作用を考慮した解析を行
った。表 1 に溶射条件およびサスペンション供給条件を
示す。基材設置位置はノズル出口から 20 mm とし,半径
20 mm の円板を仮定した。サスペンション初期位置の r
座標には平均 0.5 mm,分散 0.2 mm の正規分布を与えた。
3.
Without suspension injection
Cathode
Gas inlet
0.02
r [m]
表 1 溶射条件およびサスペンション投入条件
Working gas
Ar
Current
200 A
Anode working gas flow rate
17 slm
Anode carrier gas flow rate
1.3 slm
Cathode working gas flow rate
29.5 slm
Feedstock powder
ZrO2
Disperse medium
C2H5OH
Powder size
5 μm
Droplet size
80 μm
Feed rate
15, 25, 35 g/min
0
-0.01
-0.02
-0.03
Suspension inlet
Suspension injection
0
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
0.06
0.07
z [m]
Uabs [m/s]
0 80 160 240
図 5 溶射ガン内部から基材までの流速分布
(上図:サスペンション供給無し,下図:供給あり)
付近の温度および流速の低下する領域が拡大することが
確認された。また,溶射粒子の加熱に関して,供給量に
関係なくサスペンションは蒸発し内部の溶射粒子も溶融
状態まで加熱されることが確認された。
5.
今後の予定
上述の通り,運動量輸送がサスペンション供給量の増
加に伴いどのように変化するかを調査する必要がある。
加えて,運動量輸送,熱輸送の発生の仕方(局所的,広範
囲)を明らかにする。また本解析において,サスペンショ
ンの濃度は実際 SPS で用いられているものと比較して非
常に小さいため,実験と条件を合わせて解析を行い結果
の比較および妥当性の検証を行う。
6.
参考文献
[1] 沖幸男,乾保之,「溶射技術入門」
,日本溶射学会,
2012.
[2] J. Fazilleau et al., “Phenomena Involved in Suspension
Plasma Spraying Part 1: Suspension Injection and
Behavior,” Plasma Chemistry and Plasma Processing,
Vol. 26, pp. 371-391, 2006.
[3] F. Jabbari et al., “A Numerical Study of Suspension
Injection in Plasma-Spraying Process,” Journal of
Thermal Spray Technology, Vol. 23, pp. 3-13, 2014.
CO2 を用いた高周波プラズマ推進機の高性能化に向けた研究
システム情報工学研究科 構造エネルギー工学専攻
博士前期課程 1 年 門脇 俊樹
指導教員:藤野 貴康 副指導教員:横田 茂人,嶋村 耕平
E-mail:[email protected]
1.
はじめに
宇宙応用における電気推進機は衛星の姿勢制御や軌道の保
持などに使用されるが,その一つとして高周波誘導結合型プラ
ズマ電気推進機(Inductively Coupled Plasma Electric Thruster:ICP
スラスタ)が提案されている.図 1 に ICP スラスタの概略図を
示す.ICP スラスタでは外部の誘導コイルに高周波電流を流し
てスラスタ内部に磁場を誘起し,その磁場の時間変動によって
誘導電流が生じる.この電流のジュール熱によって推進剤を加
熱してプラズマ化させ,この推進剤がラバルノズルを通過する
ことで気体力学的に加速されて ICP スラスタは推力を得る.現
在実用化されている電気推進機としてアークジェットスラス
タが挙げられるが,高エンタルピーの推進剤と電極が接触する
ため,電極の損耗によるスラスタの寿命低下が問題となってい
る.一方で ICP スラスタは推進剤とコイルが接触せず電極が損
耗しない[1]ため,高い耐久性が期待されている.
この高い耐久性を活かして,大気中のガスを推進剤として用
いる大気吸込型が提案されている[2].大気による抵抗が大きい
惑星低軌道を周回する衛星において,軌道を保持するためのス
ラスタとして搭載される.本研究では火星での運用を想定し,
推進剤に CO2 を用いた ICP スラスタを対象としている.実運用
を目指すには,火星低軌道において衛星高度を維持するために
必要な推進性能を達成する必要がある.
ICP スラスタの推進性能を向上させる手法として,岩崎ら[3]
によって平面型コイルが提案されている.その概略図を図 2 に
示す.従来の巻き付け型コイルを用いた ICP スラスタとは異な
り,ノズル前方の外側に平面型のコイルを配置する.そのため
ノズル入り口を壁面とし,その周囲の狭い流路(スリット)か
ら推進剤を流入させる.平面型コイルを用いることで中心軸近
傍の温度の上昇や,高温領域と壁面が接する面積が狭いことに
よる熱損失の低減が期待される.岩崎らの数値解析の結果,平
面型コイルを用いた ICP スラスタは従来の巻き付け型コイルを
用いた場合よりも高い推進性能が得られると示唆された.
そこで,本研究では火星低軌道衛星における推進剤に CO2 を
用いた ICP スラスタの運用を想定して,設定した高度 125-180
km を維持するために必要な推力密度 10-3600 N/m2 および比
推力 370 s を達成することを目的とする.そのために推進剤に
CO2 を用いた ICP スラスタの地上実験を行い,推進性能を把握
する.また,推進性能向上のために平面型コイルを用いた ICP
スラスタについて電磁流体解析と地上実験から検討を行う.
2.
実験装置および実験条件
図 3 に実験で使用する振り子型推力スタンドの概略図を示す.
推力スタンドはアルミフレームおよびステンレス鋼管から構
築され,振り子部分は図中の Pivot point を支点として左右に振
れる構造をとる.ICP スラスタからプラズマ流れを発生させ,
振り子の先端に取り付けた平板ターゲットに直接ぶつけて動
かし,その変位を計測することで推力を計測する.推力スタン
ドは真空チャンバー内部に設置され,真空に近い条件で実験を
行う.誘導コイルはノズルの周囲に巻かれ,巻数は 3 としてい
る.推進剤には CO2 を使用し,電力周波数は工業周波数である
13.56 MHz とした.推進剤流量は 0.017-0.096 g/s,投入電力は
500-700 W で実験を行った.
3.
解析手法および解析条件
解析で用いる基礎方程式は,流体場に関する保存式と電磁場
図1
ICP スラスタの概略図
図 2 平面型コイルを用いた ICP スラスタの概略図
図 3 推力スタンドの概略図
の誘導方程式から構成される.流体場の基礎方程式は,質量保
存式,運動量保存式,全エネルギー保存式,化学種の保存式,
自由電子のエネルギー保存式,状態方程式および電気的中性の
式からなる.電磁場の基礎方程式はマクスウェル方程式および
オームの式から構成される.流体場の基礎方程式は有限体積的
に離散化を行い,対流項は AUSM-DV スキームを用いて評価し
た.拡散項の数値流束は中心差分で評価し,時間積分には 4 段
階ルンゲ・クッタ法を用いた.電磁場の基礎方程式の離散化に
はガラーキン有限要素法を用い,その過程で得られる連立一次
方程式の解法には BiCGSTAB2 法を用いた.
図 4 に流体場の解析領域を示す.巻き付け型コイルを用いる
場合は図中のコイル A を使用し,平面型コイルを用いる場合は
コイル B を使用する.狭い流路(スリット)から推進剤を流入
させる場合は,境界条件を与えることでノズル入り口(z = 0 m)
の一部を壁面として扱う.このとき,r = 0 m から r = 0.009 m ま
でが壁面,r = 0.009 m から r = 0.01 m までがスリットに対応す
る.推進剤には Ar を使用し,電力周波数は 13.56 MHz とした.
投入電力 500 W,推進剤流量 0.50 g/s の条件で解析を行った.
4.
実験結果
図 5 に推進剤に CO2 を用いた場合の投入電力 0 W および 600
W における推進剤流量と推力密度の関係を示す.また,準一次
元等エントロピー流れを仮定した場合の計算結果を併記する.
実験により得られた投入電力 0 W における計測結果は,準一
次元等エントロピー流れの直線と定量的な一致を示しており,
実験結果は妥当であると考えられる.また,投入電力 600 W
における計測結果から,電力を投入することで推力密度の増
加が確認された.表 1 に実験によって得られた最大の推進性
能と目標性能を示す.このときの正味の投入電力は 698 W,
推進剤流量は 0.096 g/s であった.表 1 より,推力密度は最低
限の目標性能である 10 N/m2(高度 180 km に相当)を達成で
きたが,より低い高度での維持に必要な推力密度は達成でき
なかった.また,比推力は目標性能に大きく届かず,推進性能
を向上させる必要がある.
5.
図 4 流体場の解析領域
解析結果
先行研究[3]では,平面型コイルを用いた場合にのみスリッ
トを使用しており,コイル条件に限定した比較が行われてい
ない.そこで,巻き付け型コイルを用いた場合においてスリッ
ト有りの条件で解析を行い,他の条件と比較した.本解析では
コイル条件およびスリットの有無による影響を見ることを目
的としており,定性的な結果を得る観点から推進剤に Ar を用
いた.図 6 にスリット無しの巻き付け型コイルを用いた ICP
スラスタの重粒子温度分布を示す.このときの推力密度は
2580 N/m2,比推力は 126 s であった.図 7 にスリット有りの
巻き付け型コイルを用いた場合の重粒子温度分布を示す.こ
のときの推力密度は 2698 N/m2,比推力は 135 s であった.巻
き付け型コイルを用いた場合であってもスリットから推進剤
を流入させることで,推進性能は向上した.その要因として,
スリットの影響によりスロート手前の高温領域が中心軸近傍
に移動したことが考えられる.推進剤はスロートを通過する
ことで温度が速度成分に変換され加速されるが,壁面近傍で
は粘性の影響を受けて加速が阻害される.そのため,高温領域
は壁面近傍よりも中心軸近傍にある方が高い推進性能を示す.
続いて,図 8 にスリット有りの平面型コイルを用いた場合の
重粒子温度分布を示す.このときの推力密度は 2793 N/m2,比
推力は 137 s であった.スリット有りの巻き付け型コイルを用
いた場合と比較すると,平面型コイルを用いた場合の方が重
粒子温度の最大値は高くなった.推進性能も上回る結果とな
り,コイル条件の変更は推進性能の向上に寄与することが示
された.
6.
図 5 推進剤に CO2 を用いた場合の投入電力 0 W および
600 W における推進剤流量と推力密度の関係
表 1 実験によって得られた推進性能と目標性能
比推力,s
目標性能
10-3600
370
実験結果
238
68.7
図 6 巻き付け型コイルを用いた場合の重粒子温度分布
(スリット無し)
まとめ
本研究では推進剤に CO2 を用いた ICP スラスタの推力計測
を行い,推進性能を評価した.予備実験として投入電力 0 W の
条件で推力計測を行い,準一次元等エントロピー流れの直線と
定量的な一致が示された.また,正味の投入電力 698 W,推進
剤流量 0.096 g/s において最大の推力密度 238 N/m2 および比推
力 68.7 s が得られた.このときの推力密度は最低限の目標性能
を達成できたが,比推力は目標性能に大きく届かなかった.
推進剤に Ar を用いて,巻き付け型コイルを用いた ICP スラ
スタにおいてスリット有りと無しの 2 条件と,平面型コイルを
用いた ICP スラスタを対象に電磁流体解析を実施し,推進性能
の比較を行った.巻き付け型コイルを用いた場合では,スリッ
ト有りの条件の方が高い推進性能を示した.また,スリット有
りの巻き付け型コイルを用いた場合と平面型コイルを用いた
場合を比較すると,平面型コイルを用いた場合の方が高い推進
性能を示した.
7.
推力密度,N/m2
今後の予定
数値解析により推進剤に Ar を用いた場合,平面型コイルを
用いた ICP スラスタは推進性能が向上することが示唆された.
そこで地上実験を行い,同様に推進性能が向上するか確認する.
そのために,平面型コイルを設置できるノズルを作成して実験
を実施し,巻き付け型コイルを用いた場合と比較を行う.また,
実験条件に合わせた形状および条件において数値解析を行い,
実験結果との比較を行うとともに内部の物理現象を把握する.
コイル条件の変更による定性的な影響を把握した後,推進剤に
CO2 を用いた場合にも適用可能かを確認するために実験を行う.
図 7 巻き付け型コイルを用いた場合の重粒子温度分
(スリット有り)
図 8 平面型コイルを用いた場合の重粒子温度分布
(スリット有り)
8.
参考文献
[1]
L. Brewer, T. Karras, G. Frind and D. Holmes, “Preliminary
Results of a High Power RF Thruster Test,” 25th AIAA /ASME
/ SAE / ASEE Joint Propulsion Conf., AIAA-1989-2382, 1989.
T. Schonherr, K. Komurasaki, F. Romano, B. Massuti-Ballester,
and G. Herdrich, “Analysis of Atmosphere-Breathing Electric
Propulsion,” IEEE Transactions on Plasma Science, Vol.43,
Issue 1, pp.287-294, 2015.
岩崎雄磨, 藤野貴康, 「高周波誘導結合型プラズマ推進機
におけるコイル条件が推進性能に与える影響」, 新エネル
ギー・環境研究会, FTE-15-043, pp. 41-46, 2015.
[2]
[3]